天才ちゃんと転生凡人の才能研究会   作:鳩胸な鴨

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天才ちゃんの恋愛相談

「博士。恋愛経験ってあります?」

「挨拶より先に恋愛経験の有無聞かれたの、お兄さん初めてだよ」

 

訪れるとともに飛んできたキラーパスに、タバコを口に咥えたばかりの男性が呆れを向ける。

この陰気が服を着て歩いているような三十路の男に、そんなものがあると思うのだろうか。

どうせ予測した上で揶揄ってるのだろうな、と思いつつ、ため息混じりに答えた。

 

「無縁だけど」

「その顔で純愛主義+ロマンチストとかいう救いようのない人種だったりします?」

「…何をどう推理したらそうなったの?」

「博士って童貞な上に遊びにも行かないから『僕はロマンチックな大恋愛を経て結婚するんだ!』とか『出会いはそこらに転がってる!』とかガチで思っちゃってる系おじさんなのかなと」

「すごい偏見だね」

「でも事実童貞なんでしょ?」

「…………」

 

口論でコイツに勝つ方法はあるのだろうか。

手っ取り早く「そういう店」にでも行くか、と思いつつ、男性はタバコを口に咥えた。

 

「んで、何があったの?」

「いじめっ子が『俺たちこんなに青春謳歌してるんだぜ!お前らみたいな陰気臭いのは俺たちの青春を盛り上げるおもちゃなんだぜ!』的なオーラ醸し出して私の持ち物勝手に物色した挙句トイレにぶち込みやがりまして。

向こうの言い分聞いたら『天才なんだから教科書なくても授業わかるだろー』と」

「今どきそういうのあるんだ」

「あるんですよねー。そういうのに限ってこれ見よがしに盛ってるんですよ」

「コッテコテないじめっ子じゃん」

「そうそう。極め付けに先生の前だとめちゃくちゃ猫被ってるんです。

あのボンクラも『見習いなさい』とか言って例に挙げるくらいで。

バカ教師ともどもてめーの何を見習えってんだって感じです」

 

発言するたびに棘が増していく。

よほど腹に据えかねたのだろう。

「あー、腹立つ」と吐き捨て、タバコとライターを掠め取る少女。

慣れた手つきで火をつけて煙を吸う彼女に、男性はため息を吐いた。

 

「腹に留めときなよ、そういうの。

凡人はね、愚痴を吐くのが大好きなくせに、それを悪いことだって決めつけてるから」

「……世界を私みたいな天才で埋め尽くした方がいい気がしてきました」

「でしょ?」

 

言って、互いに煙を吐き出す。

混じり合う煙を前にして「間接キスみたいですね、これ」と笑みを浮かべる彼女に、男性は「バカなこと言わないの」と返した。

 

「……話戻しますけど。

恋愛すればなにかしらステータス的にバフかかるもんなんですかね?

漫画とか読むと、『愛は世界を救う!』とかって展開よくありますけど」

「気分的な問題じゃない?

少なくとも、お兄さんは恋人居ないからって卑屈になったことないよ」

「そーりゃハナっから興味ないんじゃそうでしょうよ」

「言って君も興味ない側でしょ」

「失敬な。恋愛モノを摂取するだけで満腹なタイプです」

「ないんじゃん」

 

「恋なんて面倒臭いだけですもん」と返し、2本目のタバコを抜き取る少女。

窃盗と未成年喫煙で突き出されたらどうするんだろうか、などと思いつつ、男性は言葉を続けた。

 

「まだ思春期真っ只中の君に教えとくけど、恋愛と青春はイコールで繋がっちゃいないよ。

君くらいの年頃の記憶を美化するために使う便利な単語が『青春』なんだよ」

「そういう博士はどんな青春送ったんです?」

「部活もやらず机に向かってひたすらに勉強してたのに、部活も勉強もできる人気者たちにあっさり追い抜かれてうっすいアイデンティティが瓦解していく青春」

 

前世も今世もそんな感じだった。

そんな存在しない副音声を察したのか、憐憫を向ける少女。

少女は暫し考えたのち、珍しく躊躇いがちに口を開いた。

 

「………青春の中に迎合できるだけ上出来じゃないですか?

私、周囲のすんばらしい青春とやらからハブられてますもん」

「ハブられてなかったら現役女子高生囲ってこんな研究やってないよ」

「…………」

 

返す言葉が見つからない。

少女はため息と煙を吐き、吸い殻を灰皿へと押し付ける。

 

「転生してもそんな人生とか、いよいよ転生した意味ないじゃないですか。

三つ子の魂百までを忠実になぞらないでくださいよ、夢がない」

「そりゃ元が変わってないんだからこんなモンでしょ」

 

転生願望がある人間としては、ここまで夢が削がれる話もそうそうない。

生まれ変わっても人は変わらない。

であれば、恋に興味を持てない自分が来世では恋ができるなど、過ぎた期待なのだろう。

そんなことを思いつつ、薄汚れた灰皿へと灰を落とす。

 

「……来世はほのぼのラブコメの世界に生まれたいですね。

そこでなら、私みたいな天才が自生しててもなんら不思議はないでしょう?

異常ではなく、ただの萌え要素として処理されるんですから」

「その世界にはその世界なりに、クソッタレな現実が跋扈してるだけだと思うけどね」

「今よりはマシです。人生を捧げた素敵な恋ができることは確定してるんですから」

 

「はー、恋がしたいなぁ」と煙を吐く少女。

クラスメイトは論外だ。悪意に晒され続けたせいで、チンパンジー以下の低俗なクリーチャーにしか思えない。

かと言って、知らない男というのも気疲れするから嫌だ。

そこまで考えて、少女は男性へと目を向けた。

 

「……博士。つかぬことをお聞きしますが」

「珍しいね、改まって。何?」

 

────私のこと、恋愛対象として見れます?

 

そう言おうとして、やめる。

何を言おうとしてるのだ、自分は。

この関係性が心地いいから、ここに通い詰めているのではないか。

それを無理に変えればどうなるか。

さまざまな未来を予測できる頭を呪いつつ、少女は笑みを浮かべた。

 

「人がアリに恋ってできると思います?」

「……傲慢が滲み出てる質問だねぇ」

「だって、本当にアリ程度なんですもーん」

 

あの問いは、墓まで持っていくことにしよう。

そんなことを思いつつ、少女は吸い殻を灰皿に擦り付けた。




天才ちゃん…博士のことは好きだけど、この関係が好きだから告白はしない。激烈にいじめられてるが、そもそもハイスペック過ぎるあまり支障がない上、メンタルダイヤモンドだからあんまり堪えてない。

博士…天才ちゃんのことは姪っ子程度に思ってるので恋愛対象外。前世と今世合わせて60年近く童貞を守ってる。あんまり性に興味はない。
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