【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm   作:青川トーン

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EP16

「ユニオンからの返答があった、かなり前からMCMSのEU方面支部を掌握していたそうだ。どうにも工作員が支部長を寝返らせていたらしい」

「見返りはなんですか?」

「身の安全と地位、そして金だ。おかげで主要拠点を割り出せているらしい。それと……内部で情報工作もすでに行われている。ナユタや暗夜教会、エクソシストモデルの情報といったユニオン協力勢力の情報を悉く改竄していたそうだ」

 

 電子の円卓に座るのは教皇アルダダートにエレミス、加えて更に執行官と呼ばれるマキナ教団の特殊戦力が3人。それらもまた金色の髪に少女の姿、マキナの祝福を受けた者達だ。

 

「なるほど、そもそもナユタはアライアンスともユニオンとも繋がっていたということですね?教皇」

「そういうことになる。何にしろ繋がりがあるというのはいいことだ、こうして話を通しやすくなった。後はだが……どう攻めるかだが。そこは彼女らが考えるのだったな」

「信頼できる者達です、しかし背負わせるには重いなとは思います」

 

 エレミスは短い時間ではあるがハレル達と共に行動し、信用し、信頼するに足る器だと判断していた、それこそハーミットは利用できる止まりだったのに。

 己も随分甘い事を、と彼は自嘲した。

 

 特にシルスは誰も死なせたくない、なんて言っているのだから。相当に苦しむ事になるだろう、こんな大きな事を起こして大きな犠牲が出ないなどまず無理だ。

 それでも彼ならば……という期待をしてしまう。

 

「仕込めるだけ仕込んでおきましょう、教皇」

「そうだな、ユニオンとアライアンス、そしてナユタに連絡をさらなる協力の用意ありとな」

 

 教皇には宙に浮かぶマキナの神体が微笑んでる様に見えた。

 

 

 

 

 

 RD-011「レイディアント」と呼ばれる総合工業グループが管理する都市群の一つ、地上には巨大搬送機構が張り巡らされ、エレベーターを使って直接区画に荷物を降ろす。ハレルは検問で滞在証を手に入れ、アマネから伝えられたコードを渡してレイディアント本社への取次を得て街の中に入った。

 

 かつて戦乱の時代、地上は常に爆撃や長距離砲撃の脅威に晒され、加えて不法移民が治安を悪化させる問題もあり。多くの人々が安全に住める閉鎖都市を求めた結果、地下にそれは作られる事となった。

 

 徹底的に管理された環境循環システムを構築し、都市内の交通機関はモノレールによる移動のみ、車両も殆ど無く、物の運搬は先ほど通ってきた地上と地下の搬送機構によって行われる。貯水・浄水設備、自然環境再現の為に天井には降水設備や大照明など、区画を区切る様に運河が走り、公園区画には木々や花々の姿もあった。

 そしてそこに住まう人々には笑顔と活気が溢れ。かつて失われた世界の姿がそこにあった

 

 仮初の平和と楽園は、皮肉な事に争いの時代の中で作られる事となったのだ。

 

 

 いつものシルスならばなんか平和な所もあるんだと感嘆してただろうが、今はそんな気分ではないのだろう。随分と静かだ、とハレルは溜息をつく。

 さっさと仕事を済ませてしまうに限る、シルスには時間が必要だ。平和な世界から来た人間の扱いのなんと難しい事か、それともシルスが特段に感傷的なせいなのか……。

 

 レイディアントの本社区画はそれこそセキュリティが特に厳しく、警備員こそ殆ど居ないものの通行用のパスがなければ通れないゲートだらけ……だが最初のゲートの前に一人、魔法少女が居た。

 それはヒビキ・ハヤテであった。

 

「ようやくきたか、ナユタ・ハレル」

「あなたがヒビキ・ハヤテさんですね、あえて光栄です」

「世辞はいらない、ここからは飛んでいくぞ。時間がもったいない」

 

 ハレルが検問で伝えた番号はハヤテの呼び出し、これでようやく親書をレイディアントの代表に渡せる。

 そう、これで引き金は引かれるのだ。

 

 ビルの屋上に着地するとそこには壮年の男が居た、彼こそレイディアント代表「カルガ・レイディアント」アライアンスの中でも発言権の強い人物だ。ハレルは頭を下げ、その親書を手渡すとカルガは内容を確認するまでもなくそれを仕舞う。

 

「ようやく、重い腰を上げたな……だがお前達ナユタが主導でやるとは思わなかった」

「どちらにも犠牲を出さず、極力混乱を起こさず、静かに解決したいのです」

「……まあいいだろう、お前達が選んだ道だ。だが忘れるな、一度血が流れればそう簡単には終わらんぞ」

 

 争いの歴史を見て来た者としての忠告、あるいは助言か。その言葉を胸にハレルは切り出す。

 

「その為にヒビキ・ハヤテの、ソニックインパルスの力をお借りしたいのです」

「私は構わない。ハヤテ、お前が決めろ」

「条件がある」

 

 

 

 

 

 地上、ハヤテの出した条件とは模擬戦闘だ。どの程度やれるかを確認しなければそもそもの時点で共同作戦を取るというのは不可能。といったごく当然の理由だった。

 

 しかし困った事が一つ、ここの所シルスが居るのが当然で巫女の力と神官の力、そして魔法少女システムの力の三つで出力があがっていたのにシルスが完全に意気消沈してしまい一つが欠けているのだ。

 だからといって断る訳にもいかない、久しぶりだが自分の力だけで戦うしかないとハレルは気を引き締める。

 

「話によるとお前達は二人で一人の魔法少女だが、もう一人は挨拶無しか?」

RD-011に到着してからシルスはずっと話していない、当然ながら検問でも、カルガへ親書を渡す時もだ。

 

「今ちょっと調子悪いんですよ、襲って来た賊を殺しかけてナイーブになっちゃってるんです」

「はぁ!?なんで!?知り合いでもいたのか?」

「いえ……それがまったくの見ず知らずですよ。そもそも殺しや人死にが許容できないんですよ……」

「……????逆に今の今までよく生きてこれたな?……なんだ?後方任務にでも入れてたのか?」

「別世界から来た人間なんですよ」

 

 別世界、という言葉にハヤテが溜息をつく、疑われているとハレルは思ったが意外な言葉が出てくる。

 

「ああ、私もそういった奴を何人か見て来た。アライアンスにもいるぞ、異世界から来て魔法少女になった奴が……戦闘経験などない素人だったそいつも今では「人斬り」と呼ばれる程の強者だ」

「その人と会えれば、ヒントを得られるかもしれませんね……」

「いや参考にはならんだろうな、何故ならそいつらは悉く耐えられなくなって「壊れた」人間だ。ナユタ・ハレル……人間というというのは一線を越えてしまうと後戻りができない、お前だってそうだろう……そうナユタの役目を放棄するとする一線を越えれば、お前はどうなる?」

「……それは」

 

 どんな者にもラインがある、後戻りのできない、取返しのつかない一線。それをハヤテは挙げていく。

 

「組織を裏切る、肉体を改造する、禁止されている薬物を投与する、機械に意識を移し替える、武器を持ってない民間人を焼き払う、家族や友人を討つ……一線を越えて強くなる者もいるだろう、だがそうでない者もいる。堕ちていくのだ、堕落、失墜……これが良かったならこれも良いだろうと腐っていくんだ」

 

 それら全てはハヤテが見て来たもの、自らが討つ事となった敵の数々だ。

 

「一度割れた器は戻らん、強くなれるのはその中にもう一つ器が入っていた者だけだ。さて……聞いていただろう?」

 

 ビクとハレルの方が跳ねる、見透かされていた。とシルスは気づき、ハレルもハヤテの迫力にシルスが戻っていた事に気づいた。

 

「俺は一人でも殺せば、後戻りできないと思っている。確かに悪人を死刑にしたり、事故で死なせてしまったりする事だってあるかもしれない……そういった人達までおかしいとは思わないけれど、俺は、俺の手で相手を殺したくない」

「そうか、なら強くなればいい。相手がどんなに暴れようと全部受け止めて、諦めるまで耐えきれる、武器を取り上げられるぐらいに強くなれればいい」

 

 さも当然の様にハヤテは言い切る、力こそが想いを形するの為の道具なのだと。

 

「お前のように意思のある、筋の通った者は嫌いじゃない。世の中には何の理想も何の重みも背負わない暴力が溢れている……私はそんな奴に出会う度に力で黙らせてきた。改心する奴もいれば学ばずに同じ事を繰り返す奴、そしてその機会すらなく死んだ奴。色々いるが……さてお前の人を殺したくないって想いは私の力で黙らせられる程度のものか?」

 

 ノータイムで戦闘形態に入ったハヤテが、目にも止まらない速さで踏み込んでくる。シルスは反応できなかったがハレルはそれを受け流し、投げ技に持ち込むが圧倒的な力の差で抜け出される。

 

「俺は」

 

 幸いにも互いに今は無手だ、そう致命傷になる事はない……なんてことはない、例え無手でも魔法少女は相手を殺すに十分な力を持っている。特にファーヴニルモデルは。

 パワーアシストに加えて竜の因子を宿す事で肉体の能力は文字通り怪物の様な超常的なモノに仕上がっており、ハヤテの無数の戦場を駆けぬけてきた経験と技量が合わさっている。

 

 今度はハレルが駆け抜ける、6枚のバリア手裏剣を出現させて左右から挟み込む様に投擲、逃げ道を塞ぎながら向かっていくがハヤテは動かずバリア手裏剣を両腕の竜甲殻素材で出来たアーマーで受け止めた。傷一つない、ならばと手にエネルギー刃を纏わせ、手刀による斬撃。

 

 ハヤテはそれを避けずに胸で受け止め、反撃にプロテクターを纏ったボディブローを放つ。咄嗟にハレルは回避、だが同じ様に光の刃を纏った手による薙ぎ払いで弾き飛ばされる。

 

 まるで竜の巨体から繰り出される尾による薙ぎ払いの様な重さだった、凄まじい勢いで地面に叩きつけられながら姿勢を回復してハレルは思考する。ハヤテと打ち合うには自分だけでは力が足りない。

 

「シルス、よく聞いてください。私だけでは……彼女に勝つどころか相手をする事すら困難でしょう。彼女の助力を得られなければ……正直に言って我々だけでMCMSに勝つにはより多くの代償を支払うリスクが伴います。あなたはそれでいいのですか?あなたは……黙ってみてるだけなのですか?」

 

 ハレルがシルスに語り掛ける。

 

「もう一度問います。あなたの覚悟はその程度なんですか?誰かを助けたいだとか!みんなを守りたいだとか!相手を殺したくないだとか!それって全部あなたがただ傷つきたくないだけの!上っ面だけの言葉なんですか!」

「そんなわけ……ないだろ!!」

「いうだけならば簡単です!!だからそれをやってみせろって言うんですよ!ナユタ・シルス!!」

 

 力が、3つ目の力がハレルの体に駆け巡る。そうだシルスが闘志を取り戻したのだ。

 人造神格は戦う意思のないものに力は与えない。今この瞬間までシルスは戦いから逃げていた、それが戻ってきた確固たる証拠だった。

 

 飛翔、もはや駆けるどころか飛ぶ様に前へと進む。ハヤテは正面からそれを迎え撃ち、体を一瞬宙に浮かばせながら受け止める。

 

「ようやく電源が入ったか!」

「おかげさまで!!」

 

 先程と違い二人の間にはバリア同士が接触干渉しあい、火花と閃光を散らしている。

 互いに取っ組み合った手にもだ、さっきまでならばハヤテの怪力に握りつぶされる程度のパワーしかなかったハレルの手にも力がみなぎっている……とはいえこのままでは不利だ。

 

 そう思ったシルスが取ったのは先ほどハレルが選んだ投げ、だが今度はさっきとは違う……強引に振りほどく暇もなく、わざと引く事でバランスを崩させ、地面にたたきつけた。

 

 この大地こそが最も巨大な質量兵器だといわんばかりに巨大な衝撃が発生し重い音が響く。だがハヤテはアライアンス最強の魔法少女だ、その程度の攻撃は想定の範囲内だ背面に出現させたエネルギーウィングが衝撃を緩和し、ほぼ無傷だ。やってくれたなと笑みを浮かべ今度は逆にハレルの手を引っ張り、大出力で地面に押し付けながらブースト。バリアコーティングが凄まじい勢いで剥離していきこのままでは重傷間違いなし。だが同じ様にハレルもフローティングにより地面との接触を回避しそのまま出力でハヤテを持ち上げる。

 

 しかし依然として両者は組み合ったままだ、このままいけばハヤテの方が有利……だが。ハレルがここでシルスに変身した。

 二人の入れ替わりは一度消失を挟むが故にハヤテは掴んでいた相手の消失にバランスを崩し、その頭上にシルスが現れ、見上げながら拳を振り上げるハヤテに対して拳を振り下ろすシルス。

 

 両者の拳がぶつかり、砕けたのはシルスの方だ。右手の骨は折れただろう血も噴き出している、いくら神官といえど徹底的に強化された魔法少女の拳に打ち勝てる道理はない。だがそれでいい、これは殺し合う為の戦いじゃない。

 

 覚悟と力を示す為の戦いなのだから、すぐさまハレルに再変身しハヤテの背中を取ると組みつき急上昇からの急旋回、向きは天地逆さ、下方向。回転を加えながら急速降下でハヤテを再び地面にたたきつけた。

 

 そうした攻防が1時間続き、先に膝をついたのはやはりというかハレルとシルスだった。

 致命傷になるようなダメージはないが、それでも満身創痍、攻撃を受けていない部分などない。

 

 ハヤテの方もさすがに、ここまで粘られるとは思っていなかったか。所々に攻撃を受けてプロテクターが砕けるなどのダメージを負っていた。

 

「実戦ではないものの……私が血を流したのは久しぶりだな……大した執念だ、認めよう。私はお前達に協力しよう」

 

 傷こそ負ったものの無価値で無益な戦いではなかった、シルスに今一度戦う意思を宿らせたという意味では。しかしハレルとしてはなんでこんなに殴られなきゃいけなかったのか、と正直不満であった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハレル、ごめん。また迷惑をかけた」

「本当にですよ!もう!やると決めたら頑固な癖に揺らいだらすぐ崩れるのやめてくださいよ!」

 

 確かに俺は……揺らいだら弱いな、迷ったら負けるって誰が言ってたか……。

 また迷わないなんて言いきれない……けれど今はとにかく否定されたくなかった、俺が誰かを助けたいとか守りたいって気持ちが嘘だって言われるのが我慢ならなかった。

 

 それで立ち上がるのもどうかと思うけれど、悩んでも仕方ない。

 とにかく今はやり遂げるしかない、やり遂げてから後悔しろナユタ・シルス。

 

 さっきの模擬戦で負ったダメージを医療キット込みでどうにか癒しながら、次の行動を考える。

 既にアライアンスとユニオン、そしてマキナ教団の連絡網は出来上がってるそうだ、そのおかげで知れたのがMCMSの主要拠点。

 

 現アメリカを勢力圏にするMCMSはその主要機能を持った都市を4つ、さらに最大権力を持つ中央本部の5つがあるそうだ。ユニオンが懐柔していた支部から得た情報で既にもう何年もそこから情報工作を行っていたそうだ。おかげでナユタに関する情報なんかも偽装されているらしい、で……だ。これらの拠点を一斉に制圧しないとバックアップでネットワーク権限を回復されてしまうらしい。

 

 カルガ氏も不要な殺生は統治に置いた後の禍根が面倒だとの事で犠牲がでないに越したことはないとは言ってくれた、しかし同時に一つ重大な事を教えてくれた。

 

 中央本部は様々な戦力とセキュリティによって守られており、間違いなく激戦となる。

 容赦などしていられない、もしも本気で誰も殺したくないのならば……言い出しっぺがやれとの事だ。

 

 上等だ、が……中央本部だけ落としても残りの4拠点が健在であれば権限は復旧されてしまう。加えてもし感づかれようものならば独立部隊や、オフライン戦力などが報復を行ってくる可能性が高い。

 

 ユニオンからの情報だと2時間のうちに全ての拠点とネットワークを掌握しなければならず、そして独立部隊からの報復攻撃、特に核ミサイルなどの迎撃対応はソニックインパルスでなければ困難であろうと。数時間後、マキナ教団のトップである教皇アルダートがここに来るらしい。作戦の為の前提事項であるネットワーク掌握用端末を持って。

 

 これまで卓上の空論だったMCMSの完全掌握というプランを実行に移せる、唯一の希望……それは俺やハレルでなくその人だと思っている。マキナの人造神格の力は端末から端末へ、さらに周辺機器にまで力の影響を与える事ができる。ただし人造神格の加護を受けている機体や機材、あるいは生き物には効果がない事も忘れてはいけない。

 

 俺達が想定する敵戦力はやはりギガンテスの様な巨大機動兵器や、魔法少女と魔法少女無人機、そして……ドッペルの操るあのルスフィオン機体だ。

 既に1ヵ月以上の時間が経っている、再度生産されていたり……なんであれば複数存在するかもしれない。あんなに苦戦した強敵、あるいはそれ以上も考えなければならない。

 

 そんな事を考えていた時だった。

 

「ナユタの客人、少し付き合ってもらおう」

 

 カルガ氏が部屋に訪れ、俺達を研究区画へと連れて来た。

 一体何をと思えばそこにあったのは骨、牙あるいは角や爪といった「竜」の部位。

 

「これらは生体技術で復元したドラゴンの肉体部位だ、これらを使って我々はファーヴニルモデルを作っている……いわば魔法少女コアや武装の素材となるものだ。君達にも使う事を許可しよう」

「何故ですか?とても希少で、機密度の高いモノだと思うのですが……」

「そもそも最初にナユタから魔法少女規格システムを盗み取ったのは我々だ、色々な思惑があったとはいえな……加えて大巫覡や君の姉には、恩がある」

 そういって手に取った端末に映っていたのは子供、少女の姿が映った写真。それは……

 

「私の娘は生まれつき体が弱くてな、どんなに手を尽くしても生きられないとされてきた。このファーヴニルモデル計画も……娘を生かす為に作った技術の副産物だった。5年前、技術の流出後にここに訪ねて来たナユタの二人の巫女、アカネとアマネはファーヴニルモデルのデータを取るついでだと娘の事を診てくれた」

「姉さん、そんな事してたんですか」

「おかげで娘は今も生きる事が出来ている。想定以上に強くなってな、君達がそれを一番実感した筈だ」

 

 確かにそこには面影があった、間違いなくその少女はヒビキ・ハヤテの幼い頃であった。

 

「竜因子の移植で髪の色や目の色が変化したんですね?」

「そうだ、加えてこっちは本人の意思だろうが……強い使命感を持って魔法少女として戦う様になった。生き残ったのは自分にやるべきことがあるからだ、とレイディアントの家の名を捨ててヒビキと名乗るようにまでなった……親としては少し寂しい所がある……が、娘がやりたいのならば……その背を押してやりたいという気持ちもある。最初は物珍しさに外を旅して回ったんだろうが、その現実に気づいて、変えたいと強くなる事を選び続けた」

「その結果がアライアンスで最強・最速の魔法少女ですか……」

 

 人の数だけ過去があり、物語がある……俺が来る前からこの世界がずっと繋ぎ・紡いできたものか、ただ嬉しいなと思った。この世界を変えたいと思う者が、平和を願う者が一緒に戦ってくれるのは。

 

「どうか、娘と共に戦ってやってくれ」

 

 

 

 

 

「お前が負傷するとは珍しい、それに仕事前だというのに来ていいの?」

「ああ、構わないさ。どうせこの程度の距離あって無い様なモノだ……それよりもお前も聞いての通りMCMSは中央本部の強襲はあの二人の役目として残り四つ……ユニオンが一つ、アライアンスが一つ持った……あと二つ制圧するには足りない、報復攻撃対応で私がでなきゃならん……そこでお前の出番だよアマネ」

「組織のトップが直々に戦闘に出られる訳がないでしょうが」

 

 ナユタの大神殿上の屋敷にはまたハヤテとアマネの姿があった、立場など知った事かとハヤテは鼻で笑い答える。

 

「私の知る限りで『心優しく・強い』連中をピックアップしたら足らないねぇんだよ!極力犠牲の出ない戦いにしたい、禍根を残したくないんだろう?」

「……本気で言っているの?私が出れば全部焼き尽くす事を知って上で?」

「嘘つけ、武器だけ壊して無力化するの得意だろお前も、後はアカネも呼べばいい」

「無理よ、完全に嫌われたもの」

 

 アカネとアマネは……幼馴染だ、もっともナユタでそんな関係性に拘る人間は少ない。だが長い時間を共に過ごした身ではある、共に戦い窮地を脱した仲である……相応の信頼はあるだろう、がアカネからすればトップに立ちハレルに様々な仕事を課すアマネは邪魔な存在となっていた……とアマネ自身は思っている。

 

「話してみなければわからないだろ?」

 

 そういってアマネの手を引き、事前に断りもなくアマネを連れ出し夜空を駆けていく。

 

「お前大体墓所の位置を知らないというのに!」

「大体の感でわかる、アカネの位置ならな!」

 

 ハヤテ、かつてハヤテ・レイディアントという名の少女は決して長くは生きられない運命にあった。

 だがそれはアカネとアマネと出会う事で覆された、二人から分け与えられた血とアカネの持つ能力によってハヤテは救われたのだ。

 

「そもそもお前が言い出した話だろ、誰かを助けるのに理由なんていらない……けれどまた別の誰かを助けてくれればいいって」

「その割には随分、返り血を浴びたようだけれど」

「確かにな、どうしても手を取ってくれない奴も居るし。生かしておけない奴も居る……あの二人には悪い話だけど、MCMSを掌握した後にある程度の粛清は必要だろうな……まあやりたい奴がやればいいのさ、こういうのはさ」

 

 これはこの世界の問題なのだ、本当ならば異邦人であるシルスに託す事そのものが誤りなのかもしれない、けれど彼には可能性があるのだ。イレギュラー、この世界の者でないが故の価値観、知識、経験それらがこの世界の人間に影響を与える。

 いつだって切っ掛けは些細な事だ、それが重なって物事を動かす……彼が来なければマキナ教団との接触はもっと先になっていただろうし、ナユタがMCMSに目を付けられてこうやって対処に追われる事になることもなかった。

 

 

 やがて二人が墓所に降り立つと、そこにはアカネと管理人の姿があった。

 

「人の妹に重荷を背負わせて満足かしら?大巫覡様」

「それは悪く思っている、だけれど戦力を集めて準備なんてしていたら気取られる。ただでさえ一ヵ月は経ってる、時間の猶予がなかった……相変わらずハレルの行く先は読めなかったぞ」

「そのようね、元よりあんなものを信じて役目を決めて来たのが間違いだったのよ。あなたもそうでしょう?大巫覡になる適性などなかった、あるのは戦士として全てを薙ぎ倒すだけ……けれど自分の意思でそこに立っている」

 

 久方ぶりの再会、そこに遠慮などない。互いが言いたいままに心の中を語るまで。

 ここには口うるさい大神官共も居ないし他人の目を気にする必要もない。

 

「管理人もお元気そうで……傷は広がってないし、まだもうしばらくは保つかなこれは」

「相変わらず治す方法はわかってないの?せっかく資料を好きに読める立場になったのに」

「ダメ、そもそも管理人の資料そのものが殆どないしかろうじてわかる構成物質がこの世界にないもの」

「使えない権力ね……それでハヤテ、あなたは見ない間に大きくなったわね」

 

 まるでハレルに向けるように、ある種の親しみを込めてアカネはハヤテを見る。

 それに対してハヤテはぎょっとした。

 

「……アマネ?これ本当にアカネ?」

「まあこれも影響なんだろう」

 

 ハヤテの記憶の中にあったアカネの姿はそれこそ冷酷で冷淡、自分の命を助けてくれた恩人とはいえ結構怖い印象があった。それが今では随分と丸くなってしまっている。

 これもまた、そうシルスの影響なのだろうとハヤテは割り切った。

 

「私達の血の影響も大分薄まったわね、今では竜の比率の方が高いのね……しかしアライアンスも大したものね、ナユタの技術を使いこなせている。元から生体技術に強かったから?」

「その辺の経営や政治は不得手なんだ、ただナユタから貰ったモノはできるだけ正しい使い方をしている筈だ」

「でなけりゃ今頃攻め込んでるわよ」

 

 ナユタは先代の大巫覡が起こした未曽有の技術流出・供与を決して許してはいない。

 もしも危険な……世界を脅かすような使い方をされるようであればいつでも「責任を果たす」準備は出来ている。アライアンスやユニオンに入れ込んでいる派閥にもまたその覚悟はある。

 

 MCMSを討つのもまた責任だ、魔法少女無人機やルスフィオン、そしてフールの様な裏切り者が関与した以上放っておくわけにはいかない。

 

「アカネ、お前にも手伝ってもらいたい事がある」

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