推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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25話どうぞー!




25話 職場体験3

 

 置換、ハイネスパープル、鬼瓦の争いがあった同日十六時、田曽宮病院にて。

 

 「えぇ、イレイザー、ブラドキング。今回暴れた鬼瓦君は私の個性で眠って……置換君は一番大きな怪我で右腕粉砕骨折、全身打撲および切り傷。社長……ハイネスパープルは……両腕欠損、全身の骨折、ヒーローとしての復帰は…………」

 

「――――――」

 

「わかっています。鬼瓦君は一度警察に引き渡します。その前に面会できるよう掛け合ってはみるけど……彼の姿が戻らないの……詳細は何があったのか聞いてからになるわね」

 

「――――――」

 

「……そうね。こんな状況だし、置換君の職業体験は三日目にして中断……になるわね。残りの日数は怪我が治り次第、受け入れてくれる他事務所を探そうと考えているわ」

 

「――――――」

 

 

 誰かが話している声が聞こえる……

「……いっ……た……」

 身体を動かした際右腕に違和感を覚えた。何故かうまく動かせない。視線を向けると右腕は白いギプスに包まれていた。だんだんと記憶が蘇ってくる。

 

「そうだ、アレと戦って……」

 

 ……いや、アレは戦いと呼べるものではなかった気がする。ただの時間稼ぎ、しかも無様に逃げ回っていただけだ。この怪我だって言ってしまえば自爆みたいなものだろう。

 

「お二人とも、置換くんが起きたみたいです。続きは後ほど」

 声がした方に視線を向けるとミッドナイト先生がドアを開け部屋に入ってきた。

 

「……ミッドナイト先生」

 

 そうだ。そうだった。救援が来てくれたんだ。ミッドナイト先生が助けに……だから僕は、今生きてここにいられる。

 

「おはよう、置換くん。調子はどうかしら」

 

「おはよう、ございます……調子は……まずまず、ですかね」

 

「そうよね、あんなことがあったばかりだもの。それにそんな大怪我もしてしまって……」

 

「本当にごめんなさい、私がもう少し早く来ていたら……」

 

 申し訳なさそうにミッドナイト先生が頭を下げた。違う、違うのだ。多分だけど僕のせいなんだ。あの時鬼人に僕が声をかけたから隙をつかれておかしくさせられて……その結果がアレだ。

 

「いえ……悪いのは先生じゃないです。助けていただいてくれて、ありがとうございます」

 

 来たヒーローが別の人であれば助からなかったかもしれない。数いるヒーローの中でミッドナイト先生が来てくれたからこそ助かったんだ。

 

 僕は顔を青くしながらボソリとつぶやいた。

「……助かった…?」

「置換、くん……?どうかしたかしら」

 

 助かった……?社長は……?両腕がなくなって血もいっぱい出てて……全身の切り傷や打撲など僕よりかなり酷かったはずだ。

 

「先生!……社長は、社長はどうなりましたか!?助けてくれたんです。でも、僕の代わりに……」

 

「…………」

 

 ミッドナイトは目を伏せる。

「社長……は。ハイネスパープルは、もう……」

 

「え…………」

 

 ……僕のせいだ、僕が弱いから。だってあのタイミングで僕を庇えたってことは、社長はアレの攻撃を予測或いは見えていたってこと。社長だけなら逃げられたんだ……僕が足を引っ張った。

 

「……ぼくの、せい……ですね」

 

「いえ、彼はヒーローとしての職務を全うした。あれはその結果起きたこと。……子供であるあなたに責任なんてあるわけがないわ」

 

「……」

 

「今は……顔色が悪いわ。それに色々あって整理する時間もいるでしょう。少し休んで――」

 

 沈黙が病室を包み込む。空気が重い。この人にこんな表情させたくない。それでもこれは聞かなきゃいけない。ミッドナイト先生の言葉を遮るように僕は声を出した。

 

「先生!鬼人……どうなりましたか」

 

「ッ――」

 

「鬼瓦くん、は……」

 

 

 先生が言い淀んでいると廊下の外から誰かが言い争っている声が聞こえた。

「ちょ、中王子さん!重病人なんだから歩かないでください!!」

「なーに言ってんのよ、こんなんで休んでいられるわけないでしょ」

 

「「え」」

 この声は……社長?ミッドナイトに視線を向けると「うそ……」と驚きの表情を浮かべている。

 

「先生……?」

「い、いえ、私が聞いてる限り集中治療室に入れられた……って」

 

 扉が大きな物音を立てて開かれる。そこには患者服に身を包んだ腕のない社長が立っていた。

「全く、そんな事だろうと思ったわ。あなた達――」

 

「――顔が、暗いのヨーーーーっ!!」

「あ、むり。流石に大声はムリ、フラフラする……」

 

「ちょちょ、だから言ったじゃないですか。中王子さん。早く戻りますよ!!」

 

 社長は一瞬表情を顰めると咳払いをして笑顔でこちらに視線を向けた。

「置換ちゃん、気にしなくて良いわ。これは私の力不足が招いた事態。そもそも子供に責任なんて負わせるわけないじゃない。むしろ助けられたわ、ありがとう」

 

「睡ちゃんも同じ、早く着いていればなんて。たらればに意味はないわ。あなたは間に合ってくれた。私達を助けてくれたそれで充分。命があるだけで上等よ」

 

「だから、私から言えるのは二人ともありがとう。命を救われたんだものそれしかないわよ」

 

 

 そう言うと社長は満足したように「それじゃ、またね」と言い病室を出て行った。

 

 

 ありがとう、あんな状態なのに両腕がもうないのにこちらを気遣ってそんな事を言える。どれだけの人格者なんだろう。僕はほんの少しだけ気分が軽くなった。

 

 

 

「先――」

 ミッドナイトに声をかけようと視線を向けると先生は目を見開き透明な雫を溢れさせていた。

 

「よかった……」

「……先生…………えっと、あの、大丈夫……ですか」

 

 だめだ、何で言ったら良いのかわからない。前世だってこんなことはなかった。今世だって当然目の前で女の人に泣かれた経験なんてない。僕はどうしたら良いかわからずおろおろしていた。

 

「……えぇ、ありがとう。かっこ悪いところ見せちゃったわね。恩師……なの、だから安心しちゃって」

 

 僕はいつもと違うそんな先生の様子に、大切なもののためにこんな綺麗な涙を流せる姿に改めて惹かれてしまった。

 

 僕にはそんなものはないから。あったこともない。今この世界にいる理由、ミッドナイトを救う。それすら、その願いすら彼女が推しだったから、それだけだった。彼女の最期に涙を流した。当然だ、推しの死悲しいだろう。でもその場だけ、ずっと引きずるわけじゃない。

 

 ここに来て本当の意味で彼女を好きになり始めたのかもしれない。社長が死んだかもしれないと思って、たった三日の付き合いでこんなに痛いんだ。だから、こんな気持ちはもう味わいたくない。改めて先生を、ミッドナイトを死なせたくないとそう思えた。

 

「そう、ですね。僕にとっても命の恩人で……本当に、生きててよかった」

 

 

「えぇ……さて、と。切り替えないとね。こんなんじゃまた社長に表情が暗いのヨーーーーって言われちゃうわ」

 変わらず涙を浮かべていたミッドナイトは花の咲くような笑みを浮かべた。

 

「です……ね。先生、明るくいきましょ!先生はやっぱり笑ってる方が可愛くて綺麗ですから」

 

 …………ん?今僕なんて言った…?いや、おかしなことは言ってない……いや会話の流れが変じゃ……。いやいや、こんな可愛くて綺麗な人なんだから褒め言葉とか言われ慣れてるでしょ。

 

 

「え、あ、えぇ……ありがとう」

 先生はきょとんとした表情をすると、言われたことを理解したのかすぐに少し頬を赤らめながら僕から顔を逸らした。

 

 

 …………あれ?もしかしてやらかした?言われ慣れて、ない?まさか……だよね。でも待って……体育祭の時も似た反応してたような……

 

 先生は一度咳払いをすると手を叩いた。

「こほん……さて、鬼瓦君だったわね。彼の姿は残念だけど……戻ってないわ。私の個性で眠り続けているわ」

 

 そうだ、先生の反応も大事だけど今は鬼人だ。

 

 

「そう……ですか。眠ってるんですね……多分ですけど……起きたらまた、暴れると思います。僕は、アレは長い眠りから覚めて腹を空かせてるように感じました」

 

「そう……参考にさせてもらうわ。腹を空かせてる……それで腕を……やっぱりヒーローが集まってから覚醒させて話を聞くって方向になりそうね。今のメンバーじゃあ止められそうにないし……」

 

「えと、先生……?」

 

「ごめんなさい、考えを纏めてたの。とりあえず置換くんは早く身体を治すために休むこと!もう少しでリカバリーガールが到着するみたいだから、待ってて頂戴」

 

「ありがとう、ございます」

 すこし、つかれた。まぶたもおもい。社長が生きてた安心感、鬼人も無事……とはいえないけど所在がわかってるからどうにかなるかもしれない。不安の種が解消され少しの安堵を抱きながら僕は夢の世界へ旅立った。

 

 

「おやすみなさい、置換くん」

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 ん?おや、ふむふむ。今回は随分とやり直したね。

 まぁ、あの先祖返りと戦うのは大変だ。今のキミじゃ天地がひっくり返らない限り勝てないし。しかも友達なんでしょ?悲しいよねー、辛いよねー。

 

 さてさて、今回も楽しませてもらったよ。

 まぁ、でもまだ。足りないね。キミに与えた力は――だから。あ、聞こえないか。まだその個性の本質は理解出来てないみたいだし。

 

 たぶん、ここでの出来事を覚えてはいられないだろうけど……せめてもの情けだ、伝えておくよ。

 そのままじゃあ、絶対にキミは彼女を救えない。

 この世界は、この分岐は、この枝は、まぁ剪定されるんだろうね。

 

 でも大丈夫、キミが忘れてもボクたちが覚えていてあげる。慟哭も苦しみも喜びも笑いも。

 だから――安心して失敗してね。

 何度も何度も何度も何度も繰り返して救える世界線、枝まで……いつか、辿り着けることを願って。

 

 まぁ、辿り着かない限りボクが終わらせないけど。

 心が折れたら矯正しよう、忘れさせよう。

 

 さぁ――

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 何か、夢を見ていたような気がする。

 懐かしいダレかに会っていたような。

 

 まぁ、夢なんてそんなものだよね。

 見たことすら覚えていない。見たことを覚えていても内容を思い出せない。そんなことはよくあるし気にしてもしょうがないかな。

 

 そんなこんなで僕の職場体験は一時中断。

 みんなに心配されながら月から金の五日間腕を吊りながら授業を受け……その週の土日、そこで僕は職場体験の続きをすることになる。

 

 

「さぁ、ここが、私の事務所よ!土日の二日間だけだけど体験してもらうわ。……前はもっといたんだけど私が先生やるようになって事務所閉めてて……今回募集かけたんだけど……OK出してくれる事務所なくて……」

 

  ………………え、事務所あったの?

 

 




職場体験終わる……って言ったんですけど…あと一話だけ……
ところで誰の事務所に行ったんでしょうね(すっとぼけ)
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