【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm   作:青川トーン

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EP4

 回収した廃材を溶かし、分解し、インゴットへ変えていく。そしてそうやって出来上がったものは倉庫へと運ばれていき、武装や装置の製造あるいは取引の為の材料として運用される。

 

 こういった作業は自動人形と管理人さんの制御する設備だけで賄われており、俺達が手出しをする必要はない……が、こういうのを並行してやってるからいつ休んでるのか不明なのがちょっと心配だ。

 特に返事はなかったが「何かやってほしいことあったら言ってくれ」って伝えておいた。

 

 その翌日だ、珍しく管理人さんから直で俺達に指示が出た、というのも言葉ではなく地図を指したものでそこに調査に向かって欲しいとの事。倉庫やオフィス街などではなく住宅跡地の多い場所だ。こういう場所は早い内に人々が避難した為に特に貴重なモノが残っていない……が、どうやら公共施設などの跡にはそれなりに資料となるものがあったりなかったりとアカネさんが言っていた。

 

 いつもの如くトレーラーに俺とハレルと人形、メリエラとアカネさんは墓所で待機だ。

 

 

 ひどく寂れた光景だ、時間の経過で崩壊した建物や狭い裏路地に瓦礫だらけで足場は最悪、道中強引に突破する事も少なくはなかった。案の定車だとかそういうバラして資材に出来そうなものなんかは既になく、おまけに夜なので暗い上に霧が濃くて視界も悪い……加えてちょいちょい妙な気配と影がチラつく。

 

「なんだよアレ」

「怪異ですよ、いわば人の残留思念とか魔術の残骸が混ざって出来上がったオバケの一種です」

「危なくないのか?」

「普通なら危険ですよ、大体負の感情なんかから生まれてますからね。でも私達の脅威じゃありませんし……一匹一匹潰してたらキリがありませんよ。こういうのは周辺一帯丸ごと浄化する勢いじゃないと駆除も大変です」

 

 怪異、かぁ……なんかホラー映画だとかそういうカテゴリに出てきそうな奴らもハレルからしたら脅威ですらないのか。まあ……結局生きてる人間が一番怖いって奴だな。

 

 

「それで、何処に向かってるんだ?」

「あの学校ですよ、基本的にああいう施設は過去に避難所指定されてて設備だったり装置がそのまま置いてあったりする事があるんですよ。特に空気除染装置だったりですね、残ってればそれを修理して使える様にしてもいいですし」

「なるほど……そういえば前から気になってた事なんだがこの辺りで……人の暮らしている場所とかあるのか?」

「そうですね旧東京の方にまで出ればそれなりに人の集まりはありますよ、まあ……道が悪いのでトレーラーだと片道も結構かかりますがね。飛べばすぐですが」

「オーケー、そのうち時間が出来たら見てみたいなって」

「……まあ確かに情報を仕入れるのにはいいんですが……一つ問題がありましてね、そこに暮らす人たちは大分まあ……その……独特なのでアテにならんというか」

 

 独特でアテにならない……??

 

「妖魔だったり、なにかしらの術師ばっかりで普通の人間が殆どいないんですよ。半分狂気に足を突っ込んでる人ばかりですから、そらもう独自用語が山程出てきますし、妄想と現実の区別がついてなかったり、薬でトリップしてたり」

「あぁ……おお、うん。ごめん、もっと普通な人達の住んでる方は?」

「地下都市とかドーム都市みたいなのなら東や北の方に行けばチラホラありますね、さらに小さな集落も色々ありますし……ああ、そうです「京都」には国がありますよ。魔術都市といってあらゆる場所に術を敷いて管理してる所で遠くから観光にくる人もいますし、研究者もそこそこ集まってますよ」

「それはすごいな……なんて国なんだ?」

「龍京、水龍の加護を受けた王様を中心にした国です。雰囲気としてはそうですね、常にあかりが灯っていて華々しい感じで……いかにも和な感じの木造建築が多いです、綺麗な川と水路が張り巡らされててそれが都市を覆う術式の一部となってるんです」

 

 そうそう、そういうのが聞きたかった。なるほどなぁ……まあでも京都かぁ……京都。この辺は千葉だった場所辺りだから……結構遠いな。新幹線もなければ飛行機もなさそうだもんな。

 

「まあいずれ行く機会はありますよ、ただ……観光に行くには悪くないんですが住むには色々めんどくさいらしいという欠点があるそうですよ。聞いた話によると、どうも税として魔力取られたりやたらしきたりやらマナーにうるさかったり……」

「観光地あるあるみたいな……」

 

 そんな話をしてたら後ろからついてきてたトレーラーも無事に校庭に到着し、準備は完了した。

 

「まあ無いとは思いますが、万が一もありますし……怪異に襲われたらさすがに応戦してくださいね」

「了解、まあオバケはさすがに撃つよ。俺でも……そういや前からちょいちょい出てた妖魔って怪異とは別なのか?」

「ええ、妖魔はちょっと魔法寄りってだけで生き物ですよ、吸血鬼とか人狼とか鬼とか天狗とか色々いますがどれも生きています。一方で怪異はどっちかというと現象なんで命を持たない存在です。妖魔の方にそういう事は言わない様に気を付けてくださいね」

 

 なるほどな、そういう違いがあるのか……。

 

「つまり動く死体や骸骨や幽霊は怪異で、妖怪は妖魔ってことか」

「まあ……そんな感じですね、たまーに動く死体にしがみついて現世に残ってる人がいるので一概には言えないんですが」

「例外ありかぁ……」

 

 そう思うとちょっと怪異を撃つのも躊躇っちゃうかもしれない、もしも例外的に自我があったりとか……そういう奴だったら。

 

 

 

 

 噂をすれば影というか、人が想像しえるものは存在しえるというか。

 この時にそんなことを思ったのが悪かったのか、それとも出会う運命だったのか。

 

 

 

 やけに綺麗な校内だった、机や椅子も倒れたり埃が積もったり、ガラスが割れたり凍り付いたりこそしていた……けれども廊下は崩れたりしてないし、教科書やノートの類もまるで当時のそのままみたいに残っていた。風に吹かれてカーテンが揺れるのにちょっとビビりながら進む。

 

 さっき見かけた怪異の影みたいなのも時々離れた所から見てきているが襲ってくる様子はない、これで一階の調査は終わりというところで、鍵のかかった保健室が最後になった。

 俺は何の迷いもなく鍵を壊し、ガチガチに固まった扉を開いた。

 

 あり得ない景色だった、オレンジの光が窓から差し込み、ワーワーと生徒達の声が聞こえる。そしてカーテンに囲われたベッドの上には誰かが横になっていた。

 

『ハレル、異常事態だ』

 

 応答、無し……心を繋いだ魔法少女応答なし!!!!

 ナユタの術の力は……応答あり、すぐ何かという訳ではない筈だ。

 

 窓の外の景色は見えない、完全にオレンジの光だけ。ドアは開かない……ならばあのカーテンの向こうにいる存在を確かめる他ない。

 

 俺は覚悟を決めてベッドの前に立ち、カーテンを開く、賽は投げられた。

 横たわるのは茶髪でツインテールの女子高生、格好は学校指定のブレザー……ちょっとかわいいなって思ったけれど……決して油断してはならない、こっちの世界に来てからまともな女の子にあった事がないのだから。

 

「……ん……んん……?誰?」

 どうやら目を覚ましたらしい、というか今の俺の格好大概怪しいかもしれないな……。

 

「ごめん、ちょっと迷ってさ。ここから出たいんだけれど」

「…………」

 

 無言で身を起こし、綺麗な赤い瞳が俺を見つめる。悲しいけれどとても普通の状況ではなく、普通の存在ではない事が一目でわかった。これがハレルの言っていた怪異だろう。

 

「何十年ぶりだろうね、人と会うの」

「この辺りには誰一人としていなかったよ」

「そうだよね、この学校も閉鎖されて随分経ってるもん」

 

 俺が初めて出会った怪異は、思ったより言葉の通じる相手だった。けれどハレルが言うには彼女もまた現象なのだろう。

 

「ねえ君、好きな人っている?」

「……んぇ?」

「恋人居る?」

 

 なんか突然刺して来たなこの人、退治するか?

 

「いないよ、それに多分俺の事を恋愛的に好きと思ってくれてる人はこの世界にはいないよ」

 ハレルもアカネさんも管理人さんもメリエラもあくまで仲間だったりとかで好意というか悪くない気持ちを向けてくれているかもしれないけど恋人としてはないよな。

 

「じゃあ君の恋人にしてよ、そうしたら出してあげる」

「そういうのじゃないだろ恋人って、というかお前はどういう怪異なんだよ」

「あー!ひどいな~!確かに私も人じゃないけれどそんなデリカシーの無い事言われたら傷つくよ!」

 

 ずっとひっそりと袖の中に仕込んでいた短刀が迷いを宿す、ダメだ、ただその一言だけだったのに俺はこいつを人として見てしまう。こいつに心を感じる、俺はこいつを……殺せない。

 

「随分、甘いんだね。まあ私よりずっとガキンチョだもんね!見えるよ、キミの迷いの心……私にも!」

「ガキって言うな!そん……俺はもう14だ!」

「私17歳~先輩だもんね~」

 あやうく何十年って言葉が出掛けた、またデリカシーが無いと煽られる所だった。というかこの怪異の目的がまるでわからない!むしろこういう意味不明な事をしてくるから怪異なのか!?

 

「……はぁ、それはさておきさ。確かに俺はガキだよ、でも今はやらなきゃいけない仕事がある……だから帰してくれないか?」

「嫌、だって君を返したら今度こそ私は永遠にひとりぼっちだもん」

 

 ……怪異は命じゃない、でも。そこに俺は計り知れない程の寂しさを感じてしまった。と同時に真っ黒な意志を感じて飛びのいた。

 

「だからキミを私と一緒にして、ずっと二人で居るの」

 

 俺が一瞬前まで居た場所が闇に呑まれて崩壊した、なるほどな……やっぱりこう、まともな奴じゃなかった訳だ。

 

「悪い、俺は……俺は帰らなきゃいけない……だからお前を倒すよ、名前は?」

「恋って壁が多い程燃え上がるよね……私は愛理、あなたは?」

「シルス、ナユタ・シルス」

 

 どこから取り出したのやら、包丁を持った怪異……愛理が駆けてくる。明らかにもう人間を超えた勢いで、だから短刀で受け流してカウンターで腹に貫手をかます。がバカみたいに硬い、シールドを纏わせてなかったらこっちの指が折れてた。蹴りで弾き飛ばして距離を取る。

 

「ひどいよ!女の子に暴力なんて!」

「暴力はそっちだろ!なんでそんなに力強いんだよ」

「恋する乙女は強いの!」

 

 正直言って愛理のスタイルはマジの素人だ、だがパワーとフィジカルが尋常じゃない。それと今のやり取りでは使ってこなかったけれど最初に俺を『食おう』としたあの一撃はヤバいかもしれない。

 

 というよりそもそもこの空間がおかしい、今の一撃で魔力が飛び出して壁をすり抜ける事なく弾かれて戻ってきた、つまりは部屋の外が「ない」。閉じた世界みたいになってるみたいだ。

 

「今、どうやって逃げようかって考えたでしょ?でも無駄、私からは逃げられな~い」

「……そのようだな、だったら全力で倒すだけだ」

 

 ここに来て、俺はいままでやってこなかった事を、やらなかった事を解禁する事にした。握っていた手裏剣の一つを分解、バリアと合わせてプラズマの刃として小剣に纏わせる。

 

「待って待ってなんで当然に様に手裏剣!?レーザーブレード!?」

「それは、俺が神官で……忍者だからな」

 

 一歩の踏み込みで十分だ、距離を詰めて振りかぶる。包丁で受け止めるもさすがに刃が融解を初めて押され始めた。このまま斬り込めば行けると思った、その時に突然腹部に熱が走り、なにか液体が滴りだした。

 

 見なくてもわかる、腹を刺されたんだ。なるほど怪異だもんな、包丁ぐらい突然出現させてもおかしくない。バリアすら貫通してその場に包丁を「出す」だけで十分効果的だ……けど俺は倒れない。

 倒れてはあげられない。

 

「すごいね、シルス。普通は刺されたら、慌てて逃げたり動けなくなるのに」

「ああ、すごく痛いよ。でもごめん、本当にごめん……俺は帰らなきゃ」

 

 力を込めて、包丁を切断してそのまま愛理を袈裟切り、血の様だけれどそうでない、何かが溢れ出して彼女は倒れた。

 俺は初めて、相手を殺めた。伝わるのは痛みより寂しさ、悲しさ、きっとずっとここで誰かを待っていたんだろう。でもこれで終わりなんだ。

 

「ごめん、ごめん。君の事は……忘れない」

「……私の事、覚えててくれるんだ。君の中にいても……いいんだ?」

「ああ、ずっと……俺が死ぬまでは」

 

 ピシリピシリと景色に亀裂が入っていく、彼女が倒れた事でもうすぐこの空間は消えるのだろう。

 せめて、何かを手向けたいなと思い、纏っている神官装束のポケットから手裏剣を取り出して、その一部を材料にヘアピンを作った。青い星型のヘアピンだ、それを愛理の髪につけてあげた。

 

「うれしいな、プレゼントなんて……初めて貰った……本当に、嬉しいな」

 

 

 

 

 視界が滲む、多分俺は泣いてるんだと思う。この世界もきっと、そして光が広がり景色は暗闇の廃墟へと戻った。

 

「シルス!大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ、多分な」

「今一瞬、意識が途絶えていましたが……って包丁刺さってますよ!!すぐに治療を!」

 

 どうやら腹の傷も現実みたいだ、ということは愛理は確かにここに居た訳だ。俺の幻覚だったり夢でもなんでもなく。俺は彼女を殺したんだ。

 

「いいんだ、自分でやる。これは俺が背負うべき傷だから」

「……そういうことですか、怪異とやりあったんですね?」

「ああ……すごく、寂しそうな奴だったよ。だから忘れない」

「はぁ……いつか潰れますよ。怪異の事まで背負うなんて」

 

 包丁を引き抜き止血、傷口を修復しつつ流れ出た血液を分解して、破れた部分を補修。これで治療は終わりだ……欠けた手裏剣を保健室であった場所に墓標の様に突き立てる。

 

「センチメンタルですね」

「悪いか」

「いいえ、それもあなたの一部なのですから」

 

 それにしても、今みたいにハレルと分断されるような状況もある訳か。厄介だな、怪異って奴は……。

 

「しかし、あなた一人で対処できた事に私は成長を感じますね。多少の相手ならあなたでもなんとかなるでしょうね」

「多少、本当に多少なら……な」

「そんな時は私がサポートしてあげるよ」

 

 ?

 

「ウワーッ!誰ですかこいつー!!!」

 

 端末の中からハレルの叫び声が聞こえる、驚いて端末画面を覗くとそこには愛理が居た。

 ご丁寧に、俺が手向けた青い星のヘアピンもつけて。

 

「おま……お前!?愛理!?お前普通に倒されただろ!?」

「確かに倒されたけれど、私はそう簡単には死なないからね!それにシルスが言ってくれたよね、心の中に居てもいいって」

 

 確かに、確かに言ったよ!それはあくまで思い出、あるいは俺の背負うべき過去としてだ!物理的に心の中に入って来るとは思わないじゃん!!

 

「シルス、あなたまた口説いたんですか?女の子を」

「……先輩、またってなんですか?シルスって他にも私みたいに?」

「先輩って……まあそんな感じですよ。であなたはなんなんですか」

「私は愛理でーす。恋する乙女!シルスと出会うべくして生まれた存在なの!」

「怪異にまともな返事を期待するだけ無駄でしたね……それでどうすんですかこれ?」

 

 どうするって……どうすんだろうな、物理的に居ないんだから倒しようが無いし……それに……。

 

「愛理ってさ、なんか他人に傷つけたりとかはしない?こう……人の血とか負の感情が好きだったりとか」

「しないよー!!私はシルスが一番!シルスがやらないっていうなら他人を傷つけたりもしないよ!あっでも私のこと構ってくれなかったらまた包丁刺しちゃうからね!」

「ならいいや、よしハレル。新しい仲間が増えたぞ」

「増えたじゃないんですよ!怪異に惚れられてくるとか貴方どうかしてますよ!?」

 

 もう仕方ないじゃんそれは、そういう怪異なんだろうから。なんかあったら俺の責任だけど、まあ……一人で寂しく消えていく女の子はいなかった。それだけでいいのだ、俺はそう思う。

 

「ハレル先輩!そういう訳でよろしくね!」

「よろしくねじゃないんですよ、完全に私のプライベートスペースだったのに!」

「おっ!意外と嫉妬深いタイプの人なんですか?シンパシーがわきますね!」

「だーっ!シルス!帰ったら祓いましょう!姉さんならなんとかしてくれます」

 

 自分の中に居るってのがなんだか不思議だけれど一気に賑やかになったものだな。

 

「あー仲良くしてやってくれ、愛理」

「りょうかーい!」

「何を言ってるんですかこのバカは」

 

 

 

 

 

 

 

 

 シルス達が騒いでいた頃、墓所ではメリエラがレポートを纏めていた。

 前時代の書籍であり内容は『増え続ける怪異への対応問題』を中心としたもの、当時はまだ魔術師や祓魔師……エクソシスト的な技能は限定的な普及にとどまっており、場所によっては夜間の外出など不能になるなど相当ひどい有様であった。しかし時は経ち魔術の普及で簡単に対処できるようになり、またそもそもの発生要因の一つである人間の営みが失われた事で怪異自体の数も大きく減る事となった。

 

 だがそれは中堅クラスまでの怪異の話だ、極めて強力な怪異はもはやその存在を人に依存せず、廃棄された土地で潜み続けて、時折その縄張りに踏み入った者が犠牲となる脅威と化していた。

 

 メリエラはそこまで強力な怪異は見た事がない、が。確かに傭兵ネットワークの中にはそういった話題があった事も記憶している。特に旧首都、東京はひどい有様でどこもかしこも怪異だらけで怪異研究者があつまる一大スポットと化しているとか。しかも怪異は怪異に惹かれる性質があり、さらに各地の怪異が移動して集まってきているという噂もある。

 

 対策としては除霊術などを修めた者や教会のエクソシストなどに頼み、土地単位で結界や除染を行うのが一番だという。

 

 

 作業が一段落して、いつもの様にシルスの所へ行こうとして……今、彼は出掛けているのだと思い出す。

 ナユタ・シルス、不思議な少年だ。自分より幼く頼りない筈の存在なのに、まるで炎の様に温かく……真っ直ぐな存在だ。ああいうのを「太陽」と呼ぶらしいと思い返す、けれど実際に太陽を見た事は数えるぐらいしかない。だから炎だと、メリエラは彼をそう例える。

 

 けれど、永遠に燃え続ける炎なんてない。彼もいずれ居なくなる……それが故郷へ、元の世界へ帰る事ならばまだいいだろう、でもこの世界はあまりに残酷だ。人の悪意が、愚かさが彼の炎を消すかもしれない。あるいは彼もまた変わってしまうかもしれない。

 

 そう考えると今手にしているこの仕事もむなしいものかもしれない、本当にこの世界に未来はあるのだろうか、変わらない明日が来て、汚染された大地で消耗し続けて、緩やかに終わっていくだけかもしれない。

 傭兵をしていた時からずっと心の中にあった悲観的な思想が顔を出す。

 

 

『ただ終わっていくよりも、盛大に花火を上げ、祝う様に死んでいくべきだ』

 

 誰が最初に言い始めたのか傭兵ネットワークで流行っていた言葉だ。尤もこの言葉を好む連中は大体長生きしない、自分が見定めた好敵手に挑むか……まったく割に合わない仕事を受けるか、それとも赤の他人まで巻き込んだ迷惑な死に方をするのが殆どだ。

 

 意味のある生き方、あるいは意味のある死に方……誰も彼もそんなことばっかりだ。自分もきっとそう。

 

 そんなことを考えていたメリエラの横に管理人がやってきた。いつもは何かしらの仕事をしているその人物が彼女の所へやってくるのは初めての事だった。指先から顔まで、全てが白と黒で覆われて見えず、かろうじて銀色の髪だけが被り物から垂れている、そんな不思議な存在がメリエラの作ったレポートを見ていた。

 

 決して悪い奴ではなく、むしろ善良なタイプだろうというのは彼女にもなんとなくだが察して取れた。なんならここに呼び込んだのはシルスでこそあれど、最後に決定権を持っていたのは管理人なのだ。

 声すらも、なんなら文字ですら言葉を交わす事が許されない……それは果たしてどれだけの苦痛と孤独を伴うだろうか、メリエラにはまったく理解の叶わない相手が彼女の書いたレポートを読み、その元となった本を手に取る。

 

 その行動にどんな意味があるのか、メリエラが無言で悩む中で管理人がページを開き、机に置いた。

 初めてのコミュニケーションらしき行動に驚きながらもそれに従い、内容を確認する……それは最後のページであった。

 

【して、多くの怪異は人に害をなす。けれどそれだけが彼らの全てではない、人の想いや感情といった行動から生まれた者達の中には時に極めて人間に近い者も現れる。今でこそ手を取る事はできないかもしれないがもしも……例外が、可能性が生まれるのならば。その時は信じてあげて欲しい、彼らとてこの世界に生まれて来たからにはきっと、祝福される権利がある筈なのだから。】

 

 極めて希望論的で、無責任な言葉だと思った……だけど願いか、あるいは祈りか。まるで託す様な言葉だった。何故管理人がこのページを読ませたのか、何故よりによって自分なのか、それに何よりも何故彼は迷いなくこの最後のページを開いたのか……あらゆる疑問で滅茶苦茶になりそうになりながらもメリエラは考え、答えを探す。

 

 

 そんな時であった、ほど遠くない場所から爆発音がした。それも2度3度、メリエラはそれが迫撃砲による攻撃であると感じ取った。管理人は背を向けて、おそらく防衛設備のコントロールに向かったのだろう。おそらくアカネも迎撃に出るかもしれない、が自分はどうする?

 

 メリエラは迷う、おそらく相手はMCMSかその傭兵だろう。狙いはこの墓所であり、ナユタだ。

 自分は……まだ傭兵だ、今ならまだ元の生活に戻れるかもしれない。態々敵対する必要もない、どちらに加担する必要もない。きっとあのナユタの魔法少女なら無人機共を片付けた様に簡単に敵を追い払えるだろうし、得体のしれない管理人も簡単にやられるタマではないだろう。

 

 

 けれど、けれどもしもの可能性を考える、相性で勝ち得る例外が現れたら?もしも意外にもアカネが負ける様な事があれば?……そもそも出て行った所で虚しいだけの日々に戻るだけだとして、後ろ盾も、希望もなくて……気が付けば走り出していた。衣装を纏い、コアを胸に武器を手にしていた。

 

 ああ、簡単な事だった。もうここは自分の居場所になっていたのだ、帰る場所が無くなる辛さは知ってる、母が死んだあの日から、信じられる相手の居ない日々を過ごして来て、手を差し伸べて来たおかしな少年と出会った。

 

 可能性を、ほんの少しでも明日が良くなる事を信じて私は戦おう。

 メリエラは極めて前向きな気持ちを胸に戦場へと飛び出した。

 

 

 降り注ぐロケット弾を対空砲が正確に撃ち落とし、撃ち漏らしたモノを結界が防ぐ。

 前回とは違い地上には砲台やバリア装置が顔を出しており、地上への被害は幸いにも殆どない、が突然赤い風が吹き抜けたかとおもいきや防衛設備が次々と破壊され、対空砲火が薄くなっていく。

 

 迫撃は囮だ、本命はそれらだった。MCMSアマルガムが4機、加えて前回とは武装の異なるドッペル、さらに赤い仮面を被り、二振りの金棒を手にした魔法少女……彼女の頭には二本のツノが生えていた。

 

「流石はオーガ……いや、鬼だったか。こうも簡単に抜けていくとはな」

「貴様らが不甲斐ないだけだろうが、カラクリなどに身を落した臆病者共がよ」

「言ってくれる、だが耳が痛くて言い返せんよ……死ぬのを恐れた臆病者の末路と笑ってくれ」

「ふん……あのまじない師の知り合いというから期待したが……まあいい、あのナユタに喧嘩を売れるチャンスなのだから。先祖の……同胞の仇、しっかり取らせて貰おう」

 

 復讐鬼、仮面越しの瞳に映るのは憎悪の炎だ。ドッペルはそれに勝機を見出し、スペクターの人脈の広さに関心した、まさかこんな強者との繋がりを持っているとは……ただ一つ気になる事があった。

 

 自分もそうだが見た目と中身が一致しない者が魔法少女にはそれなりに居る、目の前の少女……果たして本当に少女か?余計な詮索は良くないが、珍しい妖魔の傭兵だ……少しばかりは気になる。

 

「ナユタとはどういう因縁が?」

「我が父や祖父、そしてさらに以前からずっとナユタには苦渋を舐めさせられてきた。多くの秘宝や秘術が連中に奪われ、封じられた。そして中には連中と手を結ぶ裏切り者まで現れる始末……奪われて、追われてきた歴史を終わらせ……未来を手にする。これは最初の一歩ぞ」

 

 バンと極大の重量物同士がぶつかり衝撃が生まれる、そこには無人機部隊を壊滅させたあの赤黒の魔法少女が居た。ナユタ・アカネの持つ大斧と金棒がぶつかったのだ。

 

「欲張りのガラクタと手を組んでまで仇討ちにきたのね、家族愛があるのは私としても好印象よ」

「貴様ァ!!ナユタ・アカネ!!!一族の仇!ここで討たせて貰うぞ!!!」

 凄まじい怒気が、質量を伴ってアマルガム達やドッペルを押し退ける。鬼の末裔と巫女の壮絶なる戦いに圧倒され、間違いなく足手まといになると判断して任務を優先するべく墓所への侵入を試みる。

 

 そんな時だった、アマルガムの1機がレールガンの一撃に貫かれて爆発した。弾丸の軌道を辿りドッペルが目にしたのはかつて雇っていた傭兵だ。

 

「メリエラ嬢、今度はそっちに雇われたのか?まあ傭兵という仕事をしていれば敵味方が入れ替わるなんてことはよくあることだったな。専属が長すぎて忘れていたよ」

「私は、もう傭兵はやめにすることをした」

「そうか居場所を見つけたか、いい事だ守るべきものが出来るのは……だが残念な事にそれは今から俺達が奪う事になるが」

「させはしない」

 

 一機減らしたとはいえ三機のアマルガム、そして前回より強化されたドッペル。不利であろうともメリエラの心には闘志の火が宿っていた。




ナユタ・アカネ/エンジェル・モデル アザゼル

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愛理

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