いや、ちゃんと思い出して書いたんで。無問題的な。
暗いバーのような部屋の中、顔に手をつけた少年――死柄木弔がが二人の青年少女の前に座っていた。
死柄木は二人に指さして呟いた。
「…………黒霧、こいつらトバせ。俺の大嫌いなもんがセットで来やがった」
鋭く尖った犬歯、両サイドにお団子をつくり付け根から髪がハネている髪型の女子高生を指さし――
「餓鬼と――」
水色の瞳と無造作な黒髪、全身がケロイド状の皮膚で覆われた青年に指をずらす。
「――礼儀知らず」
「はあ?」
黒いモヤを纏った男性、黒霧が宥める。
「まァまァ……せっかくご足労いただいたのですから、話だけでも伺いましょう死柄木弔。それに……あの大物ブローカーの紹介。戦力的に間違いはないハズです」
右前歯のかけたマフラーをつけた男――義爛は煙草を吹かせながら、扉を開き部屋の中へ入ってきた。
「何でもいいが手数料は頼むよ、黒霧さん。――紹介だけでも聞いときなよ」
義爛はカツカツと歩き少女を親指で差した。
「まず、こちらの可愛い女子高生。名も顔もしっかりメディアが守っちゃってるが連続失血事件の容疑者として追われてる」
少女は満面の笑みを浮かべた。
「トガです!トガヒミコ。生きにくいです!生きやすい世の中になって欲しいものです」
「ステ様になりたいです!ステ様を殺したい!だから入れてよ弔くん!」
トガはどこかおかしいのだろう。死柄木は呟いた。
「意味がわからん。破綻者かよ……」
すかさず義爛がトガをフォローした。と、いっても出来ているかは怪しいのだけど。
「会話は一応成り立つ。きっと役に立つよ」
今度は火傷に覆われた青年に近づき――
「次、こちらの彼は目立った罪は犯してないがヒーロー殺しの思想にえらく固執してる」
青年はため息をついた。
「不安だな……この組織は本当に大義はあるのか?まさか……このイカレ女入れるんじゃねえよな?」
死柄木は不快そうに青年に促す。
「おいおい、その破綻JKすら出来ることが……お前は出来てない。まず名乗れ、大人だろう」
青年は目を閉じて面倒くさそうに告げた。
「今は……荼毘で通してる」
「通すな、本名だ」
「出すべき時になったら出すさ。とにかく――ヒーロー殺しの意思は、俺が全うする」
死柄木はふらっと立ち上がった。
「聞いてないことは言わないでいいんだ。どいつもこいつもステイン、ステインと……」
「いけない死柄木……!」
死柄木の頭につけた手の指の隙間から、見開かれた眼球が見えた。
「良くないな……気分が――よくない」
「――駄目だおまえら」
言葉と同時に死柄木の手が二人に伸びた。
二人も当然、反撃しようと手を動かした――
されど、その手はお互いに届かず、黒霧の個性ワープゲートによって遮られていた。
「落ち着いてください死柄木弔。あなたが望むままを行うのなら組織の拡大は必須」
黒霧はモヤとなり死柄木に近づく。
「奇しくも注目されていふ今が拡大のチャンス。排斥ではなく受容を、死柄木弔」
「利用しなければ全て……彼の残した思想も全て……」
「………………うるさい」
黒霧の言葉に一理あると思ったのか死柄木は手を引き、そのまま部屋から出ようと歩き出した。
「どこ行く」
「うるさい!」
扉から出ようとした時、彼の肩が誰かの肩とぶつかった。
「おっと、痛いじゃないか」
死柄木はぶつかった少女――カイに対して睨みつけたかと思うと、そのまま手を伸ばし首を掴んだ。
「ん?はぁ……やれやれ。これだから最近の若いやつは――」
「お前も――似たような歳じゃねぇか」
死柄木はカイを睨み個性を使おうとした――
――したのだ、だが…………触れている箇所に変化がない。
「……なんで……」
目を見開き茫然としている。
「あれ、俺前に言わなかったっけ……お前の個性じゃ、やれねぇよって――」
カイはそう言いながら死柄木の胸を軽くトンと押した。
「……クソッ!」
死柄木は悔しそうに唇を噛むと部屋の奥、暗闇に向かって歩き出した。
カイが扉の中に入ると部屋の空気が凍りついた。誰もがカイから目を離せない。
「お、可愛い子いるじゃーん!ね、ね、何て名前なの?キミ――」
カイに話しかけられたトガは伸ばされた手を払うと何故か嫌悪の表情を浮かべている。
「……あなた……嫌いです」
「ありゃ、残念……んー、お。そこの火傷のイケメンくん?キミは何て名前なの?」
「……荼毘……だ……どっかに行ってくれ……」
「ぶーぶー……何だよもう……新人来たって聞いたから観に来たのにみんなしてさー。つまんね……」
「はぁ、帰ろ。いいもんねー……隷くんの写真見て癒されるもんねーだ……ばーかばーか、お前らなんて嫌いだっ」
カイが悪態をつきながら部屋の外に歩いていく。
「「…………」」
彼ら三人は無言のまま。まるで地球外の生物でも見るような目でカイの出ていった扉を眺めている。
耐性のあまりない義爛は膝から崩れ落ち地面に手をつく。
「っ――はぁっ、はぁっ……なんだよ、あれ。何であんなのがここにいるんだよ……」
トガは自分をかき抱くように震えながら縮こまっている。
「っ、怖い、怖いです。なんですか、アレ。何で弔くんはあんなのと平然として話せるんですか……」
荼毘は一見平然に見えるが、握り込んだ両手の拳から血が滴っている。
「……………………気色……ワリィ……」
黒霧もいつもより身体のモヤが広がっているように見える。まるで、いつでも逃げれるように準備していたように……
「いやはや……何度見ても……慣れ、ませんね。あの訳のわからなさ。先生の……お気に入りだけ、あると言うことですか……本当に、恐ろしい」
「申し訳ないですが……返答は後日、でもよろしいでしょうか……今はそう言う気分でもないでしょう?それに――」
「彼も自分がどうすべきかわかっているハズだ……わかっているからこそ何も言わず、出ていったのです……オールマイト、ヒーロー殺し……もう二度鼻を折られた」
「必ず……導き出すでしょう。……あなた方も、自分自身も納得するお返事を――」
♦︎♦︎♦︎
教室の中、芦戸さん、上鳴くん、切島くん、砂藤くんの四人が沈んだ表情で顔に影を落としていた。
「皆……土産話っひぐ、楽しみに……うう、してる……がら!」
「まっまだわかんないよ。どんでん返しがあるかもしれないよ……!」
「緑谷、それ……口にしたらなくなるパターンだ……」
上鳴くんは絶望のあまり緑谷くんに詰め寄っている。
「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに地獄補習!そして俺らは実技クリアならず!これでまだわからんのなら貴様らの偏差値は猿以下だ!!」
瀬呂くんが答えた。
「わかんねぇのは俺もさ。置換と峰田のおかげでクリアはしたけど……寝てただけだし。とにかく採点基準が明かされてない以上は……」
「同情するなれなんかもう色々くれ!!」
予鈴が教室に響く、それと同時に勢いよく扉が開かれ相澤先生が立っていた。
「予鈴が鳴ったら席につけ」
「おはよう、今回の期末テストだが……」
教室が静まり返る。その静寂の中、ごくりと誰かが息を呑む音がした。
「残念ながら赤点が出た。したがって――」
相澤先生が目見開いた。
「林間合宿は、全員、行きます」
A組ほぼ全員の歓喜の声が教室にこだました。
「「「どんでんがえしだあ!!!」」」
やった、みんなでいけるんだ。よかった……
「筆記の方はゼロ。実技で切島・上鳴・芦戸・砂藤……あと瀬呂が赤点だ」
「行っていいんスか俺らあ!!」
「今回の試験、我々敵側は生徒に勝ち筋を残しつつどう課題と向き合うかを見るよう動いた。でなければ課題云々の前に積む奴らばかりだっただろうからな」
尾白くんが相澤先生に問いを投げかけた。
「本気で叩き潰すと仰っていたのは……」
「追い込む為さ、そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点とった奴こそここで力をつけてもらわなきゃならん――合理的虚偽ってやつさ」
「「ゴーリテキキョギイィーーー!!」」
飯田くんは悔しそうに震えている。
「また、してやられた……!さすが雄英だかし!二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!!」
「確かになる、省みるよ。ただ全部が嘘って訳じゃない。赤点は赤点だ。おまえらには別途補習時間を設けてる」
「ぶっちゃけ、学校に残っての補修よりキツイからな。じゃあ合宿のしおりを配るから後ろに回してけ」
相澤先生のその言葉を聞いた補修組は歓喜の表情から一転、悲哀の表情へと転落した。
うわぁ、可哀――ごほん。瀬呂くんほんとごめんね……
話を切り替えるように尾白くんが話を振ってくる。
「まぁ、何はともあれ全員で行けてよかったね」
「だね!僕もみんなで行くの楽しみだったし嬉しいや」
「一週間の強化合宿か!」
「けっこうな大荷物になるね」
「暗視ゴーグル……?」
「水着とか持ってねーや。いろいろ買わねぇとなあ」
葉隠さんがいいことを思いついたと手をポンと叩いた。
「あ、じゃあさ!明日休みだし、テスト明けだし……ってことでA組みんなで買い物行こうよ!」
それぞれワイワイと盛り上がっている。
「おぉ良い!!何気にそういうの初じゃね!?」
「おい爆豪、おまえも来い!」
「行ってたまるか、かったりィ」
「轟くんも行かない?」
「休日は見舞いだ」
「ノリが悪いよ空気を読めやKY男共ォ!!」
そして僕も、やばいめっちゃ楽しみだ。
何せ僕に友達は少ない、そう、こんな青春的イベント逃せるわけがない!あ、ぼっちじゃないよ、うん。ぼっちじゃないし……尾白くんと葉隠さんは仲良しさんだし……今は話せないけど鬼人だって僕の友達だ。
♦︎♦︎♦︎
そんなこんなで翌日。
僕は朝から――眠かった。
端的に言えば楽しみすぎたのだ。お出かけ前の子供のように、次の日が楽しみすぎて寝れなかった。何をしよう、何を買おう、何を話そう頭の中には様々なことが駆け巡りそう、寝たのはなんと朝の八時。そして集合時間は――十時だ。
照り輝く日差し、横にはクラスのみんなが――いなかった。
そう、僕は寝坊した。目が覚めたのは十時、すぐに電話し、超速で身支度、現地に着いたのは十時三十分。待ってくれていたのは――尾白くんだけだった。
僕のどんよりと沈んだ表情をみて不憫に思ったのか尾白くんは僕の肩に手を置く。
「おはよう、置換……あー、うん、ドンマイ……」
「ま、まぁ、そういうこともあるし!人だからな寝坊くらいしちゃうって」
全力で慰めてくれている、それはわかる……だけど僕の心は悲しみで覆われている。
「ぐすっ」
「あー、あー!そうだ。ほら、えっと、アイス!あっちにアイスの店ある!ちょい並んでるけど買ってくるわ!待ってて!」
いや、自分が悪いのは分かっているのだ。ちゃんと寝ておきればよかっただけなのだから。尾白くんには悪いことをしてしまったかもしれない。
楽しみだったのだ。めちゃくちゃ凹むくらいには……そう、こんなクラスのみんなと青春するチャンスそうそう訪れるものではない。なぜ、やらかしてしまったんだ僕は……
自身の頬を両の手で叩く。これで終わり、ウジウジするの終わりにする。尾白くんが戻ってきたら謝ろう。というよりまだ今日は始まったばかりみんなと合流すればいいだけじゃないか――
僕は気持ちを切り替えるために辺りを見渡した。先ほどまで聞こえていた喧騒がない。
「…………?あれ?さっきまで人がたくさんいたのに……なんで?」
ショッピングモールの中から……いや、厳密には僕の周りから人が消えていた。
パシャリとカメラのシャッター音が聞こえた。フラッシュが焚かれ、眩さのあまり瞼を閉じた。
静寂に包まれたショッピングモールの中、少女の声が聞こえた。
「やったぜ、隷くんの茫然顔ゲット!んー、いいね、やっぱり写真もいいけど本物が一番だわ」
声が聞こえた。まだ視界は帰ってこない。だけどこの声は――
「え……」
鬼人をああした元凶、社長の腕の仇。僕は怒りのまま叫んだ。
「――カイ!!」
「おぉー!大・正・解!!名乗ったのは一回なのに覚えてくれてはなんて……まったく――運命、感じちゃうぜ」
とても嬉しそうな声は聞こえる。しかし視界が戻らない。だから、カイがどこにいるのかわからない。今は視界が戻るまで時間を、稼がないと……
怒りを呑みこみ、理性を取り戻す。
「……それで、どうしてこんなところに?」
「ん?いやな、ふと服が欲しいなーと思ってさ。ここに買い物きてみたら隷くんいるじゃん?これはもう運命っしょって話しかけちゃった」
「しかも、新しい写真も撮れたしもう最高の日だね。少し前になんか嫌な思いしたけどもう、これだけで幸福度リセットだわ、いやむしろプラス的な?」
何故かカイは僕に友好的だ。もしかしたら情報を引き出せる……?そしたら、鬼人も――
「そう……なんだ。……ねぇ、キミはさ、何でそんなことやってるの?」
「そんなこと?あ、もしかして写真?あ、違う?じゃあヴィラン活動のことかな」
「うん、そうだね」
「理由……んー、理由かぁ。特に考えたことはなかったけど……今は協力してって頼まれてるからかなぁ」
「協力?誰に……?」
もしかしたらこの子は悪い子じゃないのかも――
「あー、なんだっけあの顔の潰れたおっさんの名前。えっと、個性奪う個性持ってるあのおっさんだよ。あ、そうそう、アフォだ。アフォ!」
「アフォ?」
「そうそう、アフォ。なんかあのおっさん、僕は悪の魔王になりたいんだとか厨二みたいなこと言ってるんだよな。ばっかみて。あっはっはっ!」
アフォと呼ばれるおっさん……それが黒幕……?
「じゃあ、なんで協力なんてしてるの……?」
「もうっ、めっちゃ聞いてくるじゃーん、なに?俺のこと好きなの?しっっかたないなぁ。んで、またまたなんでかー」
「何故協力してるか――うーん、面白いから?ほら、人ってさ。嫌なこととかつまらないことはしたくないじゃん?楽しく面白おかしく生きてたいじゃん?力を得たなら使いたいじゃんか」
「あとは、玩具で遊んで壊れたら片してくれるんだよねあのアフォ。なんでものーむ?ってやつの材料にするとかなんとか……興味ねーから知らんけど……」
面白いから、力を使いたいから、玩具を片してくれるから……?
面白いことをやっていたい――これは理解できる。楽しいから続けられる。面白いって感情は大事だ。
力を使いたいから――これもわからなくもない。強い力を得たら使いたくなるだろう。どんなことが出来るのか、何が出来ないのか、どんな応用が?どうしたらもっと強くなれる?出来るならやりたくなるし……とまだわかる。
玩具を片す――これは、何を表している?この玩具は何を比喩して……
ふと職場体験のことを思い出した。
♦︎
鬼人の姿を見つけ僕は嬉しさのあまり声をかけた。……声をかけてしまった。
「鬼人!!」
僕の声に反応して鬼人が僕へと視線を向けた。
「隷……」
鬼人に出来た一瞬の隙。少女が嗤った。
「ありがとう……君のおかげで目的が達成できそうだよ――」
鬼人に女の子が迫り――触れた。
「しまっ――」
「はい、おしまい」
一瞬の出来事だった。鬼人の意識の間をついて少女が触れた。ただそれだけだったのに、徐々に鬼人の身体が黒く染まり頭の角が大きくなっていく。
「あ、が、ガ、レ、レ……イ」
「鬼人!!」
「下がって!チェンジャー!!」
「うんうん、やっぱりこういうのもできるんだね俺の個性は……となると」
「お前、鬼人に何をした!!!」
僕は社長の言葉を無視し怒りのままぶつぶつと何かを言っている少女の胸倉をつかみ詰めよった。
♦︎
僕は最悪の想像を前に震える声で呟いた。
「玩具……?」
「そそ、玩具。この前のはよかったよね。あのゴツいのえーと、なんだっけ……おにーと?あの玩具さ、なんかめっちゃ抵抗してきてさ〜。ま、それも隷くんのおかげでやりたいこと出来たんだけど」
カイは愛の力だね!とぴょんぴょん飛び跳ねているのか声の聞こえる位置が安定しない。
溢れ出る怒りを、さらに呑み干し。
「ねぇ、何を、したの……?」
「いやね、今回俺の個性どこまで出来るかなーって思って……ちょうどいい玩具も見つけたからさ、戻してみた」
「戻し……た?」
どういうこと?なんで戻して鬼人がああなる?
「そうそう、いやぁ、やっぱり俺天才よね!あんなことできるなんて。………………あ、これオフレコでお願い。そういやアフォに言うなって言われてたわ……」
「あんなこと?」
「そうそう、あ。もう、ダメだよ隷くん。レディーの秘密探っちゃ。俺だって約束は守るんだから――もう言わないもんね!」
そう、か。もうこれ以上は引き出せなそうだ。
…………おかしい。なんで、視界がまだ戻らない?カメラのフラッシュを焚かれたくらいでこんなに視界が閉ざされることがあるのかな……
「ねぇ、もう一つだけいい……?」
「ふぅ、仕方ないなぁ。答えるかは置いといて聞いてもいいよ?もう、キミだけなんだからねこんなに優しくしてあげるの」
「僕の目に、何かした……?」
カイの声がうわずる。
「あー……いや?シテナイヨ?そんなまさか、視線向けられるのが恥ずかしいとかそんなんじゃないよ?もうすぐ元に戻るんじゃないかな?うん、きっとそうだよ」
「あ!それじゃあ……俺用事思い出したから帰るね!ばいびーー!!」
走り去る足音が消えたかと思うとまた喧騒が帰ってきた。景色はまだボヤけているが、だんだんと視界も戻ってきている。
カイのヴィランをやる理由、カイの個性、カイの好感度のわけ、アフォとは誰なのか、鬼人は戻せるのか。考えが頭の中を巡る。
「おーい、置換!アイス買ってきた!食うだろ?」
「うん、ありがと」
僕は自分の中でいろんな感情がごちゃごちゃしている中、なんとか尾白くんに返事をしたのだった。
今回もありがとうございます
次回は…ん?さては来週…?