【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm 作:青川トーン
「はぁん……それでナユタから対MCMS共同戦線の打診だってか?アマネが出れば一発だろ」
「お前は政治がわからん奴だったねハヤテ……私が出来るのは滅茶苦茶に壊す事だけ、人を救うにはそれだけではだめなのはわかるでしょう」
「それで親書なら私がこのまま『持って帰ればいい』のに何故そっちから送ってくんだよ」
「これも政治の一つだよ、こちらから頼み込んだという証拠が必要なの」
ナユタ大神殿のある洞窟の上に建てられた屋敷に二人の少女が居た、片方はアマネ……もう片方が青髪の魔法少女。ヒビキ・ハヤテ……彼女はアライアンスの魔法少女だ。
「お前とソニックインパルス、この世界でそれを捉えられる者は多くない。メッセージを運ぶならこの上なく安全でしょう……がそれ以上に借りたいのはそう、力よ」
力という言葉という言葉にハヤテが笑みを浮かべる。
「なんだよ結局暴れろってことか?」
「ハレルとシルスあの二人ならば犠牲を減らす事ができる。味方も敵も、救えるだけ救ってくれると思っている。本当に壊す事しかできない私と違って。だから彼女達が望むならば力を貸してあげて欲しい」
「それなりに報酬は貰うのは前提として、多少試しても構わんだろ?」
「アライアンス最強の魔法少女と模擬戦が出来るのはいい経験になりそうね。まあ程々に」
「連中の為のコードはここに書いてある。守備隊連中に接触したらこのコードで通せるようになっている。まあ楽しみにしておくさ」
ハヤテがここに来た理由、それはアライアンスとナユタの間の連絡網が細く連絡に手間と時間がかかるが故にアマネが個人的な伝手を使って「友人」として彼女を呼び出し、「早く確実に」情報をやりとりする為だった。アライアンス最強の魔法少女という称号は「信用」としては最大のモノであるが、それをメッセンジャーとして使えるのはそれこそアライアンスの上層部と友人であるアマネぐらいのものだ。
彼女には先んじてアライアンスに「ナユタが協力を求めている」事と「その為の親書を持った者が通る」為の通行手形を発行してもらった。後はハレルにそれを持たせて目的地に送るだけ。
「都市番号RD-011だ、そこへ送れ。レイディアントの本社があるからそのまま直にアライアンス上層部に回せて承認もすぐに降りるだろう」
「助かる、お前には……助けられてばかりだよ」
「よせ、少なくともお前に助けられた方が多い」
友人というだけあってアマネとハヤテの付き合いは長い、アライアンスも統治機構として危険な案件を野放しには出来ない……時には超常的な存在などと戦う事もあり、その専門家としてナユタに協力を仰ぐ事もあった。今でこそアライアンスは大勢力となり、自分達で殆どどうにかできるだけの力を得たがそこまで至るまでに多くの苦難があった。
それを乗り越えて来た原動力こそ魔法少女システムだ、ナユタから横流しされたデータをベースにつくられた独自モデルと運用システムが今のアライアンスを作る一因となったのは間違いない。
「まあお前もたまには戦場に出ることだ、どうせその仕事も飽き飽きしてんだろ」
「飽きても役目だよ、任せられるだけの器の人間が居ればすぐにでも退きたいのだけど」
「違いない、じゃあ。待ってるぞ」
ハヤテはふわりと浮かびすこしの距離を飛ぶと、急加速して瞬く間に音を置き去りにして飛んでいく。
遅れて強風と空気が破裂した音が響く、文字通り音速を越えた飛翔。それがソニックインパルスの名の由来だ、彼女の纏う魔法少女システムはエンジェルモデルとは異なるファーヴニルモデルと呼ばれるモノで、アライアンスが開発したものだ。
「さて、出来る仕込みは済んだ……私も後を託して好きにしたいものだ。何もかも」
アマネは戦士だ、戦士としてだけ生きていればいいと思っていた。だがどうしてもその場を統べるものがいなければならなかった。生半可なモノではとてもこの地位に耐えられない、故にやむを得ずここにいる。
しかし居ないものは仕方ない、ハヤテの飛翔により切り裂かれた雲の間から見える月を見上げた。
「アライアンスの勢力圏では、魔法少女の活動にはアライアンス・システムと呼ばれるネットワークに登録が必要です。いわゆる傭兵ネットワークの様なものですが、ただ戦うだけでなく建設業や運送業、一部製造業といった戦闘能力の不要な仕事の斡旋・紹介なんかも行っています。これは貧困家庭の子供や孤児、ストリートチルドレンなどを救済し、治安を維持する為の機構でもあります」
「いわゆる社会福祉ってやつか……結構いい所もあるんだな」
「ええ、加えて年に二回は更新の為の試験を受けるか、アライアンス所属の企業による講座を一定数以上受けたりしなければなりません。これはわかりますね?教育です」
「なんだめっちゃいい所じゃんアライアンスって!!!」
こんな荒廃してる所で企業が支配してるって言うからちょっと怖いイメージがあったが全然違った、もっとディストピア的な……奴隷労働とかやってるような所かと思いきやちょっとちゃんとしたタイプの管理社会みたいだな……とハレルの説明を聞いて思う。
「そうですよ、割と本気でユニオンとアライアンスは人類の為にやってるので……まあよくない話なんですがナユタの一部も肩入れしてるんです。それでアライアンスの話の続きをしましょういい所が多いように見えるんですが一つどうしても欠点がありまして……こうやる気のない人間に対しては厳しいんですよ、例えばスラム街や僻地で日銭を稼いで生きる以上の事を望まない者だとか、向上心を持たない者まで拾いに行く事をできないんです。いわば強制徴用みたいな事ですね」
ああ……確かに、誰しも自分から救いを求めて状況を良くしたい、学びたいという意思は大事だ。それがない相手に押し付けてもやりたくないで効率がよくないし、罰を与えれば恨みを募らせるだろう。
妹に家事を覚えさせようとして失敗した俺だからそれはよくわかる。
「こう孤児とかストリートチルドレンとかは積極的に保護して教育を受けさせるなどはできるんですが……ね。まあそれで重要な所なんですが、アライアンスで非認可の魔法少女はかなり重めのペナルティがあるんですよ。良くて資格剥奪・装備の没収で悪ければ勢力外追放、あるいはその場での排除すらありえます。犯罪者とか秩序を乱す者に対して厳しいのもまたちょっと悪い所の一部かもしれません。おかげで治安は大分いい部類に入るんですけどね」
「確かに魔法少女システムは、結構危険だものな……それで外部から入るならどうするんだ?」
「シンプルに検問で来訪目的を告げて、必要であればその場で仮登録かコアか武装を預けるとかですね。ああ発信機の保有は必須ですね。自分は外部からの者ですよって奴、移住目的ならそこから都市の役所に行って住人登録ですよ」
「犯罪履歴とか調べないのか?」
「今の世の中、悲しい事に人との撃ち合いぐらいは珍しい事ではないですし、指名手配されてなければ誰でも通りはできますよ。まあ悪い事をすればそれだけ罰が重いので……私も何度かアライアンスの勢力圏に行った事はありますが、まあ沿岸部を通る時に密航者との撃ち合いやってましたしね」
いい所もあるけれど厳しくする面もないといけないのは、そうだよな……何も無しで来る者拒まずは流石に無理か……それに考えれば思想面でも合わなければアライアンスに住み続けるという選択肢もないし、だから他の勢力もまだまだ残っているのか。
「もう片方のユニオンって勢力はどうなんだ?」
「こっちはまあちょっと変わってまして、貴族制度が復活してるんですよね。まあ魔術師とか政治家とか色々取り込んで出来た勢力ですから。こっちはシンプルに良い所は配給制度があってまあアライアンスと違って向上を望まない人々にも手を差し伸べるんですよね。加えてこっちもまあ古い時代の制度みたいなんですが統一軍という完全な勢力直下組織がありまして、正規軍を作ってそこで魔法少女や魔術師を管理してます」
「なるほどな、いかにも秩序って感じがするけれど悪い所もなんだか予想ができた。成り上がりができないんだろ?」
「察しがいいですね、一定ラインまでは上がれるんですけれどそれより上に行くには政治ができないとダメなんですよ。加えて傭兵なんかも統一軍の指揮系統に入らないと仕事が出来ないのでユニオンにはいきたがらないですね」
まあ正直な所傭兵ってイメージ悪いものな……独自行動のハードルが高いという訳だ。それに貴族って言ったあたりからそういう所は安易に予想できた。
「なるほどな、成り上がりたいならアライアンス。安定した暮らしが欲しいならユニオンか」
「そうです、そういう風に勢力を作ったんですから。ただそのどちらにも合わなかったりして所属しない者も少なくないですがね……続けましょう、ユニオンが配給をやれるのはこの統一軍の仕事として製造やインフラ整備といったものを含んでいるからなんです。こんな荒れた世界ですから頻繁に戦いは起こりますが常にやってる訳ではありませんからね、訓練もですが余った時間に兵士達なんかをサボらせておくのももったいないですからモノづくりをさせてるんです」
「すげぇ合理的だ……でもそれをやると民間の企業とかは……」
「なんらかの理由とかで退役した人達を雇用したりしてますよ、他にも戦うのが無理な人だったり。今の時代物資はあるだけいいですからね」
ちゃんとそういった理性のある人間が組織を作ってるって考えるとまだ捨てたもんじゃないな……。
「色々語りましたが……結局私達の行くのはアライアンスだけです。アライアンスが動く時はユニオンに話が行きますからね。そっちには態々いかなくて済むんです」
「ところでアライアンスとユニオンが争ったりとかは」
「滅茶苦茶ありますよ、資源を巡ってやり合う事なんかもですし領地に加え入れたいとかそういう理由でも」
人間が2人居たら争いは起きる、さすがにあったか……。
「これは仕方ない事です、人間の本質の一つですから争いは……まあさておき、MCMSは物理的距離もあるんですがこれまでアライアンスやユニオンと多少の小競り合いこそあれど本格的にやりあう事はありませんでした。それが起こらなかった最大の理由はMCMSを潰すとそこに住まう人々を誰が統治するかという問題が発生する事。次いでMCMSが持っている工場やインフラを破壊すれば文明がさらに後退するからです。さてその両方を解決できる組織の候補……それがマキナ教団。加えてアライアンスやユニオンとズブで信用のあるナユタがお墨付きを与えました……これでようやく手を付けられる訳です」
俺達が火を点けるという事か、戦火をか。
「シルス、そこまで思いつめないでください、話は終わってません。情報を纏めていて私は気づいたのです、別に正面から戦う必要などないと。そもそも話を通すのもこれからMCMSを変えますよというだけ……武力を極力使わずにMCMSを制圧してしまえば血は0ではありませんが殆ど流れずに済むでしょう」
「昨日言ってたネットワークとデータベースを制圧してしまうって話か」
そうだエレミスの、マキナの神官の力を使えばやれるだろうかもしれない……だがすんなり行くのか?そもそも前にMCMSに潜入してた時は失敗したと言っていただろうに。それにだがエレミス個人はいいが……マキナ教団そのものが信用できる組織なのかと……まあここは信じるしかないが……。
「まあ乗っ取りが完了してしまえば向こうはどうにもなりませんからね、ただドッペルの様なルスフィオン機体がネットワーク非接続で存在する可能性も考えて置くべきですね……後は魔法少女全般です、魔法少女無人機も普通の魔法少女も人造神格の加護があるので完全に制御を奪う事は不能でしょう。接触同化もうまくいくかわかりませんし。やり方はかなり卑劣かもしれませんが……人質作戦か、そもそも気づかれずに制圧する必要があります」
「……人死にが、犠牲が出なければそれだけいいさ。後はそうだな、乗っ取った後は向こうのお偉いさんとかどうすんだよ……」
「そこも……問題ですね、ネットワークに頼らない私兵に、その考えたくないんですが……マキナ教団の乗っ取りにカウンターが出来るだけの技術があるというのも……可能性にはあります」
前提が壊れるな……けれどそうなるとやっぱり少数精鋭で潜入して、失敗しても即座に脱出できる方がいいかもしれない。
「俺達だけで忍びこんでエレミスの端末をサーバーなんかに繋いでいって制圧していくってのはどうだ?」
「そうですね、さすがに我々と違って生身でない以上向こうでも目立つでしょうし……後は一つだけ心辺りがあるんですよ。アライアンスがもし乗ってくれたならば……最速の魔法少女の助力を借りれる、かもしません」
「最速か、どんなやつだ」
「竜の因子を移植した強化人間だけが使える「ファーヴニルモデル」その中でも最初の資格者である「ヒビキ・ハヤテ」です。彼女の専用モデルである「ソニックインパルス」はその名の通り音速を越えるスピードで飛翔できます。様々な戦いで絶対的とも呼べる防衛網を突き抜けて強襲、あらゆるものを破壊し尽くして即離脱し追撃隊も迎撃隊も振り切る恐ろしい魔法少女です」
ハレルが端末からホログラムで投影した戦闘映像では遠く彼方から一瞬のうちに飛来して無誘導ロケットだけで施設を破壊、衝撃波とブレードだけで防衛用の機体やアンテナなどを破壊し僅か20秒で去っていく魔法少女の姿があった。
圧倒的だった、恐怖すらあった。こんな奴がいるのか?
「ハレル、正直こいつを相手にして勝てるか?」
「殺されはしませんよ、ただ護衛対象を守り切れるかといえばまず無理ですね。ルスフィオンの汚染を使っても正直汚染より早く抜けられるだけでしょう」
それほどか、正直……ドッペル以上の脅威となる相手は居ないと思っていた。だが世界は広い……こんな強者がいるのなら他にもヤバい奴はいるだろう……。
「シルス、あなたが恐れるのは正しい事です。この世界には私達より強い魔法少女も、なんなら魔法少女でなくても強力な存在はいくらでもいるんです。かつて倒した樹龍もドッペルも強者の一つでしかない。そしてそんな強者であっても、結局のところ補給や休息を必要としたり何かしらの弱点があるのです。決して絶対者などいないのです」
ハレルの目には強い意志が宿っていた。それはどんな苦難にも必ず活路があるという闘志……。
「MCMSは確かに強大な組織です、ですが……打ち崩せない訳ではない。実際に彼らは自らが撒いた争いの火種で自分達の首を絞め、全盛期に比べれば衰退しています。それに組織というものは必ず不満を抱くモノが現れるのです。そういったものを味方に引き込むのも立派な戦術の一つです」
確かに、ナユタに不満を抱くモノの実例が近くにいるから説得力が違う。悩むのも、考えるのも大事だ……けど心で負けてちゃダメだな。
出来る事だけ、で諦めてちゃいけないんだ。
やりたい事をやり通す。
これまでだって、そうしてきただろう。
数日後、ついに正式にアライアンスへ親書を運ぶ為の旅が始まった。旅、というにはそう時間のかかるものではない。目的地であるRD-011までは4時間あれば到着できる、そこでアライアンス所属企業「レイディアント」にこの親書を届けて返答を待つ。
どうやらマキナからは既に返事が来ており「やるしかないのだろう」との事。教団のトップである教皇と呼ばれる者からは全面的なバックアップが確約されたらしい。
MCMSの主要施設に潜入して端末によってマキナ教団のハッキングを同時多発的に行ってネットワークを掌握するプランはあっさり承認された、後は……どうやってMCMSに潜入するかとどこを制圧すればいいのかを考えればいいだけだ。事前に思い悩んでいた事が嘘のようにやればなんとかなる気がしてきた。
海上を強襲用ブースターで瞬く間に駆け抜けてアジア圏、現アライアンス統治圏に入るのは一瞬だった。沿岸には座礁した船が山ほど積み上がり、破壊の後も見飽きる程に続いていて、嫌気がさした。
崩れ落ちた市街地の廃墟と雪原を越えて、ブースターの燃料残量が半分を切ったのでスピードを落そうとしたその時だった。
目的地まで後1時間といったところで俺達は、襲撃を受ける事となった。
まるで俺達が少し高度を下げたのを見計らったかの様に飛んできたのは白い輝きだった、重いブースターを即座に切り離して回避したその後ろで凄まじい勢いの爆発が起きる。
プラズマキャノン、それもかなりの威力だった。ブースターは見事に吹き飛んだ、飛んできた方向を見れば魔法少女が居た。
「識別信号は……無し、アライアンスの魔法少女ではない。いわゆるバンディットですね」
「秩序はどうしたんだよ秩序は」
「大半は荒地ですからね、どうしても全部が全部管理できるわけじゃありません」
困った事に無法者はやる気らしい、無視していきたい所だが……二発目はレールガンが飛んできた。かなり狙いが正確で背を向けていては当たりかねない。最低限度武器だけでも潰して離脱してもらう他ない。
「間抜け!ブースターを破壊してどうする」
「お前の狙撃が遅いからだ、だが見ろ奴の衣装に荷物……何か貴重な品を運んでるかもしれん」
どちらもドクロをモチーフにしたいかにも賊ですよといった格好で、汚れた赤い装束を纏って火器と斧を持っていた。こんなテンプレートな賊がいるのかよ……!
「傭兵ですらない相手ですし、我々には急ぎの用事があるのです。悪いですが今回は説得抜きで叩き伏せていきますよ。放っておけば襲われる人が増えるだけですし痛い目にあってもらいましょう!」
正直乗り気はしない、だが確かにハレルの言う事も確かだ。悪意を持って他人から奪う者を放っておくわけにはいかない。
瞬時に加速して距離を詰める、狙いは正確だが……判断力はメリエラやレキより遥かに劣ってる。距離を取る事も互いを庇うとかもなく、愚直に構えてこちらに撃って来る。それらを避けてまずはプラズマキャノンをグリムリーパーで両断、次に味方ごと撃とうとしたレールガンを切断。後ろを取ったと斧を振りかぶってきた所をそのまま回転して出力を下げて斬り付ける。
「わ……ワアアアッ!」
コアの表面を軽く切り裂いたおかげでバリアコーティングが一気に剥がれて浮遊力も維持できず落下して地面に激突して動かなくなる、生命探知ではさすがに死んではなく痛みとショックで動けないだけみたいだ。
「よくも!」
残った方も柄の底で思いっきり腹をついて衝撃を与えて怯ませ、そのまま放置。
射撃武装を奪った以上もうこっちに危害を加える事はできない。相手にする必要はないし何より相方を拾いに行く方を優先するだろうとの判断だ。
離脱するこっちを一瞬追おうとしたがそもそも機動力で追いつけない事に気づいて諦めたようで、追撃はなかった。
「いつもこうなのか?」
「まあこんなもんですよ」
しかし余計な足止めを食らった上にブースターは失うし、帰りはどうしたものか。
「装備ならまた買えば済む話です、アレも決して貴重なモノではありませんから。後は連中の心配はしないように、また考えていましたね」
「しょうがないだろ、俺の価値観なんだから」
「いえば犯罪者ですからね。あの様子で普通に我々を撃ってきたという事は他人を殺めていてもおかしくない……それでも庇うのですか?言ってはなんですが、ああして武装を壊した事で連中は他の略奪者なんかと戦う術を失いましたね」
「俺が殺したくないんだよ!」
厳しい言葉だし、ずっとこうやって手を汚さないで居続けるのもいつまで出来るかわからない。
ただ俺の意志で殺さないと決めてるんだから。
「すみません、ですが温い手加減なんてしようものならその時に傷つくのはあなたなんです」
「悪い、この世界がこうなのはわかってるけれど、それでも殺さずに済むならそうする。可能性を消したくない」
割り切れれば楽なのかもしれない、でも一人殺したらその次もそうしてしまうかもしれないのが怖い。だから俺は迷わない為に殺さない。
「まあ、あれらの討伐は私達の仕事ではありませんからね……それに少なくとも戦う事すら嫌がてった頃に比べてはマシになってるのでよしとしましょう。シルス、もしこれからもその想いを貫きたいのなら……苦しむのをやめないでください。苦しみ抜きながら正しさを探し続けてください」
「なんてこというんだよ、わかってるさ。常に正しさを疑い続けろということだろ」
「そうです、何が正しいのか、どうするべきなのか」
スパルタ、というかこいつのキツいところだ。必要ならば殺すという選択肢を取った者の言葉の重さが半端ではない。命を奪って、可能性を潰えさせてきたから、どれだけ後悔してきたかも。
「一般的な英雄には向かない性格ですね、一人でも救うというのはどちらかというとそう……救世主といいますか」
「そんな大層なものにはなりたくない」
悪いけれどそういうのも違う、俺はただ目の前の誰かを助けたい。それだけなのにな。
誰かを助ける為に誰かを犠牲にして、それで手に入れた平和なんて苦しくて仕方がないだろう。
そんなことを考えていたらまたしてもロケット弾が下から飛んできた、今度は生身の連中だ。ヘルメットを被った集団……こういう賊もいるんだ、そういや外の大人を見るのは初めてか?
脅威じゃない、こんな奴ら。適当に回避しつつ通過しようとしたら小さいロボットに乗った奴らが飛び出してくる。
魔法少女が普段使ってるプラズマキャノンを腕にくっつけたロボだ、さすがにこいつは脅威だ。
グリムリーパーで通り抜け様に切り落とし……そいつは墜落していって。
爆発し、巻き込まれた奴らが炎に包まれた。
?
死んだ?
「シルス!!なにをしているのですか!」
強引にハレルに肉体の主導権を取られる、けれどそれどころじゃない。
今の一撃は武器だけを狙ったのに……もしかしてバランスが崩れた?それで墜落しただけで爆発する?どんな欠陥だよ。
「こっこいつ!まったく!厄介な奴ですね!」
ハレルが弾幕を潜り抜けて離脱するのを他人事のように見ていた。
それで、ようやく気付いた。
俺は殺したんだ、あんなにあっさり人は死ぬんだ。
なんだ?今まで悩んでいたのがバカみたいにすんなり人を殺せてしまった。
もう炎は見えない、これだけ距離が開けば追ってこないって所で地に降りた、というか墜落した。
体が重い、息が苦しい。ルスフィオンどもが笑ってやがる。
「愛理!ちょっとお願いします!」
ハレルと俺の姿が入れ替わる、そして愛理が目の前に現れた。
「シルス、こんな形でこういう事したくなかったんだけれどさ……」
俺の両頬を手で包み、正面から愛理の顔が近づいてくる。そして俺にキスをした。
「ば……ばっ!?何するんだよ愛理!?」
「よかった戻ってきた……!シルスは今死のうとしてた!」
何?俺が死のうと……?
「そうだよ!確かにシルスが誰かを死なせちゃうのが嫌だって知ってる!でもそれが……まさか自分から死ぬのを選ぶぐらい嫌がってるなんて」
「……そうか、確かに俺は……今あいつらを」
「殺したよ、シルス。気に病まないでなんて無責任な事は言わない、けれど生きて。私達はあなたに、シルスにどんなことがあっても死んでほしくないの」
呼吸をする、冷たい空気。雪を触る、冷たい。愛理が触れる頬、温かい。
俺はまだ生きている。
「まったく……!!突然ルスフィオンを自分に向けて放射し始めるとかあなた狂ってるんですか!いえ狂ってるんですね!ちょっと……一瞬なら大丈夫でしょう。シルス、立ちなさい」
ハレルに言われるまま俺は立ち上がる、すると突然体から何かがごっそりと抜け落ちる感覚がする。力が無くなってよろめく。
そして何とか視線を向けるとそこにはハレルが立っていた。
「歯を食いしばりなさい」
そういいながらそんな暇もなくとんでもない痛みが走って、意識が飛びそうになる。
何が起きたかは一瞬で理解できた、ハレルに殴られたのだ。
また体に力が戻って、ハレルが一体化したのが分かる。
俺は今、そうだ……叱られたのだ。
「あなたが死ねば私も消える、って程ではなくなりましたね。ですが……そんなことはどうでもいいんですよシルス!!愛理が言った様に私達はあなたに死んでほしくなんてない!メリエラもレキも管理人も姉さんも!そう思っています!」
「ハレル?泣いてるのか?」
「あなたが痛くて泣いてるだけでしょう!!」
雪の上に、ポタポタと雫が落ちる。
そうか俺が泣いているのか。いや、愛理も泣いてるな……人を泣かせるのは、最低だな。
「ごめん、でも……でも俺は……俺は殺したくなかった!」
「そんなこと!わかっていますよ!そもそも奴ら死んでませんよ!!」
「は?」
待って?普通はこう機体が墜落して爆発したら死ぬし。爆発に巻き込まれたら……即死しなくてもまあ致命傷だったり……え?
「生命探知使えるんだからちゃんと見てればわかったでしょう!あいつらもこんな過酷環境でただの生身で活動してる訳ありませんよ!ちゃんとバリアコーティングで体を守ってたんですよ!まったく早とちりで死のうとするのはやめてください!」
な……なんだよ!!死んでねえのかよ!!っていうか頑丈すぎんだろ人間!!
安心したらバカみたいに気が抜けて転がってしまった、地面の冷たさが心地よくなってくるぐらいに。