明るい話書こうと思ったんすけど隷くんのメンタル的に……無理じゃね?と。
またまた暗いお話。
次回くらいには彼にもいいことあるさ……
37話 謎と離別
「置換……お前、右目――そんな赤色だったか?」
尾白くんのその言葉が病室に響いた。
右目が疼く。
そうだ、ずっと右目が痛かった。なんで……?
しかも、赤い目?どういうことだろう……自分の目を確認しないと――
「ふ、二人とも!えっと、鏡もってない!?」
「わ、わりぃ、もってねぇ……」
「あ、私もってる!はい、置換くん!!」
葉隠さんがカバンに入っていたポーチから小さな手鏡を取り出して僕に向けた。
そこには普通の黒の瞳の左目と……なぜか赤い右の瞳が映っていた。
「あ、赤い……?なんで……?」
葉隠さんから鏡を受け取りそのまま自身の瞳を覗き込む。おかしい、どう考えても赤い。
それに、意識し出してからおかしい。二人に被さってへんなモヤモヤが蠢いている……
「?……ねぇ。この鏡に映ってる。白い……影、いやモヤモヤしてるのって……何?」
「「?」」
二人は疑問符を浮かべてる。
「えっと、僕だけじゃなくて――二人にも被さるようにモヤモヤしてるから……」
「え、なになに!?幽霊!!!?やめて!!!?怖いよ!!!??」
「えっと、置換。あんまりそういう冗談は好きじゃないな……」
……え?二人には見えてない……?
ならこの僕に見えてるモヤは何……?なんで見えるようになった?
僕は確認のため二人に尋ねた。
「ねぇ……?本当に見えてない……?」
「う、うん……」
「あぁ……」
本当に幽霊……?まって、よく見たら人だけじゃない、壁にもベッドにも鏡にも、ありとあらゆるモノにモヤがかかってる――
「え……?」
いや……まって、このモヤのかかり方どこかで見た記憶が――
どこだ。いつどこで見たんだ?
思考を巡らせるが、思い出せない。
「……換!……置換!大丈夫か……!?」
「……くん!……置換くん!大丈夫……?」
「……?あ、あぁ……ごめん、尾白くん、葉隠さん……」
何か、このモヤモヤをどこかで見た記憶があって――
やっぱりダメだ。今は思い出せなそうだ。
「なんでも、ないんだ」
「そっか、ならよかったわ」
「あ、そうそう、なんかね!家庭訪問があるんだって置換くんは……今こんな感じだし最終日にするって相澤先生が……」
「あ、そうなんだね。教えてくれてありがとう」
「さて、葉隠。俺たちもそろそろ帰ろう。置換も身体休めたいだろうしな。それじゃ――」
「そうだね!それじゃ置換くん。また――」
二人は笑顔を浮かべて言った。
「「また、学校で!」」
そう言って二人は病室から出ていった。
「うん、ありがとう、二人とも――さよなら」
あぁ、嬉しいな。
でも。僕には二人の友達でいる資格――ないや。
ヒーローになりたくても、みんなを、あの人を守りたくても……もう人を殺しちゃったんだ。
もし、もし、二人を、どちらかでも傷つけちゃったらもう立ち直れない。
だから、二人とも、みんなとも――距離を置こう。
学校は変わらず行く、知識と力を蓄えるために。
僕は一人、みんなを守る。
ここから起こり得る脅威。
ヴィラン連合、脳無、オールフォーワン、どれも……まだ終わってない。
こんな子供が何言ったって信じられるわけはないし――まして僕は人を殺している。信用されるわけがない。
鬼人は言った。
テメェが救え、俺が救えるはずだった分を。テメェの好きな女を――それが贖罪だ。
一人も一欠片も溢すんじゃねぇ。……と。
だから、僕はみんなを守ろう。鬼人の遺言通りに。自分よりも誰かを、いつか誰かを救って死ねる時まで――
♦︎♦︎♦︎
看護師さんに確認するとまだ退院はできないらしい。
だから、病室にいる間僕は筋トレを始めた。
はじめた直後は何度も看護師さんに止められたけど、もう何も言われないから……まぁ、諦められたのだろう。
利き腕を失い、バランス感覚が狂い、力が足りない。だから、筋トレ。それに、片手での腕立てであればバランス感覚と同時に筋力も鍛えることができる。一石二鳥――非常に合理的だ。
モヤについても観察していて少しわかったことがある。
どうやら、モヤが見えるのは右目だけみたいだ。左目だけを開くと普通の景色が広がるだけだった。
右目を開いている時あらゆるものにモヤが見えるようになる。やはり、この見えているモヤがなんなのかはさっぱりわからない。
そして、モヤと一括りにしているが実は二種類あることもわかった。
人などの生物のモヤは蠢いている。常に形を変え続けていると言ってもいい。
逆に無機物のモヤは固定されている。動くことはない……はずだ。
まだ観察を始めて初日、例外はあるかもしれない。
断言することはできないが概ね生物のモヤは動き、非生物のモヤは動かない――で確定だと思う。
まぁ、結局モヤと右目の正体が何なのかわからないのは一緒である。
部屋から出れないがミッドナイト先生に昨日話を聞いた感じ、かなりヒーロー科の先生やプロヒーローは忙しそうだ。
それでも、何とか時間を作ったのか、髪の毛を整えスーツ姿でビシッと決めていた相澤先生が来た時は不謹慎ながら笑いそうになってしまった。
相澤先生からはヒーロー科を続けるつもりはあるのか、そして僕がこうなったことに対する謝罪を受けた。全力でサポートする……とも。
全て僕の自己責任なんだから……そんな必要ないのに……とは思ったが口に出すと揉めることになりそうだったのでヒーローにはなりますと伝え、後は愛想笑いで乗り切った。
どこかで聞いた、この世の不利益は全て当人の能力不足とはよく言ったものだと思う。
ありとあらゆる事象の不利益は基本的に全て当人の能力不足だ。
僕が腕を失った。それは僕が弱かったから。
鬼人を殺してしまった。それも僕が鬼人を制圧できる力を持たず、手段を思いつかなかったから。
じいちゃんがもうすぐ死んでしまう。僕がもっと早く気づけばそんなことはなかったかもしれない。
僕が捨てられたのは?普通の子供じゃなかったから。普通の子供でいられたなら捨てられなかったかもしれない。
たらればなんて意味がない、必要なのは結果。頑張ったでも、何も成せなかった。それじゃあ意味がない。何の価値もない。昔と違い、少なくとも今の僕はそう思う。
運がなかった?そうだね。でもこんな言葉あるんだ、運も実力の内。だから運を持ってない自分が悪かったんだよ。
極論だってわかってる。でもそうやって自分を責めなきゃ動けないんだ――遺言で身体を動かすしか……そうしなきゃ友達をこの手で殺したことを受け止められない。壊れてしまう、いや、もう僕は壊れ始めているのかもしれない。
思考がマイナス方向に沈んでいく。
あぁ、ダメだ。身体を動かさないと考えたくないことを考えてしまう。筋トレを再開しよう――
病室にノックの音が響き、そちらに顔を向けた。
「えっと、置換く――ん?……きたよー……?」
「お疲れ――置……、置換?……何してる!?休めって」
二人が勢いよく近づいてきた。
「なんでなんでなんで!?片手で筋トレしてるの!?休みなよ、休んで!?」
「いやいや、置換休めよ。な?今は心も身体も休める時だって――」
あぁ、そうだった。昨日は直接言えなかったからこの二人に、言わないと――
僕は腕立てを止め二人に話しかけた。
「僕……ほら、弱かったからこうなったからさ。」
なくなった右腕を持ち上げ、長く垂れた袖が揺らめく。
「もっとちゃんとやろうと思ってね」
言いづらいけど、言わなきゃ。
「二人とも今まで仲良くしてくれてありがとね。これからは僕に関わらなくていいから――」
「――え?置換くん……?」
「――?何言ってるんだ。置換」
「うん、僕はこれから一人で頑張るから――これからはただのクラスメイトとしてよろしくね」
「「………………」」
病室に静寂が広がる。
「んー、いきなりだったね。とりあえずもう来なくて大丈夫だよ。僕なんかに時間使ってちゃ、もったいないでしょ?」
「みんなは、立派なヒーローになるんだから――」
僕と違って立派なヒーローに――
葉隠さんは見えないけど、尾白くんは真剣な表情で拳を握りしめている。
「…………」
「なぁ、置換。なんかって、何だよ。僕なんかって――」
「心配しちゃ悪りぃのかよ。そりゃ俺たちまだ雄英入って数ヶ月の関係だよ。学校とたまに放課後遊ぶくらいの関係だよ」
「だけどさ、友達……だろうが!鬼瓦とは比較にならないかもしれないけど――友達だろ!!」
「うん、僕もそうだったらいいなって思ってた」
でもね。
「でもさ、無理だよ。鬼人を殺しちゃったんだから――もう、前と同じではいられない」
「「っ――」」
「僕は罪を償わなきゃいけない。鬼人の分まで誰かを救うんだ。どこかの誰かや……それができなくなっちゃった鬼人のために――」
尾白くんは口を閉じ諦めたように握っていた拳を解いた。
「っ!――っ、っ……」
葉隠さんは気まずそうに服が動いている。
「えっと、う、ごめんね置換くん。言いたいことはあるんだけど……うん。今言うと喧嘩になっちゃいそうだからさ――」
「いこ、尾白くん。置換くんまたね」
「あぁ……」
僕は淡々と告げる。
「二人とも――さよなら」
「「っ――」」
そのまま扉を閉め二人は病室から出ていった。
これでいい。これでいいんだ。距離を取ればこれ以上傷つけることはなくなる。だから、泣くな。置換隷。
決めただろう。一人でやるって。
ここからは一人でただ黙々と身体を酷使する。今までの非ではないそのレベルまで身体を仕上げる。
身体を動かしている間は何も考えなくて済むから――
あぁ、でもやっぱり◼️◼️◼️なぁ……
♦︎♦︎♦︎
二日後僕は退院を許され病院から出ることができた。
面会も来るには来ていたが、先生以外は拒否していた。来ても話すことはないし気まずいだけだからだ。
今日、じいちゃんの待つ家に戻る。
そこで辛くても話さなきゃ――
家に着いた。
左手で鍵を開け玄関のドアを開ける。
「……やっぱりやりにくいや」
わかりきっていたことを小声で呟き、次にじいちゃんに聞こえる声を家に響かせる。
「ただいまー!帰ったよじいちゃん」
返事がない。どうしたんだろう……聞こえてないのかな……
リビングを書斎をトイレを風呂を探す。探す探す探す。嫌な予感がする。その感覚がやまない。
最後に何よりも先に見るべきだった部屋、じいちゃんの部屋に訪れた――
「……あ」
じいちゃんはいた。布団に包まれ眠っていた。
「よかった、何だよじいちゃん。こんな昼間から寝――てる、なん――て」
じいちゃんに声をかけ起こそうと触れた。
おかしい、冷たい。なんで……?
顔色も青白く血の気がない。
「ねぇ……じいちゃん、じいちゃん!!起きてよおきて――」
どれだけそうしていただろうか。ふと気づいてしまった。じいちゃんは――死んだのだと。
「あ、……そっか。じいちゃんも死んじゃったんだね――」
ここからの先ぼんやりとしか記憶がない。気づいたら警察がいてじいちゃんの身体を運んでいた。僕は座りただ茫然とそれを眺めているだけ。
何か警察に話しかけられた気がするけど覚えていない。
「……換っ、置換!大丈夫か」
肩を揺すられた。首を声の方へ回し振り向いた。
相澤先生がいた。
「どうか、しましたか?先生――僕は平気ですよ」
先生は一度目見開くと目頭に指を当て首を二度振った。
「……いや、大丈夫ならいい」
「置換、しばらく学校休め。俺から休校の手続きをしておく」
「いえ……大丈夫です。学校行きます」
「いや、大丈夫じゃない。どう見てもお前は今休むべきだ」
「動かないと、助けないと――」
「……悪い、置換。文句は元気になったらいくらでも聞くから――」
――今は寝とけ。
その言葉を最後に僕の意識は闇に落ちた。
あらら……これは辛い。友達をこの手で殺して?
身体も不自由になった。しかも退院して帰ったらそこでおじいちゃんも死んじゃったんだね。
可哀想だなぁ……あぁ、でも大丈夫だよ。
この世界のキミはまだまだ苦しむよ。
良くて今が悲劇の折り返し地点だ。
キミはその力を得たからね。もう忘れられない。