【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm   作:青川トーン

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ここから第二章です、今度は13話連続で投稿となります。
よろしくおねがいします。


第二部
EP13


 朝が来た、ドームの照明が点灯した光が窓から差し込んでくる。この光景にも慣れて来たものだ。

 端末を見ればまだハレルは起きてない様だ、無理に起こす必要もあるまい。

 

「おはよう、ナイン」

『おはようございます、シルス。ご機嫌はいかがですか?』

「良い感じだよ。それで今日は何の仕事があるんだ?」

『管理人が前から提案していた「果実の収穫実験」を行いましょうとのこと。スキャンの結果では成分的には問題ないとの結果がでています。味の方は95.4%の確率で酸っぱいとの判定ですが』

「ついにか……酸っぱいのは確定としてどの程度のすっぱさかだな……」

 

 カーテンを開けばそこには草木が生い茂っていた。

 

 事の次第は1ヵ月前、あの戦いの後に温室を作ろうと作業を始めた時だった……どうやら結界のおかげで「大樹」は寒さから身を守れてるらしいのは分かっていたのでゆっくり基礎設計を……と図面を引いていて、メリエラが大樹の高さを測っていた事で気づいた……最初に比べて何か大きくなっていないか?と。

 

 元俺の部屋、現根本を見れば根はさらに広がっており……結構な速度で成長を続けている事が判明した。一体どこまで巨大化するかわからない、そうなると温室にしても天井を高くしなければならないといっそのこと墓所を拡張してドーム状にするべきだとなって……施設の中心に支柱兼拡張施設を立てたり、倉庫にあった資材を湯水の様に消費し、更に足りないからと皆で周辺の廃墟を解体して使える素材を集めてと大忙し。結構な量の設備を発注したナユタの本部から来た神官もびっくりしていた。

 

 一応「生きている」土もそこそこの量を持ってきてもらえたのでこれで土壌を作るのも忘れない、アカネさんが活き活きとした顔で錬金術を使った地形操作をしてたが、たまには格好良いポーズを決めていたのはなんだったんだろう。そして着工からたった半月でその巨大建築は完成した。

 予想外だったのは細菌や微生物があっという間に定着して、そこに撒いた草花の種が信じられない速度で成長したことだ。どうやら地中に残留していたウルテウムの生命エネルギーが原因らしく、それらが草花に渡った事で大樹は「一旦」成長を止めた。だが既にドーム中央の支柱タワーの外壁に結構巻き付いており……こう命の強さというモノを思い知らさせれた。

 

 

 ここで思い浮かんだのは植物の栽培の事だ、思い出せばやはり果実を作るのに受粉を行わなければならない。いくら規模が小さいとはいえ全部を手作業で?と考えると無茶な事、蜂や蝶がその役目を担ってると教科書には書いていたがこの時代、そんな生き物たちが……と思ったら居た。

 

 なんとナユタは代々資金稼ぎに蚕や蜂などを育てて特殊な製品を作っていて、さらに環境悪化がありよりそういった仕事に力を入れている部署があるという。名を「ナユタ生物種保護機関」そこからいくつかの生物を譲り受けて環境は加速する。せっかくだし池も作ろうとか別の木も植えようだとか色々していたが……我々は肝心な事に忘れていた。

 

 事の始まりである大樹の事をすっかり忘れていて、目を付けた頃には花は既に散り果実をつけていたのだ。幸いナインが記録していてくれたおかげでどういった花だとか何時頃から咲いていたかは判明したが……今度は気になるのはこの「リンゴ」らしき何かがが食べれるかである。

 

 何やら外見はガラスや結晶の様な皮で包まれており、中はおそらく白い果肉がある……とスキャンの結果わかっている、が。こいつは普通の植物ではない、毒は無いとの事だが表面の皮を構成するのがいわゆるバリアなのである。

 

 触ってみても決して弾かれる事はない、が切断できるか?爆発したりしないか?襲ってきたりしないか?とちょっとした不安の声があがった。しかし結局やってみるしかない、放っておいて熟したら大爆発するとか言い出したらもっとヤバイからな。

 

 

 

 そういうことでメリエラ、レキ、アカネさん、管理人、そして俺・ハレルの6人が木の根元にやってきていた。エレミスに関してはあいつは腕を治してもらってちょっと手伝った後に教団に報告と修復の為に帰った。ご丁寧に連絡先まで残していってくれた。

 

 

「果実の数自体は20個、そのうち色がついているのは5つ。本来ならリンゴの様な果物は摘果するらしいけれど……数が少ないからその必要もなかったみたい、一つの枝に一つだもの」

 すっかり植物資料・大樹担当となったメリエラが端末を使ってデータを収集しながら解説する、彼女にもやりたい仕事が出来てよかった。初めて会った時からは思い浮かばない程に活き活きとしている。

 

 

「樹皮は薄いバリアで覆われていて……今の所私達があの大樹を傷つけたりサンプルを取った事はない。これが初めて。だから何が起きるかわからない、十分に注意して」

「これが私達とあの大樹のファーストコンタクト、という事ね?」

「そういう事……まず私が」

「ちょっと待て」

 

 解説の後にメリエラが前に出て大樹に近づこうとするのレキが止める。

 

「うちの里ではこういった収穫の前には、儀式が必要だった。命を貰う事への感謝、ここまで健康に育ってくれた作物へ、そして自分達を活かしてくれるモノへの祈り……というものがな」

「確かにそうですね、ナユタでも蚕から絹を取る時なんかに儀式してますもんね」

 

 ハレルがそれに便乗したが、確かにそれは必要だなと俺も思った。

 いわゆる『いただきます』だな。

 

 レキがごく短い舞の様な、祈りの動作をする。そこには間違いなく敬意という意思が宿ったモノだった俺達もそれに倣い大樹へ祈りを捧げる。すると不思議な事に風が吹いた、ここはドームでありそんな機能などないのに。

 

「……まさか私達の気持ちが通じた?」

「ただの木ではありませんからね……見てくださいアレ、果実のバリアが薄まっている」

 

 ハレルが言った様に見上げてみれば赤いバリアが薄まり中の白と合わさって黄色、あるいは金色とでも言える色に変わっていた。俺は大樹に近づきその根に触れる、心臓なんて無いのになにかが脈打っているそんな錯覚を覚える程に生命力にあふれていた。

 

「ありがとう、少しだけ……分けてもらうよ」

 

 そういうとハレルの姿に変身し、浮かんでリンゴの所まで行く。近くで見ればなおのこと綺麗だ、こんなもの元の世界でだって見た事はない……黄金のリンゴって奴か。あるいは禁じられた果実?

 

 右手で果実の底を持つ、そして左手でヘタの部分をつまもうとしたその時。何もしていないのに果実が取れた。そうか、本当に俺達にくれるんだな。

 

 

 下を見下ろせば管理人も幹に手を当ててきっと何か交信をしていたすると真上から一個、未熟な果実が振って来て管理人の頭に直撃した。何を言ったんだ?頭を抑えながら果実を拾った管理人にアカネさんが寄ってきた。

 

「どうしたの…………?ああ、施設側の根をこれ以上伸ばさないでほしいって交渉したの?そしたら『無理だ』って?へぇ……管理人、どうして植物とは喋れる事黙ってたの?何?つかう事がないと思ってた能力だからって?まあいいわ……それで我々の事をどう思ってるか聞いてくれる?」

 

 すげぇ管理人、植物と話ができるのかよ……アカネさんという通訳が居てよかった。おかげで話せるんだなこの大樹とも……。

 

「……なるほどね?しもべ?奉仕してくれる?これは正統報酬……ふーん……できれば枝の剪定もして欲しいって?……えぇ……子孫を残す手伝いまでしろって?」

 

 なんか聞いていれば随分とずぶといなこいつ、いや幹の話じゃなくて態度と要求の話だが……俺達が生み出してしまった奴だからアレだけれど……。

 

「ふーん……まあいいわ、今日の所はこれ以上は問い詰めないわ。ナイン、今のは記録した?」

『完璧に』

 

 しかし報酬、という事ならば遠慮はいらなくなるな。俺達は残った果実も回収して地に降りて籠に詰める。見た目は完璧……だけれどスキャンの結果は酸っぱいんだよな。

 

「何、その種を色んな地に撒いて欲しいだって?無茶言うわね、この土地意外荒れ果てて無理よ。土壌回復でもできなければ……え?改良して出来る様にしてみせるって??」

「なんかすごいこと言ってないですか?それでそれは何時くらいになるのでしょうか?」

 

 ハレルが問いかけた事をアカネさんを、管理人を通して伝える、と返答が帰ってきた。

 

「3年ぐらいでやってみせる、そうよ」

「なんかエライもの生み出しちまったな……」

 

 汚染されている大地を再生させる希望、そんなものが都合よく生えてくるとは……何かおかしくないか?

 

「アカネさん、そいつの目的、願いなんかを聞いて貰ってもいいですか?」

「……増えて、地に満ちて、星を支配するとの事よ。斧を持ってきた方がいいかしら」

「数万年はかかりそうですから大丈夫だと思いますよ。それにどうせ人間に破壊される方が早いですからバランスは取れます」

 

 なるほど、生命の原始的な欲望に忠実な大した奴だ。だが悪くない。

 

「気合の入った木は嫌いじゃないぜ」

「気合の入った木なんて言葉、はじめて聞いた」

「こいつも妖魔か何かじゃないか?里の言い伝えでは樹木の妖魔種もいるらしいぞ」

 

 メリエラとレキも呆れ、あるいは訝し気に大樹を見上げる。まったく誰に似たんだか……。

 

 

 

 

 

 あれから……ナユタの本部、いや「本家」と呼ばれる所にはアカネさんが直接行って連絡したそうだ。しかし特に指示はなく、通常通りに役目を果たせとの事。MCMSからの報復なんかもなく……ちょっとまだ安心できないけれど、それでも平和な時間が過ぎていった。

 

 まだルスフィオンは残っている、結構使った筈なのに全然減った感じがしない。おそらく内部で増幅されている……しかしまあ溢れ出す心配は今の所ないから見送りだ。あの金色の光、ウルテウム……あれがもっとあればなんだかルスフィオンを完全に制御しきれる……ような気はするがあの一欠片しか見つかってなかったのが悔やまれる。

 推測だけれど、歴史の中で同じようにウルテウムを使った者がいたりしたりするかもしれない。

 

 

 それはさておき、だ。

 いよいよリンゴに刃を入れる時が来た。こういうのはナユタの専門職に任せるに限るとアカネさんが愛理の出した包丁を握って慎重に刺しこ……いや硬いな!バリア皮が中々切れずアカネさんの手がプルプル震えてる!ちょっと危ない危ない!

 

「貸せ!見てられん!我が切る!」

「申し訳ないわ、私の力では刃が立たなかった」

「さすがに一筋縄ではいかないな……!」

 

 今度はレキが挑戦する、息を止め集中。押し込むのではなく引くように切……切れ……バリアを抜けた!よしいいぞ!そのまま押して……っ!おお!

 

「切れた!」

「よくやったわ、レキ!どうやったのかしら」

「は……母上が昔、ココナツを切った時の真似をした。しかし愛理よ……お前の包丁の切れ味でなければ勝てなかった……」

「そんなに!?リンゴがそんなに硬かった!?」

 

 バリアを破られて両断されたリンゴを見ると……俺は恐ろしい事に気づいた。切断面が……バリアによって保護されている!つまりバリアの発生機能は……芯ではない!?

 

「そ……そんな、さらに分割しなければらないの?」

 

 メリエラが絶望の表情を見せるが、だが諦めるには早い。そう切断面を下にすれば球体よりは切りやすい筈だ!

 

「今度は俺がいく」

 愛理の包丁を受け取り、俺は相手を観察する。常にバリアが流動して力が流される?しかし分割された事で出力は落ちている……ならば種か!透視魔術を使って内側を覗けば後2つ種がある。ここを超えればマシになるはずだ。どうやって刃を通すかで俺は考えたんだがこのバリアと同じ波長を出してバリア同士をくっつければバリアの内側に入れる……かもしれない!

 

「ハレル、お前の力借りるぞ!」

 

 俺はハレルに変身し、バリアコーティングシステムを弄ってリンゴが貼っているバリアと同じ波長を作り出す……そうすれば……!

 

「と……通ったわ!?そう、そうよね!バリアの基礎的な突破方法……!相手がリンゴだからすっかり忘れていたわ……!」

「我も、力押しで敵を打ち破る事ばかり考えていたが故に!!」

 

 アカネさんとレキががっくりと力なくうなだれる、そうだよな……こいつバリア貼っている以前にリンゴだもんな……そっちの先入観があるせいでリンゴごときと俺達は嘗めてしまっていた……大切なのは理解だったのだ。

 

「バリアコーティングの性質をよく理解していますね、シルス。そういえば前にもエネルギーシールドを手裏剣として投擲してましたし」

「ああ、うちの世界で運用されてる防衛システムのバリアもそういう感じでな、学校で習うんだよ」

「結構シルスの故郷も過酷さを感じますね」

「あんまり汚染されてないし、物資はそこそこあるからまだ恵まれてるとは思う」

 

 しかしバリアか、この力にはバカほど助けられてるな……同化能力よりも使う頻度というか、飛ぶときにもパワーアシスト使う時にもこの機能が基本になるからなぁ。これが無くなると一気に弱体化するし、なんなら空気中の塵や汚染とか、爆風とか熱とか、破片とか山ほど襲い掛かって来る脅威から生き残れない。

 

「さておきやり方は理解した。続けよう」

 

 同じ様にしてリンゴの種と芯の部分を切り分ける、するとバリアが種の方に移動して、ついに果肉があらわとなる。なるほどやっぱりか、回収用の取り皿に芯と種を移して残った果肉に向く。8つ切りだから1切余るな……俺、ハレル、愛理、メリエラ、レキ、アカネさん、管理人で7人だもんな……。

 

 まあいいやと思いながらまずは切り分け、皿に盛る……出来た。

 

「ナインのスキャンでは酸っぱいらしいので覚悟しておくように」

 俺はそう言ってハレルに体の主導権を委ねる、というかよく考えたら俺とハレルは一体化してるから感覚共有できるし、2回味わう事が出来るとも、味わう事になるとも言えるな。

 

「ではいただきましょう」

 

 ハレルが先陣を切り、一口。すっぱい、確かに酸っぱいが食えない程じゃないし悪くはない体に害もない感じだしちょっと甘味はあるし、何よりリンゴの匂いが滅茶苦茶する。もしかしたらジャムにしたりアップルパイみたいに火を通したら美味しいのかも。

 

「それぞれ感想を述べましょうか。率直に言うけれど私は甘党だから、甘味料を山ほど使ったジャムにしたいわ。匂いはいいから紅茶には合うでしょうね……それに保存が効くわ」

「甘味料はさておき紅茶は高級品、とても手に入る筈がない」

 

 アカネさんの意見に対しては同意だ、だが確かにこっちに来てからお茶というものを見てない。コーヒーばかりだ。よく考えるとチョコやコーヒーがあるだけでも驚きだ、どうやって栽培してるのか気になってきた。

 

「そうね、普通はね……けれどナユタは茶畑も持っているのよ、発酵のさせ方で色んなお茶が作れるわ……まあただしこれは贈呈用というか取引用だから私達が手にするには苦労するけれど」

「鬼の里にも茶畑はあるな、そっちからのツテなら手に入れる事も出来るかもしれんぞ……それはさておき次は我だな……これはりんご飴がよいと思う、飴の甘さと合わさればちょうどいい感じになろう」

 

 レキの提案はりんご飴か、確かにこれは現実的だ。何が材料かわからないけれど飴は管理人がいつも袋入りのを用意してるから多分手に入るんだろう。しかし鬼の里、色々あるな……行くのが楽しみになってきた。

 

「でも種を取らないととてもじゃないけれど飴をかける所ではないですね」

「そうだな、確かに……ちょっと技術的に難しいよな、持ち手の串も通らないし、そのままだとバリアに飴が弾かれてしまう」

 

 種がバリアの起点だから串通しは出来てもかじれない、かじるのに歯にバリアを纏わせるなんて器用な事をしなきゃいけなくなる。

 

「ううむ、厄介な難敵だなこやつ……次はメリエラ、どう思う?」

「私はそう、やはりアカネさんの意見と同じように火を通してアップルパイにするのがいいと思う。問題はそう……この香りが火を通した時に消えないか、そしてちゃんと甘くなるか。ナイン?成分的にどう思う」

『おそらくその点に関しては大丈夫と考えられます。火を通すのは確かに良い考えだと思われます。しかし、問題は甘味料だと考えられます。理想的な組み合わせとなるモノを選別するのは私にはできませんので』

 

 やっぱり火を通す方向性か、しかしこの世界の食事情の気になって来る話だ。ここに来てから結構その、栄養バーだとか合成肉やゼリー・ペーストなんて非常食セットでしか見た事のないメニューが多いからな……なにせナユタだと食にこだわる精神性を持った人が極めて少ないし、なにより作った物も優先して配給とか支援とか取引に使うそうだ。

 

 確かにそういう善意の面も打算もいい所だと思うけれど、もうちょっと自分を労わった方がいいと思う。味自体は悪くないというか美味しい部類なんだけれど見た目も食べ物のおいしさの一つだよなぁ。

 

 

「やはり火を通す方向は皆さん共通ですね、愛理はどう思います?」

「私はこのままでもいいけれどね、これでシャーベットとか色々加工したモノ作るのはおいしそう!」

 

 火を通す事ばっかり考えてたけれどそうか、冷やす方向もあるのか!そうだよな寒い環境だから忘れがちだけれどアイスやジュースといったものもあった!たしかに愛理は比較的俺に感性というか時代観が似てる筈だから……そういった発想が出てくるんだな。

 

「夏、夏が来ればな……」

「そうだよね~ずっと寒いもん……ドーム出来てずっと良くなったけれど」

 

 ちょっとばかりノスタルジックな光景を思い浮かべる、浜辺の街で比較的背の低い建物だったり路地裏だったり、セミの鳴き声だったり……ちょっと田舎の方に行くとあった光景だ。あの辺りはちょっと地理的にいいのか災害に遭う事も少なくて古い家も多く残ってた。

 

「じゃあ次は私が、これは……やはりドライフルーツでしょう。乾燥させつつ甘味料で味を付けて保存です、うまくいけばいつでもどこでも食べられます」

 

 それもいい!そうだよなこの世界の事を考えるとまずは保存、そっちに方面の発想も強くでるよな……比較的難しくはなさそうだし……。

 

「最後は俺か、俺もアップルパイだと思ったけれど。愛理の発想からジュースなんかもいいと思った、ハレルが言ってた様にドライフルーツにするのもいいよな。りんご飴もなんだかめでたくていいし、ジャムで普段使いもいい。幸い数が多いから色々と試せるし」

「そうですね、何か一つに絞る必要はありません。選択肢は多い方がいいでしょう」

 

 同じ一つのリンゴからでも色んなものが作れる、そうかこれが可能性という奴か……なんだか理解が深まってきた気がする。

 

「ちなみに管理人はりんごヨーグルトが食べたいそうよ、昔世話になってた人に作って貰った奴が忘れられないらしいけれど……ヨーグルトの入手何度が滅茶苦茶高いわね……乳牛と発酵させる為の種も必要だし……さすがにナユタにも乳牛は用意してないわ、アライアンスかユニオン辺りなら文化保存の為に持ってるけれど」

「里でも牛はせいぜい牛車か農作業用ばかりだ、食肉用のも育てておるが……手間がの……」

 

 なるほどなぁ……牛、牛はバカみたいにコスト高いよな、わかるしょっちゅう値上がりしてた。災害で農場壊滅しようものなら母上がブチギレてた。肉だけなら培養肉でなんとかなるんだけれど乳がね……滅茶苦茶価格エグい事になったのを覚えている。

 

 

 ちょっとがっかりした感じの管理人だが、いつか恩返しに用意してあげたいものだ……。

 とアカネさんと目があって互いにそう思ってる事が分かった。

 

 

「そういえば蜂蜜なら、連れて来てもらったレイホウ達が集めますからね。いずれ用意できるようにはなりますね」

 霊の蜂と書いてレイホウ、白いミツバチだ。なんと人造神格の力を宿して進化した蜂らしく、非常に長生きでタフ、おまけにある程度の事なら人と意思疎通のできるすごい奴らだ。とはいってもさすがに蜂で女王蜂を中心とした群が一つの生命体で個々に意思というものは殆どない、けれどすごいのは思念でこれが足りん、これが必要みたいな事を伝えてくる所だ。

 初めて話しかけられた時びっくりして飛び上がった。

 

 主に増えた蜂の巣と蜜は魔術的な材料として取引されてるんだとか、ちなみに死んだ個体はすぐに分解され土に還る事で生命のサイクルを回すそうだ。

 

 似たような感じでナユタは養蚕もしていてこっちはさらに力が入っている、ナユタのシンボルマークがそもそも蚕蛾と桑であり、白・銀色系の色が多いのもそれに因んでいる。なんならば「造物」の人造神格そのものを蚕として表現するともいう……そんなすごい文化と歴史を感じる逸話をハレルが語っていた。

 

 

「ところでこの余った一切れ……試しに角切りにして火を通してみない?」

「賛成です、どのみち遠慮の塊と化しますからね……最後の1個というのは」

 

 わかる、というかこの世界にも残ってるんだな遠慮の塊という概念……いやむしろこの世界だから一個食糧余ったとかなると更になんか圧がヤバそうだ。

 

 思い浮かべるのはどこまでも続く凍原で遭難して残る食糧は飴一つといった所。分ける事すら困難だ。

 

 メリエラの提案通りに最後の一個はアカネさんが物凄い正確に切り分けて熱を通した。確かに香りがよくて酸っぱさが減って甘さが増した。今日の所はこれだけにして残ったモノは経過観察をしながらどう変化していくか見ながら消費していくと決まった。

 

 明日の、未来への楽しみがまた一つ増えた。

 

 

 

 

 蝋燭の光で照らされた暗い石造りの神殿、その最奥に一人に少女と7人の「大神官」と呼ばれる役職につく者達が居た。彼らは今回ナユタの組織の方針を決める為にここにいた。

 

「ようやく、話はまとまったみたいね」

「ええ、アマネ様。MCMSとは戦う必要があると考えられます」

「幾度となく既に衝突しておりますが……ルスフィオンを手にしている事が分かった以上は放ってはおけません」

「人間同士で……また無駄な、無益な消耗になるでしょうなあ……」

 

 皆、本当に嫌々といった態度で苦々しげにMCMSへの対応を考えていた。かつても様々な……人類という種を脅かすような危険な組織とは戦って来た。大戦期に入り、それこそ「最終兵器」と呼ばれるようなこの世界を終わらせる様なものを完成させないように、あるいは破壊する為に数えきれない程の犠牲を出した。

 ようやく痛みに懲りたというべきか、それともただ単に体力が尽きたというか、本気でやりあおうとする者達はかなり減った。おかげでナユタも多少は持ち直した、が……今度は汚染と荒廃と資源の枯渇という現実にひどく打ちのめされていた。

 

 前の様な豊富な魔術資源と技術を使った他の追随を許さない戦力も今ではボロボロだ、おまけに優秀なまとめ役が多く死んだ為に内部統制もひどいことに有様で……「生物種保護機関」や「環境再生機構」などはもはや戦いなんぞうんざりだと戦力を出す事を拒否したり「技術研究所」や「シラ」「イクサ」といった分家は独自判断でアライアンスとユニオンによる秩序回復計画への支援を行ってる。

 

 加えて妖魔達と共存する「カイナ」に合流したり、自分達なりに世界の為に働こうとしてナユタを離れる者達はまだいい、だが欲に駆られて一線を超える者も一部に現れる始末……今回もそうだ。

 

 つまりは瓦解しかけの城なのだ、ナユタは。

 この7人の大神官はまだ比較的柔軟な思考ができるからいいものの、力で全部黙らせてナユタを纏め治すべきだとアマネから組織の長である「大巫覡」の座を奪おうとする者もあらわれる始末……当然ながら返り討ちにあい懲罰として奉仕活動へ送られた。

 

 そんな右を見ても左を見ても問題しかない組織のトップであるアマネはまだ17歳、だが誰よりも強い。

 全てを力で黙らせられるの歴代の神官・巫女の中でも最強である「イレギュラー」だ。

 

 もっともその力は抑止力としてしか使わない、最低限度の調停の為のモノと割り切っている。

 政治は組織内の人間の声を聴き、様々な意見を取り入れ、ナユタの最も基本的な「人の世の為」となる方針を選ぶ。

 

 

「……アライアンスとユニオンに力を借りましょう、彼らとてMCMSの事は非常に危険視しています。ナユタから出す戦力はそう……ハレル、ナユタ・ハレル。彼女だけで」

 

 

 そんな彼女がとてもではないが正気ではない言葉を述べ、神官達がざわめく。

 

「一体どれだけの借りができると……」

「シラとイクサが勝手に作った恩で帳消しになるでしょう」

「これはナユタの神官が引き起こした事態」

「魔法少女システムを流出させた以上いまさらの話、そもそもの話……」

 

 アマネは深く息をつき、この場に居る者達全て、あるいはナユタの全てに諭すように語り掛ける。

 

「この世界は私達ナユタだけのものではないわ、運命を決める権利は誰しもが持っている。本当にアライアンスとユニオンが秩序を取り戻したいと思っているなら彼らにも勝ち取って貰わなければならない。それにマキナ教団、彼らも手を貸してくれるでしょう……もう私達だけが全てを背負うなんて出来ないのだから素直に頼れそうな相手は頼るの」

 

「しかし、何故ナユタ・ハレルを一人で?いくら強力な巫女であっても一人では不足であろう」

「そうは思わないわ、彼女は……いえ彼女たちならやり遂げるわ。苦しくてもね……そうでしょう?」

 

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