キリのいいところで区切りたくて……
41話 新たな戦闘スタイル
「お待たせしました」
地下のトレーニングルームで僕と発目さんは向き合っていた。
え?……香山さんはどこ言ったって?
香山さんは時々いなくなる。
学校の授業をしているのか何か別のことなのかは分からないけど……
私生活のほとんどを僕に費やしてくれていて、朝と夜のご飯は一緒の食卓についてくれる。ありがたいと思う反面申し訳なさも感じている。
「っしょっと……あなたのオーダー通り用意させていただきました」
僕は発目さんの言葉を聞き視線を戻す。それと同時に伝わる重たい地響き。
目の前に一辺が五十センチ程の黒箱が鎮座していた。
発目さんが箱の中央にある持ち手を引くと黒箱は縦に開き、そこには四本の義手が並んでいた。
一つは一見変哲もない普通の義手――手首に見えるあの切れ目は、なんなのだろうか。
一つは鉄の塊のような拳を握ったままの鋼鉄の義手――操作性など皆無、指も動くことはないのだろう。ただただ頑丈さを求めた先にある無骨な義手。
一つは手首から先が銃の形に変容している義手――ただただ玉を打ち敵を怯ませようとするそんな銃のような義手。
一つは……これは、楽器だ――音を響かせ僕の個性をより強力に凶悪にする、そんな楽器。
「確認しましたか?それではこのベイビーたちについて説明しますね」
発目さんは最初の手首に切れ目のある義手を手に取ると話し始めた。
「最初のベイビーですが……こちらは比較的普通の子です」
「比較的……?」
「はい、ボタンを押すと手首から先が伸びます。手首とはワイヤーで繋がっていて、もう一度ボタンを押すとワイヤーを巻き取ります。手が届かないところにいる人を救う際あると便利になると思い追加させていただきました」
「助かるけど……」
「含みがありますね……こちらのワイヤーとても頑丈ですのでヴィラン等の捕縛にも使えるかと――」
「――なるほど。ありがとう発目さん」
「いえ、お気になさらず。次のベイビーに行きますね」
「うん、よろしく」
最初の義手を優しく箱に戻すと次に鋼鉄の義手を指差した。
「このベイビーは見ての通り頑丈さだけをただただ詰め込みました。見ての通り指は開きません、ただ目の前のものを粉砕するそんな拳です。依頼通り重くしました、ですが……そのせいで使い勝手は悪くなって――」
「うん、いいんだ。あんまり腕として使う気はなかったから――」
「あ、いえ、おまけでベイビーに能力を追加したのです。一定以上の速度に達すると肘の部分にあるブースターが起動します。重さ+速さそれによるさらなる破壊を!!」
「え"……」
それは……予想外だけど、まぁうん。威力が増えるのはいい事……?
ま、まぁいいや。気にしないでおこう。
発目さんは手首から先が銃の形に変容している義手を抱える。
「次のベイビーですね。この子は手と銃が一体になっています」
「みたいだね」
「銃弾は流石に無理ですので今まで使っていたゴム弾、閃光弾と同じ口径にしています」
「それ、言い間違えたんだ……申し訳ない」
そう言って僕は発目さんに頭を下げた。
「お気になさらず、そういったこともあるでしょうし――それで、最後のベイビーですがこの子は――」
「頼んどいてあれだけど……楽器、だね」
「えぇ、ハイ。まさか採用されるとは思ってませんでしたね私も」
発目さんは一度咳払いをしてから話を続けた。
「基本的には楽器のヴィブラスラップと同じです。違うのは強度、これに限ります」
「えっと、戦闘に耐えれる強度になった?」
「いえ、普通のヴィブラスラップよりちょっと硬いくらいです。どうしても音を響かせる為には楽器を振動させないといけなくて、強度を持たせると楽器が振動が減る、その問題を解決できませんでした」
「そう、なんだ」
仕方ない。そもそも楽器に強度求める事自体が間違っている。自分は真面目でも周りからすれば、見た目も音もかなりシュールだ。相手が脱力でもしてくれれば儲け物くらいの気持ちで使うとしよう。
「そして、こちらはオマケですね。この黒い箱、変な窪みがあると思いませんか?」
発目さんに言われ黒箱に視線を向ける。
箱の中心部発目さんがさっき引いた持ち手とは逆側に、数字の刻まれたダイヤルと窪みが確かにある。
これは……ちょうど腕でも入りそうな――
「箱が閉じた状態でダイヤルを押してから義手が必要な方の腕を突っ込みます」
「?」
僕は指示に従いダイヤルを押し込む。そしてよくわからないまま右腕を突っ込んだ――
その瞬間、駆動音があたりに響く。
「ささ、引き抜いちゃってください!」
腕を引き抜くと、そこには最初に説明を受けた義手が装着されていた。
「!!?っっっ――かっ……こいい……」
僕から溢れた言葉を聞いた発目さんは誇らしげに笑みを浮かべている。
「恥ずっ……」
「フフフフ、どうしましたか?いいでしょう?装着の手間なくボタンを押し腕を入れるだけで換装可能、私のベイビーは素晴らしいでしょう?」
「まぁ、うん……かっこいいし、素晴らしいと思うけど……」
僕の個性で多分同じこと出来そうなんだよな……義手のみの置換、ある事が分かっているなら箱の中にしまってあっても出す事が出来る。
とはいえ、義手の接続を上手くこなせるかどうかはわからない以上あって困る機能ではないのかもしれない。
まぁ?その付け方ちょっとかっこいいし?
「うん、ありがとう」
「どういたしまして、クライアントの意を汲むのも仕事ですからね」
「付け替える腕を変えたい場合はダイヤルを回すか音声認識でダイヤルが動きますので活用していただければ……それではベイビーの調整、やっていきましょうか!!」
「うん、発目さん!」
「……あ、ベイビーの名前教え忘れてました。一番の子は――」
かくして僕は義手を使った訓練を開始することとなる。
発目さんから仕様説明、義手及び黒箱の操作方法を改めて教えてもらった。その後はただ一人黙々と義手の操作感に慣れる作業だ。
香山さんは僕の様子を見に来たり見に来なかったり、日が経つにつれて様子を見にくる回数も減った。だけど、それでも朝と夕の食事は共にしてくれた。
数日が経ちその日の訓練を終え一緒に夕食を食べていると香山さんから告げられた。
「置換くん。そろそろクラスに戻ってみない?」
「え……?」
「あ、いきなりだったわね。そもそも私たちがここに閉じ込めてたのに何言ってるのって話だけど――ヒーローの仮免試験がそろそろあるの……だから、そのタイミングでクラスに戻らない?ってお話し。仮免が取れればそれだけ早く別のやらなきゃいけないことに時間を割けるようになる。それに――」
「ずっと見てたけど無茶なことはしなそうだし……いつまでもここにい続ける訳にもいかないからね」
そう、そうだ、そうだった。
今はただの休息期間、あまりの楽しさに、優しさにあの事から目を逸らしていた。そんなこと、許される訳ないのに。
僕は一度目を閉じて、まっすぐ香山さんの瞳を見つめ返す。そして頭を下げた。
「戻ります、よろしくお願い……します」
「そう、なら手続き諸々はこっちでやっておくわね。それじゃあ明後日、会場に送らせてもらうわ」
「さってと、そうとなったら忙しいわよ。今日は最終調整、そして明日は休んで明後日に備える!いいわね?」
「っ――」
そっか、まだちょっとだけ続くんだ……
ごめんね鬼人、もう少しだけこの陽だまりに浸らせて……そしたら歩き出すから……あと二日だけ――
「っ、はい!!お願いします、香や――ミッドナイト先生!!」
「うん、頑張りましょ。置換くん」
ある教師の通話
「はい、はい。そうですか──ミッドナイト、貴女に託して正解でした」
「えぇ、こちらは問題なく、A組はみなあいつが──置換が戻ってくるのを待っています」
「知らせておきますか?」
「え?はぁ……当日知らせた方が青春っぽい?まったく……分かりましたよ。ほんと変わりませんね先輩は……」
「では、また当日。本当にありがとうございました」