「彼女」の術式と、呪力の質や流れが何かおかしくなった、というのは悟の目でわかりますが、その正体が掴めていないので、見たとしても本人には聞き出しません。
話の内容次第では気がついたら手遅れになるかもしれないんだぞお前。
前話で天元は「進化」の可能性を自ら売り払って捨てたため、人類種の同化対象としては不適格な存在となりました。今の彼女は、魂が物質化しているのみの、肉体的な死を放棄した「人間」です。
人がたどり着ける可能性の、一歩先に居るだけな為、呪霊操術の対象に含まれることはこの先ありませんし、このまま同化が失敗しても、肉体が朽ち果てるのみで、魂/術式のみの状態となった天元は問題なく結界の要として自らの運用が行えます。でもご飯は食べれなくなる。
清与という「本来存在しない異界の魂を持った存在」が、現状を伏せつつ上層部に働きかけた事で、星漿体同化そのものがぽしゃになり、最初からなかったことになってます。フラグはこうやって潰すんだよ!!
何も知らないメロンパンさんが、運命に働きかけた「そら」の依代が、世界の機構から外れたイレギュラーであると理解しました。
計画に有利な流れになったことと、クソデカ感情の矛先がそれを行ったという事実にお腹抱えてゲラゲラ笑ってるけど、天元は進化しないから本来の道筋は失敗に終わる模様。
尚、空亡とかいう、いまだに執着してる上に呪霊操術の対象にも含まれる、大切な上位者パイセン。
そもそもが過酷な環境によって変質した人類の未来は先細りしてるし、まだまだこの世界やばい。
さて、前置きが長くなりましたね。いつもの飯話。
飲んでみて「まずいな〜」って思っていた甜茶がありまして、お茶エリアがパンクしそうだったので、1リットルに対してカップ一杯分のティーパックを二つだけ入れて、煮出す時間も5分とかなり薄めに煮出してみたらそらもうあっさり飲めました。私が濃く作りすぎてたってことなんだね……。
職場に、ハーブティーやら金木犀のお茶やらさくらんぼ茶やらローテして持ち込んでいるのですが、気がつくまでは甜茶を「まずいな」と思いながら飲んでました。もっと早く気がついていればよかった……。
一月二日、元旦の翌日。
任務終わりの呪術師達の帰還は、日が昇る前の早朝となった。車の中や医務室の中でぐーすかと仮眠をとっていたから、睡眠不足はやや解消されているがそれでも疲れているのには変わりない。
目の下に隈を作ったり、前髪が跳ねていたり、普段よりも頭痛が酷かったり……ボロボロになりながらも、奇跡的に東京校の一年生同期三人組は寮に集合していた。
顔を合わせるとともに、無言でキッチンへと向かい、黙々と作り置きの準備を進める三人。時間が経つにつれ、言葉数が増えていく。
「ちくぜんに?は冷たいままでいいのかな」
「何も言ってないしいいんじゃねぇの?それよりも冷凍してある伊達巻と黒豆溶かさないと。袋に入れたままお湯で温めろなんつってたけどどれだけあっためりゃいいんだ?」
「ぐつぐつの状態で5分ぐらいやればいい、ってメールに書いてあったね。えーっと、お餅……、白いコロコロしてるコレかな?見た目栄養バーにそっくりだけどコレで合ってるのかな、ちょっと不安だけれど……でもコレしかないんだよね」
筑前煮がコレでもかと詰め込まれた巨大なお椀を両手で抱えて、硝子は行儀悪く肘で冷蔵庫を閉めた。そのまま、筑前煮を抱えて食卓へと運んでいく。それを見送った悟は、ぐつぐつと沸騰している熱湯の中に、密閉されたフリーザーパックを放り込んだ。黒くツヤツヤした豆と、黄色と茶色の比率が美しい伊達巻が少しずつ温められ、表面が凍っていたのが溶けていく。
傑が冷蔵庫から出した、冷やされたことで油が表面に浮いている雑煮の汁が、火にかけられ寒さから解放されて解れていくのを悟はじっと観察していた。そこに、丸められた白く、少し表面がしっとりしているような気がする、小さなもちを九つ落としていく。
「つーか、清与がここにいないのすげぇ違和感なんだよな。普段、アイツがメシ作ってくれてるから居ないとどうしてもどこにいるかって探しちまう」
「今、私の特級推薦のための書類処理してるって聞くけれども、彼女の仕事量ものすごく多いから心配になるよね。私が特級になれば、呪霊総動員で事務作業もこなせるのだけれど……」「呪霊の手を借りないといけないレベルで人手不足なの、終わってるよこの業界」
それは本当にそう。戻ってきた硝子の言葉に頷きながら、悟は箸でフリーザーパックを軽く揺らす。
先ほど、悟は蟲を出した後で、腹の中が少し荒れた。
反転術式で治療を行ったとはいえど、まだ感覚が残っているような気がして、少し気分の悪さがあるのは事実だ。呪術師の中には、蟲を腹の中で飼育して、呪力を食わせることで自身の肉体のメンテナンスをさせている者もいるが……悟としては、どうにも蟲が好ましくなかった。
自分の身体を勝手に動く何かが目に見えて気持ち悪い。体を見下ろすだけでその目には体内の何かを見通してしまう。
うぞうぞと人の体内を這いずり回って何かしているのが自分の体を見下ろすだけで見えてしまうというのがもう苦痛。無理キショい。何よりも、飯を作らないでいいからって蟲で過ごしてきた幼少期を思い出すから嫌。出す時も上からか下からかの二択で、どっちも苦しいから嫌い。
「おお、何やらプニプニになってきたよ、二人とも」
傑の驚く声に雑煮の中を覗き込む。
少し膨らんだ気がする小さな丸は、輪郭を軽く歪ませながら汁の中をぷかぷか浮いていた。悟は、パックを掴んで遊んでいた箸で「もち」をつかむと、もにゅもにゅとした感触と共にもちが箸に絡みついてきた。湯気が立つ汁から引き上げると、随分と柔らかくなったそれ。
口元まで寄せて、一口食いちぎると、雑煮の旨みのこもった汁の味を纏った、噛みきれないほどの衝撃が口内でやさしく広がる。もちゃもちゃと口の中で粘土のようなそれは、粘土とは異なる柔らかさだ。なるほど、これがもちか、と頷く。
そのまま、食べかけだが掴んでいるもちを横に差し出せば、傑と硝子は自分と同じように食らいついた。
柔らかなそれを食べて、目を見開く。
「栄養バーとは全然違うじゃん。なにコレ、歯応えがすごく面白い。ざらっとしてるからか、汁の味が絡んできて美味しくいただけるね」
「あ、茹でる前って、あの会社のバーにすごい近い見た目してたけどさ、バーって「加熱禁止」ってなかった?加熱したらドロドロになって食べにくくなるし、無菌管理してるからしないでいいって聞いた覚えあるよ」
「あー!これ、バーに使ってる弾力がある米を炊いてから練ったやつだな!
はー……こんな食い方があるんだなぁ、アイツのこういう知識どっから来てるんだろ」
火を止めて、箸先を軽く洗ってからフリーザーパックを引き上げて、中身を出せば湯気を立てながら、とろみとわずかな粘り気のある黒豆と、色のコントラストが美しい伊達巻が現れる。伊達巻を一度軽く切ってから再度味見すると、温かい中に魚の淡白なうまみが感じられる、暴力的な甘さに悟は笑みを浮かべた。一方、硝子は黒豆を箸で摘んだままやや渋い顔。
「うわー!甘くてすげぇフワッフワ!!俺コレ好き!!」
「なんか悟向けの食べ物が多くないかい」
「味付け次第で日持ちが良くなるって言ってたし、日持ち重視なんじゃない?結果的に五条好みになっただけで。
私この豆はねっとりした甘さすぎてそんなに好きじゃ無いかも、ちょっとだけでいいや」
ハートの形の温かみのある小鉢に豆を流し込んで、蹴鞠の印刷された皿に切った伊達巻を乗せて、傑は配膳に向かう。傑としては、黒豆はついうっかりつまみそうなデザートだな、と思っている。残念、ジャンルとしてはおかずです。
「私二個でもいいよ」「おー」と言いながら、木目の美しいお椀に餅と共に汁を流し込む。
さやいんげんの緑にカモの薄茶色、花形のオレンジ色のにんじんが色とりどりでなんと美しいものか。
行儀悪いが、ずぞっと配膳する前の自分の雑煮を啜る。冷えた体が芯から温まるような気がした。
「この茶碗蒸しは面白いね、一見プリンみたいだけど匂いがほのかにだしの匂いだ。上に乗ってる草はともかく、オレンジのものは見たことがないけどなんだろうね、つまみ食いしていい?」
「早く持ってけ」
食卓までの動線を塞ぐように、冷蔵庫から茶碗蒸しを取り出ししげしげと眺めていた傑を、お椀を持って塞がった手の代わりに足で軽く蹴って催促をする。
茶碗蒸しは、他みんなは元旦のタイミングで高専に一度帰還して食べにきていたらしく、一年の分しか入ってなかった。
一通りを並べ終え、匙と箸を人数分出して。冷蔵庫から作り置きのお茶入りポットを取り出してコップに注ぎ入れる。
全員で座席に着いてから、「いただきます」と手を合わせ、各々気になるものに手を出した。
「あ、この煮物は私好きかも。旨みがギュッと詰まってて甘みが引き立ってるっていうか、しいたけの肉厚感がたまらなくて好き」
「私、清与の作るプリン好きなんだけれど、これはこれで優しい美味しさで好きかも。上に乗ってるオレンジのやつを食べてみてほしい、なんか……、なんだろう、すごく「海」って感じの味がして濃厚だよ。
これなんだろう、絶対ご飯に合わせても美味しいよ」
「茶碗蒸しの中にある黄色の粒は……、なんだろうなコレ、弾力があって中が空洞で、ちと渋みは仄かにあるけどこれはこれでいいアクセントになってるというか?単品だと硝子が酒のつまみとして食ってそう」
ワイワイと騒ぎながら、作り置きしてくれていたお節料理をもぐもぐと食べる三人。最初に雑煮を食べ終わった硝子はしばらくの間筑前煮をつまんでいたが、何かを思いついたかのようにキッチンへと戻る。
ちょっとしてから戻ってきた硝子は、呪術師需要が高まり増産されたコンロ呪具と一緒に餅と油、フライパンを抱えて戻ってきた。食べ終わった皿を積み重ねてまとめてから、隙間を作ってそこに持ってきたものを置いていく。硝子は真顔のまま準備を進め、「いいこと思いついた」と言いながらフライパンを温め始めた。
持ってきたごま油をつ、と火にかける。
「何?何するの硝子」
「米ってさ、冷めたら食感変わるじゃん。温めたら元に戻るから、もしかしたらもちも火にかけたら茹でた時以上に弾力のある状態になんのかなって思って」
「天才かよお前」
片手でピースしながら、小型のもちを三個フライパンの上に優しくのせると、じゅうじゅうと言いながら加熱が始まった。
そのまままったりと待っていると、表面がややカリッとしていく。ぱきり、と表面が割れると中から柔らかそうな白色が現れた。
「お〜!」
悟は目を輝かせてそれを見つめている。硝子は餅をひっくり返して、そのまま焦げ目が付いていい感じになるまで加熱していたが、その時、変化は起こった。
出来た割れ目から、ぷくり、と。空気を伴ってもちが膨らむ。
「おぉ」「うわ」「すご」
加熱したことにより、空気が膨張したのだろうか。みていて非常に面白い。
一通りもちがぷっくりと膨れてから、各々の取り皿に餅を乗せる。コンロ呪具の火を止めてから、全員でもちにかぶりついた。
「ウワッ表面パリって音が出るのに、中の粘度と柔らかさが対比になってる。この口の中に筑前煮とか放り込んだら美味しいからやってみて」
「ング、……これさ、味噌とか醤油とかかけて食ってみたらどうなると思う?やべぇよコレすげぇよ硝子超天才」
「お前のその発想も天才。醤油かけて食うわ。……あ、待って。五条、醤油の上にさらに砂糖もかけてみなよ、お前はそっちの方が好きかも」
自分達で考案した初めてを、笑みを浮かべながら食べていく。もち二〜三個では全然足りなかった。
もぐもぐと、小さく噛みちぎるように咀嚼しろ、とメールにあったので少しずつ食べる。
「清与、今やってる申請が通り次第こっち戻るらしいな。大体四日には帰るって言ってた」
「本当かい?じゃあそれなら、ちょうど誕生日にプレゼント渡せるね」
私、お師匠の所にいるときに空いた時間で、ガラスのネックレス(一級呪具)作ったんだ。ほらこれ、光の入り方とか背景色で色が変わるんだよ。などと言いながら、木箱の中に入れたそのネックレスを見せてきた。黒いスポンジの上に、チェーンで繋がれたガラスは、背景の黒いスポンジによって通過するはずの光が吸収され、ガラスが吸い込んだ黄色の光に染まった色で輝いている。指でそっと持ち上げてよくよくみたら、透明なガラスの中には、青色も僅かに入っている。なかなかどうして、美しい色だ。
「これね、彼女の術式と相性がいい機能があって実用的なら、身につけてくれるかなって思って作ってみたんだ。光を増幅したり、吸収できて、なかなか便利かなって。
見た目もシンプルだし、喜んでくれるといいのだけれど」
「——待て夏油。誕生日が何?」
「なんだって?」
目を見開いてから、傑は硝子の言葉に対して返事を返す。
「清与の誕生日、明後日だよ?」
「…………ハァ?!え、ちょ、嘘だろマジ?!」
「聞いてないのかい」「悪い夏油。私達マジであいつからそういうの聞いてない。五条急いで皿片付けるぞ、プレゼントになりそうなもん買わないと」「え、あ、そうだあいつ最近手が乾燥してるから硝子ハンドクリーム買いなよ、オマエの方がそういうの詳しいだろ。俺はあいつ寒そうだしあったかそうなブーツ見繕うわ!」
「…………私だけに?」
ポツン、と残された傑はその呟きをこぼした。
彼女から、誕生日を教えてもらっていたのは私だけだったのか。私だけ、特別に?
実際には、誕生日を聞いてきたのが傑しかいなかっただけだが、それでも、彼女の事をより知っているのは私なのだ、という優越感が湧き上がる。そっかぁ私が最初に知ったんだね、と思ってしまい、自然に頬が綻ぶ。
私上、君たち下。
やったね。
「おい夏油手伝え!」「なんだい誕生日を祝われておきながら、清与の誕生日を知らなかった二人。今そっち行くから待ってて」「うるせ!うるせッ!俺たち三人の後に誕生日が来るんだろうなって思ってたんだよッ!」
洗い終わったものが積まれているので、布巾を片手にそちらへ向かい、拭いてから皿や箸を棚へと戻していく。誕生日が一月ごとに並んでるの、確かに珍しいよね。365日もあるっていうのに。
「本当は、彼女のために料理を振る舞って見たかったんだけれどもね。私が今できる内容とすると、冷蔵庫の中にある野菜を切ってサラダ作って、冷凍庫の肉は焼いてステーキにして……、くらいしか出来ないね
炊飯は私出来ないから諦めたんだ。多分コレが一番喜んでくれそうな気がするのだけれど、主食を用意できないのはね」
「炊飯?それなら俺できるぞ傑」
「え、本当かい?」「なんならパンも焼けるぞ。最近主食の準備手伝ってるのコイツ」「硝子は炒めたりだとか、煮付けたりとか一通り火を使った内容はできるよな」「……切るのはやるからさ、みんなで明後日ご飯作ってみない?」「サンセー」
それならあれ作りたい、サバ味噌。などと、何を作るかの想像を膨らませながら、来るべき日に向けて準備を始める。皿を洗い終わってから、各々解散してシャワーへ。ちょうど元旦の翌日で外が明るくなってきたところだ、しっかりと暖かい服装で外に出て、都内へ降れば店が開店しているタイミングだろう。
せっかくだから、ネックレス以外にも服を買おうかな、動きやすさを重視したものばかり買っているようだから、着こなしやすいワンピースとかプレゼントしてみたい。傑はそう思いながら、自室で財布を探すところから始めた。
首都圏に降りる時には、認識阻害の術を持った呪霊を用意して、運搬用のエイ型呪霊に乗って向かおう。ハンドクリームを探すのなら、多分あそこの百貨店が品揃えがいいかも。それか、ハンドクリームを自作しても喜ばれそうだし、それも提案してみようかな。
悟はブーツを、と言っていたが、それなら手袋や耳当てを買ってもいいかもしれない。などなど、コレからのことを考えて浮足立つ。
制服を脱いで、冷えた外気に鳥肌を立てながら私服を着込む。
コートを羽織って、荷物が大量に入るリュックとバッグを掴んで出た。悟は多分財布以外ほぼ手ぶらの状態で来るだろうから、後でバッグを強制的に持たせて荷物持ちさせる。
玄関で靴を履き替えてから、外で携帯をいじりながら、残りの二人が来るのを待った。メールで清与へ、「ご飯おいしかった、作り置きしてくれてありがとう」と送っておく。本当に美味しかったし、自分たちのために作り置きしてくれたという事実が何よりも嬉しかった。
しばらく待っていれば、サングラスを外した悟がやってきて、最後に硝子がもこもこに着込んだ状態でのしのしと歩いてくる。全員でマスクや耳栓をつけて、ゴーグルで目を防護する。呪力を使ってもいいが、今はオフだし、防護してても寒いのには変わらないのでやらない。エイ型呪霊と、ランタン型の呪具の形態に変えた認識阻害の術式を持つ呪霊を起動した。
エイ型呪霊にランタンをくくりつけてから、三人でその背中に乗る。
ふわり、と浮き上がる感覚。そして三人は、高専を飛び出した。
同期が成長してて、俺、涙が出そうだよ……。自分達でメシを調理する技法等を会得してきている三人。夏油傑とかいう、大根のかつらむきが上手そうな男に、主食のご飯やパンの味にこだわってそうな五条悟、調理補助をしっかりこなしてくれる硝子。
よかったね、清与。お前も祝われる側なんだよオラッ!
作中の夏油のネックレスはネオジウムガラスってやつです。アレキサンドライトみたいに、光で色が変わるガラス。
蛍光灯の下では青く、自然光では赤みを帯びて紫に、暗かったり背景が黒かったりすると、ガラスが吸収している黄色の波長の光の色に変わります。(執筆者の持っているものは、という話ですが)
はえ〜すっごいオシャレで綺麗。ものによっては色味の変化は微妙に違ってくるらしい。
ストックの予約投稿日、月曜にするはずが間違えてて草。
小説断食日を作るはずが……うごご