とりあえず日常ですね、おかえり置換くん。
日常って大事だと思うんですよね、落差的な意味で。
あ、アンケートなんですけど半々でしたのでとりあえず今のまま行かせてもらいます。
よろしくです。
ではでは、今話もどうぞ。
少しでも退屈を紛らわせれば幸いです。
あの後、僕は尾白くんと葉隠さん、そしてミッドナイトの三人と夕食をとった。
本当はミッドナイトと二人で行くつもりだったけど、正面口で待っていた彼女を見た二人に問い詰められてしまい、流れでこうなった。
それに、僕自身も二人ともう少し話したいと思っていたから、悪い気はしなかった。
食事中、二人に「いつの間にそんな仲良くなってるの!?」……と詰め寄られたが、こう……頑張って誤魔化したんだ。
ここ数日、色んなことがありすぎた。
話すべきなのか、話さなくてもいいのか……僕にはまだ、その決断をする勇気がなかった。
でも、多分二人は察してくれていたんだと思う。
詰め寄った後も、それ以上は何も聞かずにいてくれた。
三人の優しさに触れつつ、僕は日常に帰ってきていた。
僕の知らぬ間にみんなは寮に移り住むことになっていて僕の部屋もある……とのことだった。
つまり、あの人とこの生活は終わりを迎える……と言うことだ。
♦︎♦︎♦︎
僕はいつもの部屋で机に腰掛けながら、あの人――ミッドナイトと向き合っていた。
「えっと……」
「ん、どうしたの?置換くん」
「今まで、ありがとう……ございました」
「?……あー、そかそか。聞いたんだねあの事」
「はい……全寮制になって僕もそこに住む……んですよね」
ミッドナイトは天井の隅に視線を向けながら気まずそうに自身の右手で髪をくるくると巻く動作を繰り返す。
「えぇ、そうね……仮免試験もクリアして学校に戻る以上……いつまでも私と一緒には入れないわ」
「です……よね」
「ま、正直私としては洗い物とか掃除とか助かってたからいてくれても良いんだけどね……」
「おすしも結構置換くんに懐いてるし……」と言いながらおすしを撫でている。おすしも気持ちよさそうに目を細めている。
ミッドナイトは、んーと背筋を伸ばすと僕に疑問を投げかける。
「……置換くん、もう大丈夫そう?」
ミッドナイトは少し不安そうに問いかける。
彼女の指が、癖のように髪をくるくると巻く。
「……はい――友達が、教えてくれたんです。僕は、一人じゃないって。」
口にした瞬間、胸の奥が少しだけ温かくなった。
「そ。それならよかったわ…………えぇ、本当に良かった」
「みんながいるなら、もう少し一人とかは考えずに……頑張ってみようと思います」
「うんうん、いいわね。がんばれ男の子!」
彼女は笑顔だったその顔を引き締め、気まずそうにこちらに視線を向ける。
「……今の君ならいいかな……おじいさんの、言伝は……どうする?」
「えっと……まだ、聞かないでおきます。僕はまだそれを聞く資格が、ありません……」
「資格、なんて――」
「いいえ、ないんです。だって友達だったはずの鬼瓦くんのことを僕は覚えていない。少なくともそこに決着をつけない限りは聞く資格が、ありません……」
「そう、なら君が乗り越えられるまで私は待ってわね。ちゃんと……聞きに来ないと忘れちゃうからね」
「はい、いつか、絶対に――」
玄関で僕は荷物を抱えながらお別れを言おうとしていた。
……あ、そうだ。お世話になったからプレゼント……買っておいたんだ。
「えっと、最後にいいですか……?」
「ん?どうしたの?」
「……睡さん、今まで本当にありがとうございました。あなたのおかげです――色々とお世話になりました」
「っ――」
ミッドナイトは少し驚いた様子を見せたけど、すぐに表示を戻しそれを受け取ってくれた。
「うん、ありがとう。置換くん。また学校でね――」
「はい、ありがとう……ございました、ミッドナイト先生――」
僕はそうしてこの家を後にした。
……え?プレゼントの内容?
いや、そんなに大したものじゃないよ。ただ、ちょっと恥ずかしいというか……
きもいって思われないかなって、ちょっと不安だったんだけど……。
あんまり欲しそうなもの思いつかなくて――
ちょっとお高めなマカロンと、シルクのヘアゴム……えっと、シュシュ?って言うのかな。
あの人の長い髪……仕事する時に邪魔そうに伸びた黒いヘアゴムで結んでて、そろそろ新しいの買わないとなーって言ってたから選んでみたんだ。
まぁ、理由は他にもせっかく綺麗なロングヘアだから傷んでほしくないなって……もっと大事にすればいいのになって……言うのもあるんだけど――それはいいや。
とりあえず、お世話になったから何かお礼したくて……引越しの準備で買い物してる時に探して買ったんだ。
迷惑かもしれないけど、喜んでもらえるかは分かんないけど……
少しでも喜んでもらえたら嬉しいな。
♦︎♦︎♦︎
ミッドナイトと過ごしていた家を出た後改めて地図を見直し寮に向かう。
少し迷ったけど、一時間後僕は寮の前に立っていた。
「うわぁ、大きいなぁ……」
なんかガヤガヤ騒がしいような……?
「おい、置換まだかよ」
「えー?いや今日のこの十五時に来るって聞いてたけど……」
「まさか迷子……?」
「いやいや、まっさかぁ」
「先生とおしゃべりしてたりして」
「っっるせぇんだよ!!!クソボケ共がァァァァァ!!!」
「ちょっ、かっちゃん!そんなに言わなくても――」
――っ。
え、なになに?なんなの?
みんなの声……だけど。何が合ったの……?
僕は少し不安になりながら扉に手をかけドアノブを捻り扉を開いた。
「………………」
「「……………………」」
一瞬の間。
「えっと……よろしく、お願いします?」
その瞬間――
「うぉぉぉぉぉ!!!!!」
「来た来た来たーーー!!」
「待ってたぞ、置換!!!」
まるで爆発したかのように、寮全体が揺れる勢いでみんなが声を上げた。
「おいおい、大丈夫かよ。置換!」
「だ、大丈夫ですの?怪我、されてるとお聞きしましたが……?」
「おいこら置換!こっちにゃ情報は上がってるんだぞ!早く白状しろ!オイラ、オイラはなぁ、羨ましすぎてェェェェ!!」
「そうだぞ、峰田の野郎。血涙マジで流してたんだから……謝っとけって」
「え……え!?なに、なになに??」
「わー!置換くんだ!懐かしー!」
「そんなに日は経ってないんだけど……」
「細けぇことはいいんだよ!とりあえず今は帰ってきて嬉しいってことだろ!」
え、なに……?僕こんなにみんなと仲良い……なんて思ってなかったけど……
「だぁぁぁあかぁぁぁらぁぁぁ!!うるせぇぇぇぇぇ!!!掃除の邪魔だァァァァァ!!」
「あっと……置換くん。」
「さ、おかえり。置換」
「おかえり置換くん!」
「「「これからもよろしく!!」」」
「……」
「……うん。よろしくお願いします!」
僕はそう言って大きく頭を下げた。
この後は……まぁ、物間くんの仮免試験についての煽りがあったり、始業式での根津校長のお話や相澤先生のインターンについての説明諸々あったけど……今回は割愛。
他にも、掃除してる爆豪くんと緑谷くん。
すっごい僕に泣きついてくる峰田くん。
僕の何かに反応したのか常闇くんが話しかけてくるようになったりしたけど……それはまた別のお話。
ある教師の独白。
まったく、ほんとにもう……
こんなの、意味わかって送ってるのかしらね?
まぁ、せっかく生徒からのプレゼントだし、大事に使わせてもらうけど。
ありがとね。
――置換くん。