今日もギリギリセーフ。
なんか段々と尾白くんと葉隠さん、青山くん好きになってきましたわ…
この時点の青山くんは…あれなんだけどね……
あと見知らぬオリキャラ×2
ヴィラン役の男の詳細は次話……出るかも?
まぁ、オリジナルキャラですけど……
それではどうぞ。楽しめたら幸いです。
「……な……んで……?」
ここに来る理由も、来た理由もわからないけど――
それでも葉隠さんと青山くんはそこにいた。
「へぇ……面白れェな」
しかし今は、疑問を浮かべている場合じゃない――僕が待ち望んだ瞬間、要救助者の三人を救い出せるのは今しかない。
僕は三人が隠れていたビルの影に個性で置換し、あの三人がヴィランを足止めしてくれている隙にすぐにでも退避を――
ここにきて初めて要救助者を視認した。二十代後半の夫婦と十代になったかどうかの一人の男の子だった。
視認した限り怪我はかすり傷程度で明らかな所見はみられない。
それならすぐに連れ出せる……と思っていた。
「うわぁぁぁぁぁん!!!怖かったよ」
その子供の大きな泣き声が聞こえるまでは――
泣き声に反応しヴィランのその鋭い眼光がこちらを射抜く。
気づけば、僕は子供の壁になるように前に立っていた。
地面に落ちている瓦礫片を片手で救い上げ、そのまま自身の眼前に撃ち放ち流れるように両の手で四度音を響かせた。
拾えた瓦礫片は四つ、置き換えた壁ともいえる大きな瓦礫も四つだ。あのヴイランは個性とは裏腹にパワータイプなのは実感している……すぐに打ち砕きここにたどり着くだろう。
ヴィランは僕が置き換えた大きな瓦礫をものともせず突き進んでいるようで二度目の破壊音が聞こえている。
僕は少し苦笑いをしながら夫婦に話しかける。
「すいません、避難所までお連れしたいんですけど……こんな状況でして。僕の友達が後ろにいるのでついて行ってもらってもいいですか……?」
「――っ、え?」
僕の声に対して夫婦は反応を返した。
「はい……すいません。私たちの子供のせいで……」
「いえいえ、元気でいいじゃないですか。あれだけ大きな声がだせるなら怪我が少ない証明ですよ」
「……っ、ありがとうございます……」
「だからさ、葉隠さん。僕がこんなこと言うのはあれなんだけどさ。お願いしていいかな?」
僕の言葉に返事を返せずに呆然として戸惑いの表情を浮かべている。
その間も破壊音は響いている。
「え?……何で……?」
「……葉隠さん……?」
「ご、ごめん!うん、任せて!私が責任もって救護所に案内するから……っ!」
「うん、ごめんね」
四度目の破壊音が響く。僕の目の前に、あのヴィランが右の剛腕を突き出してきていた。
とっさに右腕の義手で受け止め、嫌な音があたりに響いた。
「っ――」
右肩にまで衝撃が届く。視線をちらりと腕に向けると義手は潰され鉄くずと化していた。
「しまっ――」
右の拳は義手の犠牲があり、かろうじて受け止められた。
しかし、今の僕にはないけれど、相手には当然逆の手も存在する。
右の攻撃が止められたのであれば次は左の拳で。
だから、この出来事は必然だった。
壊れた右側にヴィランの拳が迫る。
「――ルレーザー!!」
そんな言葉と共に僕の背中に衝撃が走る。しかし、そのおかげで一撃を躱すことができていた。
「っが、ぐ……あ、ありがとう……青山くん……」
「は、ははは……気にしないで……僕も君に救ってもらったんだから……」
彼の足はがくがくと震えお腹を押さえていて、とても格好がつかない。それでも僕には彼がその一種確かなヒーローに――
「……青山くん……」
どうする?残り時間は不明。義手は破損、左腕一本でこのヴィランと戦わなければならない……不幸中の幸いではあるけど、救出はみんなのおかげでできた。
ここにいるのは僕を除いて二人。青山くんと沖合くんだ。前者は個性の使用限界を迎えていそうで、後者も見る限り戦闘向きではない。逃走も選択肢に入れなくてはいけない。
ただ、逃げるにしてもせめてもう少しは時間を稼がないと……要救助者に追いつかれたら目も当てられない。
彼らの怪我は軽度、救護所まで三十分はかかる。しかし、十分ほどここから歩けば大通りに出る。僕が通った時には多くの受験者がいたはずだ……
せめて、前衛がいてくれたら……とは思うが、いないものを求めてもしょうがない。
「五分……いや、三分が精いっぱいかな。ごめん二人とも、もう少しだけ付き合ってもらっていい……?」
「う、うん……こ、ここで逃げられないよ……」
「何言っているんだい……ぼ、僕が逃げるわけないじゃないか」
こちらの会話がひと段落ついたところで男が顔を上げた。
「話し合いは……終わったかぁ?」
どうやらご丁寧に待っていてくれたようだ。
……いや、本当にそうか?最初の攻撃と今の攻撃、確かに義手が壊れるほどの威力であった、それでも最初に比べて少し弱くなかったか……?
沖合くんの個性で生じた出血は取り戻せない。身体から失われたものは戻らないんだから。なら、あいつは今弱っている……?
違う、今はそんなことを考えている場合じゃない――
「――どうして、こんなに暗い……?」
気づけば、周囲には漆黒の帳に包まれていた。
光はなく、ただ影だけが広がる世界。
そんな世界に僕たちは、いた。
何かが二度……動く音が、血を蹴る音が響く。
音がした瞬間僕は個性を発動させていた。
「……え?」
僕が影から脱出すると同時に僕たちがいた場所を半円上に包んでいた影がぐずぐずと溶けていく。
どうやら僕たちは、あそこに閉じ込められていたようた。僕、たち――そうだ。僕たちだ。咄嗟に脱出してしまったけど……二人は……?
「あぁ……?なんだ、一人足りねぇと思ったら――んなところに居たのか……」
男の声が聞こえると同時に影は消え去る。そこには倒れている、先ほどまで僕と共に戦っていた……二人がいた。血は出ていない、気絶させられているみたいだ。
「……あぁ、そうか……。一人だけ逃げたのか――」
「……え?」
男はその台詞を捨て吐くと、呆然としている僕に向かって駆けてくる。
「それは――ヒーロー失格じゃねぇか……?」
その言葉が聞こえると同時に僕は殴り飛ばされた――
今までの訓練の賜物だったのだろう、反射的にその一撃を僅かに受け流すことに成功していた。
だから、殴られた痛みで、身体をぶつけた傷みで動けなくても意識だけはまだあったのだ。
「――さて、逃げた奴……追うか」
ここから去ろうとする男を他所に、瓦礫を踏み締める音が――聞こえた。
音がした方に視線を向けるが逆光で誰かわからない。
「人が、倒れてる――青山…………、……置換」
声が聞こえた。
「試験なのは、分かってる。ただ、ここまで……やる必要は、あったのか?」
「……?何言ってる、試験だからこそやるんだろうが――」
「こんなぼろぼろにさせる必要あったのか……?」
「ヒーローはよ……どんなに傷ついても戦わなきゃいけねぇ時があんだよ」
「――そうか、だけど。これ以上は行かせない。俺が相手だ」
そう言って彼は……尾を地面につけ、両腕を顔の高さに上げ、右足を引く――戦闘体勢をとった。
「へぇ――、いいねェ。じゃあ相手、してもらおうかぁ!!!」
「っ――!」
さすが武闘を学んでいた尾白くんと言うところだろう。巧みに攻撃をいなし、受け止めきれない衝撃は尾をクッションのように弾ませ緩和させているように見える。
しかし、それでも防戦一方。攻撃を受けることはできても攻勢に回れていない……これじゃあ尾白くんが倒れるまで時間の問題だ。
試験がどうこうではない、友達が目の前で傷つくのをただ黙って見ているなんてできない。
――手伝いたい……しかしその感情と裏腹に身体は受けたダメージと積み重なった疲労が重なり視界も霞み、指先を動かすのが精一杯で……声を出そうにも呼気しか吐き出されず、音を発することすらできない。
ただ、見ていることしか、指先しか――
指、先しか動かない……?
……いや、指先は……動く。指先は動くんだ。
指先の先に、あるコンクリート瓦礫、そこから突き出ている鉄の棒、それを弾けば……音が反響するんじゃ――?
そうすれば僕の個性が使える、はず……だ。
「がッ――」
尾白くんはあの男に殴られ、膝をつこうとしている。
微かに動く腕を伸ばす、左腕から裂けるような痛みが脳に届く。
――それでも――
痛みに耐えそれでも腕を伸ばす、
訓練だとしても――
あと、少し……
友達が傷ついてるのを――
……もう、少し、
無視するくらいなら――
……とど――いた。
微かに、動く……指を、曲げて……
弾――く……
――カツン。
ダメだ……これじゃあ反響が足りない。もっと、もっと強く。尾白くんに意識を向けつつ、指を、全力で……弾け――
――コン。
――足りない……これじゃあ個性なんてとてもじゃないけど使えない……。僕には、無理、なのかな。
出来ないのかな……
♦︎♦︎♦︎
拳をいなす。
……いなせてなんていない。あの男の一撃は重い。手の痺れが徐々にしかし確かに、強く全身に広がっていく。
それでも、男が手加減しているのは分かっている。一回殴り返した時胴体に違和感を感じた。行動を阻害するギブスでも着けているのだろう。
でもそんな事より、俺は考えてしまうのだ。
今考えるべきではない事、試験には関係のないくだらないこと……
どうしてだろう――
どうしてだろうか、
あいつに対してあんなに怒っていたのに、
こんな痛い思いしてまで――
なんで俺はここにいるんだろう。
葉隠に頼まれた時だって断ったのに……
あくまで試験、ここで見捨てたって、見なかったことにしたって死ぬわけじゃない、むしろ見捨てなかったから俺が試験に合格できない可能性すらある。
なのに、なんで――
「なんだなんだぁ!!?悩み事かよ!もっとやり合おうぜェ!!!」
男の声が、痛みが、思考の邪魔だ。考えが纏まらない。
「っさい!!」
いつもの俺らしくない。こんなにキレてるなんて。
なんで――
俺の、目の前に避けようもない拳が迫っていた。
避けなくてはいけない。しかし避けることは出来ない。俺の個性ではどうしようもない、致命的な一撃――
「しまっ――」
コーンと、金属が反響する音が、辺りに響いた。
♦︎♦︎♦︎
ダメ、なのかな。僕には、誰も救えないのかな……
「丈夫――」
「……?」
声が聞こえた。僕の腕を暖かい何かが包む。
「だ、大……丈夫。す、少し……だけ、だけど……まだ個性は、使える」
声の主に視線を向けた。沖合くんが這いながらも個性を僕に使っているのが分かった。……奥には青山くんも、お腹を抑えて震えている。
「こ、これだけ、しか……で、できない、けど……す、少しは……うご、く……はず……」
指が、動いた。さっきまでは人差し指第一関節しか動かなかった指、今は、人差し指の第二関節、親指も少しだけだけど、確かに動いた。
これなら、行ける。使える、個性が。
尾白くんを――助けることが出来る。
瓦礫から飛び出ている金属の棒に対し、左の親指で押さえた人差し指を放った。
それは、その金属の棒は音叉のように音を響かせた。
いける、この音の反響が止まない内に、尾白くんを視界に入れた。
尾白くんに男の拳が迫っている。
考えている余裕はなかった。他の置換対象は――そんな事を考える余裕なんて。
だから、一番慣れているモノと彼を置換した。
僕の腹に拳がめり込む。骨が軋む音がした。内臓が捻れるような痛みに視界が白く霞む。息が……出来ない。
「ーーーーーーー!!!!」
『えー、只今をもちまして、配置されたすべてのHUCが危険区域より救助されました』
意識が閉じる直前、誰かが叫ぶ声と、そんなアナウンスが聞こえた気がした。