推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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えー……はい。性癖を爆発させすぎたと言いますか……ごめんなさい。ちょっとグロい可能性が…‥無きにしも非ず。
うん、自己責任でお願いしますね。


35話 幕引き

 

 目の前には拳を振り抜こうとしている黒鬼。

 そして僕は左拳を振り抜き無防備な姿勢。ここからでは個性を使ったとて到底間に合わない。

 

 僕は数秒後に訪れる現象に少しでも抗おうと全身に力を込め歯を食いしばる。

 瞬間――僕の目の前から爆音が響いた。

 

「っ――」

 

 僕の目の前にいたはずの黒鬼は消え――

 何故か、カイがまるで僕を庇うように僕の前に右足を振り抜いた状態で立っていた。

 

「ほんとさぁ……何やってんの……?」

 

 世界が震える。カイが発するあまりの圧力に立っていることすら一苦労だ。でも、こいつを前にして膝を折るわけにはいかないと――残る力を振り絞り僕は大地を踏み締めた。

 

 カイは両手で髪を掻き乱しヒステリックに叫んだ。

「食うなって言ったよなぁ……!!?肉の一片、髪の一本すら俺のモンだから食うなってよォ!!!」

 

「てめェの役目は隷くんに殺されることだろうがッ!!!」

 

 黒鬼は胸に大きな足の跡を残し木を何本もへし折り止まる。やつの腹が嫌に膨らみ再び爆発音が響く。

 

「クソが、俺の隷くん食っ――」

 

 僕の視線に気づいたのかカイは咳払いをした。

 

「ごほん……あ、大丈夫だった?痛かったよね」

 

 

「――は、?」

 意味がわからない。僕に恨まれたいといいつつ僕を庇い救う。挙げ句の果てには心配すらする。

 どういう思考があればそうなるんだ?

 

「そうだ、隷くん来た時からボロボロだったもんね。それはフェアじゃなかった。うん、そうだ」

 

 お前が、連れてきたからこうなったのに、フェアじゃなかった……?何を言っている?しかし変わらずカイの圧は僕を……いや全てを押し潰そうとしておりそれは言葉にならない。

 

「ちょっと、待ってて」

 

 その一言と共にカイは僕の前に深く大地に刻まれた足跡を残し消えた。

 

 この一瞬で辿り着いたのかカイは黒鬼の前に立っていた。カイの腕が一瞬ブレたかと思うと黒鬼の右腕が宙を舞う。左腕、右脇腹には穴が開き、全身に切り傷がつけられた。

 

 

「――――――」

 

 それだけじゃないカイは何かを言うと、黒鬼の――鬼人の右目に指を沈ませた。

 嫌な想像が脳裏によぎる。

 

 

 何をする……?何をする気なんだ。やめろ、やめて、やめてくれ、やだ、やだよ、お願いします。まだ元に戻るかもしれないんだ。これ以上鬼人を傷つけないで――

 そんな言葉は口から出ることはなく……無音の世界が広がる。

 

 

 音のない世界に何かを引きちぎる音、そして何がつぶす音、そんな音が響いた。

 

「うっへぇ、ばっち。きったねぇ」

 そんな声が聞こえた。手をぷらぷらと振っている。

 振っている手からは赤い何かと白い何かが飛び散っていた。

 

「あっ――」

 ピキ――と僕の心のどこかにヒビが入った音がした。

 

 

 カイはこちらを振り返ると満面の笑みを浮かべ、指でVサインを作り見せてきた。そこだけを切り抜いたならまるで普通の女の子だ。友達に、恋人にでも見せるようなそんな笑顔。

 

 僕が瞬きをした直後黒鬼の前に立っていたはずの彼女は――暗闇に赤い双眼を浮かばせながら僕の目の前に立っていた。

 

「――え?……な、……んで……」

 

「いやぁ、腹たっちゃってやっちゃった。でも――」

 

 ちょうどいいんじゃない?お互いボロボロで――フェアでしょ?隷くんのカッコいいとこ魅せてよ。

 カイのそんな声が聞こえた気がした。

 

「――ァァァァァァァァァァアアアアアア!!!」

 黒鬼の声が反響する。視線を向けると黒鬼は立ち上がっていた。どうみても満身創痍だ。身体中は傷だらけ、右腕はなく左腕、右脇腹には穴が空いている。それだけじゃない、右目だって――

 

「あ、れ……?黒鬼の……身体が――」

 

 右目は欠けたままだ。でも身体を染めていた黒色が少しだけ引いている。人肌に戻ってきていると言ってもいいかもしれない。

 

 残っている左目がぐるんと周り僕に視線を向けた。

 視線上にはカイもいるが何故か視界に入っていないようだ。

 

「さぁさぁ、隷くん。あの鬼はいま身体を治すために肉を欲している。ここに手軽に補給できる肉は一つだけ。そう、一つしか……ないね?」

 

 カイは両手を広げくるくると回っている。

「今度は助けないよ。さっきはまさか君があんなことするとは思ってなかったからさ、つい……助けちゃったんだ。万が一にも君がアレに食べられるのは嫌だからさ」

 

「――もし、死んじゃったらこの世界じゃ俺が保存してあげる。勝てたならご褒美あげよう。うん、そうしようか」

 

「じゃ、頑張って。俺は影から応援してるよ」

 

 そう言い残すとカイは僕の右腕の残骸と共に音もなく消え、ここにいるのは僕と黒鬼だけになった。

 

 黒鬼は声にならない咆哮をあげ僕の方に駆け出した。

「◾️◾️◾️◾️◾️◾️!!!」

  

 

 遅い、明らかに。先ほどとは比べ物にならないほどに……まるで人間にでも戻ったかのような速度だ。これなら今の僕でも制圧できる。

 

 

 左手で足元の小石を拾い黒鬼に向かって投げた。黒鬼は躱す様子すら見せない。当然小石は命中しその身体に弾かれた。

 

 個性を使用しその小石と置換する。

 黒鬼の後ろに移り掛け声とともに背部へ掌底を命中させた。

「はぁッ!!」

 

「ッ――」

 黒鬼もすかさず背後に左の裏拳を放つ。しかし、僕はすでに回避行動に移っている。身体を逸らしその裏拳は空気を薙いだだけに終わる。

 

 黒鬼の左の大振り、僕はその攻撃を左手で逸らすとそのままの流れで穴の空いた右の脇腹に掌底を撃ち込む。

 

「ガッァァァァァ!」

 黒鬼の脇腹から嫌に赤い血が溢れる。呼吸もだんだん荒くなってきた。しかし、黒鬼は止まらない。僕に対し手を上空に掲げたと思うとそのまま地面へ叩きつけた。

 

 地面に蜘蛛の巣上のひび割れが走る。そして今、宙には砂、小石、木片が舞い上がった。

 それを利用する。使えるものはなんでも使うんだ。手段を選ぶ余裕はない。

 

 それに……一撃も受けるわけにはいかない。僕もすでに限界を超えている。一撃を受けた時点で倒れる確信があった。

 

 個性の連続使用による撹乱。ここからの奇襲……

 昔、全く同じ事を考えたような――

 

 

 もしかして――

 一つの可能性に辿り着いた。あえりない可能性。もしかしたら起こり得る可能性。この世に100%はなく、この世に0%はない。人が想像し得ることは全て実現可能な範疇である。

 

 可能性が僅かでもあるのならと――

 声を出すのも辛いけど……出し得る限りの大声を上げた。

「……ねぇ!!鬼人……そこにいるんでしょ!!!?」

 

「――――」

 返事はない。

 

「ねぇ!――鬼人!!!」

 

「――――――」

 変わらず返事はない。でも、僕の願望かもしれないけど黒鬼の――鬼人の眉が少し動いた気がした。

 

「分かってるんだよ!帰ってきてるんだろ!返事してよ……」

 

 不自然に鬼人の身体の色が黒に戻っていく。

「…………ガ、グァァァァァッ!!」

 

 再び身体が黒一色の硬い外皮で覆われた。

 その片目に理性の欠片は見えない。

 

「なんでだよ。なんで…………」

 

 鬼人の気持ちがわからない。他人なんだから当然。だけど誰よりも一緒にいた友達なんだ。少なくともあの瞬間、鬼人は確かにここにいた。

 

 もう怒った。キレた。ブチギレだ。

「もういい――ぶん殴って気絶させて連れ帰って、説教してやる」

 

 未だ撹乱は続けている。黒鬼は僕を捉えられていない。

 最後だ。これで最後。人体の急所、頭部を狙う。脳を揺らせば動けなくなるんだから――

 

 黒鬼の背部へ置換し移動。

 今度は失敗しない。

 

 流れるような一連の動作で黒鬼の後頭部へ一撃を――

 

 黒鬼の口角が上がる。まるで思い通りに行ったと喜んでいるような――

 それが僕には懐かしい鬼人の笑みに見えた。

 

 本来後頭部へ当たるはずだった一撃は――

 黒鬼が振り返ったことで命中箇所を変える。

 

 

 

 

 そう、それは――黒鬼の抉り潰され穴の空いた右眼。

 

 世界の動きがまた緩やかに――

 永遠のような時間。自身の手で友達にトドメを刺すことになる。それがわかる。

 放たれた一撃は止まらない、止められない。

 

 い、いやだ。そんなことしたくない。

 

 僕の思考とは裏腹にその拳は着々と鬼人に近づいていく。

 

 どうすれば、どうすれば……逸れる――?

 

 世界は停滞し、だが止まることはない。僕の脳内はかつて無いほどの思考を巡らせる。

 

 個性は使えない。間に合わない。放たれた拳を止める事はできない。思考を巡らせれば巡らせるほど脳内に占める不可能の文字。

 

 ぐちゅり、そんな音と共に眼窩に僕の拳が食い込む。沈む、沈む……拳はさらに奥深くへ。止める事はできない。

 

 眼窩を進みその奥にある骨を砕く感触。砕けた骨が拳に刺さる……それでも止まらない。

 

 とまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれとまれ――

――お願いだから……止まってくれ。

 

 放たれた銃弾は止まらないように。拳もただただ突き進む。柔らかいものを潰した感触。さらに進みまた硬いものを砕いた感覚。

 

 すでに僕の前腕はその右眼に半分飲み込まれている。

 

 目の端で鬼人の口元がなにか動いた気がした。

 

 直後、僕の目の前で"それ"は弾けた。

 まるで破裂した柘榴のように。

 

 ポツポツと雨の雫が地面を彩る。

 次第と雨は強くなり――

 

 ぼくが、ぼくのてで、このこぶしで……

 

 僕は足に力が入らず膝から崩れ落ちた。

 目の前のモノも膝をつきそのまま前のめりに倒れた。

 

 ともだちを――

 

 心のヒビが大きくなりやがて亀裂となる。

 鬼人との楽しかった思い出が走馬灯の様に駆け巡った。

 そして――全て砕けた。

 

 ぼくが――ころした。

 

 僕は膝をついたまま受け身も取れず前に倒れ込む。

 涙のひとつも出ない。何も考えたく無い。

 

 あぁ……冷たいなぁ。

 

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 遠くでパチパチと手を叩く音が聞こえた。

 

「うんうん、やったね隷くん。じゃあご褒美だ」

 地面に伏してぼんやりとした意識の中、その言葉だけが耳に残った。




ある世界でのお話。

うっわ、やったよ。
本当にやってくれたわ。あの子ほんとに消さないで良かったぁ。
うんうん、アレに能力あげたのはいいんだけど全然活用出来てないからさ。ほんと助かったよ。
あの時君を見逃してよかった。◼️ちゃん。

じゃあ、ここが君にとっての第一関門。乗り越えられればよし乗り越えられなければ次の君だ。
楽しみにしているよ。置換隷くん。
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