ほんとおわり!これで職場体験おわりです。
分量的には……2話分くらいあるけど……
誤差でしょう。
それではどうぞ。26話職場体験補講すね!
ある土曜日僕は職場体験の補講のため相澤先生に呼び出され、再び田曽宮市の元オフィスパープルレボリューションに訪れていた。
「えっと、ここは……」
何故かそこにいたミッドナイト先生は僕の言葉を遮るように声を出した。
「さぁ、ここが、今の私の事務所よ!土日の二日間だけだけど体験してもらうわ。……私が先生やるようになって事務所閉めてて……今回ほかの事務所にお願……こほん、募集かけたんだけど……OK出してくれる事務所なくて……」
僕の中で二つの感情が争っていた。この場所を見たことで蘇ってきた社長の腕を奪ってしまった罪悪感、ミッドナイトと土日過ごせる喜び、なんとも言えない感情が僕の中で渦巻く。嫌な記憶ほど思い出しやすいからか優勢なのは罪悪感のほうだ。強くならなければいけない、もう二度とあんな思いをしないために……
と、覚悟を胸に抱いてはいたがそれはそれとして、少し頬を赤らめながらもじもじしながら言うの……ずるいってかわいいすぎるでしょこの人……
えっと、話を戻そう。僕が今ここになぜいるのかそれは金曜のホームルームまで遡る。
♦♦♦
金曜日のホームルーム終了間際相澤先生より呼び出しがあった。
「あー、置換。職場体験の件で話すことがある。放課後職員室まで来るように」
ホームルーム終了後、僕は鬼人のことだろうかといても立ってもいられず駆け足で職員室に向かった。
しかし現実は残酷だ。
「お前、怪我のせいで職場体験二日間出来てないだろ。それについて……だ。受け入れてくれる事務所を電話して探してはいたんだが見つからん」
「明日明後日で予定なければ、元オフィスパープルレボリューションいってそこで残りの二日間の職場体験やってこい」
「オフィスで……ですか……?あそこはもう……」
「……まぁ、そうだな。あそこはハイネスパープルがヒーロー引退する為閉めることにはなってるが、急遽別のヒーローが一時的に引き継ぐことになった。あー……面倒だ、詳細は当日のヒーローに聞け。そっちの方が合理的だ」
「えっと、はい。分かりました……鬼人のことって……」
「それは俺に情報来てないな。その件も当日会うやつに聞くといい」
当日……つまり明日。相澤先生も鬼人のこともオフィスに行って聞くといいって言ってた。二日間って言ってたし聞く時間もあるだろう。忘れないようにしないと。
♦︎♦︎♦︎
そんなこんなで今僕は元オフィスパープルレボリューションにいた。罪悪感に塗れていた僕の気持ちはミッドナイトのおかげで少し癒された。
「えっと、ミッドナイト……?」
「ミッドナイト……先生、ね。あ、でも今はヒーローとしてここにいるし気にしなくてもいっか。そう、ミッドナイトよ。このオフィスには縁があったから、潰れるくらいなら……と思って引き継がせてもらったの」
「さてと、さっきも説明したけれど、職場体験の続きよ。残り二日間このオフィスパープルレボリューション改め、新生ミッドナイト事務所で二日間体験してもらうわ」
色々いきなりすぎて少し頭がこんがらがってはいるが、ここはミッドナイトの事務所になってこの事務所で残り二日間の職場体験をさせてもらえるみたいだ。
「後で会えると思うけど……スペシャルゲストもいるわ」
「スペシャルゲスト……?」
「そう、楽しみに――」
「あら、チェンジャーじゃない。元気してた?」
聞き覚えのある男の声に遮られミッドナイトの得意げな顔が凍りついた。ミッドナイトの顔がギギギと擬音を立てながら後ろを向く。ミッドナイトの頭の上に感嘆符が見えたかと思うとオフィス入り口に立っている男に詰め寄った。
「ちょちょちょ、何やってるんですか!社長!後でサプライズするからって言ったじゃないですか!!」
「何言ってるのよ、睡ちゃん。彼には二日しかないんだから、そんなことしてる暇ないじゃない。教えられなかったことしっかりと教えないとね」
「社長……」
「それに……社長じゃないわ。元社長、今はアドバイザーの中王子よ。」
落ち込んだ様子でミッドナイトがこちらに歩いてくる。
「見ての通り、スペシャルゲストは……社長よ。社長もあれじゃ普通の仕事出来ないでしょうし、今までの経験を活かしてもらうためにアドバイザーとして私の事務所に来てもらったわ」
「とりあえず、あんまり変わってないけど……さらっと事務所の中見てから街の見回り。そして――」
ミッドナイトの言葉を遮り社長が言った。
「私たっての希望でトレーニング、よ。残念なことに、出来てなかったからね。確認してないけど……やるでしょ?」
トレーニング……今の僕に必要なこと。弱かったから人に社長の両腕は無くなった。他人に迷惑をかけた、無力感に苛まれる、全部全部僕が弱かったからだ。強くならなくてはいけない。少なくともいつか訪れるバッドエンドから彼女を救う為に……
「……はい!二日間よろしくお願いします!」
「いいわぁ、いい、これが青春よ」
……あのミッドナイト、女の人が見せちゃいけない表情……してる……そっと心のファインダーに収めて頑張ろう。
そうして、事務所を確認し見回りも何事もなく終了。
ミッドナイトと他愛のない雑談をしつつ……新生ミッドナイト事務所へ帰ってきた。
「さて、チェンジャー見回りお疲れ様でした。何事もなく終わったわね」
「はい」
「社……違ったわね中王子アドバイザーがトレーニングルームで待ってるわ。あとは時間までそこにいていいから――頑張りなさい」
「ありがとうございます。先生!!」
僕は腰から大きな動きで頭を下げるとトレーニングルームへ走り出した。
♦︎♦︎♦︎
[職場体験補講一日目、十五時]
僕がトレーニングルームに入るとすでに社長……えっと、中王子アドバイザーが汗を滴らせながらサンドバッグに対して蹴り技を繰り返し放っていた。
前蹴り、回し蹴り、横蹴り、後ろ蹴り、飛び蹴り、かかと落とし、どの蹴り技をやっても蹴るたびに風を切る音、サンドバッグをしならせる重い音が辺りに響き渡っている。
ルーティンが終わったのだろうか、僕が絶句して立ち尽くしていると汗を拭いている中王子アドバイザーに声をかけられた。
「あら、チェンジャーいらっしゃい。見てないでこっちにいらっしゃいな」
中王子アドバイザーは右目でウインクをした。
「ごめんなさいね、気づかなかったわ。アップのつもりだったんだけど思ったより集中しちゃってたわ」
「それにしても、やっぱ腕って大事ね。蹴りの威力かなり落ちちゃうわ」
「あの速さと威力で……ですか」
「ん?えぇ、そうよ。そもそも脚力自体が腕力の四から五倍は力あるんだからあの程度なわけないじゃないの」
「え、四から五倍!?そんなにですか」
「そりゃねぇ。ほら、そもそも私達の身体をいつも支えてくれてる脚が腕力に劣るわけないじゃない?」
そうか、そうだ。確かに、僕の体重五十五キロを常時支えている脚が腕の力に劣るということはないのか。腕力は鍛えてる時だけだけど脚力は立っている時常に鍛え続けてるんだから――それは必然力の差ができるというものだ。
「あ、そうだったわ。前、力試しした時あるじゃない?」
覚えてるかしらと僕に疑問を投げかける中王子アドバイザー。
「はい……僕がズタボロにやられたやつですね」
「あの時も言ったと思うけどあなたの技、威力がないのよ。いや、ないというのは正しくないわね……んー、上手く力を伝えられてないっていうか」
「私に一撃目入れた正拳突き上半身の動きはすっごいいいのよ、理想的な動き。あれを戦いながら出せる時点でかなり練習したでしょうしいい技をもった師匠がついてたんだと思うわ」
やった!褒められた。それに尾白くんもいい技を持った師匠だって――
「でもね、だからこそ勿体無いの。変な重心の入り方してて下半身の力が流れてない。多分だけど師匠は第三の脚と呼べるような何かをもってるんじゃないかしら、その人特有の癖がチェンジャーにも根付いちゃってる」
中王子アドバイザーの口からその師匠あまり人に教えた経験はあんまりないのかもねとポツリと溢れた。
「っ――」
いいかえしたいけど……でも確かに尾白くんは尻尾が個性だ。技を放つ時も地面についている。変な癖がついていてもおかしくない。尻尾があればそれはいい技に繋がるけど僕にはその尻尾はない。ならしなければいけないのは――
「さて、あとはわかるわね?あなたがしなきゃいけないのは攻撃時の下半身の癖を直すこと。ま、この二日間は身体に覚え込ませる程度には反復してもらうわ。いつまでも自傷前提の落下攻撃に頼るわけにはいかないでしょ?」
――矯正だ。繰り返し反復を繰り返し動きを自分の動きに矯正して調律する。
「はい…………!よろしく、お願いします……!」
その発想に至らなかった自分を恨む。そうか、尾白くんの技は尾白くんの個性である尻尾あってこその技。その通りに動いたって同じ威力が出るわけがない。
「さ、まずはこのサンドバッグ殴ってみてちょうだい」
中王子アドバイザーに促されたまま僕はサンドバッグの前に立つ。
脚を肩幅に開き軽く膝を曲げた。両腕を握りこみ左腕はサンドバッグに向けて伸ばし、右腕は引き絞る。
目を閉じ呼吸を整える。
今――
「はっ――」
引き絞った右腕を捻りながら前に突き出し、伸ばしていた左腕は捻りながら引き絞る。
拳がサンドバッグに当たった音が響く。でも、中王子アドバイザーが出していた音より圧倒的に軽いしサンドバッグもほとんど動かない。
「さて、この感じを忘れないでちょうだいね。最終日にもう一度同じことをしてもらうわ」
[職場体験補講一日目、十五時三十分]
「チェンジャー、上半身の動きはそのままでいいの。下半身だけを調整するのよ。脚の指先から腰まで力を伝達するイメージ――そして、腰の回転を意識すること。つまり、捻りよ」
「はい!」
必要なのは捻り、腰の回転を意識。難しい、今まで正拳突きは無心でやってたから意識するとバランスが……
「違う!そうじゃないわ、なんで上半身が崩れるのよ。もう一回やってみて」
「違うわ、今度は下半身が元に戻ってる」
[職場体験補講一日目、十七時]
「チェンジャー、一旦休憩にしましょう。」
「いえ……まだ、やれます!」
中王子アドバイザーもずっと見てくれてるんだ。その時間を無駄にさせてはいけない。期待に応えないと、強くならないと――
「そう、もう少しだけよ」
[職場体験補講一日目、十九時]
頭が、ふらつく。拳を構えて――突く。下半身の捻りを……
「チェンジャー、今日は終わりにしましょう。それ以上やってももういい結果は出なそうよ」
「……いえ……まだ、いけます……まだ……」
[職場体験補講一日目、二十一時]
「…………」
「ふぅ、まぁそうよね。十五時からぶっ通しでやってたし。お疲れ様チェンジャー、また明日」
[職場体験補講二日目、八時四十分]
「……ふぁっ!?」
外を見ると明るい、鳥の声が鳴り響いている。気持ちのいい朝だ。時計を見た。冷や汗が背中を伝った。
「嘘……朝?昨日あの後、僕――寝ちゃった?」
あははーー、いやぁよく寝たなぁ……じゃない!!?……やばいやばいやばい、遅刻する!急いで準備しなきゃ、えっと、とりあえず着替えてオフィスへ!
超速ダッシュ、五分で支度して事務所へ十分かけて到着。
「おはよう、ござ、います……ミッドナイト、げほっ、ごほっ、はっはっ……」
息を切らしながら事務所へ到着。すでにミッドナイトは事務所前に立っていた。
「あら、珍しい。そんなに急いで寝坊でもしたの?髪、跳ねてるわよ」
ミッドナイトは言いながら僕の髪を触り整え始めた。
「そういえば、気になってたのよね顔。いつも前髪で隠れて見えないから――えいっ」
ミッドナイトに前髪を上げられた。顔、見られた。僕の頬が朱に染まる。やばい、恥ずかしい。
「いいじゃない、結構好きな可愛い顔よ。隠さないで前髪あげたらどう?」
「あ、えっと、あの、あわ、あわわ……」
「あら、可愛い」
す、すすすすす好き!?あ、えっと、あの、違う!これはほら、社交辞令的なあれだから。ミッドナイトの優しさだから!?自分の脇腹に拳をねじ込む。
「ぐぽっ……」
「え、なに?どうしたのチェンジャー!?」
「あ……い、え、蝿がちょっと……」
僕は脇腹を抑えながらあまりの痛みに涙目になった。
ミッドナイトは時計を見た。
「あ、えぇ……さて!時間になったわね」
「基本的には昨日と同じね。職場体験は今日の十七時で終わりだからその後は家に帰ること!」
「わかった?」
「はい、わかりました!先生」
「よろしい、じゃ、今日も頑張りましょ。まずは見回りから」
♦︎♦︎♦︎
見回りの最中ふとミッドナイトが話をふってきた。
「そういえば社……中王子アドバイ……めんどくさいわね……社長でいいのよ社長であだ名みたいなもんでしょあれ。こほん、社長から私のこと聞いたりした?」
「いえ、特には。んー、ん?……あ、でも睡ちゃんはすっごいいい子だって言ってました」
「いい子って……全く。もう学生じゃないっての」
ミッドナイトは頬を緩めながら懐かしそうに目を細めた。
「学生……よければ聞かせてもらってもいいですか?」
「んー、まぁいいか。いいわよ。社長と私の出会いはインターンね。もうちょっとしたらあなた達もやるんだけど……まずは仮免許が先か」
「ほんと、最初はなんなのこのおっさんって思ったわよ。顔濃いし男の癖に話し方オネェだし訳わかんないって。置換くんも思わなかった?」
「あはは……ノーコメントで……」
「まぁ、でも。そんなんだけどちゃんと街の人のこと見てるのに気づいて、助けてるから好かれてるのかなぁって途中から思うようになって……そっからは特に気にならなくなったわね」
「私、少しだけ格闘も教えてもらったのよ?強くはなれなかったけど……個性的に戦いになることもないからね」
ミッドナイトは柔らかそうな二の腕を曲げると僕に見せ、その後舌をぺろっと出してウインクをした。
…………破壊力……やばい……死ぬ、また死んじゃう。今度は電車じゃなくてキュン死するぅ――
…………………………………………はっ、危なかった。危うく性癖壊れるとこだった。
「置換くんはどう?社長とのトレーニング、何か掴めそう?今日で終わりではあるけど……」
「そう……ですね。原因は分かったのでそれを改善するだけ……では、あるんですけど……」
「けど?」
「数ヶ月かけて身についたことを覚え直すのって大変ですね……」
「そうね……うん、大変だ。頑張ってね置換くん。今日も色々引き継ぎあるから行けないとは思うけど応援してるわ」
ミッドナイトは両腕を上げ、んーっと背中を伸ばした。
「さて、見回りもこんなところかな?聞きたいことあったりする?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます先生」
「もし何かあれば十七時にまた顔出すからそこで聞くか……或いは学校で聞いてちょうだい」
「はい!それじゃあ、先生も頑張ってくださいね〜」
僕は走りながらミッドナイトに手を振るとトレーニングルームに向かってかけだした。
[職場体験補講二日目 十四時]
「あら、今日は早いのね」
ちょうど休憩だったのだろうか器用に座りながら脚でペットボトルのお茶を飲んでいる社長を見つけた。
「さて、と。残り三時間頑張りましょう。一度実感できれば一人でも練習できるからね」
「とりあえず昨日見てる感じだと余計なこと考えすぎね。表情暗いし、イケてないわね。とりあえず頭空っぽにするために私と一戦――ヤリましょうかぁ!!」
「――ッ」
え、いきなり!?でも、前より社長の動きが遅い……?……いや、違う。アレと戦ったからより速いものを見たから社長の速さを遅く感じるようになったんだ。
社長は僕に真っ直ぐ迫ってきている。距離にして二メートル、右足を曲げて後ろに下げているから多分蹴りは右脚がくる。僕はホルスターから銃を取り出し社長の右側に銃口を向け撃ち放った。
「ッ」
そう、社長はもう僕の個性を知っている。だから、警戒しなくちゃいけない。僕の個性が使える対象がある時は僕の今いる時点とその対象の両方を――って
「甘いわねぇ!!!!!!」
僕を蹴ろうとしていたその脚で銃弾を……蹴ったぁ!!??
「嘘っ」
僕の顔の横を銃弾が通過し頬に赤い線を作った。
ドヤ顔で変なポーズをしている社長。
「最近のサポーターってすごいわねぇ。ゴム弾蹴り飛ばしても……ほら、私の脛は無傷」
「ダメよ、全っ然ダメね。個性を使った全身全霊のバトルも悪くないけど……今は――ステゴロがしたい気分よ!!」
社長はまぁ私個性使えないけどね、と自嘲した後再び僕の方へ駆け出した。
どうする、蹴り飛ばされるならむしろ相手に飛び道具を与えることにならないか?個性を使わずして戦う、いやそれじゃあ戦いにならない。技術の差が大きすぎる。
だったら、一発でダメなら――
「複数ならっ」
「うんうん、そうよね。だけどそれ――」
「――ゴム弾じゃない?悲しいことに当たっても痛いだけなのよね」
社長の筋肉の装甲に弾かれる。弾かれる弾かれ――
「あ、いや、ちょ、まっ、やっぱりかなり痛ッ――ふっっざけんじゃないわヨォぉぉー!!!!!!」
――キレた。
ちょっ、速っ。あ、銃蹴り飛ばされてトレーニングルームの端まで飛んで行ったりこの距離じゃもう使えない。
腹を括るしかない。社長には僕のせいで腕がない、ということは脚技しか来ないということだ。
腰に視線を固定しておけば、蹴りの入りがわかる。入りがわかれば距離を取ることで避けることもできる。
「その視線は……ダメねぇ……」
膝ッ、下から――頭痛ァ!!!上!?
「別に脚しかない訳じゃないわ、頭突きもあるし身体でタックルだってできる。脚だけに視線を……それは悪手ね」
「さ、ちゃんとやりましょうかステゴロ」
社長はバックステップで距離を取ると再び構えをとった。と言っても腕がないので軽く右の踵を上げ左足に重心が乗るように立っているだけだけど……それでも隙が見当たらない。
武器は手元にあらず、トレーニングルーム内も片付いていて物がない。最初からこうするつもりだったのかもしれない。さっき撃ったゴム玉と置換できるだろうけどまだ早いだろう。だから今の僕には拳しかない。怪我をすれば血を対象に個性が使えるけど……社長の攻撃方法は蹴り、つまり打撃だ。血が出ることはほぼないだろう。
蹴りを拳で叩き落とす……?いや、無理だ。僕にそんな技術も力もない。蹴りは隙が大きいし一度に一発しか蹴れない。本当に……?空中にいれば二度蹴りができるかもしれない。できないという思考は捨てなくてはさっき社長が教えてくれただろう。忘れるな僕。
でも、隙が大きいってのは事実だ。社長の戦闘スタイルがこうなったのはここ最近の話。だから、まだ不完全付け込む隙はここにある。
誰であっても蹴りの隙、これだけは無くせない。まずは一撃、一発受けてそのまま……一撃をお見舞いする。覚悟を決めろ、腕を失った社長に勝てないようじゃ鬼人がまたあぁなった時止められない。
「いきます、社長!!」
「いいわね!乗ってきたわ」
まずは大振りの蹴りを誘う――
僕から社長に向かい、蹴りでの迎撃を促す。
僕は地面を蹴り社長に向かう。距離にして五メートル、時間にするなら一秒二秒の世界。なぜかその一瞬はとても長く感じた。あの時みたいに嫌な感じはない。それなら――と突っ込んだのが失敗だった。
目の前に社長の右足のつま先が――
「……え」
防御しな、間に合わないっ!!この軌道は鳩尾に刺さる、せめてずらさなきゃ。
「ガッ」
僕は社長に蹴り飛ばされトレーニングルームの壁に向け大きな物音と共に叩きつけられた。
「あら、もしかして蹴りだから隙が……みたいな考えあったりした?まさか、対策してないとでも……?前蹴りって隙、少ないのよ。本来は距離を取る技だけど別にそれ単体でも威力はあるもの」
パラパラと小さな瓦礫が僕と共に地面に落ちる。
ずらせた、ずらせたけど……右肩に蹴りがささった…右肩が、上がらない。左手もなぜか力が入りにくい拳を握れない。
僕は右肩を押さえてよろよろと立ち上がる。
これで終わり……?こんな程度の僕を守るために脚だけでもこれだけ強い社長の腕を奪った?僕がこの程度だから、鬼人を止められなかった。もっともっともっと……まだやれる。熱は途切れてない。
自分への無力感を、怒りを糧に火を灯せ。熱を燃焼させるんだ。まだやれる。終わってない。こんな何も得れずに終わってたまるか――
「……まだ、だ」
「ん?チェンジャー何か言ったかしら。もしかして降参かしら?」
「――まだだ」
まだ終わらない。頭が自分への怒りで真っ白になる。こんなやつを救うために社長の腕は犠牲になったのではない。このままじゃ、僕は何も救えず終わっていく。右肩が上がらない?なるほど、なら左腕がある。まだ僕には走る脚だって考える頭だって残ってる。
僕は駆け出していた。社長との距離は十メートル、作戦なんて当然考えていない。九メートル、八メートルと近づいていく中、ふと社長の足元にゴム弾が転がっているのを見つけた。なんで……?もしかして、社長、あの場所から全く動いてない――?いや、それはいい今重要なのはあそこにアレがあることだ。
動かない右腕と左腕を叩き音を鳴らした。個性発動のトリガーだ。僕は社長の足元に移動していた。
「っ――」
次の瞬間には僕は指を鳴らし別の場所に置換していた。社長の反応速度ならそう、反応してくれると信じていた。敵が足元にいたなら踵落としがやりやすいだろうと。
そして、踵が地面に食い込んでいる今この一瞬。これは僕が待ち望んでいた隙だ。右腕は動かない。左手は握れない、それなら掌底で――右腕を下げたまま左足を踏み込む。左腕は捻りながら社長の鳩尾目掛け掌底を突き出した。
「っっっ!」
社長は避けれずその一撃を受けた。目を見開きふらふらと後ろに下がる。
「……やる、じゃない……まだ――」
社長は何を思ったのか壁に頭を打ちつけた。頭からは血が流れている。
「あー……危なかった。ノリすぎも良くないわね。うん、いい一撃だったわ。今の感じ再現できそう?」
雰囲気の落差に僕は呆然としてしまった。
「え?」
「あー、いきなりでごめんなさいね。終わり、十分よ。今のあなたの一撃、威力不足ってところはそれなら補えるって話」
「それはそうよ、拳でダメなら掌底で、こっちなら内部攻撃に近い物がある。外は鍛えて硬くできても内臓は鍛えられないからね。あなたはその方向で伸ばしなさいな」
「それに慣れない左で撃ったからなんでしょうけど変な癖もなかったわ。そう、今の感じ。脚の指先から力が上に上にと上がってくるあの感じ、少し何か掴めたんじゃないかしら」
「えっと、はい。なんかいつもより、なんて言えばいいんでしょう。すんなりと打てた……というか」
社長はふらふらしながら長椅子に座り込む。
「……ええ、それでいいの。あの脚の踏み込みを右手でも再現できるならより強くなれるわ」
「そうだったわ、サンドバッグ。今の感覚忘れないうちに一発やっときましょうか。倉庫にあるから持ってきてもらってもいい?」
「はい!」
僕は勇足で倉庫に向けて駆け出した。
「しょ、よいしょ、これ……意外と重いですね……」
僕はサンドバッグを引きずりながらやっとの思いでトレーニングルームまで運んできた。すでにもう汗だくだ。
「まぁ、そうね。五十キロあるし……」
「五十キロですか!?どうりで……」
社長は器用にサンドバッグを設置した。
「さてと……うん、この位置でいいわね。固定も大丈夫そう。さ、やってみて」
「分かりました」
えっと、右肩上がらないから左手で、左手も握れないからさっきと同じ感じになるよね。
まずは右足を前に左足を擦りながら前に出す。同時に捻っていた左手の掌底をサンドバッグに向け回転させながら撃ち放つ。この時腰の捻りも忘れずに。
「はっーー」
僕の放った掌底はサンドバッグに当たり重さにして五十キロもあったそれをトレーニングルームに一体に響き渡る音と共に大きく揺らした。
「ね?……大事でしょう?」
「……はい……」
ここまで変わるのか……あとはこの感覚を忘れず反復するんだ。右腕でも同じことができるように……
僕が覚悟を構いてる最中、社長が声をかけてきた。
「あー……うん。流石に無理だ、ふらふらするわ。ちょっと睡ちゃん呼んでもらってもいい?」
「あ、はい。すぐに!」
僕はミッドナイトを呼びすぐ社長の治療をしてもらえるよう依頼した。
社長はやはり病み上がりで本来あんな動きをしていいはずがなかった。もう少し早く教えて欲しかったと少しミッドナイトに注意された。社長は病院に逆戻り、少なくとも治療が終わるまでは病院から出られなくなったらしい。
[職場体験補講二日目 十八時]
僕は事務所入り口でミッドナイトと向き合っていた。
「さて、ちょっとバタバタして過ぎちゃったけど……これで、職場体験終了よ」
「本来はこんなものなのよ、危ないことなんてそうそう起きない。ヴィランだって暴れることはそう無いわ。それをね、体験して欲しかったの」
「あんな友達と戦うことやヒーローが重傷負うなんてことそうないの……」
「中断する前の職場体験一日目二日目も平和だったでしょう?だから、私たちはこういう平和な日常を守る為にヒーローやってるのよ」
「あとは――そうね。得る物、あったかしら?」
「――はい。ありがとうございました」
「うん、それならよかった。私も嬉しいわ」
そう言ったミッドナイトは夕陽に照らされながら満面の笑みを見せてくれた。
「あ、そうだったわ。最後に質問何かあったかしら」
「体験に関する質問ではないんですけど……」
「えぇ、いいわよ。どうしたの?」
「――鬼人、今どこで何してるとかって分かりますか?」
「――――」
僕の言葉を聞いた一瞬ミッドナイトの目が見開かれたような気がした。
今回も読んでいただきありがとうございます。
ガッツリオリジナルシーンの方が割と書きやすいですね
キャラが勝手に動くというか……なんかハイネスパープルあたりは原作よりオネェ要素マシマシになってる気が……
いつもありがとうございます!
感想とかなくても読んでくれる人いるってだけでモチベの維持ができますね!