さてさて、少しずつではありますがだんだんと世界がズレてきております。
[オールマイトの授業はどんな感じです?]
「え‼︎?あ……すみません。僕、保健室行かなきゃいけなくて……」
[平和の象徴が教壇に立っているということで様子など聞かせて!]
「様子⁉︎えー……と、筋骨隆々‼︎です!」
[教師オールマイトについてどう思ってます?]
「最高峰の教育機関に自分は在籍していると言う事実を殊更意識させられますね。威厳や風格はもちろんですが他にもユーモラスな部分など、我々学生は常にその姿を拝見できるわけですからトップヒーローとは何をもってしてトップヒーローなのか直にまなべるまたとない……」
[オールマイトの……あれ⁉︎君ヘドロの時の‼︎]
「やめろ」
[オール……小汚っ‼︎なんですかあなた⁉︎]
「彼は今日非番です。授業の妨げになるんでお引き取りください」
オールマイトが雄英教師に就任したってニュースは全国を驚かせ連日マスコミが押し寄せる騒ぎになっていた。
[ちょっと‼︎少しでいいのでオールマイトに……?]
「あ、ごめんなさい授業あるので……あと、入ったら不法侵入になるんじゃ……」
「あ、バカ……」
マスコミが呟くも、一人のマスコミが校門に近づいた瞬間ピーという音とともに機械が作動しゲートが閉じられる。
「うわあああ何だぁ‼︎⁉︎」
「雄英バリアーだよ。俺らはそう呼んでる」
「ダサ‼︎なんスかそれ」
「学生証とかさ、通行許可IDを身につけてない者が門をくぐるとセキュリティが働くんだ。校内の至る所にセンサーがあるらしいぜ」
「なにそれー、お高くとまっちゃぅて‼︎一言くらいくれてもいいのにさ!」
「ったく本当によー、二日も張ってんのにウンともスンとも言わねーー‼︎」
「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった」
「‼︎」
「爆豪。おまえもうガキみてぇなマネするな。能力あるんだから」
「…………わかってる」
「で、緑谷はまた腕ブッ壊して一件落着か。個性の制御いつまでも出来ないから仕方ないじゃ通させねぇぞ。俺は同じことを言うのが嫌いだ。それさえクリアすればやれることは多い、焦れよ緑谷」
「っはい!」
「あー……後、置換も個性制御しっかりやれ。流石にあれはない……」
「は、はい……」
僕は顔を赤くしながらそう返事をした。
「さてHRの本題だ……急で悪いが今日は君らに……」
「‼︎」
なんだろう。また臨時テスト…‥?
「学級委員長を決めてもらう」
いや学級委員長かい‼︎⁉︎なんでそんなに溜めてから言ったの相澤先生……
「「学校っぽいの来たーーー‼︎!」」
皆は声を揃えてそう叫ぶ。あ、ちょっと出遅れた……ハモって言いたかったなぁ……
「委員長‼︎やりたいです、ソレ俺‼︎」
「ウチもやりたいス」
「オイラのマニフェストは女子全員膝上三十センチ‼︎」
「ボクの為にあるヤツ⭐︎」
「リーダー‼︎やるやるー‼︎」
「やらせろ!」
僕を除いたA組のほぼ全員が手を上げている。委員長になりたいのだろう。え、でもどうしよう……皆がやるなら……いや、そんな理由で手を挙げるのは失礼だ。
僕は今回見送ろう。そんなことを考えていると教室に飯田くんの声が響いた。
「静粛にしたまえ‼︎」
「!」
「多をけん引する責任重大な仕事だぞ……!やりたい者がやれるモノではないだろう‼︎」
……ん?
飯田くん……?言ってることは立派なんだけど……
「周囲からの信頼あってこそ務まる聖務……!民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めると言うのなら……これは投票で決めるべき議案‼︎!」
いやいや!手!そびえ立ってるから‼︎!
「そびえ立ってんじゃねーか‼︎何故、発案した‼︎!」
とクラスメイトから総ツッコミされている。
「日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」
「そんなん皆自分に入れらぁ!」
「だからこそ、ここで複数票を獲った者こそが、真にふさわしい人間という事にならないか⁉︎どうでしょうか、先生‼︎!」
相澤先生は気怠そうに寝ぐるみに包まりながら
「時間内に決めりゃ何でもいいよ」
とどうでも良さげに返事を返した。
かくして集計が終わり……
緑谷出久 三票、八百万百 二票、
その他、麗日さん、轟くん、葉隠さん、僕を除いたクラスメイトに各一票ずつ入っており……
「僕三票ーー‼︎⁉︎」
「なんで、デクに……‼︎誰が……‼︎」
「まー、おめぇに入るよかわかるけどな!」
「一票……わかってはいた‼︎さすが聖職といったところか……‼︎だが……誰か俺に入れてくれたのだな……感謝する」
「他に入れたのね……」
「お前もやりたがってたのに……何がしたいんだ飯田……」
などと、自身に想像以上に票が入り驚いている緑谷くんや、緑谷くんに票数で負けたことを気にしている爆豪くん、何故か自分に入れなかった飯田くん、その飯田くんにツッコミを入れる八百万さんと砂藤くんなど様々な反応が教室では起きていた。
「じゃあ、委員長 緑谷、副委員長 八百万だ」
相澤先生のそう告げる声が教室に響き渡る。
「マママママジで、マジでか……‼︎」
と自分が委員長になったことが信じられない緑谷くん。
「うーん、悔しい……」
とそんな緑谷を見ながら少し複雑そうな八百万さん。
僕は飯田くんに入れたけど……なんだかんだ考えてくれる緑谷くんと、しっかり者の八百万さんならちゃんと委員長をやってくれると思う。万一にもないだろうけど、むしろ……爆豪くんとか峰田くんにならなくてよかった……、本当によかった‼︎
「緑谷、なんだかんだアツいしな!」
「八百万は好評の時のがかっこよかったし!」
などと他のクラスメイトの意見も比較的好評だ。
お昼休憩のチャイムが鳴り響く。
「おーい!置換くん、お昼食堂行くけどくるー?」
葉隠さんが訪ねてくる。
「あ、職員室に出さなきゃいけない書類あるんだ!先いっててもらってもいい?」
「うん!わかった〜!じゃあ先行こっ、梅雨ちゃん、尾白くん!」
「わかったわ、先に行くわね置換ちゃん」
「おう、それじゃ先行ってるよ置換!」
皆はお昼を食べに先に食堂に向かうようだ。
今回僕は前回の戦闘訓練で思いついた事、これを忘れないうちに確認しておきたかったのだ。
轟くんのわかりやすいという言葉がヒントだった。
攻撃が背後からばかりでわかりやすかった。それは必ず置換対象がある位置に僕が移動するから、そして僕が背後に飛ぶという癖があるから。
それならそもそもどこに飛ぶかわからないほど置換対象を移動させ続ければいい。
筋力はない、筋肉がつきにくい体質……というのもあるだろう。昔から鍛えてはいるがあまり筋肉はつかなかった。だから、僕は今まで個性のために動体視力を優先して鍛えてきたのだ。
今までの攻撃だって流石にオールマイトレベルになると無理ではあるけど、いつも目で追えてはいたんだ。だから、ビー玉と自身の置き換えができた。
それなら、それがスーパーボールになったところで特に変わりはない。直線に進んでいたものが乱反射するようになったとしてもやることは変わらない。
変わらずそれを認識して個性を使うだけ。
もちろん慣れるまで目が追いつかないこともあるだろう。何せ個性の発動対象の大きさが大きさだ。サイズにして直径1.5センチ程度の大きさだ。そんなサイズのものが乱反射するんだ、当然最初は目が追いつかない。
だけど、乱反射するとはいえ、投げる力、角度、速度、周囲の物の配置など全てを計算できるなら将来的にはどこにどう飛ばすかも意のままになるだろう。
弾性の強いスーパーボールであればそれそのもの自体が打撃武器として使える。何せスーパーボール自体はゴムの塊だ。
一発一発は小さなダメージでもそれが複数あれば、何度も跳ねて身体にぶつかるのであれば相応のダメージにもなるはずだ。
そして、僕の個性置換と組み合わせることでさらに凶悪になる……と、いいなぁという妄想だ。
一番頭の良さそうな八百万さんに相談してみたところ
「えぇ、よいのではないでしょうか?確かに訓練を見る限り直線的なのは感じておりました。それに、投げる物もスーパーボールに限らず、同じ大きさの閃光玉、煙幕玉、催涙玉そんなものが合ってもよろしいかもしれませんね」
僕ははっとした。そうだ、投擲物は何だっていいんだ。近接格闘が得意でないのであれば投擲物に火力を持たせる、当然のことだった。
流石推薦組だと思わず感嘆の声を上げてしまったくらいだ。
その後先生に話したところ、そういうのはサポート科に聞けとのことだった。また、サポート科に依頼する場合申請書が必要らしい、それを取りに行くが理由の一つ目。
手を叩かなくても任意の場所に置き換えられるよう練習できる場所が欲しいこと。その為の訓練場使用許可について先生に尋ねたかったのだ。
どちらにしてもサポートアイテムを使用した特訓をするために場所は必要だったので訓練使用許可は必須だった。
そんなこんなで僕が職員室に到着し、ノックをしたと同時の出来事だった。
瞬間、学校中に警報音が鳴り響く。
「セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい」
館内放送にて避難が促された。
「……お……は……ろ、……霧、ほ……や」
職員室より声が聞こえる。
僕は先生がいるなら先生に指示をもらった方がいいだろうと思い、ノックをして職員室のドアを開けた。
すると――
「あ?」
顔から身体全身に手を複数つけた一人の青年……そして、人型の黒いモヤがそこには存在していた。
「何で子どもがいんだよ。黒霧……この時間はいねぇんじゃなかったっけ?なぁ?」
「ふむ……そのはずだったのですが……」
「あー……まぁ、でもいいか……。どうせもう宣戦布告する予定だったし……少し早まるくらい……いいよな」
手をいっぱいつけた青年が何がおかしいのだろうか、くひひと口角を上げ笑っている。
「死柄木弔‼︎ここは敵の本拠地騒ぎを大きくするのはッ⁉︎」
気づけば青年が右の掌をこちらに伸ばし駆けてきていた。
「ッ⁉︎」
なんで、なんで掌を開いたままこちらに向かってくる?普通なら手は握って拳にするはず、なら他に理由がある……
なんだ、考えるんだ。嫌な予感をひしひしと感じているんだから……
――個性‼︎
個性の発動条件それに触れることが必要なのだとすれば納得がいく。
それなら――
僕は反射的にその手に触れないように右足を下げ、身を翻す。
青年の身体が僕の横を通過した直後だった。
僕の避けた先にあった机。青年の手が触れた机が塵となって消えていくのを僕は目撃してしまった。
「なっ……机が……それに、ヴィラン……⁈なんで、ここは雄英の中なのに……‼︎」
やはり、そうだった、触れることが個性の発動トリガー。どこまでだ?触れれば何でもいいのかどこで触れても発動するのか、任意か常時か。分からないことだらけだ……
個性は使えない、使ってはいけない。規則ではそうだ。先生の監修の元以外で個性は使ってはいけない。
しかし、しかしだ、理由は分からないものの何故か命が狙われている。
だから、個性は使わなくてはいけない。たとえ退学になったとしても使わなければここで僕の命は終わってしまう。
そうなってしまったらミッドナイトを救うなんて夢のまた夢だ。
青年が塵となった机から腕を抜き立ち上がる。
「あー……やるじゃんこの子ども…………」
「死柄木弔、あまり騒ぎを大きくしてはいけない。今回の目的はすでに達成している」
「ボーナスゲームだ……せっかくだからクリアしてから帰ろう……」
「死柄木弔‼︎」
黒いモヤが青年に対して叱咤する。
「五月蝿いなぁ、おい黒霧。すぐ終わる、クリアしたら帰るっていっただろ、手出さずに黙ってろ」
そういうや否や、死柄木弔と呼ばれた青年はこちらにまた駆けてくる。
反撃――ダメだ……
当然、戦ってはいけないんだろう。それは個性を持ってヒーロー資格のないものがヴィランとはいえ人を傷つけることになる。
なら……僕に許されるのは……逃げの一手‼︎
だけど、ただ逃げるだけじゃダメだ。それでは他の生徒が巻き込まれてしまう。ヒーロー科の生徒ならまだいい、だけど普通科、経営科、サポート科など戦えない生徒が山ほどいる。
だから、先生がいそうな場所、それで持って生徒が居なそうな場所。そんなところに逃げなければいけない……
だが、職員室はダメだった、多分ではあるが避難誘導で先生が離れたのだろう。
……ダメだ、思いつかない。それなら先生に来てもらうしかない。出来るだけ派手に、相手も騒ぎを嫌っていた。
だから、可能な限り音を立てて派手に逃げる‼︎
幸か不幸か、僕の個性は逃走にも向いている。
今の手持ちで個性が使えるものは、財布に入っている小銭数枚、用紙を書くのに使おうと思ったペンが二本それだけ。
最悪手持ちのモノがなくなればここは職員室だ。山ほどモノがある。
まずは……ペンだ。先を相手に向け投げこちらに攻撃の意思があることを示す‼︎
「シッ」
掛け声と共にペンを投げた。青年に向かい真っ直ぐ飛んでいく。
「あぶねっ……」
そう言いながら手を払う。
そうだろう、だってそれは武器じゃないんだからダメージなんて期待してない。僕が投げた理由は攻撃の意思を示すこと、そして逃げる為の隙作りだ‼︎
僕はその隙をつき職員室から出ようと扉を開けるようとした――
「いけませんよ、ここから出すわけには行きません。ヒーローにこられては面倒ですからね」
そんな黒いモヤの声が聞こえたと同時に扉があった場所は黒いモヤで覆い尽くされていた。
「ッ、ダメか」
じゃあ、窓だ。そう思った瞬間だった。
背後から嫌な気配が再び襲ってきた。これじゃあ、振り向いた時には触れられる。避けが間に合わない……
まだ、見せたくなかったけど……命には変えられない。
手を叩き個性を使用する。
僕のいた位置に手を伸ばしながら青年は呟く。
「……あ?どこ行った?」
僕は青年が手で払ったペンの位置と置き換わっていた。
後ろを振り返ると青年はニヤリと笑い
「へぇ……珍しい個性だ。おい、黒霧‼︎先生への土産にしよう」
珍しい、個性……?先生?土産にする?どういうことだらう。いや今はそんなことを考えている場合ではない。
逃げなければ。音を立てる……
どうする、今個性で移動した先が窓の近くだった為軽く叩いてみたが……窓ガラスとて雄英のものだ。当然かなりの硬度を有していそうだ。僕の現状では割ることはできないと思う。
かと言って青年の個性を窓に当てたとて音が立つということはないだろう。無音で塵になるだけな可能性が高い。
扉は塞がれ窓を割ることはできない。個性で職員室の外に移動しようにも外の様子が分からない以上個性の発動条件を満たせていない。
時間を……稼ぐしかないか……。時計を見る、先ほど警報が鳴ってからざっと三分。避難誘導を諸々やるとして誰か先生が帰ってくるまで十分はかかりそうかな。
後七分――――――全力で生き延びる‼︎
最悪攻撃も辞さない。退学だって仕方ないと、その覚悟で行くしかない。
全力で個性を行使する。
攻撃をしなくていいのなら、逃げの一手を繰り返せばいいのであれば、僕の背後に回って攻撃する癖はあまり関係がない。見抜かれても問題はないわけだ。
硬貨を投げては手を叩く、手を叩く、手を叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く投げる叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く叩く投げる投げる叩く叩く叩く叩く叩く――――――――――
「ぜぇ……この子どもめちゃくちゃ逃げるじゃねぇか……」
いくら凶悪な個性であろうと触れられなければ良いのなら問題はない。
問題があるとすれば黒いモヤの方だ。
アレは触れられない。どうなるか分からない。
「はっ……はっ……はっ……」
青年より黒いモヤの人型に対し集中力を使いすぎ想像以上に疲弊していた。
あのモヤが時折小さいモヤを空間に生やしてくるのだ。それを避けなければいけない……という緊張感がより体力の消費を大きくしていた。
額からは汗がツーと流れてくる。
時計を覗く――あと……三分。
どうやら四分ほど逃げ回っていたようだ。
一瞬が長い、一秒一秒が今までの比ではないくらいに長く感じる。
本当に後三分で来るのか?そもそも十分で来るだろうというのは僕の勝手な判断。それが正解である保証はない。
さぁ、どうする置換隷、すでに職員室内はこの戦闘でぐちゃぐちゃになっている。
ドンドンと扉を叩く音がする。
「ねぇ!何をやっているの!さっきからガタガタうるわさいよ」
ッ!想定より早い。けどこれは僕にとっては行幸‼︎
「先生、ヴィラ――」
「あぁ、いけませんよ」
黒いモヤがそういうと同時に僕の口はモヤで覆われていた。
「よくやった。黒霧、じゃあそのまま全身包んでワープ――」
青年がそう言うのと同時だった。
――手を叩く。
「ヴィランが入ってきてる‼︎」
そのまま先生に伝える。
「!、そう!わかったわ」
その言葉と共に職員室の扉から甘い……ような香りが漂ってきた。
その香りはだんだんと職員室中に広がっていく。
「まずい!死柄木弔。この香りは――」
「ふぁ……あ?黒……霧……」
「文句は後で聞きます!今はアジトに戻りましょう‼︎」
そんなヴィランの声を聞きながら、僕の意識はだんだんと夢の中に堕ちていった。