【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm 作:青川トーン
「我々が依頼したのは周辺の不確定要素の排除……まあ向こう側から去ってくれるのであればそれで十分でした、勝手に戦闘をしかけて装備を破壊され……こちらに感づかれでもしていたならあなたを処分していましたが……」
眼鏡をかけた細身の男が仮拠点であるトレーラーの中で空中にホログラム投影された戦闘記録を眺める、そしてその前には先程ハレル、そしてシルスと戦う事となった魔法少女が居た。
「それは、わかってる。そのつもりだ、だけど……この戦闘データ」
「装備の補填は出ません、がそのデータの買い取りは行いましょう。貴重な巫女の戦闘データです……それも例の青いエンジェルモデルの……おまけに突然に切り替わったこの妙な言動、まるで人格が二つある様だ」
ブレードを左手で受け止めて分解してからの一連のやり取り、それはこれまで相手に殺意を向けていた者のソレではない。あまりにも不自然な言動が男の興味を引いた。
「MCMSの本部はナユタにはまだ目を付けていませんが……彼らが蓄積してきた技術や遺物、巫女や神官の能力、そして人造神格と呼ばれるモノの本質……それらを手にすれば我々MCMSは必ずやかつての権威を取り戻すと確信している。ユニオンやアライアンスではダメなのですよ、連中のぬるい考えでは人類を救うなど叶うものか」
雇い主の妄執、あるいは狂気を感じ取る。人類を救うという大層なお題目、そして妄言……そもそもMCMSそのものがこの世界を荒廃させた戦乱の火を撒き散らした「軍需複合体」の一つであるというのに。
大規模電子ネットワーク崩壊と敵地のインフラの破壊、そして自らが生み出した兵器や無数の傭兵に牙を剥かれ、大きく勢力を削がれる事となった愚かな組織、それが世間のMCMSへの評価だ。
「独立傭兵メリエラ、あなたに新たな依頼です。既に追跡ドローンは放っています、連中の拠点を襲撃し、占拠する作戦に参加してもらいます。失った分の武装はこちらから提供しましょう、あなたの信用回復にはちょうどいい依頼とは思いますが」
「……こちらの戦力は?」
「ドローン類と魔法少女無人機「MCMSアマルガム」を4機、そして……私の部下の魔法少女を一人つけましょう。こちらハーミット……ドッペルへ指示」
通信から数分、ドアが開き現れたのは「機体」しかし全身を義体に置換した人間だ。少女型の外装を纏ったソレの内側にはまぎれもなく意思が宿り、魔法少女としての力を振るえる存在だった。
「ハーミット、俺の仕事は無いんじゃなかったのか?そいつが周囲のゴミを片付けるって話だったろ」
「その通りですが、予定が変わりました。『ドッペル』あなたには現在追跡中のナユタの魔法少女の拠点制圧に参加してもらいます。資材運び出しの監視などというつまらない仕事ではなくなりました」
ドッペルと呼ばれた機械の少女はメリエラを一目見ると、肩を落とし溜息をする仕草を取る。機械としては不要な動きであるが、あからさまにアテにならない戦力だ。と言いたげな様子だった。
「ドッペル、そこらの独立傭兵が機械化など出来る筈がありません。したとして維持費などとても払えないでしょう、高望みしないでください」
「そうはいうがよハーミット、こんなヤワな体じゃ弾避けにもならんぞ。せめて戦車ぐらいにはタフな戦力はいねえのか」
嘗められている、確かにすでに一度敗れてるがその一度が命取りだ、信用を失うというのはこういうことだとメリエラは実感していた。そして自分に傭兵などやめてしまえと言ったあいつの言葉が浮かぶ。
確かに傭兵なんてやめられるならばとっくにやめている、だが他に出来る事なんてない、頼れる身内なんていない、今更安く買いたたかれる屑鉄集めになんて戻れやしない。死体漁りで偶然手に入れた魔法少女として力、傭兵としての仕事は、己が生きていくためのただ一つの手段なのだ。
たとえその先が無くても止まる事などできない。
止まるも死、進んだ先も死、ならば突き進むまで。
「多分つけられてますね、あの時もそうでしたがこちらよりいい索敵手段を持っているのでしょう。ステルスドローンに傭兵、まあ企業ですかね」
「どうする、ハレル」
「ドローンは撃ち落としておきましょう。シルス、銃は撃てますね?まさか機械も壊さずは無しですよ」
「……それぐらいの分別はついている。あくまで人を殺したくないだけだ」
トレーラーに積んである武器の中から狙撃銃を選ぶ、大丈夫……相手が人間でないなら撃てる。
「うちの武器は全部術式制御ですからね、必要に応じて発射可能な状態にしてくれます」
ハレルの言う通り、狙撃銃のグリップを握った途端一人でに銃弾が装填されホログラムでスコープが表示された。これが未来の武器か、けど……引き金を引くのは俺だ。
「……ドローンだ、訓練の時の標的と同じに……な」
息を感覚を研ぎ澄まし、知覚範囲を広げる、気配の探知……空気の揺らぎ、熱源、見える。
光学ステルスで周囲の景色に馴染んだ飛行タイプのカメラドローンだ。複数居る。
思ったより反動はない、弾丸は真っ直ぐに機体を貫通して破壊した。味方がやられたのを理解してそれぞれがこちらの死角になるように動き始めた。装填が完了、完全に隠れられる前にさらにもう一機落とす。
後2機、トレーラーの上に移動して再度索敵、枯れ木の後ろに隠れていた機体を諸共に貫通し撃墜、後は1機、こっちは地面スレスレを移動してる岩や雪が邪魔で当てれるか怪しい。
「ハレル、鉄屑ちょっと貰うぞ」
「わかりました」
トレーラーに積み込まれてた廃材の一つを手に取り、術によって成形する。やはりこっちの方が手に馴染む。
手裏剣を投擲、カーブを描いてそれは遮蔽物に隠れたドローンにダメージを与えて墜落させる。完全に破壊しきれなくても追跡できなければそれでいいのだから。
「見事なコントロールですね、あなたは強い忍者です」
「そうでもない、それに今のは飛んでるドローンだから効いただけだ」
「しかし、随分とつけられましたね。流石に墓所の位置は割られそうです、帰ったら迎え撃つ準備です。それまで休んでいてください」
「ああ、わかった」
壁にもたれかかり、少し考える。
あの魔法少女へ言った言葉、この世界ではそうもいかないんだろうって事はわかる。でも俺は人を殺したくなんてない、殺されたくもない。だったらどうしたらいいんだろうな……。
それしか生きる術を知らない、そんな人を俺は……俺は。
「助けたいな」
「……何ですか」
「あの戦った魔法少女を俺は助けたい、戦うしか生きる術をしらない全ての人達を助けたい」
「一人救ったら、その次も、その次もですよ」
「ああ、だから俺が出来る限りで。そしてもし叶うなら俺が助けた誰かがまた別の誰かを助けてくれたらそれでいい」
「シルス、ちょっと疲れてませんか?」
「俺は正気だし、本気だよ。だからもし次にあいつが来たら。俺に説得させて欲しい」
確かに自分の明日もどうかわからない人間でしかない、コネもツテも後ろ盾だってない。
でも俺は諦めたくはないんだ。
ずっと昔、都市一つを焼き尽くすような大きな火災があった。
まあ普通の災害じゃなくて、そういう火災そのものが命を持った様な怪物が居たんだ。
大勢死んだ、巻き込まれた人も戦った人も、そして助けようとした人も。
俺もその時そこにいて、怪物との戦いに巻き込まれて瓦礫の下で死ぬのを待つだけだった。
でも逃げ遅れた人がいないかと探していた人が助けてくれたんだ。
だから俺も、自分がそうして貰った様に誰かを助けれる自分になりたいんだ。
「ハレル、お前も……俺を助けてくれたな」
「それは私達ナユタの不手際の責任を……」
「でも見捨てはしなかった、だから俺も見捨てたりなんかしたくない」
「……はぁ、まあ事前に相談しただけ良しとしましょう。でも最終的に選ぶのは向こうですし、後管理人さんの許可が下りるかは……まああの人も優しいですからね。わかりました、いいでしょう……ですが」
「一度選んだ以上はやり通す事、いざという時はその手で責任をもってカタを付けてくださいね」
許可は出た、これで一つ心配事は減った。
決めたらやればいいだけなんだから、何も難しい事はない。
墓所へ到着してすぐに、管理人さんとアカネさんへ事情を説明。迎撃の準備を開始、どの程度の戦力が来るのかは俺には全く予想できないが……どうやら近くまでくれば管理人さんには手に取るようにわかるらしい。先の戦闘の記録データを再生した上に加えて追って来たドローンの事を話した。
「なるほどMCMSのステルスドローンね、シルスに説明しておくとMCMSは軍需複合体の一つでかつてどこにでも兵器を売っていた死の商人、無人兵器や機動兵器の開発製造が極めて得意で今もそれなりには手強い相手よ。まあ普通なら……ね」
「機械ってことは……こうハッキングとかして奪うのか?」
「そうね、でもそんな面倒な事しなくていいの、全部まとめて頂きましょう。私が出るわ、表層におびき出して一網打尽にする方針で行きましょう……それで件の魔法少女傭兵に加えて、他にも魔法少女戦力ができたらそれはシルスとハレルにお願いするわ」
一体何をするのかはわからない、けれどまあアカネさんは多分信じて大丈夫。管理人さんはテーブルの上に表示された周辺地図のホログラムをすごい勢いで動かしていて、迎撃装置や索敵ドローンをすごい勢いで配置して防御ネットワークを構築している……。
後は俺達だけだ。
「ハレル、武器を選びに行こう」
「おやシルスから動くのは珍しいですね、いいでしょう」
向かった先は地下の1層目にある武装ラック、そこには様々な種類の武器やカスタマイズの為のパーツに弾薬、そして修理の為の機材や開発設備までが揃っている。
正直に言って見た事のない武器ばかりだ、棒に何かがくっついてるみたいなのは大体杖かなんかだろうか?剣や槍の類は分かりやすい、銃は……無理だ形状から効果が予測できない。
「手裏剣はないのか?」
「……いやーないですね」
「小剣の類は?後は投げナイフとかクナイとか」
「それなら色々ありますよ、例えばハッキングできる奴から滅茶苦茶頑丈で盾の代わりになるぐらい硬い剣とか……まあでもそれより何を目的とするかです。シルスはどう戦いたいんですか」
「近接は最悪体術でなんとかなるから遠距離をどうにかしたい」
そうしてハレルが遠隔で操作したのかラックが一つ降りて銃が一丁現れる。それはさっき持った狙撃銃よりかは小さいがそれでも重そうな銃だ。
「型式……はまあ説明する必要はありませんね。アサルトライフル、いわば標準的な銃ですね。最も魔法少女用のなので生身で撃つと反動で吹っ飛びますよ。あれだけ正確に撃てるなら邪魔が入った時とかにそいつを黙らせるのにちょうどいいでしょう。単発式で結構発射レートは短めです、弾道もかなり正確ですが……魔法少女が銃を使う時は力づくで反動を抑えるので、そこだけ忘れない様に」
「わかった、これにしよう。後はいつもの鎌だけあれば何とでもなる」
「自信満々ですね」
「ああ、信じてくれ」
端末からアラートが鳴る、どうやら敵が近いらしい。到着予測時間は最短で10分後、敵は堂々まっすぐ道なりに侵攻してくるつもりとルートが表示されている。俺達は相手側の魔法少女と戦う為の控えだ。
「妙だ、監視のドローンはいるが……セントリーの一つすら置いてない。術による認識阻害こそ大したものだが……これは我々を誘っている訳か。どうするハーミット」
『構いません、まずはドローンと無人機を突入させなさい。補充の効くモノから使っていくのは基本です。あの傭兵はあなたのタイミングで使いなさい』
「了解した」
ドッペルが待機するのは墓所から少し離れた位置、ナユタの無人トレーラーが通る道であり認識阻害の結界のギリギリの位置だ。そこにはメリエラも居た、前回の戦闘からハレルとの近接戦闘は危険だと判断しミサイルランチャーとライフルの遠距離~中距離戦闘に向いた装備だ。
「MCMSアマルガムを起動。全機ドローンと共に突入し、一気に制圧しろ」
陸上用の大型キャリアーのコンテナが開き現れるのは狐面の様な顔をした少女人形、合成樹脂の肉体の中に簡単な制御装置と最低限度の意志を宿した量産型の式神に魔法少女システムを搭載したもの、それらに魔術的な戦闘能力は一切期待されず、重火器の装備によってのみ敵を撃滅する。
魔法少女無人機、別名サーヴァント・オート・マシン。MCMS-アマルガムは覚醒し、人造神格を宿したコアに火を灯して起き上がる。「彼女」らが少女の姿をし、自我を持つのは人造神格の巫女に相応しい存在であると欺く為、事実それで動くのであれば人々にとってはそれでいいのだ。
『アマルガム1から5、正常に起動。行動開始』
希薄でこそあるが彼女らにも自我はある、誰かの役に立つ為に作られ、それを遂行する事を存在理由とする。自分が存在する意味を、価値を示す為に戦う忠実な兵器達が飛び立つ。
一方で無人機部隊の第一波はナユタの墓所表層の広場に到達していた。未だナユタの戦力を確認する事はできず、ただ赤い魔力の粒子が周辺に漂う事から何かしらの機構が働いているという警戒を促す。
まずは飛行ドローンが先行して施設内への侵入を試みた所、入口までもう少しという所で動きが止まる。
停止命令を出したわけではない、ならばハッキングか?とネットワーク内を人工知能が分析するもその形跡も無し。また該当機体もステータス上では異常なしとなっており『入口が発見できず』という返答のみ。
何かが起きていると判断し、後方に指示を伺おうとした瞬間にネットワークが、機体群の機能が停止してその場に崩れ落ちた。
先遣隊が一斉にロストした事で第二部隊は一時進軍を停止、ドッペルへと報告する。
「魔術師の組織だろうからな、こういう事もある。一度その地点から砲……」
突然にレーダーに現れたのはロストした数だけの動体反応、それも第二部隊へ向いて移動を始める。
「なるほどな、どうやったかわからんが乗っ取りって訳か。アマルガム部隊、そいつらを叩き潰せ。お前らならばどんな乗っ取りも効かんだろうからな」
『了解』
例え偽りの巫女であろうと神の加護を受けし者だ、アマルガム達は裏切り者達を迎え撃つべく武器を構える。カメラ越しに認識されるその機体達の姿はまるで返り血を受けたように、「ナニカ」に汚染されていた。
分析の結果、表面に付着しているのは血液、それも人間の。リアルタイムで見ていたハーミットも顔をしかめた。
「趣味の悪い奴だな、まるで怪異じゃねーかよ。アマルガム1、接触を避けて撃て」
指示の通り一機のみが手持ちのプラズマキャノンで攻撃、バリアに包まれた業火が放たれて汚染された機体群を爆風と熱波により破壊して「除染」する。……が表面を汚染する血液は変わらずに付着したままであり破壊された機体達が起き上がる。欠損したものは這いずり、飛べないドローンは転がり、なおも進軍をやめない。
そして異常が発生する。
汚染体同士が融合を始めたのだ、まともな人間ならば恐怖で逃げ出しかねない様な光景だが……あいにくここにいるのはまともでない部類の人間と機械だけだった。冷静にアマルガム1はプラズマキャノンを再チャージ、今度は金属ごと蒸発させると威力を上げて引き金を引く。
全てを浄化する灼熱の炎が形となろうとする怪物を呑み込み、消し去った。アマルガム達のセンサーは人一人分の質量だけが残ったのを見てそう判断し、ミスを犯した。
煙の中をナイフが凄まじい勢いで飛び出してアマルガム3を貫き、赤い血の汚染が侵食していく。そしてネットワークへのアクセスが行われると同時にアマルガム達はネットワークを切断しスタンドアロンモードに移行しながら、一瞬にして敵の手に落ちた仲間へと攻撃を加える。何が起きたか理解する余地もなくアマルガム3は滅多打ちにされて墜落していくが、その瞬間には次の攻撃が始まっていた。
煙を裂いて飛び出した人型、それは先ほど吹き飛ばした先遣隊の成れ果ての一人分の質量。それはナユタ・アカネの姿をした赤い傀儡。悍ましく呪われた血の人形がアマルガム達のセンサーに映り、即座に散開、それぞれに向かって投げられていたナイフを回避し銃を向けるがそれよりも早くアカネの傀儡はアマルガム2の背中を取って直接ナイフを突き刺していた。
そして先程のアマルガム3の時点で切断されていたのはあくまで自分達を含む上位権限のネットワーク、既に下の展開していたドローン達の下位ネットワークは掌握されて沈黙していた。もはや援護は期待できないがアマルガム達に一切の恐怖はない。機械だから?違う、式神である彼女らには感情がある。確かに脅威だ、だが退く理由にはならない。自分達はその為に創造されたのだから、捨て駒であっても役目を全うするのだ。
アマルガム2はシステムが掌握されるのに抵抗しながら自爆プログラムを起動、恐ろしく早い侵食でそれすらも無力化されるも残った3機は迷わずプラズマキャノンで自機を狙う事に安堵しながら思考を終了。3方向からのプラズマ弾の直撃を受けて爆発が起きる。
今度こそ完全に対象の消滅を確認するが、まるでその瞬間を狙ってたかのように地上から何かが飛び出して来た。それこそが、本物のナユタ・アカネであった。その手にはナイフとは比べ物にならない程のサイズの大斧、その一撃がアマルガム1の機体を縦に引き裂き破壊。アマルガム4は再チャージの終わらないプラズマキャノンを捨てブレードの近接攻撃で時間を稼ぐべく突貫し、最後に残った5は全てのエネルギーをプラズマキャノンの一撃に集中させる。
決して彼女らはただの人形ではない、意志の宿った式神、ある種の人工生命、知性体だ。
そこにあるのは使命に殉ずる歓びと好敵手への感謝と殺意だけだ。
大振りの斧をそのままアカネはアマルガム4へ投擲、しかしそれをかろうじて左腕をもぎ取られるだけで済ませて突き、自分諸共プラズマキャノンの加害範囲に巻き込めると確信していた。アカネはバリアを纏った手刀でブレードを弾く。今だ、とアマルガム5は引き金を引くがいつまでたっても光は放たれない。
そしてプラズマキャノンの砲身諸共に自分が大斧で切り裂かれていた事に気づくと同時に爆発四散した。
残されたのはブレードと手刀で迫り合いをするアマルガム4とアカネだけ。
「見事だね」
「光栄」
もう勝負はついた、けれど下がれない、下がらない。アマルガム4は狐面のまま笑った。
上位ネットワークの遮断、ドローン達の制御ロストで既にドッペルとメリエラは戦闘準備かつ撤退準備に入っていた。ハッキングなどと生易しいモノではない手段でそれらが無力化されたと判断してドッペルは考える。
「出直しだな、手がわからなかった」
「私はここで殿を?」
「いや、無駄に死ぬだけだ。何も最初から一回で落とせるとは考えてない。我々大人はな」
メリエラにとっては意外だった、ここで死ぬまで足止めをしろとでも言われるのだと思っていた。だが予想外の返答に少し戸惑う。
「そういやお前は独立傭兵だったな、師となる者はいなかったのか?」
「……いなかった、死体からはぎ取った装備と端末でネットワーク使って……それで」
「はん、なるほど名義の乗っ取りか。よくあることだな、ならいい事を教えてやる……確かに依頼に失敗して逃げ帰って信用を落とすのもあるだろうが、結局最後は生きていれば勝ちなんだよ。俺は昔はそうだったよ、この体になる前は絶対に死ねないって気持ちで仕事をしてた。まあ最後はボロボロになって今じゃ、意識をデータ化してこの体に詰め込んだ幽霊だ」
ドッペル、彼女はかつて彼だった。よくいる傭兵であったが、MCMS専属契約を行っていた為に多くの医療や支援を受ける事ができた。そのツケとして、肉体の死後もこうして働く事になった。ここでこの「機体」が撃破されてもまた原データから新たな機体に搭載されるだけのプログラム。なんならば既に今この瞬間も同じデータを乗せたドッペルが他の場所でも活動しているだろう。
故にドッペル、そう呼ばれている。
「いいか、俺はお前より長く生きた。だから忠告しておいてやろう『くだらない拘りに囚われるな』そして……」
キャリアーのライトが消えたその瞬間、闇の中に向けてレールガンを放つ。
「どんな相手でもどんな状況でも油断はするな、そこのお前もだ」
レールガンが着弾して衝撃波が走る中、青い光の軌道が駆ける。
それはハレルだった。
「もう他の機体は全て無力化しました、後はあなた達だけです」
「なるほどな、つまりお前を倒せなきゃ俺達は帰れないということか」
機械の体を持って蘇った者『再生者』であるドッペルは、少女の顔で笑う。もはや生き死にを無くした以上これも楽しみの一つだ、強者との戦いが自分の存在価値を証明する。
「傭兵!お前は援護だけしてろ!ヤバくなったら逃げていいからな!」
「わかった」
メリエラに迷いはなかった、自分達は生きる為に戦っているのだ。もはや逃げる事にも、負ける事にも怯えない。死にさえしなければいいのだ、ようやくそれを知れたのだ。
二人の魔法少女による十字砲火、それは間違いなくハレルとシルスにとって不利な状態であった。
『片方は機体に意識だけ乗っけた幽霊です、悪いですが壊させてもらいますよシルス』
『……わかった、俺は迷わないよ。あいつに、あいつに他の生き方を選ばせて見せる為に!』
魔法少女の体はバリアコーティングにより守られ、そのバリアコーティングを介したパワーアシストと力場を発生させて浮遊するフローティング、そして魔力の推進による強化が施されている。
そこに様々な感覚強化や対環境防御に攻撃魔術といったモノも加えて、いわば人間サイズの機動兵器と呼べるスペックを持っている。それだけの機能を維持する為のエネルギー源こそ、巫女へと与えられる人造神格の力なのだ。
しかし、それを操るのは結局のところ人であり機体だ。必ず消耗し、集中を乱し、負荷がかかり、倒れるのは避けられない。大きなダメージを受けない様に優先してどの攻撃を回避するか、防御するかを選択しながら、遮蔽物を利用し、攪乱し、隙を狙い、攻撃する。
レールガンは高い威力と貫通性能を持っている、チャージすれば魔法少女のバリアコーティングを貫通して人体を簡単に破壊できる……がその為にエネルギーを多く使う、そしてそれは電力。人造神格のエネルギーを電力に変換するにはラグが生まれる。短い間隔で撃ち続ければ弾はあるものの撃てない時間が出来るし、砲身も過熱してしまう。
しかし、ハレルという脅威に今撃ち止めて十字砲火という有利を崩す訳にはいかない。それはメリエラにもわかっていた……がその瞬間が来てしまった。ドッペルが弾切れを起こしたのを見るや、ハレルがアサルトライフルで狙撃してレールガンを破壊。続いて二発、三発とドッペルの機体に命中してバリアコーティングの金属音めいた反応反射音が響く。思い浮かぶのはあの時自分のブレードを崩壊させた一撃、そうはさせまいとロケットポッドを一斉に放ちハレルの気を引こうとする……が。
『読めてた!』
前回の反省から学んでいたのはハレルとシルスもだった、彼女らが選んだのは魔術シールド。バリアコーティングとは違い身に纏うのではなく空中に出現させる板状のモノ。それを回転させて射出、手裏剣を飛ばす要領で飛んでくるロケットと相殺。抜けて来たものはアサルトライフルで撃ち落としながら直撃を全て回避、多少爆風と衝撃は受けるが殆どダメージにならなかった。そしてその隙を逃すドッペルでもない、機体腕部に内蔵されていたレーザーブレードを展開して爆煙の中からハレルに向かって斬撃を繰り出す。
一撃目はアサルトライフルの銃身を切り落とし、二撃目は手元に出現させた魔術シールドと接触して拮抗する、そして三撃目、それは大きく空振り彼、彼女の上には死神の鎌が現れていた。
ハレルの杖『グリムリーパー』がデスサイズモードでドッペルの機体を斜めに切り裂いた、行き場を失ったエネルギーと機密保持の為の自爆機構が連鎖して爆発を引き起こす。その寸前にハレルは飛びのく。
負けを悟ったメリエラは考える、どうやって生き延びるか。確かに相手は殺さないと言っていたけれど、それも前回それが仕事でないからという理由だった筈だ。
今回は拠点を攻め落とそうとした、情報を持ち帰られないためにもここで決着をつけるのが普通だ。手を払いのけた相手にもう一度手を差し伸べるのか?そしてそれは信じられるものなのか?という疑問もあった、けれどそれよりも早くハレルが構えを解いた。
そして光と共に姿が変わった、それは最初に狙撃しようとした時の少年の姿。
「俺は、俺はナユタ・シルス。君と話がしたいんだ」
メリエラは前に遭った時突然にハレルの動きが変わった事に納得がいった、この少年だ。自分より年下の彼が止めようとしたのだろう。
「……要件は」
「その前に名前を教えて欲しいんだ、君を何と呼べばいいのか」
「メリエラ、独立傭兵メリエラ」
「そっか、じゃあメリエラ……一緒に来て欲しい。君を、君を傷つけるつもりはない。約束する」
二度目の敗北、そして二度目の邂逅を前にメリエラは武器を降ろした。