推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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お待たせです!
次話よりやっと原作に合流できそうです。
欠けたとしても、無いとしても確かにそこにあるものはあるのです。

それではどうぞ。


43話 懐旧

 

 

「あの、鬼瓦って……誰ですか――?」

 

「――」

 

 ひどく目を見開き絶句した先生の表情がやけに頭に残った。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 あのあと僕は病院に連れられ検査を受けた。

 しかし脳の検査の結果当然問題なし。精神的な負荷がかかりすぎた為一時的に記憶が混乱しているのかもしれませんと医者は言っていたけど……何を言ってるのだろう、そんなわけないのに。

 

 

 しかし先生に話を聞いてみると僕は鬼瓦鬼人という人物と昔から仲が良かったようだ。共に切磋琢磨し合い青春を送っていた……と言っていた。

 今どこにいるんですか?という僕の質問には「……遠いところに行っちゃったの」とのこと。

 

 遠くに引っ越しちゃったのかな?でも電話くらいできると思うけど……

 まぁ会えないと言うなら仕方ない。あまり実感もない、明日はヒーロー科の仮免試験だ。

 そんなことはないはずだけど……何故かクラスのみんなと話すのが久しぶりな気がする。

 本当に忘れているのかもしれない。頭の中で何かが叫んでいる気がするんだ。記憶の整合性も取れていない。

 でも、何もないんだ。僕の頭の中にはそこが抜け落ちたみたいに――何もない。だから鬼瓦鬼人という人物に関する記憶もそれに関係する記憶も何一つない。

 そう、なぜ僕が僕の右腕が義手になっているかすら……だ。

 でも……必要な記憶ならいつか思い出せるだろう、今考えても仕方ない。

 

 それより明日だ。仮免試験どんな試験があるのか……と。明日に思いを馳せていると先生に声をかけられた。

 

「ねぇ、置換くん。あなたどこまで覚――」

「?」

 

 先生は一度目を閉じ僕に視線を向ける。

 

「……いえ、なんでもないわ」

「さーてと、ごめんなさいね。病院になんて連れてきちゃって。とりあえずお昼、食べに行きましょ。久しぶりの外食だしお姉さん奮発しちゃうわよ」

「……」

「どう?何かある置換くん」

「……ファミレス……コーラ飲みたいです」

「――、そう。もちろんいいわよ。ファミレス行きましょ」

 

 そうして僕たちは先生の車でファミレスに向かうのだった。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 二時間かけてファミレスに到着した。

 

「あれ……ここ僕の家の近くのファミレス……」

「えぇ、せっかくだから遠出してみたわ」

 

 先生はそう言いながら笑みを浮かべる。

 あまり来たことないはずなのに――なぜか懐かしさを覚える。

 

「いらっしゃいませ〜」

「あ、二人なんだけどいけます?」

「大丈夫ですよ〜」

 

 先生が店員さんと話している。

 

「お席こちらです、どうぞ〜」

「ありがとね」

「あ、ありがとうございます!」

「可愛らしい弟さんですね〜」

「でしょー?可愛いんだからもっと顔見せたらいいのに隠すから残念なのよねぇ……」

「?」

 

 何を言ってるんだろう、この人……

 僕が弟!!先生の!?烏滸がましいにも程があるよ……先生楽しそうだし口挟まないけど……

 

「あ、ここですここ。ではごゆっくりどぞ〜。注文決まりましたら呼んでくださいね〜」

「えぇ、ありがとね。決まったら呼ばせてもらうわ」

「さ、座りましょ」

 

 促され先生の対面の椅子に座った。

 

「ん〜、何にしようかしら。久しぶりなのよねファミレス」

 

 メニューをパラパラと捲る先生に視線が吸い寄せられる。

 やっぱり綺麗な人だ。長い髪、瞳、左目の下の泣きぼくろ、下まつ毛、口元、小さな顔、どこのパーツを見ても目の保養になる。

 

「あ、これなんてどうかしら……いえカロリーが……なら、こっち?」

「ごめんなさいね先に見てて。ちょっと楽しくなっちゃって……とりあえず店員さん呼んでドリンクバーとサラダだけ頼みましょうか」

「あ、はい。お願いします」

「すみま――あ、ボタン押せばいいんだったわね」

 

 僕は苦笑いしながら返事を返す。

 

「ですね」

 

 なぜだろう。やっぱり懐かしい。

 ここに誰かと来たことがある気がする。

 先生ときたはずはない。でも誰か――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 見えた、いつものでかい強面だ。

 僕は窓越しに両手を大きく振る。

 気づいたようだ。■■は表情を少し緩めファミレスに入ってくる。

 

「わりわり、誘ったのに遅れちまって」

「気にしないでいいよ、今日はお祝いだし。とりあえずドリンクバー頼んでるよ、■■何飲むー?」

「そりゃもう、コーラ一択!」

「だよね、おっけ、僕のもなくなったしついでに入れてくるよ」

 

 僕は苦笑しながら伝えると席を立ち、ドリンクバーに向け歩き出した。

 

「お待たせ、ほいコーラ」

「せんきゅ、くぅぅ――うま、やっぱりこれっしょ!この喉越し最高だわ」

「何言ってんの■■、おじさんみたいだよ」

 

 席に腰掛け笑いながら僕は言った。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

「……換くん?コーラ持ってきたわよ」

「……?あ、ありがとうございます――」

 

 先生からコーラを受け取った。

 

「それじゃあ、置換くんここ数日お疲れ様でした。明日は頑張ってね!!」

 

 先生は音頭を取り自身のグラスをこっちに向けてきた。

 

「?」

「ほら、乾杯」

「か、乾杯です」

 

 グラス同士がぶつかり合い気持ちいい音を響かせる。

 そしてそのままそのコーラを口に運んだ。

 なんでこんなに飲みたかったんだろう。僕はそんなに好きじゃなかったはずなのに――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

「いやいや、隷もわかんべ?この美味さ」

「いや美味しいけどさぁ、僕はそこまで………」

「ふぅ……コーラの美味さが分からんとは。隷、お前は人生の6……いや、7割損してる!」

「そんなに!!?」

「おう!そりゃもう、コーラこそが人生と言っても過言ではないかもしれん」

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 何かが込み上げてきて瞼から落ちた何かが僕の頬を湿らせた。

 

「……、っ……あれ」

「…………」

「……な、なんで……」

「……どうし、て……?こんな……変だな……」

 

 僕は涙を拭う。それでもそれは止まらない。新しくどんどん作られてテーブルに小さな水溜りを作っていく。

 何故今涙が出ているのかわからない。分からないことが、辛い。

 

 大事な何かがあった筈なんだ。でも僕の中でをどれだけ探してもそれがない。どこにも見つからない。どこにあるの……?僕の――――

 

――――「この記憶はオレが借りておくよ。いつか……オレを殺した時返してあげる」――――

 

 あれ、何処かでそんなことを言われた様な……

 

 思考をさらに深く潜ろうとした時、僕の前に一枚の薄い紫のハンカチで涙を拭われる。心配そうな声で尋ねられる。

 

「――どうしたの?何か……あった?」

「……い、いえ。なんか涙が出てきちゃって……でもその理由が……僕の中の、どこを探しても……ないんです……」

「そう……」

「ごめ、ごめんなさい。……すぐ、泣き止みますね。ハンカチ、ありがとうございます……」

 

 僕の鼻先にふわっと先生の匂いが香る。僕は先生に抱きしめられていた。

「……せん、せい?」

「いいのよ、今は泣きなさい。分からなくても泣いて泣いて――感情を吐き出すの」

 

 さらに、何かが込み上げてきた。今まで溜め込んでいたものそれが全部僕の中から出ようとしている。

 でもその何かは僕の中にはなくて――ただただ涙だけが溢れた。先生は僕が泣いている間、ずっと抱きしめてくれた。

 

 

 

「ご、ごめんなさい。服……濡らしちゃって」

「気にしなくていーの。まったくやっと泣いたか」

 

 そう言いながら僕の鼻頭をツンっと指先で弾いた。

 申し訳ない。先生の服の胸元は僕の涙でべちゃべちゃだ。

 

「辛いなら泣きなさい。あなたはそれをしなきゃいけない。溜め込んだってなんの意味もないんだから――」

「……はい」

「どう?泣いたら分からなくても楽になったでしょ?」

「…………はい……」

「はぁ……よし!この雰囲気終わり!!ご飯食べましょご飯。店員さんもさっきからずっとサラダ持ってこようとこっち伺ってるし」

「……はい!」

「おぉ、いいわね。置換くんお腹は空いてる?」

「ぺこぺこです!」

 

「よっし、お姉さんにまっかせなさーい!店員さーん追加の注文いい?このページと……後このページに載ってるやつ全部お願いしていいかしら?」

「はい〜、かしこまりました〜ちょっと多いからお時間いただきますけど……大丈夫ですかー?」

「えぇ、大丈夫よ。ゆっくり作ってきてね」

 

 そうして僕らは他愛無い話をしながらフードファイトに勤しむのだった。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 車に戻り僕は助手席に座る。

 

「お腹いっぱいになった?」

「はい、なりました!」

「そう、ならよかったわ。じゃあ帰りましょう」

「帰りもよろしくお願いします」

「うん、任せないな」

 

 僕は泣き疲れて食べ疲れたのか車の中で心地よい睡魔に襲われ夢の世界へ旅立った。

 久しぶりにいい夢を見れた気がした。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 僕の身体は揺さぶられている。

「さ、ついたわよ」

「……あ、……ぼく……」

「いいのいいの、気にしないで。部屋に戻って休みましょ?明日は早いし仮免試験でしょ?」

「……はい……ありが……とう、ございます……」

「はいはい、手出して。じゃ行くわよ手に捕まっててね」

 

 これより先のことは眠すぎて覚えていない。僕は部屋に辿り着き先生の指示に従い手を洗った後ベッドに倒れ込んで落ちる様に寝た。

 

 そうして僕の安息の一日は終わりを迎えたのだった。

 

 

 

 




ある少女の独白

「たく、ほんとあいつズルい。俺が求めてやまない事をあんなに簡単にやってのけやがって――」
「いいんだ、俺はあの人の心に永遠に刻まれる存在になるんだ」
「にしても――泣いてる隷くんも可愛くて良かったなぁ」
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