推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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やっばい!今回執筆めちゃくちゃ楽しかった!
やっぱりこんな話が好きですね。
ヴィジランテのおかげで執筆意欲も上がれば週に更新も夢じゃない!

それでは、どうぞ。
楽しんでいただければ幸いです。


56話 異変

 

 梢さんの焦る声が聞こえる。

 

「……!置……ん!!はやく……!!手遅れになってまう!!」

 

 僕の意識は浮上し、

 朧げだった意識がはっきりとした輪郭を取り戻す。

 

 

 声の主に視線を向けた。

 

「っ!置換くん!?起きたんか?!」

 

 起き抜けの大声は正直キツイ。でもそれを呑み込んで返事をした。

 

「っ、えぇ……目覚めました」

 

 かなり焦っているように見える。

 今は黙って話を聞いた方がいい気がする。

 

「意識に潜って何が見えたかは気になるんけど、今はそれどころやない」

「何が……」

「神栖原市で捕まったヴィランが、脱走したんや。今、この街で暴れてるんよ!!」

「――!」

「社長とミッドナイトが急いで制圧に向かってんけど、個性の相性が悪すぎんねん」

「個性の……相性……?」

「せやねん、あの2人個性は眠り香と胸毛や。やけどな、ヴィランの個性は――」

 

 梢さんのその言葉を聞いた瞬間僕は走り出していた。

 

 ――どうするなんて、そんな事を考える前に必要なものを揃える。

 事態は一刻を争う、一分一秒の遅れすら致命に届き得る。

 

 僕はあの二人の個性と戦闘方法を思い出した。

 しかし、どう考えてもそれじゃ暴れているヴィランに勝てない。

 

 ――近づけないのだ。単純に。

 事務所のトップであるミッドナイト、そして実質運営している社長、その二人が現場に向かっている。

 そしてこの事務所は最低の人数で運営している。

 今この事務所に残っているのは事務員、オペレーター、梢さん、そして僕の四人のみ。

 

 サイドキックはまだいないのだ。以前ミッドナイト事務所で活躍していたヒーローたちはそれぞれの地で活躍している。

 今は応募をかけている最中だった。

 この地域は犯罪件数も多くなく、ヴィランもほぼ来ない温厚な地域だったから二人……いや社長一人でも実質回すことができていた。

 

 こんなことが起きなければ――いや、そんな事を考えても仕方ない!

 今は早く二人を助けに行くんだ――

 

 そう僕は決意して準備を終え事務所を飛び出した。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 街の一角、十字路の交差点で二人のヒーローは一人のヴィランと向き合っていた。

 

 しかし様子がおかしい。ヴィランは無傷で埃一つ被っていない。反面ヒーロー達は血に塗れ、衣装は裂け見るからに痛々しい様子だ。

 

「いやー……社長、これ……かなりヤバい、ですね……」

「ホントだわ……相性が、悪すぎる――」

 

「あぁぁぁぁぁ――」

 

 

 ヴィランが蹲った。

 ――次の瞬間、身体を起こし、腕を大きく広げた。

 

 

「ァァァァァ――!!!!」

 

 その瞬間、二人のヒーローを襲う暴風――いや、狂風と言ってもいいかもしれない。台風そのものが意思を持ったかの様に二人を切り裂く。

 服が裂け、そこから皮膚が、筋肉が裂ける。

 

「――ッたいわね!」

「ッ――」

 

 ヒーローがいくら痛みに慣れているとはいえ風、そう呼ばれる鋭利な形の持たぬ刃物に切り裂かれるのは酷く痛みを与えるのだろう。

 

 上裸の腕のない男が呟いた。

 

「これ……風は、確かに……脅威だけど本質は違うわね……」

 

 妖艶な佇まいをしている女は疑問を浮かべた。

 

「社長……どういう、ことです……?」

 

 男は声を絞り出すのも辛そうにしかしそれでも女に伝えた。

 

「風は、脅威だけど……それだけで武器にはならないわ……そりゃ、息ができない、くらいはあるでしょうけど――」

 

 女は目を閉じて考えた。数瞬の後閃いた様に目を薄く見開いた。

 

「風に、飛ばされたモノ――」

「そう……風により飛ばされたモノそれが何よりも恐ろしい。身体ごと飛ぶのも当然怖いわ……でも、砂ひとつすらこの個性の前では凶悪な刃物に変わる……速さはすべてを殺しうる力なのよ――」

「……仮にもし、これより風の出力が上がるなら――」

 

 そう男が呟くと同時だった。

 狂風に吹かれた車が高速で二人に迫った。

 

「――しまッ!!」

「――ッ」

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 僕がヴィランの目前に辿り着こうとした時、目的地から大きな物音が聞こえた。

 

 一歩近づくとヒーロースーツが風にゆられる。

 目的地――十字路の交差点、そこをまるで切り取るかの様に風の壁があるのを感じた。

 

 どうしたらいい、そう考えた時インカムから声が聞こえた。オペレーターの華山さんだ。

 

『こちらミッドナイト事務所、置換くん到着しましたか?』

「はい……ただ風出てきたら壁があって物を投げると――」

 

 足元の石を拾いその壁――風壁に目掛けて投げた。

 風壁にぶつかるとそれはすぐさま削れ石は砂になり風に巻き込まれていった。

 

「――こう、なっちゃいます」

『なっ――』

 

 ただ、僕の個性なら中に入れる。

 風はあくまで風であり形ある何かではない、だからこそその内側を明確に写す。

 いまは砂埃が立っていてあまり見れないけど、砂埃から少しだけ赤い車体の一部が見えた。

 

「大丈夫です、行けます」

『……ごめんねこんなこと任せて、今全力で応援を呼んでいます。来るまで……持ち堪えて――』

 

 自分よりも年下にこんな事を頼まなければいけない不甲斐なさに耐えながらもそれでも救うために仕事をしている華山さんに尊敬の念を抱き長く返事を返した。

 

「はい、任せてくださ――」

 

 手を合わせて音を響かせる。

 視界は反転し、空気の質が変わった。

 まるで刺す様なピリピリとしたものに。

 そう――僕は入れ替わった、あの目視できていた赤い車体と。

 

 

 

「…………え……?」

 

 そう、よく見ていればよかった、はずなんだ。

 そうしたら少なくとも覚悟を持ってこの場に入れたはずだから。

 

 赤い車体だったから"それ"が目立たなかったのだろうか……

 いや、もしかしたら僕自身が無意識に"それ"から目を逸らしたのかもしれない。

 

 この場には三人しかおらず、

 あの風の個性はあの二人のものではないという事実。

 そして、その現場にある赤い池の意味を――

 

 

 鼻を刺す、錆びた鉄の様な匂いを風が運んでくる。

 視界を覆い尽くす様な赤、赤、赤――赤赤赤赤赤赤赤赤――あか、アカ、あか、アカ――!

 

 強烈な頭痛が僕を襲った。

 

 僕は見たことのない景色/ボクはこの目で見た。

 僕は知らない感触/ボクはその感触を知っている。

 僕はそんなものは知らない/ボクは知っている命を奪う瞬間を。

 僕は……

 

 

 そこは、森の中、僕と黒い人の形をした獣が対峙していて、僕が、ボクが……ぼく、が……

 密かに笑みを浮かべるその獣の空いた眼球の隙間から頭部に一撃を与えている。

 そして、その一撃で確かに――

 

 

 ――思い、出した。

 

 僕が、ボクが、封印した記憶……

 

「ぁぁぁぁあああ!!!!!」

 

 それは誰だったのか、

 今の僕には手に取るように分かる。

 僕の、友達だ。

 僕は、それを、何よりも大切だった親友を――

 この手で、殺した。

 

『          !!』

 

 意識をあの赤い目のヴィランから逸らしたのがいけなかったのだろう。

 僕は吹き飛ばされていた。暴風に叩かれて潰されながらふと思った。

 

 どうして、忘れていたのだろう。

 なぜ、友達のことを、

 誰よりも仲の良かった親友のことを忘れていたのだろう。

 

 思考している今も、身体はぼろ雑巾のように擦り切れ肌は裂けている。

 それでも痛みはなかった。

 むしろ、心地よいまであった。

 

 あぁ、これが罰だ。因果応報、罪には罰を。

 そうだ、僕は罰を求めていた。

 友達を殺したこの手で、誰を救えるという。

 この血に塗れた手で誰が救われたいと思うのだろうか。

 

 そう、殺したなら殺されなきゃいけない。

 なら……このまま――

 

 微かに呼吸する音が耳に入った。

 

 ……え?だれ、だろう。

 この場には僕とヴィランと――

 

 赤い池に沈んでいる二人しかいない。

 ……いや、微かに動いてる。まだ――生きてる。

 華山さんの、声が聞こえた。

 

『置換くん!!!どうしたの!!?状況を!!』

 

 僕は声を絞り出す。

 確かに僕は罰を求めている。

 だけどこの二人をそれに巻き込んでいい道理はない。

 

「……重症者二名、出血多量です。

 ……これより二人を風壁より脱出させます。

 すぐに救助お願いします――」

『お、置換くん――』

 

 インカムは風に飛ばされ助けを呼ぶことはできない。

 だから、助けることを優先する。

 罰を受けるのも絶望感に浸るのはその後でいい。

 

 

 僕が風壁の外で把握しているモノは僕が入る時に使った車体のみ。

 中と外は断絶されており通常の手段では出入りできない。

 それなら――

 

 手をたた――

 右手が、動かなかった。

 そうだ……やられてたんだから、身体はボロボロだった。

 

 口は使えない、風の刃が口内をズタズタに裂くのが目に見えている。

 

  ……いや、わずかに動く。

 ならいける。

 左の手と右の義手で渾身の一打を響かせた。

 

 ――――――パン――――――――

 

 音と同時に、「パキン」という金属音を響かせて、義手が根元から外れ、地面に転がった。

 血の池があった場所に鎮座するのは人ではなくモノになっていた。

 赤い車体、これであの二人は押し潰されたのだろうか。

 痛かっただろうに、それでも逃げなかった。

 あの二人は間違いなくプロヒーローなんだ。

 

 コンディションは最悪。

 戻った記憶で精神はズタズタ、血も多量に流れ頭も朦朧としている。

 さらに義手は壊れかけ、個性で付け替えようにも根元が壊れた以上付け替えることができない。

 

 さぁ、置換隷。覚悟を決めろ。

 お前の存在意義はなんだ。

 

 ――推しを救うこと。

 

 この先彼女は少なくとも一度、命の危機に晒される。

 だから、お前はここで生き残らなければいけない。

 

 生き残る為には……

 このヴィランを倒さ/殺さなくてはいけない――

 

 

 

 あぁ、それでも現実は無常で救いがない。

 そんな状態でプロヒーロー二人を完封したヴィランに勝てるわけもなく、

 僕は当然のようにさっきまでいた二人のように血に塗れながら倒れ伏した。

 

 僕があの二人のように車体で押し潰されそうになった瞬間、

 僕の身体から大切な何かが抜け出た気がした。

 

 ――いや、気がしたのではない。

 確かに黒い霧が僕の身体から出ている。

 

 僕から出た黒い霧は壊れたはずの義手に吸い込まれていった。

 そして蠢きカタチを変え、僕をその窮地から救い出した。

 

「なんだ救えてんじゃねぇか……

 後はオレに任せろ隷――」

 

 僕は大きな腕に抱えられ懐かしい親友の声を聞きながら意識を閉ざした。

 

 





 ある少女と◼️◼️の独白

「あーあ……せっかく忘れられる様にしてたのに」
「◼️ット、◼️◼️ヨウガ◼️◼️タダロウ」
「うっせ話しかけんな、オレはテメェが嫌いだ。
 ――つかさぁ?それだけで思い出すなんて思わねーし」
「血◼️……」
「ハァ……あの女の血、それをみただけで記憶戻るのは……妬けるぜ」
「……オレは手出し出来ねぇからよ
 あっちの俺はよほどヤバい状態なんだろうな。隷くんの禁忌に触れるんだから、
 この時間軸ならもうわかってるはずなんだがなぁ……」
「◼️◼️、カ……」
「……わかるよ身を焦がす様な激情。
 オレもそれは体験したし、その先を知らないなら短絡的な方に狂ってもおかしくない」
「そもそも、なんでオレがいるのかね。あの世界はもう……終わったはずなのに――」
「……」
「ま、いいさ。また隷くんをこの目で見れた、話せた。オレにはそれだけでいい。あの時の隷くんとは違うとしても――」
「あ、おい。てめぇ何処行く気だよ……」
「ダチノ、◼️ダ……」
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