推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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あけましたね。おめでとうございます!
ほんとは年末にあげたかった……
勝利の女神ニケが楽しすぎた…あそこにはいい悲劇が固まってますぜ。
それはそうとヴィジランテアニメ化おめでとー!
めちゃくちゃ可愛い動くミッドナイト見れると思うので是非(泣)


42話 調整

 

 

 翌日、十三時、トレーニングルーム。

 僕と先生は仮免試験に備え調整をしようとヒーロースーツに着替えて向き合っていた。

 

 先生は鞭――アイノムチをしならせながら不敵に笑った。

 

「さて、あの時からどれだけ変わったか魅せてちょうだいね」

 

 先生はあの時から何も変わっていない。何故かあの時より強く見える……いや、違う。僕が弱くなったんだ。

 代替手段を得たとはいえ右腕を失い、モヤが見えるせいで右目にも眼帯着用だ。腕が違う時点で左右の体のバランスは崩れ、当然視野も悪い。

 それでも、期待に応えなければ――と、感情を込め返事を返す。

  

「はい!」

 

 息を大きく吸い込み口と鼻をタオルで隠した。

 ことミッドナイト戦において呼吸は重要だ。

 こんな密閉空間であれば尚更、力を見せつつ可能な限り短期決戦にしなければ……ミッドナイトの個性は眠り香、ここが香りで満たされその時点で何を見せることなく終わってしまう。

 

 僕の行動に対し先生は感心したように感嘆の声を漏らす。

 

「……へぇ……」

 

 僕は口をつぐんだまま、地面を強く蹴る。

 まずはこの基準となるダイヤル一の義手、鋼線腕から――左手で右の手首にあるスイッチを押し、先生に向け手を射出した。

 

「!?」

 

 先生は一度驚いたようだが、流石に慣れているのかすぐ平静を取り戻す。僕の義手のワイヤー部分を絡め取ろうとアイノムチを走らせる。

 

 アイノムチが僕のワイヤーに絡んだ。

 ――そう、それを待っていた。もう一度左手で右手首のスイッチを押し込む。

 ワイヤーは巻き取られる。当然それに絡んでいたアイノムチも僕の元へ引き寄せられる。

 先生は武器をとられたにも関わらず平静を崩さない。

 

「うん、いいと思うわ。相手の武器を奪う、戦う上で大事な事よ」

 

 第一段階突破。

 個性の眠り香も脅威だが、当然アイノムチも脅威だ。

 あくまで先生は香りを飛ばすためのサポートアイテムとして使用しているが本来の使い方をされたら呼吸を止め続けることなんてほぼ不可能だろう。

 

 鞭の痛みはやばい……らしい。普通に生きてきて鞭打ちなんて受けたことはないが昔本で読んだ事がある。

 一発目はギリギリ耐えられる。皮膚が破れたかのような痛みと、骨に響く衝撃が一点に集中する。体の中に痛みが浸透する……精神を少し折られるくらいで済むらしい。

 問題は二発目以降、激痛がくる事がわかっている二発目、痛みが来る事がわかり身体に緊張が走り硬直、当然呼吸を止めるなんて芸当もできずそのままアウトだ。

 

 だからまずアイノムチを回収する必要があった。

 これで一旦鋼線手の役目は終了、次は二番を飛ばして三番の銃腕で置換対象を増やす。黒箱のダイヤルを三番に合わせ押す。右腕を入れそのまま引き抜く――

 

「さぁて、次は何が来るの?」

 

 引き抜き、銃口を先生に向けた。

 

「っ――」

 

 向けられたと同時に銃口の射線から身体をずらし扇子型の武器ジュリセンを身体を隠すように構えた。

 

「いきなり撃つなんて危ない、じゃないの――!」

 

 流石先生だ。実戦経験が段違い、反応速度が違う。

 

「だけどっ、無駄よ。このジュリセンは防弾加工もしてあるわ!!」

 

 銃を先生の逃げ先に向かい乱射する。ジュリセンで弾自体は弾かれるが、問題ない――

 僕の目的はあてる事じゃない、ばら撒く事だ。

 

「――っ、違う。置換くんの狙いはっ――」

 

 目的達成。

 再び黒箱のダイヤルを回しボタン押し腕を入れる。

 四番――響腕。

 黒箱から腕を出した。

 

「――え、は?なに……それ……?」

 

 ――ヴィブラスラップだ。そう、そうなる。一度見ていてもそんなものが出てくるとは露にも思わない。

 思考の空白、こと戦場においては致命的な隙。

 上から下へ左手でヴィブラスラップの木の球を打つ――!

 

 カァーーーッッ!

 

 場違いな音がトレーニングルームに響き渡る。

 

 それと同時に個性の使用。

 秒間五十回の振動をするとしても、だからと言って全てに対して置換する必要はない。

 その音が鳴っている間いつでも任意の場所に置換可能。これがこの義手の強み!!

 

 いつ、どこに、来るかそれは僕以外誰にも読めない。

 

 先ほどばら撒いた銃弾に対して繰り返し置換、置換、置換置換置換置換置換置換置換置換置換置換置換置換置換置換置換何度も繰り返し――

 僕の所在は誰にも掴ませない。

 

 そう、僕は自己鍛錬により秒間二回までの置換であれば酔わずに行う事ができるようになった。

 まだまだ序の口ではある。だけど、一秒間で二度の移動が可能。それは瞬きの間に別の場所に置換する事が可能であるという事。

 仮にもし、この秒間五十回を制御しきれるような人がいるのならそれは怪物だ。とても人間業ではない。

 

 

 まぁそれはいい、先生は僕の動きを追えなくなってる。それを示すように先ほどから動きを止め、僕には個性を使用し何かをしようとしているように見える。

 

 だから今が、今こそが僕が待ち望んだチャンス――!

 確実性を取るため先生の眼前で閃光弾を炸裂させる。

 

「きゃっ――」

 

 罪悪感は湧かないでもないけど……今は実力を見せる事が重要だ。

 

 そのまま先生に対し殴り――殴ろうとした瞬間よぎる記憶。

 僕の腕が鬼人の脳髄を潰した時の感覚。

 

 ――ぐちゃり――

 

 距離を取る。気持ちが悪い。

 

「っ――はっ、はっはっ……」

 

 胃から何かが込み上げて来る。

 

「うぷ……おぇ、おぇぇぇぇ!」

「っ!!置換くん!?どうしたの!!」

 

 先生の心配する声が聞こえた気がした。

 息を呑む。

 そう、そうだ。

 これは、実力を見せるための訓練。ここで失望されるわけには……されたくないんだ。

 

「だい……じょうぶ、です。問題ありません。酔っただけ――」

 

 先生は視界を奪われた為か未だその場から動かない。

 

「――そう、なら続きをしましょう」

 

 視界が歪む。右目の眼帯が落ちる。

 僕の身体はピンクのモヤに包まれながらそのまま床へと倒れ込んだ。

 

「――と、言ってもお終いね。置換くん、貴方呼吸……したでしょ?」

 

 いしきはもうろうと、からだがうごかない――

 

「さて、総評ね。よく動けてる、個性と腕の合わせ方もいいと思うわ。ただ、人……殴れないでしょ」

 

「……」

 

「トラウマ……かしらね。無理もないわ、あんなことを経験してならない方がおかしいもの」

「ど……し、て」

「そのくらいわかるわよ、この一週間一緒に過ごしてたし……これでも先生よ?生徒のことはよく見てるわ」

「少し、対策を考えるわ。だから今は――おやすみなさい」

 

 先生はそう言い僕の瞼に手を被せた。

 それと同時に僕の意識は闇に落ちた。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 僕は目を覚ますと真っ白な空間にいた。

 どこか既視感を感じるような……

 

「ん?おや隷くん。こんなところに……あぁ、そっか俺のあげたプレゼントのお陰か――いらっしゃい。こんな何もないところだけど歓迎するよ」

 

 声のする方へ視線を向ける。

 そこには、そこには、ソコニハ――――――カイガイタ。

 

 僕は全力で飛びかった。

 

「カ……イ…………カイィィィィィィィ!!!!」

「あはは、いいね!!嬉しいよそんなに想ってくれるなんて。ただ……」

 

 しかし、僕の拳はカイをすり抜け当たることはなかった――

 

「ここのはまぁ、ほら魂しか居れないからさ。触りたくても触れないんだよねぇ……」

 

 それでも繰り返し繰り返し繰り返し僕はカイに攻撃を続ける。

 

「いやほんと嬉しいよオレァ。こんなに愛されるなんて」

 

 続ける。

 

「んー、話聞いてもらえないのは寂しいな」

 

 続ける。雑音だ。

 

「あ?なんでそれがそこに――まぁいいやどうせ消えかけの残滓だろうし」

  

 続ける。

 

「せっかくいい気分だったのに台無しだなぁ……」

 

 続ける。

 

「そろそろ話聞いてほしいなー?なんて……」

 

 続ける。

 

「はぁ、しゃーないか……隷くん、この空間――見覚えない……?」

 

 続け――手を止めた。

 ?なんて言った?コイツは今……この空間に見覚え……?こんなところに見覚えなんて――な、い?

 いや……僕は既視感を――

 

「ん?あれ覚えてない……?聞いた話だと数えきれないほど来てるって言ってたんだけどな……」

 

 数えきれないほど来てる見覚えのある場所……?

 どこだ。記憶を遡れ。

 訓練場――違う。

 学校――違う。

 実家――違う。

 

「あ、違うかな?生きてる時には来たことはないか」

 

 生きてる時……?逆説的に言えば死んでいる時に訪れている。

 死?僕は死んでなんていな――い?本当に?僕は死んでいないか?何か忘れていることが――

 

「あー、そういうことか。クソすぎんだろアレ……」

 

 頭が、痛い――

 

「俺のプレゼントを貰った――今の隷くんなら思い出せるんじゃない?ほらこの空間、置換隷の始まりの場所――」

 

 始まり、の――場所。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 ――――やぁ、おきたかな?――――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 僕は、僕、は……一度、死んでいた。

 電車に跳ねられて、塵みたいな人生を終えていた。

 そこで――今みたいな真っ白な空間でカミサマにあったんだ。

 そうだ。なんで忘れていた?こんなことを何故?僕の最初、忘れるわけのない原初の記憶。

 ミッドナイトを救う事、これだけしか覚えていなかった。今が第二の生である事、そんな事は欠片も思っていなかった。

 

「途中で奪われたんだろうねアレに。他にも欠けてる記憶でもあるんじゃない?」

 

 欠けている記憶……?

 ダメだ。わからない。

 

「ふーん、まぁいいけど。なら――この記憶は取り戻されても問題なかったって事か」

 

 どうして……?

 

「ん?なにが?」

 

 どうして、僕を……

 

「オレも俺もキミを愛してるからね。それだけだよ」

 

 なら、なんであんな事――

 

「それも同じだね。愛しているからさ」

「まぁ、今のオレと外の俺は少しばかり差異があるんだけど……そんなこと隷くんには関係ないだろう?」

 

 …………

 

「さて、そろそろ目覚めの時間かな。今の隷くんは……――あぁ、それは良くない。そんなものに気を取られて隷くんが何度も死ぬのは嫌だな……」

「アレと似た事するの?マジで……嫌だなぁ……でもなぁ……嫌だなぁ」

「はぁ…………仕方ねぇか」

「取りすぎると壊れちゃうからそこだけだ」

 

 カイは一度自分の頭を掻き乱すと僕の頭に手を乗せた。

 

「この記憶はオレが借りておくよ。いつか……オレを殺した時返してあげる」

 

「じゃ、またね。隷くん」

 

 白い空間は眩い光に包まれ僕はそこから追い出された。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 鳥の鳴く声が聞こえる。

 僕はベッドに横たわっているようだ。

 

「おはよう、置換くん。よく寝れたかしら?」

 

 目をうっすらと開けるとベッドの横に先生が座っていた。

 

「あ、れ……僕、なんで……」

「調整訓練してたのは……覚えてる?」

「はい……僕なんでか殴れなくてそれで、何も出来ずに先生の個性で寝ちゃったんですよね……」

「なんでかって……まぁ、トラウマでしょうね」

「トラウマ……?」

「PTSD、心的外傷後ストレス障害……とも言うわね」

「……どうして……?何に対して……?」

 

 僕の疑問に対して先生は怪訝な表情を浮かべる。

 

「これは憶測だけど……殴る事に対するトラウマ、よ」

「殴る事……?どうしてですか……?」

「?どうしてってそれは鬼瓦くんの……置換くん。どうしてそんな知らない人の話聞いてるみたいな顔、してるの……?」

 

 え?他人事……っていうか、知らない人なんだけど……鬼瓦って誰なんだろう。聞けば分かるかな……

 

「鬼瓦……?」

「……え?」

「あの、鬼瓦って……誰ですか――?」

 

 ひどく目を見開き絶句した先生の表情がやけに頭に残った。




ある女の独白。

「はぁ……でも楽しみだなぁ。オレを殺しに来てくれるの」
「その瞬間だけは俺を、オレだけを見てくれる」
「今思えばトモダチを隷くんに殺させたの失敗だったなぁ」
「あそこまでの傷になるならオレが最初にそうありたかった――」
「最初で最後の大きな傷痕に……オレは一番にはなれはしない、あの女がいるしアレがそれを許さない。なら、せめて彼の心に深く刻まれる唯一の人に――」
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