はい、これがあなた方の選択です。
多分後一度本文であとがき書くので投稿するかな、と。
お楽しみいただければ幸いです。
せっかくなので一枚絵を描き下ろしてみました。
下手だけどね笑笑
――うん、
今まで着いてきてくれたキミたちが願うなら最期の
――これは、あれから八年後の物語。
置換隷が消失し、
香山睡が救われ、
魔王が倒された後――
彼らがヒーローになった後、そんな世界。
キミたちが願い、そして彼らが勝ち取った物語だ――
♦︎♦︎♦︎
そこは、森の中。
一本の木の前に一人の男、一人の女性、一つの影、一人の少女の姿があった。
ツノの生えた制服を着た少女がその木を指差し尋ねた。
「え、えっと……こ、ここでいいん……です、よね……?」
見えない影……しかし時折陽の光に照らされるその姿は美女そのもの。
影はここではない何処か、だけど間違いなくそこを示し答えた。
「うん、そうだね。
お願い……エリちゃん……
私たちの、友達なんだ」
尾のある男は目を閉じて静かに答える。
「あぁ……ダチなんだ。
言えてねぇことが山ほどあるんだ、頼む……エリちゃん――」
「――いえいえ!
わたしもデクくん達に助けてもらいました。
わたしの
横から円熟の気配を纏った色気の滲み出る女性が感謝を告げた。
「……ありがとね、エリちゃん」
「ううん、ミッドナイトさんも……生きててよかったです」
「……あはは……生きてた……うん、そうね。
あの子のおかげで生きられたんだから――」
「――だから、だからこそ。
私が、私たちがあの子を助けてあげないと」
「っすね、少なくともあいつは救われねぇといけない。
すげぇっすよ、あいつは……
好きな女の為に命に換えても……なんて普通はできない」
「――」
「――尾白くん!!
ごめんなさい、ミッナイ先生……」
「葉隠さん、私もう先生じゃないでしょ……?
それに、いいのよ――」
「あんなこと言われたから……ずっと一人でいたんだから――
責任とってもらわなきゃ、ね?」
「ははっ、そりゃいい。
あいつもあれから八年経ってんだ。
骨埋めるにゃいい歳でしょうさ」
「だね!
みんなでお祝いしてあげなきゃ」
「えっと、その時は……わたしもお祝いしますね!」
「みんな、ありがとね……」
「――さて、順序の確認よ。
葉隠さん、ここにあの子はいるのね――?」
「うん、消えかけてるけど……まだ此処にいます」
「そう、よかった……
葉隠さんが位置を指示して――
尾白くんがその尾であの子を捕まえる」
「っす、俺の尻尾は物理的なだけじゃなかった。
“
尻尾は本来存在しないもの、
だからこそ――無いものにも触れられる」
「うん、お願いね」
私はこの八年を振り返る。
あの戦いのあと病院で起きた私は怪我が治っていた。
理由を思い返しても分からない。
間違いなく死を覚悟していたからだ。
あの時誰かが助けてくれた……?
でもあそこには誰もいなかった……
いいや、違う。
私は薄れゆく意識であの子と話した。
彼……置換隷と――
そして病院の先生曰く私に残る傷から致命傷だった。
でも生きていた、この治療には本来適しない個性を複数用いて治療を行った形跡が在ると告げられた。
なら、あの子は……私の身体に残った個性は……
あの子が使っていたものだ。
起きた私にあった個性は私本来の眠り香――だけじゃない。
なぜか、私に宿っていた。
いくつかの個性。
――幻惑、鎮静、肉体維持、遅延再生の四つの個性。
だけど……私は一つずつしか使えない。
まるでそれぞれの規格が違うようで、
ピースの合わないパズルを組み合わせるように、
何かが合わない。
この八年私が出来たのは個性を切り替えることだけ。
だからこそ、私はこの目で見ていないけど……緑谷くんの異常さが際立つし――置換君の異様さが目を引くのだ。
もちろんこれは想像に過ぎない。
それでも――複数の個性を同時に使うなんてまともじゃない。
異なる
私のような凡人には決してできない。
でも、それをした人がいる。
――してしまった人がいる。
みんなではなく、一人でやろうとした人がいる。
それでも今は此処には他の人がいる。
彼を助けようと紡いだ
此処に自らの意思でいるのは葉隠さんと尾白くんの二人だけと確かに少ない。
それでも、此処に至るまでに手助けしてくれた人がいた。
梢と呼ばれる少女と松戸と呼ばれる研究者。
少なくともその二人は彼がまだ存在するという
松戸さんは自分の命が僅かであるにも関わらず彼を救おうと手を伸ばした。
理由は分からない。
でも、二人には何かがあったのだろう。
そして、置換君を知らないはずなのに助けようとしてくれるエリちゃんという少女がいた。
あの子ができなかった……誰かに頼る言葉。
だから私はそれを教えてあげたい。
彼を起こす方法はもう指示されている。
「そして彼を捕まえたら私の出番。
幻惑の個性で
「エリちゃんが巻き戻す」
「はい……ただ、どこまで巻き戻せるか分かんないです。
八年も……経っちゃってるから」
「大丈夫よ、エリちゃん。
助けられるかもしれないし、できないかもしれない。
でも可能性があるならやっておきたいの。
だからもし失敗してもエリちゃんを責めることなんてありえないわ――」
「それに、身体が少しでも戻るなら――」
私に宿った個性を戻しせばいい、はずだ。
そもそも彼から受け取った個性であれば……返せるはずだ。
ピピと通信音が響く。
もう一人の協力者からだ。
『――ほいで、準備できたかいな?』
「えぇ……いけるかしら?」
私は葉隠さんを、尾白くんを、エリちゃんを――
そして、目の前の木に視線を向ける。
「さぁ、いくわよ――」
「「「――はい!」」」
これは――私たちが彼を取り戻す戦いだ。
みんなが個性を発動させ、世界を光が包み込んだ――
♦︎♦︎♦︎
……あ、れ……?
ぼくは……
何をしてたんだっけ……
やぁ、久しぶりだね――
――おまえ、は……
あぁ、そういうのはいいや。
もう終わったことだし、興味がない。
ボクから告げるのはただこれだけ。
これは、キミへの褒美だ。
ま――ボクも楽しかったし、ね。
だからあの世界に、
キミが生きられる余白を残した。
それを掴むかどうかは――あの世界の住人次第さ。
さ、じゃあね。
キミの物語は最高に、おもしろかった――
――ま、て…………!!!
僕は手を伸ばそうとして――手がないことに気づいた。
♦︎♦︎♦︎
世界は白く広がっている。
わずかに森の中の景色が見えた気がした。
白と森の景色に混じって、
まれに尾白君や葉隠さんが映ったりしている。
それに……これはエリ、ちゃん……?
僕と関わりはなかったはずだけど……
――あぁ、睡さんもいた。
みんな何をしているんだろう、と少し気になった。
ふと、葉隠さんと目が合った気がした。
――?
直後、身体が何かに掴まれた。
――!!
なに……これ……
掴まれるはずがなかった、
だって僕の身体は――
自分の身体は朧げで影のように揺らめいている。
だけどその身体を包み込むように尻尾が僕を包んでいた。
――尻尾……?
そして、尻尾で引き寄せられた。
その先にいたのは睡さん――
少し歳をとっても色気は変わらない……どころか増している。
そっか、生きられたんだ。
――?
違和感を覚える。
さっきまで映らなかった腕が朧げながら形を成している。
数瞬の後――僕の身体は完成していた。
だけど、動かない。
それは幻のようで――
エリちゃんがその幻に向かって足を踏み出す。
そして……手を、触れた――
身体が
あぁ、そっか。
この子の個性は巻き戻しだもんね――
角が目に見えて減っていく。
身体が熱を、重みを、取り戻す。
同時に返ってくる怪我の痛みや苦しみ。
巻き戻しが止まったようだった。
少女の角はまた生えかけのように小さくなっている。
――あぁ、そうだった。
生きるという事はこんなにも痛いんだった。
でも身体に反して心は温かく熱を持つ。
負傷の具合から見て脳無を倒す前ぐらいかな。
出血量、意識低下の具合から見てそう長くないのは察した。
それでいい。
僕はもう終わった
睡さんを助けられた――ただそれだけで満足なんだから。
それに、最後に元気なみんなが見れた。
それはなんで幸福な
僕は一人で終わると思ってた。
なのに、みんなに囲まれて終われるなんて……
「あぁ、僕はなんて――幸せ者だ」
みんなが何かを叫んでいる。
尾白くんが表情を険しくこちらを睨む。
時折陽に透ける葉隠さんが涙を浮かべているのが見える。
エリちゃんはただひたすらに祈っている。
睡さんは……
あぁ、睡さんは涙を流しながら
満足したはずだった。
終わっても良いはずだった。
――彼女の手が伸びる。
――ダメだった。
死にたくない。
何度も死んできた僕だけど……
何人も人を殺してきた僕だけど……
――この人の前では死にたくなかった。
「……や、だ……なぁ……」
――死にたくないな。
この人が泣いているのを見て死にたくない。
……この人に泣いていてほしくない。
――睡さんの手が僕に差し伸べられる。
幻想の身体なのに……
存在なんてしないのに……
それなのに――僕の瞳からは
――何かを叫んで涙を流している。
動かないはずの身体に熱が宿った。
ぴくりと指先が動いた。
……そうだ。
あの人が手を伸ばしてくれてるんだ……
僕は何をやっている――?
みんな僕なんかを助けようとしてくれている。
だったら……
ここで――終わるわけには、いかない。
例えただ一瞬であっても、
すぐ終わるとしても……
あの人が手を伸ばすなら――僕はその手を取るんだ。
――手が、僕の目の前に差し伸べられた。
それでも、指先は、腕は……身体は
「――――ぁぁあ!!!!!」
僕が手を動かそうとしているのを見て僅かに睡さんが笑ったような気がした――
ぽすり……と、気の抜けた音が聞こえた。
――あたたかい。
懐かしいこの匂い。
――あたたかい。
背中に回される腕。
――あたたかい。
耳元で、彼女の声がこだました。
「――おかえりなさい」