ライジングボルテッカーズにポケモンオタクとバトルジャンキーを加えてみた 作:ギザ
※7/11 バトル描写を一部編集
ウイングデッキに降り立ったエクスプローラーズはそれぞれアーマーガアとエアームドをボールへと戻した。
雨で濡れた、右半分が黒、左半分が灰色のツートンカラーという特徴的な髪をかき上げた少年、アメジオと、部下である男女、ジルとコニアの3人を出迎えたのは、パーカーのポケットに手を突っ込み、両肩にドラメシヤを1体ずつ乗せて3人を睨むシンゴだった。
シンゴは、まずアメジオを見て、ジル、コニアへと視線を移して、またアメジオを見た。
「半分頭に、見るからに脳筋トサカ野郎に、ババア」
「ババ……!? こ、こいつ! 生意気なガキね!」
「落ち着けコニア! 相手のペースに乗せられるな!」
コニアはシンゴの挑発に乗りかけるが、同僚のジルの言葉に冷静さを取り戻す。アメジオはというと第一声で自分諸とも部下まで馬鹿にされたからか、不愉快そうにシンゴを睨んだ。
「お前もあのリザードン使いの仲間か。少女はどこだ」
「ハッ! 答えると思ってんのか? 知りたきゃ俺とバトルしろや半分頭ぁ!」
腰のホルスターからモンスターボールを手に持ってアメジオに向けて挑発的な笑みを浮かべた。自分が勝つと信じて疑わない目だ。
だが、そもそも相手が自分と戦うとは限らない。
「……お前の相手をしている暇はない。行くぞジル、コニア」
「「はっ!」」
「……あ"ぁ"?」
アメジオはジルとコニアを引き連れ、シンゴを躱していこうとする。まるでシンゴのことは眼中にないという。いや事実そうなのであろう態度は、シンゴのプライドを刺激した。
シンゴは、無視されたり、舐められた態度を取られるのが死ぬほど嫌いだった。
「──俺をシカトしてんじゃねえぞボケカスどもがぁ! ドロンチ!『ドラゴンダイブ』!」
「──ドラララララァ!」
怒りでこめかみに血管を浮き出させたシンゴが投げつけたモンスターボールから飛び出したのはせわやきポケモンのドロンチ。繰り出されると同時にドロンチは巻き舌のような声をあげ、竜を模したドラゴンタイプのエネルギーを纏ってアメジオたちに向かって突撃する。
「ジル」
「はっ、お任せください! 受け止めろサイドン!」
「──サイイィィィ!」
しかし、極めて冷静なアメジオの命でジルがボールから繰り出したのはドリルポケモンのサイドン。サイドンは両腕を広げてドロンチの『ドラゴンダイブ』を真正面から受け止めようと待ち構えた。
「構わねぇ、突っ込めぇ!」
──ズドンッッ!!!!
ミサイルのように飛んだドロンチが、大岩のようにどっしりと構えたサイドンに激突した。
激音が響き渡り、サイドンの足元が抉れるほどの衝撃だ。しかしサイドンは耐え、ドロンチをガッシリ捕まえて勢いを完全に殺した。
「どうだ! サイドンのパワーと耐久力ならこの程度……!」
「『りゅうのはどう』!」
間髪入れずに、ガパッと口を開いたドロンチからドラゴンタイプの衝撃波がほぼゼロ距離でサイドンに炸裂した。エネルギーの爆発にサイドンは堪らずドロンチを手放して吹き飛ばされ、ウィングデッキを囲むバリアに背中から叩き付けられた。
「な……!? サイドン! しっかりしろ!」
躊躇なくゼロ距離攻撃を指示したこと、そしてドロンチもその指示を躊躇なく実行してみせたことにジルが驚愕する中、サイドンは苦しそうにしながらも立ち上がって体勢を立て直す。
ドロンチはドロンチでゼロ距離で炸裂した『りゅうのはどう』の爆発でダメージを少しおったが、その程度だ。口でも切ったのか、床にペッと唾を吐いたドロンチの頭に、シンゴの肩に乗っていた2体のドラメシヤが離れ、重なるように乗っかった。
「引っ込んでろ三下の雑魚が! テメエに用はねえんだよ! ドロンチ! もう一発『りゅうのはどう』だぁ!」
「くそ……! 舐めるな小僧! サイドン!『ロックブラスト』だ!」
サイドンが放った複数の岩の弾丸とドロンチが再び口から放出した衝撃波がぶつかり合い、爆発を起こす。
その余波で髪をなびかせたアメジオがシンゴの相手をジルに任せ、コニアを連れて展望室に向かおうとするのをシンゴは見逃さなかった。
「逃がすか半分頭ぁ! 行けビリリダマぁ!」
「アメジオ様、ここは私が。ゴルダック!」
シンゴがアメジオの進路を塞ぐようにしてボールを投げつけ、コニアが対抗して自分のボールを投げつけた。中からそれぞれのポケモンが飛び出して対峙する。
「──ゴルダァ!」
「──ビリリリ?」
コニアが繰り出したのはあひるポケモンのゴルダック。
対して、シンゴが繰り出したのはボールポケモンのビリリダマ。キョロキョロと左右を見て、睨みを効かせてくるゴルダックに気づくとビクゥッ! と体を震わせて涙目になっている。
そしてその姿は、コニアが知っているビリリダマとは姿が異なっていた。
「な、何よそのビリリダマ……?」
通常のビリリダマはどういうわけかモンスターボールにそっくりな見た目、材質をしているのに対し、シンゴが繰り出したビリリダマはどう見ても木製のように見えた。目付きも鋭い切れ長の目ではなく、悲しげながら角張っており、ついでに言うと頭のてっぺんに穴が開いている。
それは、地方ごとの独特な自然環境に対応した姿であるリージョンフォームと呼ばれる姿であり、シンオウ地方がかつてヒスイ地方と呼ばれていた頃の姿であるのだが、コニアが知るよしもなかった。
というか、続けてシンゴの口から出た罵倒に未知のビリリダマを気にする余裕はコニアから失われた。
「なんでもいいだろうが。テメエもすっ込んでろババア!」
「こ、こんのガキんちょ! 大人を舐めたらどうなるのか思い知らせてやるわ! ゴルダック、『みずのはどう』よ!」
「こっちも忘れるなよ! サイドン!『ロックブラスト』だ!」
「ゴルダッァ!」
「サイッ!ドォォォオ!」
ゴルダックが口から吐き出したみずタイプの衝撃波とサイドンの放った岩の弾丸がそれぞれビリリダマとドロンチに迫る。が、シンゴは焦ることはなかった。
「潜れドロンチ! んでビリリダマぁ! いつまでビビってんだ『ほうでん』しろぉ!」
「ドロッ!」
「ビ、ビリリリーッ!」
ドロンチは素早く影の中に潜って消え、ビリリダマは目をつぶって自らを中心に目映い電撃をドーム状に放った。
激しい電撃は『みずのはどう』と『ロックブラスト』を阻み、尚も広がり続けてそのままサイドンとゴルダックを飲み込んだ。
「なっ、ゴルダック!」
「くっ、コニア! ゴルダックを一旦サイドンの後ろに下げ……!」
「『ゴーストダイブ』!」
もろに効果抜群の電気技を食らったゴルダックは大ダメージを負ったのに対し、岩・地面タイプであるサイドンは無傷だ。ジルは一度ゴルダックを休ませようとしたが、その前に、サイドンの影から飛び出したドロンチの頭がサイドンの顎下に激突した。
「なにぃっ!?」
急所に入った一撃にサイドンの首の力が抜ける。いかに物理耐久に優れたサイドンでも完全に認識外からの攻撃は効いたらしく、倒れこそしなかったもののたたらを踏んでふらついていた。
「(問題ねえ、勝てる)」
シンゴはジルとコニアの実力をなんとなく把握した。二人がかりだろうが勝てる。それでいて同時に感じるのは物足りなさだ。
貪欲に強さと勝利を求めているシンゴからすればジルとコニアは役不足。やはりリーダー格のアメジオなら、と視線を向けた。
「お前たち、ここは任せたぞ。アーマーガア!」
「──マァガア!」
しかしアメジオは、一度ボールに戻したアーマーガアを再び外に出し、その足をつかんでシンゴを飛び越して展望室へと向かってしまったのだ。
当然、ジルとコニアを倒した後にバトルするつもり満々だったシンゴは一瞬呆気に取られ、すぐに激昂した。
「てめざけんなよ半分頭ぁ!」
「よそ見をするな! お前の相手は我々だ! サイドン! 今度こそ『ロックブラスト』を食らわせてやれ!」
「ゴルダック、アンタも『サイケこうせん』よ!」
「邪魔すんじゃねえ三下どもが! ドロンチは『ふいうち』、ビリリダマは『チャージビーム』だ!」
頭を振って調子を取り戻し、『ロックブラスト』を放とうとしたサイドンの腹にドロンチが悪タイプエネルギーで真っ黒に染まった尻尾を叩きつけて中断させ、ゴルダックが両手を前に構えて発射した不思議な光線はビリリダマが放った電気タイプの光線で相殺した。
本命のアメジオを追おうにも目の前の二人が邪魔だと認識したシンゴは、真っ先にジルとコニアを叩きのめすと決めた。
ゆえに、自分のバトルから目を離さないまま、展望室から出てきたダイチに向けて声を張り上げた。
「ダイチぃ! 俺がこの二人のすまで、その半分頭足止めしとけ!」
「なんでよりにもよって一番の本命っぽい人を通してるのさシンちゃん……!」
「うるせえ! んなもん関係ねえ! 足止めできれば何でもいいわ!」
シンゴの狙いは、ダイチとアメジオが戦う間にコニアとジルを撃破すること。そしてあわよくばダイチと交代してアメジオとの1対1のバトルに持ち込むことだ。
シンゴはバーサーカーのごとき凶悪な笑みを浮かべ、目をギラつかせた。
「あの半分頭も、その仲間であるテメエらも全員ぶっ潰してやる……! テメエらまとめて俺の経験値になりやがれ!」
□□□
ちょうど展望室からウイングデッキへと下っていく階段を降りきったところで、ダイチとジメレオンはアメジオと対峙した。アメジオはアーマーガアをボールに戻し、また別のボールを手に持った。
「……半分頭さんですか」
「……エクスプローラーズのアメジオだ。その呼び方はやめろ」
「ライジングボルテッカーズのダイチです。ここは通さないぞ」
「ジメ!」
不愉快そうに眉根を寄せたアメジオに、ダイチは律儀に自己紹介を返し、ジメレオンは構えて戦闘態勢に入った。
それを見たアメジオはボールを上に放り投げると、中から青紫色の甲冑に身を包んだ黒騎士の姿を持つ人型のポケモン、ひのけんしポケモンのソウブレイズが現れた。
「少女とペンダントを渡してもらおう。そうすれば、この船にもお前たちの仲間にも傷つけないと誓う」
「断られるのわかってて言ってますよね?」
「──では手加減なしだ」
アメジオも自分たちと敵対したこの集団が素直に少女を差し出すなどと都合の良いように考えているわけではない。一応の警告だ。
セキエイ学園で一戦交えたあの
すると気づいた。ダイチが何かを呟いている。
「大丈夫。炎、ゴーストタイプのソウブレイズなら総合的なレベルで負けてても水タイプのジメレオンなら十分戦える。ソウブレイズの覚えられる技でジメレオンに効果は抜群なのはソーラーブレードくらいだけどあれはチャージに時間がかかるし雨の時は威力が下がるから覚えてたとしてもわざわざ使ってこないはず。問題は特性だけど、『もらいび』と『くだけるよろい』のどっちかな……『もらいび』なら関係ないけど『くだけるよろい』なら物理技をそう簡単に使えないぞ……!」
「……何をぶつぶつと言っている。ソウブレイズ、『サイコカッター』!」
「ブレイィ……!」
「うわっと! ジメレオン、『みずのはどう』!」
「ジメッ!」
アメジオはその内容こそ聞こえなかったが妙な不気味さを覚えて眉をひそめ、振りきるように攻撃の指示を出す。ソウブレイズが剣状となっている両腕からエスパータイプの斬撃を飛ばしてきたのに対し、ジメレオンは両手に作った水玉爆弾を投げつけた。
水とエスパーのエネルギーはぶつかり合い、しかし『サイコカッター』が『みずのはどう』を斬り裂いてジメレオンに直撃した。威力はいくらか落とせたものの、それなりのダメージを負う。
「ジメレオン! 一致技でもないのに! やっぱり強い……!」
「そのまま畳み掛けろ!『つじぎり』!」
「来るよジメレオン! 水溜まりに飛び込んで!」
両腕の剣に悪タイプエネルギーを纏わせたソウブレイズがジメレオンに右腕の剣による唐竹割りで斬りかかるが、ジメレオンは『サイコカッター』のダメージで苦しそうにしながらも前に転がってソウブレイズの左脇をすり抜けるように回避。
そうして斬り裂かれた『みずのはどう』の水溜まりに飛び込んだ瞬間、ジメレオンの姿が周囲に溶け込むように消えた。ソウブレイズが即座に水溜まりを斬り払うが、既にジメレオンはそこにおらず空振った。
「ジメレオンの透明化か……ソウブレイズ、警戒しろ」
ジメレオン。というか進化前であるメッソンの頃からの特徴だが、水色の体表は水分を帯びる事で、色や柄が変化し周囲に溶け込む性質を持つ。その性質を利用するために、ジメレオンは自分の体を水溜まりに飛び込ませたのだ。
「『みずのはどう』!」
「『つじぎり』で斬り裂け!」
「素早くだ! どんどん撃って!」
ジメレオンが透明化したまま放った『みずのはどう』をソウブレイズは『つじぎり』で防ぐ。しかし、ジメレオンはソウブレイズの周りを走り回りながら『みずのはどう』を放ち続けた。
炎、ゴーストタイプであるソウブレイズなら水タイプ技は極力当たりたくないはず。焦って動きの精細さを欠かせるつもりだった。
「技を放つテンポが早い……? じわしわ追い込むつもりか。だが甘い。ソウブレイズ、連続で『サイコカッター』!」
しかしアメジオも、ソウブレイズもあくまで冷静だった。腕を素早く振り回して放ちまくった『サイコカッター』が全方位攻撃に飛び、ウイングデッキを抉る。
だが、肝心のジメレオンに命中した気配はない。
ソウブレイズが周囲を警戒する中、ソウブレイズの真後ろの水溜まりがパシャリと音を立てた。ソウブレイズは素早く背後を振り返って『サイコカッター』を放つ。
「今だジメレオン、『ふいうち』!」
それを待っていたジメレオンは『サイコカッター』をジャンプして躱し、悪タイプエネルギーを込めた空中回し蹴りをソウブレイズの顔面に叩き込む。ジメレオンはそのまま顔面を足場に跳ね、ソウブレイズと距離をとって着地した。直後に透明化が時間切れとなって姿を現す。
「ブレイィ……!」
「……わざと音を立てて『サイコカッター』を誘ったのか。なかなかやるな。だが、ソウブレイズの本領はここからだ」
「……そうみたいですね」
ソウブレイズはその一撃を食らったことで大きく仰け反ったが、アメジオの顔には未だに焦りはない。
その時ソウブレイズが一瞬赤いオーラを纏ったのを見て、むしろダイチが顔をしかめた。
「『くだけるよろい』か……気をつけてねジメレオン。早くなるよ」
「ジメッ」
ソウブレイズの二つあってどちらか持っている特性のうちの一つ、『くだけるよろい』。物理技である『ふいうち』が当たって発揮したそれは、防御力が下がる代わりに素早さが増す効果がある。
しかしジメレオンはソウブレイズから目を離さないまま親指をピッと上げて返してくる。相棒の頼もしさにダイチも笑みを深めてアメジオとソウブレイズを見据えた。
「ソウブレイズ、『つじぎり』!」
「距離を保って『みずのはどう』で迎え撃って!」
特性を発揮させたソウブレイズはさっきより素早く動きながら接近して『つじぎり』を繰り出す。
ジメレオンも後ろに下がりながら水玉爆弾を連続で投げつけるが、その全てをソウブレイズはいなして回避し続け、踏み込んで距離を詰める。
「追えソウブレイズ! 接近戦に持ち込め!」
「やっぱり早い……!」
もうソウブレイズとジメレオンの距離はさほども離れていない。このまま接近戦になれば、『つじぎり』を食らうか『ふいうち』でカウンターするかの二択を迫られることになる。
「でも『ふいうち』はさっき使っちゃったし……!」
だが『ふいうち』はそもそも相手が攻撃技を使わないと失敗する技だ。ソウブレイズの技構成を全て把握出来ていない状態で使うのはリスクが高い。『ふいうち』を読まれて変化技を使われ、さらにソウブレイズが強化されようものならはっきり言って勝ち目はなくなる。
「ジメレオン、『みずのはどう』を地面に撃って!」
そう判断したダイチは叫んだ。ジメレオンはデッキに手を向けて『みずのはどう』を床に放ち、爆発に乗って真上へと飛び上がる。
「そのまま『みずのはどう』だ!」
「させるか……!『サイコカッター』!」
ジメレオンは頭上から『みずのはどう』を投げつける構えをとるが、その前に素早さが増したソウブレイズは空に向かって『サイコカッター』を放つ。サイコエネルギーの斬撃がジメレオンの胴体に直撃した。
直後、斬り裂かれたジメレオンが水の塊に変化して、そのままソウブレイズにぶっかかった。
「ブレィ!?」
「まさか、『みがわり』か! 本物は……!?」
『みがわり』はその名の通り身代わりを作り出す技だ。ジメレオンの場合、水の塊を自分そっくりに変化させる水分身とでも言うべき技で、本物の代わりに空中へと飛ばせたそれが『サイコカッター』を食らって崩れたのだ。結果、それなりの量の水がソウブレイズの頭上から降り注ぐ。
攻撃技ではないのでダメージはないとはいえ、炎ボケモンの本能か、弱点の水が全身に降り注いだことに怯んだソウブレイズは大きくたじろいた。
「落ち着けソウブレイズ! 距離を詰めろ!」
しかしアメジオの指示を受けてソウブレイズは後退しそうになった足を止めた。『みずのはどう』をメインウェポンとしているジメレオン相手に距離をとるのは悪手だと判断したんだろう。ソウブレイズは水を振り払って顔を上げた。
そしてソウブレイズの目に真っ先に映ったのは水の衝撃波ではなく、自分目掛けて飛び込んでくるジメレオンの両足だった。
「『とんぼがえり』!」
「また……! いや、『とんぼがえり』だと……!」
今度は虫タイプのエネルギーを両足に纏ってソウブレイズの胸にドロップキックを叩き込んだジメレオンは、反動で後方に跳ねてそのままボールに戻っていく。ソウブレイズは再び『くだけるよろい』を発動させて赤いオーラを発し、素早さを上げていた。
『とんぼがえり』。攻撃した直後にそのままボールに戻り、味方のポケモンと交代する技だ。
ボールに戻ったジメレオンに代わって、ダイチの腰のホルダーに下げられた別のボールからポケモンが飛び出した。
「──グフッ、ワオーン!」
「ガーディ? だが、その姿は……!」
そのガーディはこいぬポケモンと呼ばれる原種とは姿が異なっていた。かつてヒスイ地方でみはりポケモンと呼ばれた、ヒスイの姿のガーディだ。
体毛は普通のオレンジっぽい原種と違い火成岩の成分を含んでおり、茶色がかった濃いオレンジ色となっている。そして原種と比べて白い体毛は目元が隠れるほど長く、丸みを帯びていた。
そしてダイチは初めて見たであろうそのガーディのヒスイの姿に驚くアメジオをさらに驚かせる指示を出した。
「行けガーディ! 力を込めて!『もろはのずつき』だ!」
「ワオォーン!」
「バカな、ガーディが『もろはのずつき』だと!? ガードしろソウブレイズ!」
ダイチの指示に従い、吠えたヒスイガーディは疾走。勢いをつけながら頭頂部の岩で出来た小さなツノに岩タイプのエネルギーと、渾身の力を込め、頭突きでソウブレイズに激突した。
ここまで冷静にバトルしていたアメジオも焦りを隠せていないようだった。何せ岩タイプ技の『もろはのずつき』はただでさえ炎タイプのソウブレイズには効果は抜群。しかもその威力は岩タイプの技の中では絶大。
さらに、ソウブレイズは特性『くだけるよろい』の効果を2回発揮させ、素早さが上がっているが同時に防御力が数段下がっている状態なのだ。まともに食らえばひとたまりも無い。
もはや回避の猶予もない。ソウブレイズは両腕の剣を交差させてヒスイガーディの『もろはのずつき』を受け止めた。そのぶつかった衝撃だけでソウブレイズはヒスイガーディを受け止めたままジリジリと後退していった。
「ゾ、オ"ウゥゥゥ……!」
「まだだ! ソウブレイズ!『サイコカッター』!」
苦しそうに呻くソウブレイズは、両腕の剣に蓄えたエスパーエネルギーを一気に解放し、至近距離から光の斬撃を飛ばしてヒスイガーディを受け流した。
「あっ、まず……! リコさん、モリーさん!」
ダイチが目で追ったのは、その『サイコカッター』の斬擊の行き先だった。
ヒスイガーディの『もろはのずつき』を受け流すために相当力を込めたらしく、弧を描いて飛んだ大きな斬擊はウイングデッキのバリアを斬り裂いて尚も止まらず、リコやモリー、ポケモンたちがいる展望室へと向かったのだ。
「──キャップ!『かみなりパンチ』だ!」
「──ピッカチュウ!」
しかし、翼をはばたかせて嵐の中を飛んできたリザードンの背に乗ったフリードの肩から飛び降りた船長帽を被るピカチュウ、キャプテンピカチュウことキャップの『かみなりパンチ』が間に合い、『サイコカッター』を横から殴り飛ばした。
軌道の逸れた『サイコカッター』は嵐の中に向かっていき、かき消された。
「ふうー……間一髪だったな……」
「フリード博士! キャップとリザードンも!」
「よっ、待たせたなダイチ! ったく、やっぱり始めてたな?」
「ピーカ」
バリアの壊れた部分から入り込んだリザードンの背から降りたフリードはゴーグルを額にずらしてニッとした笑顔をダイチに向けた。キャップもフリードの肩に乗り直している。
「すいません、結局バトルになって……」
「グフーン!」
「どはぁ!?」
「おおう!? 大丈夫か!?」
状況を伝えようとフリードの方へ向いたダイチの脇腹に、戻ってきたヒスイガーディが突撃してきて頭突きをかました。おまけに尻尾をぶんぶん振りながらグリグリと頭を押し付けてくるお陰で岩で出来た頭頂部のツノが食い込んで痛みが走るが、我慢して落ち着かせるようにヒスイガーディの体をワシワシと撫でる。昔からの甘えてくる時の癖なので、今さら直す気もなかった。
「だ、大丈夫です、いつものことなんで……それよりシンちゃんが飛び出しちゃって」
「お、おう。まあそんなことだろうと思ったよ。後は俺に任せとけ。ダイチはリコとポケモンたちを──」
「──もうやめてください!」
フリードは予想していたらしいシンゴの行動に苦笑したが、すぐに頼りになる誇らしい笑みを浮かべてやや乱暴にダイチの頭を帽子越しに撫でた瞬間だった。展望室からニャオハを抱き締めたリコが飛び出して、悲痛な表情を浮かべて大声で叫んだのだ。
「リコさん!? 危ないよ、隠れてて……!」
「……これ以上、皆さんに、迷惑かけたくないです……」
「え?」
「はぁ? 何を言って……」
「ちょっとリコ! 戻って!」
ダイチもフリードも突然のリコの乱入に困惑した。モリーが止めるのも聞かずにリコはそのまま階段を降り、アメジオに向かい合った
「あの……ペンダントなら渡します。だから、もうこの人たちを傷つけたりしないでください……!」
「お、おいおい、ちょっと待ってくれ!」
その姿を見てフリードが止めようとするも、リコはアメジオに懇願するのをやめない。
「お願いします……これ以上、この人たちを傷つけないで……!」
「……ペンダントだけではない。当初はペンダントだけが目的だったが、君にも来てもらおう。どうもそのペンダントには、君に関係した秘密があるようだからな」
「……わかりました。私行きます。だからこの人たちに、ポケモンたちにもこれ以上酷いことをしないでください……」
「待て待て待て! 話を勝手に進めるんじゃない!」
アメジオの言葉に納得し、リコにフリードが叫ぶ。ダイチもそれを聞いてハッと我に返った。
「そうだよリコさん! なんで……!」
「良いんです。皆さんには助けられましたから……これ以上、皆が傷ついてほしくないです」
「聞いたか? 余計な手出しは無用だそうだ」
リコの言葉を聞いて黙るフリードとダイチに声をかけるアメジオ。リコは言葉を続けようと口を開こうとした。
「──テメエ、舐めたことぬかしてんじゃねえぞこのモブ女がぁ!!」
それを遮ったのは、先ほどのリコの叫びよりも大きな怒号を上げたシンゴだった。
まだまだ平気そうなドロンチと、なぜか泣きながら転がるヒスイビリリダマを連れてアメジオの脇を通り過ぎたシンゴは明らかに激怒しており、その向こうではサイドンとゴルダックが積み重なるように、目を回して倒れていた。
「も、申し訳ありませんアメジオ様!」
「気をつけてください! そのガキ、思った以上に手強くて……!」
「……構わない。任務の遂行が最優先だ。お前たちは撤退に備えておけ」
アメジオは敗北した部下を咎めることもなく、サイドンとゴルダックをボールに戻したジルとコニアが新たなボールを取り出したのを手で制した。事の成り行きを見守ろうということらしい。
「あの二人、もう倒しちゃったんだシンちゃん……!」
「さすがだな」
「ピカピィカ」
「あんな雑魚ども倒しても何の自慢にもならんわ。それよりモブ女ぁ!」
「は、はいっ!」
ダブルバトルを終わらせた速さに驚いて目を向いたダイチと苦笑するフリード、腕を組んでうんうんと頷くキャップには適当に答えたシンゴはズンズンと歩き、リコを怒りの表情のまま指差した。あまりの剣幕にリコは背筋を伸ばしてしまう。
「いいか!? 別にテメエみたいなモブがどこでどうなろうが俺の知ったことじゃねえし興味もねえしクソどうでもいい! だがなぁ、今は俺らとあのクソどもとのテメエの争奪戦の真っ最中なんだよ! テメエが向こうにノコノコ着いてったら連中の勝ちになるだろうが! 俺が負けたくねえからテメエはここにいろやあ!」
「えっ、ええぇ~……?」
「ニャ~~……?」
「いやいやいや、どうでも良いとか思ってないからね僕たちは! ああもう、シンちゃんは黙っててややこしくなるから!」
「ケッ!」
シンゴの勢いと言い分にリコとニャオハは頭上にクエスチョンマークを大量に浮かばせ、口をポカンと開けてしまう。ダイチはあまりの自分本位なシンゴの言動に、シンゴらしいと思いながらも若干呆れ、下がらせた。
「はぁ……うんまあ、でもリコさん。正直、僕もふざけんなって思ってる」
「え?」
「だってリコさんは嘘ついてる」
「! それは……」
「出会ったばっかりの僕にこんなこと言われたくないと思うけど、なんとなくそう感じるんだ」
ダイチがまっすぐリコの瞳を見て放った言葉に、リコは目を伏せた。
「リコさん、僕らは巻き込まれたとか迷惑とか思ってる訳じゃないんだ。依頼された形だけど、自分たちから飛び込んできたみたいなもんだし、むしろこの程度ならどんと来いくらいに思ってる。だから、リコさんも自分に正直になりなよ」
「細かい理屈なんざどうでもいい。自分以外の有象無象のために自分を殺してんじゃねえ。やりてえことは何がなんでも押し通すんだよ……!」
「ゥゥゥ、ニャオハッ!」
「あっ、ニャオハ!?」
ダイチと、結局口を出したシンゴの言葉を聞いたからか、リコに抱かれていたニャオハが暴れて飛び出し、リコは尻餅をついた。着地して振り向いたニャオハは、リコに向かって声を張り上げる。
「ニャー! ンニャニャ、ニャー!」
「(何々? どうしたのニャオハ? 何をそんなに……)」
「……きっとニャオハも、リコさんに嘘をついて欲しくないんだよ」
ダイチが代弁したニャオハの言いたいことにリコは驚きの表情を隠せなかった。
ニャオハがリコの手持ちになって日はまだそこまで経っていない。しかしリコはニャオハのことを理解しようと懸命に観察したりコミュニケーションを取っていた。その甲斐あってか、ニャオハもリコのその心の機微を感じ取っていたのだ。
「ニャー! ンナァーッ!」
「(……そっか。私が自分の気持ちに嘘ついてるって……ニャオハは気づいてたんだ……)」
その事に気づいたリコの瞳に自然と涙が溜まる。
ニャオハは強い眼差しのままアメジオとソウブレイズの方を向いた。リコも、涙を拭って立ち上がり、決意を固めた表情でダイチたちを通りすぎ、ニャオハと共にアメジオと向かい合った。
そして大きく息を吸い、喉を潰さんばかりの大声で叫んだ。これまでの自分を振り払うように、全力で。
「行くよニャオハ!『このは』ぁあーーっ!!!」
「ニャオハァアーーッ!!!」
リコの決意に答えるように、ニャオハが首元から、尋常ではない量の『このは』が放たれた。草タイプのエネルギーの濁流が、目を見開いたアメジオを飲み込まんと迫る。
咄嗟に間に入ったソウブレイズが両腕の剣に炎を灯して『このは』の濁流を防ぎ、ウイングデッキ全体に広がっていく。
「す、すごい! これ『このは』って言うか……!」
「ハッハァ! なんだあのモブ女! 思ったより面白そうじゃねえか!」
ダイチはその光景に思わず叫び、シンゴは好戦的に笑い、フリードと肩に乗ったキャップは言葉を失っていた。
しかしその『このは』はあまりにも強すぎた。
ウイングデッキを包むバリアはもともとアメジオたちが侵入のために破壊して穴を開けたり、内側からでもバトルの衝撃で負荷がかかっていた。
そしてダメ押しとばかりのこの『このは』。パリアの強度が限界を迎え、一部をぶち破って穴が開き、続けてバリア全体が消えた。嵐を防ぐものが無くなり、ウイングデッキに豪雨と突風が襲いかかる。
「うわっ!? ガーディ戻って!」
「ちっ! テメエもだビリリダマ!」
「きゃあ!?」
突風でウイングデッキが傾いたことでダイチたちもバランスを崩して体制を保てなくなる。ダイチとシンゴは浮遊しているドロンチに捕まり、それぞれ転がっていきそうになっているヒスイガーディとヒスイビリリダマをボールに戻した。
リコはというと、滑っていきそうになったのをフリードに受け止められていた。しかし、ニャオハには足を伸ばして受け止めようとしたがわずかに届かず、ニャオハはそのままウイングデッキの外へ向かって滑り続けていく。
「危ない!」
「ばっ、やめろダイチこのアホ!」
ダイチがドロンチから手を離してニャオハを追おうとするのをシンゴはダイチの腕を掴んで止めた。
そしてとうとう、ニャオハがデッキの端へ到達し、姿が見えなくなる。
「ニャオハ! そ、そんな……!」
「くそっ! リザードン! ニャオハを……!」
リコがショックで口許を両手で覆い、フリードがニャオハを助けるべくリザードンに指示を出そうとしたその時だった。リザードンよりも早くデッキの下へと飛び込んだポケモンがいた。アメジオがボールから繰り出したアーマーガアだ。
アーマーガアはニャオハを背に乗せてそのまま上昇する。そこにアメジオが乗り込み、ソウブレイズの両肩を掴ませたエアームドに乗り込んだジルと、自分のエアームドに乗ったコニアも合流した。
「アメジオ様!」
「このままでは嵐に飲み込まれます!」
「……撤退する!」
アメジオが最後に言い残し、アーマーガアと2体のエアームドはウイングデッキから飛び出す。リザードンが追おうとするが、2体のエアームドの『ふきとばし』により妨害され、ウイングデッキへと戻されてしまう。そしてエクスプローラーズは、ニャオハを連れたままあっという間に暴風雨の中に消え去った。
「ニャオハ……! ニャオハぁぁーー!!」
雨が全身を打つ中、フリードに支えられながら、リコは叫ぶことしか出来なかった。ダイチはそれを見て、苛正しくシンゴの腕を振り払った。
「クッソ……! 何で止めたのさシンちゃん!」
「いっしょに船から放り出されるのがオチだろうがこのポケモンバカ! フリードぉ! まさかこのまま引き下がらねえよなぁ!?」
「もちろんだ! だがまずは嵐を抜けるぞ! 俺は機関室にリザードンを届けてくるから、マードックはそれまで舵頼んだ! シンゴとダイチは、モリーと一緒にリコとポケモンたちを頼む! 行くぞリザードン!」
シンゴの言葉に同意したフリードはスマホロトムでマードックに指示を送り、肩に乗せたキャップと共に、リザードンの背に乗ってデッキから飛び立って機関室へと向かった。
ダイチはニャオハを連れ去ったエクスプローラーズが飛び去って行った方を呆然と見上げるリコに手を伸ばした。
「リコさん。僕たちも船に戻ろう」
「……はい」
「早くしろこのウスノロどもが!」
「シンちゃん、容赦ってものを覚えてくれる?」
力なく項垂れるリコの手を引き、怒鳴るシンゴ追いかけてモリーとポケモンたちが待つ展望室へと向かった。
──その後、リザードンの炎を機関室の炉に入れたおかげでブレイブアサギ号は速度を上げ、嵐から脱することに成功するのだった。
コルサのウソッキーの『みがわり』が岩分身なら水分身があっても良いと思う。
ダイチの手持ち
ジメレオン
ガーディ(ヒスイの姿)←NEW
?????
シンゴの手持ち
マグマラシ
ドロンチ←NEW
ビリリダマ(ヒスイの姿)←NEW
?????
Tips.ブレイブアサギ号のドラメシヤ2体はドロンチがドラパルトに進化するのを見越してシンゴが乗せた。なんだかんだシンゴに懐いているらしい。
次回 第三話 煽り耐性は低い方なんだよね