さてさて、色々始まってまいりましたね。
現在原作13巻……
そして約束の日は29巻。
どうなるのでしょうか……
とりあえず完結させたらリメイクしよう…
最初と最新話で書き方もろもろが変わってるし…
49話 演習後
「……意識はあるか?あぁ、心配しなくていい。もう終えた」
そんな男の声で目が覚めた。
身体が軽い。痛みが全くない……?
目の下に濃いクマを作り、よれた白衣を纏った男が、くたびれた表情で僕を見下ろしていた。
「……え?」
痛みがない。おかしい。さっきまであれほど苦しかったのに――。
呆然とする僕に対し男は捲し立てるように言葉を重ねる。
「ただ――その腕はもう私の門外漢だ。流石に時間が経ち過ぎてる、諦めたまえ。さ、終わったらとっとと出るといい。次のじっけ――失礼、患者が待ってるんだ」
そうして僕は医務室を追い出された。
寡黙な変な人だったなあ……
演習へ向かうため少し歩いていると肩をたたかれた。
「……い、おい!置換――」
誰かに声をかけられてる……聞き覚えのある声だ。……でも、誰だろう。
振り返ると尾白くんが険しい表情でそこに立っていた。
「ごめん、聞こえてなかった。」
「そっか……いい、気にすんな。で、だ……試験、終わったら少し話せないか?」
「う、うん……いいけど……」
「そうか……じゃ、また後で」
あんな真剣な表情で何の話……だろう。
あっと……ボーとしてる場合じゃないや。僕も演習場に急がなきゃ――
尾白君が立ち去ろうとすると声が耳に届いた。
「ちょいちょい…」
「「?」」
声の主を探すと控えめに言っても身長の低いひょろい男が僕たちに手招きをしていた。
「あ、ちょい待ち。キミらや。そこの二人」
「あ、はい。どうかしましたか?」
「えっと、急いでるんすけど……」
「そら、知っとるて。こちかて試験官やしな」
「……試験官?」
僕たちは顔を合わせるとお互いに疑問符を浮かべた。しかし、すぐに尾白君が納得いったように手を合わせる。
「あぁ、HUCの方でしたか」
「あ、そゆことか」
ん?いやでもこんな見た目の人助けた記憶はないけど……
「ちゃうて、えーと――これでわかるか?」
男の体がみるみる膨れ上がり、あの試験で見たヴィランの姿へと変わった。
「……あ」
「……ヴィラン……」
「ヴィラン……役だ。ったく、何で俺がこんなことを――」
男の後ろにちんちくりんな少女が飛びかかり、頭を叩いた。
「テェな、おい梢。何すんだよ」
「違うでしょうが!影人!謝りに!きたんで!しょうが!!」
言いながらも頭を叩き続ける梢と呼ばれた少女。
「それじゃ話が出来ないでしょうが!とっとと元に戻りなさい!!」
「――ったく。――仕方ないね」
影人と呼ばれた男はだんだんと身体を縮小させ元の身長の低いひょろい男に戻ると頭を下げた。
「あぁ、ほいでな、謝りにきたねん。やりすぎたったから……すまん!」
「え……?あ、はい……」
「えっと……謝ることではないというか……」
「いや、それが謝ることなのよ。こいつったら試験なの忘れて暴走したから……うちからも、ごめんなさい」
梢と呼ばれた少女にも頭を下げられる。……なんか、こんな少女にも頭を下げられると罪悪感が――
尾白くんが梢ちゃんに声をかけた。
「大丈夫だよ、梢ちゃん。気にしないで」
梢ちゃんはぷるぷると震え出す。
「……梢……ちゃん?」
「え……あ……」
「――れが、誰が、梢ちゃんじゃ!こちとら、もう……二十八だよ!!」
まじまじと梢さんを見る。小柄で、顔立ちも幼い。どう見ても中学生くらいにしか見えない。
なのに――
「に、二十――」
「は、八――!!?」
二十八!?この外見で!!!!年齢詐欺にも程がある……
影人さんが梢、さんを諌めている。
「まぁまぁ、梢ちゃん……今はそんな場合ちゃうやろ?わしが謝りきたんやで?」
「あ、あぁ……そやったな。すまんすまん」
「んで、や――ほんま、すまんかった。キミらと戦うの楽しなってな、やりすぎた……後ほど他の受講生にも謝らせて貰うねんけど、特に怪我させた二人には早く謝らんとな……と」
「お、お気になさらず……自分の油断が招いた結果ですので……」
僕がそういうと尾白くんは続く。
「むしろ、自分が今どこまで出来るのか知れてよかったです。……ありがとうございます」
「そう言ってもらえると助かるわ。それじゃ――邪魔したわ。合格してることを祈るで」
そう言って影人さんは立ち去っていった。
梢さんがボソッと呟いた。
「あ、あいつ……勧誘するって言ってたのに。忘れてやがる……」
「あ、あの……」
「あー!すまんね。うちら……もうあいつどっか行ったけど……あいつヒーロー名はシャドウ。シャドウ事務所つーっとこでヒーローやっとるんや」
「シャドウ――」
「そそ、よければ今度遊びに来てな」
そう僕たちに名刺を渡すと梢さんは「待てー!」と言いながら走り去っていった。
「「…………」」
「え、えっと……」
「あ、あぁ……」
僕たちは何とも言えない表情で顔を合わせた。
名刺をポケットに入れると二人で歩き出した。
「行こっか……」
「お、おう……」
♦︎♦︎♦︎
僕は朝礼台しか残っていない演習場に再び戻ってきた。
朝礼台の上には大きなモニターが鎮座し、公安委員会の目良さんが立っている。
『皆さん、長いことお疲れさまでした。これより発表を行いますが……その前に一言。
――採点方式についてです。我々ヒーロー公安委員会とHUCの皆さんによる二重の減点方式であなた方を見させてもらいました』
自身の息を呑む音がはっきりと聞こえる。
出来ることはやったけど、かなり緊張しているみたいだ……
何回やっても慣れそうにない。
『つまり……危機的状況でどれだけ間違いのない行動をとれたかを審査しています。
とりあえず合格点の方は五十音順で名前が載っています。今の言葉を踏まえた上でご確認下さい……』
その言葉と共にモニターに合格者の名前が表示された。目を皿のようにして上から見ていく。どうやら名前順のようだ。
置換――
「おきかえだから、お、お、お……
――っ!あった!!」
ご、合格……してる。やった、やった……!
――これで、ヒーローへさらに近づいた。
辺りを見渡すと喧騒に包まれている。
喜んでいる人がいれば、落ち込んでいる人、怒っている人、様々な人がいる。
ただ、喜んでいる人の方が圧倒的に多い気がする。
『続きまして、プリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されてますのでしっかり目を通しておいて下さい』
その声を聞き再び前を向いた。
『ボーダーラインは50点、減点方式で採点しております。どの行動が何点引かれたか等下記にズラーっと並んでいます』
『合格した皆さんはこれから緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使できる立場となります。すなわち、ヴィランとの戦闘、事件、事故からの救助など……ヒーローの指示がなくとも君たちの判断で動けるようになります』
『しかしそれは君たちの行動一つ一つにより大きな社会的責任が生じる、という事でもあります』
『皆さんご存知の通り、オールマイトという偉大なヒーローが力尽きました。彼の存在は犯罪の抑制になる程大きなものでした。
心のブレーキが消え去り増長する者はこれから必ず現れる。均衡が崩れ世の中が大きく変化していく中、いずれ皆さん若者が社会の中心となっていきます』
……え?オールマイト……が、力……尽きた……?
象徴が……?倒れたって言うの……?
そんなニュースをなんで、僕は知らなかった……?
『次は皆さんがヒーローとして基盤となり抑制できるような存在となれねばなりません。今回はあくまで仮のヒーロー活動認可資格免許。半人前程度に考え各々の学舎で更なる精進に励んでいただきたい!!』
その後、不合格者への再びのチャンスが告げられる事となった。
……合格者九十名、不合格者十名。こうして、僕たちの仮免試験は幕を閉じた。
♦︎♦︎♦︎
合格発表後、演習会場。誰もいなくなったここに僕たちはいた。
僕、尾白くん、葉隠さんの三人だ。
「さて、悪いな来てもらって」
「あ、あのね。言いたいことが、あったんだ。あの時置換くんにあぁ言われてから、二人で話して――」
「……あの、時……」
「ほら、俺らが病室から帰る時ボソッと言ってたろ」
「さよならって……そう、言ってたんだ置換くん」
「……え?」
心臓が跳ねる。
そんなこと、言った?
言った記憶なんて、ない。
「……僕が……?」
僕にそんな記憶はない。病室?二人が見舞いに来た?――え?いつ、だ。
頭が、痛い。
『あーあ、かわいそ、そんな記憶隷くんにないのに……ね?』
頭が、痛い。何かが軋む音がする。目の前が歪む。
気持ち悪い。何だこれ、なんで――
頭をいくら抑えても痛みが消えない。中身がおかしいのかな……?どうしたらこの痛みは消えるんだろう。
頭だけじゃない、胸も締め付けられるような痛みがある。どれだけ掻きむしっても痛みは増すばかりだ。
「お、おい……置換」
「どうした……の?」
「ぁ、ぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ!!!!」
……ダメだ、これ、以上考えちゃ、いけない。
♦︎♦︎♦︎
慌てふためく彼らを覗き込む二つの影があった。
「お、置換!!どうした!どうしちまったんたよ、お前!!!」
「置換くん!ど、どうしよう。せ、先生?」
「は、葉隠!たのむ!ここは俺が――」
二つの影は一歩踏み出し三人の前に降り立った。
「あぁ、要らへんよ。わしらがきたさかい」
「ありゃりゃ、さっきぶりやね。――なんや、おかしなもんに憑かれとるねぇ」
「どや?何とか出来るかいな?」
「何言うてんの、そのために来たんやろが」
二人の少年少女は目を見開いた。
「シャドウ……さん……梢、さん。」
「あ、わ、えっと、お、お願いします!助けて、ください!!と、友達なんです――」
「わははは、なんや。ええやん――最初からそのつもりやで……気絶はさせたでな、頼むわ、梢ちゃん」
「あいよー」
梢と呼ばれた女は気絶して倒れている置換の頭に手を置いた。
「すまんね、ちょい……覗かせて、もらうで!!」
三人が固唾を飲んで見守る中、女の額に汗が伝う。
「っ――!マジかいな。何てもん入れてんねん……」
女の手に血の玉が生まれそこから亀裂が走る。手から腕へ、さらに広がろうとした時女は手を離した。
「!?――梢ちゃん!!?」
「すまん、影人…………根本的に、うちにはどうしようもない」
そう言って新たに訪れた二人は置換から距離を取った。
「お、置換はどうなったん、ですか……?」
「とりあえず、落ち着きはしたわ」
「……とりあえず、ですか」
「そやな、どう言う状態かは、まぁ……そやな。この子の頭ん中に別の何かが住んどる。それが記憶を奪ったり、外敵……今回で言えばうちを、排除しようとしたりする」
少年と少女は思い当たる節があったのだろうか。少しだけ納得の表情を浮かべた。
「記憶……」
「え、もしかして……」
「せやから、あんまり思い出させんほうが、ええかも知れん」
夕暮れ時の演習場に淡々としたその言葉が消えていった。