【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm 作:青川トーン
いつからだっただろう、自らが居たあの場所がひどく呪わしく思う様になっていったのは。
「人数は……足らなくともやるしかあるまい。待っているだけの時間はない」
「悪いが我々が死んだらこの記録を、頼む」
当たり前の様に人は死ぬ、どんなに力を持っていても、どんなに正しくとも等しく死ぬ。
そうしてどれだけ犠牲を積み上げて、敵を倒し続けても……戦いは終わらない。
それはナユタが、弱いからだと俺は思った。
有効に利用すればそれこそ敵を簡単に片づけられるであろう武器を出し渋っている、確かに危険な力なのはわかる。だがそれを新たな争いを引き起こしかねないと閉じ込めて、一向に使おうとしない。
違うだろう、今こそそれらを使って何もかも叩き伏せて平和を作るべきだ。
フールは静かにかつてを思い返す。
ナユタ・ハレル、忌々しい存在だ。己を仲間だと認識していたというのに、決して理解も賛同もしてくれなかった……ナユタ・アカネ共々にナユタの呪いを背負った者として信じていたのに。
もう過ぎた話だ、後は終わらせるだけ……この因縁に決着をつけてルスフィオンを手にすれば、己の計画を動かせる、もし仮に敗れたとしても自身が戻らなければMCMSの代表に連絡が行く手筈にはなっている。
既にこの世界の運命を決める為の賽は投げられた。
「ハレル、大丈夫か?」
「それはこっちのセリフです。さすがにこういう連戦は久しぶりですからね」
ぐっと身を起こした、時間を見れば4時間ほどだが……これだけ寝れば回復できる神官のでたらめさを実感する。テーブルの上においてあるリンゴを手にする、おそらく管理人が気を利かせて持って来てくれたんだろう。この荒廃した世界では生の果物はとても貴重なモノだ、それこそ汚染されてない土地を守る為に幾多もの勢力が手を結んで、夥しい程の血を流してでも守って、保管された種や遺伝子情報から再生されたモノを栽培しているそうだ。
たった1箱のリンゴでも贈り物として調達できるという事はその勢力の持つ繋がりや力を示すには十分といえる程で、政治にも使われるのだと。
このリンゴはレキの母が詫びとして持ってきたモノの一つ、鬼の里はまだ自然が生きているが故にそういった余裕があるのだと。
「レキのことはさておき、いつか行って、見てたいな鬼の里なんかも」
「そうですね、感謝を伝えないと」
果物用のナイフで綺麗に割いて、決して少しも無駄にならない様に。そして種とヘタを綺麗に取り出して皿の上に乗せた。よく父が昔の小説だったりなんかの言葉を引用していたな、それでその引用もどこかの引用で……案外探しても元の言葉が一体どこから来ているのかわからないなって笑っていた。
「例え明日世界が終ろうとも、リンゴの木を植える。最初に言ったのが誰かは知らないけれどいい言葉だと思う」
「そうですね、誰かが真似をして繋いでいく……それはミーミーあるいはミームという奴ですね。血の繋がり、遺伝子的な繋がりだけでなくても何かを残していく事は出来る」
甘い、なんだかちょっと泣けてくる。
この当たり前の様なモノがこの世界からは失われているんだって思うと悲しくなってくる。
「もっとも俺の居た世界だとネットミームなんて使われ方ばっかりだったけどな」
「良い事が繋がっていく事もあれば悪い事、どうでもいい事も繋がっていく。けれどいつかは意味が変わってしまったり、絶えてしまう事もある……私もそうですね、リンゴの木を植えたいなと思います」
この種は捨てずにとっておこう、それでいて植木鉢か何かで育てよう。
小物入れをつくってそこに種をしまう、そうなれば土だって必要だな……汚染されてない土、ナユタの力で作れるか?確か微生物とかも大事だろうし……そう思うと死の大地って考えたら深刻だな。
「なあハレル、こう汚染されてない土とかどうにか調達できない?ほら肥料なら……化学肥料的なのなら多少は用意できるけれど大元の微生物の生きてる土のアテとか」
「物理的にリンゴの木を植えるって意味ですか!?」
「いいだろ、ちょっとした実験だよ」
「まあアテはありますよ……それは、戦いが終わってから考えましょう」
その通りである、なんとなくだが……力が近づいてきているのが感じられる。そろそろ奴がくるのだろう。
「行くぞ、ハレル……それと愛理も、いざという時頼りにしてるからな」
リンゴの最後の一切れを愛理の口に突っ込む。
「わざわざ私の為に残しててくれたんだ……」
「お前だって大事な仲間だからな」
「さっきは全然活躍する機会なかったのに」
「連中に、相手に割れてない唯一の戦力だからな。切り札はお前だ」
少なくとも俺とやりあうだけのパワーもだけれど、今は繋がってるが故にエネルギーを使えるからそれ以上に強くなってるし、何よりも突然現れられるのと、貫通して出せる包丁……うまく使えれば相手に一泡吹かせられるだろう。
「愛理、あなたも何かやりたい事があれば言っていいんですよ」
「シルスと結婚」
「そんな大きな事じゃなくて身近な事で」
「私も色んなとこみたーい、シルスとデート」
「だそうですよ」
「どっちみち俺と一体化してるんだから」
見事に包丁が腹に刺さった。
「シルス、あなたはマジでそういう余計な事を言わない様に。デートの時ぐらい私も目を閉じますし」
「愛理泣いちゃうからね、ってかハレルちゃんありがとうね……気遣いの神……」
「ごめん……マジでゴメン……」
思いっきり傷をえぐるような抜き方をされたおかげで痛みで気が引き締まった。これでしっかり戦えるだろうな。
表に出てみればそこにはレキとメリエラ、そしてエレミスが居た。
「アカネさんは?」
「消耗が大きくて立てんそうだ、そもそも奴はこのところ休まずに防衛用のシステムを作り続けては戦闘にも参加していた。さすがに限界だ」
「あの人は出来るだけの事をやった、だから今度は私達が出来る事をやる」
「管理人も見えてないだけで結構消耗している、元からあの壊れてる器でよくやる」
アカネさんの消耗は察していたが管理人もか……というかエレミスの言葉に引っ掛かりを覚える。
「壊れた器というのは?」
「ああ……知らないのかお前達は……管理人は人間ではない、遥か昔に神によって作られた存在『ガーディアン』あるいは『守護者』というモノと推測している。教皇からそういうものが存在すると教えられていてな……その前提で見てみれば一度破壊されたモノをどうにか再生させて、かろうじて繋いでるような有様だった。言葉を話せないのもまた機能に相当なダメージを受けているからだろう」
そんな状態でここでの仕事を……あるいはこれしか出来る仕事がないのか……と思ったが何故壊れかけでほったらかしにしているのか考える。
「治せないのか?」
「ああ、出来たら治してるだろうな。まず素材が今まで見た事のないものだ、おそらくかなり希少なモノだろう、次に加工方法が分からない。私がわからないのもだろうがナユタも分かっていればせめて溶接ぐらいはしているだろう」
「……私も、人ではないことと何かしら大きなダメージを受けているとは思っていましたがそこまでとは思っていませんでした」
ハレルもまた知らなかったみたいだ、アカネさんは……もしかしたら知ってるかもしれないが、あえて黙っていたという可能性もある。
「守護者はそれこそ神が、人造神格の力の更に源である主が作った存在であり超常の存在……そこには強大な力もあれば我々の知らない制約も課されているだろう、私達にどうこうできる所にいない」
「凄まじい話だ、神が作りたもうた者がすぐそばに居たなどと……それでいて我らを支えてくれていたなど」
「私にも、話のスケールが大きすぎてイマイチ理解できなかった」
メリエラとレキも驚きを隠せないでいた、確かにそれこそ数千あるいは数万という時を過ごした者がそばに居るなどまったくの予想外だ。
だがそれが何者であっても……管理人である事には変わりはない。
「今のお前達に出来る事はほぼない、せいぜい頼みを聞いてやるぐらいだろう」
「言われなくても管理人に頼まれれば、やるさ」
そんな事を言っていれば敵がもう近い。数は二つ流石に特攻兵器も無人機も打ち止めなのかそれだけだ。
だが油断できる相手ではない、ルスフィオン共が同族との再会に震えている。片側は、機械の方はやっぱり積んでやがる。
「久しぶりだねハレル、あの時はよくもまあ手酷くバラバラにしてくれたね」
「今はフールと名乗っているのでしたね、愚か者と」
ハレルにそっくりでありながら悪魔を思わせる機体、それの手にぶら下がる形で降りて来たのは銀色の髪の少年……映像で見たままの姿のフールだった。
「そうだ、同時にアルカナにおいて0番を意味する、全てを無に戻して1から始めるのさ」
「大層な名前で、残念ながらあなたのシルスの名前は新しいパートナーにあげましたよ」
「ナユタのくだらんシステムにまだ従ってる君達の方が愚かだと思うけどね」
「それで私の姿に似せたのは私への嫌がらせですか?それとも未練?」
「当然、嫌がらせさ。もっとも……ルスフィオンの導きに従って作っていったらこうなったのもあるけど」
「ルスフィオンに従って導かれるのは破滅だけです」
「それを望んでいる」
なるほどな、こっちが天使なら向こうは悪魔か。
「話のつまらなさは相変わらずの様ですね、そんなだから誰も振り向かせられなかった」
「黙れよ、お前だってそうだ……力があるのに使わない。その力があればどれだけ救えたか」
「ええ、そうですね。これからこの力で貴方を叩き潰し……人々を救わせてもらいます」
「ならばあなた方を殺し、その希望を断つ。やれ、ドッペル」
もはや言葉など無意味、今からお前を殺す。という意思がハレルから……そして向かいのフールとその機体から放たれ……俺はドッペルという名に少し反応する。
「了解、これも仕事だ……思う存分……殺させて貰うぞ」
「私はこの機体を抑えます!皆はそこのクズを始末してください!」
となれば分担は決まったようなものだ、ルスフィオンが積まれてる以上皆には相手をさせられない。
こいつを優先して叩き潰す他ない。
ガァンと凄まじい勢いでレキの金棒がフールの杖を打つ、さすがのパワーに押し込まれる……かと思われたがそうはならなかった。一体華奢な体のどこにそんな力があるのか、まるでギガンテスを殴った時のような重さを感じた。
「何で出来ている貴様……!」
「妖魔風情が、失せろ」
アカネがそうした様にレキの金棒を分解しようとするフールだが、そうはいかなった。こちらも対策は練っていた……アカネの血が金棒に含まれていて防壁と化しているのだ。
「くそ……あの呪われ女の血か!」
「貴様もあやつの事を呪われと呼ぶのだな」
「そうだろう、ナユタの呪いを一身に受けて、血の一滴すら毒と化した女が呪われてなくてなんだ」
「我もかつてはそう呼んでいた、だがな……今は!」
次の瞬間メリエラが横からレールガンでフールの頭を狙撃、バンと凄まじい衝撃と破裂音が響き、裏切り者の神官の頭は吹き飛ぶ……事はなく金色に変色してそれを耐えきった。
「大切な恩人、あるいは仲間なのだから」
「そして手品はバレたぞ!貴様の体は」
「そうさ……金さ、動かす為にも純金とはいかなかったけれどね!金のナノマシン!」
凄まじい重量が乗った蹴りがレキを吹き飛ばす。神官のパワーと質量が乗った一撃はすさまじく、バリアコーティングすら砕いた。若干威力が殺された為に即戦闘不能とはならなかったものの大地に叩きつけられたレキはかなりのダメージを負う。
「次は」
「私だよ!金ピカボーイ!」
「スペクター、いやマキナの神官か!」
まるで雷がその場に落ちたかのような爆発、エレミスの放った電撃が引き起こしたそれは避ける間もなくフールに直撃。バリアコーティングを粉々に砕き火傷を負わせる。
「さすがに金を使ってるだけあって伝導率はいい様だな、だが厄介なモノだな……同じ神官ながら思う」
狙いは電撃と熱によるナノマシンの破壊と生身部分の破壊、だが何かに弾かれ……いや消えた。電流を魔力へ変換して放出する事でダメージを軽減したのだ。
「厄介なのは君の方だろう、そこのザコ二人以上に……今は君が邪魔だ!」
フールの左腕がまるで鞭のようにしなり、伸び、真空を発生させて周囲を切り裂きながらエレミスへ迫る。が回避せずに右手で受け止める。衝撃波が発生し、周囲の土石が吹き飛ぶ、さすがに無傷とはいかずエレミスの右腕にヒビが入る……が一瞬だ、即座に再生される。
「根競べといこうか」
今完全に互いが接触した状態で、エレミスは右手から電流を流してエレミスの伸びた腕を焼いていく。そこに横合いからメリエラがレールガンで援護射撃。相変わらず着弾点は金色に変化してダメージが無いように見えた……が。
「ぐうっ!!ふざけるのも……」
「ふざけてる訳がない」
二面からの同時攻撃、それには流石に対応できていない。それがフールの弱点だった、復帰したレキが金棒で変色していない部分を打ち付ける。いくら金で出来て重量もある体であっても吹き飛び、エレミスに握られていた左腕が千切れて、血を撒き散らしながら転がる。
「随分と多勢に無勢で殴ってくれたからな、お返しだ」
レキは血を吐き捨て、吹っ飛んだ方向を見た。
時間は遡り、フールとの戦いが始まると同時にハレルとドッペルは高く飛び上がった。地上では味方への誤射をしかねない、互いがそう判断した。
ドッペルの両手の指は全て青いクリスタル素材のブレードとなっており、バリアコーティングをも軽々と切断するほどの威力を持つ。牽制としてハレルとシルスによって放たれたエネルギー手裏剣をまるで塵を払う様に切り捨て。逆にエネルギー刃を飛ばして反撃しながら前進、距離を詰める。
だが距離を詰める事を選んだのはハレルも同じだった、グリムリーパーを手にしてリーチの長さの分早く光の刃で首を狙う……がそれはドッペルの背から生えていた骨の様な翼から同じ様にクリスタルブレードが出現し受け止められる。ならばと鎌から槍へ、スピアモードに変化させてウィング部分のブレードの根本を狙うがそれよりも早くがら空きの手でドッペルはグリムリーパーの柄を切断しようと腕を振るう。
強固な素材で出来ており高エネルギーで守られていたおかげで柄が即切断されるのは免れた、だがはっきりとグリムリーパーに傷がつくのを見て互いを振り払い評価を更新していく。
「やるな、いい武器だ……どこで手に入れた」
「自作ですよ、あなたの体もあの屑が作ったにしては随分出来がいい……それよりもあなた自身の腕がいい」
「世辞はいらんよ、お前が作った武器を使える奴はそれはもう運がいいだろうな。頑丈さは大事だ、俺の乗っていた機体はどいつも脆くいつ落ちるかヒヤヒヤしていた」
会話の間も決して互いに隙を見せず、確実な殺意を向け続ける……そしてドッペルが動こうとした瞬間にハレルから炎と光が放たれる。それをモロに浴びるが大したダメージは無いと気づくとそのままドッペルは直進。今度はエネルギーシールドとクリスタルブレードが衝突する。
炎と光の中から現れたのはブレイズテイル、フォームチェンジしたハレルの姿だった。
「姿が変わったか……!どういう手品か知らないが、防御は悪手だ!」
シールドに滑るように刃が通っていく、だがそれよりも早くハレルは新しく出現させたブレードの刃でそれを受け止める。シルスが手にしていた短刀をより頑丈にしたそれは決戦前に持ち出し、同化して収納していたものだ。変わってグリムリーパーは同化して収納されている、がこうした武器の持ち替えはハレルとしてもぶっつけ本番。出来なければ大きなダメージを負っていたリスクのある行為だった。
内心でシルスはそれを成功させたことに安堵しつつも、目の前の油断ならない強敵に向き直る。
こちらの最大の強みはなんだ?ルスフィオンか?それとも同化能力か?いや、一人じゃない事だ。
式神ビット、アマルガムを同化した事で新たに使える様になった式神という概念を活かし、即席で作った魔術札、それらがハレルの背から飛び出してドッペルの周囲を囲い、火炎弾を放つ。一発一発の威力自体大した事はないが妖術の炎だ、簡単には消えてくれず、確実にエネルギーを削っていく。
「悪いですね!あなたが機体の力で強くなる様に私も色々な力を取り込んでるんですよ!」
「やはりお前が一番厄介だ……だがお前さえ落とせば終わりだな」
ぼうっとドッペルの機体の各部がぼんやりと青く光り始める、シルスはそれが予兆だと感じていた。ハレルはドッペルのブレードを弾き距離を取る。がその瞬間エネルギーが爆発的に放出され式神ビットがまとめて焼き尽くされる。
「ルスフィオン……!」
「そうだ、お前達も持っているんだろう。ずっと俺の意識に語り掛けてくる……殺せ、壊せとな。だが俺はあいにくもう生きていない」
「そうですね、あなたには効きがそれまでよくない……かもしれませんね。ですが……」
生命に対して極めて強力なルスフィオンだが非生物に対しては効果は一つ落ちる、しかしそれでも今のように放出するだけで多少のモノであれば容易く破壊できるだけ腐食力もある。
ハレルは今放たれたルスフィオンを同化して吸収する、下にいる仲間たちに降り注がない様に、風にのってこの地に撒き散らされない様に。
「ほう……お前達はそうか……同化できるんだったな」
「この力は何もかもを殺す、だから野放しには出来ない」
「だがどうかな?果たして俺を止められるか?ここからが本番だ」
バッとドッペルの姿が掻き消える、ルスフィオンを放出しながらそれを推進力に凄まじいスピードで移動している。だがその場から動かずに太陽の様な火炎球を複数出現させる、今のやりとりで稼いだ時間を使ってエネルギーを込めて使った以上ドッペルの機体にもダメージを与えれるぐらいの威力はある。
それを飛ばさずに停滞させる事で空中に障害物を、ダメージゾーンを作り出す。
しかしそれすらももはやドッペルを止めるに至らない、再びルスフィオンの放出で火球がまとめてかき消される。そしてハレルはその放出されたルスフィオンを吸収しつつも常にドッペルの位置を把握しつづけている。シルスが追いかけ続けているのだ。
周囲を高速で移動し、こちらを攪乱して攻撃のタイミングを狙っている。そしてその時は来た、ブレードを突き出し突進。目では追えない程のスピード、音速を超えたが故のソニックブームが発生するが迷いはない。
逆に下段から斬り上げる事でハレルは突き出されたブレードを叩き折り、衝撃でドッペルは大きく仰け反る。そのまま振り降ろしてトドメを刺さんとするがそれは左手のブレードで防がれ、またもやルスフィオン放出によって距離を開けて周囲を旋回する。
「やるな、今の一撃を防ぐとは、ならばこれはどうだ?」
高速で動く世界の中、ドッペルの機体中心のコアが光を強めていく、ルスフィオンのエネルギーが集中している。おそらく光線を放つ前兆だと即座に判断するが、狙いがわからない。
「お前が耐えられても……お前の仲間たちは耐えられまい」
その言葉に思わずハレルの、シルスの動きが止まった。仲間であるフールがいるとして、それすらも巻き添えにするだけの殺意が目の前の敵にはある。その一瞬が命取りだった、ハレルの腹を左手のブレードが貫通し、血が噴き出す。が突き刺さったブレードをドッペルの機体の左腕ごとに両断し、地に落ちていく。
いくらハレルが、シルスがルスフィオンを同化できるとはいえ、ダメージを受けない訳ではない。むしろ同化しなければダメージを受けるのだ。ブレードはルスフィオンの結晶によって出来ていた、流れ込む死のエネルギーに意識が二人の意識が遠のく。
そして大地に叩きつけられたハレルは立ち上がろうとして、腹部を抑える。これまでに味わった事ない激痛、それでも死ぬ訳にはいかない。
まだ役目を果たしていない、まだシルスを帰してあげられていない。まだ敵を倒せてはいない。
ルスフィオンを世に放つ訳にはいかない。
「ハレル、お前って死なないって言われてるけれど……本当か」
「そうですね、完全な不死という訳ではない……けれどそうそう死なない筈ですよ。私の同化能力は死に掛けると……勝手に周囲のモノを食ってまで生き延びようとするんです。それが仲間であれ、敵であれ……命を奪って生き延びようとする」
「それは……」
「既に同化してるシルスは別ですよ?それにルスフィオンを吸い込み続けたら流石に死にます、あれは不死すらも殺せる力ですから」
どこまでも静かな場所、それは俺の内にあるあの空間でも、どこでもない真っ暗な場所。
ここにはあの鬱陶しいルスフィオンも、賑やかな愛理も居ない。
「俺が死んだらお前はどうなる?」
「おそらく一緒に消えますね、それは逆も同じ……一つになるって事はそういう事です」
「俺達が死んだらあのバケモノはどうなる?」
「……管理人と姉さんが、命を懸ければどうにかなるかも……しれません。わかりません、ただ……皆死ぬでしょうでしょうね」
「……なら負けられないだろ、こんな所で死んでられないだろ」
愛理、レキ、メリエラ、エレミス、アカネさん、管理人……誰にも、誰にも居なくなって欲しくなんてない。
それに俺には帰るべき場所だってある、こんな所では、こんな事では終われない、終わりたくない。
「シルス、時間を稼いでください……ほんの少しだけでいいんです。同化してる力を分解して変換すれば最低限度戦えるだけ回復出来る筈です」
「わかった、安心しろハレル……必ず戻ってこい!」
目を覚ませばそこは墓所の地表だった、流れ出ていたハレルの血を同化して立ち上がる。なんでもいい、エネルギーになるものならば。
「驚いた、お前男だったのか」
「違うな……二人なんだよ、俺達は。それで選手交代だ」
「なるほど、だがお前は魔法少女じゃないな……神官という奴か」
「そうだ、俺はナユタの神官……ナユタ・シルスだ」
名乗りと手裏剣を投げつけ同時に駆けだす、相手は左腕を失って、右手のブレードも無い。がそれでも十分以上に俺を殺しうる脅威だ。一発でも貰えば死ぬだろうし、なんならルスフィオンを撒き散らかされてもだ。
目と喉を狙って投げた手裏剣は右手で防がれる、がそれでいい。思った通り……前に戦ったアイツ……前の体のドッペルはどうやら手裏剣を脅威と思ったから防ごうとした、つまりは前の戦いの記憶を持っていない。撃墜されたあの瞬間の記憶は、だ!
「妙な武器を使うな、だが威力は……」
「ああ、その通りだ!そのものにはな!」
右手に突き刺さった手裏剣が突然まぶしく発光・発熱し燃え上がる、即座にドッペルはそれを握りつぶすが炎は消えずバチバチとバリアが反応する。
簡単な手品だ、テルミット反応を起こす為の材料を手裏剣の中に隠していた。後は衝突の勢いで燃え上がるようにすればいいだけだった。うちの世界ではちょいちょい使われている武器だったけれど、こっちでは見なかったからな。
ナユタの神官の力があったから割と高精度で作れた。
さておき始めての攻撃に驚いてフリーズした瞬間は逃さない、背面に回って短刀をレーザーブレードにして斬り付ける。バリアが燃え盛るテルミットに反応しすぎてるせいでおそらく弱っていたのだろう背中のウィングユニットが切断されて地に落ちる。が燃えたままの手で振り払いが来たので追撃を諦め後退。
さすがに効果時間が切れてしまい火は消えたがあいつの右手は見事にボロボロだ、これは生身の魔法少女相手には使えないな。
「驚いた、本当に驚いた……俺を出し抜くなんてお前は大した奴だ、どうだ?MCMSへこないか?」
「無理な相談だ」
「そうか、残念だ……だがお前みたいな可能性に満ちた若い戦士と戦い、討ち取れる事は嬉しい」
予兆を感じ、即座に動く。左手を前に掲げ俺は同化能力を使う。
「死ね、ナユタ・シルス」
ルスフィオンが爆発し、放出されるのを受け止め吸収する。こいつは放出をする時必ず一瞬だけ止まる、ここが……今この瞬間が勝負の付け所だ。
「頼む、愛理!!」
姿を現す事はない、ただそこに包丁と共に愛理が出現する。ドッペルの機体のコアの中心に確かに突き立てていた。
「シルスを愛する美少女!愛理見参!」
「何だと!?」
「三人目が居ないとは言ってないぜ!!!」
愛理なら、と思ったが流石に頑丈だ。コアの半分までは包丁が刺さっていたがそこまでだ、それ以上先には通っていない。ならば通すまで!その意図が通じていたのか愛理は即座に姿を消し、包丁も消える。
そして開いた傷にレーザーブレードを突き立て、光の刃がドッペルの背中まで貫通する。
「本当に、本当に面白い奴らだお前達は」
レーザーブレードを手放して即座に離れると爆発と共に青い煙が舞う、砕けたルスフィオン結晶の塵だ。ドッペルは原型を残しながらも機能を停止して倒れた、これで残るはあの神官、フールだけ。
「だが、詰めが甘い」
ガラリと音を立ててドッペルが、立ち上がった。
そう……簡単にはいかないよな……俺の目に見えるのはドッペルの内側を凄まじい密度のルスフィオンが循環する様、それは生きていた。
いうなればルスフィオン生命体という有様だった。生命の真逆なのだから、そうだよな……そうなるよな。
即座に飛びのいたその瞬間、再起動したドッペルが凄まじい勢いで突っ込み……俺を無視して行く。
その先には同じ様に腕を失って膝をついたフールが居た。
「ここまで追い詰められるのは……想定の範囲内だよ」
対して向かうドッペルはボロボロとはいえ体はルスフィオンの塊と化していて、それを垂れ流しにしている……このままいけばフールはルスフィオンを浴びて死ぬ。だがフールはまるで臆せずむしろそれを受け止める様に残った腕を広げる。
「ハレル、アカネ……お前達が同化能力を持っていた様に、それは僕にもあるぞ!!!!」
瞬間、光が広がり……二つの力が一つとなり再生……いや回帰した。
いびつな骨の外殻を纏い、青白い肌で、エネルギー状の翼を生やし、黒く歪んだ角を生やした死神が居た。
「さあ……終わりの時間だ」
青白い粒子が混じった衝撃波と突風が大地を揺らした。