メシがまずいこの世界、ポイズン   作:ファ○通の攻略本

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おはよーーーー!!!!朝だよ!!!!!!!!
カンカンカンカンカンカンカンカンカンカン

「うるさいんだけど悟?!」
「夜更かししたオマエが起きてこないのが悪いんじゃん」
「22時には基本しっかり寝ついてるお坊ちゃんとは違うからね私は。ごめん違ったね、おじいちゃんだったね」
「ぶん殴るぞ」
「そう言いながら蹴るのやめてくれない?」


ぬか漬け・おにぎり

 夏も終わり、九月。

 まだ地球温暖化が進行していない今の時代は、九月になるとひんやりと心地よい風が吹く時代だ。あと四〜五年もすれば、九月になっても暑さが収まらなくなるのだが……。

 

 くわぁとあくびをしながら、洗面台からキッチンへと向かう。今日は硝子がやってこない日だったため、平和に眠ることができた。

「えびでんす」という文字の下に踊り狂うえびがプリントされたTシャツを着て、今日の朝を作るべくキッチンの扉を開けば、そこには先客がいた。

 

「あ、おはよう」

「歌姫先輩、おはざます」

 

 和装をかっちり着込んだ歌姫だ。

 袖が邪魔にならないよう、襷掛けで上げている歌姫の手元には、どんぶりサイズの蓋付き容器。真っ白のその容器には、「ぬかどこ 2005/4/23」と丸い文字で書かれたテープが貼られている。

 

「ぬかどこ、いじってもらってたんですね。ありがとうございます」

「いいのよ別に!ぬかちゃんにはいつもお世話になってるし、みんなで面倒見ないとね!」

 

 天元による天ぷら襲撃事件後、度々繰り返される同期襲来に諦めた私は、自室で育てていたぬか床を夏を見据えてキッチンエリアへと、自作のぬか床の説明書と共に移動させた。

 すでに完成しているぬかどこは、「あのぱっつんチビが何かやっているぞ」と嗅ぎつけた東京校の娯楽に飢えた学生のおもちゃだ。

(おそるおそる)味見をした先輩方に引き起こされた味の革命により、ぬか漬け作成が一大ブームと化した。

 

 最初は私だけが細々と冷蔵庫に入れてあるそれに野菜を入れて、かき混ぜては掘り出して食べたり、埼玉まで遊びに、間違えた任務に行く時にパッキングして旦那さんお気にの粕漬けと物々交換したりしていた。

 どうでもいいが、発酵抑制の目的も兼ねて入れた生姜の糠漬けを目を見開いてぼりぼり丸齧りして食べる恵くんが怖かった。

 

 そこに同期三人が加わってから、やれ今日はにんじんがだの時代はそろそろきゅうりだのキャベツをと騒いでいる所にやってきてしまった二、三年生の先輩方。

 丁寧に漬け込んだかぶとうどをぽりんぽりんつまみ食いしつつ次弾で争う三人を無視して大根とアスパラガスをぬったぬった突っ込む私。同じようにつまんでみて初めての食感と旨みに満ちた酸味に目を見開く先輩方。

 

「先輩方ならぬかどこになんか入れてもいいですけど、臭い強いものと生肉に生魚は入れんといてくださいね。やりたいんなら自分でぬかどこ作ってください。入れたらホワイトボードに日付と何入れたか書いといてください」と忖度しつつ使用許可を与えると、同期からのブーイングに対して勝ち誇った表情の先輩方がそこにはいた。

 

 そんな感じで、ぬかどこは任務帰りの先輩方のオアシスとなっていったのだ。なんなら最近高専所属の補助監督もぬかどこをいじってる。

 この時の私は知らないが、東京校のぬかどこは京都校の教師になった歌姫先輩経由で京都校まで伝わり、高専の伝統として崇められ、ついには漬物作成専用部屋が増築されることになる。

 

「おー、坊ちゃんかぼちゃですか。任務先でもらってきたんです?」

「そうそう!最近、清与ちゃんのおかげで普通の食材が市場に売りに出されるようになったでしょ?補助金とかのおかげで生活が楽になったし、呪霊も祓ってくれた私にお礼にってタダで貰ったのよ!」

「それは、それは。よかったですね、えぇ」

 

 本当に、よかったとも。

 メシマズの領域からまだ脱せてはいないが、世界は少しずつ変わりはじめている。完全な変革までは何十年とかかるだろうが、それでも、「おいしいはいいことだ」と考える人が出てきた。

 今はまだ日本国内のみではあるし、そう考えてくれる人々も少数派だが……これが次第にいろんな場所で芽生えてくれれば何よりだ、と思っている。

 

 手のひらサイズのカボチャを半分に割り、中の種とワタをスプーンでくり抜く先輩を横目に、炊飯の準備をする。ストックで済ませても構わないが、最近は食事を摂る人が増えてきたから、その都度大量に作らざるを得ないのだ。

 主菜には、悟が大量に家から仕送りしてもらった鮎を、通常サイズのオーブンでじわじわふっくらと焼き上げる。副菜にはぬかどこから取り出したぬかづけを頂くとして、ついでに適当に卵スープでも作っておこう。

 

 作り置きの濃いコンソメスープを鍋に入れて、そこにちぎったレタスを入れてグラグラになるまで放置する。

 グラグラになったら、火を止めてから軽く溶いた卵を回し入れて、塩と魚醤で軽く味を整えてやればいいだろう。

 そこにごま油をサッと回し入れておけば、硝子が喜ぶ。

 

 そうして朝ごはんを手早く作り、配膳していく。

 仕事終わりの補助監督と任務終わりの先輩もそこに加わって、同期トリオも共に朝ごはんに起きてきた。

 ここ最近ずっと、この三人はしっかり欠かさず食事を食べる為に早起きをしている。いいことだ。

 

 テレビで流れている、寒天状に固められたディストピア飯の特集にちょっとだけ殺意とむかつきを覚えながら鮎を箸でつかみ、頭から丸かじり。

 身をほぐして上品に骨をどかして食べていた悟に二度見されたが、鮎なんぞ頭からバリバリ食えるし、なんなら内骨まで丸齧りできる。

 

「そうだ、ねぇ一年達。今度の交流会、アンタたちも参加になってるから。このままだと人数が足りないから、手伝いなさい」

「……交流会?」

 

 おかわりのご飯をよそってきた傑が聞き返す。そういや原作でもなんかあったなぁ交流会。

 今年は京都校まで行かないといけない、と聞いていたがこれはもしやと思い悟をチラリとみる。

 

 オクラのぬか漬けをかじり、米を頬張っていた悟は口の中のものを飲み込んでから、実に汚らしい呻き声をあげた。

 メシ食ってんだからちったぁ配慮しないかな。いや普段の所作はすごく配慮に満ち溢れてて綺麗なんだけども。

 

「ウゲェ〜!今年の交流会って京都でやるんだろ?実家から呼び出されそうでスゲ〜嫌〜!!」

「こら悟、足を伸ばさない。清与がものすごい顔で君のことを見てるよ」

「……おう」

 

 やっぱ嘘だわ配慮なんてこいつがするわけないだろすっとこどっこい。邪魔だよそのロングロングアロング足。

 いやでも素直に足縮こませたし配慮はするようになってはいる……のか?それとも同期だからか?これもうわかんねぇな。

 

「……たしか、京都校の生徒と二日間戦って結果を競い合う〜、みたいなのやるんでしたっけ」

「そうそう。今年はそれを京都校でやるのよ。

 ただ、京都校は土地的にも術師家系がワサっと入学してくるんだけど、東京はそういうの中々無いからさぁ。

 どうしてもこっちが人数不足になりがちって訳。だから、そこでアンタらの出番よ」

「勝手に先輩たちで行って勝手に負けてればいいじゃん」「このやろう」

 

 硝子がミニトマトのぬかづけを箸でコロコロと転がしながら言うと、歌姫はそれを補足するように説明する。

 ごめんこの世界の人箸は地味に不慣れだから表面ツルツルで滑るミニトマトは掴みにくいよね。せめて半分に切っとけばよかった。

 

 やる気を出さない悟の姿を見て、「そうか面倒なのか」と微妙にやる気を無くしはじめた傑を見て、慌てて補助監督さんが付け加えて言葉を発する。

 

「参加者には何やらご褒美がもらえる、と伺っておりますが」

「ご褒美?どんなのなんだい?」

「なんか新しくこの世に出回る調味料じゃって言うとったな」

「それって——」

「みそ、言うたかのう」

「解散」「はー帰ろ帰ろ」「別に清与が持ってるだろうしな……」「あーなんか滋賀あたりのとこが温度調節して時短で作ってみたのあるって聞いたな」

「言っとくけど、強制参加だからね?!」

 

 口の中いっぱいに放り込んだ白米を頬の内側に寄せ、三年生の先輩がみそという単語を出すが「なんだみそかぁ」という反応。

 私がどうせ持ってるしという反応はやめていただきたい、持ってるけどもさぁ。

 でも前世の世界からの取り寄せ品メインだからお前達に振る舞うつもりは当分無いよ。

 

 このガキども、と憤慨する対象に私が含まれているのは遺憾の意。こりゃ後輩らしい顔をしておかねばなとチラリと悟を見れば、「お前歌姫のこと好きだよなぁ」という不貞腐れた顔をしていた。

 

 おさげで巫女服着てわざわざ早起きしてまでぬかどこをいじろうとする先輩、可愛いじゃないか。私は好きだぞ、ぬかどこに「ぬかちゃん」って名前を付けて可愛がってるところとか。

 でも旦那さんとこの粕漬けも、おっかさんに「かっちゃん」って呼ばれてたな……。女性の人ってそういうとこあるのかな……。

 

「来週の火曜日に行って……あぁ、確か二泊三日よ。

 交流会が終わった後に自由時間があって、毎年その時間にあっちの子達とお出かけしたり観光したりしてるのよ」

「それを先に言えばよかったのでは?」「いい酒欲しいし伏見の方行きたいー」「多分悟は実家から呼び出されるだろうけど、付き添ってあげようか?」「エッもしかして俺、実家に友達連れてくる実績を解除できるの?」

「自由時間の方が刺さったかー。魅力の塊じゃよねぇ、気持ちはわかる。

 そこに術師家系特有のはんなり見下しマンがいなければ楽しいからの」

「あ、お皿持っていきますね」

「あっありがとうございます」

 

 補助監督さんが、食べ終わった皿を自分の分と一緒にまとめて持っていってくれた。一緒に洗ってくれるの助かる……嬉しい……。

 

「んじゃあおにぎり作ってくるか、昼飯用のやつ」

「私も作る。あれ出してほしいな、からあげ」

「俺梅の気分だから梅出せよ梅。モチはちみつ使ってる甘いやつ」

「ぬかづけの中の長芋、まだ残ってたっけ」

「アンタたち昼飯まで自分で作ってたの?」

 

 任務が挟まってしまう時は流石に胃に優しくて栄養だけが詰まった、この世界の市販の栄養飯で済ませる事もあるが、基本的に昼は朝の時点で作って影に収納して四人で食べていることが多い。

 とはいえ全員個性が強いので、何を食べたいかがバラバラになって喧嘩になることも多いが。

 これ以上騒ぐなら鶏胸肉とブロッコリーに米だけのお腹が寂しくなるボディビルダー飯食わせるぞ。

 

「米は……あぁよかった割と残ってら。何?唐揚げとはちみつ梅干しと長芋のぬか漬けだっけ?

 ぬか漬けは自分で出して切ってよ、具材は用意しとくから握っといてくれ」

「唐揚げはナマズの唐揚げの気分かな」

「は?おにぎりの唐揚げつったら鶏もも肉だろ逆張りか?」

「表出ようか悟」「一人で行ってろ」「あ、そう……今日は市販品でいいんだね……」「うそうそうそ」「ごめんて」

 

 今日はおにぎりとなったが、まぁこの同期おにぎりにも個性が出る。

 美しい三角形のおむすびに塩漬けしたシソなどの葉物を海苔代わりに巻く悟、爆弾おにぎりを米が硬くなるまで圧縮するように握り、表面を海苔まみれにする傑。

 硝子はおにぎりの表面にはごま塩派閥で、ふわっふわの一番力加減がわかっているおにぎりを量産する。私はおにぎりの表面には塩と海苔派閥。

 

 唐揚げは、ちょうどうずらの卵の唐揚げが在庫が多かったのでそれを出してやる。唐揚げというリクエストには応じたので中身は応じるつもりはあまりありません。というかナマズの唐揚げ今在庫切れだし。

 

 硝子が薄くスライスした長芋を「ほどほどの酸味があってうまし」とつまみ食いしながらサイコロ状にカットする。

 こうすれば、食べた時にごろごろとした長芋が口の中でサクサクいい音を立ててくれるのだ。

 

 悟は自分好みの小ぶりなはちみつ梅入りの壺を冷暗所から取り出すと、種を出してほぐし、種をしゃぶりはじめた。

 しばらく放置するとガリガリ殻を割って種の中身まで食い尽くす。

 

「あー……このまろやかな酸味にはちみつの甘さ。梅のあっさりした香りの中に花の香りが混ざり込んですごくフルーティ。

 うちに梅園あるし、来年になったら梅漬けて欲しいわほんと」

「うずらの卵……これはこれで美味しいやつだね。食べたらおにぎりの中でプリップリの卵が出てくるのかぁ」

 

 先ほど朝食を摂ったにも関わらず、もぐもぐとつまみ食いを続行する三人。

 少ないのかなって増やしてるんだけど普通につまみ食いやめないんだよな。別腹扱いになってるのか?

 

「ツナマヨ入れよ、ツナマヨ」

「えっツナマヨ?!待って俺も欲しいから握っといてよ!」「私も欲しい」「私もー」「自分で握ればいいじゃんかよ……」

 

 そう言いながらも、三人の分までツナマヨおにぎりを握る。少し冷めた米を火傷しないように濡らした手に乗せて、ツナマヨをスプーンでそっと掬い入れる。

 そして、ツナマヨを隠すように米をもう一度載せてから、両手で形を整えるように握る。

 ある程度圧をかけたら、手のひらに塩を全体的にふりかけてから、それをおにぎりの形を整えつつ満遍なく行き渡らせる。

 

 今日の塩はゆで卵用の旨みに満ちた岩塩を流用した。

 

 ぎゅむっと整えたそこに海苔を巻いてから、ラップにくるんで影へと落とした。とぷん、と影は大小の異なるおにぎりを飲み込んでいく。

 そのうち、三個のおにぎりを呪札へと載せて、悟が「闇より出てて、闇夜の月へ この饌を届けたまえ」と唱えれば、ふっ、とラップに包まれたおにぎりは消えていく。

 

「私の二個目作ったの誰?」

「今日は俺が作った」

「悟ね了解」

「夏油のおにぎり、お腹いっぱいになるから困るんだよなぁ」

「そう?このぐらいがちょうど良くない?」

 

 おにぎりを握り終えてから、手を洗って炊飯に使った鍋も丁寧に洗ってから布巾で水気を取る。

 ぬか床から出したきゅうりのぬか漬け二本は、後で半分ずつにしてみんなで食べよう。

 

 制服の上着を着て、四人揃って寮の出口へと向かい、靴を履き替える。行ってきます、と誰かにかける意味もなく発した言葉を聞き届けた天元は、青い春を過ごす子ども達へそっと、「いってらっしゃい」と届かない言葉を返して、まだ温かなおにぎりを手に取る。

 男らしい黒々とした爆弾おにぎりを一口食べると、中にたくさん詰め込まれたうずらの卵の唐揚げが、口内で弾けて広がった。




ぬか漬け、漬かってるかのタイミング測るのが大変なんですよね。坊ちゃんかぼちゃのぬか漬けをちょうど昨晩漬けましたが、明日の朝引き上げればちょうど良くなるだろうか。

そろそろ執筆が不定期更新になりそうな予感がしています。更新するにしても、更新時間は私が食欲に負けそうなタイミングになるかも。まぁしばらくの間は食欲と戦いながらダイエットしてるので、更新頻度は高いかもしれません。きっとね。
今までも単発で軽く浅く読めるものを書き連ねていますが、「まぁこいつは気が向いたら書くだろ」程度の精神で続きをお待ちいただけたら幸いです。
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