メシがまずいこの世界、ポイズン   作:ファ○通の攻略本

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前世の食べ物を輸送してきたり、レシピを確認できて術式が強いチート主がメシを食う話


郁郁青青/水端
えび・ふきのとう・わかさぎ・菜の花の天ぷら


 この世はクソ、はっきりわかんだね。

 

 クッタクタに煮込まれたよくわかんないペーストの乗った世紀末食を目の前に、溜息を吐いた。

 

 私はしがない転生者である。

 きゃあ!死んだと思ったら呪霊が蔓延る世界に転生しちゃった〜アッ(悲嘆)な自分であるが、視界に入るよくわからない怪物/呪霊以上に、その世界には違和感があった。

 

 …………あの、ご飯屋さんとか八百屋さんが通りに少ないのは、なぜですか?

 食品、と言うよりは雑貨が中心に取り扱われているスーパーばかりの世。これスーパーって言わないと思うんだわ。

 かろうじてスーパー、コンビニに縮小されたエリアにぽつんと置いてあるのはよくわかんないペーストがパッキングされた、「これ食品扱いでええんか?」状態のものに、カロメやゼリーといった瞬間チャージ系の食べ物。

 生の食材を取り扱う店はそれこそ田舎のクソデカショッピングセンターか、都内だとすごく品のある(上品な表現)食材専門のスーパーぐらいなもの。もしくはやたらと汚い絶滅危惧種の専門店。

 

 あっふーんなるほどね?メシマズ世界ってコトかァ(絶望)

 

 この世界、どうやら昔食中毒が世界中でとんでもなく起こった世界だったらしい。もしかして:呪霊の仕業。

 で、その食中毒への対応法が、「とにかく加熱」であった。……まぁ、火って穢れを祓うとかってよく言うしね。

「加熱しないと俺たちが死ぬ」という前提と共にそこから発展したのが、ブリティッシュ形式にとにかくクッタクタに加熱して煮込んで汁を捨ててを繰り返して、残ったものをぐっちゃぐちゃにしたペースト料理という訳である。こんなものを発展と呼ぶな。

 ヨーグルトは徹底した衛生管理の元、奇跡的に誕生しているが、チーズはゲテモノ扱いだし味噌や醤油なんてこの世に存在しない。ギリギリ魚醤がある程度。胡椒やターメリックのようなスパイス系?薬だってさ。

 深く絶望した。

 何が一番最悪ってペースト料理にでんぷんとか塩とかとにかく色々混ぜまくってる点だろう。食とは食感と刺激を楽しむものと見たりってか?原因になってた呪霊はとっくに祓ったというのに世の中クソ。(2回目)

 

 まーそんな感じのクソみたいな世界で、私は金だけはある一般家庭に呪霊が見える脳を持って生まれたものだから、食事情をどうにかすることに関してはもう詰みも同然である。家庭からの理解?そんなものうちにはないよ。

 とにかく、何もないところをブンブン殴ってたり、たまに売られてる貴重な食材を買ってよくわからないものを錬成している変なことしかしない子だからね。中学の時点で既に遠くの学校に通うと言う名目で、家から追い出されて一人暮らしをしていた。

 自分たちの行いが悪であると理解しているのか、無駄に振り込まれる金を使って食材を買い漁り、転生特典であろう前世のインターネットに繋がる、誰にも見えない不可視のボードをぽちぽちして呪力を対価にこっちの世界では手に入らない食材や雑貨を入荷しながら、日々を過ごしてきたわけである。

 ひっついてきた蝿頭をはたき落としていたらそれが窓に見つかり、そのまま家までやってきた呪術高専所属の補助監督により高専への入学を勧められ、晴れて入学を果たし、現在に至る。今の私は、まだひよっこの一年坊だ。

 

 そんな私の術式は、「虚影從術」。簡単に言うと、影の中の式を使役する十種影法術の劣化版みたいなの。うちってもしや禪院の血が混ざってたりすんのかな、と最初の時はちょっとソワソワした。

 劣化版とは言っているが、「影」の全てが支配下にあるから、影に触れている相手の呪力を自分のものにしたりとか、動きを操ったりとか、割となんでも出来るチートである。なんといってもすごいのが、伏黒恵みたいに影の中に物を収納できるのだが……重量は感知しないし容量は無制限。収納物の時間の停止まで、生きていなくて、尚且つ影の中に入ってさえいれば可能である。

 術式の名称こそ「影」というが、要は「くらやみ」を従える能力な為、それこそ体内にある空洞……胃袋や肺といった臓器の中の「影」を従えることで、実質人間は全て影を経由した暗殺や操作が可能だし、呪霊次第ではあるが構造によっては触れることなく呪力の操作権の奪取をし、指先一つで祓うこともできるとんでもチート術式である。術式ガチャSSRで草。

 

 ちなみに術式反転させると光も操れるが、光を利用した索敵、光を収束して利用した熱線や、光源を利用した影の生成ぐらいしか使えない。ぶっちゃけ順転の時点で戦闘面では強いし、耐熱性のある箱を利用した擬似オーブン/レンジの利用程度にしか使っていない。

 いや、脳の反転術式による再生処理を活用して常時オートで使えば、光速の神経伝達を体に巡らせ、光を活用した全方位索敵を用いる事で不意打ちにも対応できるスーパー呪術師になれるのだが……特級は目指したくないので高専入学のタイミングでオートの利用をやめた。術式反転自体が高等技術なのもそうなのだが、六眼に看破されて特級に推薦されたら困るしね。

 

 そんな、光と闇がかけ合わさって最強に見える術式だが、六眼持ち、かつ術師家系出身な同期によると、私は「よく見かけるハズレ術式持った、呪力量だけの雑魚」らしい。こんな使い勝手のいい術式が……レア度C……?

 というよりはかつての時代の知識量が少ない時が影響して、術式の理解が遅れているのだろう。そう思い込むことにした。

 

 いい感じに手を抜いて3級術師として任務にあたっているが、まぁ五条悟に夏油傑がうるさいのなんの。

 雑魚はさっさと辞めちまえだの、任務に同行した際も、でしゃばるなだの……この野郎。自分は何も言ってないですよという顔でそっとそれに乗っかるお前も同罪だぞ夏油傑。視界の端でちょろちょろするヤツを見下してくるオープンクズな五条悟に、さほどこちらに興味を持たず、無意識に「雑魚というならそうなのだろう」と見下すナチュラルクズな夏油傑。

 正直言うと、クソガキすぎて関わりたくない。なんかもう明らかにめんどくさそう。漫画でも言われてたけどどっちも本当に傲慢でクズ。そんな訳で、彼らとはあまり交流がない。

 家入硝子に関しても……、あまり会話をしたことがないな。負傷して治療してもらう、ということが正直稀だし、雑談をする仲でもないので、最低限の会話を教室内で済ませるのみだ。

 あれっ私……ボッチ…………?

 

 あちら側は、最近チラチラ何が言いたげに見てきたりとこちら側を気にしているようだが、雑魚と最初に見下してきたのはあちら側なので関わらないようにしてほしい。それとなくでもいいから謝ってきたなら、まぁ許すけど……

 

 やれやれ、と思いながら補助監督の車に乗り込んだ。たった今、昇級試験として、準二級の呪霊を単独で祓ったため、これで準二級に昇格が認められる。二級になれば単独任務に就けるとの事なので、さっさと同期と顔を合わせることを減らしたいものだ。

 

 監視役として同行いただいた夜蛾先生からの労わりの言葉に、「ありがとうございます」と返し車に乗り込む。

 

「これで申請次第、お前も準二級になる。しかし、非術師家庭出身にも関わらず、単独で傷を負うことなく準二級まで昇格とは異例だな……」

「……え?夏油や五条もそんな感じじゃないんですか?」

「悟は……入学前の時点で二級にはなっていたからわからないが、傑は怪我を負っていたぞ」

「……そうだったのですね」

 

 痛いのは嫌いだから、術式反転を覚える前に使っていた、体内の影を利用した人間の反射神経を超えて自動で人体を操作する術を利用して攻撃を回避し祓除していたのだが、やりすぎていたのか。

 ……まずいな、そろそろ手をしっかり抜かなければ。

 

「実力を隠し、上層部に利用されないように身を守ろうとするのは良いが、長くは続かないぞ」

「ばれ」

「バレてる。立ち回り方を見れば、敢えて弱いフリをしているのがわかるぞ。それにしては、実力が高すぎて弱くは見えていないが……

 硝子も、滅多に医務室に来ないお前のことを不思議がっているし、傑や悟もお前が弱いわけではない、と理解した上で接触の機会を測っている。

 ……お前が、アイツらの事を普段の言動からあまり好いていないのは理解しているが、この世界は一人で渡り歩けるほどそう甘くはない。

 何より、唯一の同期なのだから、少しはアイツらと会話ぐらいしてやりなさい」

「……はい」

 

 ……そんなつもりはないのだけれど、という言葉は口の中で転がすだけに留めた。

 

 未知の食物を喜んで食べる自分へ注がれる、畏怖の視線。全く、「どうせあいつらも」なんて、卑屈に見下す傲慢な自分がいるというのに、いったい何をもって彼らを傲慢であると謗ることができるのだろうか。

 恐ろしい、と思うのは当たり前だ。私は、彼らと親密な関係ではないし、そうなりたいとも思っていない。

 

 ならばこそ、何故私はここに立ったのか?それは簡単だ。自分が、自分らしくあるために、だ。

 たとえ理解されることが無かろうと、自分の基準で生きて、「まぁいいか」と思える程度でもいいから、充実した人生を過ごしたい。そうあることが出来る場所がたまたまここだった、それだけの話。たとえ、その末路が駒として野垂れ死ぬか、孕み袋の扱いであったとしても、己の選択を反省はすれど後悔することはないだろう。

 

 ……その人生の中に彼らがいる姿は、想像するのみに留める領域でしかなかった、というか。

 高専に来てから得た初めての飯友がいるから余計に、彼らにそれを食べさせる未来というものがよくわからない。

 

 車はいよいよ、高専前へと到着する。

「お疲れ様でした」とだけ言い、そのまま高専の敷地内へと戻るが、寮へは向かわずに適当に近くにある寺社へ向かう。今日は近くに狐の阿吽像のあるハリボテ社があったので、そこに居座ることにした。

 境内の社に入り、影から床拭きシートを取り出し、埃ごと床を拭いてから、座布団を取り出してそこに座りこんだ。

 

 さぁて、飯を作るか。

 

 金に物を言わせて作らせた(製作者からは酔狂だと笑われた)表面の温度設定を自由に変更できる、温度感知機能のついた呪具の巻物に、とある場所の結界内にあると誤認させることで擬似的な転移を引き起こす呪札を取り出す。それと、タッパーにフライパン、天ぷら用の液に、油。

 事前に誰もいない寮のキッチンで下拵えを済ませた食材をしまっているあたりの影を漁り、取り出したのは殻を剥いたエビとコロコロとしたふきのとうにわかさぎ、菜の花。入学前の時期に買ったり、採集して影に貯蔵していたものだ。

 

 天ぷらの液は小麦粉に卵、冷や水をだまがほどほどに残る程度に混ぜたものを缶に入れて影にしまっていたものを使う。時間停止のおかげで、揚げ物を作りたい時に手早く作れるのは非常にありがたい。

 呪具の上にフライパンを乗せ、古い油と注ぎ足しの菜種油を注ぎ加熱を始める。呪具に記載された現在の温度が170℃ぐらいになるまで待機している間、小皿と大皿、バットを取り出す。バットには転生前の世界から取り寄せたキッチンペーパーを敷き詰める。

 小麦粉の入ったタッパーに食材を入れて降り、満遍なく小麦粉を纏わせてから、170℃に到達した油を保温する程度になるまで火力を落とす。

 

 まずはふきのとう。一枚一枚葉を開いて内側までしっかりとてんぷら液を纏わせてから、フライパンの中へとそっと入れた。木製の箸からぷくり、ぷくりと登る気泡が黄金色の海の中を泳ぐ。

 多めに6つ入れて、3分ぐらいを目処にそっと引き上げれば、白い衣を纏ったふきのとうがバットの上で湯気を上げていた。

 貰い物の、梅の木が描かれた高そうな丸皿を2枚影から取り出した。値段は知らないが知ったら恐ろしいので聞いたことはない。

 硫黄塩を隅に盛り、ふきのとうを3つずつ乗せる。次はエビの天ぷらを揚げておこう、次は主食が食べたい。魔法瓶を影から取り出して、茶色に緑色があしらわれた侘び寂びを感じる湯呑み二つにほうじ茶を注いだ。この地味な感じがすごく馴染深く、お気に入りの一つである。

 

 炊き立ての状態を維持した米の入った土鍋を取り出し、いそいそとお椀二つによそった。うち一つのお椀に箸を突き刺して、「闇より出てて、闇夜の月へ この饌を届けたまえ」と呪札の上にお椀とふきのとうの乗った丸皿に、ほうじ茶入りの湯呑を置けば、ふっ、とそれらは消え去った。

 寮の部屋内に設置した呪札に洗われた状態で容れ物のみが帰ってくるので、特に気にする必要はない。なんなら食べ終わった後の皿洗いは「(一応)彼女」の担当なので当然である。

 

 塩をちょんちょん、と付けてから、ふきのとうの天ぷらをひとかじり。

 ざくりという音を立てて、口の中でふきのとうが優しく崩れてゆく。優しい苦みと、ふきの香りと共に独特の甘味を持った硫黄塩の優しい塩味が味覚を刺激する。

 そのまま、お焦げ付きの白米を一口。あ〜、これだよこれ。これこれ。この柔らかな甘みのある、ふかふか柔らかな白米。

 

 うめ……うめぇ……。

 なんで世の中の人間は、呪霊が生み出していた食中毒の元になる菌が根絶されたって全世界で報道されているというのにクソみたいなディストピア飯を食べ続けているのか……。ちょっとだけ、涙が出てきそうになった。そのまま揚げたてでほかほかの天ぷらを、火傷しないように冷ましつつ咀嚼する。

 あ、エビの天ぷら揚がった。丸皿にひょいひょいと乗せていれば、「私にも」と、男とも女ともわからない声で要求されると共に送り返されてきた皿にエビの天ぷらを乗せていく。「送」、と詠唱を省略して唱えて送り返してやると、「ありがとう」という声が響き渡る。

 

 高専に来て初めて得た、「呪霊による汚染が起こる前の美食を知識の上で知る」友人、天元。

 彼女が生まれる前からその汚染は発生していたらしいが、時代的に近かったおかげで美食に関する記録が残っていたらしい。

 

 ……そもそも、どうしてこの世界がメシマズ世界になったのか、だが。

 かつて、呪力の無い殺意によって殺され、呪霊として変質した呪術師がいた。成れ果ての呪霊は、復讐として人類種の口に含まれると食中毒作用を引き起こす菌を産み出した。そしてその菌は、空気や生物を経由して、あらゆる全てを汚染してしまった。

 対処方法は、とにかく熱を加えて煮沸消毒する事。そして、菌が生成した毒性を帯びた物質が表面にあるため、何回も水で流す事でようやく食べることができる領域まで達する。

 そこまでしたら、当然ながら食べ物はドロドロのぐちゃぐちゃになる。ので、それをいい感じにペースト状にして、菌がいない塩を振りかけて食べる。という、あまりにもあまりすぎる食形態へ至ったのだ。

 

 最も現代に至った今では、内部に菌が侵蝕しないのを利用して、とにかく強火で加熱して表面をこそぎ落とす調理法や、加熱後に人体に必要な成分のみを抽出し、それを固形に固めて乾パンもどきやゼリー状の食糧を製造する手法も発達した。が、それだけである。仕方ないとはいえもうちょっとなんとかならなかったのだろうか。

 

 現代に至るまでに、「全ての食べ物に付着する害のある菌」という、普遍的な存在として存在が広まった呪霊は、科学的に証明されてしまったがためにかえって呪霊としての格は落ちていた。無数に広まった菌を維持させることしかできなくなっていたそれは、意図的に殺されないように封印を重ねた箱の中でギリギリ存在していた。

「箱」という形態だからこそ、影を経由して中に侵入ができたし、呪霊を祓うことができたが、それができなかったらどうなっていたのやら。ちなみに、早熟で術式が発現したばかりの4歳児のパンチですら余裕で祓われるレベルで弱っていた。菌が絶滅するまでは、そこから3年かかったけどもね。

 

 …………ちなみに、後ほど天元から聞いた話だが、その封印をしたのは当時の呪詛師だそうだが、現代に至るまでにその封印を維持してきたのはなんと呪術師の上層部だったらしい。

 曰く、「普遍的なものとして蔓延した菌が、呪霊を祓った後にどうなるかがわからないから生かすことを選んだ」との事らしいが、途中からその理由も捻じ曲がり「非術師が、我々の同胞を殺した事で産んだ呪霊なのだから、術師が対応する必要はない」という理由に変わっていったそうな。

 

 まぁ、その呪縛は今はもう無くなったはずなのだが。

 それも、科学的に証明されてすらいるのだが。

 だが、だが、しかし。

 

 ……どうして、普通の調理法が広まらないんですかね。

 食事に楽しみを持つ意味が無い?そっか……。

 

 プリップリのえびと悲しみを噛み締めながら、続けて菜の花を投下する。

 空になった茶碗に再び白米を盛り付けていると、天元から珍しく「ご馳走様」という声が早期のタイミングでかけられた。

 

「早くない?お腹空いてないの?」

「私はそもそも、食事を必要とはしていないからこれでいいんだよ。それに……、今を生きる者が食べるべきものだよ、これは」

「え」

「————オマエ、寮にいないと思ったらこんな所にいやがった!!」

「私はたまにでいいよ。彼らに振る舞ってあげなさい」

「は?は?は?うわうわうわいや待ってなんで来たのこないで」

 

 呪札の結界のリンクが途切れると共に、社の出入口の扉が開かれた。スパン、と開かれた先には……ウワやっべ同期三人揃ってるじゃねぇかよ!!

 ズカズカと社内に入り込む三人は、食べかけのエビの天ぷらに残っていたエビの天ぷら2個と、揚げている最中の菜の花と目が合った。

 

「……おぉ?何それ。食べ物?一個食べよ」

「何これ、もしかして油かい?へぇ……すごい、よくわからないけれど初めて見たね」

「なんだよ二個しかねぇじゃん!俺の分はぁ?!」

「いやなんでよくわからないものを平然と食べようと……あっ、あー」

 

 えび天の尻尾をつまみ、ばくりと喰らいつく家入に夏油。口の中へと放り込んでから、じゃく、と軽い音を響かせるとともに、二人は目を見開いた。

 

「お」「む」

「や、んな言ってるけどオマエ普通に食ってたんだろ?なら食えるって事なんだろ。オラ俺にもなんか寄越せ」

「————やばい。何これ、すき」

「ワァ……すごい、その、外側がふわふわしてて歯応えが軽いのがもうすごい気持ちいいのに、中が緻密で、何これ……えっこれ本当に何?すごい美味しいんだけど初めての体験すぎて説明しきれない」

「んだよそれ!余計に気になって仕方ねぇんだけど!」

「えっ……と、菜の花揚がったし次それ食えば……?あっ待って揚げたてを素手で掴むのはやめて火傷するから、ちょっと待って皿に分けるから触らないで?」

 

 慌てて影から予備の箸を取り出した。ランダムで文字が書かれたその箸には「お疲れ様」「食べてね」「早よ食えボケ」等の言葉が刻まれている。

 ついでに蹴鞠のあしらわれた皿も出して、白い塩をざらりと乗せてから油を切った菜の花天ぷらを載せていく。硫黄塩ではないのは、人を選ぶ塩よりオーソドックスなものの方がいいだろうという自分なりの配慮だ。

 

「その白いのもしかして米?そんなしっかりなるもんなんだね」「お〜……サクっていう外側もそうなんだけど、中の草、ほろ苦いのにこんなに甘いんだ……すげぇ、メシって本来はこんなに美味いんだな……俺米も食ってみたい、それちょうだい」「この液体浸けてからこの油の中に入れるんだろう?次この魚食べてみたいから入れるね」

 

「あっご飯は待って茶碗が足りないからおにぎり出して……、夏油それわかさぎ、内臓とか骨取ってないけど、あー待って待ってというかこれ私の飯なんだけど私の分が、

 ちょっと?おい待て五条お前が持ってるその茶碗私のなんだけど?おいコラ食いかけのえび天食ってるんじゃねぇ」

 

 ————目に見えぬ誰かに導かれたかのように、ハリボテの社へと乗り込んだ五条悟は、そっと目を細める。

 上層部の傲慢の象徴を祓ったくらやみの残穢と、目の前の女の残穢はまるで同じだという事実を心のうちに秘めながら。

 

 飛んだ石の破片から生まれた擦り傷程度でしか医務室に入ることはなく、それも絆創膏を貼るだけで終わらせていた、一度も反転術式の世話になることがない女。

 俺ですら、油断して骨折ったりするのにな、と思いながら、その異常性を見透かそうとするが、その目に映るのは「普遍的な」影を支配下に置くのみの使い道の限られた術式と、悟に並ぶ量の呪力のみ。

 

 深夜にこっそりとキッチンを借りて、何やら煮込んだりだの切ったりだのしているのは、同期の三人全員が知っていた。それを邪魔するには、あまりにも必死だったから誰もその邪魔をしなかっただけで。

 手を抜いているにも関わらず、任務でペアを組んだ時は、いつも呪霊を級を問わずにその身に纏う影のみで怪我を負うことなく捩じ伏せているのを、誰しもが知っている。

 その呪霊の中には、現在の自分達の腕前では身に余るような一級クラスのものも含まれていて、それを触れることなく呪霊の体内から三級クラスまで呪力を吸い尽くした上で祓っていたのも、五条悟の六眼はしっかりと捉えていた。

 

「同期」として仲良くしたい、という本心を言葉にすることはできないから、代わりに横に座ってやるという姿勢でその本心を示して。知られたくないものを知られてしまった、という恐怖に浮かぶその目の曇りを晴らすように気にしていないそぶりをして。

 今まで知る事の叶わなかった、呪霊から人が取り返した「味」を、オマエから教えてもらおう。

 凡人を装うオマエ。才を持ち自分の為だけに呪術の世界に飛び込んできたオマエが、俺達「最強」の横に立つ事を認めてやらんでもない。

 

 あ?わかさぎもう出すの?ふーん、数分だけでいいんだ。油を落としてから食う?これでいいの?塩付けて……あっつ、あつ!

 ……え、あの黒焦げの中にかろうじてある魚のガチガチじゃない部分って、こうも柔らかくて脂がさらりと口の中で溶けて、こんなに美味しいんだ。

 うわうっま、なんで今まで表面なぞっただけのモノを見て判断してたんだろ。もっと早くに知りたかった、数ヶ月損した気分だわ。

 

「はー……もっと早く、こうしてれば。おい、オマエ。オマエ、俺たちの分も飯作れよ。金と材料は出すからさ」

「ね、影から皿とか出してたけど、もしかしてこの影の中って食べ物とかもしまってるの?後でお礼するからもっと食べたいな」

「今度時間ある時に料理教えてよ。料理してもらうんなら、手伝うぐらいはしたい」

「私、聖徳太子じゃないから色んな方向から違う話題されても困るんだけど?」

 

 前からそうだったかのようにポンポンと会話が繋がる四人。

 不思議と、全員その顔に笑みが浮かんでいた。




地味に書いてみたかったメシマズ世界観ネタ。小ネタなのでここから続くかは知らないです。食文化が発達しなかった世界の設定を組むのが難しいのもそうなんだけど、飯テロ描写がよくわかんないっピ!

pixivから移す際に加筆・修正済。
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