【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm 作:青川トーン
「これを見て頂戴」
いつもの休憩室には大型モニターが置かれていて、そこには地図と簡易化されたアイコンが映っている。
中心となるのはこの墓所であり、赤い点にはMCMSと表示されていた。
「そこのポンコツの能力をつかって管理人が即興で防衛ネットワークシステムを作ってくれたの、結構な量の資源を消費する事にはなったけれど……ドローンと中継ドローンを使った探査網よ。おかげで敵の動きがわかったわ。数時間後には衝突する予想だけれど、これまでで最大規模の戦力よ。ご丁寧に私とエレミスの能力を警戒して魔法少女無人機もだけれどおそらくスタンドアロン、ネットワークの繋がっていない独立機体の無人戦車や自爆ドローン、特攻兵器も確認されているわ」
カメラによって撮影されたMCMSの部隊はこれまでにない程の数が居て、人間の姿の無い軍隊と呼んでも過言ではなかった。
「どんなに強い力を持っていても、消耗させつづければいつかは折れるという発想ね。それで……こちらも何もなしで迎え撃つ訳じゃないわ。こうなる事を予想してこちら側にも用意はあるわ、まずはハレル……あなたにはまず敵陣にカチ込んで損害を与えてきてもらうわ。その為の装備も容易してある」
画面に新たに表示されるのは……巨大なブースターだ、そこにミサイルやら色々乗せた片道の高速切符。
「敵陣を突っ切りながら撃ちまくって、その後反転して帰還。足並みを乱してきて頂戴」
「わかりました、姉さん」
「その次はまあいつも通りの防衛戦なんだけれど、今回は新しい戦力が加わったわ。それがこれ」
次に現れたのは人型の機体、いつも作業に使ってる機械人形と違って少女の姿をしている。つまりこれは魔法少女無人機だ。
『はじめまして、私はシステム・ナイン。これよりあなたがたのサポートを行います』
「鹵獲したMCMSアマルガムを解析して作った機体と、管理人と私が組んだサポートAI『ナイン』によって遠隔操作する魔法少女無人機群よ、初めてだからどの程度やれるか……少し心配だけれど。それでもアマルガムを1対1で抑えれるぐらいにはやれる筈。後は武装次第ね、これが30機完成しているわ」
ずらっと並ぶシステム・ナインの端末機体達、あくまで短距離ネットワークで動かしている為に墓所から離れる事はできないが……機体全てに意思を乗せるのではなく一つの意思が全ての機体を動かす。それ故に人造神格からのエネルギー供給が追い付かず、使えるレベルで同時運用できるのが30機が限界だった。これは今後の改善点であった。
「メリエラ、レキ。あなた達には遊撃をお願いするわ、適宜脅威となる存在を排除していって頂戴。それでハレルは戻ってきたら補給後に迎撃に参加してもらうわ……そして私は管理人と一緒に最終ラインからあなた達を援護するわ。多少撃ち漏らしてもどうにでもなるから、そこは気負わなくて大丈夫よ」
アカネはやさしい笑みを向ける、とはいえここまで準備するのは殆どがアカネと管理人がやった事……レキもメリエラも彼女の負担が楽になる様にやれるだけやることを心に決めた、そしてシルスとハレルも。
「エレミス、あなたは別に参加しなくていいわ。もう防衛ネットワークの構築という仕事をしてくれたのだから」
「いや私も遊撃に参加しよう、少なくとも知り合いが居るし何よりナユタとの繋がりは教団にとってもいずれ必要となる事だ……恩を売っておくのもわるくないだろう」
「おいまじない師、絶対途中で裏切ったりするなよ貴様」
「レキ、私はいままで君を裏切った事はないだろう」
果たして信用していいのか、ちょっと不安な戦力がさらに一人。不確定要素はまだまだある、フールだ。奴が手を出してこない筈がない、だが一体何を投入してくるのか、どんな手を打ってくるのか誰も想像できない。カメラにも映っておらず生体センサーにも引っかかっていない以上。この進軍の中にはまぎれていないのだろう。
「私達の目的は生き残る事、そしてここを守る事……死んでしまえば意味はないわ、だから無理はしないで、私や管理人もそれなりに力を持っているのだから、消耗したらすぐに後退しなさい。以上」
大型ブースター、どうみても人間が装備するには向いてないそれはかつてロボット兵器やらなんやらに使用されていたものの設計を流用したらしい。大きな違いはサイズと……魔力タンクを使って魔術で飛ぶ事。ハッキリ言ってバカげた運用方法だと思う。
「大丈夫なのかよこれ、被弾したら危ないんじゃない?」
「その為のシールドですよ、まあ大丈夫ですよ。どっちかというと気にすべき事は積み込んだ弾薬をいかに敵に叩き込むか、それだけを考えてください」
「了解、後は……」
相手の部隊に人間はいないどれも機械だけ。だから今回は気楽だ、なんだかんだ人間というのは脆くてMCMSからすると信用ならないんだろう。おかげ様で思う増分暴れられるんだから。
即席で作られた発射台に立ち、胴体につけた固定具とブースターを接続。視界投影型のモニタが無事に制御に成功したと表示して内容物やら最大速度やらのこまごまとした数値を表示してくるが構わない。
「さあ、いくぞ」
『了解。ブースター点火後3秒で固定具を解除します』
システム・ナインのアナウンスを聞くと体を宙に浮かせながら、両手に装備したグレネードランチャーを取り落とさない様にしっかりと握る。
ブースターに火が点いた、もう止まる事はできない。
ドウと凄まじい圧と共に景色が一気に押し寄せてくる、なるほどこんなバカな作戦……敵も予想だにしないだろうな。増設したセンサーのおかげでいつもよりも遠くまで見えるがそれでも敵までの距離はそれなりにある。
そしてようやく見えて来た頃には敵も察知したのだろう、砲撃が飛んでくるようになったが……遅い、あまりにも遅くて簡単にかわせてしまう。いくらレールガンでも手持ちサイズじゃここまで飛んでくるまでに減衰もひどくもはやシールドを傷つける事すらない。せいぜいロケットぐらいが脅威だがそれも単調な弾道だからちょっと上下左右前に移動すれば回避できる。
そして射線が開けたその瞬間、お返しとばかりにロケットを輸送車両や戦車、そして迎撃の為に上がってきたアマルガムに雨あられと浴びせて、空になったコンテナを排除。そのまま加速して突き抜けていく。敵部隊は3つにわかれて行動していた為にこれで全部というわけではない。ジャミング機能のついた煙幕で追ってくるアマルガムを足止めしながら第二波、これは迫撃砲やミサイル車両だ。念入りに叩き潰すべく選択するのは両肩に装備した二門の大型プラズマキャノン。フルチャージで撃ちこめば青白い光弾が降り注ぎ大爆発、誘爆によって第二波はほぼ壊滅した。そして第三波、プラズマキャノンはフルチャージで撃ったから冷却中だが複数のアマルガムが既に展開していた。
選択するのは両手のグレネードランチャー、こんなに敵がいるならば狙いはつける必要などない。正面に煙幕を撃ちこんでからトリガーを引く、一撃で落とせなくてもいい。ダメージにさえなればなんでもいいのだ。飛んできた弾丸で左手に持っていた一丁は撃ち切る前に壊されてしまったが右手に持っていたのは最後の一発まで撃ち切りその場に投棄して突き抜ける様に直進して離脱……と同時に冷却とチャージの終わったプラズマキャノンを後ろ向きに発射して置き土産としていく。
何機落とせたかはわからないが、相手はたまったものではないだろう。そして予定した反転地点に到着しブースターの勢いを落しながら方向転換、しようとした時に光線がタンクを貫いた。
即座に強制排除して爆発から逃れるとそこには魔法少女が居た、確かアイツはドッペル……前にも戦った奴だ、エレミスとは違って命は感じないから……完全に意識はプログラムなんだろう。今更だけれど……完全に人ではなくなっているんだな。
「とんでもない奴だ、お前が与えた損害だけで一体どれだけの金額になるか」
「悪いがこっちは替えの効かないモノを山程背負っているんだ。アンタは落とさせて貰う」
「前は後れを取ったが……今度はそうはいかん」
ブースターを落されたせいで残っている武器はチャージ式のライフルとショットガンだけ。即座に距離を詰めながらショットガンで動きを牽制、狙いは相手の武器を壊す事。それだけなら直撃でなくていいからだ、しかし向こうも早い。こちらが腕を動かして銃口を向けると同時に既に動いている。
完全に動きを先読みされてしまっている。
「悪いな、こういうのは機械の体の方が正確なんだ」
前に戦った時とは全然違う、おそらく機体自体の性能もあるだろうし……なにより一度やったせいで動きのデータとかが取られてるんだろう。即座にショットガンを盾にするとレーザーライフルがそれ焼いてしまって使い物にならなくした。こっちの武器の方が先に減ってしまった。
まずいな、このままだとこっちが足止めされる……けど策はある。使い物にならなくなったショットガンを「再錬成」しブレードにする。通常のモノよりは劣るだろうけれど十分だ、おかげで一瞬なにかとドッペルが足を止めた所にそいつを投げつけ……る際にさらに再錬成、今度は手裏剣だ。
見事な曲線を描きながら突っ込んでくる飛来物が何なのか、多分わかってないんだろうとりあえずで横に回避するがその間にこっちのライフルはチャージを済ませていて、弾丸が放たれて頭部をぶち抜いた。
「なるほど、わからん殺しという奴ですね」
「そうだ、手裏剣なんて使う魔法少女なんてこの世界に居ても少数だろうし。一瞬前はブレードだったんだから」
「一度通じれば十分ですが故ですね」
炎を上げて爆発する機体を見下ろして即座に墓所へ向かって俺達は飛び立つ。既にネットワークからメリエラとレキが第一波と交戦しているとの事だ。急いで加勢に向かう。
「そこを退け!ガラクタ共が!」
時々突っ込んでくる自爆ドローンをタレットが撃ち落とし、システム・ナインのエンジェルモデル躯体が三機がかりでアマルガムをブレードで突き刺して撃破する。その横をレキが飛び出して大型無人歩行戦車を叩き潰す。遠くから支援砲撃を行っていた戦車が沈黙するとそこにはエレミスが居て周囲の護衛諸共に電子回路を破壊していた。
「無駄だ、我々をその装備で倒す事は不能だ。そこを退け」
そしてメリエラは正面から来る陸戦装備の重武装アマルガム部隊と対峙していた。軽装の通常型と違って鈍重でこそあれど、耐久性とパワーは桁違いだ。レールガンのよる射撃もタワーシールドにより防がれ、有効打となる攻撃はなく、逆に重プラズマキャノンの一撃は並の魔法少女なら容易く吹き飛ばす威力を秘めている……絶体絶命、というのも一人ならばという話だ。
「私の装備では、ね」
ズズと大地が動き巨大な砲台がせり上がる、さらに巨大なプラズマレーザー砲が姿を現して重装アマルガム部隊をまとめて一掃する。管理人だ、普通に出せば回避されるような防衛兵器もメリエラが気を引いてくれていたおかげでうまく当てる事ができた。
「ありがとう管理人、でもこの数は」
しかしこれでもまだ、まだ戦力差は圧倒的だ。最低でも50機近い様々な装備のアマルガム、旧式とはいえ頑強な無人兵器群、そして無数の自爆ドローンが今なお飛来しつづけており。ハレル達が殆ど吹き飛ばしたとは言え第二波の残りとそれなりに無事であった第三波が控えている。
遮蔽物越しのアマルガム砲撃型による迫撃・支援砲撃により大型プラズマレーザー砲は瞬く間に撃破されてしまい、ドローンを掃討していた砲台も破壊されていく。そうなるとシステム・ナインの端末群に向かってドローンが殺到、次々と道連れを求めて爆発し、瞬く間に30機いた内の12機が落とされていた。
『レキ、できれば急ぎで砲撃してきてる連中を黙らせてきて頂戴。メリエラも行って!ここは私が引き受けるわ』
防衛設備への攻撃を優先して止めるべく行動開始した二人、アカネもまた戦線に参加して術を使う。
困った事に完全に対策されてる様で起動状態のアマルガムに施されたバリアコーティングが血の汚染を防いでいる……がそれは「動けている」連中だけだ。既に撃破されて沈黙しているモノを再起動させて再錬成、最低限度の動く「ゾンビマシーン」を作り出し、破壊された設備の修復素材とする。
悍ましい形状になってしまったが動く事は動く、そんな状態になったプラズマレーザー砲が起動してアマルガム達を焼き払っていく。そしてその残骸をさらに素材として自爆ドローンからの盾として飛ばしてナイン端末を守る。
「さすがにナマモノでなければ、そこまで消耗しないけれど……相手も本気ね、この物量は」
『ナユタ・アカネ、まずい事になった。偶然電波をキャッチしたが、空から何か巨大なモノがこちらへ向かってきている』
その時エレミスからの通信によってデータが送られてくる。それは7メートル程度の人型の機械らしきモノ、それがブースターによって凄まじい勢いでこちらに向かってきていた。即座に対空砲でそれを迎撃しようとする……がそれらはアマルガムによって破壊されてしまい失敗。
大地が大きく揺れ、周囲に汚染された塵が舞い始める。
装甲で覆われたその巨体の中にはハーミットが「パーツ」として乗っていた、しかし自我は既に破壊され尽くし……完全に性能上昇の為の部品へと変えられていた。
MCMS-ギガンテスが墓所を蹂躙すべく、強襲する。
ドッペルを退けたハレル達は第三波部隊と交戦していた、思っていたよりも数がいるが為に強硬突破とはいかなかったのだ。何よりもブースターを破壊されてしまったのが大きな痛手であった。
チャージライフルでバンと一機ずつ、丁寧に葬っては廃墟のビルを遮蔽物にして身を隠し、集中砲火を回避。追ってくる者がいればそれをグリムリーパーの刃で刈り取り、壊れた窓を通り、反対側へと飛び出してシールド手裏剣を投げつけてまとめて3体の首を飛ばす。
「どっちにしろ全滅させる必要があるとはいえ……!二人では多いな!」
「それだけ本気なのでしょう、減らしたとはいえ墓所の方も心配です。急ぎましょう」
倒れたアマルガムから武器を奪い取り、セキュリティをこじ開けて使用可能にして狙撃タイプのライフルを撃ち抜き無力化、ハレルを見失った狙撃型は場所を変えようとしたが体が動かず、首だけ転げ落ちた。その後ろにはハレルが立っていた。
「これで後何割だ」
「3割です、もう少し……もう少し頑張りましょう」
ドッペルとの想定外の戦闘で少し負担がかかっている、がまだ休むわけにはいかない。ズバスパと次々とグリムリーパーで両断してアマルガムを減らしていくと車両方向から強力な熱源を感じてハレルは即座に身をよじり殺到した光線を回避、すこし裾を焦がされたが無傷だ。
そこにいたのは他のアマルガムの機体とは違い金色に染まった機体。
「役に立たないのう、所詮は廉価版……制式型の力をみせてやろうか」
ボウと周囲に火の手が上がる、それはアマルガムの放った妖術だ。
「シルス、こいつは他のザコとは違いますよ」
「わかってる、いかにもボスってやつだな」
炎がまるで蛇の様にうねり、ハレルに襲い掛かる。即座に上空に回避するが、そうすれば遮蔽物がないのをいい事に残った通常のアマルガム達が一斉に射撃してくる。ビルの周囲をグルグルと回りながら炎、弾丸、ときおり近接戦闘を仕掛けてくる機体をそれぞれいなしながらハレルとシルスは考える。
「……もう食っちまうかこいつら……」
「……正気ですか」
「いまさらだろ!ルスフィオンも食ったんだから!」
覚悟を決めて、金色のアマルガムに向けて突撃。妖術の炎を体に受け止めながらシルスとハレルは同化能力を使う、妖術の炎を吸い寄せ、周囲の瓦礫も溶かし、アマルガム達が放つ弾丸も纏めて吸収していく。
「何……何じゃ!?」
「お前の力を!貰う!」
ガンと金色のアマルガムを掴み、その力を、機体をハレルが食らう。援護すべく、あるいはそれを隙と判断した機体達が一斉に接近してブレードをハレルの体に突き刺した。
「お前達の全てを!」
だが止まる事はない、炎が光となり、周囲のモノ全てを吸い寄せ……同化した。
炎の様な髪色に巫女服の様な衣装、そして6本の狐の尻尾と頭部の狐耳。
ハレルとシルスは同化した力を発揮する為の形態へと変化した。
【Angel model Azrael-Blaze Tail】
生き残ったアマルガム達は一体何が起こったのか、と呆気に取られて足を止める。
そこへピシと人型に切り取られた紙の札が貼りつき……一斉に爆発する。運よく生き残った機体も居たがそれらもすぐに消え去る事となる。先程までハレル達を苦しめていた炎が今度はアマルガム達を呑み込み、焼き尽くしていく。
「なるほど、こんな事もできるんですね。これは便利ですね」
「ああ、有効に使わせて貰おう!」
ハレルはぼうっと炎の輪を背負い飛び上がり、流れ星の様に空を駆ける。
「くっ!こんなものまで投入してくるなんて!」
墓所では一方的な破壊が行われていた。ギガンテスの7メートルの巨体が跳ねまわり動き回れば防衛砲台は簡単に蹂躙され、アカネが術を使おうとしても特殊な防壁がそれを拒む。そしてメリエラが放つレールガンも同じ様に重力制御システムで減衰してまともなダメージにならない。
そして逆にギガンテスの手に備わった実体弾のキャノン砲は着弾と共に凄まじい爆風を起こし、飛び散った破片がバリアコーティングを大きく削る程の威力を持つ。近接戦闘を挑むレキであったが、いくら鬼であっても無謀であった。まず高濃度の汚染がバリアを侵食し、そして巨体に見合わぬ運動性と機動性で簡単に回避されてしまい。運よく取りついたとしても放電により離脱せざるを得ないダメージを負わされる。
「効かない……!それに!」
「なんという厄介な敵だ!」
サイズの差というのは厄介だ、純粋に同じ土俵に立つというのが困難になる。普段同じ魔法少女同士あるいは同スケールの敵を相手にし、大きくても戦車などぐらい……こうも機敏に動き巨大な敵というのは相手にする機会が非常に少ない。
攻めあぐねるとはまさにこの事で、加えて時間が経てば経つ程この墓所に汚染が広がり、バリアにダメージを与える程に深刻化していく。
「任せたまえよ!」
そこにようやく支援砲撃をしていたアマルガムなどを壊滅させたエレミスがやってきて不意打ち気味に電撃を放つ、それは機体に命中し、確かにプログラムを破壊した……筈だったが。妙な気配がして4人は離れる。
「再起動……いや、今ので起きたのか」
それぞれが生命探知で見ればギガンテスそのものに生命エネルギーが宿っている事がはっきりわかった。いうなれば……それはもはや機械生命体と呼ぶべき存在であり、パーツであったハーミットは事切れていた。
プログラムの破壊に対策をしていない訳もない、そしてアカネの力にも、巨大な生物をぶつければ効果的なのだと前回の戦いでフールは見抜いていた。機体の内部が変異し人工筋肉が脈打つ。
一個の生命体として完成したギガンテス、そのからくりはナユタの神官の力「造物」の権能だ。機能停止をトリガーに術式を起動して内部に隠していた素材を使って人工生命体を、ホムンクルスを作る……言って見れば簡単ではあるが、実際にはとてもではないが材料も手段も取れる筈のない策が今ここに成った。
だが同時にそれを脅かす者も現れた、呪われた妖術の炎が降り注ぎギガンテスに浴びせられる。それは機体内部の人工筋肉を焼き始め、燃え盛りながらギガンテスは天を見上げる。
そこにはブレイズテイル、アマルガムを吸収して妖狐の力を得たハレルが浮かんでいた。
「調子はどうだい?ドッペル」
「良好……いやこれまでで一番調子がいい、気分もだ」
「そうかい、それで奴はどうだった?」
「ナユタ・ハレルか。この機体であれば問題なく勝てる。もはや脅威ではないだろう」
青白い光を宿し、紺色の髪と白い肌を対比させるその機体は……どこかハレルに似た姿、まさしくドッペルゲンガーというべきモノだ。
「いや何、少しだけ心配だったが……それも解決して安心だ。君がルスフィオンの意志に呑まれて暴走しないか……それだけがね」
「死とは慣れ親しんだ関係と思っている。人を殺すのはいい、生きている事を実感できる」
ドッペルという傭兵はかつて生身の人間であった、その腕を見るだけならば……はっきりといえばもっと良い候補が居たとは言える。だが今、MCMSでデータ化された彼が使われるのはまともな精神状態で運用可能な数少ない存在だからだ。
再生された死人は基本的に正気ではいられない。データから再生したもののぼんやりとしたまままともに動かない者もいれば狂って暴れ出す者も、そして支離滅裂となってしまうものも多い。
だがドッペルは違った、冷静に任務を遂行し、例え撃墜されて自我が断絶しても決してうろたえない。
他にも再生したものはいるが一度こそ成功したものの、二度目、三度目と繰り返すと異常を起こして使い物にならなくなるという事例も報告されている。
何度でも再生し、何度でも死ぬ事を受け入れられるものは……今の所ドッペルにしか出来ていない。
「怪物とは存外君のような存在の事をいうのかもしれないね、さてそろそろ行こうか……」
「ああ、俺は仕事ができればそれでいい」
殺し殺される事を、いつまでも戦い続ける事……ドッペルの歓びはただそれだけだ。
だから雇い主が何者であってもいい、争いさえ望んでいるのならば。
ハレルが戻って来て状況は一変した、妖術の炎は極めて有効で、しつこく纏わりつき、確実に機体の内部を破壊していく。ギガンテスが苦痛に叫ぶがそれでも手を止める事はない。
焼かれて脆くなった部分にメリエラの弾丸が、エレミスの電撃が、レキの打撃が命中し崩壊していく、その度にギガンテスは再生を繰り返し、損壊した場所を補おうとするがそれを止めるのがアカネ、破片を汚染して崩壊させる事で人工筋肉を露出したままにする。
そして完全に装甲を失った右足をハレルのグリムリーパーがズッパリと切断し、ギガンテスは地に倒れて移動不能となる。だがまだ脅威を失ってはいない、ただの腕の一振りが凄まじい破壊力を持ち、大地をえぐり、ますます加速する動力炉が汚染を撒き散らしていく。
だが確実にギガンテスは死へと向かいつつある、それを見下ろしてシルスは心の中で謝罪する。
ごめんな、と。
そしてブレイズテイルの形態からいつものアズライールの姿に戻るとルスフィオンの輝きを腕に宿す。
「おやすみなさい、機械仕掛けの怪物」
ルスフィオン・レイが空から降り注ぎ、ギガンテスの息の根を止める。生命を失った人工筋肉はしぼみただのケーブルへと変化し、皮膚のようなっていた装甲も元のガラクタへと戻っていく。
そしてコクピットの中には塵が積もっていた、ハーミットだったものだ。
果たして彼がどんな野望を持っていて、その野望をどういう経緯で抱く事になったのか、それすらも知れなかったが……もう何もかもは遅い。過ぎてしまった事だ、去って行った人は戻らない。
故にその誰かが居た事を忘れない様に弔うのだ、自分がそれらに引きずられてしまわないように。
周囲の汚染諸共にギガンテスの残骸を、ハーミットの塵をハレルとシルスは同化してエネルギーへ変換する。後に残ったのは無数の兵器の残骸に、滅茶苦茶に破壊された戦場の跡だ。
誰一人欠ける事がなかったのは、誰しもが必死に戦い抜いたからだろう。
イレギュラーこそあれど、互いを信じて、それぞれの出来る最善を成したからの勝利だ。
だがまだ終わってはいない、肝心の黒幕がまだ顔を出していない。
「ハレル、シルス。今のうちに休息をしておきなさい……多分最後にはあなた達が重要になるわ」
「わかった、アカネさん達も無理しないように」
それだけ言うとハレルとシルスは一時の眠りにつく、それほどまでに今回の戦闘は過酷だった、連戦につぐ連戦で、なおかつ強敵ぞろい、そして何よりも敵の数が多かった。二人が減らしてなおこの有様であったのだから……とアカネは残りのメンバーを見る。
ナインの機体は残り4機、メリエラもレキも相応に消耗してる、管理人こそ無傷だが防衛システムはほぼ壊滅。自分も結構削られている……再編するならばそうメリエラとレキに託すか。
「ごめんなさい、私はこれ以上はおそらく戦力として役に立たないかもしれないわ。だからあなた達を優先的に治療する。だからハレルとシルスをお願い」
「任された、友を守るのは当然のことだ」
「私も、任された」
アカネは治療魔術で二人の傷を癒すと管理人の元へ向かう。すると管理人は箱を持ってアカネを待ち受けていた。それはこの墓所で保管されているものの一つだ。
「……使わずに済むに越したことはないわ、管理人。それに切り札は最後まで取っておくべきというものよ」
箱の中には金色の輝きを宿した結晶が一欠片だけ残っていた。