【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm   作:青川トーン

4 / 28
EP3

「なるほど、ドッペルは失敗してメリエラは捕虜ですか。まあいいでしょう……ドッペルはバックアップを起動すればいいだけですし、独立傭兵ごときに手間をかけるつもりもありません。それよりもあのネットワーク汚染は厄介ですね。スペクター、あなたから見てアレらはどうでしたか?」

 ハーミットの表情には落胆も無ければ、さも当然の結果であったという平静だけ。それを見てスペクターと呼ばれた機体もまた当然の様に「見て来た」事を話す。

 

「あれはまあ魔術的視点で見ても例外、正直MCMSの通常戦力じゃどれもカモ。ネットワーク頼りのドローンはあの様だったしネ。攻め落とすなら人間か、それか妖魔が必用になるだろうネー」

 腰まである長い黒髪に導師服、いかにも胡散臭い顔をした少女型の機体、スペクターと呼ばれたソレもまたドッペルと同じく元人間。だが一つ大きく違う所がある、それは彼は元々魔術師であったこと。

 

「それであなたの見解ですか……仕方ありませんね、ウチは機械戦力が売りだというのに。態々妖魔など雇わねばならないとは。それであなたはどこまで近づけましたか?」

「まあ入口までは行けたヨ、どさくさに紛れてネ。ただ多分何か居て逃げ帰られたかぐらいにはバレてるのは留意しとくべきダローネ。それと次のドッペルは機体の方が明らかに劣ってるのどうにかしてあげた方がいいヨ、ワタシと同じぐらいの性能があればもうちょっとうまくはやれただろうニ」

「技術班へ伝えておきましょう、あなた方の様な再生者の運用はまだきちんと確立しきれていませんからね」

 

 再生者、意識をデータに変換して機体へと搭載するソレはかつて戦場を駆けた者達の力を「再利用」できる画期的なシステムだ。現状は魔法少女システムが存在する為それに対応する形で少女型機体で運用されているが、それだけだ。なにせ資源も設備も開発の為の人材も足りていない、技術者の再生者化も進めてはいるが……当然、意識のデータ化も完全に成功する事もあれば時には失敗する事もある。なので死にかけの人間を使うのが主流だ、まだ使える奴を潰すのはもったいない。

 

「まったく、うまくいかないのはこの世の常ですが……我が支部の待遇の悪さを考えると苛立ちが止まらない。どいつもこいつも前に進もうという気概が足りない」

「それに関してはドーカン。せっかく人様を犠牲にしてこんなスバラシイ技術を作ったのに運用を渋ってるのはバカとしかいいようがない。ヤレ元は人間だから忠誠心がないヤラ、倫理的にドーダとかネ。永遠の命も人間を超えた進化も……文明の存続もここにあるというのに」

 

 

 スペクター……彼は生前もまた優れた魔術師であり、戦士であり、科学者でもあった。故に今のこの世界の有様を見て来て一つの結論に至っている、このままであれば人間はいずれ絶滅する事になるだろうと。その原因は汚染と寒冷化による食料資源の枯渇による人口の激減、そこからの完全な文明の崩壊。

 故に機械化が必用だ、生身の人間よりも優れた力で再生を果たすのだ。

 

 無機質な筈の機械の目には静かに決意の光が灯っていた。

 

 

 

 

 墓所へ向かって夜の道を二人で歩いていく。ハレルは気を使って今は引っ込んでくれている。

 ザッザッと荒い雪とトレーラーに踏み固められた氷を踏む音だけが響く、とても静かだ。

 

「俺は、この世界の人間じゃないんだ」

「……別に珍しい事じゃないって聞く」

「それで俺の居た世界はこっち比べたら随分平和でさ、俺は恵まれてたってハッキリ思い知らされた」

「嫌味?」

「違うさ、俺はまだこの世界の事を全然知らない。まだ3人しか知り合いがいないんだ、それもなんかちょっと特殊なタイプらしくてさ……そうちょっと普通がわからないんだ。それで君に……メリエラに頼みたいんだ、一緒にこの世界を知って行きたいんだ」

 

 メリエラの歩みが止まった、疑問に思い俺は振り返る。彼女は顔を赤らめて逸らしていた、なんで?

 

「何?それ告白?口説き文句?ちょっと聞いてるこっちが恥ずかしいんだけど」

「いや!?恋愛的なソレじゃなくてさ!友達、そう友達が欲しいんだ!」

「わかってる、わかってるけれどさ!そんな歯の浮くようなセリフ吐く奴この世にいる!?」

 

 そんなに変かなぁ!?俺!?

 

「まあそれはそれとしてさ!もし君がよかったら、一緒に働かないか?異世界から放り出されて身元もわからない奴だって雇ってくれる職場で、まあ……傭兵するよりは安全らしい場所だって」

「……私には戦う事しかできない」

「俺だって、こっちで役に立つような事なんて何も出来なかった、けれど大丈夫だったよ」

「あなただって多分この世界だったら普通じゃない側、力を持つもの」

「だったら尚更安心だろ、実際にどれくらい強いのか見た身として」

「それはそうだけど……」

 

 俺には、俺自身には大した力もないかもしれない。正直言って今は殆どハレルの、ナユタの借り物だ、でも……それでも何かを返せるならば、誰かに善意を広げていけるなら。

 少しは何かがマシになると俺は信じている。

 

 

「何もずっとって訳じゃなくたっていい、少しの間だけでも試してみるってどうだ?」

 

 我ながら詐欺師だとかなんかしつこい勧誘みたいな、いや実際しつこい勧誘ではあるな……そんな言葉ばっかりでてくる、胡散臭いかもしれないし怪しいかもしれないな。

 

 俺は手を差し出す。

 

 

 

 しばらく目を閉じて考え込んだ末にメリエラは笑った。

 

「……バカね、あなた」

「そうかもな」

 

 そして俺の手を払った、ダメか……と思ったが彼女は歩き出して墓所へ向けって歩き出す。

 

「実際に見て見ないとわからない。それにあなた以外の話も聞いてみない訳には決められない」

 

 極めて現実的で前向きな言葉だった。ただ一歩譲ってくれた、それが俺にはとても嬉しかった。

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

 

 

 

 墓所へ辿り着いた時にはアカネさんが表層で人形達に鹵獲したドローンなどを運ばせていた。結局あの人一人で他の戦力全部片づけちゃったな……すげえ。

「ふーん、君が哀れにもそこの新入りに目を付けられた傭兵ちゃんね」

「あなたのことは見てた、恐ろしい力。とても敵対はしたくない相手」

「賢明な判断よ、実際この期に及んでやりあう気だったら……まあそんな事はなさそうね。ようこそ墓所……そしてナユタへ、歓迎するわ。もっともここにはそこに新入りと私の妹と管理人しかいないけれど」

「たった4人しかいない…?」

「妹と新入りは一体化してるから実質3人よ」

「一体化……?ああ……アレ」

 

 どうやらアカネさんとのやり取りでも、多分大丈夫……そう。後はメリエラにここで何をやってもらうか……それでメリエラが何をやりたいかだ。

 

 と思っていたら管理人さんが歩いてきた、さすがに見るからに謎めいた人だからメリエラも一瞬驚いたようだけれどあの雰囲気を見て納得してくれたようだ。

 

「あれね、ここの管理者というのは。私みたいなのも、歓迎してくれるなんて」

「そうですね、私も歓迎しますよ、傭兵メリエラ」

「……全く変な場所ね、確かにあなたが……シルスが特殊だというのもわかる」

 

 俺は端末を持ち上げて彼女から画面を見えるようにしてハレルにも挨拶を求めた。

 さすがにこっちも見慣れないタイプだからちょっとフリーズしたけれど、納得してくれたようだ……それに俺の名前を呼んでくれた。

 

「ええ私もシルスが特殊だと思いますよ」

「そうね、私もシルスは特殊だと思う」

 

 待って!?ナユタの方が特殊だろ!?管理人さんも頷かないで!俺がおかしいみたいじゃん!

 

「さっきの戦い、2対1での十字砲火を避け切ってたけれどアレはあなたの実力?シルスの実力?」

「私はナユタ・ハレル、姉さんはアカネですよ。確かに私もそれなりにやる自信はありますが……いつもよりも力が増していたのを考えると二人分の意志が上乗せされた結果でしょうね」

 

 アカネさんが後片付けに向かったので、屋内に移動していつも休憩に使ってる広場で話を続ける。確かに言われてみれば当たり前の様に攻撃を避けたり、相手の様子を窺ったり、反撃したり……あの時はメリエラを説得する事ばっかり考えてて気にしてなかったけれど……いつも以上に体が動いてた気がする。おかしいなハレルの体だった筈なのに。

 

「一体化、というのはイマイチ私にもよくわかってないんですよ。とりあえずシルスを生き残らせるのに出来そうな手段を取っただけで、こうやって一つの体・一つの存在を二人で分け合うのは初めてなので。他人でやっても同じ様にいくのかどうかすらわかりません」

「やっぱりシルスがおかしいのでは?」

「私もそう思います」

 

 なんか俺よりもハレルと話してる方が同意多くない!?もしかして本当におかしいのって俺だけか!?

 

「そ、そうだメリエラ。さっきは戦う事しか出来ないって言ってたけれど……なにかやってみたい事とか、あるか?ここでの仕事を決めるのに参考にしたい」

「やってみたい事……そう、考えた事なかった。昔は屑鉄拾いをしてたけれど……ああ、本が読みたい……でもこれは仕事じゃなくて趣味……になる」

 

 本、本か!ちょうどいいかもしれない!

 

「ハレル、こう新しく集め始めた本の中身の確認だとかやってもらうのは?」

「……そうですね、確かに普段はスキャンして終わりですからね……実際に読んでどんなものなのか調べて貰うのも大事ですね。人間の感性を通した調査……それをしてもらいましょうか」

「……本当にそれが仕事でいいの?」

「当然仕事なのであらゆる本を読んでもらいますし、それをレポートにして提出してもらいます。データ化してるものも含めれば膨大な数がありますからね。多分一人じゃ永遠に終わりませんよ」

 

 なんだか読書感想文みたいだな……でもそれが仕事になるなら十分だ、知識もつくだろうから……

『なるほど考えましたね、確かに本を読めば新しく何かに興味を持つかもしれませんね。次からこういうタイプの人を雇い入れる時の参考にもなりますね』

 

 うわっ突然心の中に語り掛けてくるな!まあ言っちゃなんだが教育・学習の機会になるのはいいかもしれない。この世界での教育とかどうなってるのかちょっとわからないけれどこんなに荒廃してるなら知識とかは力になるかもしれない。

 

『そうですね、では管理人さんにちょっとお願いして教育プログラムを搭載した機体でも容易してもらいましょう』

 そうだな、明日から忙しくなるな……修行に加えて普段の業務に。

『あなたもですよ、どの程度勉強できるか知りませんがこの世界の常識殆ど無いんですから」

 

 えっ俺も!?

 

『せいぜい一緒に勉強する事ですね、外の世界で生きる人から直接聞くチャンスでもありますから』

 

 ……確かに。はー……更に忙しくなりそうだな、でも悪い気はしない。やると決めたのは俺なのだから。

 

 

 

 

 

 

「端末にしておけばこうして聞かれたくない話も出来るというわけね」

「そういう事です。正直シルスもですが、メリエラの事も姉さんは反対すると思っていました」

 

 アカネの私室、あるいは実験室。そこには端末に映し出されたハレルの姿があった。さすがに話が必用だという事で二人は顔を合わせていた。シルスもメリエラも今は自分に割り当てられた部屋で寝ている頃だろう。

 

「面白いと思ったからよ。まずはシルス、あなたをして『これは無理だろう』とダメ元で同化して……生き残った。本当なら情報だけ回収する為の同化だったでしょう?」

「……否定はしません、あくまで助からなかった場合の選択肢です」

 

 あくまでそれが仕事だと、今も生きる彼に失礼だと思いながらもハレルは同意した。

 

「でも彼は生き残った……あなたという虚無の側の存在と同化しても自我を保ち、消える事無くこの世界に残っている。あなたが同化したものは全て情報に分解されて再構築は難しいのに、こうやって端末を作る事すら可能にしている」

「ええ、彼は……ナユタ・シルスは特別な存在です。私達の様な例外とも言えましょう、ですがそれだけですか?例外であろうと……結局いつか帰らせなければならない者です」

「……そうね、彼が望むならね。でもきっと彼はこの世界の事を……あなたの事をもっと知れば、きっと残る事を選ぶわ。私はナユタ・シルスに可能性を感じた、そしてそんな彼がこの世界に来て最初にやろうとした事に興味を持った」

 

 

 この世界にだってまだ希望はある、まだ人々を救おうとする者達がいる。けれど大勢の人々は自分達の事だけで手いっぱいだ、救いたいな、可哀想だなとは思うが実際に手を伸ばした所で良くて共倒れ、酷ければ裏切られる事だってある。

 

 

 幸いな事にナユタ、いや……この墓所は多少手を差し伸べても余裕がある。

 それにあのお人好しの管理人は人を助けたいと望むのなら喜んで協力してくれる、そういう存在なのだ。とアカネは思う。

 

「あなたにはあまり感じ取れないでしょうけど、管理人は楽しそうよシルスが来てからずっと」

「冗談なのか本気なのかわかりませんが……姉さんがそういうのならそうなのでしょう。私もこんな力よりももっと使い勝手のいい力が欲しかった」

「そうね、私もこんな力欲しくはなかったけれど……人は望んで生まれる訳じゃないわ、望まれて生まれる事はあってもね」

 

 生きる事を、存在する事を望まれ、意味を持って戦える……それがどれだけ幸福な事なのだろう、戦い続けなければならないのはある意味不幸かもしれないが……だが力も、意味もなく、それでも生きている事の方がもっと幸福なのかもしれない。

 

「そう面白いと思ったのはあなたもよ、ハレル。あなたもシルスが来てから変わった、まだこの世界を信じてもいいと思ってる」

「…………それも否定はしません、あんな善性の塊みたいな人間と一つになれば嫌でも前を向かされます」

 

 シルスのバカバカしい程のポジティブな思考と慈愛とも取れる善性、それは果たして平和な世界で育ったからか?あるいは人を守り、救う事を一番とする家に育ったからか?

 

「正直どこに居ても、あれは周囲に大きな影響を及ぼすタイプの人間ね。元の世界も大騒ぎになってそうで少し気の毒だわ」

「だから帰してあげなければなりません、それが私の義務です」

 

 それでも彼はこの世界の人間じゃないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 メリエラが来てから3日経った、あれから襲撃はない。前に回収したガラクタを分別して資材にしたり、この世界での基本的な知識だったり歴史だったりを学んだり色々あったが……メリエラの過去を知ったのが一番大きい。

 彼女は3年前までは母親と一緒に暮らしており、共にガラクタ拾いや集落での仕事なんかで生計を立てていた……けれど汚染の影響で母親は流行病で亡くなり、住んでいた集落もほぼ壊滅。さらに遠出して戦場になりがちな場所にまで廃品を探していた所、死体から魔法少女システムと傭兵ライセンスを拾ったそうだ。

 

 そこからは細々と大した事のない仕事を受け続けて生計を立てていたが、やがて人を撃つ事にも躊躇いがなくなるような……そんな仕事ばかりが来るようになり、今に至るという。

 

 元々出来た文字の読み書きのおかげで傭兵ライセンスの更新やネットワークでの仕事探しは出来たメリエラと違い、それすらできず野盗まがいの事をして生計を立てる魔法少女と戦った事もある……外の世界での話は多くが暗いものばかりだった。

 一つ希望もあった、ユニオンやアライアンスといった大きな勢力が治安を守るべく困窮した人々を支援し、自分達の勢力圏に取り込んでいるという事。少なくともこの荒廃した世界でも秩序を取り戻そうという人々は少なくない。

 

 ただ……当然ながらそこで生じる争いもある。全てが全てうまくいくという訳でなく、その勢力や秩序に馴染めず零れ落ちる者も少なくない。

 

 自分勝手に生きて、自分勝手に死ぬ。そんな時代が長く続いたのもあり秩序の上で生きていくのが気に入らない人間もいるのだという。

 

 

 この世界は一体どこへ行くのだろう、俺の頭の中にはそんな事ばかりがずっと居座っていた。

 

 確かにメリエラを説得するのには成功した、そして現にこうして今の所は一緒に居られる。

 でも不安もある、俺自身がここを去る時が来た場合、あるいはメリエラがここを去る時……あるいは死んだ時。

 

 

 思い浮かぶのはハレルと出会ったあの日の事、俺は文字通り死に向かっていた。

 誰もが、いつかは死ぬ。それが突然かゆっくりかの違いはあるが、不変の未来だ。

 

 そしてここは死が近いというのは俺にもわかっている、弔った人達の事や戦いの事、寒さや汚染……。

 

 でも、それでも戦うしかないだろう。

『立ち向かえるのはいつだって、生きている者の特権だ』

 父さんの言葉が俺の心を奮い立たせてくれる。

 

 

 ならばやるべき事は一つ、今日も生きるべく、世界を変えるべく行動あるのみ。

 

 

「シルス、ちょいと調整やるので整備室へ向かってください」

「何の調整だ?」

「魔法少女システム、コアと衣装の補修素材と杖の点検です」

「それなら私も、エンジェルモデルの補修を」

 

 そういやハレルもメリエラも魔法少女システム使ってるんだったな、しかし一つ気になる事がある。

 

「エンジェルモデルって何だ?」

「あーそうですね、シルスは知らないんでしたね。魔法少女システムにはOSが入っててそれとコアの組み合わせを「モデル」と呼ぶんですよ。まあモノによっては装備や衣装まで含めてのモデルまであるんですが……エンジェルモデルは特に普及している、一番標準的なモデルです。大体の魔法少女システムはこれの派生です」

「そうか、それでどこが作ってるんだ?」

「……まあ前にいった人造神格のデータが流出してるって言ったじゃないですか、こいつの設計データや廃棄された奴が色んな所で再生されたり製造されたりしたのが原因なんですよ。正直町工場ぐらいの技術力で作れちゃう手軽さとか……いくら整備性を良くするといっても限度があります」

 

 あー……つまり便利さと手軽さを追求した結果、コピー品やリサイクル品が山ほど出来てしまった系のアレか……俺の世界の銃や技術系の分野でもよく言われてた話だ。

 

 

「正直に言って巫女というか女の子にしか使えない制限がなかったら、絶対にもっとひどい事になってたからナユタの一番のやらかしまでありますよ」

「でもこれで救われた者も少なくはない、私がそう」

 

 結局は道具だもんな、使い手次第で良くも悪くも使えてしまう……そういえば前に攻めて来た魔法少女無人機って奴が使えたりしてたけど……。

 

「少女の、女の子の定義って何歳までなんだ?」

「それ以上はいけない」

「シルス、世の中にはグレーにしておく方がいい事もあります。という冗談はさておき……すごいコレ曖昧なんですよね。不老とか若返りとか整形とか性転換手術とか肉体変化とか機械化とか色々な手段で抜け道があるんですよ、一応女装とかは弾いたりはしますが。逆に魔法少女から巫女になって、その子供が神官になるのか?とか……全部検証してる余裕がないのと、まだシステムが世に出て4年しか経ってないからどんな影響を及ぼしているのかハッキリわからないんです」

 

 すごい頭の痛くなる話題だ、確かにこう色々なモノが世に出た影響って大分後の方にならないとわからないもんな。父さんもたまに家にまで仕事持ち帰って来て防衛設備のアレヤコレで号泣しながら仕事してたもん、セキュリティどうなのって母さんにキレられてたし。

 

「こういうの大人の考える仕事だと思うんだけれどなんでハレルがやってるんだ?」

「大人もやってますよ、ちょいちょい死んだりして引継ぎできたりしてないだけで」

「最悪だ」

 

 恐ろしい話はさておき整備室でハレルの姿に入れ替わり、胸にある魔法少女システムコア「エンジェルモデル・アズライール」の調整が始まる。

 アズライールというのは死を司る天使であり、かつて神が人を作る為の土を選ぶ際に最もふさわしいものを持ってきた……という逸話があるとか。昔やってたゲームの解説で見た記憶がある、死を司る……つまりは死神だからハレルの武器は鎌なのかと合点がいったが随分物騒だな……。

 

 エンジェルモデルのコアは円型で内側がへこんでおり、材質は黒と青のクリスタルでとてもじゃないが装置だとかには見えない、いかにも魔法石とかそういう感じだ。

 ただよく見ると細かい傷が山程ついてて、洗浄した後に粘り気のある液体みたいなのをかけて磨いて……治った。

 

 どうやら巫女の力を使ったのはわかったけれど一瞬だったせいで全然わからなかった……。これが本職の巫女の力か。加えて何やら白い布を箱から取り出してそれをコアの上に乗せると布は吸い込まれて消えた。

 

「変身式?」

「そうですよ、メリエラさんは着替えタイプですよね?衣装なんかは拘ってますか?」

「ない、その時あるモノを着てる」

「良ければお作りしますよ」

 

 また知らん話題が始まると……こう妹と幼馴染が女子のファッションの話題で盛り上がってるのを思い出してちょっと寂しくなる。ここでまた一つ疑問。

 

「魔法少女って何故、衣装を着るんだ?」

「二つ理由があります。一つは巫女としての証明、これは人造神格がこの持ち主は巫女であり戦う意志を持った者であると判断する為のものです。二つ目に一般人、非戦闘員との区別ですね……あんまり気持ちのいい話じゃないんですが良くない使い方をする方々が多いのでそういう最低限度のルールがあるんですよ。まあこれ守らない奴はいくら何でもありな場所でも袋叩きにあったりしますし、まともに相手してもらえなくなるので……」

「二つ目の理由が怖すぎる!」

 

 確かにルール無用になると本当に地獄だもんな……一般人に紛れて突然暴れ出したら防ぎようが無いし……。

 

「まあ他にはシンプルに自己表現だったりもしますね、傭兵だと自分をアピールするのに使ったり。企業だったりでもこの組織に属していてこういう思想をしていますみたいな使い方もあります」

「案外とこう深いんだな、衣装って」

「人類の歴史を振り返ってみるとそういうのは結構ありますよ、鎧だとか兜とかに装飾施したり彫刻掘ったりするのもそうですし、マントや旗とかも」

 

 すごい勉強になるな……。

 

「案外ハレルって教師に向いてるんじゃないか?」

「そうですね、平和になったらやってみてもいいかもしれませんね」

 

 備え付けの端末を使ってデータの入れ替えを行ってるメリエラのエンジェルモデルのデータを当たり前の権利の様に盗み見てるハレルにちょっと呆れながら、俺は少し考える。

 

「ハレルはさ、これに……このアズライールにどんな想いとかを込めてるんだ」

 

 

 

「私にしか出来ない仕事を、背負った役目を果たすという覚悟。それだけです」

 

 

 

 たったそれだけの言葉なのに無数の屍の山を踏み越えて、地獄の様な景色を進むハレルの姿を俺は幻視した。何をバカなと自分でも思う、けれどただの幻になんて見えない。

 一体何を背負ってるんだと問いかけるにはまだ早い、まだ互いにそこまで踏み込むべきではないと俺の心がそう警告を発していた。

 

「いつか、話せる時になったらそれを聞かせてくれ」

 

 そうだよな、まだ……俺だってハレルに伝えてない事がいくらでもある。

 だからそう急ぐ事じゃないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、妖魔の戦力にアテがあるのですか?」

「そう、ナユタと聞いて思い出したけれド……奴らは敵が多くてネ。保管してるモノもだけど随分長い間妖魔と殺し合ってたんだよネ」

「情報の出所は?」

「妖魔の傭兵サ、あんまり人前に出てこない連中も仕事で肩を並べれば話す機会があるという事だヨ。今でこそ世に出て人と変わらない扱いをされてるけれド、大戦期より前はそれこそ闇の中にしか生きる場所がなかった存在サ。魔術師しかりネ」

 

 スペクターがホログラムで投影するのは角の生えた赤肌の人型、鬼だ。それを見てハーミットは拍子抜けしたような表情をする。

 

「サイボーグパンクロッカーの方が奇抜な見た目ですね、普通の人間と変わりはありませんが本当に使えるのですか。妖魔は」

「機械畑の人間にはわからないだろうケド、連中は下手な戦車やロボットよりも遥かに怪力だシ、何よりも術が使える。まあ兵士というよりは戦士という気質の奴らが多いのが美徳でもあれば欠点でもあるけどナ」

「個としての戦力と見れば優秀ですが、群として見れば連携しにくいという事ですか」

「まあMCMSとは嚙み合わん連中だネ、だけど結局のところは奴らも生きていく為に働いているのだから雇えるという訳だヨ」

 

 妖魔、人とは違う知性を持った生物。あくまで肉体を構成する成分が違い、多少の差異こそあれど文化と文明に頼り生きる存在であれば交渉の余地はある。スペクターは傭兵として様々なモノを見て来た、だからこそ言う。

 

「奴らも人も同じ、この世界に生きる者の一つに過ぎない」

 

 平等に生きる権利はある、それを行使する中で争いが起こるのも、手を取り合う事ができるのも。

 

 

「それで……一つ気になる事があるのですが妖魔には人を捕食するというイメージがあるのですが」

「ああ、そんなのとうに解決済みだヨ。連中も文明人だ、態々人間を襲って食う必要なんて随分昔になくなっていたのサ。普通に人と同じモノを食べて生きていけるし、必要であれば培養したモノで事足りる。けれどあえて……あえて相手を脅かす為に喰うだなんていってるだけサ」

「なるほど……研究者でもあるあなたの言葉です、信じましょう。いやはやそうであれば妖魔の雇用も考えてるみるのも一つですね」

 

 ハーミットがまた策謀を練っている姿を、スペクターは呆れた様に見下ろす。

 人間も妖魔もかわりはしない、他人を食い物にし蹴落とし生きている。それは今も昔も変わらないのだと。




Tips:魔法少女規格システム

・エンジェルモデル
最も普及する魔法少女システム、世で運用されているものは一部を除きこのモデルの派生形。使用者によって名前を付ける事すらしない事あり魔法少女システムとだけ呼ばれる場合は大体このモデル。
ナユタの人造神格の力、「造物」の権能が宿っているがその機能を覚醒させる者はめったにおらず。ただ単にエネルギー源として利用している事が殆ど。


・エンジェルモデル(標準)
ナユタ技術研究所が設計したモデル、コア・ヘッドギア・専用装束の3点で成り立っている。余剰魔力で形成された翼と光輪が特徴で、普段はシグナルとして扱う。

・エンジェルモデル・アズライール
ハレルの使用している専用カスタムタイプ、白・紺・水色のカラーが特徴。武器の術杖「グリムリーパー」はエネルギー刃を発生させ大鎌・ランスなどとして扱える。

・エンジェルモデル・アザゼル
アカネの使用している専用カスタムタイプ、赤・黒のカラーリングでレオタードとタイツと帽子、そして燕尾服の混ざったまるでマジシャンの様な格好、この世界でもちょっと不審者扱いされる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。