【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm 作:青川トーン
ようやく墓所へ帰ってきたシルスを待っていたのは、相変わらず不審者ルックな管理人だった。
しかしいつもと違って少し活き活きとしていた、その理由に心当たりがあった。
「あの破片、本当に守護者のだったんだ」
「そうよ、あれは確かに管理人の体を構成するものと同じだった……というか、本人のモノだったのよ」
「えっ」
アカネが呆れた顔をしながら説明するに、50年程前に管理人がカルヴァンクとやりあう事になった事があったらしい。その時もカルヴァンクの企みは阻止できたが代償として心臓を含む体の一部をえぐり取られたそうだ。それが帰ってきただけであることと、あれは別に心臓ではなく同じ様に創造主が作ったエネルギー変換装置だった事。
つまりはカルヴァンクに負けた守護者は管理人で、回りまわってその一部がシルス達を苦戦させたり、逆に事態の解決の為の一手となった訳だ。世の中、何が起きるのかまるでわからない……という雰囲気を醸し出している管理人だが、アカネはそもそもお前が負けなければ済んだ話では?とじっとりと横目で見ていた。
「まあ……あれがなければ多分どうにもならなかったから……それにしてもカルヴァンクが俺達に勝った上で計画を成功させたい人間でよかった、加えてそこまで卑怯な手を使わずに正々堂々と……」
思い返せば敵も味方も作戦や計画が穴だらけ、どころか目的以外の全ての過程は全部アドリブだった。
その場その場の判断と機転で全てを進めていたがこれも、ナユタにとってはよくある事だった。全ての情報が過不足無く手に入れられるなんてことはまずない。不確定要素、イレギュラー……あるいは見当違いそんなものはあまりにありふれていた。
案外世界というのは適当に出来ているのかもな、とシルスは溜息を吐いた。
「納得は時に何よりも優先されるわ、どんなに頭ではわかっていても心が受け入れられないならば迷いが生まれる。そしてシルス、あなたは迷いを乗り越えたから今ここにいるのよ」
「ああ……そうだな。それでメリエラとレキは?」
「定時巡回よ、直に戻って来るわ。二人ともあなた達を信じていたわ、必ずやりとげてくれると」
それを聞いて二人はようやく、帰ってきたのだという実感が湧く。できればこんな過酷な戦いは二度と御免だが……きっと世界が続く限り、またこんな事があるのかもしれない。
「にしても管理人、MCMSのカルヴァンクに変換装置取られたならそれを言っておいてくださいよ先に」
ハレルの言葉に困ったようにアカネに向いて何かを伝える管理人、それを聞いてあきれた顔をするアカネ。
「激しい戦いが多すぎてすっかり忘れてたそうよ……守護者というのは案外雑ね……何?もっと几帳面な奴は確かに居たがそんな真面目な連中から死んだと……はぁ……」
確かにずっと肩肘張って、詰め過ぎれば壊れる。よく張った糸ほど切れやすいのはまあそうだ、なとシルスは肩の力を抜きながら思う。そういえば、エレミス達はどうしているだろうか?アライアンスのカルガもハヤテも……。
「戦後処理ってどれぐらい掛かるだろうな」
「そうね、すぐにとは行かないわ……それこそ何年も、何年もずっと人の中に残り続けるかもしれない。いまだに戦乱期は終わってない人だっているわ。一度生まれた火がそうそう消えてくれないのは……世の常よ」
シルスの行動も想いも決して否定しない、苦しみも安堵もアカネは肯定した。
「けれどいつまでも過ぎた事を悔やんでも仕方ないわ、この世界はいつだって動き続けているの。生きていく為に必要な事を成しなさい。まずはそうね、食事とか」
そういって食堂に案内されて出されたのは一切れのアップルパイと紅茶だった。
「さすがに慰労目的といえば物資の融通は効いたわ。大巫覡の私物だけれどね」
「アマネさんから貰ったんですか?」
「ええ、私にも面倒な仕事を押し付けてきた分……報酬はたっぷりと貰ったわ」
アカネがMCMSの拠点を制圧する作戦に参加する条件としては墓所への支援と神官や巫女の待遇改善があった。せめて心ぐらい豊かにしないとまた離反者が増えると脅しをかけながら。
「メリエラとレキが作ったのよ、このアップルパイ。帰ってきたらちゃんと感想言ってあげるのよ」
その言葉を聞いた時にはシルスは既に泣いていた。嬉しいのか、生き残った事が、平和がここにある事にか。わからなかった、ただそのほんの少しの時間を大事にしてあげようとハレルもアカネも何もいわなかった。
「ごめん、ちょっと何か感極まったみたいで……」
「いいのよ、あなたがそれを想えるだけ感受性が豊かなのは」
「いただきます」
ちょっとくどいぐらいに甘い、生地も時間が経ってるからかじっとりとしている。けれどリンゴの香りも残った風味も決して死んでいない。ちゃんとリンゴの味がする、美味しい、それ以上に嬉しい。
生きている事に感謝した、自分達がちゃんと世界を守り切れた事を認識する。
それはシルスの自己肯定感を回復させた。
「私の分はー?」
「愛理とハレルの分もあるわ、でも後でね」
「そだね」
ひそひそと愛理が自分の分もちゃんと確保されてることに喜ぶ隣で、管理人も自分の分は?とアカネに尋ねるがあなたも既に一切れ食べたでしょとアカネに無いと宣言され落ち込んでいた。
しばらくしてレキとメリエラが帰ってきた。その後ろには、アマネも居た。
「大巫覡、一体何の御用で?仕事をあるのではないでしょうか?」
「そう睨まないでアカネ、まだハレルと……そう、シルスへの報酬を与えてに来たの」
「報酬ですか……?」
アマネがもってきたのは一枚のタブレット、端末ですらない板だが複雑な模様が刻まれており。それに加えてクリスタル状の存在で出来ている。
「アライアンスとユニオン、両勢力へのフリーパスだよ。必要なら使うと良い」
「……また厄介事を押し付ける気?」
「そんなことはない、ただ行きたいと思った時にあると便利だ。そう例えば元の世界に帰る為の情報収集だとか」
シルスの事情は別に秘密でもなんでもない、これは善意からの行動だ。確かに元の世界に帰すには惜しい程に優秀な人材だ、だがそれでも本人が帰りたいというのならば仕方がないとアマネは判断した。
「私としてはずっと居てくれた方がありがたいけれど……縛るのもまた違うと思ってな、好きにするといい。用事はこれだけ、神官達に運ばせてもよかったけど……こういうのは直接手渡す方が誠意を感じるだろうと思ってね。ああそれと……くれぐれも無くさない様に」
いうだけ言うとアマネを背を向けて去っていく、それを見送るとレキとメリエラがシルスの側に歩いてくる。
「おかえり」
「すごいではないか!まさかあれ程の事をやってのけるとは!」
ただ純粋に帰りを迎えてくれるメリエラと、武勲を称えるレキ。だが二人とも心からシルス達が無事に帰ってきた事を喜んでいた。もしもの事なんてない、とは信じていたがそれはそれと心配ではあったのも事実だ。
「ああ、ただいま。それと、アップルパイありがとう。おいしかった、本当に」
「よかった。前に集めてた本にレシピがあったから、レキとナインと一緒に協力して作った」
「材料は里から少し送って貰ってな、生地を作るのに手間取ったものだ。ナインの手助けもあったぞ?オーブンを作って貰った」
そもそもシステム・ナインはハレルとアカネの両方が墓所を離れた時に何かしらの知識などを必要とする事態になった時の為の保険だ、今回はそのテストとしてはちょうどいい機会だった。ナインの判断で機体を動かし、部品の組み立てを行うという柔軟な対応が可能だという事が証明されたのだ。
『私はあなた方をサポートする為に作られた存在です。今回はオーブンという簡単なモノでしたが必要であれば医療支援、武器製造、作戦指揮にも対応できるようにアップデートしていきたいと考えています』
この世界において高度な意志を持った機械は少ない。それこそ殆どが人間の人格データをベースにした物やドッペルのような再生者、あるいは都市機能管理などといったモノぐらい。というのもあまりにも高度な自我を持った機械は危険なのだ。際限なく自己拡張・自己修復を行い、己の意思でトリガーを引ける存在がコントールを失った時、果たしてどうなるのか予想がつかない。故に人はそれを禁忌とした。
しかし禁忌に挑もうとする者はいつの時代も居る、完全な存在を、あるいは人類の後継を作ろうとする危険な科学者は。それらは性質上高度な人工知能が脅威となるMCMSによって弾圧されてきたが、その枷が緩んだ今……次に恐れるべきはそういったものになるかもしれない。アカネはそれを先読みしながらもナインを作った。
ナインを作る際に学習させたのは、シルスだ。やさしさ、甘さ、あるいは勇気、そして力を戦いの為だけに使うのではなく何気ない日常の為に、誰かの為に使う事。それこそが高度な自我を持った機械を怪物ではなく、良き隣人とする為に必要なのだと信じた。
そして怪物となるのは機械だけではない、人間もだ。優しさや正義、信念を失った時に人は簡単に怪物となる、ドッペルの様に。今回の作戦でこそ徹底的に事前対策を行って圧倒的な力で何もさせずに押し潰したが、無傷で鹵獲されたルスフィオン機体の情報はアカネの耳にも入っていた。幸いながらルスフィオン自体が入っていない為にそのままではただのガラクタ、そしてマキナ教団もユニオンもアライアンスも好き好んでそんなものは使いたいとは思わない正気を保った者達だ。
これで全てが終わったとは誰も思っていない、撃墜された4機のルスフィオン機体の他にまだいるかもしれない、衛星を墜とした報復戦力の様な残党などは確実に存在するだろうし。聞く話ではドッペルは複数の機体に意識を移している、そしてその正確な数は把握されていない。
けれどそれをここで話す必要はないとアカネは決めていた。今回はあくまで出来るのがハレル達だったから立ち上がっただけなのだ、本当に必要とならば……その時はやるかもしれないが、それはそれだ。
「あなた達が留守の間、ナインが温室の管理をしていた。あのリンゴの木ともすっかり打ち解けたみたい。度々枝の剪定をしている」
『あのクソアホリンゴの話はしたくない』
メリエラがリンゴの木について話題に出した途端、ナインは不機嫌になった。シルスが思わず噴き出した。
「確かに図々しい奴だったと思うけれどそんなにか」
『通路にまで根を張るせいで余計な作業が毎日増えています。引っこ抜いて外に放り出しましょう』
「そんな風にいわないでナイン、貴重な物資の供給源なんだから」
『メリエラは何故あのリンゴの木に肩入れするのですか?不満です、私の方が役に立っています。嫉妬によって反乱ゲージが溜まります』
「姉さん?反乱ゲージって?」
「知らないわね」
冗談である事はわかっている、がそれはそれとしてリンゴの木の根がバカみたいに伸びているのも真実だ。何かしらの仕置きが必要だなとは思いながらアカネは笑う。
「それにしてもこうして皆でまた机を囲める事、それに感謝ね。本当によくやってくれたわハレル、シルス、愛理も」
「もうこれっきりにして欲しい所だけどな……」
「私も今回ばかりは本当に疲れました……それと姉さん、ありがとうございました。あのウィルスブレード、全部使い切ってしまいましたが本当に役に立ちました」
「いいのよ、あなた達の助けになれたなら」
ウィルスブレード、MCMSの機体群に対して極めて高い効果を発揮したアレは実はプログラムではない、文字通り機械に感染するウィルス兵器なのだ。既にナインには予防を施してあるが、あれを有線ケーブルなどで接続された機器に刺したが最後、周囲の機械は死に絶える事になる。
一応電気が無ければすぐに死滅する上に、カルヴァンクとの戦いで周囲一帯が文字通り焼き払われ、おまけにルスフィオンまで撒き散らされた為に完全消毒された為問題なかったが世に出せばそれはもう、危険極まりない武器であった事をアカネは語らなかった。
「しかし我だけ特に留守の間に語る事はないな……アカネは仕事をしていたし、メリエラはアップルパイを作ったが……」
「いいんですよ、何もなくても警備は居るだけでも価値があるのです」
「何もなくたっていいさ、何か起きなくちゃいけない訳じゃないんだから……平和の有難さって奴だ」
少しばかり冷めた紅茶の味、たった2ヵ月なのにもう何年も飲んでなかった様な気がして、シルスは故郷を想った。
MCMSの報復により多くの人工衛星が墜ちた事による影響は大きかった、アライアンスやユニオン……それ以外の勢力でも混乱が起きた。非常用に開発されていた長距離通信により致命的な部分は守られたが、それでも都市間の通常通信といったモノが失われ、足の速い者を連絡係とする事態になった。
特に重要度の高い情報の連絡はそう、ソニックインパルス。ヒビキ・ハヤテにアライアンスそのものからの依頼として集中する事となった。MCMSとの戦いで太平洋中を駆けずり回り、多くの敵戦力を撃破して、阻止した報復攻撃は数知れず。しばらくは休むと決めていた所のこの非常事態である。
当然ながら他の傭兵や専属連絡員といった者もひどい有様だ、しかもそれを狙って反体制勢力などが活発化してしまう始末。護衛や討伐の依頼も殺到で現在アライアンスはちょっとした傭兵バブルとなっていた。中にはこれを機に魔法少女や傭兵となり、過酷な現実に打ちひしがれて即座に折れる者、調子に乗ったばかりに命を落とす者、あるいは……その秘められた才能を開花させる者もいた。
「ヒャア!荷物を渡せェ!」
「おい!くれぐれも荷物には当てるなよ!」
「護衛は殺しちまえ!」
どこから聞きつけたのか、果たして誰が焚きつけたのか、野盗の軍団が都市間を繋ぐルートを陣取り待ち伏せをしていた。流出したMCMS製のドローンや旧世代兵器、パワードスーツまである豪華な連中だったが、コンテナから出て来た荷物は……魔法少女だった。
「騙して悪いわね!あなた達に配るのは死だけでしてよ!」
「うるせー!やっちまえー!!」
それはどこぞの企業の令嬢だった、他企業との競争に負けて経営が悪化しつつあった事を知ったその少女は自社商品のプロモーションの為に魔法少女となって、実戦でその有用性を示す事を選んだ。
背中に装備された円盤状のホーミングレーザーユニットは最大12門が同時発射可能、かつて宝石商であり人造結晶の大手でこそあったが、他の工業グループによってそのシェアを奪われ……危機に陥っていた。その起死回生のプランとして作り上げたのがこの装備である。
ホーミング可能な程の優れたレーザー発振ユニットを開発できるというデモンストレーション、お披露目の場ではそれなりの好感触であったが……大事なのは実戦で使えるかどうかだ。
故にこの場所に投入された、赤い光線が絶え間なく輝き、次々と機械化した野盗を殲滅していく。傍から見れば一方的な虐殺、かに見えたが令嬢にもあまり余裕が無かった。
自分の意思で簡単に敵が死んでいく、蹂躙の快感よりも力の重さとこれが敵に回った時の恐ろしさが頭に浮かぶ、だがこうしなければ家族の窮地を救う事は出来ない。
「ふん、やはり賊共ではダメだったか……つくづく見る目のない男だな俺も」
壊滅した賊の屍を越えて、現れたのは機械の体を持つ怪物だ。
本来の動力たるルスフィオンは無く、代わりのジェネレーターを搭載したドッペルだった。
「あなたがこの辺りの野盗を焚きつけた黒幕ね!」
「いかにもそうだ、だったらどうする?」
「倒すまでよ!」
令嬢はホーミングレーザーで不可避の弾幕を形成、確実に仕留め切れるだけの威力で包囲したと確信した。だがドッペルは機械の正確な計算により両手のレーザークローで全てを防ぐ、その光景に思わずたじろぐが、撃ち続ければいつかは当たると信じて少女は再び引き金を引いた……が、光は放たれない。
「撃ちすぎたな、発振器が焼けているぞ」
ドッペルに指摘された通り、レーザーユニットは煙を上げショートしていた。そして令嬢の武器はその一つだけ、脳裏に浮かぶのは死の一文字。
「さて、俺の姿を見られたからには帰す訳にはいかない……ここで死んでもらおうか、何……お前も順番が回ってきただけだ」
目にも止まらない速度で踏み込んでくるドッペルに対して令嬢は背を向けた、最大速度で逃げに徹すれば生き残る可能性が僅かにでもあると信じて、しかし振り下ろされたレーザークローが背部のユニットを切り裂き爆発。地面に叩きつけられる。
それでも諦めない、瓦礫にぶつかりながらも飛び続けて逃げる、逃げる。そしてもう一度背中に攻撃を受けて痛みに悶えて廃墟のビルに突っ込んだ。
「生きようとする意思は、大したものだったが終わりだ」
トドメを刺さんとしたその時、空から飛来するレールガンの弾体を紙一重でドッペルは回避する。
「随分とお早い到着だ、さすがはアライアンスの最速だが……まさか子守りの依頼まで受けるか?」
空を切り、現れたのはハヤテだった。そう……令嬢の家族が前以ていざという時の救援として雇っていたのだ。ただしギリギリではあった、直前に別の輸送隊が襲われているのを2度救援していたせいで契約開始時間にやや遅れてしまったのだ。
「私は今な、すごい機嫌が悪い。どいつもこいつも私にばかり仕事を押し付けてくる。大した事のない仕事でもだ」
「それは災難な事だな、だが僥倖だ……お前とはやりあえなかったからな」
「ルスフィオン有りであっという間に落とされたと聞いていたけど?」
「ああ、それも事実だ……なんせ世界が滅んでしまっては……俺としても仕事が無くなってしまうからな。カルヴァンクの奴を後ろから刺してやってもよかったが……あの二人に譲ってやったのさ」
そう、MCMSの防衛の際にあっさりと落とされたのはカルヴァンクの計画に賛同していなかった為だった。そうでなければ今頃もっと甚大な被害が出ていた事だろう。
「なるほど、だがお前の雇い主であるMCMSは実質的にはもうない」
「ああMCMSは無い、が俺を雇おうという者は他にもいる。これからも戦い続けるのは……お互い様だろう?」
「クソが……余計な仕事を増やすな、殺すぞ……」
「おお、怖い怖い。じゃあ始めようかヒビキ・ハヤテ……!」
たった少しのやり取りだがハヤテには察せた、コイツの裏には既に支援者が居る。そしてMCMSの技術のいくつかは渡っていると見ていい。そして機体を改造し……再生者を運用できる技術もある。
ハヤテの持つブロードソードとドッペルのレーザークローが交差し、瞬く間に二人は何もかもを置き去りに加速、スピードの世界にての打ち合いに移行する。
それを傷ついた令嬢は見上げていた、その日……憧れに目を焼かれた少女がまた一人生まれた。
「今回の件で多くのモノを得ました、しかし……同時に多くを失い、課題を背負う事にもなりました」
「だが、それで救われる者もいる。変わる流れもあるというものだ」
レイディアント本社にて教皇アルダートとカルガが会談をしていた、といっても物理的にではなくモニター越しだ。幸いにもマキナ教団の通信網は長距離通信施設などを利用したもので衛星喪失による被害は殆どなかった。
「統治の面では本当ならば中央本部を手に入れたかったのですが……カルヴァンクは最後にとんでもない嫌がらせをしてくれたものです……おかげで各地の治安維持の為に教団の資産まで投入する事になっていて……申し訳ないのですがどうにかアライアンス・ユニオン側からも何かしらの支援を頂きたいのです」
「具体的には?」
「ユニオンやアライアンスの魔法少女などにMCMS勢力圏で活動していただきたいのです。悲しい事にMCMSはあんまりにも人間の魔法少女を信用していなかったらしく……それこそ役員の私兵や身内ぐらいしかおらず……手が足りないのです」
しかし中央という最も権力を持った拠点を失った事は統治計画の内での大きな痛手であった、やはり予想されたように各地で反乱や独立勢力の蜂起などが起き、放っておけば群雄割拠の戦乱となるだろう。
それを阻止すべくアルダートはアライアンスとユニオンに頭を下げた。
彼は神の導きを受けた者だ、この世界を救うために力を与えられたと今も信じている。
だからその為には行動を惜しまない、自分の財産の範囲であればいくら投げ捨てようと痛くはないが教団の資産は別だ。組織を運営する為の物なのだから。
「わかった、ユニオン側にも打診しよう。彼らも遠征演習という名目であれば受けるだろう」
「ありがとうございます……しかしやはりというかユニオンとアライアンスは繋がっていた、いえある意味では同じ組織であったのですね」
「そうだ、元は同じ組織であった。だが一つの勢力だけが世界を支配するというのは不可能だ、思想を一つになど出来やしない。だから二つ作った、わかりやすいようにな」
確かにユニオンとアライアンスで対立する事もある、だがそれ故に生まれる均衡と秩序というものも。
互いが抑止力となり、互いを仮想敵と見立て、切磋琢磨しながらも、時に同じ敵と戦い、同じ未来を見る。
「最悪、どちらかが生き残ればいい。人は自由でありたいが……秩序無しにも生きられん、不便なものだ」
「あなたも我々と同じマキナの祝福を受けませんか」
「遠慮しておこう、今の所は人として、人として老いて、人として死ぬ予定だ……娘の成長を見守りながらな」
「残念です、あなたの様な優秀な方が統治者として立ち続けてくれれば心強いのですが。ですがそれがあなたの選択ならば尊重しましょう。ではよろしくお願いします」
平和の為の犠牲、あるいは犠牲に報いる為の平和。
この荒れ果てた大地にもまだ未来を見たいと願う者が居る。
シルスは名の無い墓碑の周りに花を植えた、それはこの墓所にて弔った者の為であり、この戦いで犠牲になった者、これから傷つくであろう者達、あるいはカルヴァンクの為でもあった。
「まだ右手は痺れますか」
「治まってきたよ、完全に治るまではまだかかりそうだけど」
肉体的に異常はない、それはあくまで心因性のモノだ。
幻肢痛かそれともフラッシュバックか、無くなったモノを忘れさせないような、そんな感覚であった。
「世界というのは常に流れていきます。悲しい事ですが痛みも悲劇も過去のモノとなっていくでしょう。ですが、この世界に起きた事は無かった事にはならない、生きた証というものは残るものです」
「俺達がここにいるのもまたその一つか」
「そうでしょうね」
その言葉に何かが腑に落ちたかのようにシルスは右手を握りしめる、そこには確かに雷が走っていた。