めっちゃお腹が鳴るし美味しいものが食べたくて辛いです。
ろくなリンクを繋いでいないおかげで、辿り着くまでが困難な個人サイトに「てんぷら食べました」というタイトルと共にレシピと完成系の料理の乗った写真の記事を掲載して、一息吐く。おっ、一昨日にこんな僻地のサイトに一人迷い込んだやつがおって草。
ついでに、記事に書き込まれていたコメントを確認したが、かつて埼玉県で一人暮らししていた時のお隣さんのおっかさんからの「前もらったお醤油を使って鍋を作ったら喜んで食べてくれた!美味しかったよ、ありがとう!」というとても嬉しいコメントだった。
いやうれしいけど身内ぐらいしかアクセスしてこねぇ。
やっぱどっかしらにサイトまでの導線作って……いやいや、承認欲求を表に出すな。私のメシは未知のゲテモノであるのを忘れたのか。これはあくまで記録を残す用のサイトだろうに。
部屋に隠しておいてある、前世の世界から通販で呪力空っぽにして取り寄せた、AI生成が出来るレベルのハイスペックノートパソコンの画面をぼんやりと眺める。握りやすさに特化した特徴的な形状のマウスをカチカチいじりまわした。
まだこの時代、ニコニ○が始まったばかりなんだよなぁ。見てみよ。
感慨深さを覚えながらニ○ニコをチェックすると、薬品に薬品と薬品を混ぜて回復飲料(という名前の劇薬)を作る、メシマズ世界ですらメシマズと酷評される物体を錬成した狂人が、ちょうど新たな動画を上げているのを見かけたので、ちょっとだけ確認してみる。あっちの世界で誕生した伝説のメシテロ劇薬チョコレート、いつ投稿だっけ?バレンタインの時期じゃないはずなのだが。
というかそもそもチョコレートがこの世界には存在しない。この世はやはりクソである。
「怪しいサイトのやり方通り米を調理してみた」
怪しいサイトを見つけたので、最初の方に乗っていた米の炊き方とやらをやってみました
……そう、字幕には書いてある。
…………?
動画を確認していくと、土鍋に精米をグラム測って入れたのちに、米に対して1.2倍ぐらいの水を入れて土鍋の蓋を閉めている光景が流される。
そこに塩と豆も入れてる。節分の時ぐらいしか出番がない上に投げただけですぐ捨てられる炒り豆入れてるなこれ。しかもこれちゃんと水で戻してるし。
あれこれ、科学の実験ぐらいでしか使わないガスコンロを使って、米を炊いて…………?いや炊いてる、炊いてない?
動画のキャプションを確認してみる。そこには、レシピ参照元の個人サイトが載せられ…………
「いや私のサイトじゃねぇかよ……」
大声を出したつもりが、カスカスに途切れた声が喉から出た。すいませんねろくに人と会話しないコミュ障のボッチなので声が小さいんですよ。
バクバク、と急速に心拍数が増加しているのを感じながら、そのまま動画を眺める。そうそう、はじめの火力はちょろちょろ強めの中火、そこから中がパッパと沸いて。じゅうじゅう吹いたら火をひいて弱めてあげる。たとえヤンキークソガキ喚こうと、10〜15分は絶対に蓋取るな、てね。
おお思ったより綺麗に炊けてる。10分経ってから蓋取って確認してるのはとてもえらいぞ。そうそう最後に蓋戻して一瞬超加熱して火を止めたら放置だぞ。蒸らせ……蒸らせ……
そうだそうだ、いい感じに炊けたなら蓋をもう一度開けるんだぞ……ちゃんと実験用のゴムベラを用意しているのもえらい、かき混ぜろかき混ぜろ。動画内では、おこげのついた豆ご飯が艶々ふっくらに輝いている。
馬……、ではなくて鶏のマスクを被ったその投稿者は、マスクの下にスプーンで掬った焦げ部分付きの米を口の中へと放り込んだ。
曰く、「黒焦げ部分ぐらいしか見知った部分がなくて怖いからここから食べる」との事だ。
緊張しながら見守っていると、おもむろに投稿者は画面内で立ち上がった。そして着ていたジャケットを脱ぎ捨てるとおもむろにズボンを、あっnice boat.
硬い。だけどしっかりやわらかい。かすかにもっちりとした食感
豆もこんなに柔らかくなるなんて思わなかった。
甘いのとしょっぱいのが優しく舌を抱擁してくる
ダメだよこれ。全人類食すべきだよ。ノーベル賞ものだよ。
字幕は大絶賛しているが、ちらほらと流れ始めたコメントには「お前の味覚は信用ならん」「虫の卵みたいできもちわるっ」と流れている。投稿者が投稿者なだけに正直仕方ないとは思うが、それはそれとして沸き立つようにむかつきがこみあげたところで立ち上がった。
上等だ、「ガチ」の炊き込みご飯のレシピを乗せてやろうじゃねぇかこの野郎。ちなみに今現在は授業が終わった後の自由時間である午後四時である。
スマホ……はバレたらとんでもないことになるので影の中にしまったままにして、取り出したるは今の年代に買ったばかりのカメラ。ノートパソコンも、有線LANを外してから影の中にしまいこんだ。
部屋を飛び出して寮内のキッチンへと向かう。まぁ、キッチンといってもろくな設備がないから、ほぼ自前の料理器具で料理を行うのだが。
だらしがないが、髪を後ろで縛りつつ肘でドアノブを捻り、足で蹴破るようにドアを開く。空いているスペースでUNOを遊んでいた同期がいる気がするがなんかもうアイツら受け入れやがったしいいや。放置放置!
なんか言われようともう知るか!後から自分の行為を悔やむ事になるかもしれないが、この世界でいうゲテモノを精製する行為を隠すつもりはもうない。
なんかもう三人して積極的に人のメシを狙ってくるし、わざわざ遠くにスポーンした寺社を使ってても押しかけてきたりしてめんどくさいからもういいや。あるいは諦めともいう。
予備(予備と称してはいるが、同じサイズのものが後4個はある)の土鍋を取り出す。ひよこが歩いている絵があしらわれた、美しい白磁の鍋だ。
米をざっと多めに5合入れ、呪具コンロを邪魔にならないところに置いてから、米入りの鍋をシンクに置き、米を研ぐ。
ちゃんときっちりやる時は網切りまでするが、そんな面倒なことやりたくないので鍋のふちに手を添えて、中身が漏れないように水を流しておしまいだ。それを二回繰り返す。
昆布だしと出汁をとった後の昆布をとりだして、昆布はハサミで細かく切り刻んで米の上に乗せていく。昆布だしは適当にドボっとペットボトルから注いだ。多分大さじ2〜3杯。
続いて、ボウルから取り出したのは赤いトゲトゲした、微妙にぶよっとした外皮に包まれた楕円の謎の塊。ホヤだ。
まず、上側にある二つの出っ張りのうち、+の形の割れ目がある方の出っ張りをハサミで中の身を切らないように慎重にちょん切る。切った際、中の汁が吹き出すから水道にボウルを置いて、その上で切るようにする。それから、切り口からホヤの中身を取り出せるように、脇をザクザク切っていく。
ガタガタと机の方から音がするが無視。バタバタとこちらに駆け寄ってくる誰かに関してはちょっとよく知らない。
するり、とぶよぶよの中身を殻から出して、-の切れ目つきの出っ張りにくっついた身をずるん、と引っこ抜く。
もともと出っ張りと面していた部分の口をちょきん、と落としてからつまむと、コリコリとした感触とともにほのかな甘みに塩気と、猛烈な旨みが口内に広がった。柔らかな苦みがいいアクセントとなり、ダイレクトに潮の香りが鼻を通る。
「よくわかんないのつまみ食いしてるぞ」
「俺こんなん見たことねぇんだけど本当に何これ?実家でもこんなの出たことねぇよ」
「貝……、っぽくはあるのだけれども、殻は植物みたいな有機質っぽさがあるしね。ねぇこれなんだい?私にも一口」
「ちょっとは見た目の気持ち悪さにドン引きとかするものなんだけどな……なんで平然とした顔でせびってくるのかな……」
「「「呪霊に比べたらマシ」」」
「……まぁ、それは、たしかに」
不覚にも納得してしまう自分がいた。
先ほどつまんだ部分は、水を吸う所と、出すところの二箇所の口だ。まぁ端的にわかりやすくいうと口と肛門。
流石に、他人に食わせるべき場所ではない。なぜ自分が食べたのかというと、食い意地が張った女だからである。しょうがねぇだろホヤ美味いんだから。
適当にぶるんぶるんの身に切れ目を入れて、ぐるんと裏返した。そのまま、管になっている部分や卵や内臓で隠れている部分にある排泄物を、ホヤから絞り出した液体でザブザブ洗う。
割と綺麗めな個体だったため、排泄物はほとんど中に入ってなかった。そのまま引き上げてから、ハサミで一口大にカットし、まだかまだかと待ち続ける雛どもの口の中に放り込んでやった。
「ん、柔らかくて汁がすごい出てくるな……。砂糖とは違う甘みを感じる、それでいてしょっぱさもあって、うまみがある。潮の匂いからして、多分海の生き物」
「なんか唾液が甘いんだけど、もしかして今酒飲んだら酒も甘みが出たりすんのかな」
「……結局、これはなんなんだ?貝?」
じょきじょきと別の器にホヤの身を乗せていく。もう二つあるホヤも同じようにするが、そのホヤの中身の液体は排泄物が共に出てしまわないように慎重に、+の出っ張りがあった場所から絞り出していく。ある程度絞ったら、それは米の入った土鍋に注いでしまう。
一つ分のホヤを処理し終えて、もう一つ最後の分を、と思ったが無い。流しの方を見れば、勝手に捌いてざぶざぶとホヤの身を洗っている硝子がいた。
「オラクズども、一人一個な」
「どう見ても傑の方がでかくね?」「賤しいよ、お坊ちゃん」「は?目上の立場にある人間は敬えって習わなかったのか?」「へぇ?君自分がこの中で偉いって思ってるんだ」「あ?」
「どうでもいいけどケンカするんなら飯抜きな」
「アイツ、俺たちの胃袋を人質にとりやがったぞ」「暴君だ暴君」「この場で一番偉いのどう見てもアイツだろ」
……まぁ、いい。そのままザバーっと水を注ぎ入れた。大体適当に人差し指の第一関節がちょうど入るくらいの水嵩になればいいだろ。
最後にカット済みのきくらげを取り出して、鍋の中にホヤごとドボンと入れる。最後に軽く日本酒をひと回し入れて鍋蓋を閉めて、炊飯開始。ついでにキッチン備え付けの湯沸かし器でお湯を沸かす。
中の水が沸くまでの間に、まな板と出刃包丁を取り出した。そこにドン、と置くのは鯛。捌かないで、鱗とえら、内臓だけ取ってそのままにしていたそれから、頭を落とす。
まずは腹鰭が出刃包丁に引っかからないようにしながら、頭まで鰓蓋の部分を通るように切れ目を両側に入れる。
それから、出刃包丁を切れ目へと添えて、思い切り力を込めて骨を叩き割れば、ばきん、と頭が取れた。
頭の下から頭が片身ずつになるように割っておく。
次に、腹側・背鰭側から中骨に向かって切れ込みを入れてから、尾先から胴体に向かって骨に沿うようにして身を剥がして行く。反対側も、やや難しくはなるが、同様に切れ込みを入れて剥がしていった。
骨が微妙にでかいのでこれもある程度の大きさでぶつ切りにしてやる。
「すげー、頭ってこんななってんだ」
「魚の骨ってこんな太いんだ……」
「オラ邪魔だぞどけどけ」
「お湯沸いてるよー」
暑苦しいから本当にどいてくんないかな、と思うが言っても全然どきやしない。興味津々の目でウロチョロしてくる。
備え付けの冷蔵庫から氷を取り出し、ボウルへと水と共に入れていく。
適当な場所にボウルを置いてから、皮を上にした鯛の切り身にサッとお湯をかけた。すぐに冷水入りのボウルで冷やす。湯引きだ。
湯引きが終わった切身をまな板において、冷水を捨てて。ボウルに頭と中骨部分を入れてお湯を注ぎ込んでから、数十秒後にお湯を捨てる。これをしておけば臭みが割と変わる。塩で10〜20分浸けておくのが一番だが、めんどくさい。
じゅうじゅう吹き始めた鍋の火力を弱め、チラリと時計を確認。現在時刻を軽く記憶しておく。続いてステンレスの鍋にお湯と昆布だしを入れる。お湯は足りなくなるので、水をある程度入れてやればいい。
小さな気泡がふつりふつりと登る鍋の中に、頭と中骨を入れた。こいつはぐつぐつになってアクが出るまでひとまず放置。湯引きした鯛を刺身に切っていけば、細かく切った刺身を横からひょいひょいとつまんで行く三人。こっちは我慢してるのにつまんでいきやがって。
「ん、前食べた鮪とはまた違う味。淡白だけど美味いな」
「私は半分凍ってしゃりしゃりしてた鮭の方が好きかな」
「さっきのよくわかんないのが絶対に酒に合うからそっち食べたい」
ホヤ飯で我慢してくれ。
皿に鯛の湯引きを盛り、海老の殻を砕いたものが混ざったエビ塩をふりかける。更にそこに、オリーブオイルとレモン汁、乾燥バジルも追加。
ちょうど13分ぐらいか、炊飯している土鍋の火を一瞬強くしてから止めて、そのまま蒸らしに入る。アクが出てきた潮汁は、傑がアクを取ってくれていた。透き通ったその汁の中にしめじと大根、酒を入れて弱火でコトコト15分。
10分経過したタイミングで土鍋を開けば、ふわりと漂うホヤの潮の香りと、昆布の旨味を感じる湯気。炊き上がりが絶妙にいい感じになったので、一旦混ぜてからもう一度蓋を閉めた。さらに蒸らすといい感じになるんだ、これが。
そして5分、大根としめじがくたくたになったところでこちらも火を止める。藻塩をパッと……多分小さじ二杯ほど?入れて塩気を整えた。最後に磯海苔をふりかけて、戻してやれば潮汁の完成だ。
木製のお椀に一口ずつ汁をよそい、配ってから味見。うん、鯛と昆布の旨みが滲み出てて、落ち着く味だ。みんなほぅ、と息を吐いている。
二つしかない鯛の頭は、うち一つは私のものとして遠慮なく持って行く。もう一つはじゃんけんで勝手に争ってほしい。
悟が片付けた机に潮汁と、鯛の湯引きのカルパッチョ、ホヤ飯を配膳する。今日の箸はしましまの箸だ。
綺麗に並べた料理をカメラで撮影してから席に着く。今日のじゃんけん大会の勝者は悟だった。アイツ、六眼フルで稼働させてくるからじゃんけん強いんだよな。
というか適当に作ったからレシピが無い。まぁいいや適当にでっち上げてもバレないバレない。
じゃあ、手を合わせて。
いただきます。
この後豆ご飯がニュースで取り上げられたし、正しい米の炊き方が広められてサイトにはめちゃくちゃ人が流れ込むようになった。承認欲求が満たされる〜!
その後に上げたホヤ飯のレシピはそもそも「ホヤって何?」という流れになって流行らなかったし、レシピを載せてない鯛の潮汁と湯引きに関する質問の方が多くてちょっと泣いた。手軽に作れて美味しいのに……。
サイトのコメント欄は色々と質問が来てて流れが早かったので、元お隣さんの伏黒さん家とはメールでやり取りをする形式に変えた。
調味料も徐々に作り方を広めたいが、米の炊き方が広まっただけでもありがたい。何より、菌が絶滅したにも関わらず、菌を排除するための色々と勿体無い調理法に疑問を世間が抱いたことが、大きな前進である。
前世産の醤油や味噌を使っていても疑問に思われない環境作り。
まずはここから、だ。