推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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お待たせしましたー!
長くなりそうなので分割します。



47話 救助演習1

47話 救助演習

『この被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行なってもらいます』

 

『ここでは一般市民としてではなく仮免許を取得した者として――どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』

 

 モニター越しに試験会場の様子を見る。

 ……人がいる。老人、子供……見えた限りボロボロで血すら滲んでいて……本当に被災にあったかのようだ。

 

『彼らは訓練において……今、引っ張りダコの要救助者のプロ!!「HELP・US・COMPANY」略して「HUC」の皆さんです』

 

 なるほど、そういう職業もあるんだね。知らなかった……

 

 周りの声がざわつく中、未だA組の皆と合流できていない僕は一人頷く。

 

 

『傷病者に扮した「HUC」がフィールド全域にスタンバイ中。皆さんにはこれから彼らの救出を行ってもらいます』

 

『尚、今回は皆さんの救出活動をポイントで採点していき――演習終了時に基準値を超えていれば合格とします。十分後に始めますのでトイレなど済ましといて下さいねー……』

 

 十分――、A組の皆に挨拶くらいは、できるかな?

 トイレは行ったほうがいいか。演習中に催すこともあるかもしれない。流石にズボンから滴ってるヒーローに助けてもらいたくはない……だろう。

 というか僕は少し嫌だ。そんな手で触らんで欲しい……まぁ命がかかってるなら助けてもらうだろうけど――

 

 トイレを済ましホールへ戻った。

 思ったより並んでた。やっぱりみんなトイレ行くよね……

 ……っと、何かざわついている。流石のA組、いつも騒がしいから見つけやすいや。

 今なら声をかけ――

 

 ジリリリリリリ!!と会場にベルの音が響いた。

 

『ヴィランによる大規模破壊が発生!規模は〇〇市全域建物倒壊により傷病者多数!道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着する迄の救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮をとり行う――

 

 ――一人でも多くの命を救い出すこと!!!』

 

 

 そのアナウンスが響くと同時に僕たちは救助に向かう。

 だけど、救助だけとは思えない。この試験は実戦を想定したもの――つまり、ヴィランが現れる可能性が存在する。

 

 この近くのエリアは移動に流用できる個性のない受験者が溢れるだろうと予測。

 知らない人……と話すのは苦手だけど。ヒーローになるのであればそれは克服しなければいけない弱点。

 だから、遠くに僕は行く。ここから遠い中心地より少し離れた場所この個性は人を助けるために使えるんだから――

 

 通路の邪魔になりそうな瓦礫を退かしながら目当ての場所に向かっていると、瓦礫に腕を挟まれ脱力している高齢男性を発見。受験者はいるけどその個性はどうやらこの場面に対応出来ないようで少しオロオロしている。

 

「ねぇ!」

 

 僕が声をかけるとその男子受験生は震えながらこちらを振り向いた。

 

「ど、どうしよう。ぼ、ぼくの個性じゃ瓦礫から助け――」

「――わかった。瓦礫は任せて!君の個性は――?」

 

 近くの小石と瓦礫を置換し、空間が一瞬歪む。

 その瞬間、重たい瓦礫は消え、代わりに小石がカラリと落ちた。

 

「――え?す、すごい!」

「違うよ!すごいじゃなくて君の個性!」

 

 僕の指摘に対してオドオドしながらも返事を返す。

 

「……あ、ご、ごめん。僕の個性は活性化……ち、治癒力をあげたり……し、植物を、成長させたり……そんな個性だ、だよ」

「ここに来ている以上……応急手当ての知識はあるよね?その人は見た感じ頭部に軽度の創傷、瓦礫に挟まれてたから腕は折れてるかもしれない。意識を失っているから――」

「だ、大丈夫!!そ、それは、ぼくの得意分野――ひ、ひとを……た、助ける、ち、血を止めるのは……ぼ、ぼくの仕事だ」

 

 彼が要救助者に近づけた手が微かに光を放つ。

 

「こ、これは……え、演習……だけど……それでも……しっかり、やるんだ。……け、怪我を治すのは沖合 元気、の数少ない出来ることなんだから――」

 

 むくりと高齢男性が身体を起した。

 

「ハッ、い、生きとる。わし、生きとる!」

「はい、無事です。救護所があるのでご案内します」

「う、うーむ……足が痛い、腕もなんか変じゃ……ち、血じゃ!血も出ておる……どうしてこんなことに……」

「「……!!」」

 

「…………で?どうするんじゃ主ら」

 

 急に素面に戻った老人に対してなんとも言えない感情を抱いたけどそれは飲み込み視線を返す。

 

「君ら、ちゃんと要救助者の状態を確認しとるか?出血量、意識レベル、骨折の有無……。もしワシが本当にやばい状態じゃったらどうするんじゃ」

「…………すいません」

「他にも救助者の前でオドオドするのダメじゃし、それについて救助者の前で指摘するのもあまり良くはないの……それじゃあ、安心できん。安心して助けてもらえん」

「……はい」

「……は、はい」

「まぁ……迅速な対応は悪くなった。さ、わしはまだ歩けるでの試験の続き頑張んなさい」

「ご指導……ありがとう、ございます」

 

 ……いや、まさか本人が採点するとは……

 ただ言っていることは最もだ。まさしくその通り、視野を広く周りを見る。戦闘と同じだ。観察するんだ。

 僕は二人から背中を向け歩き――

 

「いや、歩けるからといって付き添わないのはさらに減点じゃよ!!?」

 

 ……そりゃそうだ……

 二人で行くのは非効率的……どうする……?

 いや、考えるより先に――

 

「ね、ねぇ……えっと、こ、この人はぼくが……つ、連れて行くよ」

「……え?」

「き、きみの個性の方が……ひ、必要と……される……と、思う。だ、だから……ぼくが……い、いく」

「……僕が通った道なら瓦礫を退かしながら来たから……真っ直ぐ戻れば救護所だよ」

「……あ、ありがとう」

 

 僕の代わりに言ってくれるなら、せめて。

 起こり得る……可能性を、伝えないと――

 

「ねぇ」

「っ!な、なにかな」

「予測でしかない……けど、この演習……ヴィラン役が登場する可能性が、ある」

「……え?」

「……ほぅ」

 

 救助者の高齢男性が不敵に笑みを浮かべたように見えた。それも気になるけど今はそれより伝えなきゃ。

 

「救助者の救助優先だし、時間ないからあんまり説明出来ないけど……この演習はヴィランによる大規模破壊による結果だ。ならヴィランがいない……なんてどうして思える……?ここまで細部にこだわるのであれば……いて然るべき……いない方がおかしい」

「そ、そっか……気づかなかった……き、気をつける……よ」

「うん、その方がいいよ。じゃあ……また後で」

「!?……うん!」

 

 僕はまた瓦礫を退かしながら先へ進む。

 その場その場にいる受験者と共に救助者を救いながら進んだ。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

「……けて」

「……?」

 

 声が聞こえた気がした。あたりを見渡す。

 変化はない。気のせい……いや違う。

 確かに聞こえた。

 

「…………すけて!」

「っ――」

 

 こっちだ。瓦礫の奥の奥。視認できないところに誰かいる。今助ける!……と足を一歩踏み出した時だった。

 

 瓦礫の奥で、何かが蠢いていた。その瞬間――爆発音が響き、視界が土煙に包まれる。

 そしてほぼ同時に聞こえたアナウンス。

 

『ヴィランが姿を現し追撃を開始!現場のヒーロー候補生はヴィランを制圧しつつ救助を続行してください』

 

 重たい足音と共に土煙から巨大な影が姿を現した。

 強面の筋肉に塗れた男だ。みるからにヴィランの形相。

 

「……ヴィラン」

「あぁ……?ここにいるたぁいいじゃねぇか」

 

 ヴィランの口元がニヤリと歪む。

 その背後で十体の黒い影がゆらりと揺れ動いた。

 

「……っ」

「ただまぁ……一人なのは……減点対象だなぁ!!!」

 

 ヴィランが勢いよくこちらに突っ込んできた。

 手を叩き僕はヴィランと置き換わる。

 

「……あ?」

 

 ヴィランは何が起きたから分からないような表情を浮かべた。

 

 僕が出来ること、この場面で相手は僕を舐めていて。後ろには要救助者がいる。つまり助けて逃げる。

 人のいないところへ要救助者を隠し足止めをしないと――

 

「へぇ……」

 

 ヴィランはまるで面白いとでも言いたげに口角を上げた。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

「はっ……はっ……はっ……」

 

 どれだけここで戦って……いや、逃げていただろうか。残りの試験時間は……?……違う。助けなきゃ……要救助者の場所はわかった。問題は人数だ……三人いる。

 一人なら確実に連れて逃げられた。二人でギリギリ……三人いればヴィランから庇いながらだととてもじゃないが一人じゃ無理だ。

 

「なぁ、戦うのか救うのか逃げるのか決めろよ……分かってんだろ?それじゃあどうしようもないって、どうにもならねぇって」

「は、ははっ……何言ってるのさ。僕は……僕は最初から助ける算段しか立ててないよ。ただ逃げ回ってた訳じゃない。仕掛けは済んだ」

 

 僕の乾いた笑いが空へと消えて行く。

 もちろん前者は本当だが後者は出任せ。こうでも言わないとやってられない。

 

 後ろから、足音が聞こえた。

 振り返れない。このヴィランを前に視線を逸らしてはいけない。相手が舐めていたからこそ、油断し切っていたからこそまだ僕はここに立てているんだから――

 

「――ね、ねぇ!た、助けは……いる?」

 

 聞き覚えのある声がした。この声は――

 

「っ――助かる!手伝って!!」

 

 僕は心に火を灯す。まだ頑張れる。一人じゃなくて、二人ならやりようはある。

 

「ま、任せて……ぼ、ぼくの……こ、個性活性化は……こんな使い方……だって、あるんだ!!」

 

 沖合くんは両手をヴィランの方へ向けた。

 ヴィランの身体は優しい光に包まれ回復している。

 

「あ?なんだ回復って諦めたか……?媚び売っても意味なんてねぇよ!!」

 

 ヴィランは僕から信仰方向を変え沖合くんに向かい突き進む。

 なぜか、回復しているはずのヴィランの身体がブクブクと異様に膨れあがる。

 皮膚が裂け、血が滲む――だがその傷もじわりと塞がっていく。

 

「……は、はははは!!エグいことするじゃねぇか」

「……あ、あんまり、やりたく、な、ないんだ。僕の個性は人を……た、助けるためにって……や、約束……した、から――でも……ぜ、善意には、善意を……返すんだ」

 

 

 えっぐ……過回復って……

 活性化させるだけの個性。なるほどたしかにそれに攻撃力はないように思える。しかし過ぎたるは及ばざるが如し、と言うように何事も過剰なものはかえってこちらに害になる。

 過剰な回復により筋繊維はズタズタに崩れ、それによりその身体の持ち主の体力を大幅に消費させる。血も失われ、思考も鈍っていくのだろう。

 ……エグくない……?

 

「……で?確かにオレは過回復の副作用で動けん……リタイアかもしれん。だが、まだここにはコイツらがいるぞ?」

 

 男のその声と共に今まで止まっていた十の影が蠢き出した。

 

「オレの個性、影人形。影を人形のように動かせるそれだけの個性だ」

 

「ぼ、ぼくが……ひ、一人で来るわけ……ないじゃ、ないか」

「Bonjour monsieur、僕の煌めきが必要だと聞いてね⭐︎」

「か、影ってことは――ひ、光には弱いよね」

「っ――」

 

 青山くんのネビルレーザーが影を照らそうと突き進む。しかし、影は素早く動きそれをかわした。

 

「逃が、さないよっ!」

「っ――」

 

 この声は……葉隠……さん?どうして――

 

「集光屈折!」

「ネビルレーザー!!!」

 

 ネビルレーザーの軌道が変わる。葉隠さんにより屈折したレーザーは捻じ曲がり影を照らした。

 

 




演習中ある学生の会話

「ね、ねぇ!……あ、あっちで……あ、あの人が、ヴィランと戦ってる……から、た、助けて、欲しい……」
「え?あっちって……置換くんが向かったところじゃ……」
「……」
「?、じゃあ行かなきゃね⭐︎彼には恩があるからさ」
「わりぃ、俺は行けねぇ……、あいつの顔みたら何言っちまうかわかんねぇ……」
「──くん……」
「大丈夫!私が行くよ!じゃあ、いこ──くん!」
「そうだね、──さん」
「あ、りがとう……ぼ、ぼくだけじゃ……役に立たないから……」
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