【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm   作:青川トーン

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EP14

「ナユタ・ハレル、大神殿へ出頭せよ。そこで新たなお役目の伝達を行う」

 

 それは突然だった、烏を連れた神官が持ってきた指示書にはただそれだけが簡潔に書かれていた。

 アカネさんが凄い形相でその神官を睨むも、彼は平然とただ「お役目だ」とだけ返した。

 

 これまでハレルを前線から遠ざけて、できるだけ平和に過ごせるようにとあれこれ動いてきたアカネさんにとって本部からの呼び出し、それもハレルだけをというのがどう考えてもロクでもない事だと思うのだと。

 

 

「しかし、行かない訳にもいきません……MCMSへの対応の決定なども、私が取り込んだルスフィオンについても」

「ダメよ、また……またくだらない仕事ばかりを押し付けられるに決まっている。私が断るわ、押し付けられた使命や役目なんかに従う必要なんてないのよ」

「まだどんな仕事かは聞いていません、まずは一度話だけでも聞いて見ない事にはわかりません」

「なら私も行くわ」

「いえ、姉さんは墓所の守りを今まで通りお願いします。ここは私の、私達の帰って来る場所なんです」

 

 心配はわかる、けれど……確かにナユタの仕事の話を聞いていると過酷なのは簡単に浮かぶ。俺だって他人事じゃない、一体化している以上ハレルについていく必要があるのだから。何より当の本人であるハレルはやるべき、やらなければならない何かを背負う覚悟がある。

 

「アカネさん、俺もついていきますが……一つ案があります、エレミスに……マキナ教団について来てもらいましょう。うまくいけばそれで誤魔化せるかもしれません」

「……無茶よ、さすがにそんな子供だましでなんとかなる相手ではないわ」

「姉さん、わかってください。確かに姉さんの気遣いなんかはうれしいです。ですが私の意志でもあるんです。私が決めた事なんです」

 

 まあ俺には許可をとってないけれどな!とにかく行く事は決まってるようなものだ、そう考えると墓所の戦力低下が非常に懸念される。

 

「……わかったわ、あなたがそこまでいうのならば……ただどんな仕事を押し付けられても一度は戻って来なさい。一体何をするのか、私はしっておくべくだと思うの」

 

 納得はどうかわからないけれど説得は出来たみたいだ、さてナユタの大元か……一体どんな奴らがいることやら。

 

 ナユタの大神殿までは少し遠い、旧東京を越えて岐阜まで出ないといけないが……それは何時ものようにトレーラーに荷物を載せて運べば……の話だ。

 簡単な事だ、飛べばいい。

 魔法少女ならば余程に荷物を持たない限りは飛行能力だけで結構な距離を飛べる。それこそ太平洋を渡るとかも前に使ったブースターを使えば簡単だ。

 

 ただ空を覆う雲に突っ込まないか、今までに二度ほど空を晴らしたがあの雲の中は結構危険で怪物が住んでたり妖魔が襲ってきたり、所によっては空間の歪みやら色々あるらしい。

 かといって低空飛行も場合によっては同じ様に怪物や賊なんかに狙われたりすることもあるらしい、どっちも危険度でいえば変わりないじゃん。

 

 

 そういうわけで即日だ、エレミスに連絡を入れたらなんと今から向かうとの事で途中で合流との事だ。マキナ教団というかエレミス個人と連絡する為の専用端末までご丁寧に置いて行ってくれたおかげだ。

 

 他に懸念する事は……またハレルにかつてのように過酷な任務を与えられるか、そしてMCMSとやりあう事になった責任追及をされるか、後はルスフィオンか。

 色々考えているらしくハレルもずっとだんまりで、どうしたものかと思っていた所に管理人が来て、何かが入った箱が渡される。紙には大アカネさんの文字で「大巫覡アマネ宛 開封禁ず」と書いてあった。

 

「アマネ様に直接これを……?」

 ハレルも疑問に思ったのか問いかけると管理人は頷いた。

 

「これなんて読むんだ……」

「だいふげき、ですよ。アマネ様は3年前に就かれた今代のナユタのまとめ役です、姉さんとは歳は変わらないのですが……その凄まじく強く、人望のある方です。ただ時にはひどく厳しく冷酷な決断を下す事もあります」

 

 そうか、組織のトップというのはやはり時にはそういった決断を迫られるんだろう……だけれど俺はそれが受け入れられないものなら……どうしたらいいんだろうな。

 

「そしてもう一つ、あの人はこの世界で最初の魔法少女なのです。魔法少女システムは本来アマネ様を含む何人かの精鋭や協力関係にあった組織にだけ提供されるものだったのです」

「何故それが流出なんてことに?」

「アマネ様の前任の大巫覡様がやったんです。今思えば他の組織にも渡っていてそこから流出する事も考えられたのですが、独断でアライアンスとユニオンに供与、さらには技研を使ってエンジェルモデルを普及させながらも流出させていたんです。当然ながらトップとはいえ信じられない裏切り行為とみなされ、糾弾の対象となりました……そして」

 

 

「大巫覡様はナユタの巫女と神官を解放する、自由にする事こそが最後の仕事といい自決なされました。それが5年前の話です、それから2年はまとめ役不在の混沌とした状態でした」

 

 

 言葉が出なかった、俺もまだこの世界に来て日が浅く……ナユタの事だってあまり多くは知らない。

 だが遥か昔から自分を犠牲にして世界を守る組織だと、人の為にある組織だとは何度も何度も語られてきた。

 耐えられなかったんだろうな、誰も彼もが死んでいく組織に、だから……。

 

 

「皆、真意はわかっていたんです。人が皆自分の力で戦える様になればナユタが犠牲を払う必要なくなるのではないかと。あの人は他の人達よりもナユタの人達を想っていた、それだけなんです」

「結果は……」

「ええ、確かにその言葉のおかげでナユタを離れ別の組織で自分のやるべきことを探す様になった者、逆によりナユタに尽くすべきだと思った者、そして……自分勝手に力を振るった者……確かに自由は得られました。ただそれで出た多くの犠牲も考えれば……決して手放しで賞賛される事ではない」

 

 確かにそうだ、フールの様な奴や……それこそ魔法少女システムの普及で戦場に身を置く事になったもの、あるいは魔法少女の戦いで犠牲になったもの。ただ魔法少女になったから生きられたメリエラの様な救われた者もいる。

 

「難しいな、生きるって」

「そうですね、立場を、力を持てば尚更に大きなしがらみに囚われるのでしょうね」

 

 

 どんなに大きな力を持っていても結局の所一人では生きてはいけない。

 人間として生まれた以上は誰とも関わることなく生きていくなんてきっと不可能だ。自分が知らないうちに見知らぬ誰かとの関わりが生まれるのだから。

 

 

「相手は……MCMSは一体何を考えてるんだろうな、俺達の力を手に入れてどうする気だったんだろう」

「確かに相手を理解すれば、対策は練りやすくなるでしょうが……考えても無駄な時というものもあるのですよシルス。今は目の前のことを……そうアマネ様が何の用件で私達を呼び出したかを聞かなければ話は進みません」

「……そうか、わかったよ」

 

 

 

 

 

 そんなに速度は出してないがそれでも30分で目的の地点へと辿り着いた、幸いな事に道中へんなのに襲われることもなく、エレミスも無事に到着した。迎えの神官達について歩いてゆき、無言で山の中を進む。

 

 結界を通り抜けた先には……豊かな緑と、澄み渡った空気があった。ただそれ以上に張り詰めた雰囲気があった、それは神官達にとって初めて見るエレミスという部外者もだが……ハレルの存在に対してもまた気を向けているような感じでもあった。

 

 まるで恐れているかのようだ、もしかしたらルスフィオンを取り込んでいる事にかと思ったが……違う、ハレルという一人の巫女がまるで危険な存在だと思っているのか?俺は違うと言いたかったが、彼らにとっては怖いのかもしれない。何も言う事はなかった。

 

 

 そして苔むした石畳の先、石の柱が立ち並び、その先に目的地はあった。

 磨かれた様々な石のブロックを組み合わせて作られた古代遺跡の様なそれこそが大神殿。

 

「来ましたね」

 

 そこから出て来たのは銀色の髪と赤い目をした巫女、強い意志を感じる。きっと彼女こそが。

 

「はい、お久しぶりです。アマネ様」

「前に面倒な仕事を押し付けて以来ね……まあいいわ、それでそっちがマキナ教団の……我々とは違う神官だね」

「初めまして、マキナ教団の神官であるエレミスと申します。ようやくお目にかかれました、本来なら教皇もあなたに是非あってみたいとおっしゃっていたのですが……なにせ力を持ちすぎて警戒される事や、教皇にしかできない仕事が多く……」

「まあわかっているわ、それに我々にはまだ信頼も信用も時間も足りてない。いずれね……さて、ナユタ・ハレル……」

 

 挨拶も終わり、いよいよ来たかと身構える。それは覚悟を持ったものの目だ、そして相手を信じる者の目でもある。

 

「お前にはアライアンスに向かい、MCMSとの対決の為の協力要請の親書を届けてもらう。勝手に恩を売った連中が居たおかげでやつらも簡単には断れんだろうし、何よりも……可能であらば潰したいのも同じ気持ちであることでしょう」

「待ってください、それはMCMSと全面戦争を起こすという意味ですか?」

 

 俺よりも早くハレルが意見した、他の組織まで巻き込んでやるというならば……それは戦争なんだろう。

 

「そう、相手がルスフィオンを保有している事が分かった以上あまり時間の余裕はない。奴らを打ち倒す以外に道はない。お前達の思っている事はわかるわ、単純に戦闘で出る死人、そして一つの勢力が崩壊する事で起きる混乱……なによりも開戦の引き金を引く事となる事。故に、だからこそお前達に任せる」

「どういう意味ですか」

「お前が連れて来たそこの神官、エレミスだったね。マキナ教団は……MCMSを欲しいとは思わないか?」

 

 ハレルの役目、という話だったのが突然マキナ教団へ振られた事にエレミスは少し戸惑っていたが……やがて考えをまとめたらしい。

 

「ええ、確かに私がMCMSを掌握しようとしたのは事実です、あれだけの「資源」は貴重ですから。しかしマキナ全体の総意ではありません。教皇からも初めはネットワークを破壊し、動きを鈍らせろとの仰せだったので……」

「そうよな、MCMSは厄介な敵だ。だが取り込む事が出来れば味方にもできる……それを出来るのはお前達マキナ教団しかあるまい。直接ネットワークに干渉して制御を奪う事はナユタにもできる、が……人手が足りない、そして領地を、支配域を持たず、管理ができるだけの組織となれば……お前達だけよ」

「……つまり我々にも、未来を背負えと」

 

 いつになく真面目な顔をしたエレミスが問うとアマネは笑みを浮かべた。

 

「お前達もこの世界に生きる者ならば未来を選ぶ権利がある、教皇と話をする時間はあげましょう。お前が……お前達の選択が、お前達の未来を選ぶのです。そしてハレルお前も、アライアンスに対MCMSの協力を要請するとはいったがどういった形で攻め落とすか、それは自由にしていい。お前達がもし望むなら支配層だけ斬首して挿げ替えてもよいし、組織のトップに立って変えていく……それも自由だ。そして……もしも、もしもその気なら滅ぼしたってかまわないんだ」

 

 それは決して冗談なんてものではなく、本気だ、この人は本気でハレルやエレミス、そして関わる者達全てに選ぶ事を求めている。

 

「何故、何故ハレルなんだ?」

「ナユタ・シルス、お前はアカネと同じ問いかけをするのだな。箱を持ってきているだろう、まずはそれを渡せ」

 

 その言葉で持って来ていたものを思い出し、言われた通りに渡すとアマネはそれを開く。中には円柱状のクリスタルがあった。

 

「これはな、その昔ナユタの役目の為に予知や予言といったものを映し出す為に使っていたモノ。これでナユタに生まれた神官や巫女に相応しい役目というものを選んでいたわけだ……だが……やめたの、そのハレルの未来を見たが故に」

「何が、映ったたんですか」

「なにも、完全な虚無だったよ。だからバカバカしいと使うのをやめた。そもそも運命なんてものに縋るのが間違いだったと。アカネがこれを送ってきたのはもう一度未来を見て見ろとの事だろう……だが私はそうはしないわ」

 

 再び箱へしまうと、それを無造作に床に置いた。

 

「再三言うが、未来はその手選び変えていくものだと私は思っている……だが強く、誰よりも強く未来を変えれるものは居る。それがハレルでありお前だ、私の見立てだと管理人はそう長くなかったし、こうしてマキナの教団をつれてきたり、鬼族を仲間と友とし、怪異とまで手を繋ぐ……それだけの可能性を繋いできたお前達ならば……きっとやり遂げると信じている。今日はそれだけだ、親書が出来上がるのもだが、マキナの神官よ……これを教皇へ届けるがよい。また追って連絡する……今日は帰ってよいぞ」

 

 エレミスに封筒を渡すと、俺達に背を向け、箱を手に再び大神殿の奥へとアマネは戻っていった。

 

「これは大変な事に巻き込まれてしまったな……」

「あの人、俺達に選ぶ権利があるとかいい感じに言ってたけれど、つまりは丸投げってことか?」

「……そうですね、マジで自由にやっていい。って感じでしたから……」

 

 

 確かに威厳はあった、力強さもあった、でも結局要点をまとめると……。

 

「アライアンスに協力してもらえる様には言っておくからMCMSなんとかしといて、ってことか?」

「……そこに気づくとはさすがですねシルス、正直こうなんか深い事言ってる感じなんですけれど、あの人……その戦士なので……」

「細かい事できないんだな」

「正直あの人が暴れた方が、その大体解決する様な気もするんですよね。でも……あくまで力でどうにか出来る相手だけであって……今回の様に簡単に倒すだけはすまない相手は別です」

 

 MCMSという軍需複合体、それを俺は悪と決めて討ちたいとかじゃない。

 ただルスフィオンという危険な力を持っていて、それを積極的に使おうとする奴が居るから、それを止めたいだけ。できれば相手を殺したくなんてない、思い浮かぶのは最初に俺達に目を付けて攻めて来たハーミットやフール、自滅という形で死んでしまったが、どうにかできなかったのか。と今も思っている。

 

 エレミスと別れて帰り道、少し雲の様子がおかしく、低空を飛行する事となった。おかげで東京の地上を見下ろす事が出来た。ネオンのような輝きを放つ区画、蝋燭の様に薄い光で照らされた路地、そしてそこに暮らす人々はちょっと奇抜な格好をしていたけれど……確かに生きていた。

 

 MCMSは相応に大きい勢力でいくつも都市を持っている、そこには人が住んでいて……アマネ大巫覡も言っていた様に何も考えずにMCMSを潰せばそういった人達が犠牲になるから、これまで手出ししづらい状態にあったという。だが仮にもしマキナ教団にMCMSを乗っ取ったとしてそういった人達をちゃんと守るかだとか……。

 

 

 

 

 ……今まで関わった事のないスケールの話だから、俺にはどうしていいのか全然わからない。

 俺だって全部うまくいけばいいとは思う、けれどなにが上手くいった状態なのか、何をしたら失敗なのか答えが見えない。

 

 

 

「おかえりなさいハレル、シルス。一体何を言われたの?」

「アライアンスに対MCMSの共同戦線の為の親書を届けろとの事、そしてどうやってMCMSを攻め落とすかは私達に任せると」

「……丸投げという事?正気ではないわね」

「けれどナユタが率先して何もかもを動かすという訳ではない、逆にアライアンスやユニオンに全部丸投げしてもいいということでもありますが……私は行かなければなりません、ルスフィオンがある以上は少しでも犠牲を減らす為に」

 

 アカネさんが出迎えてくれたが気は晴れない、これが重責という奴かとぼんやりと頭の中に浮かぶ。

 父さんは、きっとこれ以上に色々な事を決断しなきゃいけなかったし、もっと多くの人を動かさなきゃいけなかったから……それほどではないのかもしれない。俺のしなきゃいけないこと、出来ること。

 

 

「シルス、少し休もう」

「そうだ確かに責務というものは、いずれの背負う時がくるが……今はまだだ、ハレルお前も」

 

 メリエラとレキが手を引いてくれる、休憩室のソファーに横たわる。力が抜ける、少し気分が楽になった気がする。

 

「また追って連絡するとの事ですが、まあマキナ教団と話を付けるにも少しかかるでしょうし、すぐにではないですね。しかしルスフィオンの始末に関してはどうにかしなければならないのと、やはりこの場所が割れている以上襲われるリスクを減らす為にも……問題は解決するしかありません」

「我らは……」

「おっと待った、レキは鬼の里まで巻き込むわけにはいかないだろ、それにメリエラとレキ、アカネさんが居ないとここの守りに関しては不安が過ぎる」

 

 そうだ、これは巻き込みたくないとかじゃなくてシンプルに入れ違いでMCMSが攻めて来たりだとかした時に防衛戦力が無くなるのだ。

 

 

 

「そうですね、MCMS側の防衛戦力なんかを引き付けて……エレミスか私かがMCMSのネットワークを制圧してしまえば済む話……かもしれませんね」

 

 なんだって?

 

「MCMSはどうしても電子ネットワークに頼り切りなんです、だからそこを制圧さえしてしまえば戦闘どころではありませんからね。いつもどおり、食っちまおうという話です」

「……できんのかよ?」

「無理ではないでしょう、ルスフィオンを制圧できたんですから。でもまあそれはエレミスに任せて私はルスフィオンそのものの処理に行きたい所ですね……アライアンスにはどうにかうまく敵戦力を引き付けれるのが……」

 

 頭に浮かぶのは前に侵攻して来た大量の機械の軍勢、あれを引き付けるとなると……とてもじゃないが犠牲無しとは難しいだろう。ましてや本拠地なんだからその数十倍・数百倍だって平気であるだろう。

 

「結局の所、今俺達が考えるべきことは無いんじゃないか?エレミスというかマキナ教団の返事次第だろ、もしかしたら……取り消しになるかもしれない」

「いえ、ありませんね……もしマキナ教団が乗ってこなかったとしても、自分達でやれることをしろと言われるだけでしょうね」

「ナユタっていつもこうなのか?」

「そうですね、いつもこんなことばかりです」

 

 アカネさんもハレルを連れて墓所に引きこもりたいと思うのもやむなし、俺でもなんでこんな事を任されてるんだって思う。

 

「エレミスに託すしかないか……」

 

 

 

 

 電脳空間、というべきか。グリッド線の惹かれた世界にエレミスが降りたつとそこには椅子とテーブルが現れる。

 

「待たせたな、エレミスくん。そしてよく戻って来てくれた」

「しかし面倒事を持って帰ってきてしまった申し訳なさの方が勝るのです……」

 

 まるで全身鎧の騎士のような2メートル程の機体だった、関節部や構造からあからさまに人間でない事はわかるが……その所作はまぎれもなくヒトのもので、深い知性と理性……そして経験を積んだ者のソレだった。

 教皇アルダート、このマキナ教団を興した男だ。

 

「しかし、我らも未来を背負えか。耳の痛い話だ、結局情報生命体への転換は逃げと見られたか」

 

 マキナは既に大地の荒廃と汚染を致命傷と見ており、文化や情報を蒐集し、遥か未来でそれらを再生させる事を考えている。だが決して世界に、人間に滅びて欲しいとは思っていない。

 確かに現人類は滅ぶし、なんなれば命あるものはいずれ滅ぶのだ、多少空白期間ができるものの継承はできると考えていたが。ナユタは連続性を大事にするのだとアルダートは推測する。

 

「ですが、我々を人とは見てくれた事だけで十分な成果ではあると思っています」

「だがアライアンスとユニオンも協力となると、彼らは我々を簡単には受け入れられんだろう」

「組織として受け入れられなくとも個人としてなら……と信じます、私は」

 

 当然ながら情報生命体となって機械の体を得る事をおぞましい行為だと、忌避感を持つ者も少なくないし、加えて権力を持った者が生き続ける事で社会の流動性が完全に止まる危惧もある。

 故にアライアンスとユニオンはMCMSやマキナ教団のような人格のデータや情報生命体化には否定的だ。

 

「それにしてもナユタの大巫覡は彼女だったのか。不思議な縁だ、かつて私を撃墜した少女がナユタのトップになり……彼女に墜とされた故に私はこの神体と……「記録」の権能を持つ人造神格と出会う事となった」

 

 ぼうっと浮かび上がるのはエレミスの機体とよく似た、いやエレミスの方が似ているといった方が正しい。

 これこそがマキナ教団の根幹を成す「記録」の人造神格。彼女の神体そのものだ、その正体は最も古き「記録」の巫女だ。

 

 一度途絶えるであろうという事を確信した「記録」の巫女の一族は機械仕掛けの体に希望を乗せ、未来へと託した。自我こそ希薄だが、それでも個としては確立した彼女は遺跡の中で眠りについていた。

 

 そして4年前、まだ生身のMCMSの兵士であったアルダートは聖遺物とされる品々の奪い合いでナユタ・アマネと衝突、激戦の果て敗れたが偶然にも地下遺跡へと墜落する。

 

 そこで封印されていた巫女の機体と出会い、自らの使命を定めたのだ。

 

 

 

「ここまでくると作為的なモノを感じざるを得ないものだ。機械仕掛けの神が我々に人を救えと言ってるようだ」

「元から人を救うのも我々の使命でしょう教皇」

「そうだったな、中々規範を守らない者が多くて罰する手も足りん。執行官も増員したいぐらいだ」

 

 

 ナユタと違いマキナの歴史はまだ始まったばかりだ、そうなると厄介なのが規範だ。それこそ信心深い者は少なくない、末期の病人、自らの体と意識の乖離に悩む者、死を恐れる者、永遠に研究をしていたい学者……様々な者がこのマキナには集まったが、教皇自身がそれほど宗教というものに造詣が深くなく……信仰に慣れていないのだ。

 

 今ですら信者達に感謝されど崇拝されると少し困ってしまう、そして行き過ぎた信仰からやらなくてもいい事までやろうとする者も現れる。しかしアルダートは規範と秩序を大事にする者だ、そういったものはきちんと処罰する。

 

「エレミス、君もそうだぞ。勝手にMCMSに潜り込み、ナユタに手を出して、結果としていい形に纏まったが樹龍を使うなどと……バカな事をしたな?」

「……返す言葉もございません」

 

 アルダートを悩ませるのは敵だけはない、ちょっとばかり自制の効かない身内もまたある意味では脅威なのだ。

 

 

「かつてMCMSの兵士であった者である言葉だ、よく聞け。あの組織は欲深い者が多い、それこそ我々の持つような人造神格の力を深く理解しようものならどんな兵器を作るか、そしてどれだけの犠牲が出ることか……しかし同時にそういったものを閉じ込めておく牢屋としても機能している。それをアライアンスとユニオン……そしてナユタも理解していたからいままでどれだけ挑発されても無難な落としどころで終わらせていた。それを潰すというならば……本気なのだろうな、もし我々が参加しなくともやるだろう」

「牢屋を壊せば、囚人は漏れ出す」

「それだけではない、今流通している兵器や戦力のコントロールも効かなくなれば、待っているのは大分裂と紛争の激化……なんなれば再び大戦にもなりかねん」

 

 浮かび上がった電子地図には北米をMCMS勢力、アジア圏をアライアンス、EU圏をユニオンが塗りつぶしている。実際の所は更に細かい勢力地もあるが、今はそこまでを考慮する必要はない。

 

「再びこの世界が燃えれば、今度こそ人は死に絶える……かもしれんな。しかしそれはMCMSをのさばらせておいてもいずれ起こる事だ……ならば誰かが手綱を握らねばならない。企業連合群をアライアンスが纏め上げ、魔術組織や政治団体や貴族をコントロールするユニオン……どちらにもこんな火薬庫の面倒を見ている余裕はない……そしてナユタ自体も決して健康とは言えない」

 

 となると我々がやらねばならんか……とアルダートは頭を抱える。確かにMCMSを手に入れる事には多くのメリットがある、教団の為の領地を得る事にだって繋がる。加えて様々な組織に武器を供与するのを絞らせれば……平和は近づく。

 

「我々が乗ってこなかったら本当にどうするつもりなんだ?ナユタは……」

 

 浮かぶのは根絶やしの一言、まさかやらないではあろうが……本気で憂いを断つ為にMCMS勢力圏を焦土にしてしまいかねない前科がナユタには多すぎる。

 

「ところで教皇はナユタの情報をどの程度おもちで……?」

「ああ、多少の事はな。かつてMCMSに身を置いていた時に敵対してな……深くは知らなかった。しかし、今思ってもMCMSでは不自然なまでにナユタの情報は統制されていたな」

「……不思議ですね、確かに私が潜り込んだデータベースでもナユタの情報は殆ど無く……傭兵などとの関わりから手に入れたモノの方が多い」

 

 二人はある推測をする、おそらくMCMSにはナユタの情報を意図して秘匿する何者かが居る。

 それが何の目的か、までは分からないが……。

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