【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm   作:青川トーン

13 / 28
EP12 END

「力が湧いてくる……これならば……!全てを……殺し、殺し尽くせる……」

 

 ドッペルとフールが一体化した、俺とハレルと同じ様に……だが様子がおかしい。ガクガクと妙な動きをしていて、目の焦点もあってない……間違いない、力に呑まれてる。

 それに目に見える程に青白く発光しはじめている。まずい!放出する気だ!

 

「もう、僕が……俺自身がルスフィオンを増殖させられる炉心となった今……お前達など、もはやどうでもいい……纏めて……消えろ!!」

 

 間に合うか!吸いきれるか!同化能力で目の前のルスフィオンの塊が放出するエネルギーを消そうとするが……量が多い!ならば吸い上げた奴をそのまま衝突させて崩壊させる!

 

「下がれみんな!まともに浴びれば死ぬぞ!」

 

 カッと光と共に衝撃、数秒おいて全身が地面に叩きつけられる感覚でどうにか生きてるのを実感する。

 ドッペルの周囲だけがクレーターになって、本体は無傷……まあ効いてないだろうな。ルスフィオンを中和する方を優先したからな……だが困ったな、今ので間違いなく手足が折れた……治すには少しかかる……万事休すか!

 

 そう思った瞬間に3機のナイン機体が現れた、どうやら充電は間に合ったみたいだ。

 

『おまたせしました、私が時間を稼ぎます。メリエラ、シルスをつれて後退を』

「ようは当たらなければいい!まじない師!我々も時間を稼ぐぞ!」

「……そうだな!頑丈な者の務めだ!メリエラ!シルスは君に任せる!」

「わかった」

 

 無茶を言う!避ければって!周囲丸ごとを汚染するんだぞ!と叫びたかった、だが声が出なかった。まずいな意外とダメージは深刻かもしれない。

 

 

「シルス、大丈夫。信じてあげて」

 

 

 

 

 

 

 ナインの機体が3機はルスフィオンに耐性がある。レキは鬼なので生命力には自信があるし魔法少女システムの加護がある。エレミスは機械だが……生きている故にやはりルスフィオンのダメージを受ける。

 

「くそ、思ったよりきついぞ!体がいつもより重い!神の加護を受けてこれか!」

「泣き言を言うなまじない師!行くぞ!」

 

 ナイン機体が3機、円を描く様に飛行し空中からレールガンでドッペルを撃ち続けるがどうにも効果が薄い、システムの解析によればおそらくバリアコーティングが高濃度のルスフィオンで構成されているらしく……弾体が腐食して砕け、衝撃も中和されてしまっているという結果が見える。ならばと武器を切り替えてプラズマキャノンへ変更、半分までチャージした状態で放てばルスフィオンバリアはほんの少し削れた……がすぐさま再生してしまう。

 対してドッペルはまったく動かない、いや動く必要もないというべきか。そこに立っているだけでルスフィオンが増殖し、周囲にふりまかれてゆき、ダメージになる脅威もない。

 

 

 そして何よりも、その内に宿る意思が塗り替わろうとしていた。

 

「約束とは違う、戦いを楽しませてくれる話ではなかったのか?」

「くだらない、全てを破壊する事……それこそが僕の……」

「話にならんな、ルスフィオンに吞まれるなと言っていた自分自身が食われたか、所詮は浅い人間だったか……もういい、消えろ」

 

 純粋な殺意の使徒たるドッペルはこのルスフィオンの邪悪な思考に屈する事はなかった、だがフールは違った……なまじ憎しみとコンプレックス、そして言い訳の様な野望の元に立っていたが故に簡単に侵食されてしまっていた。故にドッペルからもルスフィオンからも不純物でしかなかった、だから意思を粉々に砕かれ消えた。

 

「鬱陶しい御託を並べる雇い主は消えた、ここからは……好きにさせてもらおう」

 

 再生した両手のルスフィオンブレードを左右に掲げると、そこからレーザーブレード状となったエネルギーが放出されてナイン機体の2機を串刺しにする。残った一機はブレードを持ち、コアを狙い突撃して突き刺した……が、ブレードの刀身が瞬く間に腐食分解して崩壊、ならばと最後に取る手段はと両手でドッペルのコアを掴み、ハッキングと引きはがしを狙いながら自身のリアクターを最大出力にする。

 

「けなげな人形だ、そこまで主に尽くすとは……だが無駄だ」

 

 まるで駄々をこねる子供を抑える様に、簡単に引きはがし。ドッペルはナイン機体をバラバラに引き裂いた。その瞬間の隙を狙ってレキが分厚いシールドを纏い突っ込んでくる。ルスフィオンの汚染によりシールドはバチバチと反応を繰り返して消耗していくが構わない、鬼の渾身の突進で強化された金棒がドッペルの機体を打つ、だが当てた部分はフールと同じ様に金色に変色……金のナノマシンだ。

 

「今のは重かったぞ、オーガ」

 

「そうなるだろうと思ってな!」

 

 金色に変色した部分を二振り目の金棒が叩く、するとそれは爆裂し、金棒とドッペルの機体表面が吹き飛ぶ。そして三度目の攻撃、剥き出しになったルスフィオンの塊であるドッペルの内部に向けて突き刺す様に金棒が突き刺さるが、ドッペルの蹴りによってレキは吹き飛ばされる。

 

 バリアのおかげで致命傷は免れたが、これで攻撃手段を失ってしまった。レキにはもう出来る事がない、だがエレミスにはある。

 

「無駄にはしないさ!」

 

 金棒を避雷針に見立て、エレミスは再び電撃を行い、金棒の中身に衝撃が伝わる。大爆発が起きた。

 ドッペルの機体の半身が完全に吹き飛ぶのをエレミスは機械の目で見たが故に手応えを感じた、が次の瞬間、爆風の中から飛び出して来た……即座に再生したドッペルの斬撃によって両腕を切断され吹き飛ぶ。

 

「く………申し訳ありません、教皇……せっかく頂いた器を……」

 

 美しい躯体はボロボロに破壊され、もはやまともに動く事はできない、完全に手は尽きた。そう判断したドッペルは二人にトドメを刺そうとする。がバンとレールガンが命中して揺らぐ。

 

 いまさらこの程度の攻撃、と思いながらも振り向けばそこにはメリエラと、かろうじて回復したシルスがいた。

 

「驚いた、まだ立てるとはなナユタ・シルス……それにメリエラ嬢……ただの木っ端だった傭兵がよくやる様になったものだ」

「……おかげさまで、だから今度は私が借りを返す番」

「ほう、一番大した事のない身で、そのボロボロの神官とでか?」

 

 シルスはメリエラの持つレールガンの手を当て、力を同化させる。

 

「ああ、そうだとも……お前を倒して見せる」

 

 それを見てドッペルは面白いと感じた、確かにこれまでも心躍る戦いは幾度も経験してきた。だがこんなのは初めてだ……少年少女が、こうも命を懸けて、輝いて、この自分を打ち倒そうとする。

 なんとドラマティックで美しい光景か!そしてそれを摘み取り、粉々に砕いた時に見れる絶望ははたしてどれほどのものか。

 

「いいだろう、撃ってみろ。ただし俺を殺せなければその時はお前達が死ぬ」

 

 ドッペルは余裕をもってシールドを展開し、それを真っ向から受け止めてやろうと態度を示した。

 ならばとメリエラはシルスに指示をする、コアを最大限まで稼働させ。限界までエネルギーを発生させながら、レールガンが自壊しない様にシルスが強化していく。

 

 そして込められた弾丸が変形し、凄まじいエネルギーを発生させる。。

 

 魔法少女システムには人造神格が宿っている、心の震えが、祈りがその力を増幅させていく。

 

「来い!」

 

 トリガーが引かれ、音も反動も小さいレールガンが爆発音を上げ、砲身が真っ赤に融解して砕けながら必殺の一撃を放つ。衝撃波が大地をえぐり、撃った本人達すらも反動で後ろに倒れる。

 

 軽々とルスフィオンシールドを貫き、ドッペルのコアに向かっていく弾丸は限界を超えてプラズマと化して爆裂する。二度目の大爆発に巻き込まれたドッペル、大きなダメージこそ受けたが即座に再生し、立ち上がろうとした。その時だった、そこには少女がいた。

 

「ハローさっきぶり」

 ドッペルの頭部を破壊せんと愛理が包丁を振り下ろす、額の半ばまで刃が通るも即座にブレードを振るい愛理を切り裂く……が既に避けた後であった。

 

「今度は私の番だよ」

「ああ……お前も居たな、妙な奴だ……怪異のくせに生きているとは、だが生きているならば」

 

 ジリジリとダメージを受けているのは愛理もだった、両手に包丁を構えて即座に突っ込む、両腕と両翼合計4か所にルスフィオンブレードがあるが、どれも大型であるが故に大振りとなる。それを器用に回避しながら連続で愛理が包丁で切りつける。怪異の逸脱した能力でも細かい傷しか入らない、そして着実にルスフィオンの汚染で愛理の動きが悪くなっていく。

 

「とんでもない奴だ、お前が魔法少女だったらならもっと脅威だったかもしれんが……終わりだ!」

 

 膝蹴りが入りの腹部に入り、完全に動きが止まる。そして振り上げられた右腕が、シルスによって掴まれる。

 

「お前に仲間は殺させない!」

「怪異が仲間だと!?面白い!」

 軽く腕を払えばシルスは投げ出されて、愛理の隣に倒れる。

 

「何故だ?何故お前は……お前達はそこまでする?何がお前達をそこまで動かす!?」

 

 ドッペルは確かに多くの戦士達を見て来た、フールの記憶もあわせればさらにだ。だが身分も種族も立場も違えた者達がこうも食らいついてくるのは初めてだった。

 

「友を守るのに理由なんて……いらねえだろうがよ!」

 息も絶え絶えながらそれでもシルスは立ち上がる、愛理に肩を貸されながらも立ち上がるその姿に傷の無い場所などない。それにいまなおルスフィオンの汚染は深刻化しており、放っておけば死ぬだろう……だがそれでも吠える。

 

「俺は生きる、生きて仲間を守る!」

 

 

 わからなかった、もはやドッペルにも、内に流れるルスフィオンにもわからない不条理がそこに立っていた。

 

 

「もう、終わらせよう……ここまで戦い抜いたお前達に敬意を払って……最大の力で!」

 

 ドッペルが宙に浮かぶ、墓所の真上に陣取り、機体に秘めたルスフィオンを増幅、最終兵器「ルスフィオン・レイ・キャノン」としてコアを輝かせる。もはや止める事はできない。

 

 止めることが出来ないならば、真向から打ち砕くまで。

 

「待たせましたね……シルス!」

 画面のひび割れた端末から声が響く、ハレルだ。

 

「おせえよ!やるぞ!これが最後だ!」

 

 端末を天に掲げシルスはハレルへと変身する。

 

「いきますよシルス!」

 

 天へ、ドッペルへ向かい右手を縦に、左手を右の二の腕に構える。

 

「終わりだ!死ね!」

「終わらせるかよ!!」

 

 天からは破滅の光、ドッペルのルスフィオン・レイ・キャノンが降り注ぎ。それを大地から迎え撃つ様にハレルとシルスのルスフィオンレイが放たれる。どちらもエネルギー量ならば互角、空中で二つが衝突して拮抗し、衝撃波が走る。

 

「ぐぅうううう!!」

 

 ドッペルがルスフィオン増殖炉となっていて際限なく光線を放ち続けるならば、ハレルとシルスは地上に満ちていたルスフィオンを吸収してそれを光線として放ち続ける、そして内側に同化したルスフィオンも全て撃ち尽くす勢いではあるが……それでもだ、消耗の差が、ダメージの差が確実にハレル達に重くのしかかっていた。

 

 限界を超えた状態でありながら、それでも倒れる事は許されない。

 

 ブチブチと神経が切れる音がする、血が噴き出す、自身が放つ光線の熱で自壊しつつある、だがそれでも倒れない。その時だった。

 

『システム・ナイン、端末に接続。これより魔法少女システムコアのエネルギーをエンジェルモデル・アズライールに転送』

 

 ナインが、自我を持ったAIが加わった事で人造神格の巫女の力が一つ増える。

 言葉に出さずともそれに倣いマキナの祝福の力を魔力エネルギーに変換してエレミスが送る。

 レキとメリエラが同じ様にナインを介してエネルギーを転送する。

 愛理に宿る想いの力が二人を支える。

 

 5つの力が加わり、アズライールのコアが輝きを増し……ルスフィオンレイが変化する。

 青白い光が黒く染まる、死と破壊の指向性は変わらない、だが破壊するのは未来ではない、絶望の可能性だ。

 

 同じルスフィオンを滅ぼす為にルスフィオンは輝く。

 拮抗していた光線が天へ、天へと傾いていく。そしてついにドッペルを貫いた。

 

 ルスフィオン同士が互いを破壊し、完全なる死をもたらすべく膨張する……このままでは周囲一帯が消し飛ぶ、ハレルとシルスに同じ直感が来た。そんな時だった。

 

 

 

 

「ハレル!シルス!飛びなさい!!!」

 

 

 

 墓所からアカネの声が響き、信じて飛ぶと同時に金色の光が真っ直ぐとハレル達に向かってくる。

 

 

『つかめ!光を!』

 

 

 聞いた事のない声だった、だが誰だかはすぐにわかった。手を伸ばしていた管理人がいた。

 だから、その声に従ってコアで受け止める……それは完全に疲弊、消耗しきっていたハレルとシルスの体に瞬く間に活力を満たした。それだけでなく溢れ出して周囲に降り注ぐ金色の輝きとなった。

 

「これは……命?生命力そのもの!?」

「なんだっていいさ!やるぞハレル!」

「はい!これで本当に最後です!」

 

 グリムリーパーを出現させ、刃を形成するとそれは黄金の輝きを纏い、凄まじいエネルギーを放ち始めた。これならば行けると二人は爆発寸前のドッペルの真上に飛び上がる。

 

 

「グリムエンド!!」

「スラッシュ!!」

 

 二人の叫びと共にルスフィオンの塊と化した怪物を両断する、金色と漆黒の輝きを放ちながらドッペルはエネルギーの塊となり、大爆発を起こして空を覆う雲を消し飛ばす。

 

 

 そして光が差した大地にハレルは着地する。

 まだ残っていたと思われたルスフィオン汚染は丸ごとさっぱりと消え去り、青空の下で太陽に照らされたグリムリーパーがいつもの杖の形状に戻る。

 

「やったね!シルス!」

「凄まじいものを見たな……これは教皇にもぜひお知らせしなければ」

「そんな体で帰れるのかよまじない師」

「みんな、お疲れ」

 

 そこへ愛理達が、皆がやってきて勝利を祝う。そして管理人達も。

 

「姉さん、最後のアレは……アレはなんだったんですか?」

「ここに保管されていたモノの一つ、かつて神がこの星に命を持たした時に余った欠片「ウルテウム」と呼ばれる物質よ……性質こそわかっていたけれど、どうやって使うのか。そしてこのたった一欠片で何ができるのか考えた結果、保管して未来に託そうとなったそうよ。でも役に立ったから、その判断は間違いではなかった」

「その神が持ってきた物質って情報は……」

「そうよ、管理人が教えてくれたわ。今でも私には管理人の声が聞こえるから」

 

 アカネは今この世界で管理人と言葉、あるいは意思を交わせる数少ない存在だった。だからその意図を理解できるからとこの墓所での仕事を選んだ。最初は楽が出来るという打算だった、ハレルを前線から遠ざけれるという打算もあった……だが、おかげでかけがえのないものを多く得た。

 

「ここにあるものは、全てが管理人の権限で使えるものよ。設備もだけれど、保管されている品々も……いつか必要とされた時に応じて、信じられる者達に託すの」

「ルスフィオンも?」

「そうね、ルスフィオンをいつか託せる相手も現れるって信じてたらしいけれど……まあナユタの中でも知ってる者はそういないから……これは横領ね、本部に近々呼び出されるかもしれないけれど……まあ適当になんとか誤魔化すわ」

 

 アカネはこれから後始末をしなければならないなと苦笑いしながらも青空を見上げた。

 

 

 

 

 

「そうか、フールは死んだか。しかし……丁寧に機体の情報は残してくれているとはのう」

 いびつな姿をした老人が居た、彼は全身に生命維持装置を埋め込み、サイボーグ化された「MCMS代表」カルヴァンク、あまり組織全体の政治には関わらず……あくまでまとめ役のお飾りとしてのみ君臨する存在と表向きには知られている。

 

「ハハハ!器の小ささはハーミットと変わんなかったね……でもルスフィオン生命体を……私と同じ絶滅希死(ルスフィム)を作り出すまでいけたのにもったいない」

 

 そこに仕えるのは白髪で青い目の少女、名をジェスターと呼ぶ。彼女のその目は……ルスフィオンの輝きを宿していた。彼女もまたルスフィオンによって構成された存在「絶滅希死」「ルスフィム」である。

 彼女はかつてMCMSの引き起こした事故で偶発的に生まれた存在で……フールには秘匿されたまま代表に確保された。

 

「しかしおかげで貴重な手駒を得られた、ドッペルは……傭兵データ004は絶滅希死化可能な有用な存在と判明したわけだ。そして……ナユタ、既に衰えて敵ではないと思ったが」

「どうする?全面戦争?殲滅戦?」

「無茶を言う、それだけの戦力を出せばさすがにアライアンスの連中が先に噛みついてくるわい……それになんならば向こうからこちらへ仕掛けてくるだろうな。それを迎え撃つ方が大勢死ぬ」

「うーん!さすが人類滅ぼしたい一心でMCMSを立ち上げただけある!あなたもルスフィムの才能あるよ!」

 

 カルヴァンクの目的はただ一つ、人類の絶滅。人類がその手によって滅びる様を見届ける事……。

 同じ志を持ったフールは簡単にくたばったが……この老人はそうはいかない。この荒廃した世界で、権力的にも疎まれる立場で何度も刺客を送られ続け、ルスフィオンを浴び続けても微塵も堪えない。

 

 そして目の前で無邪気に笑う破滅の化身すらも怖気づく程の重圧を秘める老人は策謀を巡らせる。

 この世界の終わりを夢見て。

 

 

 

 

 

 

 

 戦いは終わった、けれどまだ何も終わっていない。片付けもであるしこれから先、おそらく本格的にMCMSとの衝突になるという恐れもある、そのことを早い内にナユタの本部に報告・共有しなければならない。

 

 

「片付けもだけれど、シルス。あなたの部屋から生えているアレ……何か心当たりないかしら?」

「何って……ええ!?木が生えてる!?なんで!?」

「まさか……リンゴの木……?いやそれにしてはデカ……いやリンゴの木はあんな結晶なんて生えてませんよ!?」

 

 巨大な樹木が墓所の一画を突き破り、天へ向かって伸びている。周辺環境を考えると異常であったし、そもそも普通樹木は一日で生えたりなんてしない。おまけに外見も力強く幻想的といった有様。

 根本にある部屋へ向かってみれば無惨な状態となっており、分厚い根と樹皮に覆われた幹があり、壊れた天井からは空が見えていた。

 

「俺の部屋が……」

「部屋ならいくらでもあるからいいんですよ!それよりもあきらかに異常ですよ!この辺り一帯の土なんてまともに植物が生きられる状態じゃあありませんし!いやでもまるで元気ですし……なんですかこれ……結界!?」

「はぁ!?結界貼ってるのこの植物!?」

「あの草木の化け物みたく外来の植物なら確かにこんなにタフでもおかしくないですが……いやまさか!私達が倒したアレの残骸も取り込んでる!?」

「そもそも何が原因で……あっまさか!」

 

 シルスが管理人の方を向くと無言で彼は頷いた。どうやらウルテウム、生命力の結晶を使った時に降り注いだ光がリンゴの種に力を与え、進化をもたらした。推測するとそうなる。

 

「確かにリンゴの木を植えようとは言いましたが、その日のうちに用意されるとは思いませんよ!」

 

 アハハとハレルが笑う、レキやメリエラ、エレミスは首をかしげる。

 

「いや、ほらさレキの母さんが持って来てくれたリンゴあっただろ、アレの種を育ててみようって話をしててさ……それで取って置いたらこうなってしまったんだよ」

「我の記憶が正しければうちの里にはこんな巨大な木はなかったぞ……それこそご神木でも」

「私は生きてる木なんてはじめて見た」

「なるほどなあ、さっきの光で進化したのか……興味深い話だ」

 

 しかし問題となるのはこれからだ、この木はちゃんと生きて行けるか。建物なら建て直せばいいし、部屋なら移ればいい……だけどこのリンゴの木は分厚い雲に覆われた空の下でも、この凍り付いた大地でも…生きていけるのか?

 

「しかし、大丈夫なのかよ?枯れたらちょっと悲しいぞ」

「それならば温室を建てればいいのよ。ちょうどいいわ、殺風景だと思っていたもの……この墓所にはモノが少なすぎる。だからこの機会に拡張しましょう。いいでしょ管理人」

 アカネの言葉に管理人が頷き、システム・ナインが計算を始める。

 

『計算完了、本部に資材の追加発注を行いました。加えて現在ある資材を利用すれば今日からでも作業は可能です』

「とのことよ、さあ……皆、休んでる暇はないわ!」

「冗談だろう、私は腕がないんだ」

「なら私が修理してあげるわ、来なさい」

 

 エレミスはアカネに引っ張られ部屋を後にする、それに続いて管理人もついていく。

 残ったのは4人、いや愛理も含めれば5人。

 

「そう、温室を建てるならば……私も花を植えたい」

「里には様々な花があるぞメリエラ。取り寄せられないか掛け合って見るか?」

「お願いする、ちょうど仕事をしていた時に育て方の本なら見た事がある」

「あ!それ私も興味があります!」

 

 ほんの少し前、命懸けで戦って、ボロボロのズタズタになっていた者達の会話じゃないな、とシルスは心の中で笑いながらこの平和を、勝ち取ったものを噛み締める。

 生きている、生きているんだと実感する。

 

 

 まだ帰る手立ても目算もなんもない、けれど今は、今だけはこの時間を幸福と感じていいだろう。

 ナユタ・シルス、イツキ・ツムグは割れた天井から覗く青空を見上げた。

 

 

 

 魔法少女ハレル 第一部 墓守のハレル 完




これにて第一部完結です、お付き合いありがとうございました。

続きが書けたならまた1クール纏めて投稿いたします(おそらく第四クールで完結する予定)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。