【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm 作:青川トーン
予期せぬ帰還、最悪の事態、世界の危機、様々な事が押し寄せて来て心が滅茶苦茶になっていた。
だがクラレスティアの有無を言わさない判断がシルスの背中を押した。
故郷の青空に放り出され、続く苦悩と困難に忘れかけていた「目の前の誰かを助けたい」という最初の気持ちをシルスは取り戻していた。今、迷いはない。
するべき事をするのだと。
「ノワール、お前は自力で降りれるな!俺達はあの災害獣をまずはなんとかする!お前は終わったらすぐに合流だ!わかったな!」
「ニャアア!了解!」
エナジーウィングを広げ、加速しながらハレルは火炎災害獣の方へ向かう、すでにガルドロンと取っ組み合いを始めている。奴ら災害獣は厄介だが……今はこの力がある。とシルスはルスフィオンを引き出す。
「まずはどの程度効くか!試させて貰う!」
ルスフィオンを宿したバリア手裏剣が2枚、火炎災害獣の背に突き刺さり侵食していく。突然の腐食によってバランスを崩した怪物は傷口から炎の様な血液を噴出させながら悶える。たった二発だがルスフィオンの量は40メートルの巨体相応に込められている。効果の程を確認したシルスとハレルはすかさずルスフィオンレイを短く照射して下から上へ、災厄の獣の巨体に沿う様に浴びせかけた。
全身が変色、腐食した火炎災害獣から命が失われ自らの炎が身を焼き尽くしていく、そして力無く崩れ落ち黒い消し炭となった。
それを確認したノワールがすぐさま猫の状態でやってきたのを確認するとシルスは呆然としている機械の巨人の肩へと降りて機体に触れる。
「ガルドロンのパイロット、突然の事でびっくりしているだろうが落ち着いて聞いて欲しい。まずは本部に連絡してイツキ長官へ取り次いで欲しいと伝えてくれ。名前は……あーそうだ、ハレル。頼む」
今のシルスはナユタの神官の制約として名前を名乗れない。だから代わりに伝えるのだ。
「イツキ・ツムグ」
「父さんに息子が帰ってきたと伝えてほしい」
ハレルの姿からシルスの姿へと変わる。
果たして夢か幻か、突然東京の中心に現れた巨大な結晶の塔。既に出現してから2日経っているがその正体はつかめず、出入り口の様なものも見当たらない。解析班からはすごい速度で大地からエネルギーを吸い上げている事、またそれにつられて災害獣が現れては塔への攻撃を繰り返している事。
そしてそれらが全く効果を成しておらず、突如凍り付いて砕け散る事。
対策本部では各国防衛隊からの問い合わせと情報交換でオペレーター達がせわしなく連絡を続けていた。
そんな中またしても現れた大型の火炎災害獣、変わらず攻撃の効果はないが周辺への被害が大きい為やむを得ず防衛機構の戦力を出撃させて対応に当たった。だが予想外の乱入者が現れた、一人の少女だ。
空から突如現れた彼女は瞬く間に火炎災害獣の不可思議な光線による攻撃で仕留め、防衛機構の機体の肩へと止まりこう伝えて来た「イツキ長官へと取り次いで欲しい、イツキ・ツムグが帰ってきたと」。
対策本部を指揮していたその責任者の名が挙がった瞬間、場は静まり返り、視線は集中した。
「……いいだろう、通信を開け」
「父さん、俺が居なくなってからどれだけ時間が経った?」
「三ヵ月だ、聞きたい事は山ほどあるがそれは後だ、お前はあの塔の事を何か知っているのか」
イツキ・タダシ、シルス……いやツムグの父である彼はあくまで職務を全うする事を優先した。例えどんなに大事な家族でも、行方知れずだった息子であったとしても。それよりもまずは目の前の危機への対策が先決であった。
「あれは別の世界からの侵略者だ、危機に陥ってる世界を救うためにこの星を資源にしようとしている。あのタワーはその為の装置だけど……今壊せば集めたエネルギーが溢れ出して地上が吹っ飛ぶかもしれない。ひどければ逆流して世界中が滅茶苦茶になるかもしれないから下手に攻撃しないでほしい。ただ猶予は三日ぐらいしか残ってない。その間にどうにかあの塔の素材を破壊して制御を奪い、奪われたエネルギーを元に戻す必要がある」
向こうの世界でクラレスティアと共に推測した情報を告げる、別の世界。という言葉にイツキ長官は納得がいった。どこを探しても居ない訳だ、そしてそんな世界で何があったのかはわからないが。それでも誰かの為に戦おうとする息子の姿が誇らしかった。が今はそれは後だ、その言葉が本当であれば時間は残されていない。
「長官、今の言葉を信じるのですか」
「偽物かもしれません」
「しかしエネルギーを吸収しているのは事実です」
周囲の者達の動揺は尤もだ、だが決心が揺らぐ事はない。いつだってそうだ、やるべき事をやるのが我々の仕事なのだから。
「全員に告ぐ、ただいまよりあのタワーの素材解析を急ぎ、穴を開ける方法を探せ。そしてツムグ、お前は案内に従い指揮所へ来い。お前の力が必要だ」
「了解、ただいまより出頭します」
通信越しの会話だけではまだ情報が足りない、何があったのかもだが知っている事全てを聞きださねばならない。最善を尽くす為だ。
携帯端末を取り出し、信じられる科学者へと連絡する。
「私だ、ケイに繋いでくれ」
氷の塔の中、胸を抑えていた守護者はようやく落ち着きを取り戻す。この氷の塔、エレメントハーヴェスターを作り出すのにかなりの無茶をしたのだ。己のエネルギーの殆どを注ぎ込んで形成したこれは星からエネルギーを枯渇するまで吸い上げ、やがて満杯となった時に元の世界へ転移して大地へエネルギーを注ぎ込む。いわばスポイトの様なものだ。
事の始まりはユニオンのある貴族が提唱した異世界からの資源調達だ、それは多くの者の耳に止まり……そして人々に思わせた。それが叶えば今より世界はよくなるのかと。
しかしユニオンの上層部は皆、口を揃えてそれを拒んだ。何故ならばリスクが高すぎるからだ、仮にも現地に文明があった場合それと敵対関係となる。また世界同士の行き来が出来る他の文明に警戒されるというのもまた危惧された。
結局のところ、ユニオンはそういった行動をさせない為に世界観渡航を禁じた訳だが……それはまだこの世界で稼働していた守護者の一体の耳にも届いた。
権能「久遠」の守護者に。
長い戦いの歴史を見て来た、繰り返される悲劇を見て来た、それを乗り越える者達を見て来た、そして荒廃した世界で生きる人々の苦しみを見て来た。
奪い、奪われる事は世の常だ。
その業を背負ってでも、この世界を生かそう。
これまでの犠牲に、これまで積み重ねて来た因果に報いる為に。
そんな彼女は人々を救うべく行動を開始した、創造主が環境操作用に作り出した装置を元にハーヴェスターを設計、次に狙いとなる世界を探す。
これに関してはさすがに守護者の権能の範囲内では見つける事ができない、その為に人間達が作り出した物を利用する事にした。それこそがユニオンの特異魔術の研究所にある世界渡航装置だ。
職員達を全て「停止」させて、安定して他世界の情報を読み取れる高性能な術式に関心しながらも隣接する世界の中で最もエネルギー量の多いモノを選び、ポータルを開く。そしてハーヴェスターを打ち込んだのが二日前だ。事は早い方がいい、収集完了までは五日掛かる計算で居た。
収集完了後は自動で元の世界に戻って来るようには設定したが、邪魔が入らない様に守護者は研究所に残り番をしていた。
そこにやってきたのが聖女クラレスティアとナユタの巫女と神官だ。厄介な事に魔法少女とは違ってどっちも権能持ち、片方はルスフィオンまで抱えてるのが見えた。
不利を悟られないうちに片付けたかった、がそこで無理が祟った。
力の殆どをハーヴェスターの制御に回しているせいで体の維持に必要な「生命」エネルギーが足りていない。
かといって収集完了までハーヴェスターを止める事はできないし止めてしまえばその時間で対策を練られる可能性も増える。
久遠の守護者は今はただ、この綱渡りの計画が上手く行く事を創造主に祈っていた。
「長官の息子とはいえ今の君は部外者であり……正体不明の存在だ、悪いが従ってくれ」
「了解です、武器の類もこの箱に?」
「ああ、頼む……ってなんだこの剣と手裏剣は」
「向こうの世界で使ってた奴、こっちと違って結構荒れてたので……」
「にしても妙な格好してるなぁ……忍者と神主の合体か?」
「神官ですよ、魔術とかあるんですよ向こう」
そう言ってシルスは権能なんかを何か使おうとして、やめた下手に使えばそれはそれで疑いが掛かって扱いが難しくなるであろう事を察したからだ。
「というかその猫は……」
「ケットシーニャ!」
猫から人型に変身したノワール、その存在でその場に居た職員達は納得せざるを得なかった。
「ファンタジーかよ……悪いがこれも付けてくれ」
電子手錠を後ろ手にかけられ、動きを封じられる……が今のシルスにとってこの程度の拘束はあってないようなものだ、がそれも言わないでおいた。
そうしてようやく災害対策本部に立ち入る事が許された、そこに待っていたのは父であるタダシと母であるケイだった。感動の再会……と行きたかったがイツキ・ツムグではなく今はナユタ・シルスとして向かうべきだと判断した。
「お久しぶりです父さん、母さん。今はナユタという組織で神官として所属しているナユタ・シルス……それが今の俺です。色々語る事もありますが、今はこの世界の為に尽力したいと思います」
シルスが語ったのは簡潔に向こうの世界でしてきた事を語った。
ハレルとの出会い、墓所とナユタへの所属、得た力、戦った敵、そして何故帰って来る事になったのかと。
「なるほどつまり今お前は一人ではないんだな?」
「はい、すみません。箱の中の端末を取って貰っていいですか」
預けた箱の中から取り出された携帯端末、それがひとりでに起動してハレルの姿を映す。
「お初にお目にかかります。ツムグのご両親ですね?私がハレルです。ご説明の通り彼とはまあ一心同体の関係で、それなりに苦難を共に乗り越えて来た仲です。本当ならばもっと穏やかな帰省と行きたかった所ですが少しばかりうちの世界の、荒っぽい方がご迷惑をおかけしております」
とてもではないが人工知能だとかフェイクではない、理論不明の方法で会話をするハレルに科学者であるケイは頭を抱えながらも、目の前の現実を認めざるを得なかった。
「魔法少女に神官に巫女、そして人造神格の権能、死のエネルギー・ルスフィオン……さらには守護者まで、まったく非現実的すぎて泣けてくるわ……しかし現に見てしまったからにはね……」
この世界に突如として現れたハレルが災害獣を瞬く間に倒して見せたのはまだ公にはなっていない、あの情報は今まだ防衛機構内部だけで収まっている。もしも外に漏れたらそれはもう面倒な事になるだろう、40メートル級の災害獣をああも一瞬で片付けれる力など誰でも欲しいのだ。
「それでツムグ……この問題を解決した後、お前はどうする」
「一度また向こうの世界に帰ります、母さんや父さんが俺を心配してたように。ハレルにも家族がいます、友人がいます……それに俺の持つ力がこの世界に広まろうものなら何が起きるか、そのリスクを考えるととても長居はできません」
「……行き来が、出来るのだな?」
「はい、今回ので実証されましたから。必ず帰ってきます」
「ならば、構わない。お前は、お前の成すべき事をしろ。それがお前の選んだ道ならば私はそれを信じよう」
家族の再会というには少し重苦しく、けれど暖かな会話が続く一方でノワールは解析へと回っていた。
「ニャア~~~!時空操作は専門外ニャ~!」
タワー、ハーヴェスターは地下に五本の根が広がってそこから火、風、土、水、そして生命のエネルギーを吸い取っている、それがノワールの解析でわかった事だった。
ケットシー、妖精である彼女はあくまで自然界のエレメントに詳しいだけであって、魔術やテクノロジーなんかにまでは造詣が深くはなかった。
「時空……?どういうことだ?」
「あの氷はそのエレメントというものではないのか?」
「ニャ~あれは氷じゃなくて固形化された空間と時間ニャ。エレメントなら普通に炎で溶けるけれど、あれに必要なのは……時間と空間を動かせるものニャ」
その場に集められた科学者達、それぞれが災害に対抗するべく選ばれたエキスパートだ。
そんな彼らが正体を掴めなかった塔の構成物質、それが固形化された時空と言い切ったノワールに驚きながらも、同時にならばとそれぞれが脳内に図式を描く。
「重力だ、空間と時間と次元に干渉するものは!」
「火炎災害獣対策に作ってあったグラビティキャノンは使えるか?」
「いや、単発のキャノンよりも水中仕様のグラビティコントローラーの方がいい、継続して穴を開けれるかもしれん」
「だがそう簡単に行くか?固まっている、停止しているという事は超重力なんじゃないか?」
「ならば反重力だ、機体の動力用のを一つばらせばおそらく人間が通れるぐらいの穴はあけられる」
「間に合うか?」
「間に合わせるしかあるまい、突っ込ませるのはガルドロンにやらせればいい」
猫の特徴を持った少女の容姿などもはや誰も気にしない、やるべきは地球を、人々を救う事だ。この場に居る人間、この場に居ない人間もまたそれを使命としていた。
「突破方法は出た様だな、だがどうやって制御を奪って、エネルギーを取り返すかもまた問題だ」
「しかしこれはいい機会かもしれんぞ、過剰な生命エネルギーのせいで災害獣が発生してる説が事実ならタワーに残しておけば発生が抑えられるやも……」
「バカニャこというニャ!星ってのはそう簡単に弄るべきものじゃニャーイ!!そんなことをしたら天変地異起こして破滅ニャ!勝手な欲望で滅びるのは人間だけじゃニャイ!」
「そうだな、私がバカだった……」
妖精はより強く大地と、星と繋がる存在だ、だからこそわかる事がある。
この星にはこの星の理があるのだ、災害獣もまたあくまでこの星の活動の一つなのだと。
「うわ、兄貴どうしたのその格好」
家族が帰ってきたと思ったら、見た事のないデザインの服を着ていれば気になるというもの、イツキ・ユイ。シルスの、ツムグの妹もまた本部の近くまで急いでやってきた。
この機会を逃すとまたしばらく会えないのだから、せっかくだし異世界に行って来たという兄の面を見に来たのだ。
「相棒がデザインした奴だ、忍者と神官のイメージだって」
「ウケる。確かにファンタジーな世界なら似合うけれどこっちじゃ浮くね」
「向こう魔術とかあるけれど全然ファンタジー……いやファンタジーもあるんだけれど普通に科学もすごかったよ……まあ色々あって荒廃してるけれど」
「ふーん……ちょっと行って見たいなと思ったけれど荒廃してるならやめとこ」
「お前な……」
ただ安心があった、もう互いに会う事もなく最後の言葉もなく永遠の別れになるかもしれなかったから。これで家族全員とは話す事が出来た、少しばかり心残りというか心配事は減った。
これでまたあの荒廃した世界に戻るとしても、今度は自分の意志で、覚悟を決めた上で行ける。
ふと思う事があってハレルは主導権を奪って変身した、見張りの隊員たちが驚きながらも、それが先程災害獣を瞬く間に片づけた者だと気づく。
「はじめまして、あなたがユイちゃんね。私はハレル、今こうやってあなたのお兄さんと一体化してるの」
「ふえー魔法少女じゃん、すげー本物……」
「まああんまり良いものじゃないですけれどね、あなたのお兄さん……しっかり守りますから。安心してください」
「まー最初から心配はしてないよ、どっちかというと兄貴の女誑しの被害に遭うかの方が心配だよ」
「ああ、残念ながら二人ほど犠牲者が……」
「うへーご愁傷様……ハレル姉ちゃんは犠牲にならないように」
短い時間の会話だった、がそれで今は十分であった。
今度はもっと落ち着いて話せるように、今ある危機を解決してからだ。
とハレルとシルスは心に決めた。
『で、愛理は俺の家族に挨拶しなくてよかったのかよ』
『びっくりさせちゃうしー今はそんな雰囲気じゃないからねー空気を読んだんだよ~』
『すまないな、今度はゆっくりみんなで食事とかできればいいな』
愛理も無事にこの世界についてこれていた、が怪異というのはそうそう人前に姿を現さない方がいいと自覚していた為に愛理は控えていた。その意図をシルスは理解して、納得した。
時間は一刻と過ぎていく、せわしなく人々は動き、出来る事を、やるべき事をしていく。
それはどちらの世界も変わらない、生きる為の営みであった。
翌朝、不休で組み上げられた巨大な鉄拳を積んだアンバランスな機械の巨人が東京の地に立っていた。
ガルドロンに同型機の重力制御装置を二機積み上げ、さらに動力炉を二個背中に背負ったタワー突破専用の形態。その護衛にさらに二体のガルドロンがついている、不意にまた災害獣が現れた際に対処する為だ。
『これより作戦を開始する、ガルドロン・ブレイカー……前進しろ!』
イツキ司令の号令と共に巨人たちの行軍が始まる。それにつられたのかまたしても30メートルクラスの災害獣、今度は炎ではなく岩石を纏った角の生えた竜型巨獣が二体、大地から現れてタワーへの攻撃を開始する。おそらくは何万トンとあるような大質量が衝突してもまるで動じない、そんな堅牢なるタワーの下層へ向けて重力装置の鉄拳が、突き刺さった。
その余波によって2体の巨獣が浮き上がり、地に落とされた。それによって鉄の巨人を敵とみなしたのだろう、咆哮をあげる。
『ツムグ……いやシルス、ハレル。突入しろ』
ガルドロンのコクピットが開き、ハレルが飛び出した。重力制御装置は功を奏した様で確かにあの固形化された空間に風穴を開けた、内部の空洞は外部スキャンから判明していた為にマッピングされたデータから向かうは頂上。
五本のシリンダーの中には5つのエレメントが満たされており、5色の輝きを放っていた。それを見ながらも上層へ向かって飛行してゆく、防衛機構なんかはまるでない、元より突破される事を想定していなかったのだろう。
「来てしまったか、ナユタの魔法少女」
どこからか、守護者の声がする。おそらくは上、と判断し即座に回避するとその横を光線が通り抜ける。
「悪いが、本当に悪いと思ってるが計画を邪魔するなら君達を……消さなきゃいけない」
「悪いですが、ここは相棒の故郷なんです。それに私達はこんな形で救われても嬉しくなんてありません。見ず知らず数えきれないほどの他人を犠牲に、多くの可能性を踏みにじって、こんな強引な手段を取る侵略者、そんな者に世界なんて救えません」
「……耳が痛いな、救いたいと思っていた者に否定されるのは……けれどこれは自己満足だ、あくまで僕の役目を果たす為に選んだ道だ。だからごめん、君達を排除する。僕こそは久遠の守護者、さあここで終わりにしよう!」
実を言えば、この時点で久遠の守護者には取れる手はなかった。いままで破られる事のなかった自分の能力が、この世界の人間の手で破られるとは思いもしていなかったのだ。考えが甘いといえばそうなのだろう、だが生半可な方法では破れなかったのも事実。
巨大な機械の巨人が動かす大出力の重力制御装置が二基あってこその突破だ、もし元の世界で突破しようと思うならば……それこそヒビキ・ハヤテとナユタ・アマネの二人のレベルまで行かないとウンともスンとも言わず、解析・対策されるまでの間に仕事は終わる筈だった。
ようは心のどこかで見限っていたのだ、人間の持つ可能性を。
だからこんな一方的な手段で世界を救おうとなど思いついた。
誰よりも疲弊して、諦めて、投げだしたかったのは守護者自身だった。
けれどそんな仕事も最後だ、成功しようと失敗しようと久遠の守護者は力尽きて砕ける。
これで長い長い役目も終わりだ。
残った全力を以て、目の前の敵を排除する。
初手にて「久遠」の権能を解放する、それは時間と空間を停滞させ、凍らせる超常の力。逃げ場などない様にこのハーヴェスター内部の空洞全てを閉ざすつもりで光が放たれた。
だがそんなヤケになった一撃は、前へ進もうと、未来へ向かおうとする意志には通用しなかった。
ハレル中心に現れた重力のフィールド、それが光を霧散させ、凍り付いた空間をわずかに溶かした。
簡単に言えば重力の振動によって空間が固形化しないように強い力で動かし続けた、いわば空間の液状化だ、あくまでこの閉鎖空間内だからできた事であり、また権能発動時の凍結効果の持続時間が短かったが故に通じた手だ、加えて外で使えば周辺被害は想像もできない。
「やはりですね、凍らせた後こそ頑丈ですが……凍る前なら対策できる。空間全体を揺らし続ければそのエネルギーまでは殺せずに固まらないなんて何食ってたら思いつくんですか」
「多分料理作ってる時に思いついたんじゃないかな、なんか混ぜたりとかして……」
料理は科学だ……という母の言葉を思い出しながらもシルスは目の前の相手から気を逸らさない、必殺の一撃を防がれたからと言って諦める様な相手ではない、既に氷の剣を両の手に出現させてこちらへ向かってきていた。
だが、今日のハレルとシルスはいつもと違う。
これまで連戦に連戦を重ねて疲弊しきった状態で戦うの対して今回はほぼ万全、加えて家族との再会を果たして心が晴れた状態のシルスの心と人を守るという使命を背負ったハレルが力を合わせた今、まったくの不調であった守護者に勝ち目はなかった。
グリムリーパーが、光の大鎌が一瞬のうちに久遠の守護者の手首を切り落として、そして首に刃を置いていた。
「詰みです、さて……このタワーの制御方法を……教えてもらいましょうか」