【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm 作:青川トーン
墓守のハレル
この短時間で俺は随分と恵まれた環境で生きて来た事を、何度も思い知らされた。
太陽を遮る薄汚れた分厚い雲、汚染され荒廃した氷雪の大地……。
俺はそんな世界に着の身着のまま放り出されて、しばらく彷徨い歩く事となり、力尽きる寸前の所を通りがかりの輸送車に拾われ、命を救われる事となった。
けれど今また、その命を失いかけている。
血を流しながら倒れ込む俺の前で少女が怪物と戦っている。
彼女の頭の上に浮かぶ光輪と光の翼はまさに天使と呼ぶにふさわしく、これまた光の大鎌で巨大な蛇の様な怪物をズタズタにしていく姿はまるで昔見たヒーロー番組か何かの様で、もう少し長生きできたなら彼女の活躍をもっと沢山見れたかもしれないと思うと残念だなとは思う……まるで他人事みたいに。
遠く、荒れ果てた世界で何もできないまま死んでいく。
「起きなさ……起きてください異邦人」
暗闇の中、光が差した様に意識が戻って来る。
まるで死の淵から吊り上げられた様で、いや間違いなく俺は死んでいた筈。
「私達の手違いで、あなたを死なせてしまうところでした」
その声は俺の内側から響くようで、まるで一体となったように申し訳なさと焦りが伝わってくる。
「なので私が一体化する事でなんとか生かす事に成功しました。ぶっつけ本番でしたが無事成功してよかったです」
何がなのでなのだろうか……それに一体化、とても聞き捨てならない言葉だった。ならばお前はどうなる?ずっとこのままなのか?おまけの当然のように俺の思考も読んでるよね。
「心を読むのはまぁそうですね、便利です。一体化についてもご心配なく、まあ私の超すごい能力で3ヵ月ぐらいしたら安全に分離してお互い何事もなかったかのようにできる筈ですよ、なんか混ざりすぎてえらいことになるのもないでしょう、多分」
多分かあ……まあいいや、考えても俺にはわからんことだ。
「それで……お前の名前は」
今度はしっかりと俺の声が聞こえる、どうやら本当に生きているらしく視界が戻って来た……目の前にはトレーラー、そして怪物の残骸が転がる雪の大地。
「私の名前はハレル、ナユタ・ハレル。ナユタの巫女であり、墓所を守る者の一人ですよ。ナユタ・シルス」
シルス?それは俺の名か?
「そうです、私と一体となった以上あなたにも力が宿っている状態、つまりはナユタの神官なのです。シルスというのは神官としての名であり……まあ本来は色々めんどくさい修行や儀式で与えられる名前なんですが……例外的処置で私が今いい感じに考えました」
異世界とはいえナユタに巫女にと知らない用語がどんどん出てくるな。
それにシルス……記す・印す・標すという意味か?まあ確かにこの世界での名前はないが俺には元々の名前が………。
……声に出ないんだけど。
「すみません、こうセキュリティ的な都合で本名出ない様になるんですよね」
「……はぁ、まあいいよ……この世界での俺の名前はシルスでいいんだよね?」
「ああ、ちなみに私と一体化して力が宿ってると言っても、別に使いこなせるわけでもないので……何かあった時は……まあ私に体の主導権を渡してください、悪い様にはしないので」
悪い様には、ね……既にかなり悪い状況だとは思うんだけれど、それで。
「これからどうするんだ?」
「私達の職場からの迎えを待ちます、当然ながら休むわけにもいかないのであなたにも働いて貰います」
異世界に来て、死んで、生き返って、名前を勝手につけられて、今度は仕事を押し付けられるのか。
随分と滅茶苦茶が押し寄せてくるのにまあ、なんだか。
少しばかり心が躍って来たのは、多分気のせい、気のせいだ。
「シルスも年頃の子供ですし、そういう冒険とか好きですよね?」
「お前もそう歳変わらないだろ、何歳なんだよ」
「15ですが?」
「俺より年上かよ……14だよ……」
まあ、異世界だもんなぁ。常識とかどうなってんだろう、こいつがおかしいだけならいいんだけれど……。
壊されたトレーラーは自動運転らしく、乗員は俺とハレルだけだったから巻き添えを食らったのは俺だけで済んだ……のはよかったのか悪かったのか、他にもハレルみたいに戦える奴が居たらそもそも俺は死にかけてなかったのでは?と浮かんだが仕方ない。
しばらくして中々到着しない事に気づいて迎えに来たトレーラーもまた自動運転、既に事が終わってる事をわかっていたかのように機械人形達が荷台から降りて来て怪物の死体とトレーラーの残骸の片づけをはじめ、一人の女が俺の前にやってきた。
背は高く、目はまるで夜の闇の様に真っ黒で怖い、おまけになんかマジシャンみたいな格好をしてる、不審者だ。
「確かに格好は不審者ですけど私の姉さんです」
「少年趣味に目覚めたのかな?ハレル?」
「いえ……事故で死なせそうになったので応急処置ですよ」
そういえば当たり前の様に俺の口で喋ってるなこいつ、と今更気づいた。これじゃ俺がまるで二重人格者みたいじゃん。
「それでかわいい妹と一つになった君はなんだい?」
「シルスと申します、その勝手に名付けられて元の名前が名乗れなくなりました異世界人です」
「ハハッおもしろ……気に入ったからちゃんとシルスと呼んであげるよ、それじゃ君の新しい職場へと案内してやろうじゃないか」
見た目は変だけど、悪い人じゃなさそうだな。
「見る目はありますね、確かに姉さんはいい人です。みんな悪い人と勘違いしてるんですよ」
「ところで当然の権利の様に俺の口から違う声出すのやめてくれない?怖いんだけれど」
「あなたの脳に直接語り掛ける事もできますが、それやるとあなたが一人で喋ってるみたいになりますよ」
「なんかこう幻とか出したりできないのかよ」
「考えておきましょう、さて……行きましょうか。私たちの職場……【墓所】へ」
代り映えのしない灰と白の景色の先、その場所はあった。
まるで古代遺跡だとかそういう佇まいの石造りの建造物群……それこそまさに墓場だとかに例えられてもおかしくない。
だがここまで来るにあたって少し見慣れた物がいくつか、雪の中に埋もれていた、それはまさしく日本語で書かれた看板。
「ところでここは……そのもしかして日本なのか?」
「ええ、かつてここは日本と呼ばれた国でしたよ」
「……もしかして未来の」
「安心してください、別世界からの客人はよくある事ですが過去から飛ばされて来た人は今の所見た事ありませんから」
よくあるのか別世界からの客人、だがずっとこの世界に居る訳にも行かんだろう。俺にも心配してくれる人は居る、家族がいるし、友達だっている。時間の流れも同じとは限らない、帰ったら浦島太郎になっていたも御免だ。
「それでその客人は帰れるのか?」
「自力でお引き取り願う事の方が多いので、まあ……無くはないでしょうがちょっと私は専門外ですね。他の術使いの方とか、テクノロジー系の方を頼る必要はありますね」
不可ではない、けれど簡単ですぐに、とはいかないか。
となると生活していかなければならない、幸い……仕事?らしきものと居場所は提供してくれる事は確約されている……後はさっき聞いた様に3ヵ月程経ってハレルと分離できるようになってから……それから……か。
「帰れるかなぁ……」
「我々ナユタにはこういう言葉があります『まあ、なんとかなるだろ』」
「そう、そのナユタって何だよ……苗字じゃなくて組織って言ってたよな、神官とか巫女とも言ってたし何かの宗教か?神様とかも居るのか?」
「まあ神……というのはこの世界にはいますよ、そして我々ナユタはその神から分け与えられた力で作った『人造神格』を宿し、行使する魔術師組織。まあ働きながら覚えていく事になるので今はこれだけ言っておけばいいでしょう」
人造の神の力を宿す者、なんだか響きとしてはすごい……罰当たりな感じだが分け与えられたのが本当なら合意の上か?
「なんかルールを破ったら天罰があったりしない?」
「大丈夫ですよ、人造神格に意志はありません。ですがナユタは長い歴史の中で結構恨みを買ったり敵を作ってるので滅茶苦茶呪われたりはしてますが」
「そっちの方が……問題だな、もしかして名前名乗れないのも」
「そうですね~なんだかそういう呪いとかの対象にならない様にする対策もあったりしますね」
怖え~……呪いあんのかよ……まあ魔術とか神とかあるんだからあるだろうけれどさぁ……。
「さあ到着しましたよシルス、そしてあの人が」
墓には管理者が居る、でなければ荒れ放題になってしまう。
俺が目にしたのは全身を白装束で包み、顔の見えない黒の仮面で覆った存在。
言うまでもなく、彼か彼女かはわからないけれど「管理者」である事が一目でわかった。
それぐらい、穏やかで静かで……安らぎの気配に満ちていた。
「我々、ナユタが管理する遺物保管施設「墓所」における管理人さんです。色々あって声は出ませんし、顔どころか体すら見せられませんが……いい人ですよ」
「ナユタ・シルス、です。これからしばらくお世話になります」
無音で頭を下げたその人に対して俺は挨拶で返す、この世界に来て早々色々あったけれど……きっとここは悪い場所ではない、そう俺は思った。
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