新入生が入学して数日、デュエルアカデミアでは初めての授業が行われていた
科目は『デュエル理論』
「…カードには通常モンスター・効果モンスター・融合モンスター・儀式モンスター・魔法・罠
そして魔法と罠にも装備魔法・通常魔法・速攻魔法・フィールド魔法・儀式魔法・永続魔法……」
担当しているクロノスの問題に、明日香はスラスラと答えていく
オシリスレッド・ラーイエロー・オベリスクブルーの3つに分かれて席に着き、担当のクロノスの講義を聞いていた
(暇ね~…)
そんな中、明日香の2つ隣の席にいるみさとは表情に出さずに退屈していた
[まあ、全部昔勉強し終わった内容ですものね…]
(そうなのよ、明日香には悪いけどね)
そんなみさとを見て、クィーンは苦笑していた
明日香の説明が終わると、クロノスは満足そうににんまりと笑うと翔の方を見た
「シニョール丸藤!
フィールド魔法についての説明をお願い出来まーすか?」
「あ、は、はいっっっ!!!!」
ガタンッと焦りながら立ち上がると、翔は頭がパンクしたように「フィールド…フィールド魔法…」と呟き出した
(わかってはいるけど、焦って言葉が出てこないのね…)
「そんな問題、幼稚園生でもわかるぜ」
どこからか飛んできた野次に、他の誰かが同意して起きたブーイングに翔は遂にうつむいてしまった
「もうよろしいのでーす
基本中の基本でも、オシリスレッドにはすこーしレベルが高かったようナノーネ」
クロノスがバカにするように言うと、オベリスクブルーの生徒を中心に笑いが起きた
(あのクロノスって教師、教師としての才能は無いわね)
ジュンコやももえが翔を嘲笑うようにクスクス笑うのを横目で見ながら、みさとはクロノスを判断した
「─…でも先生、知識が無くてもデュエルには勝てますよね?」
翔がうつむいて座ると、十代が間髪入れずにクロノスへに問いかけた
ぎくりと十代の方を向くクロノスに大して、十代はヘラヘラと笑った
「だってオレ、先生に勝っちゃったし」
「ヌググググ……!!」
十代のその一言に、クロノスは悔しそうにハンカチを噛みしめた
「あと、みさとも完全勝利だったしな」
「ハグッ!!」
オシリスレッドには十代を褒め称えるような笑いが起き、十代はピースサインを出して注目の的となった教室で、全員の視線がみさとに集まった
(まったく十代の奴、余計な事を……)
[この際だお嬢、ハッキリ言ってやったらどうだ?]
[少しはマシになるかもしれないな]
みさとの真横でキングとジャックは、クロノスを見ていた
「(…それもそうね)
まあ、十代の言う事はもっともだわ
確かに知識は大事だけど、例え知識を持っていても慢心や油断でその知識を活かせなかったら実戦では何の意味も無いわ…あなたのようにね」
「ゴフッ!!」
教卓を真っ直ぐ見つめて言い切ったみさとに、教卓を陣取るクロノスは大袈裟なリアクションをとった
「「相手が弱い」とか、そんな思いで臨んだデュエルに勝てるわけ無いわ
だからあなた、あの時2連敗したんでしょう?」
「ホグッ!!」
「だいたい…あなた、曲がり形にも一応は教師よね?
困ってる生徒を無視して、困らせている生徒を助長させるなんて教師の風上にもおけないと思うんだけど?」
「ガブゥッ!!」
「そんなんだから調整中だったあたしの不完全デッキ…とも言えないカードの寄せ集めに手も足も出なかったんでしょ?」
「よ、寄せ集め……マンマミーヤァ……」
みさとの怒涛の毒舌に、クロノスはベソをかきながら仰向けに倒れた
「…ちょっとイジメ過ぎた?」
そしてそんな十代やみさとを、明日香は微笑みながら見つめていた
夜
授業が終わったみさとは明日香とジュンコとももえと一緒に風呂場へと向かった
「全校生徒の女子の数は少ないけど、設備は一級品なのよ」
「そうそう、しかもジャグジーとかもあるしね!」
「毎日のこの時間が待ち遠しいですわ~」
(ど、どうしよう…
コレをバレるわけにはいかない…なんとか誤魔化さないと…!!)
脱衣場で服を脱いだ4人は、風呂へ入って行った
「ほーんと明日香さんって、スタイルいいですわよね~」
「ちょっと、止めてよももえ…」
風呂場に着くと、体と髪を洗った4人はお湯の中へ入っていく
「…いいじゃない、そんなにあるんだから」
どこか拗ねたような声をもらすみさとに、3人の視線は胸元へと向かった
(((ああ……)))
返す言葉が見つからず、明日香達は生暖かい視線を送る事しか出来なかった
ジュンコとももえは和気藹々と恋愛話で盛り上がっている
そんな2人と少しだけ距離をとって、明日香とみさとはお湯の中のタイルに座り込んだ
「それにしても、今年の男子は駄目な人ばっかりですわよね~」
「ほんとほんと!
特にオシリスレッドの遊城 十代!!」
「うるさくてがさつで…信じられないですわ」
「ねぇみさと?
明日香さんもそう思うでしょ?」
「どうでもいいわ、あんな奴」
タオルを頬に当てながら明日香は興味なさそうに微笑んだ
「みさとは?」
どこか楽しそうに問いかけてきたジュンコに、みさとは露骨に戸惑った
「あ、あたし!?
あたしは……」
「まさか…アイツに気があるの!?」
「違うから!!
ただ、その……」
「みさと?」
「…あたし、こういう話は片手で数えるくらいしかやった事無いし」
「どういう事ですの!?」
驚いたように目を見開く3人に、みさとは苦笑した
「(喋り過ぎたかなぁ…)
デュエルをやる女って、そういないでしょ?
だから中学時代はあたし、結構浮いてたのよね」
「みさと…」
「まあ、あたしは気にして無いし大丈夫よ
それより十代の事だったわよね、あたしは…ダメとは思えないな」
「ええっ!?」
「どうしてですの!?」
「アイツ、実力的にはクロノスを倒したんだから問題無いじゃない?
それにアカデミアに来る船の中でアイツと話したけど、人懐っこくて結構爽やか好青年って感じだったわよ?
まあ…若干バカっぽかったけど、デュエルに対しての誠意は見て取れたからそこは良いと思うのよね」
「そういうものですか?」
「あくまでも、あたし個人の感想よ
(そう…あたしには眩しすぎるくらい……)」
(みさと…?)
[みさとちゃん…]
ジュンコやももえと話すみさとを隣では明日香が不思議そうに、少し離れたところでクィーンがどこか悲しそうに見ていた
その時、外でガサガサという音がした
「何!?」
「まさか覗き!?」
「最低ーっ!!」
続くようにバッシャーンという水音が響いた
「今の、水音よね?」
「ええ…」
[みさとちゃん、部屋にいるキングとジャックを連れて外を見て来ますね]
(頼んだわ、クィーン)
話を終えたクィーンは、スゥ…と静かに消えて行った
眉を釣り上げた女子達が一斉に風呂を出て行くのを見送りながら、取り残されたみさと達は服を着た
[みさと、大丈夫か?]
(あ、お帰りみんな)
風呂を出たみさとの前に三騎士達が戻って来た
[お嬢の裸を見たいと思うガキ共の気持ちも、まあわからねぇでもねえがな]
[何言ってるんですかキング!!]
ニヤリと笑うキングを、クィーンは眉を釣り上げて叱りつけた
(……で、どうだったのよ?)
[それが…]
言葉を濁しクィーンが話さない内に女子の集団を見つけ、そこに向かうと……中心にはぐるぐる巻きにされた翔がいて、ドテッとその場に転んだみさとは手足をピクピクさせていた
「なんの騒ぎ?」
「あ、明日香さん…」
「アンタ、何やってんのよ!?」
「みさとさんも!!」
その場は明日香が預かる事になり明日香達別の場所に移動し、ジュンコはぐるぐる巻きの翔を乱暴に床に投げた
「何すんのさ!!」
「それはこっちのセリフ!!
この覗き魔!!」
「だから、僕は覗きなんかしてないってば!
明日香さんにここに呼ばれたんだ…ラブレターで」
そう頬を赤らめながら明日香に問いかけると、明日香は不審そうに翔を睨んだ
「(まさか……)
翔くん、ラブレターって今手元にある?」
「あるっスよ
僕のズボンの右ポケットの中っス」
「ちょっとゴメンね」
みさとは翔の持っていたラブレターを取り上げ中身に目を通し、隣の明日香に手紙を見せた
(成る程…)
「私、こんな汚い字描かないわ」
読み終わった明日香が翔を睨むと、翔は口をポカンと開けた
「ねえコレ…十代宛になってんだけど」
手紙の封筒の宛名は『遊城 十代様』になっていた
「嘘!?…ホントだ…!!」
みさとが封筒をぴらりとみせると、翔はショックそうに肩を落とした
「自業自得よ」
「宛先にも、偽物だと言うことにも気づかないなんて…さすがオシリスレッドですわね」
ジュンコとももえが嘲笑うようなため息をついて翔を見下した
(アンタ達ねぇ…)
「…誰かが私の名前を使って遊城 十代をおびきだして、覗きの犯人に仕立て上げようとしたんだわ」
「あの水音は、犯人が十代が覗きをした証拠に写真でも取りに来たってトコかもね」
明日香が不愉快そうに腕を組んで空を睨み、みさとが考え込んでいると上から通りかかった寮長の鮎川が声をかけた
「みんな?
何してるの?」
「(いけないっ!!)
みさと・ジュンコ・ももえ」
明日香の合図で翔は4人の下に下げられた
そして適当にフォローすると、鮎川は何事もなかったかのように部屋に戻っていった
「…それで、どうします?」
「翔くんは実質被害者だし、あたしは見逃してあげても良いと思うけど……」
「みさとさん……」
ももえの質問に答えたみさとに翔は涙目で見つめた
「何甘い事言ってんのよ!!
やってないと言っても、コイツが女子寮に来た事に変わりは無いのよ!?」
「そりゃそうだけど…」
ジュンコの迫力に、みさとはタジタジになった
「それに、オシリスレッドの生徒がどうなろうとどうでもいいじゃない」
「ちょっとジュンコ
流石にそれは「ジュンコ、そういう言い方は良くないわ」
みさとが反論する前に、明日香がジュンコを嗜めた
「はい…」
「でも、このまま不問にするのもちょっとね……」
口元に手をあてた明日香は、何かを閃いたような顔つきに変わった
「何か閃いたの?」
「ええ、ちょっと面白い事をね」
「そっか
じゃあ、あたしはここで別行動とらせてもらうわね」
「「「「え?」」」」
明日香達だけでなく、翔もみさとの方を見た
「何をするんですの?」
「この手紙の犯人、調べてみるわ」
「そんな事出来るんスか!?」
「ええ、その手の道具が手元にあるから
この手紙、ちょっと預かるわよ」
「わかったわ」
「今夜中には伝えるから
無理はしちゃダメよ、アンタ達」
手紙を預かったみさとは、そのまま自室へ向かって行った
部屋に戻ったみさとは、KC製のノートパソコンを立ち上げた
「まったく海馬の奴
ご丁寧に筆跡鑑定やら指紋鑑定やら、DNA鑑定まで出来るようにしてあるなんてね」
[しかも説明書付きでな]
[何かあった時は、お嬢に解決させる気だったのかもしれねぇな]
「それはそれで迷惑だけどね」
[彼、本当によく分からない人ですものね]
「アイツはあたしを、科捜◯の女にでもしたいのかしら?
─……ここ、拡大鮮明化」
[[[地味に似てる…]]]
話をしながら、みさとは手紙を隅々まで調べあげた
「……そろそろ結果が出て来る頃ね」
パソコンのディスプレイを見ながら、みさとは騎士達に声をかけた
[一体誰がこんな事をしたのでしょうね?]
[まあ、誰だろうとロクな野郎じゃねぇ事は確かだな]
[言えてんな、まあ心当たりが無いわけじゃねぇが…]
[私もです]
[オレもだ]
「みんなも?
あたしもいるわ」
ピーッと音が鳴り、ディスプレイに結果が表示された
「[[[……やっぱり]]]」
表示された結果に、呆れたような口調でみさとと騎士達は声を揃えた
「あ、いたいた
アンタ達ー!!」
…明日香達を探していたみさとは、湖で明日香達と翔…そして十代を見つけた
「よお、みさと!!」
「遅いわよ!!
もう、アンタどこで道草食ってたのよ!?」
「しょうがないでしょ?
部屋にいないから寮の中探し回って、外に出てやっとなんだから」
[みさと、近くを探してみるな]
(お願いね)
三騎士達が湖の周りを浮いて、何かを探し始めた
「っていうかジュンコ、やけに機嫌悪いわね
さっきよりも酷くなってない?」
「当たり前でしょ!?」
「明日香様が負けてしまうなんて、しかもよりによってオシリスレッドなんかに…有り得ませんわー!!」
その場にジュンコが怒鳴り声とももえの嘆きが盛大に響いた
「ジュンコ・ももえ……」
「(苛立ちの原因はそれか…)
へぇ、明日香に勝ったんだ
やるわね十代」
「へへっ
けど結構ギリギリだったぜ?」
「丁度その話をしていた所っス!!
アニキがあのタイミングで死者蘇生を引いてくれてなかったと思うと……」
「…翔くん、何で十代がアニキなの?」
「へへへ
実はさ、僕たち部屋が一緒だったんだ
初日で仲良くなれて、寮も部屋も一緒だなんて運命だと思ってさ
古代のファラオと神官 セトの生まれ変わりみたいに」
「オレのこと「ファラオって呼んでいいか?」って聞くんだぜ?
それはねぇよなぁ」
「まぁね…確かに、ね…」
苦笑しながら頭をかく十代に、みさとも苦笑をもらした
「アンタ達みたいな三下が、そんな大それたモノなわけないじゃない!!」
「そうですわ!!」
(それに、その生まれ変わりって確か、遊戯兄ちゃんと海馬だったと思うんだけど…)
「だからせめて『アニキ』って呼ばせてもらうことにしたんだ
確かに僕等はライバルかもしれないけど、そう言う信頼関係も大事だと思うしね!」
「うむ、善きかな善きかな」
「…それでみさと、手紙の犯人はわかったの?」
和気あいあいと話す十代達とみさとの間に明日香が入った
「ああ、そうだったわね
…結論から言うと、この手紙の犯人は男よ」
「やっぱりね」
「うげっ!!
おえーっ!!」
明日香は呆れたようなため息をつき、翔は盛大に噎せながら吐きそうになっていた
(何したのよアンタ…)
[お嬢、ここにいたぞ]
湖の上に浮いたキングが剣で湖の一点を差した
「(ありがと、キング)
まあ、正確に個人を特定は出来なかったけど、オベリスクブルーの犯行と見て間違いないでしょ」
「でしょうね」
「え、何でだよ?」
首を傾げた十代に、みさとは隣の明日香と一緒になってため息をついた
「十代、あなたはオベリスクブルーにとって目の上のタンコブ…邪魔な存在になっているのよ」
「クロノスを倒した事とか、今日の授業の事とか…連中が気に入らないと思う奴等はわんさかいるわ
…まあ、生徒だけじゃないでしょうけど」
そう言ったみさとは、足元に落ちていた手の平サイズの石を拾った
「みさとさん?」
「石なんか拾って何するのよ?」
「ん?
こうすん…のっ!!」
大きく振りかぶったみさとは、キングの剣の先を目掛けて石を投げた
「うおっ!?」
「な、何やってるんスかみさとさん!?」
「ん?
UMAっぽいのがいたからつい」
「そんなのいないっスよ!?」
「だから「っぽいの」って言ったでしょー?
さっ、そろそろ消灯時間になるから解散しないとマズいわよ?」
その一言に、十代と翔は慌ててボートに飛び乗った
「じゃあなー!!」
「お、おやすみなさいっス!!」
十代と翔はそのまま急いで寮へ戻って行った
「……私達も帰りましょうか」
「ええ」
「「は、はい」」
2人を見送った明日香達も寮へ帰って行った
「…どうだった、十代は?」
「ええ、想像以上に面白いわね」
「でしょ?
あたしもそう思った」
[……で、コイツどうするんだ?]
[みさとちゃんは無視するみたいですし…]
[放っておいていいだろ]
……明日香達から少し離れた湖の中で頭に大きなタンコブが出来た、未確認生命体が気を失って浮かんでいた
翌日
この日の授業も3つの寮の合同で、担当はクロノスだった
「それでは、授業を始めるノーネ」
「あれ?
クロノス先生の頭に大きなタンコブがあるっス」
(ギクッ!!)
いち早く気づいた翔の声に、クロノスは大袈裟に肩を震わせた
「ホントだな、どうしたんだろうな??」
「誰かに石でも投げられたんじゃない?」
「何でまたそんな事が……?」
近くの席にいたみさと達が、十代達の話に混ざって話した
「(ギクギクゥッ!!)
そ、そうナノーネ
ただ頭を打っただけナノーネ~」
「あら、それは大変
お大事に、クロノス先生
ご自愛ください」
[自業自得だがな]
おしとやかな口調でのみさとの声に、クロノスは内心冷や汗をダラダラかいていた
「あ、ありがとうナノーネ、シニョーラ みさと……
(や、やはーりシニョーラ みさとにはバレていたノーネ……今度はもっと上手くやらなけレーバ……)」
「─……でも、余計なことをしたら今度はもっと大怪我するかもしれませんから、お気をつけくださいね」
「(ヒィイイィー!!
これは脅しナノーネ!?)
き、気をつけるノーネ……
では、授業を始めまスーノ」
「…ま、あれだけやれば流石に懲りたわよね」
「ん? 何か言ったかみさと?」
「なーんも」
「…そういう事だったのね」
「……内緒よ?」
呆れたような眼差しを向けた明日香に、みさとは悪戯っ子な笑顔を向けた
「そうだみさと、UMAって結局何なんだ?」
「まだ気にしてたんかーい」
……こうして、みさとに弱味を握られたクロノスだった