【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm 作:青川トーン
磨く、磨く、研ぐ、削る、研ぐ、継ぎ足して埋める、固めて削る。
それを手作業と術を使って行う、決して急がず焦らず、迷うことなく……山から川へ、川から海へと転がって丸くなる石を想え。
決して無心になるな、考える事をやめるな。
そうして出来上がったのは一つの石棺、この墓所に保管すべきものを納める器。
この世界にやってきて一週間、俺の修行兼仕事はこれを作る事だ。
おかげでモノを加工する術と力を行使する方法はちょっと身についてきた。
ナユタの墓所には解析が終わり、それ以上の研究が「今の所」必要のなくなった遺物が収容される。
とはいえその遺物も普通のモノではない、神々の時代に遡る程昔の道具や人が歴史の中で作り上げた魔術的なアイテム、異世界からの漂着物に……前時代に作られた兵器も含まれる。
取り扱いを間違えれば危険極まりないものから、もはや力を失って朽ちたものまで、それらを適切な形状の棺に納め、眠らせておく場所がここだ。
再びいつか必要とされる日まで、あるいは永遠に眠り続ける者達を見守る……それがハレルや彼女の姉であるアカネさん、管理者さん、そして今の俺の仕事だ。
「随分上達が早いね、何か修行やってた?」
「親が国防の偉い人だったから、ちょっと忍者の修行を」
「忍者……?忍者??……ちょっと気になるけれどそれはまた今度聞くとするね」
俺の修行の監督者は大体ハレルなんだが、今日はアカネさんが見に来ていた。
というのもハレルの奴、なんと今は俺の中で寝ているのである。
一体化で体力を使っただとかそういうのではなく、俺と会う前はそれこそあっちへこっちへ仕事で移動させられ、後片付けまで押し付けられる事もあり、いわば便利屋扱いされていたらしい。そこに俺と一体化したという建前が出来て、その仕事をやらずに済むと分かると、なんとタブレット端末を同化してサボり始めた。
俺と一体化している間、どうやらハレルは亜空間的な場所にいるらしく、内なる宇宙とも呼んでいたか?そこにモノを持ち込んだりできる事に気づき本やらモノやらを俺の手を介して取り込み、まるで自室の様にくつろいでいる。
俺には基本的には中の様子が見えず起きてるか寝てるかがわかるぐらい、後は起こす事もできるのだが生半可な呼びかけでは拒否されてしまうのだ。
「それでハレルの様子はまあ想像がつくけれどあなた自身の調子はどう?シルス」
「まあ悪くはありませんよ、空気の汚染とか寒さとか遮断できるようになりましたし……こうして神官としての術が使える様になってきたので体の回復も順調です。まあ……心の方は本当に帰れるのかなって心配はありますけど」
「そうね、家族は大事にするべき、ね」
アカネさん、確かに見た目はちょっと怖いけれど優しいのは確かなんだよな……。
まだこの世界では3人しか人を知らない、この墓所しか知らない。
あの雪と灰で覆われた大地がどこまでも続くのか、どんな人々が暮らしているのか、どんな世界が広がっているのか。
ナユタの事も、ハレルの事も、この世界の事もまだまだ知らない事ばかりだ。
「まあそれはさておき、明日は少しばかりあなたとハレルだけで出掛けて貰う事になる。あなたという新人がこの墓所へやってきて一週間、そろそろ外の仕事も任せて大丈夫そうと判断したわ。覚えておきなさい」
「わかりました」
「まあハレルがいる以上、命の心配はする必要はない。一体化している限りあなたが死ぬ事はまずないでしょうが……それはそれとして痛いモノは痛いし、苦しいモノは苦しい、それは消せない。肉体が無事でも心までは守れないから」
「それは、そうでしょうけれど……」
「誰かに傷つけられる事も、誰かを傷つける事も、奪う事も奪われる事も当然の様にある……いつだってそう、それが多いか少ないかでしかない」
決して楽な世界なんてない、なんてのはわかってる。
俺の居た世界にだって飢えも災害もあったし、人同士が争う事だってある。
この世界に来て最初に手にした武器である短刀を手にする、今の俺が纏うのは動きやすい様にカスタムされたナユタの神官装束。
もし誰かと戦わないといけない様なその時……果たして俺は迷わずにいられるだろうか。
午前の修行を終えて、アカネさんのチェックで合格判定を頂いた石棺を機械人形達が台車に乗せて運んでいくのを見送りながらひとまずの掃除をする。
ここには人間が俺を含めて4人しかおらず残りは機械人形とかドローンが仕事をしている、で管理者さんはそのドローンや機械人形に加えて全ての装置と術と設備を把握している……マジにすごい。
今の所俺は表層部分でしか活動してないけれど、どうやらこの墓所は地下に何層も保管区画があり……危険度・保管方法・優先度などで色々分けられているらしい。
そして一番底にはこの周辺を発見できない様に隠す結界装置や防衛設備の総合制御室があるらしい。
こんな所にそれも重要度が低いモノばかりが集まる場所に攻め込んでくる奴はそういないらしいが完全に0ではないらしい、どっかの企業や組織が雇った傭兵だったり……それこそ怪物が何かを狙ってくる事もごく稀にあるらしいけれど……正直、そういう奴らってどういう気持ちで襲ってくるんだろうな。
正直に言って他に余計な危険物があったりとかで刺激して大惨事にならない?とかそっちの意味で。
色々自分なりに考えながらも掃除を済ませると残った作りかけの石棺に向き合う、これはアカネさんチェックから弾かれたモノと純粋に作りかけの奴だ。
ナユタの神官・巫女の力、それは人造神格の「造物」の権能という力を借りるもので、物質を加工・合成するのに長けているそうだ。
だからこうやってモノを作る事で鍛えたり、理解を深めていく事が出来るという。極まると肉体とかエネルギーまで作ったりできる様になっていくらしい、さすがにそこまで行くとヤベエなって思う。
今の俺は物理的に干渉して形を整える、という段階でいわば道具の代わりに術で作業してる感じだ。
それともう一つ、ナユタの神官や巫女になり人造神格を宿すとシンプルに身体能力が爆上がりする、この重い石棺を自分の手で持ち上げる事だってできる……まあ掴んでる所に負荷がかかって崩れるからダメなんだけれど。
これ元の世界に持って帰って大丈夫な力なんだろうか、俺の世界に神様がいるかどうかわかんないけど……怒られたりしないだろうか?
『ハァ~よく寝ました、シルス。ずっとこの世界に残りませんか?めっちゃ楽ですよこの一体化』
人がそんなことを考えてたら引き篭もりと化した巫女が起きて来た、こいつ見てると部活をやめた時の妹を思い出すんだよな……自由だ!って言って一日中ゲームをしていたな……。
『俺のプライバシーが永遠に侵害され続ける事になるのは嫌だ』
『まあそんなこと言わず、それとほら手を出してくださいな』
ハレルが何かを渡そうという意図を伝えてくるので俺はその通りに従って体を動かし、手を出す。
とそこにはタブレット携帯が現れ、そこにはハレルが映っている。
「前に言ってた奴、自分の喉から別人の声がするの嫌だって言ってましたよね。なのでこうやってコミュニケーション用端末を作りました」
「おお、これは確かにそれっぽい!ずっとこれを作ってたのか!」
「………はい、まあそうです!ちゃんと今まで通り思考会話もできますが、まあこうやって声で会話するのと使い分けた方が便利ですからね。ちなみに充電は不要ですが……他に特に機能がないんですよね。なにか欲しい機能があったら追加しておきますので言ってください」
なんか少し間があったが、それはさておきちゃんと仕事らしい仕事をしていたんだなハレル……ご丁寧に首から下げる為の紐とケースまで用意してある。
「そういえば、アカネさんが明日、俺達に外での仕事をやってもらうって言ってた」
「……まあたった一週間でこれだけ出来ますからね、正直に言ってシルスには才能がありますよ、ニンジャの修行やってたとか家族が国防に携わる者で心構えとかがあるじゃなくて……シンプルにこんなひどい世界に放り込まれて全然動じてない心の強さ、それがナユタの神官として滅茶苦茶素質がある」
「正直に言って俺は普通に帰りたいよ」
「まあそうだよね~でもその帰る手立てが見つかるまではしっかり働いてもらうし、どうせ仕事していかないとその帰る手立ても見つからないんですけどね」
そうだった……俺には伝手もコネも後ろ盾も金も何もない、そうだ聞いておくことがあったな。
「ナユタのこの人造神格の力ってさ、俺の世界に持って帰って大丈夫な奴?」
「……………まあ神様が居なければ怒られないと思いますよ?いたら頭下げて説明したら多分大丈夫、でも人間辞めて神様の仕事してくれって頼まれるかもしれませんね」
「え……怖」
滅茶苦茶怖い事言われたんだけれど、正直に言って神様居て欲しい気持ちと居ないで欲しい気持ちの両方が出て来たな。
「この世界、正直に言って末法の世というか……まあ滅茶苦茶なんで、今更神様の力持ってる奴が何人いようと許容できるんですが、よその世界の事は考えた事なかったですね……まあ一応私ならその力吸い出せるので、帰る時になったらまた考えてください」
「そんな事もできるのか、それにそんな滅茶苦茶なのかこの世界……外に出るの怖くなってきたな」
「まあ……その説明しておくべきですね、実はこのナユタの人造神格の力、流出しちゃってるんですよね」
は?
「規格魔法少女システムというものがありましてね、私や姉さんの格好はナユタの神官装束とは違いますよね?これ魔法少女という形態なんですよ。本来はナユタの巫女の仕組みを解析して戦力を底上げする為に研究の一環で作られた装備の一つだったんですけれどね。その、設計や人造神格の力を宿したプログラムが丸ごと流出しまして」
…………つまりは巫女や神官が外には普通に山ほどいると?
それに魔法少女って何故少女限定?
「そもそも人造神格の力って代を重ねて儀式だとか色々やって神官にも使える様になっただけで本来は巫女、少女にしか使えないんですよ。それをシステム化した結果、魔法少女システムという形になったわけです。なので外にいるのは基本的に魔法少女だけでして、我々みたいにちゃんと理解して修行してる訳じゃないんで身体強化だとか便利な魔術だけ使って近代兵器で武装した別物なんですよ」
「専門知識が多すぎる簡単にまとめてくれ」
「つまり外には戦車やヘリを簡単に叩き落せる様な恐ろしい女の子が沢山いるから、それに襲われる事もあるかもですね」
「最悪だよこの世界」
「ちなみに他にも賊とか怪異とか妖魔とか無人兵器とかも闊歩してますね」
一刻も早く帰る手段を見つけるべきだと決心した、それと今日の午後は休んだ方がいいかもな。
少しばかり情報量が多すぎた、神の力が兵器として使われるとかそりゃあ世界も荒廃するわ。
「あっちなみにそれはここ最近の話で、そもそも魔法少女システムの普及は世界が荒廃したせいでまともに兵器が流通しなくなったという所もありますね。昔はみんなロボットとかに乗って戦ってましたよ」
世界荒廃したの普通に人力かよ!これじゃ人間は愚かって言われても返せねえよ。
この世界の空には月も太陽も、星もない。
あるのは分厚い雲だけ、なんだかの本で読んだけれど太陽光が遮られると地球は一気に氷河期になるとか。
一応地球の全部がこの分厚い雲で覆われてる訳でないらしいけれど、見渡す限りの雪景色を見る限りこの星の気温は随分下がってそうだ。俺達の世界だとまだ温暖化だとか熱波だとか気象変動だで騒いでるのがまだ平和に見える。
ここが特別静かなだけ、なのかもしれないけれど……人工衛星も殆ど失われて電子ネットワークは都市規模やごく一部の勢力の間にあるものだけ。
インターネットで動画を共有したりだとか情報を調べたりだなんてできやしないそうだ。
ハレルに貰った端末を見て思う、これでいますぐ元の世界に電話をかけて無事だって知らせたいな。
そもそもどうやってこの世界に来たのかすらわからない、前後の記憶がないけれど、本当に帰れるのかな、今ここに居る俺はあくまでコピーで元の世界には今まで通り俺がいたりするのかな。
わからないから、不安になる。どうしようもない事なのに、考えてしまう。
そして夜が明けて、初めてこの世界に踏み出す日が来た。
機械人形とドローンを積んだ無人トレーラーに乗って、廃墟となった都市へと繰り出す。人々が離れ、去り、静かに崩れて朽ちていった大都市はどこか見慣れた文明を思い起こさせた。
やがて景色は変わり、そこにははっきりとした破壊の痕跡が見えて来た、爆発で出来た穴、巨大な武器、そして朽ちたロボットの残骸。
焼け焦げた景色が凍り付いたまま、打ち捨てられていた。
「今日の『資材回収』はこの辺りで行いましょう。人々にとってはガラクタでも我々ナユタにとっては再利用可能な資源です。索敵はドローンが行っているので何かが接近すればすぐに教えてくれますから……私達は建物の中なんかを調べるとしましょう」
端末越しにハレルの指示が出て、ドローン達が飛び立った後にトレーラーから降りる。
人の気配をまるで感じない、それどころか生き物なんかがいる気もしない。
本当に捨てられた場所なんだって感じる、空気もなんだか塵だとか埃混じりで、多分本当に生身じゃ健康に悪そうだ。
機械人形達がクズ鉄を集めて、壊れたロボットを分解して回収していく。それを横目に比較的無事そうな建物に入る、既に殆どの物が持ち出されて、めぼしいものはない、次の建物へと屋上を飛んで渡る。
「本当に忍者らしい事するんですね」
「俺なんてまだまだだよ、大したことない」
「さすがに脆くなった足場を崩さずに渡るのはすごいとは思いますけどね」
今度の建物は家具なんかが残されてた、ガラスだとかは流石に割れてたけれど、結構マシな感じで残ってた。まあ使い物にはならないだろう……。
ここはどうやら何かの会社の跡地みたいだ、書類だとかパソコンだとかが沢山あった。
「まあ使えそうですね、貴金属が多少は取れるかもしれません。オートマタに運ばせておきましょう」
そして閉鎖された扉を壊して下の階へ降りていくとかつて誰かが野宿した様な痕跡があったり、空の薬莢とマガジンが落ちていた。そしてその先には凍り付いた死体があった。
クラりと何か揺さぶられる様な感覚に襲われる、そうか寒いから死体を食う虫だとか分解する菌だとかも殆ど居ないんだ。
ちょっとミイラみたいに朽ちてるけれど、比較的綺麗な死体だ。外傷はないから寒さか汚染か……。
これが現実か。
「……案外冷静ですね」
「災害が多いからさ、別に見た事ない訳じゃないんだ。こういうの……でもキツいなって」
「私達の仕事の一つとしてこういう人達を供養するのもあります、この方も後で回収しておきましょう」
「優しいんだな」
「こういう世界だからこそ、人は大事にすべきだと私は思ってます。それが生きていても、死んでいても」
誰にも想われず、顧みられず死んでいった人を、これからも見る事になるんだろうな。
本当に嫌になる。
こうして初めての仕事は順調に進む、大したものは無い、ありふれたもの。
死体、遺品、残骸、まだ使える機械、屑鉄、商品在庫、書籍。
意外だったのが紙の本が比較的良い状態で残っていた事だ、漫画だったり小説だったり、雑誌だったり。
「この世界に文化に興味がありますか?」
「まあ、そりゃな……一応俺の世界より時代は進んでたからどんなのがあるのかって」
「……そうですね、これからはこういったものも回収対象にしましょう」
果たしてここから復興できるかは知らない、わからない、けれどちょっとでも何かが、過去のモノが未来に残ったらいいなとは思う。
「やはりシルスは本質的にナユタに向いてると思いますよ、そうやって誰かを思いやれる。いなくなった者達の事を想えるのも……今のナユタのお偉方達よりも立派だと思います」
「俺はナユタの事全然知らないからわからないよ」
「そうでしたね……まあ少しだけ話しておきましょう。今のナユタは死にかけなんですよ、戦乱での被害を抑えるのにバカみたいに被害だしたり、人と人の争いを止めようと手出しをしたり……それで大勢いなくなった、死んだ人や組織を抜けた人も含めて」
それが正しいかどうかはわからない、でも。
「やるしかなかったからか?」
「そうですね、結局誰かがやるしかなかった。それで何もかも失っていれば話になりません……バカみたいな組織ですよ、結局人類を守る為って言いながら自分達に、身内に犠牲を強いて崩壊寸前になってるんですから。よく今の今まで存続してるのが不思議なぐらい……」
……家族は大事にか。
「ハレルの家族って、アカネさん以外には」
「ナユタの直系の血筋には呪いが宿ってまして子供が出来ないので、まあ人造人間みたいな生まれ方をするんですよ」
「ああ……なんか人工受胎とか試験管ベイビーとか……昔みたSFかな」
「もっとダイレクトにフランケンシュタインの怪物みたいにパーツ組み合わせて作るから親というものが居ないんです、一応姉妹兄弟みたいなのはそこそこいるけれど家族って感じなのは……姉さんだけです」
ちょっと狂ってねえかな?さすがにアカネさんの言葉が重すぎるな、あんまりにあんまりな現実突きつけられと逆に冷静になるな……。
「もしかして末代まで呪うとか血筋が断絶する呪いとか受けた?」
「よくわかりましたね、昔妖魔とか呪い手とかと滅茶苦茶戦争してましたからね」
「……フィクションでしか聞いた事ない連中と戦ってたんだなナユタって」
「邪神とか荒神とか外宇宙からの侵略者ともやりあいましたよ、ちなみにうち二つは私も戦った事あります」
「お前すげえんだな」
こう身近な話題だとちょっと辛くなるんだけれどいきなりスケールバカみたいに巨大化するとお辛さが一気に軽減されるんだな、初めて知った。
「すみませんね、なんか暗い話してしまって」
「いいんだよ、それで重荷が少しでも減るんなら」
「まあシルスがナユタに居る限り、邪神とか侵略者とやりあう機会もあるかもしれませんがね」
「勘弁してくれ、ちなみに俺を殺しかけたアレも邪神とかなのか?」
思い出すのは一週間前、見事に俺を吹っ飛ばして瀕死にしてくれた奴だ、蛇みたいな見た目だった筈だが。
「ただの異世界の生物でしたね、アレは本当なら別の所に送られる荷物だったんですが間違えて墓所に運ばれて見事に保管失敗で目覚めて始末する事になってしまいましたが……可哀想な事をしました」
ああ……俺と似たような境遇だったのか、でも動物ならパニックになるよな……いきなり知らない環境に放り出されたら。
「まあちょっと周囲にウイルス撒き散らして弱らせた獲物を食う感じだったのでどの道生かしては置けない奴でしたが」
「それなら仕方ないな」
モンスターパニックかよ。
そんな時、ブーブーと端末が震える。どうやら何かが索敵ドローンの探知範囲内に入ったらしく、画面を赤い点がそれなりの速度で走る。そして俺の目は光を捉え、回避する。
小さな爆発が起こり衝撃が襲ってくるが、なんとか着地。
相手は空に浮かんだ少女、あれが……。
「魔法少女ですか、しかしいきなり撃って来るとはずいぶんイカレた方ですね」
「……一発でカタがつくと思ったんだけどな、まあいいや」
右手には銃、左手にはブレード、背中には何かの箱、そして一目でわかる一般人ではないという格好。
あれが、魔法少女ってやつか……どっちかというと武装少女って感じだが……まるでこっちのことをなんとも思ってない、ゴミでも蹴飛ばす気で撃ってきた。
「シルス、前に言った通り非常時ですので……ここは私に任せてもらいましょうか」
「仲間がいるのか、厄介だけど……殺すだけ」
銃口が再びこちらを向く……その瞬間、俺の視界が変わった。
まるでこう何かヘルメットを被ったかのような、フィルター越しの世界で、俺の意志じゃない意志が体を動かす。
「……姿が変わった?偽装だったわけ」
瞬く間に空を駆け、相手を蹴りつけた衝撃が伝わってきた。
『なるほど、こうして一体化した状態で私の姿になるとこうなるのですね』
ハレルの考えている事がダイレクトに伝わってくる、なるほど……今は俺とハレルの姿が入れ替わってるんだな。
けどハレルの言ってた景色とは違うな、なんか亜空間とか言ってたのにただ単にフィルターがかかっただけみたいだし感覚も残ってる。
『そうなんですか、まあそれは後で聞きましょう……今は目の前の敵を倒す必要があります』
……そうか、戦わないといけないか。これが誰かに傷つけられ、誰かを傷つけるって事なんだな。
『ええ、悪いですが……少し手荒く行きますから』
凄まじいスピードで景色が変わる、衝撃と圧が襲ってくる中でもしっかりと認識できるのはおそらくハレルと同じものを感じているからだろう。
光鎌を手にして、一薙ぎで銃を切断して使用不能にして返す刃で狙うのは首。
だがそう簡単に通る訳はなくブレードが柄を打ち防がれたので力を込めて押し込む、ジリジリと焼くように光の刃が相手の首元に迫りバチバチとバリアが弾ける、同じ様に鎌の柄と刃の間にもバリアが干渉してお互いを跳ねのけようとしている。
「ゴミ掃除だと思ったけど……思ったより楽しめる!」
相手の魔法少女の背中に背負われてた箱がアームによって動かされ、開く。見えたのはミサイル、即座に至近距離で、爆風に巻き込まれるのも厭わず放たれた。
さすがにサイズが小さかったおかげで威力は、まあ控えめだったみたいだ。
ぐわんぐわんと頭が揺れる、体中が痺れるようで心臓がジリジリと痛む、今まで味わった事のないタイプの感覚だった。
そんな中でも敵から目をそらす事のないハレルが怖い、あいつが怖い、殺意が伝わってくる。
どっちも目の前の相手を殺すつもりだ、狂ってるだろ、おかしいだろこの世界。
俺は咄嗟に突き出されるブレードの先端を左手で掴んだ、熱い、痛い、痺れる、でも違うんだ。
『シルス!一体何をしているんですか!』
神官の力で、人造神格の力で、俺はブレードを分解して粉々に砕き、右手の鎌の刃でミサイルコンテナのアームだけを切り落とした。
「お前の、負けだ。去るなら追わない」
ハレルの左手を焦げ焦げにしてしまったな、滅茶苦茶痺れて痛い、幸いな事に既に回復初めてなんとかなりそうだけど……殺さずに武器だけを壊せた。
「ふざけてるの?何?今の今まで殺し合いしてたのに突然何?」
「……別に俺達の仕事は、お前を殺す事じゃない」
「私の仕事は範囲内の邪魔者を片付けろって依頼」
「なら俺達が出ていく、それでいいだろ」
死ぬまで戦う必要なんてないだろ、そうだろハレルだって命は大事にすべきだと言ってただろ?
「ふざけないで、傭兵は……私達は!そうじゃない!与えられた仕事が出来なければ信用を失い、やがて死ぬしかない!」
「なら辞めてしまえばいいだろ!そんなこと!」
「それしか道がなかった者の前で……そんな事を……よく言えたものね!あなたの顔、覚えたから……私が依頼主に殺されなかったら、必ずあなたを殺しにいく」
そういうとなんとか背を向けて去ってくれた、けれど……。
『シルス、あなたは……そうですよね、まだこの世界に来て日が浅いんですからね……でも、一つ言わせてください』
『何かやるならその前に一言相談してください、規律の基本です』
「……怒ってないのか」
『私達が狙われる分には私達の責任で済みます。今回はその範囲内で済んだから許容しただけです。もっと大きな規模で状況を左右するなら、あなたを黙らせて私はその時やるべき事をやってました』
「ごめん……わかった、何かするならする前に言うよ。だから先に言っておく、俺は出来る限り相手を殺さない様にしたい」
それは譲れない、俺は誰かの命を奪う事はしたくない。でもどうしても、やるしかないっていうならば。
「本当にどうしようもなくて、本当にダメな時は……その時は責任を持って殺すよ。今の俺はそう決めた」
『……まあ、いいでしょう。悪くない答えです、雇って正解でしたね。傭兵』
……?
………??
『シルスの覚悟を試させて貰いました、まあ程々にやれる傭兵の方に演技を頼んだという訳です。別に私はボコボコにやられてもそうそう死にませんからね、程々の威力の装備ですが割と殺す気でやっていいよという事で依頼を出しました。しかし迫真の演技でしたね……』
俺の頭に浮かぶのは……そういえば端末、なんでアラームが鳴ったのか、そしてハレルがこの一週間何をしていたのか。
『電子ネットワークが死んでる、とは言っても例外があります。傭兵ネットワークだったりとかですね』
なるほど最初から……全部そのつもりで……?
『騙してすみません、でも必要な事だったんですよ。これから先、本当にそうやって生きていくしかなかった人達と戦う事になるかもしれません。本当に誰かの殺意を受けるかもしれない、だからこうやって試しに戦って貰ったわけです。そもそも本気ならシルスに言わずに最初の一撃で真っ二つにしてました』
……そういうことか……でもお前が言ったみたいに一言言えよ!
『言ったら訓練にはなりませんからね、痛くなければ覚えませんよ』
ブーブーと端末のアラームが鳴るので、手に取る。依頼完了のメッセージか?
【こちらデッドマンズPMCオペレーター 申し訳ない、向かってる途中で指名のデッドマン3が襲撃に遭いとても依頼を遂行できる状態ではなくなった為、依頼をキャンセルさせてもらう。こちらの都合の為、報酬は全額返金させて貰う】
……?
…………??
「ハレル?」
『……あーうん、まぁ……その不測の事態もまた……よくあることです』
本気で、一刻も早く帰りたくなってきた。俺多分こんな世界じゃやっていけないって……!
見上げた空はまた変わらず分厚い雲に覆われて、青空も見えたものじゃなかった。