こう…オリジナルシーン書く方がやはり筆が進みますね?うん。
主人公はね、どれだけ曇らせたって構わないんだ…
これが僕の本音です。
さてさて、そんなこんなで気づけば50話ですどぞ〜!
頭に鈍い重圧がのしかかる中、ゆっくりと瞼を開けると、白く輝く蛍光灯がぼんやりと天井を照らしていた。
体は冷たく、硬いベッドに押し付けられている感触がする。どこかで漂う薬品と消毒液の混じった匂いが、医務室の不気味さを一層引き立てている。
「……てん、じょう……?……」
独特な薬品の匂い、そこに仄かな消毒液の匂いが入り混じっている。
医務室だろうか。
「……起きたか?」
男の声が聞こえた。どこかで聞いた声だ。
目の下に濃いクマを作り、よれた白衣を纏った男が、くたびれた表情で僕を見下ろしていた。
「……ぇ?」
男のぼやく声が耳に入る。
「はぁ……忙しいんだがな……」
ぼんやりと見覚えはあるけど……天井の蛍光灯に照らされ誰かはわからない。
「……だ、れ……です……か……?」
僕は震える声で問いかけた。頭が混乱しているのか、記憶の欠片が朧く浮かぶだけだった。
「……ふむ、名乗っていなかったか。松戸砕壺だ。覚えていなくても構わん」
彼の声はどこか嘆息混じりで淡々としていた。
「まつ、ど……さいこ……」
知らない、名前だ。
いや……昼間僕を治してくれた男の白衣にその名札が付いていたような気もする。
「ぼ……ど、……て」
「はぁ……致し方ない……こんな時間までここにいた俺が悪い、か。お前が頭を押さえて倒れた。……で、ヒーローが応急処置を行いここに連れて来た……そう言うことだ。これ以上の説明は面倒だ……分かれ」
松戸さんはそれだけだとぶっきらぼうに答えた。
「は……い」
「まぁいい、さて。……お前は自分が今どうなっているか、どういった状況なのか……分かっているか?」
「……?」
どうなっている……?どういった状況……?
何を言っているんだろう、この人は……
「……やはり理解してないようだな。
……まぁ、アレらからも説明するように言われている。またしても時間外労働にはなるが、俺も大人だ。……仕事はしよう」
松戸さんはため息を大きく吐き出すと言葉を続けた。
「……あのチビ女が言うには、お前の中には『何か』――説明し難い不吉な存在が宿っている。それが、記憶を奪い、取り返しのつかない過去を封じ込めてしまっている」
彼の言葉は、まるで呪文のように僕の心に深く刻まれた。ぼんやりとした記憶の断片がかすかに浮かび上がる気がした。
「なに……か」
「そう、何か、だ。あのチビ女は見た目からはまっっったく想像もできんがサイコメトラーでな。精神的な事においては割と使えるんだ。趣味で、カウンセリングもしているとか……」
松戸さんはボソリと何が楽しいのか全くわからんが……そういえば、昔は個性の制御ができず周りの人間の情報全てを読み取り苦労していた……とかも言っていたか……?と呟きつつも言葉を続ける。
「まぁ、それはいい。ここで重要なのはそんなチビ女をしても除去できない、触れることすらできない強大な何かがお前の中に潜んでいる。そしてお前の記憶を奪っている」
「き、おく……」
僕は呟くようにその言葉を繰り返した。胸の奥で何かがざわめくが、はっきりとした形にはならない。
頭の中で混沌とする感情を必死に整理しようとするが、朧げなそれが浮かんできては消えていく。
「そう、記憶だ。多分だが、なにか思い出せないものがあるのは自覚しているだろう?」
「おもい……だせない、もの」
「そうだ。あぁ、今はそれについて考えるな。意味がないし無駄だ」
思考が、言葉がだんだんと回るようになってきた。
僕の思考がより深くの深層へ潜ろうとした時――
「記憶……」
扉が開く音と同時に少女のような声が聞こえた。
「あー……やめときなね、うちからも助言。少なくともその何かはキミに対する悪意はなさそうやから……」
この声……は、梢さんだ。
その言葉に気になることがあったようで、松戸さんは梢さんに疑問を投げかけた。
「悪意が、ない?どう言うことだ。記憶を奪うその行為に悪意がない、など……」
松戸さんは眉をひそめ、梢さんの目をじっと見つめながら問いただす。
「まぁ……少ない例ではあるけどな?誰かの為に重い記憶を封じる、そんな例がないわけではないねん」
「砕壺にゃわからんやろが……人は、忘れたい記憶、嫌な記憶、自分の枷になる記憶であればあるほどそれを繰り返し何度も、何度も反芻してより自分に刻み込んでしまうものや」
「ふむ……」
「……で、その記憶の重みに耐えきれずいつか潰れる……そんな人もおるんやよ」
「んー、そやな。確か置換……くん、やったな?
例えば……子供の頃、人の玩具を壊したことがあるとするやろ?」
え?僕?僕に話振るの?
「は、はい……」
「で……や。怒られたくないから自分が壊したんじゃなく誰か別の人に壊されたと、嘘をついた」
「嘘……」
「もし、その嘘が信じられて誰も自分を責める事はなかったとする」
「でもな、他の誰が知らなくとも自分だけは知ってんねん、自分がその玩具を壊したこと。そしてその玩具を別の人が壊したと嘘をついたこと」
「ふと、気づいた時にそれを思い出して、でももう誰に言うこともできなくて、ずっっと、自分の中でぐじゅぐじゅと化膿していくんや」
「だって、その玩具を貸してくれた相手と今も縁が繋がってないかもしれん、よしんば繋がっていたとしても、そんな子供の時のこと覚えてないかもしれんから……」
ふと、言葉が僕の口から溢れた。
「罪、悪感」
「そう、それだけは消せん。玩具を壊した罪、それを隠すために噓をついた罪も……自分だけが忘れる事がなく、確かに覚えているんや」
「キミ、少なくともヒーロー志す程度には心が善性なんやもん。
想像もつかんけど、どうしようもないほどに取り返しのつかない事をしたならその記憶を奪う……なんて事をする可能性があるかもしれんね」
松戸さんがふと口から疑問をこぼした。
「なら……誰が?、どうやって……?」
梢さんは見た目相応の笑顔できゃるんっと言い放った。
「んー、わからん!だって見えないんやし。お手上げやよね⭐︎」
「はぁ……結局それか……ならいい。無駄な時間を過ごした……俺は帰る……眠いんだ……」
「いやもうほんま、すまんかったわ」
「この時間外労働分の代金は貴様らの事務所に請求させてもらうからな……」
「ほいほーい、請求書だけよろしゅうな」
「……全く――」
松戸さんはぶつぶつと何かを言いながら医務室を出て行った。
「全く、これすら研究の一環としか見てないくせによく言うわ……
――さってと、置換くん。お話が、あるんや」
梢さんは先ほどとは打って変わった真剣な表情で僕に――視線を向けた。
♦︎♦︎♦︎
時は少し巻き戻る。
置換少年が倒れ、医務室に運ばれた直後の出来事。
試験場の一室にて二人の少年少女が一人の男に詰め寄っていた。
「あ、あの……!」
「お、置換くん……は」
「ちょちょちょ、待ってぇな。今運ばれたばっかやん……」
「「す、すいません……」」
「まぁ、ええと思うで――そう言うの。友情、ええやん、綺麗やん。わしそう言うの大好物やで」
「えっと……その」
男は空気を変えるように一度咳払いをした。
「さてさて、置換くんについてやったな」
次に一呼吸間を置き自身の頭を指差した。
「さっきも、聞こえてたかも知らんけど……梢ちゃん曰く、何かが彼の頭ん中におるらしい」
「頭……の中……?」
「そや、よう分からん何かが住みついとる。んで、記憶を奪ってるっぽいねんな」
キミらも聞いてたやろ?と二人の少年少女に視線を向ける。
「……はい」
「ほいで……ちと、気になるんやけど……いつから変になった……とか覚えあらへん?」
少年と少女は息を呑み黙った。
しかし、すぐに意を結したように口から言葉を吐き出し始めた。
「林間、合宿の後、病院で会った時から……あいつ、様子がおかしいんです」
「えっと……その合宿でヴィランが攻めてきて一人で誰かと戦ってたみたいなんです……」
「ほんほん、ほいで?」
「詳細は、先生も教えてくれなかったから分かんないですけど……」
「でも、病院で会った時……あいつ、右眼の色が今までと違ってて、右腕もなくなってて――」
「様子も……おかしくて、自分を責め続けてるみたいな。一人になろうとしてる、みたいな……そんな気がして」
「ん、続けて」
「俺たちが、二度目の見舞いに行った時『二人とも今まで仲良くしてくれてありがとね。これからは僕に関わらなくていいから』って言ったんです」
「私たち、その時すぐにでも問いただしたかったけど……絶対喧嘩になるから出来なくて――」
少年は何かに思い至ったように少女の言葉を遮った。
「……なぁ、葉隠。思い返すとあの時あいつなんて言ってた?」
「えっと……『僕はこれから一人で頑張るから――これからはただのクラスメイトとして』ってやつ?」
「いや、それじゃないその後だ」
「えっと、もう来なくていいよって言われて……尾白くんが友達だろって言って――あ」
「あいつ、その後変なこと言ってたよな……?」
「「………………」」
少年と少女の間に緊迫した空気が走る。
「確か……
『でもさ、無理だよ。鬼人を殺しちゃったんだから――もう、前と同じではいられない』って……」
「あの時の俺たちはまさか本当に殺したわけないって思ってた……よな?何かの比喩に違いないって――」
「う、うん。だって置換くんだよ?その時点ですでに考えられないのに……あんなに仲良さそうにしてた友達を自分の手で……なんて」
「葉隠、鬼瓦を最後に見たのって……いつだ?」
「え、え、まさか――」
「……本当に――?」
男が二人の言葉に被せた。
「殺した……ってことかいな……なるほどなぁ……確かにそれであればおかしくもなる……納得やわ
精神が弱ってる時っちゅーんは変なものに憑かれ易い。そこを狙われたんやろな……」
「……」
男はボソボソと独り言を言っている。
「そして、仮に友達を殺しとるなら今のような精神状態はおかしい。忘れさせられたのはその友達について――そう言う事……のはずやなぁ」
男は少年少女に感謝を伝える為頭を下げると歩き出した。
「さて、情報あんがとなお二人さん。
彼にゃわしんとこにインターンくるよう梢ちゃんから伝えてもらうつもりや。何があっても梢ちゃんおれば応急処置くらいは出来るでな」
「……」
それに、知りたいこともある……と男がその場から立ち去――
少年が声をかけ、男は足を止めた。
「な、何か分かったら……教えて、くれませんか……?!一方的に別れ告げられて、あいつが苦しんでるの見てるだけなんて――できない。俺、これでもまだ友達の……つもりです」
男は少し悩む動作をしたかと思ったがすぐに返事を返しメモ紙に何かを書き込むと少年に渡す。
「んー……ええよ?これ、連絡先。あとで連絡してき――友達大事にせなね。んじゃ、わしも梢ちゃんのとこいくさかい……ばいなら」
去っていく男は思考を言葉にして吐き出し情報を整理するのであった。
「ただの、試験ごときであそこまで頑張る子が友達を殺した……?そうは思えん……それに、合宿での出来事っちゅーことは先生も知っとるはずや。ヒーロー科に残っている時点で彼に故意的な殺害ではないはずや。意図的に人を殺すような奴がヒーロー科に居続けられるわけあらへん」
「何らかの事情で殺したと思い込んでいるだけで――死んでいない……?
今は……断定できん、情報が足らんか……」
♦︎♦︎♦︎
梢さんと話していると影人さんがやってきた。
「おー、梢ちゃん……お話し、進んどる?」
「ん?おー、影人。置換くんの友達らはええん?」
「だいじょびだいじょび、ほんといい友達もったねぇ……お前さんも」
そう言いながら影人さんは僕の肩をとんとんっと軽く叩いた。
「あ、え……え?」
「わははは、ま、そらええわ。梢ちゃんどこまで話したん?」
「ちょうど話し切ったとこやで、そろそろインターンがあるからよければうちらの事務所にどうじゃろって?」
そう、ぼくは梢さんにインターンの候補先としてどうか……と言う話をされていたのだ。現状ではどこに行くなどは考えていなかった。だから助かりはするのだけど――どうして僕を誘うんだろう……?
「そかそか、ほいで、どうや?
わしらんとこ来たらその頭ん中についてもも少し詳しく調べられる……と思うで」
「え――?」
納得が言った。そう言うことならわかる。僕も知らなければいけない……と思っていたところだ。
「むしろ、うち的には申し訳ないけどそっちがメインってところもあるさかい」
「インターン+検査って感じになるんでな、ちと普通の子らより忙しくなってまうんじゃが……」
そうであるのなら、僕の心は決まっていた。
僕は知らなければならない、自分の状態について、失ったモノを取り戻さなければ……
奪われた記憶も、痛みも、楽しかった記憶も、全て僕の、僕だけのものなのだから――
「僕で、よろしいのであれば……こちらからお願いしたいです――」
そう言って僕は深く頭を下げた。
ある少女の◾️◾️
「ったく、何だあのアレ。俺と隷くんの世界に入ってくんじゃねぇよ……」
「たかが、歯車の分際の癖に……。だけど……アレ、上手くやれば使えそうだなぁ……」
「本体から離れた以上俺にできる事はほぼない……ない、が。アレになら干渉できそうだ」
「まさか、記憶を奪ったら俺のことまで忘れるとは思ってなかったからさぁ……」
「もう一度、隷くんと接触しないと……」