【完結】魔法少女ハレル/OverPhantasm 作:青川トーン
メキメキと根を張り、異界の植物が地表を覆い始める。それは雪を溶かし、枯れ木を砕き成長してゆき巨木となる。岩や防衛システムを呑み込みはじめ、ついに墓所が異常を検知した時には40メートルもある巨大な龍がその地に生まれていた。
『樹龍』
かつて異界から流れ着いた植物はこの世界の大地に根付き、汚染すらもモノともせずに勢力を伸ばした。その時はかろうじて核兵器によって焼却できたものの。完全には死に絶えてはいなかった、その強さに目を付けた者達はこの死の大地を再生する為の切り札になると信じ……改造を施した。
結果としては成功だったかもしれない、があまりにも強烈すぎる環境改変は周囲の生物を瞬く間に淘汰してしまう。故に種だけを残し再び封印されることとなった。
それが今解き放たれた、今なお周辺の土壌を侵食し、最もエネルギーのある墓所の動力めがけて根を伸ばし、大気を高濃度の魔力で染めていく。
起動した防衛装置は悉くツタと根によって押しつぶされて無力化され、エネルギーを奪われ、結界にも大きなダメージが入りつつある。たった二分と経たず大地を緑に染め上げていくには封印されるだけの理由に溢れていた。
それを遠くで眺めているのはスペクター、アマルガムをさらに20機に、3メートルほどの人型機動兵器も3機、またしても再生されたドッペルも居るが……あまりもの暴威に絶句していた。
「本当にあんなものを投入してよかったのか?」
「確かにやりすぎかもネ、でもナユタならあれも殲滅はできル。尤もかなりの消耗を強いられル……既に今までで最大のダメージを与えているヨ」
「まあ施設に対しては、な。問題はだ……」
ズシンズシンと大地を揺らしながら樹木の巨龍は墓所へと侵攻し、羽根の様な葉と筋肉の様なツタの一部を赤く染める……アカネの術だ。血による浸食が始まる……がその周囲が突然に茶色く変色し壊死……自死することによって浸食を防ぎ瞬く間に再生した。高速代謝によりアカネの汚染よりも早く自分の体を生まれ変わらせる。それによって樹龍は耐性を獲得した。
「なっ……マジかよ……」
「ナユタの赤い巫女の力は巨大な生命力には効きが悪いと予想してこれを用意した」
「恐ろしいな、異界のバケモンは」
根本から炎が上がる、腐食して切り離された部分が油と化して燃え上がったのだ、加えて周囲の高濃度の魔力もあり着火自体は簡単だった。だがそれもすぐに消える、溶けた雪を水分としてふんだんに取り込んだ為に蒸気が発生し、それが燃える油と反応……爆発が起こり一部分を吹き飛ばすが瞬く間に再生する。
「やっぱり生きている相手が一番厄介ね、それに予想以上に成長が早いわ」
「どうしますか姉さん、あれはそう簡単には死んでくれませんよ」
「そうね……物理手段だと……厳しいわ」
ハレルとメリエラがどうにか樹龍の子体……2mほどのツタの怪物の施設内への侵入を防いでいるが次から次へと発生し、キリがない。倒すよりも早く数を増やしているまである上に、斬撃や通常の射撃では殺し切れない。その為プラズマキャノンで吹き飛ばしている訳だがそれでも間に合っていない。
アカネの表情は暗かった、ハレルにこれを本当に頼んでいいのかと迷っていた。だが今なら、信じていいのかもしれないと覚悟を決める。
「ハレル、シルス。聞きなさい……これから地下へ向かいルスフィオンを汲み上げなさい。使用を許可するわ」
「正気です……ね。わかりました」
「私は地上で時間を稼ぐわ」
このままいけば墓所は遠からず陥落するか、甚大な消耗によってすり潰されかねない。敵もまだ増援を用意しているであろう。だから非常事態だ、相手にルスフィオンの存在を知らす事になるだろう、がやるしかない。
「管理人、岩戸を解放して。ハレル達が行くわ」
ハレルと共に施設の中を飛んで移動する。円形状のエレベーターと隔壁が開き、壁の中に収納されていく。地下へ向かって降りていくにつれて段々と感じる様になってくるのは濃厚な死の気配、本能的に危険だ、引き返せと叫ぶような感覚に襲われる。
「シルス、ルスフィオンは……この宇宙における死そのものなのです。生命に対する反物質、だから恐れるのは正常な反応なんです。私の様に受け入れられる……その方が異常なのです」
「今更異常もくそもあるかよ。それとあの木のバケモノ見たら災害獣を思い出してしまって腹が立ってしかたないんだ」
恐怖を塗りつぶすのは怒りだ、元の世界にアレとそっくりな植物型の災害獣が居た。環境を汚染して人間の住めない土地を作り出すクソみたいな奴だ。それを倒す為にバカみたいに核ミサイルを撃ち込んで地図が書き換わったそうだ、反吐が出る。
「悪いけどアイツは殺すしかないよ、俺だってこれは共存は無理だってわかる奴だっているさ」
「……無理しなくてもいいんですよ?」
「まあアイツ自身が悪い訳じゃない。アイツも生きようとしてるんだろうな……でもそれ以上にあいつは殺しすぎる……それにここを守らなきゃいけないんだろ?」
「それはそうですね」
墓所の最下層のゲートが開かれる。その先はさらに黒く分厚いゲートが幾層にも重なり、間にはバリアまでご丁寧に用意されている。それらが解き放たれた時……青白い光が漏れだした。
「こいつが……ルスフィオンか」
体から力が抜けていく、あるいは熱が奪われて死に近づいていく。そんな様な錯覚を覚えるが……あくまでそれは錯覚だ。あくまで俺が初めて見たから少し怖気づいてるだけ。
「今のはあくまで片鱗ですよ、ここから先は地獄ですよ。覚悟はいいですかシルス」
「ああ、行こうか」
地獄の釜の蓋が開いた、飛び込む先は地下深く冥府。
地上ではアカネが奮戦していた、ここで種明かしをしておこう。アカネの能力は自らの血を媒介とする能力だ、使えば使うだけ血液が減っていく。なので使いすぎればその分命に関わる、固形の物質に使う場合はそんなに量を必要としない。が流動するもの、あるいはこうして拘束で代謝を行う生物に使おうものなら文字通り無駄な血を流す事となる。
ならば、どうやって対策するか?あらかじめ抜いておいた血を保存しておくのだ。
懐から取り出したのは複数の瓶、それを草と蔓に覆われた地表に投げつけて広げていく。
おあつらえ向きに流動する草木の波は大地に血を広げていってくれる。そして十分に広がったと見てアカネは術を発動する、大地が立ち上がった。
己を侵食する蔓や根を引きちぎり巨大な岩の巨人が生まれる、ゴーレムだ。巨大な樹龍と同じサイズの巨大なゴーレムは自らの体をマグマへ変化させて全てを焼き尽くしながら目の前の怪物へ向かっていく。
「さすがにこれだけ一度に焼き払えば……足は止まるのね」
墓所の地下壁が見える程に周囲の地面をえぐり取ってしまったが、侵攻は一時的に止まり。樹龍は目の前に現れたマグマの巨人への対処に追われる。蔦や根で拘束しようにも高熱に焼き払われ、高濃度の魔力による汚染も効かずむしろ自分の首を絞める結果となる。
炎の拳が樹龍の顔面と思わしき部分をぶち抜き、焼き払う。高熱で周囲は燃え上がり、更なるダメージを与えていく……だが、それで死んでくれるならこんな苦労はしないのだ。樹龍の首が別の場所から再生し、口を開いて咆哮した。
それだけで大気が揺れ、衝撃波となってゴーレムを襲う。表面が一気に弾け飛び、溶岩と火の粉が周囲に降り注ぎ地獄を作り出す。再度ゴーレムは樹龍の頭を潰すが、またしても再生され、今度は開いた口が光った。
龍樹と呼ばれるには理由がある、文字通りの龍の体の様な樹体だけではない。植物でありながら本物の龍なのだ、この生命体は。
決して改造の結果などではなく最初から、植物の体を持った龍として存在し……この世界に支配領域を持とうと「世界をこえて」やってきた侵略者、その一つがこの龍樹。まさにナユタが倒すべき敵の一つ。
放たれた「ブレス」がゴーレムの半身を消し飛ばし、世界を震わせた。
管理人は久々の「強敵」を見ていた。
凄まじい暴威だがなんてことはない、結局のところあくまで強敵でしかない。
それよりも地下へ、封印されし死の源泉に向かってゆくハレル達の事の方が遥かに心配であった。
ルスフィオンは遥か昔からこの地に封じられてきた、更に昔……神々の時代に天より降り注いだそれらは多くの生物を死滅させ……方舟伝説や神話時代の終焉として形を変えながら語り継がれる様になった。
力を持つ者達は総力をあげてルスフィオンを駆逐し……最後にはこの大地の底へと封印に成功した。
ごくごく一部は封印を逃れて、厄災を起こす事もあったがその時の勇者や英雄により討伐・封印され、後にここに運び込まれていった。
この危険なエネルギーには意志がある、全ての生物を、可能性を根絶やしにし、静寂に満ちた宇宙を創る事を最上の願いとした破壊衝動……故に動く事のできる器に入れてはならない。
その器は人間も含まれる、簡単に破滅の力に呑まれ……この世界を滅ぼす事を望む様になるだろう。
ナユタはその破滅の力さえも強引にねじ伏せた。強き意志の力を、生命の炎を燃やし、手に負えない怪物を倒す為の武器として運用した。当然ながら使用者の命は保障されない、戦って守って死ぬ覚悟の上でルスフィオンを牙としたのだ。
時には暴走し、新たな怪物を生み出す結果になった事もあった。あるいは力尽きて周囲諸共消し飛ぶ事もあった……だが、どんな恐ろしい力も使い方次第なのだと。彼らは言った。
ハレルは特別だった、虚無の器だった。何も望まない、あるいは何もできない筈の存在だった。
だがルスフィオンを受け入れる事が出来た、ルスフィオンを使いこなす事ができた。
ではシルスはどうだろう、彼は底の見えない器だった。果ての無い欲望の器だ、それはルスフィオンを呑み込むにふさわしい器なのだろうか?
同化の力を目覚めさせた以上、彼にも資格だけはある。だが資格があるからといって事を成せるかは別だ。
最後のゲートが開く、ここが運命の分岐点だ。
管理人は創造主に祈った、ただ二人の少年少女に世界の行方を託す事を許したまえと。
どこまでも澄み渡った空が広がる、雲一つ、波一つの無い鏡の水面。
幻想的な光景だった、こんなに美しい景色があったなんて。
無秩序も騒乱も争いも何もない、ただ純粋な静寂の世界。
永遠の安らぎと調和の極みがここにある。
けれど違うんだ、この澄み渡った水の中には魚もいなければ空を飛ぶ鳥たちもいない、風もなければ木々のそよぎも、太陽の光すらもない。
今ここにあるのは俺と、一体化しているハレルの心音だけだった、それだけがこの場所にある命だった。
「こいつが、死か」
「とても綺麗で、安らぐ、それでも。これは死であり終わりなんです。あなたはこれを違うと思った」
「ああ、まだ俺が一つになるには早い。この世界だってな」
思い浮かぶのは廃墟の街、雪と灰に覆われた大地、枯れた木々、空を覆う雲、汚れた空気、でもまだ風があった。雲の向こうからは少しだけ光が届いていた、メリエラが居た、愛理が居た、アカネさんが居た、レキが居た、管理人が居た。
まだ終わらせるには早いだろう。けれど、今はこの力が必要だ。
「やるぞハレル」
二人の意志を合わせて、液状のルスフィオンを吸い上げて同化していく。水面が波打つ、光が、輝きが活性化していく、まるで生命を拒絶するような青い光が体の中へと取り込まれていく。
『もういいの、休みなさい』
『静かに、眠りなさい』
『終わりの時が来たの』
意志を感じる、それは優しく諦める様に諭す。
けれど違うんだ、お前らはただ単に全部ぶっ壊して好きにしたいだけなんだろう?
綺麗ごとで飾って、全部踏みにじって、骨を飾りたいだけ。
嘗めんなよ、見え透いてんだよ欺瞞が。
他人を傷つけて壊す事しかできねえカスどもがよ、俺がお前達を有効利用してやるんだ有難く思え。
『ふざけるな、ノイズごときが』
『不協和音、消えろ』
『生命はこの宇宙に不要だ』
不要なのはてめえらだろ、命ってのは勝手に生まれて勝手に育って勝手に死んでいく。それでいいんだ、お前らの手を借りなくても死んでいけるんだよ、そもそもなんだ?こんな所に封じられて、手も足も出ないくせにこの宇宙から命を消し去れるだって?バカじゃないのか?
役立たず共、いいかよく聞け。お前達にもできる仕事をこれからくれてやる、お望み通り相手を殺す仕事だ!きちんと従うならば悪いようにはしない。
『黙れ』
『死ね』
『ボケ』
「黙るのは……お前達だああああああ!!!」
シルスは突然キレた、ハレルは困惑した。前に成れ果てを吸い込んだような圧倒的な激情、それが同化したルスフィオンを暴力的にかき混ぜて沸騰させていく。体に力が満ちていくのがはっきりと理解できた。
そして何が起きているのかも理解した、内なる世界でシルスがルスフィオンと取っ組み合いをしている、噛みついている、殴り合っている、バカじゃねえのかと呆れた顔をした愛理がそれを見ていた。
つられて地盤を侵食して結晶化していたルスフィオンもまた反応してこちらへと向かってくる、本来は必要な分だけ取り込むつもりだったのがここに封じられたルスフィオン全てがシルスを黙らせるべく向かってくる。
同化能力を今解除すればモロにルスフィオンを浴びることになる、例え適性のあるハレルでもどうなるかわからない。となると吸い出せるだけ吸い出して、シルスに向かう量を減らすしかない。
「そんなに俺と触れ合いたいならこっちから行ってやる!!!」
不意に体の制御がシルスに奪われる、しぶきをあげてルスフィオンの泉の中へと突っ込んだのを理解したのは一瞬経った後だ。
ここでハレルは察した、シルスはルスフィオンを全部吸い上げるつもりだ。
こいつヤバい。
爆音をあげ渦巻く、バリバリと岩盤を破壊して壁にへばりついた結晶も逃さない。
光が、地下を満たした。
メリエラが意識を取り戻すと目の前には管理人が居た、無人車両に積み込んだ結界装置で守ってくれたのだと理解した。そして周りを見渡すと膝をついて息を荒げるアカネ、結界の中に侵入してきた小型の樹龍の分体を叩き潰して焼き払っていくレキの姿があった。
樹龍と戦っていたゴーレムはとうに熱を失い、ただの岩と化しており緑に覆われて敗れ……もはや打つ手はないかと思われた。
同時にスペクター達も想像以上の樹龍の威力に驚いていた、このままではナユタの施設を、墓所を確保する所ではなくなる……その時大地が揺れ始める、すわ樹龍がまた何かをし始めたのか?撤退の2文字が頭をよぎるが樹龍もまた何かの存在を感じたのか咆哮を上げる。
揺れは地下からだ、大地を覆う緑が枯れ、赤く、そして茶色に朽ちていく。それが広がっていく前に自切自壊が行われるが、どんどんと広がり……そこを中心に大地が焼け……溶け始める。
また溶岩の巨人を作り出したのかと思ったメリエラがアカネを見るが横に首を振る、レキは別として管理人を見る。言葉も表情も見えないが驚いている様な雰囲気をかもしだしている。
「まさか、ハレル……シルス…!」
溶けた大地がそのまま丘の様に膨らみ……球体となっていく。まるで噴火寸前、それが宙に浮かび雲の高さまで達する。高熱が瞬く間に汚染された分厚い雲を蒸発させながら吸い寄せていく。
巨大な炎の塊、周囲を照らす真っ赤なそれはまるで太陽だ。
大気が渦を巻き、土を、雪を、草を、何もかもを吸い込んでいく、そして一際輝いて白へと変わった瞬間まぶしさに目を逸らす。
同時に爆発が起きる、衝撃波が樹龍の領域を焼き払い、地表を薙ぎ払う。メリエラ達を守る結界が悲鳴を上げる。
離れた場所に展開していたMCMS部隊もだ、異常事態に後退していたがアマルガム数機が焼かれて消し飛び、スペクターとドッペルは二人してシールドを展開し、残ったアマルガム部隊を盾にしながら踏ん張る。
そして光が収まった時、空に青い穴が開いていた。その場にいた者達が「青空」なのだと理解するのにはそうはかからなかった。
青空を背に浮かぶのはハレルだ。全てのルスフィオンを呑み込みねじ伏せた。
完全な状態のエンジェルモデル・アズライール、死の天使は舞い降りた。
樹龍はその力に恐怖した、死の気配が、いや絶対的な死そのものがそこにあることを本能で理解した。
即座に首を7つ生やし、全力で「ドラゴンブレス」を放つ。がそれらは全て片手にて受け止められ「同化」「吸収」されていく。そしてお返しとばかりにハレルが手を掲げて巨大な光輪を出現させ、それを投げつければ7つあった樹龍の首も、胴体のバラバラに切り裂かれて地に落ちた。
マグマのゴーレムすらも一瞬で無力化した怪物がまるで赤子の手をひねる様に片付けられる姿にスぺ汲ターとドッペル、墓所の面々も驚愕する。そして勝てないと見た樹龍は逃亡を選んだ、地中へ向かって全ての根や蔦、地表を覆っていた緑の葉っぱすらも逃げを選ぼうとする程だ。
地に降り立ったハレルは右手を平手のまま縦に、そして左手で右の二の腕を握りエネルギーの流れを作り出す。
次の瞬間、巨大な衝撃と反動と共に白い光が放たれ、蔦も草も根も全て即座に塵と化し、逃げようと地に潜った巨大な樹龍の体が枯れていく。死んでいくのだ。
ルスフィオン・レイ、それは完全に制御された死の光線。確実に相手を殺傷し、過剰な破壊を防ぐ最強の「魔法」だった。
あまりもの壮絶な光景に即座にMCMS部隊は撤退、この情報を持ち帰ることを選択した。
随分とボコボコに殴られた気がする、愛理とやりあったり、この世界で初めて死にかけた時よりも遥かに疲れ果て……なんだったら生まれてこの方で一番かもしれない。ルスフィオンのカスどもは全員俺の中に同化して収容隔離した。一瞬でも気を抜くと呪詛を吐き散らかし周囲を汚染しようとするのでぶん殴って黙らせる。
愛理とハレルのスペースは死守したがそれでも結構な場所を取られてる気がする、なんでこんなクズどもを俺が背負わなきゃならないんだ、ルスフィオンの泉……あの中には結構な数の意識が潜んでいやがった。
ルスフィオンにもどうやらそれなりに意志というものがあるが……それなりでしかない、こいつら滅ぼす事しか考えてないから、どうやって滅ぼすだとかどうやって戦うだとかそんな高度な事を考えられない、おまけに自分達は死なないから危機感もない。
だから俺に負けた、欲も我も無い奴らなんざ敵じゃない。
「シルス、何か言う事はありませんか?」
「ないよ、今は死ぬ程疲れてる」
「ちょっとでよかったんですよ、たった数杯分ぐらい掬ってくればそれでアレは殺せたんですよ。それを全部吸い上げて、あなたの胃袋は底なしですか?アルコールなら致死量なんてレベルじゃありませんよ」
「うわばみっていうんだっけ大酒のみのこと」
「ザルともいいますね」
ともあれ俺の力が勝った、あれほど嫌々と言っていたルスフィオンもあの雑草の化け物を始末するとなると危機として力をよこして来た。今度こそ、本当に俺は相手を殺めた……ちょっと派手な草刈りにすぎないとしてもだ。だからこそ自分を戒めなければならない。
殺すのが当然にならない様に、死を知ったからこそより命を尊ぶ様に。
「まったく、とんだ化け物ですよ」
「確かに……あのスピードで増えられたら地球なんて数か月で覆い尽くされるかも」
「違いますよあなたですよ、私ですら干渉しないから制御できたものなのに」
「そんな難しい事じゃない、心で殴り飛ばすんだ。根気よく」
「それで制御出来てたら歴代のナユタの巫女や神官が泣きますよ」
本当に何故制御できたのかを考えれば、それはきっとハレルのおかげなんだろう。
『殴り殺せ!』
『顔面を陥没させなさい!』
『いけーっ私の相棒!』
意識同士の殴り合いの中、まるで野次みたいなセンスの無い声援、それが俺の心を何度も立たせた。
笑えるような話だ、なんだかんだハレルが一番野蛮じゃん……愛理も確かに声援をくれていたけれど遥かに品があった。
『がんばって!』
『負けないで!』
『信じてる!』
本来声援ってこうだよなぁと思い返す、でも笑えるような……ポジティブなのはハレルだった。
「ハレルって実はバカだったりしない?」
「なんですか喧嘩売ってるんですか?ルスフィオンと違って私には物理的拳がありますよ」
「殴ったら痛いの自分だろ」
意識の中だからこそ感じられた、本気だからこそ感じられた、ハレルも普段抑えているだけで本当は熱い心を持ってる……俺にだって負けないぐらいに。
じゃなきゃここまで頑張ってこれないよ、正義を信じて、戦ってなんていられない。
「ハレルはもっと自信持った方がいい、俺よりも長く戦って来たんだから」
「自負はありますよ」
「いや自分を信じた方がいいってこと、この血に流れるものの全てを」
「随分と詩的な表現です、シルスにしては珍しく頭のよさそうな事を言ってますね」
「シルスって案外ポエミーだよね」
愛理もようやく出て来た、まあちょっと出てき辛い雰囲気だったもんな。悪かったよ。
「よくやったわ二人とも、無事にルスフィオンを御せたみたいね……でもやりすぎよ」
「しょうがないじゃないですか、シルスがバカみたいな事をしたんですから」
「事前に説明しておけばそんなことにならなかったんじゃないかしら、まあ過ぎた事はいいわ。それよりもこれからよ、これだけの力を見せてしまった以上……相手もさらに力を入れてくるに違いないわ。それまでに必要な事はなんだと思う?」
「……墓所の修復」
「そうよ」
アカネさんの言葉で周囲を見る、敵の残骸もだが何よりも周囲の地形が滅茶苦茶だ。施設はかろうじて無事だが防衛設備は壊滅だろう。既に管理人さんがせわしなく機械人形に指示を出して作業をはじめている。
「お疲れの所悪いけれど、あなた達にも頑張ってもらう必要があるし……そこの二人もよ」
「我がナユタに利する訳が」
「既に里には連絡は入れたわ、態々代表が迎えに来るそうだけれどこんな様でいいのかしら?」
「あ……は……母上が?」
レキの顔が青ざめる、赤い髪に青ざめた顔のコントラストが映えるな。
「英雄の一族だって言ってた、責任は……果たすべきだと思う」
メリエラが逃げ道を塞ぐように言葉でくぎを刺している、俺が知らない間に彼女らはそう……友人になっていた様だ。
「わ……わかった!片付けぐらいはする!」
「それでいいの、あなたに高度な作業はできないことぐらい予想できてるから、メリエラも片付けだけでいいわ。お願い」
「わかった、いこうレキ」
二人の背を見送ると安堵したのかアカネさんの体がふとぐらりと揺れたので支える。
「大丈夫ですか?」
「力を使いすぎたわ、巨大生物相手には向いてないのよ」
「慣れない事をするのって大変ですからね、っしょっと」
そのまま抱き上げ、アカネさんを部屋へ運ぼうとすると肘が飛んできた、痛い。
「あ……あなたねぇ……!本気で!本気でびっくりしたわよ!一言聞きなさい!」
「す……すみません」
珍しく顔を赤くして慌てるアカネさんにちょっと驚いた、あー確かに素でやったけれどいきなり足触られたりするとびっくりするよな、俺が悪かった。
「シルス、バカはあなたのようです」
「シルス、刺すよ?」
ハレルと愛理から超冷たい目線が刺さった、なんで???
「愛理、許可します。刺してください」
「ちょっとまった、何が、何がいけなかったのかぐらい説明してくれ!」
「シルスー?今のはお姫様だっこって言って気軽に女の子にやっちゃいけない奴なんだよ?」
脇腹に思いっきり包丁が刺さ……刺さったが血は出ない、ただ滅茶苦茶痛い。
「秘技、包丁滑り。痛みだけを与える事だって出来るんだからね」
刺された所は傷になってない、どうやら拳骨みたいな懲罰で済んだようだ。これで血が出てたらまた治療が大変だったな。
「すみませんアカネさん、以後きをつけます」
「重症ね、とりあえず労わってくれる気持ちはうれしいから受け取っておくわ。でももうちょっと女心を学ぶ必要があるから時間があれば愛理に聞いておきなさい。ハレルの場合はあんまり役に立たないから」
「待ってくださいなんで私まで刺したんですか姉さん」
「あなたもクソボケという事よハレル」
よくわからないが、そういう機敏に関しては愛理に聞いた方がいいんだなというのはわかった。
「そういうことで私は行くから、シルスが今後また何かしでかしたら刺しておくのよ愛理……でなきゃ敵が増えるわ」
「敵ってそんな、そんな女心わからないだけで敵対されるのか」
ぐあああああ!二本目が刺さった!今のも駄目なのか!?
「女の敵という言葉があるんだよー?シルス」
「わかった……覚えておくから抜いてくれ」
「はいよー」
ズバッと切り裂くようにダメージを与えながら包丁が引き抜かれる、マジでこれ痛いな……!
「うへー感覚共有してなくてよかったですね、まあそれ食らって痛いで済むシルスもどうかと思いますが」
「まあそうだよね!普通の人間だと痛みで動けなくなるのにシルスはおかしいよ!だから私が毎回常識を教えてあげるからね!」
「よ……よろしくたのむ」
せっかく、こう活躍したってのに……ひどい扱いだ……。