【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm 作:青川トーン
「兄貴はさー!いつ休んでるんだよ!」
「そりゃ夜だろ……」
「そうじゃなくてさぁ!土日もボラ部の活動であちこち行って、月曜日はそのまま学校じゃん!」
「いや今週は忍者研究会との予定が入ってるし、別にボランティアだけじゃないし」
「クソボケーッ!休めやーっ!おめーのご友人共が遊びに来て居ねえって答えるのが面倒なんじゃー!」
妹に雑誌で殴られる、まったく誰に似たのかこいつは暴力的だ。確かに俺は忙しい、毎日何かしらの活動に参加してて、お呼びがかかったりもする。が決して嫌な事じゃない、むしろ何かしてないと逆に落ち着かないんだよ。
「とはいってもな、今年は例年より災害が多く発生してる。避難所にはお前よりもチビな奴らが暇そうにしてる。誰かが相手をしてやらなきゃダメだろ?」
「そりゃそうだけど、兄貴が居間で転がってるのを最後に見たの2年前なんだけれど。マジでそんなにハードワークしてたら死ぬよ!」
「いや……死なんだろ、居間で転がってるよりも出来る事をやってる方がいいって、いざ災害にあって死にそうな時あれやっときゃよかったな……って後悔したくねー」
この世界は簡単に人が死ぬ。街一つ炎に呑まれて、水に流され、風に飛ばされ、大地に沈む、怪物に壊され……数百という命が一瞬で消える。どこにも絶対に安全な場所だなんてものはない。だから、やれるだけやっておきたいんだ。大人でなくても、誰かを助ける事ぐらいできるんだと。
「あー兄貴すっかり変わっちゃって泣きそうだよー!マジで相手してくれよー!」
「しょうがないなぁ……来週は予定あけておくから……」
「それ絶対だよ、いい加減に兄貴を助けてくれた人達のお墓参りいくんだからね?」
そうだ、俺達を助けてくれた人達は皆……役目を果たして死んだ。大勢犠牲になった、大勢救った、でも自分が死んだらどうしようもないだろ……俺は、死なない。死にたくない、誰も死なせたくない。
力が欲しい、何もかも救えるだけの強さが欲しい。
ハレルが戻ってきた頃には日は暮れていた、先日の襲撃で破壊された設備を取り換えている機械人形を横目に久々の自分の体での時間を感じていた。シルスの中で移動時間を作業などに有効活用していたが今考えると自分もあんなよくわからない場所に何もかも持ち込んでいたなと苦笑する。
帰りを迎えてくれたのは管理人とアカネ、そして見慣れぬ鬼の少女だ。かわいそうに片角がへし折られて首輪をつけられている。
「それどうしたんですか姉さん」
「MCMSに雇われる事で協定を抜けて復讐に来たバカだよ。あんまりにバカだからシルスに教育して貰おうと思ったのだけれど……それどころじゃなさそうだね」
「そうですね……思ったより深刻でした、イレギュラーもイレギュラー……思ったより化け物でしたよシルスは。ほら、この怪異も仲間にしちゃうぐらい」
「愛理でーす、よろしくね!趣味のヤバそうなお姉さん!」
「これは趣味じゃないわ、あんまりにも暴れるから呪いの首輪で暴れたら苦しい事になるようにしただけよ」
今レキにつけられている首輪はそう、暴れた時に彼女を黙らせる為の拘束具だ。当然ながら外せないし、鬼すらも身動きできなくする呪いは普通の人間が受ければそれはもう酷い事になるだろう。
「そういえばメリエラはまた仕事ですか?」
「いえ、少し頑張り過ぎたから休ませているわ。思ったよりもやるようになったわよ彼女」
「……まあ強くなるのは良い事です、ですがいきなり強くなりすぎるのも問題ですね……シルスもまた私の様に厄介なタイプの神官だったみたいです」
「だろうねえ、完全に本性を出した感じみたいね」
これまでのシルスは、間違いなく自分を抑えていた。帰りたいという気持ちも不安だという気持ちも極力押し殺して、お行儀よく振舞っていた。それがメリエラの事や愛理の事で段々と己の欲をさらけ出してきた。
段階的に出していく、ならばよかったが……そこから何段階か一気に吹っ飛ばしてしまったのが問題だ。
「思春期のガキの面倒なんてどうみりゃいいのかわからないですよ~!」
「ハレル、あなたも大概ガキよ。そうね……頼れる大人なんて、そうはいないもの。管理人はまあ大人だけれどこういうのは難しいだろうし」
いかにも「えっ!?」ってショックを受けたようなリアクションで管理人がアカネの方を向いた、それに思わずハレルが噴き出した。おかげか少し空気が和らいだ、確かにシルスの事はどうにかしなければんらない……がお互いに焦る事では、ない。そうだ、こちらから歩み寄ればいい。それだけなのだ。
「ありがとう、姉さん。管理人さん。どうすればいいのか分かった気がします」
「そう、できるだけ早くシルスを起こしてくれると助かるわ。早くこのバカのしつけを頼みたいから」
そんなやり取りを見ながら管理人は静かに頷いた。
「命をかけてでも人を救う。それだけじゃダメなんだ、残された人達は悲しいんだ。死んでしまった人達は戻ってこない」
「そうだね、兄貴。だからって兄貴が全部背負わなきゃいけないって訳でもないでしょ」
「俺には出来る事がある、だからやるんだ」
慰霊碑に花を供え、俺は敬礼をする。かつて見た父の真似をして格好をつけたけれど、それでも彼らへの敬意は本物だ。人はどんな気持ちで死地へ向かっていくのか俺にはまだわからない。
そうだ、ハレルもアカネさんもメリエラもどうしてそうやって戦えるのか、それも同じ人間と……俺にはわからない。
この景色も隣にいる妹も……これは俺の記憶だ。
「私達には生まれた時からそういう使命が、役目がありました。ですがあなたには選べる自由がある」
妹の姿がハレルと入れ替わった。慰霊碑の前で、俺の記憶の中の景色にハレルが居る。
「見たのか、俺の記憶」
「ええ、これまでは遠慮して見ない様にはしていたんですが。あなたを知りたい、その故に覗かせてもらいました」
「事前に言えっていうのはお前の言葉じゃなかったか?」
「そうですね、すみません。事後承諾になりましたが」
そうか、ここは俺の意識の中であり……ハレルと繋がっているのか。
「今まで、聞いていいのか、言っていいのかわからなかった。お互いの事を話そう」
景色が塗り替わり、そこはあの日……炎の怪物に襲われた街となる。
「あれは災害獣っていって、まあ……どうやら地球の生命エネルギーみたいなのが過剰に漏れててそれが普通の生き物と違った形で生まれるらしい。そんでまともな生き物じゃないから色々足りない、なんなら完全な同族も滅多に生まれないから繁殖もできない。それで生物の真似事をしようとして捕食だったり縄張り争いだったりしようとするんだけれど……おまけで内蔵すら足りなかったりとかで大体が苦しみながら暴れてる。研究してる人はそういう風に言っていた」
50メートルの巨体でビルをなぎ倒し、足で車を圧し潰し、体から炎を噴出する。圧倒的な暴力を持った強者けれどその咆哮は悲鳴だ、苦痛に染まり、誰かに助けを求める。
「だから介錯してやるしかない」
10メートルクラスのロボットがミサイルを放ち、誘導。そして遅れて来た40メートルレベルのさらに巨大なロボットが災害獣に向かって格闘戦闘を仕掛ける。その激突はたやすく街を破壊していき、加えて噴き出す災厄の炎が小型のロボットをたやすく吹き飛ばし破壊する。
「こんなにデカい奴は珍しいよ、大体それこそ5メートルの熊だとかイノシシみたいなのとかサメみたいなのとかの方が多数だし……何より被害が出るより早く息絶える事のが殆どだ。でも突然に街の中で発生したり、生命力が強くてここまで生き延びてしまう奴もいる。そんなのを駆除する」
ボロボロになった巨大ロボットの鉄拳が巨大な炎の怪物の胸をぶち抜く。だがそれは悪手だったようだ、きっとその炎を発生させる器官を潰したらしく大爆発が起きて。何もかもが吹き飛んだ。
そして燃え尽きた街の中に残骸だけが横たわる。
「俺の父さんはああいうロボットを持つ対災害戦力だったりを運用する組織のお偉いさんだ。何代も前からそうしてきたってさ」
「まるでナユタみたいですね、人類の危機と戦う……そういった組織ですから。でも……」
今度は荒廃した大地へと景色が入れ替わる。今度はハレルの番だ、この世界の廃墟となったビルの間を移動していく。
地面に横たわるのはズッパリと切り裂かれた兵士、流れ出た血の量が既に死んでる事を示していた。
「世界を、人々を救う為に……同じ人々と戦う事も必要な、そんな時代が来てしまった。秩序が崩壊し、力でなにもかもを奪ってでも生き延びなければならない、汚染されてない土地を、安全な食糧を、そしてなによりも限りある資源を巡って様々な戦いが起きています」
横転した輸送車両からは何かのコンテナが見える。それを回収しようとする様々な格好の兵士達、それが皆バタバタと倒れていく。そして血が地面に広がって……空間が揺らいで現れたのはもう一人、いまよりも幼いハレルだった。険しい表情で死体を見下ろすとコンテナを鎌で開封していき、その中にあった青いクリスタルを詰めたカプセルを回収する。
「まあアレは少しばかり……いえ、かなり危険な物質ですね。強力なエネルギーを発生させるのですがそれは生命に対して極めて有害……それどころか確実な死を与える「ルスフィオン」と呼ばれるものです。本来はナユタが完全に占有していて世界に漏れ出る事のない様に、管理しているのです」
「漏れ出すとどうなる」
「この星から命が死に絶える、でしょうね。しかし完全な封鎖にも例外がある……ナユタを裏切った者が研究用のサンプルなどを持ち出し……他の組織に売り込もうとした。それを阻止するべく征伐隊が組まれ、私はその中にいました。何故ならば、唯一このルスフィオンを安全に取り扱える力を持っていたからです」
カプセルを握りつぶし溢れ出た青白いエネルギーがハレルの体の中へと取り込まれていく、同化能力だ。そして周囲でハレルを包囲していた増援の兵士達が武器を向けると同時にハレルから放たれた光が彼らに浴びせられる。
すると一人残らず兵士達は倒れた。即死だった、抵抗する暇すらなかった。
「こうやって同化したルスフィオンを必要な量だけ放出し、敵を殲滅する事にも利用できる。故に私は死神と呼ばれていました。流出したルスフィオンを追って様々な地へ向かい、裏切り者を、ルスフィオンを利用しようとするものを、目的も、意図も関係なく全て殺していったわけです。さもなくばこの世界が死ぬのですから」
景色は移り変わり、墓所になる。エレベーターが降りていく……今まで見た事のない程に深い場所へ、そして一番底にそれはあった。青白い光を放つ結晶と泉、それは先ほど回収されたカプセルの中身と同じもの。
「このルスフィオンの源泉を封印するのも、この墓所の役目の一つです。今のナユタが把握している限りルスフィオンはここからしか発見されていません。様々な組織へ交渉し、それこそ少なくない代償を払ってここへの封じ込めに成功しています。地脈を閉じ、完全に隔離された土地で加えてその上に様々な遺物を保管する墓所を建ててカモフラージュをしている……それがこの墓所の正体と私の繋がりです」
生命と死、真逆の脅威が互いの世界にあった。皮肉な事だ、できるなら俺の世界の地球の溢れ出る生命エネルギーを分けてやりたいぐらいだ、そうしたら丁度良くなるかもしれないのに。
「前にも話した様に……私達は望まれて生まれた、必要だからということで人の手で部品を組み立てられて作られる。まあ生まれた後はそれなりに自由は得られた……けれどそれでも、絶対に逃れない使命が……運命が必ずあるのです。それが私ならば死神としてルスフィオンを封ずる事」
「だけどそれだけじゃ、ないだろ。ハレル、お前にも家族がいる……アカネさんがいる。お前の意志は、お前はどうしたいとかある筈だ」
使命、役目確かにあるのはいいよな、でもそれで雁字搦めになって縛られて……は違うだろ!
「シルス、あなたは自分のやりたいことを、やりすぎる!周りの事をもっと見るべきです!確かに必要とされているかもしれない、でもそれ以上に自分にしか出来ない事をを選ぶです!それが力を持った者の宿命なのです!」
「俺には力は無かった!それでも自分の信じた道を進んできた!お前と同じように!」
「どうしてわかってくれないんですか!」
「それはこっちのセリフだ!」
「自制を、足るを知るべきです!」
「お前は、もっと手を伸ばすべきだ!」
俺だって譲れない、二つに一つしか選べない未来なんてクソだ。両方手に入れる事こそが正解だ!
それで両方とも取り落としたら意味がないのです!それに全てを失う事だってあるのですよ!
ハレル・シルスの思考が、思念が混ざって来る。なるほどこれがお前のあなたの心ですか。
「器の小さい奴が!」
「底が抜けていれば何を注いでも無駄です、あなたは虚無だ!」
「お前だって空っぽだ!自分を殺して何も内側に入れない!力だけがあっても無駄なんだ!ならばお前の力をよこせよ!俺が正しく使う!」
「何をバカなことを!あなたに……力の恐ろしさを知らないあなたに使いこなせるものか!」
重圧に景色が割れた、無人の荒野に炎と廃墟が乱立する。まるで俺の世界とハレルの世界が混じったみたいだ。
「……あなたは危険すぎる、申し訳ないですが3ヵ月後まで眠っててもらいます。そしたら分離して……その力を回収させてもらいます。帰る手段は、探しましょう……ですがこれ以上あなたに戦わせる訳にはいかない」
ハレルは大鎌を手にしてこちらにあゆみ寄って来る、俺は短刀を手にする。
「お断りだ、俺は……この力で人を救う。お前をねじ伏せてでも……!」
互いが駆ける、悪いが共に戦って来たからわかる。ハレルお前は能力が強いが故に……弱者の戦い方を知らない!
手裏剣をそれぞれ三方向に投げ、道を塞ぐ。ここは物理世界じゃない……だから威力は心の持ちようだ。それは向こうもわかっているだろう。
などとシルスは思っているでしょうが甘いです、ここが精神の世界である以上私に勝てる道理はない。何故ならば威力を無視して危険な技だって放てるわけですから。
グリムリーパーの刃を最大出力で「飛ばし」手裏剣を叩き落して、そのままシルスへと向かわせる。
誰が甘いだって?意志の強さでなら負けているつもりはない、刃をそのまま同化して短刀に纏わせる。愛理の時に使った光の剣と同じように強化して振りかぶる。
同化能力ならこちらにもありますよ!グリムリーパーで光の剣を受け止めて力を吸い出して……このまま無力化してあげます!
やらせるか!
「バカしてるんじゃないよー!!!」
二人の間に割って入ったのは、愛理だった。バンと空間が裂けて、二人が弾き飛ばされる。
「シルスもハレルもバカじゃん!!仲間割れなんかしてる場合じゃないよ!」
「仲間割れではありません、やるべき……」
「ハレルは固く考えすぎ!!シルスは後先何も考えなさ過ぎ!!どっちも悪いでいいじゃん!!」
愛理は、確かにシルスを愛している。けれど愛しているから全てを肯定するんじゃない、愛しているから止めるんだ。そしてそのシルスと出会う切っ掛けを作ってくれたハレルも大事にしたい。
「なんでお互いに譲り合うって考えにいたらないの!?助け合えばいいじゃん!一人でやる必要なんて無いんだから!人は誰も一人じゃ生きられないんだって二人ともわかってる筈だよ!!」
誰よりも孤独に過ごして来た、だから、だからこそ愛理はそれを言える。
「私が、二人の間に入るよ!二人より年上なんだから!年功序列!いいね!?」
「それはないだろ愛理、お前さ……そういう問題じゃ……」
「シルス、今は黙ってて」
包丁を出現させシルスの首元に突き付けながら愛理は続ける。
「まずさ、ハレルは世界を守りたいじゃん……でシルスは人を守りたいじゃん。別にぶつかる事もないはずだよ」
「世界を守る為には、人と戦う事だってあります」
「その時はその時で確かにやらなきゃいけないかもしれない、でももっと他人を信じてあげて。ハレルは誰も信じられないの?」
「……そうかもしれませんね」
「だったら近くにいる人だけでも信じてあげて欲しいな。寂しいよ、誰も信じられないのは」
包丁を降ろして、愛理はハレルの手を取る。
「まずは私の事を信じて、頼ってあげて」
「……わかりました」
「次はシルス、あなたは他人の気持ちをもっとわかってあげて、確かにあなたに助けられた人はいる……けれど皆はあなたの事を心配してくれてる」
空いた方の手でこんどはシルスの手を繋ぐ。
「あなたは……もっと人の気持ちを考えようよ。私もあなたの事を好きで心配してる、あなたが力に呑まれて自分を見失いそうになっているのを誰よりも心配しているのはハレルなんだよ?あなたと同じ力を持つからこそ、その怖さも知ってるんだから」
「……ごめん、愛理」
「そのごめんは私じゃないでしょ」
「そうだな、ごめんハレル」
「私の方こそ、あなたがこのままおかしくなるかもしれないと思って焦り過ぎました」
ハレルとシルスが手を取る、それに愛理は安堵の笑顔を浮かべた。
果たして自分がいなかったらどうなっていたことやら、ちょっと心配になったが……それでもだ。
出会った事に、自分が居た事に意味があった事に何よりも救われたのは愛理だ。
「仲直りできたらやるべきことはわかるでしょ!」
「ああ、これからはもっと周りの事を考えるよ」
「ええ、もっと皆を頼ってみようと思います」
「なんでそこでチューしないの!?!?」
「ピンク頭」
「これだから怪異は…」
メリエラが目を覚ました時、そこは自室だった。ご丁寧にどこもかしこも痛まない様に治されていた。
身を起こして廊下を歩いていると知らない顔が一人増えていた。外見は普通の少女だ、が角が生えている。片側だけ、レキだ。
「新人?」
「なんだ貴様は……ああ、あの時後ろに居た奴か、見世物ではないどっかへいけ」
「どこもなにもここは私の居場所。そもそも名前ぐらい名乗ったらどう?」
「貴様ごときに名乗る名などない、かなうなら今すぐにでも……グググ……」
突然苦しみだす相手に首をかしげるメリエラ、よく見るとなにか首輪が光っていて、少し理解した。
「ああ、アカネさんに何かされたんだ。ということはあの時攻めて来た」
「そうだとも、クソ……あの忌々しい呪い巫女め。こんなもので我が……」
まさに親の仇であるが故に、相当の憎悪を抱えているレキに対してメリエラはナユタには敵が多いとアカネが言っていた事を思い出す。これも敵の一人だったんだろう、だが何故殺されなかったのだろう?あの時はシルスが居なかったから説得したとは考えにくいし。この態度であるし。
「そう、憎いの。で、何故こんなところにいるの?」
「……大方、我を里との交渉材料とするつもりだろう。だがこれ以上の恥を、何よりも弱みを握らせる訳にはいかん……貴様、我の首を刎ねろ」
「……は?」
「首を刎ねて介錯しろといった」
「バカ」
レキの頭をメリエラは手刀で叩いた。当然ながら加減はしている為、人間相手でもかるい拳骨ぐらいの威力だ。
「威力が足らんもっと殺意を込めろ!」
「殺す気などない、そもそも何故こんな所に攻め込んできたの?捕虜になるのを恐れるなら自爆装置ぐらい用意するけれど」
「ジバク装置?なんだそれは?自らを縛るのか?ああ、絞首で自害するのか?」
「本物の世間知らず初めて見た」
「舐めるな、こうみえても2年は傭兵として戦って来て負け知らずだぞ我は」
「……その割に貴方みたいな魔法少女……聞いた事ないけれど」
角の生えた魔法少女、たしかに機械のツノを装備した者なら色々いる。しかし完全に肉体から生えていたらそれなりに話題になるし、傭兵ネットワークにもそれらしい者は聞いたことが無い。武器も……思い出せば仮面を被っていて金棒が二本、しかしそんな戦闘スタイルなら絶対に有名だ。
「どこで活動していたの?」
「この日の本を渡り歩き、悪を叩き潰して来た!」
「…………どうやって依頼を受けて来たの?」
「その地に暮らす民に悪党の有無を聞いて潰した」
「報酬は?」
「食事だ、食事を対価とした。後は酒だ」
メリエラは考えを巡らせて答えに辿り着く、つまりこいつは傭兵ですらない。ただの旅人だ、たしか角……角の生えた鬼という妖魔が居た筈だ。傭兵にも居た、そいつらに近い……連中は里とは縁を切ったみたいな事を言ってて……里との取引材料になるとなると……思い出した。合致する存在が鬼の傭兵から語られた記憶がある。連中は義を重んじる、敵はずっと敵、味方はずっと味方という考えが強く……正直傭兵としては使いにくい……悪く言えばバカ正直だから印象に残ってる。
「シテンのレキ?」
「そうだとも!我こそはシテンのレキ!鬼の英雄の一族ぞ!」
ああ、やっぱりか……とメリエラは頭を抱えた。とんでもないお転婆がいると、とんでもないはねっかえり、とんでもない程に真っ直ぐで高貴な、里の権力者の娘だと。これがそのバカか。
価値観が絶望的に蛮族とかそういうアレな上に、マジで約束を果たす為なら死ぬ事すら恐れない、おまけにバカみたいに頑丈だから銃弾すら効かない、鬼族は傭兵界でも厄介者だ。味方でも敵であってもだ。
そんなのがこの墓所に居座るとなるとどうしたものか……アカネが取引に使うかもというならば、さっさと引き渡して欲しいなと考えているとレキが不満げな顔をする。
「貴様の名前をまだ聞いてない」
「私はメリエラ、前は傭兵をしていたけれど今はこの墓所で働いている」
「ナユタではないのか貴様は」
「そうね、巫女でも神官でもない。それに別にナユタがどうとかではなく……あくまでこの場所の為に、ここの人達と繋がりがあるだけ」
「そうかそうか!ならよい!ナユタは外道だ、どんな卑劣な手段も問わぬし身内を簡単に犠牲にする!そんな所になど入らぬ方がいい!」
どうやらこいつも、敵でないものには快い者なのだろう。しかし敵認定されているナユタに対してはそうはいかないだろう……アカネとハレルには、と一つ気になるのが管理人。
「そういえばここの管理人の事はどう思っているの?」
「あれは巫女でも神官でもないであろう!別にかまうものか」
「あの人はここで世に放てば危険なモノを管理しているし、他人の事を気遣えるいい人だから迷惑をかけないように」
「……うむ、貴様が……いやメリエラが言うならそうなのだろうな!」
えっもう信用してるの!?と困惑と衝撃、そして呆れがメリエラを襲う。それはMCMSに利用されてこんな危険な場所に突っ込まされる訳だ。とんでもないバカだ。そしてそんなバカがこの世にまだ存在出来た事に一番驚いていた。
この鬼の里、果たしてどんな場所なのか。もしかして実はナユタもしくは管理人の様な存在が墓所の様に保護してるのではないだろうか?様々な想像が頭によぎるが、不意にメリエラの腹が鳴る。
そういえば起きた報告と食事の為に部屋の出たのだと思い出す。
「ここは満足に飯も出んのか……?捕虜である我はともかくして」
「いえ、私は起きたばかりだから……あなたは?」
「施しは受けん!」
「そう、友人からなら?」
友人、その言葉にピクとレキが反応する。顔を見れば完全に呆気にとられたという表情だ。
そこから突然泣き出した。メリエラは困惑した、なんだこの情緒不安定の生命体は、本当にこいつこの世界で生きて来た同じ知性体なのかと不安になった。
「貴様は……我を!私などを友と呼んでくれるのか!こんな出会ったばかりの相手を!」
「……そ、そう……別に相手に良くしてはいけないというルールはない」
「こんな心優しき者が……まだこの末法の世に居るとは……!まだ、まだ捨てたものではなかった!」
チョロ、くっそチョロすぎんだろ。メリエラはドン引きしていた。
そんな混沌とした場に救世主がやってきた、シルスだ。
「ただいま、メリエラ……でそっちで泣いてるのが……レキだっけハレル」
「そうですね、攻め込んできたのを姉さんが捕らえたという」
「助かったシルス、この泣き虫を泣き止ませて欲しい」
「なんで泣いてるんだ、泣かせたのか?」
「友達っていったら泣きだした」
ハレルと愛理のおかげでどうにか落ち着きを取り戻したばかりで、特に事情は知らないシルスだったが……まあ新しい仲間が増えるのは全然歓迎だ。
「そこの鬼の子、はいハンカチ」
「ナユタからの施しは受けん」
一瞬で泣き止んで困惑したのはシルスだった。
「俺も別にナユタの神官にならざるを得なかっただけで別にナユタに忠誠誓ってる訳じゃないし、あくまで一時的処置だから外様だよ外様」
「……それでもナユタの神官だ」
「魔法少女システムは人造神格システムをつかったいわば人造巫女だ、魔法少女は全員ナユタの巫女か?」
「それは違うであろう」
「そういう事だ、仮の神官みたいなものと思ってくれ。俺は誰とだって、仲良くあれたらいいと思う」
少し戸惑ったレキであったが、メリエラの頼むから手を取ってくれという切実な表情に負け……シルスが差し出したハンカチを受け取る。
「俺はシルス、君はレキだね。これからよろしく」
「……ああ、よろしく」
ちょろ、ハレルは内心呆れていた。メリエラは相変わらずのシルスの口説きにある意味安心し、そして。
「ちょっとーシルス―!初対面の相手と仲良くなるの早すぎ!」
「いいだろ仲良くなるのは」
突如として出現する愛理にメリエラとレキが驚いて距離を取る、完全に不意打ちの様な現れ方だった事から対処が遅れたといわん顔をする二人だが悪意・敵意の無い事を感じると警戒を解く。
「すまんすまん、紹介が遅れた。こいつは愛理、怪異なんだけれどちょっと特別でさ……今は俺と共存してる、一応恩人でもあるからさ」
「よろしくねお二人さん!」
怪異という言葉にメリエラもレキも驚きの表情を隠し切れなかった。妖魔からしても怪異は仲間ではない……がそれを仲間と、恩人と言えるシルス。とんでもない奴だとレキは察した。
メリエラは管理人が示したあの本のページの事を思い出す、まさか本当に共存を?むしろ管理人はこのことを予測していたのかと思い至る。
「とんでもない奴だ、怪異とまで仲良くなるなど……恐れ入った」
レキは完全に降参だという感じで手を差しだし、シルスはそれを手に取った。
ハレル、シルス、愛理、メリエラ、レキ……それぞれ出自も何もかもが異なる不思議な同盟と友情が生まれる事となる。
それを少し離れた場所からアカネと管理人が満足気に見ていた。
「そうよ、それでいいのよ。ハレル……信じられる仲間は、あなたをきっと支えてくれるから」