【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm 作:青川トーン
シャイニング・インパルス、赤き天使であり悪魔でもある「簒奪者」は炎の中に舞い降りた。
「あんたがどれだけこの世界の事を憎んでるか、俺には計り知れない……けれどそれを叶えさせる訳にはいかない……!その望みを奪う!」
「面白い!やってみろ!姿が変わっただけで出来るモノならばな!」
増幅炉内のルスフィオンは直に臨界を迎えるだろう、だからもはや猶予はない。
ハレルとシルスの二人は正面からカルヴァンクに激突する。文字通りの衝突、どちらかが砕けるかのぶつかり合い。衝撃が炎をかき消す。
「さっきとは桁違いのパワーだな!大したものだ」
「あんたのそのくだらん意地もな!大したもんだよ」
既にカルヴァンクの左手と腹部にはダメージが入っており、多少ではあるがウィルスブレードの効果もあったが為に間違いなく弱体化はしている。だがそれでも依然として凄まじいパワーを持っているのは事実。
「だが足らん!砕け散れ!」
周囲のルスフィオンを吸収し、エネルギーへ変換しながらカルヴァンクが拳を振るう。だが先程までと違いハレルは、シルスは吹き飛びもせず、回避もせず、その身で受け止めた。当然ながら衝撃は受けているがそれを完全に受け止め耐えきる。
ドラゴンブレイヴから進化したシャイニング・インパルスのプロテクターはまるで命の宿った鋼鉄の要塞のごとし、燃え上がる様な熱が歪みさえも補修していく。
「展性合金か!」
「そうですとも、硬いだけじゃ……いつか砕けるんですよ!」
お返しといわんばかりにハレルが殴打、殴打、殴打。ぶつかる度にバリアが歪み、砲弾の様に拳が着弾。そして四打目でついにバリアが砕けてカルヴァンクの体に拳が突き刺さり、はじめてカルヴァンクが正面からの攻撃によろけて後ずさる。
「嘗めるではない!」
だが負けたままではいられない、たかが10数年ぐらいしか生きていない小娘と小僧に計画を、この苦痛と憎悪に満ちた人生を、家族への愛を否定させてはならぬ。その強い意志がさらにルスフィオンを吸収してゆく、ついには空間中に溢れ出たものだけでなく増幅炉からさえもだ。
「ぬううううう!!食らえい!」
雷撃を纏った拳の一撃、それは今までのどの攻撃よりも遥かに危険な攻撃だ。だがそれをシルスは両の手で受け止める事を選んだ。そうだこれを待っていた、同化によって雷のエネルギーを吸収しシャイニング・インパルスはその真価を発揮する。今まではエネルギーが不足していたが故に使えなかった能力がアクティブとなる。
「なにぃっ!」
カルヴァンクが見たのは金色の光を纏うシャイニング・インパルスの姿だ、今の雷の一撃をスイッチとし竜の力に火を点けたのだ。
「ファイアーッ!クローッ!」
シルスは神官の力、「造物」の権能の力のイメージを確固たるべくして叫ぶ。その瞬間両手に形成されるのは燃え盛るドラゴンの爪、受け止めたカルヴァンクの右手を握りつぶし、胸を左右の手で二度切りつける。バリアさえ容易く貫通し、炎によって傷口は焼かれてカルヴァンクは思わず苦痛に呻く。
どんなに生命力を補充しようと、傷が帳消しになるわけではない。それはハレルやシルスも、カルヴァンク自身も同じ条件だ。無尽蔵の体力があれど肉体が砕けてしまえば……戦えない。
「ぬううう……!こんなことであればナノマシンも積み込んでおくべきだったか!」
「まだ伸びしろがあるとか勘弁していただきたいですね!」
「それは貴様らも同じだろうが、インチキであろう!その力は!」
このままでは負ける、だがカルヴァンクは笑っていた。まだ勝負を諦めてはいないのは彼もまた同じだった。天才的な頭脳が打ち勝つにはエネルギーが必要だと答えを出す。この場で最も有効なエネルギー源はそう、すぐそこにある増幅炉だ。
目の前の小童二人を叩きのめし、この地球を消し飛ばす完璧な案がカルヴァンクの頭に浮かんだ。
だがリスクが大きすぎる、失敗すれば目的の半分も達成できない。しかしこのまま遅延戦術に徹していてもそれは同じだ、心臓を奪われてしまえばせっかく増幅したルスフィオンを変換されてしまう。
ならば今からでもルスフィオン変換器を引きずり出して破壊すれば、己は死ぬが目的は達成できる。
そもそも一歩間違えれば計画の邪魔ともなるルスフィオン変換装置を作ったのは何故だ?己の手でこの星が潰えるその瞬間が見たかったからだ、勝つならば……完全に勝ちたいだろう!
回り過ぎる頭も考え物だなと自嘲し、カルヴァンクは跳躍しルスフィオン増幅炉の真上に飛び乗る。
「もはや知恵比べも、技比べも、策もどうでもいい!全てを破壊し尽くすまでだ!!」
増幅炉に右の拳を突き刺し増殖したルスフィオンをカルヴァンクは吸い上げる、その逞しい肉体が発光を始める。あきらかに人間が許容できるエネルギーを越えていて、それをバリアコーティングと生命力で抑え込んでいる。
「マジかよ……!あいつ!俺がやろうとしたことを……」
「どうしますか?作戦変更しますか?」
シルスの策とはカルヴァンク自身を変換器として増幅炉を止めるという手段だった、だが当の本人がまさか自分からそれをやろうとは思うまい。しかもそれに影響されてかルスフィオンの増幅が加速度的に上昇していく。このままいけばどっちにしろ吹き飛ぶ、ならばやる事は一つ。
「ならぶち抜くまで!!!」
これまでもこれからも変わらない、ナユタ・シルスは、イツキ・ツムグはバカだ。
「この世界諸共に消えてなくなるがいい!!」
その瞬間、カルヴァンクは雷神へと至った。物理的な肉体は完全に分解され、守護者の心臓を持ち圧倒的な生命エネルギーと電気エネルギーをフィールドで固定して顕現する最新の神。ルスフィオン増幅炉が臨界を迎えようとしたその時だ、二人は真正面から拳を神の胸に突き立て、増幅炉へ磔にした。
あまりもの熱量にシャイニング・インパルスの外装が蒸発していく、だが確実に今。カルヴァンクの心臓を掴み爪を立てた。
「頼むぞエレミス!!」
ファイアークローは確かに強い武器だ、だがそれだけではない。その先端はハッキング機能を持っていた。そうだ、再構成したのは純粋なパワーアップの為だけではない。ハッキング端末の機能を取り込む為でもあったのだ、故に「簒奪者」だ。
ルスフィオンから変換できるエネルギーで最も安全で、被害が出ないモノとはなんだろうか。
それは言わずもがな生命エネルギー、あるいはかつて一欠片だけ残されていたウルテウム。真逆の物質へ変換できるとは大したものだ、カルヴァンクは紛れもない天才であり、守護者を作った神もまたとんでもない存在だったのだ。
ただし、カルヴァンクが作り出した電気エネルギーと熱エネルギーまでは変換しきれない。
それを可能な限り同化能力によって消失させたが、それでも吸いきれない。
人の逃げ出したMCMS中央本部は光に包まれてこの地上から消滅し、雲をも焼き尽くす炎の柱が顕現した。
ハレルとシルスは生きていた。いまだ炎の残るクレーターの中、完全に融解して使い物にならなくなったシャイニング・インパルスの外装を排除する。
同じくカルヴァンクも生きていた、あの爆発をものともせず全くの無傷。それもその筈、もはやエネルギー生命体なのだから物質的な損傷を恐れる必要はない。
だが、ルスフィオン変換装置が砕けた以上いずれエネルギーが枯渇すれば消滅する運命にある。
「終わりだ、あんたの野望も全部」
そして発生した大量の生命エネルギーも殆どが臨界寸前のルスフィオンと対消滅して消え去り、増幅炉も炎の中に消えた。これでカルヴァンクの野望は潰えた、かに思えた。
「何が終わりだ?まだ私の手にはこの世界を破壊し尽くせるだけの力は残っている」
雷神に至った、それは文字通り存在の格が一つ上がった事を意味する。エネルギーが枯渇すれば消滅するがそもそも前提として身に宿すエネルギーは星を破壊するには十分残されているし、補給手段さえ手に入れれば寿命という枷からも解放されたも同じ。
誰が言ったか「闘争は人を進化させる」という、ハレルもシルスも戦いの中で成長していったがカルヴァンクはそれ以上に文字通りに人から神へと至った。嫌になるねとシルスは心の中で溜息をついた。
「だがあなたも命ある存在、そして変換装置を失った以上は」
「そんなボロボロの体で勝てるとでも思っているのか?」
「悪いな俺達にとってはこんなのかすり傷なんだ」
「強がりを」
ここに来て二人は逆に勝機を感じていた、ルスフィオン変換装置という明確な防御手段を失った以上はカルヴァンクもただの命ある存在だ。
つまりは殺せるという事だ。
加えて、もはや周囲は見事に焼野原であり守るべき味方も居ない……だから本気を出せる訳だ。
内に秘めたルスフィオン達が歓喜の声を上げ始める、命を滅ぼす事が出来るのだ、使い手がそれを望んでいるのだと。さっきまでカルヴァンクの味方をしていたというのに短絡的な思考しかできないエネルギー共にシルスは呆れていた。
もうここまで来てしまえば忌避感は薄い、今のカルヴァンクはもはや災害そのものだ。
後戻りできない所まで来てしまった男の最期を看取ろうという気持ちでシルスは向かう。
ハレルもそれを察したのか何も言わない、グリムリーパーを手にしてルスフィオンの力を解放する。
その瞬間、周囲に青白い粒子が漂い始めてカルヴァンクの体を蝕み始める。
「ぬぅ……そうか、貴様らも持っていたな。これが死の苦痛か……いいだろう!第三ラウンドだ!」
決戦の火蓋が切られた。この場において全てのリミッターを外す事の許されたハレルは躊躇しない、バリア手裏剣もいつものものではなくルスフィオンの燐光を纏った禍々しいものとなり雨あられとカルヴァンクに降り注ぐがそれら放電によって纏めて撃墜され、青い光となって周囲を更に汚染していく。
だが既に次の手は打たれていた、大地を侵食して結晶の刃が次々と飛び出し、さらには何もない空間にも機雷状のルスフィオンの塊が浮かび上がる。これもまた人の知恵と意志によって制御された死の力の形だった。
「敵に回るとこうも厄介とは!ジェスターめ、これが出来るだけの頭があればもっと使えたろうに!」
相も変わらずそれらを放電で迎撃するカルヴァンクであったが、それには理由があった。新しい体に慣れてないのだ。これまでは装置の助けもあったが故に様々な技を使えたが、今では自力で指向性を制御しなければならない。
だが狙いは正確であり、無駄なく攻撃を防ぎ続けているというのは天才に他ならない。そして既に一つ、電磁バリアの形成に成功し周囲のルスフィオンを遠ざけ始める。
「シルス、作戦変更」
そうなると汚染で徹底的に削ろうとしていたハレルは戦術を変える、グリムリーパーをスピアモードにして周囲のルスフィオンを吸収・収束させてルスフィオン・クリスタルブレードを形成。それを力場によって射出して矢として放つ。
凄まじい勢いで電磁バリアを突き抜けたルスフィオンの刃は雷神のエネルギー体にどんどん溶け込んでいき生命エネルギーを消失させていく、が足りない。全てを使ってもほんの数%が削れただけだ。
その間にカルヴァンクは新たに技を編み出す、それはルスフィオン機雷と同じようにエネルギーの球体、雷電球だ。それらがハレルに向かって放たれる。
バリアの中に閉じ込めた電気エネルギーの塊は時折放電しては方向を変え、ランダムに移動し続ける障害物となり行く手を阻む。当然ながら一発一発の内包エネルギー量も相当だ、シャイニング・インパルスの防御力のなくなった今、一発一発が致命傷になりかねない。
時間が経過していく程不利になっていくのはハレル達の方だ、カルヴァンクは今この瞬間にも新たに力の使い方を習得していく、加えて蓄積したダメージの量では比べ物にならない。
雷電球をルスフィオン・レイで薙ぎ払い撃ち落とし、そのままカルヴァンクに浴びせて電磁バリアを強引に引きはがし怯ませる。続けて間を開けずにそのまま二射目のルスフィオン・レイを浴びせながら前進。まるで亀裂が走る様にカルヴァンクの体を侵食していく……有効打ではあったが、そこまでだ。
「……ッ!くそ……こっちの体がもたない」
「弱音を吐いても変わりませんよ!」
ルスフィオン・レイを制御する為に集中力・精神力・生命力・魔力、あらゆるものを消費している。
必殺の一撃であるそれは決して容易く連射できる技ではないのだ、無理を押して強引に叩き込んだ代償は重くついた。ハレルの両腕から血が滴る、砲身が焼き付く様にエネルギーの流し過ぎで体が崩壊しているのだ。
「まだまだァ……勝負はこれからよ!!」
だが、ここで止まる訳にはいかない。カルヴァンクも同じだった、今の一撃は大きなダメージとなり、勝ったとしても己の望みを叶える為には一度立て直す必要がある。だが勝たねばそのチャンスすらないのだ。
確かに逃げれば済む話だ、そもそもハレル達を無視して世界を破壊しに行けばよかっただろう、だが違うのだ、勝たねば、勝たねば心は満たされないのだ。虚しい終わらせ方を最も拒んでいるのはカルヴァンク自身なのだ。
華々しく!徹底的に!美しく!そうでなければ弔いにも復讐にもならない!
カルヴァンクが前へと踏み出す、歩を進める。老いた男の、くだらない、ちっぽけなプライド、意地あるいは我儘が形を成した様な姿だった。
ハレルの体は限界だ、このザマでは無理だ。
だがまだ体はある、変身を解きシルスが立つ。
当然一体化しているが故に完全に無事とはいかないがそれでもハレルよりマシだった。
「なんだ、まだ動くではないか貴様らも!」
「ああ、あんたもな」
互いに不思議と憎悪だとか悪感情はなかった、なんなら敬意すらあった。
「あんたがそうだったみたいに、引き下がれない理由が俺にもある!守りたい人がいる!」
だから負けられない、ともう一歩踏み込んだ。互いの拳が届く距離となった。
カルヴァンクはその言葉に何を想ったのだろう、ただ一瞬拳を振るうのが遅れた。視線がシルスではなく、その後ろへ向いてしまっていた。
「そうか」
シルスの拳はカルヴァンクの胸を貫いていた。力無く倒れる雷神を、哀れな男をシルスは受け止める。
「ならば……生き残るが良い、それが勝者の……権利だ」
輝きを失った雷神は最期に人間へと戻り……そして静かに消滅していった。
「生き残って見せるさ」
あれほど苛烈で、まさに雷の様に暴れまわった男の最期はあまりに安らかで、逆にいっそ清々しかった。
シルスとハレルはようやく戦いが終わったと膝をつきたかった……がまだ仕事が残っている。
「くそ……カルヴァンクめ。ルスフィオンを全部使いやがって……まあいいよ!次の策はお前達を殺してから考えるからさ……!」
カルヴァンクによって完全に吸収されたと思われたジェスターは生き残っていた。踏みつぶされた頭部から再生し、シルス達が増幅炉に到着する前にそこからエネルギーを吸収して復活していたのだ。
とはいえ完全な状態ではない、人間の少女の姿というよりは骸骨に青白い幻影が纏わりついているといった不安定な状態。それでも脅威というには十分だ。
ハレルの体はボロボロでシルスも体力が尽きかけている今、打つ手は無いかに思われた。
「死ね、邪魔者!」
ルスフィオン弾が撃ち込まれるその時、シルスの手が動き、手にした包丁が攻撃を弾いて逆にジェスターの体に命中させる。
姿が、変わる。黒い闇の様なモヤに包まれシルスの姿が愛理へと変化する。
「私だっているんだから、忘れちゃだめだよ」
「後は、任せていいか」
「もちろん!」
シルスと一体化してるのはハレルだけではない。そう愛理もまたシルスの大切な友であり仲間だ。
「もう一人居たか!けど魔法少女でも神官でもないお前など脅威じゃ……」
もはやジェスターの程度は知れている、ならば負ける理由などない。消化試合とはまさにこの事か、愛理の投げた包丁がジェスターの肩に突き刺さる。
「誰が脅威じゃないんだって?それはこっちのセリフ、あなたみたいな死に損ないこそ脅威じゃないよ」
「黙れッ!!!」
愛理めがけてルスフィオン弾を連射するジェスターだが、その全てがたった一本の包丁によって受け止められ蓄積されている。そして愛理の姿が掻き消える。
「な……どこへ!?」
「あなたの後ろ」
ジェスターの体が振り返ると同時に、その首が落ちた。簡単な理由だ、愛理が後ろに現れて首をルスフィオンの宿った包丁で切り落としたのだ。
ルスフィムとて実体を持ってしまえばある程度の縛りが生まれてしまう。特に人間に寄せてしまった以上は特に。
「シルス、やるよ」
「ああ」
後は動けなくなったジェスターを同化してしまう、今度こそ逃がさない様にしっかり掴んだまま分解して吸収し尽くす。
「ばか……な……私が……こんな」
「あなたがおバカで助かったなーまた探すなんて手間なんだから」
ぼんやりと残った残り火の様な残骸を握りつぶし、今度こそルスフィム・ジェスターはこの世界から消滅した。
それによってMCMS掌握は完全に成った、全ての独立戦力を含む抵抗戦力は制圧され、ネットワークはマキナ教団の支配下となる。
推定死者数300、抵抗したMCMS拠点および独立部隊の兵士の犠牲だ。
幸いな事にアライアンス・ユニオン・ナユタ側の戦力に死者は一人も出ず、攻撃目標を完全に絞ったために民間人も犠牲になることはなかった。しかし完全な勝利とは言い難い。
MCMSの報復戦力は宇宙にも存在していた。大規模な戦闘となった際に通信網を破壊すべく軌道上に配備されていた魔法少女無人機群、それらによって数少ない人工衛星が次々と破壊され、中央ネットワークが制圧された事を検知したMCMSの衛星が自爆。これによって長距離通信は更に困難となり、文明は一歩また後退する事になる。
そして拠点制圧の為に多くの機械戦力を撃破してしまったのもまた後を引く事になる、MCMSによって弾圧されてきた勢力が活気づくのは間違いないだろう、また中央本部が消えてなくなった事による混乱も少なくない。
それらによってアライアンスやユニオン、そしてこの世界に生きる人々は多少なりとも出血を強いられるだろう。だが、これまでMCMSが行って来た事による犠牲よりかはきっと遥かに少なく済むだろう。
この日また一つの戦いが終わり、多くの人々に知られないまま世界の危機の一つが過ぎ去った。
だが、争いの火が完全に潰える事はなく……今日もまた生き残れた事に人々は感謝するだけだった。
そして戦いから三日後。
戦いの後、中央本部の跡地から白い未確認物質をマキナ教団の調査ドローン部隊が発見。それらが守護者の欠片であると判明すると一部のサンプルを残しナユタに譲渡、ナユタもさらにそこから一部をサンプルとして残りを墓所へと送った。今なお生き残る戦友への癒しとなるならばと。
ハレル達はナユタの大神殿上部の屋敷にて傷を癒していた、神官や巫女達による処置により全身の損傷は跡形もなく消えた……がやはり精神力・生命力の消費が激しくまともに動ける状態ではなかった。
そもそもこんな状態の二人を中央本部跡地から回収したのはアマネだった、かなりの無茶を押し付けたという申し訳なさもあったが、喜びもあった。
思った通り、二人は大勢の人々を動かし、最大限の成果を手に入れた。
いずれナユタが瓦解して無くなっても人と人の繋がりは世界を変えていける筈だと。
そして当人達はというと端末で報告を読んでいた。
自分達が引き起こした戦いがどれだけの被害と犠牲を出したか、何を得たか、何を変えたのか。
それを知る義務と責任があるのだと。
「シルス、まだ右手は痺れているのですか」
「ああ、あの時カルヴァンクの命を奪った。その時からずっとな」
災害と成り果てたとはいえ、人を討った事はやはりシルスの心にずっと残っていた。
だが同時にもう一つカルヴァンクの死に際に残した「生き残るがいい」という言葉もまた同じだった。
敗者の全てを背負う、それこそが勝者の義務である。
そんな言葉がシルスの頭の中に浮かんでいた。
「ずっとこんな事してたんだな、誰も彼も」
「そうですね……有史以来、あるいは生命が誕生してからずっと……奪い奪われ、生き残った者が前に進むその繰り返しでしょうね」
「死んでいった者達を忘れずに背負ってか」
「ええ、忘れる必要なんてないんです。彼は幸いにも私達に想いを多く教えてくれました、だから彼と同じような苦しみを、憎しみを抱く人が生まれない様に平和な世界を目指したり、また同じ様な事があれば止めてあげる事……それでいいんです」
「ああ、忘れたくても忘れられないよ……あんな爺さん」
「そして、シルス。あなたは世界を救った、大勢の人の命も……それは誇るべき事です」
救世主、その言葉の重みを噛み締めながら、今は休息の為に目を閉じる。
それをハレルと愛理は見守っていた。