【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm 作:青川トーン
「ダメですね、完全に電源も落ちてますし……中身もやられています。アクセスできないでしょう」
「刺してみたらどうにかならないか?」
「無理でしょう……さてどうしたものですか」
破壊されたネットワーク施設、どの機材も今しがた何者かに壊された後だった。これによって確かに4つの拠点は占領できたものの最後の最高アクセス権限が掌握できなくなってしまった。
「どうするんだエレミス」
『この拠点の電源はまだ通っているならばおそらくは生きている端末がある筈だ、動力炉を探せ』
「その必要はないよ」
エレミスの声を遮る様に響いた声、ハレル達は放たれた青い光弾を回避して相手を目視する。
それがルスフィオンだと即座に見抜いた故の判断だ、周囲に青白い粒子が舞い散り空間を汚染してゆく、チリチリとバリアが反応とする。
声の主は少女の姿をしたルスフィオンの塊だった、ルスフィム・ジェスター。この世界の破滅を望む者の一人、ハレル達にもそれが尋常の存在出ない事は一目で理解できた。
汚染された空間をまるで正常であるかのように振舞い、こちらへと歩を進めてくる。
「私はルスフィム・ジェスター、破滅の番人……あなた達はここで朽ちるの」
「くたばるのはあなたの方ですよ。やれますね、シルス」
「ああ」
さすがに犠牲を出したくないシルスでも、だからこそ目の前の相手を生かしておく訳にはいかない。
全身がルスフィオンで出来た怪物が、破滅を目的とするエネルギーの塊が相容れない事は十分に知っている。そしてそんな者が何故ここにいるか、ハレルは敵を前にしながらも思考する。
先に動いたのはジェスターだった、先程放ったものと同じルスフィオン弾を乱射し、屋内の汚染を高めていく。対してハレルは同化によって発生したルスフィオンを吸収していき、それをグリムリーパーの刃へと蓄積させていく。そしてまずは一撃、蓄積されたルスフィオンをジェスターに叩きつけた。
発光と同時に衝撃が発生して二人の距離が開く、ジェスターを覆うルスフィオンシールドが崩壊したのだ。同時にグリムリーパーに蓄積されていたエネルギーは完全に消費され、通常の刃へと戻ったが……チャンスだと見たハレルはバリア手裏剣とグリムリーパーの斬撃によってジェスターを切り刻んだ。
しかし、振り返ったハレルが見たのは周囲のルスフィオンを吸収してシールドごとに再形成されるジェスターの姿だった。
「無駄だよ、無駄。確かに私の体を砕く事はできても……滅ぼす事はできないよ」
反撃とばかりにジェスターが両の手から生み出したのは、小さなスライムの様なもの、それらは独立して動きだしてハレルに向かってルスフィオン弾を吐き出してくる。
生体に対して極めて有害であるソレを浴びた床が煙を噴いて溶けだす、純粋な破壊力に加えて腐食性まで備える事に驚きながらも冷静に対処方法を二人は考える。この瞬間にもルスフィオンの汚染によりバリアコーティングが削られ、時間は過ぎていく。
ルスフィオン・スライムはルスフィオン弾を吐き出す度に小さくなっていく、それを見てシルスは気づいた。右手でルスフィオン・スライムを掴み同化してみせる、それは成功した。
「お前達も有限の存在なんだな!ならば消せる筈だ!」
同化能力を最大に、周囲に舞う汚染も纏めて吸い上げて改めてそれをグリムリーパーに込める。そして再びジェスターに叩きつければ、砕けた破片が、液体状のルスフィオンが飛び散る、それをすかさず同化する。するとどうだろう、ジェスターの肉体が再生できずに傷がついたままだ。
「なるほど、あなたは自己増殖できないんですね」
「それが……何!」
再びルスフィオンシールドを展開するが、よく見れば傷口が広がっている。行動すればするだけジェスターは弱っていくと気づけば後は簡単だった。即座にルスフィオン・レイを浴びせてシールドを破壊、そこに再びグリムリーパーの斬撃を当てて左腕を切断、それを掴んで同化する。
さすがにまずいと気づいたジェスターは背を向け逃げ出す、だが片腕を失った事でバランスを崩して倒れ込む。
「さて……何故あなたの様なモノが人間に、MCMSに関わっているのですか?」
「目的が同じだからさ!この星を滅ぼすという目的が!」
「この星を……滅ぼす!?」
答えて貰えるとは思っていなかった問をあっさりと話すジェスター、そしてMCMSの目的が破滅だという事に思わずハレルは聞き返す。
「そうさ!カルヴァンクは自らの手でこの世界を滅ぼしたいのさ!」
「その理由は!」
「さあね!」
こいつは嘘をついていない、何が何だかわからないがMCMS代表カルヴァンクは世界を滅ぼしたいと思っており、その目的に協力していたという。ならば思いつく手段は……ルスフィオンの大量散布による汚染か……それとも。
何にせよ、もうこいつから聞き出せそうな情報な無さそうだとトドメを刺そうとしたその時、不意に凄まじい衝撃でハレルは吹き飛ばされて壁に激突する。起き上がってみればそこには生身を残したサイボーグの老人が居た。
「カルヴァンク!来てくれたのかい!」
「最初から期待などしていなかったが……まあいい、頃合いだろう」
その老人こそがMCMS代表カルヴァンクだった。地面に倒れ伏したジェスターを片手で持ち上げるフィジカルはとてもではないが100歳を超えるとは思えない力だった。
「すまないねぇ助かったよ」
「助かる?これから滅びるというのに」
「そんなことはないさ!臨界し爆発するルスフィオンに意思を乗せれば私はこの宇宙に拡散してゆく!」
臨界という言葉にハレルは思わず目を見開く、ルスフィオンを何らかの手段で増幅・増殖させており、それを爆発させるという手法は間違いなくこの世界を滅ぼすだけの威力を持つだろうことが安易に想像できてしまったからだ。そして目の前のルスフィオン体はそれに便乗して増殖しようとしている、もし許せばこの世界だけの問題では済まなくなる。
シルスも同じだった、もし自分の故郷の世界にこんな怪物が現れればどうなるか。誰が倒すのかと想像してしまう。だから今すぐにでも始末しなければならない、と思ったその時。
「いや、貴様はここで終わりだ」
カルヴァンクの剛腕がぐしゃりとジェスターを握りつぶし、溢れ出たルスフィオンを体が吸収する。
「な……なんで……」
かろうじて残った首が地面に落ちて驚愕の表情を浮かべる、カルヴァンクはつくづく愚かそうにそれを見下ろして言い切る。
「貴様には憎しみがない、その由来となる愛もな」
ジェスターの残骸を踏みつぶし、今度はハレル達に顔を向ける。
「よく来たな、おかげ様で計画を前倒しにしなければならなくなった……が悪くないタイミングだ。後30分もあればこの星は消えてなくなる……私の夢がようやく叶う、家族を奪ったこの世界を殺すという夢がな」
「……復讐ですか」
「そうだ、世界を滅ぼすに値するだけの絶望だ。もはや何者にも止める事はできん……貴様らにも邪魔はさせん」
老人の体が膨張する、衰えていた筈の筋肉がまるで全盛期かのように活性化し、接続された機械部位がまるで生きているかのように脈動する。否、科学の粋を集めたそれはもはや人体と融合した義肢の極みだ。
「それだけの技術があれば……世界を救う事だってできたでしょうに!」
「笑わせるな、愛する者の居ない世界など虚無の牢獄にすぎんのだ、行くぞ!」
ドンと地を蹴り、カルヴァンクが凄まじい勢いで迫って来る。ただの人間とは思わない、相手は目の前でルスフィオンを吸収してみせた、その上で肉体を強化した。なにかカラクリがある筈だとハレルはまずその大砲の様な右ストレートを躱す。だが威力を見誤っていた。
殴られた空間が爆裂したのだ、文字通りに砲弾が直撃したかのような衝撃によって弾き飛ばされて、地面に叩きつけられながらも即座にフローティングで滑る様に移動する、その次の瞬間、床がまたしても爆裂した、砕けた破片がバリアに弾かれる。
「なんて馬鹿力だ……よっぽど鬱憤でも溜まってたか!」
「その通りだとも、だが驚くのはこれからだ」
体勢を立て直したハレルはカルヴァンクの肉体を透視して解析する、ジェスターを取り込んだ事で得たルスフィオンエネルギーが全て消えている事に気づく。まだこの部屋の中には僅かであるがルスフィオンが残っているとはいえ、ならばどこに行ったかと推測し、恐ろしい答えに辿り着いた。
「まさか……ルスフィオンを生命エネルギーに変換した……!?」
「その通りだ、ルスフィオンだけではない魔力も電力も生命エネルギーも全ては同じ宇宙から発生したものであり……この世界に存在するものだ、ならば必ずどこかに繋がりがある訳だ……お前達が追い詰めてくれたおかげでこの発想に辿り着けたのだよ」
「ありえない……それだけの力があればなんだって……」
「だがそれでも死者を蘇らせる事だけは、過ぎた時間を戻すことだけはできん」
男の悲嘆、怨恨、絶望、それらが業火となる、オーラの様に見えるそれは実体を持って空間内の熱量を上昇させていく。それに気づいた時ハレルは防御し、もはや設備の使い物にならなくなった施設は粉々に消し飛んだ。それを逃げ出していく役員たちはまるで地獄の釜が開いたかのかと見間違えた。
「滅茶苦茶ですよ、あの男」
「だろうな、でも家族を奪われた憎しみや悲しみは……まだわかる動機だ。でもそれを奴に叶えさせてやる訳にはいかんだろ」
ハレル達は間一髪の所で床を同化することで穴を開け、どうにか地下通路に脱出したおかげでダメージは無い。確かにカルヴァンクは脅威だ、だが今は奴の相手をしている場合ではない。
ルスフィオン、何らかの手段で今も増幅されているソレは地下に入った事で存在を感知しやすくなった。感覚を研ぎ澄まして、その出元を辿りながら対策を考える。
「カルヴァンクは……何らかの方法でルスフィオンを別のエネルギーに変換していました。その方法が分かれば」
「魔術か?機械か?同化して奪える方法だと思うか?」
「無茶でしょうね、まだ我々がルスフィオンを増幅してる装置ごと喰った方が可能性はあるでしょう」
「結局やることは一緒か」
まさか最終兵器が代表自身だとは思いもよらなかった、てっきりドッペルの様なルスフィオン機体やとんでもないロボットぐらいだと予想していたが甘かった。とシルスは頭を抱えた。
迷路の様な地下を時間制限付きで突破しなければならないのも含めてだ、まだ気配のおかげでどこへ向かえばいいのかわかる分マシだった。所々セキュリティを強引に突破しながらもある事を思いつく。
「そうだエレミス達にも話を聞くべきだ、ログを送ろう」
『シルスか、通信がないから心配をしたぞ!やられたかと思ったではないか!どうした!』
「このログを見てくれ」
エンジェルモデルが記録したジェスターとカルヴァンクのデータを即座に端末に転送、するとエレミスがまるで絶句しているかのように感じる。
『正気か、なんだこれは』
「なんもかんも私達が相手した者です、ルスフィオンを生命エネルギーに変換するなんて意味不明な芸当をしてくる男がいるなんて思わないじゃないですか」
『……おそらくこれは高度な機械技術ではあると推測するが、カルヴァンクは……とんでもないな、こんな天才が……復讐か。加えてルスフィオンによる地球の破壊まで……教団のネットワークも絶句しているぞこれは』
だろうな、と二人は思う。だがマキナ教団はテクノロジーには強い。
『だが……どうにかハッキング用端末をカルヴァンクの体に打ち込む事ができれば、解析……あるいは制御を奪えるかもしれん、加えて増幅されたルスフィオンの対策もできるかもしれん、やってくれるか?」
「そうか、奴も機械ならば……だけど」
思い浮かぶのはあのパワーだ、命を奪うリスクよりも逆にこちらが殺されかねない。しかもむざむざと怪しい攻撃を受けてくれるとは思えない。先に優先すべきは……辿り着いたのは地下発電施設、動力炉。
そこは今青い光に包まれており、近づくだけでエネルギーが削られるような有様だった。
「これが言ってたルスフィオン増幅炉って奴ですか!なんとまあとんでもないことを……」
制御盤にハッキング端末を突き刺し、教団のネットワークが接続される。おかげでMCMSのネットワークは全て掌握が完了した……がこのルスフィオン増幅炉は別であった、完全に停止不能・制御不能な状態に陥っていた。原因は明白だ、そもそもが停止する事を考えてない設計だった為だ。
いわば導火線に火の点いた爆弾、臨界を起こして大爆発を起こすのは時間の問題だ。
かといってここでずっと待っている訳にもいかない、おそらくカルヴァンクはこちらの動きに気づいている筈。こんな所で戦闘になれば……。
「やはりここに来たか」
起こって欲しくない事ほど起こるものだ、ハレル達を追ってやってきたカルヴァンクが高濃度汚染空間を平然、いやむしろ調子良く歩いてくる。シルスは勘弁してくれと心の中で思った。
「私としてはあなたが敵なのが本当に惜しいと思いますよ、これだけの技術があればウチはどれだけ楽ができることか」
「だがすべては、もしもの話だ。既に手遅れなのだよ」
「だからアンタをぶん殴って止めるだけだ、世界は滅ぼさせない」
カルガに貰ったドラゴン素材を取り込んでいる分、今は基礎スペックが爆発的に上昇しているが……それでも先程の有様だ、普通に魔法少女のスペックを越えるだけのパワーを持ったカルヴァンクにどう対応するか。
残された手札はルスフィオン、ウィルスブレード手裏剣が4枚、そしてハッキング端末……しかし何かを忘れていないか。
『愛理……またこんな重要な役目を任せる事になるが……」
『いーよいーよ!ここしばらく堅苦しい話ばっかで出辛かったから!これぐらいバカなぐらいの出番のが私は楽だよ!』
『まあ真面目な話なんだがな、頼むぞ』
勝ち筋は一つ、なんとかしてカルヴァンクにハッキング端末をぶっ刺す。以上……単純な話だ。とシルスは目の前の現実に向かって吠える。
仕掛けたのはハレルだ、ドラゴンのパワーを引き出す事だけを考える。まずは爪だ、両手にドラゴンクローを形成し突撃、手加減なんていらない相手なのだから「壊す気」で切り裂く、が先に砕けたのは爪の方だ。原因はカルヴァンクの体を覆うバリアコーティング、それもルスフィオンのエネルギーをふんだんに吸収して作り出されたバカみたいに頑丈なバリアだ。
「お前達が普段使うバリアコーティング、誰が簡易化して普及させたと思っている?戦場だけではない、汚染対策や施設や機材にも使われるそれは……私が改良したものだ」
「……偉人なら最後まで人の為にありやがれです!」
砕けた爪を切り離し再度生成、今度はルスフィオンを込めたエネルギークロー。だがそれは左腕の機械部分で受け止められ、逆にルスフィオンを吸収される始末。
「バリアを中和するというのならば、吸収するという選択肢を取るべきだったな。奪い合いならば勝負はわからなかったぞ?」
「一々ヒントを与えてくるのはなんなんだよアンタ!」
「楽しいからだ!」
凄まじい衝撃と共に一瞬意識が飛びかける、シルスとハレルは今目にも止まらない速さで蹴られた事を自覚した。攻撃の当たった箇所のプロテクターが無惨にも砕け散って、バリアすら貫通して内蔵にダメージを与えて来た。思わずを血を吐き膝をつくが、カルヴァンクの猛攻は止まらない。続けてハレルを掴み持ち上げて地面に叩きつける。それに対して即座にフローティングを使って衝撃を殺しながらカルヴァンクを覆うバリアコーティングを吸い上げ、パワーアシストが一瞬緩んだ瞬間に抜け出す。
「悪役というのは存外に楽しいものだな!清々しい気分だ!美学などと言って悪ぶる連中の気持ちがわかるというもの!」
「典型的な……力に酔いしれた者の意見ですね!」
「そうだ、これだけの力を振るう事を!我慢してきたのだからな!何度愚か者どもをこの手で縊り殺したいと思った事か!」
「争いを拡大させるばかりのクズばかりが集めたのはあなたでしょうが!」
「そうでもあったな!ハハハ!」
この老人はフールの様にルスフィオンには呑まれてなどいない、ルスフィオンの力で狂ったのではない。ぶつかる度にそれをハレルとシルスは感じてゆく。
「今度はこちらからだ、受けてみるがいい!我が憤怒を!」
カルヴァンクが構えを取ると、一度に4発の拳が飛び出し炎となって飛来する。んなバカなと思いながらもハレルはそれを新たに出現させたドラゴン・テイルランスで弾いて防ぐ。その際に飛び散った炎が辺りに広がるが増幅炉は高出力のルスフィオンシールドによって守られている為に無事だ。
「バリアコーティングといい、あなたは科学者より魔術師の方が向いていたかもしれませんね」
先程の大爆発といい炎に対しては竜の力のおかげか強い耐性があった、燃え盛る戦場を駆けテイルランスの先端にエネルギーを集中させる。側面からの攻撃を受ければ弾かれる、だろうがカルヴァンクはそれを正面から左手で受け止める。シールドを集中させて硬度を高めているのに加えて体そのものが頑丈なのだ。とはいえ流石に竜の力が勝る、手の平を貫通する事には成功した。
テイルランスの先端が展開し、ウィルスブレード手裏剣の刃がそのままカルヴァンクに接触する。
「ぬおおっ!?」
一撃でギガンテスをも停止させた強烈なウィルスがカルヴァンクの体の機械部品を蝕み、破壊していく……チャンスかに思われた。だが、倒れない!ただ痺れただけだと言わんばかりにランスの先端をウィルスブレードごとに握りつぶし破壊、無力化された武器を手放してドラゴン・タスクブレードを生成、こちらにはウィルスブレードは含まれていないが、切れ味だけはある。
狙いは腹部、これが致命傷になるとはとても思っていないが。それでも背の低いハレルが視界から一瞬消えるのは十分に効果的だ。どうしても人間は上下の視点移動には弱い。
「貰いました!」
確かにその一撃は届いた、カルヴァンクの腹部を貫き、背からタスクブレードが突きだす。
「甘いわ!」
だがカルヴァンクの右手もハレルの首を掴んだ。今、両手がふさがったこの瞬間が勝機だ。
愛理が声も出さず背面に現れてカルヴァンクの背に二つのハッキング端末を突き立てた。
「なにっ」
「なんでこんなに体硬いのよ!年寄のくせに!」
だが片方は端子ブレード部分が砕け、生身の部分にはどうにか刺さる。その瞬間からマキナのネットワークが瞬く間にデータを吸い上げ、二つの端末が爆ぜた。カルヴァンクが全身から電撃を放ったのだ。愛理は弾き飛ばされて実体化を解いて避難したが、右手に捕まれたハレルは直接それを浴びる事となる。
思わず悲鳴を上げたくなるような激痛とバリアすら貫通して肉を焦がすそれは大地に落ちた雷。強化されてなければ瞬く間に消し炭になっていただろうそれを耐えながら竜の最強の力を解放する。
ハレルが口を開く、吐き出されるのは言葉ではない。竜の歌だ、竜の祝福、竜の吐息。
ドラゴンブレス、かつて樹龍が放ったそれを今度はハレルが放つ。
命あるいは力そのものとも言える熱線がカルヴァンクを大きく吹き飛ばし、ハレルを解放する。
「はぁ……!はぁっ!どうですか!エレミス!もう一回はできませんよ!」
『確かにあれは装置だ!だが素材が不明だ!再現する時間も余裕もない……かくなる上は……』
「今の一撃、そうか……読み取ったか。ルスフィオン変換装置を、ならば冥途の土産に良い事を教えてやろう……装置の素材はこの世にはもうないものだ、かつて無謀にも私に挑んできた守護者とやらを素材につかったのだ」
「守護者……まさか!」
ハレルとシルスの脳裏に浮かぶのは管理人、思い返せばどうやってあのルスフィオンを隔離して侵食させずに保管していたのか。ならば答えはある程度絞られる。
「守護者の心臓だ、それを素材に私が開発してみせたのだよ。今はこの私の心臓として動いている」
「余った分はどうなったんですか」
「捨ておいてある、どうせこの星は終わるのだからな」
「良い事を聞きました、その素材が欲しくてたまらないので……あなたを倒したら持って帰るとしましょうか!」
降って湧いた幸運か、あるいはパンドラの箱の底の希望か。管理人に土産が出来た事を喜びたい所だが、ルスフィオン変換装置を再現するレシピも材料も時間も足りない事に苦悶の表情を浮かべる。
「あんたの、あんたの心臓を奪えば……いい訳だな」
「できればの話だ」
シルスは悟ってしまった、ここに来てこのカルヴァンクという男を無力化するだけで済むと見ない振りをしていた事に。今まで殺して来たのはどれも怪物か機械だった、本当に人を殺める必要に。
『……ハレル、シルス。方法が一つだけある……カルヴァンクを増幅炉にぶつけて全てのルスフィオンを別のエネルギーに分解させろ……それが……それがただ一つの選択肢だ……そしてそれは……』
そんな時、エレミスが言葉を詰まらせながらただ一つの希望を語る。あまりにも残酷な希望を。
「気づいたようだな、そのような事をしようものなら発生した余剰エネルギーでお前達も消し飛ぶだろう。あくまで変換であってエネルギーが消える訳ではないのだから」
『被害想定規模は周辺一帯の消滅と出ている……お前達に死ねといっているようなものだ、だがこれが……我々の出せる唯一の答えだ』
「いや、そうでもないぜ」
人は真に追い詰められた時、本質を見せる。
カルヴァンクがそうであったように、これまでシルスがそうであったように。
「考えがあるんですね」
「ああ、だから最後まで付き合ってもらうぞハレル、それに愛理も、エレミスもだ」
我に希望あり、未来あり、秘策有り。シルスは激しく闘志を燃やし、神が人へと託した想いが可能性を掴むべく力となる。ボロボロのドラゴンブレイヴの素材を同化して再構成し、エンジェルモデル・アズライールを中継し、新たな姿へと変化する。
それはヒビキ・ハヤテのファーヴニルモデル・ソニックインパルスの意匠に似た形状を持ちつつもエンジェルモデル・アズライールの姿も残したもの。
黒き甲殻質のプロテクターと赤き翼ドラゴン・ウィングを胸と背に宿した悪魔であり、天使の様な姿だった。
エンジェルモデルでもファーヴニルモデルでもないこの姿を「シャイニング・インパルス」とシルスは定義した。