推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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前話、変なところで区切って申し訳ないでしたわ?
ところでこの作品ってミッドナイトを救う話なわけで…
ということは、どこかで確実に……

まぁ、それはおいといて
どうぞ、お楽しみくださいませ。



57話 異物

57話 その後

 ………………深く、深く沈んでいた意識がゆっくりと、しかし確かに浮き上がった。

 

「っ――」

 

 全身を薄くスライサーで斬られたように痛みを覚えたがまだ、この程度なら動ける気がする。

 

 

 ――◼️◼️、◼️――

 

 目をゆっくりと開いて自分のいる場所を確認した。

 どこかで見たことのある馴染みのある天井だ。

 

 左手で拳を作り手を開く。手の甲に触れるシーツの感覚がひどく心地よい。

 

 うん――動く。痛みもそこまで問題なさそうだ。

 とりあえず、ナースコールを押して無事を伝えようとコールを握りしめた。

 

 次だ。右手でも拳を作り手を開く。

 

 うん、問題なさそうだ。

 いつも通りうご――え?

 おかしい、それはおかしいだろう?

 

 

 なんで、触感があるの――?僕の腕は、義手のはずで――

 

 手の甲にシーツが、手のひらには拳を握り込んでいた時のそんな触れた感覚があった。

 

 布団を急いで捲り右腕に視線を移す。

 肘から先が黒く変色していた。どこかで見た事のある色だ。

 黒い、腕――

 

 記憶をよぎるものがあった。

 あの時の、鬼人の身体はこんな色をしていた。

 

 ……まって、これ、義手だったよね……?

 

 そう思い、自らの右腕の付け根を覗き込んだ。

 その付け根は僕の肌色の肌と黒い腕を接合しているようで、火傷のような爛れがあり無理やり接合したようなそんな気配が見て取れた。

 

 ――◼️、お◼️って――

 

 左手で右手首に触れてみた。

 ドクン、ドクンと脈拍を感じる。

 

 この腕は、僕の腕だ。

 色、形は全然違う、それでもこの感覚、重み、使用感全て僕のものだと確信できる。

 

 ――聞◼️◼️てる◼️……?

 

 ……?なにか、僕の中から聞こえる……?

 

 その声に耳を澄ませようとした時だった。

 廊下からドタドタと忙しない音が聞こえてきた。

 

 「――は、隷くん!!無事か!!?」

 

 びっくりして右腕を布団に潜らせた。

 

「は、はい……えぇっと、梢さん」

「……よかったわぁ、ほんま、すまん。ちょい余裕なかったさかい……」

「いえいえ、お気になさらず。それでどうしたんです?」

「あ、そうやったわ。隷くん目覚ましたさかい様子見ようと思てね」

「あぁ、そうでしたか。ありがとうございます、この通り五体満足ですよ」

「そかそか、ならよかったわ。いやな、ヒーロー二人が――」

「っ――」

 

 

 ヒーロー!!そうだ、あの二人はどうなった?

 

「梢さん!あの二人は!!」

「あぁ……あの二人やけど社長はいまICUに……ミッドナイトは……」

 

 僕は驚愕のあまり梢さんの言葉を最後まで聞きたくなくて、病室を飛び出した。

 

 部屋を出るとナースさんを見つけた。

 

「あ、ダメですよ?まだ休んでないと」

「す、すいません!で、でも今はそうじゃなくて、社長と、ミッドナイトが――」

 

 ナースさんは少し表情を曇らせたかと思ったがすぐに笑顔を浮かべた。

 

「――あぁ、きっと大丈夫ですよ!社長さん、ミッドナイトさんは今は会えませんけど――」

 

 僕はさらに走り出した。

 ナースさんが何を言ったような気がしたけどそれより優先することがある。

 

「あ……ちょっ!!」

 

 ミッドナイト…………睡さん!!

 無事でいてください。

 

 あぁ、もう!走りにくい!!

 一度立ち止まり巻いてある包帯を解く。

 そして階段端におき、また後で取りにきますと心の中で手を合わせる。

 

 ――ったく。

 

 右腕が、まるで何かを導くように、音もなく“ある方向”を指差した。

 

 ――ほれ、隷。そっちだ。右目で観ろ……右目で、なんとなくわかんだろうが。

 

 ……え?鬼、人……?いや、でもこんな声じゃなかったような……

 

 ――あぁ、もう!!今はそれじゃねぇだろ優先すんのは。とっとと観て行け!!

 

 ……あ、うん。

 

 右腕が指差した方向を右目で観ると確かに覚えのある気配を感じた。

 

 一歩、一歩、その病室に向かって歩みを進める。

 足が……重い、廊下が暗いせいだろうか、嫌な連想ばかりしてしまう。

 

 扉の前で一度、足が止まる。手が震える。だけど――ドアノブを、そっと掴んだ。

 

 記憶がフラッシュバックし、血の香りが鼻を突いた。

 血の池に倒れる二人、社長と――

 

 右腕が勝手に動き出しドアノブを捻った。

 

「ちょ、まっ――」

 

 そこに、ミッドナイトは、睡さんはいた――

 

 風にたなびくレースカーテン、

 ほのかに差し込む日の光

 ――まるで絵画みたいだ。

 

 サイドテーブルに飾ってある白い花と紙。

 ――この花、なんていうんだっけ。

 

 なんらかの機械がピッピッピと音を立てている。

 ――これも、名前なんだっけな。心電図…?

 

 彼女の身体は病着越しでもわかるくらい血の滲んだ包帯が巻かれている。

 ――痛そうだなぁ。

 

 そして彼女の眠っているかのような安らかな表情。

 それはまるで名画のようで世界の一面を切り取り時間を止めたような――

 

 僕がその最悪の想像をすると同時に――世界の音が消えた。

 

 あ……

 守れ――、なかった――?

 僕は、誰も、守れなかった。

 力も、心情も、何の意味も――

 

 ――おい、隷。テメェらしくねぇぞ。よく見ろ。

 

 みる……?なにを……、何を観たって一緒じゃないか……

 

 ――あぁ、うぜぇ。

 

 その言葉が頭に響くと同時に右腕が僕を襲う。

 右腕のボディブローだ。

 

「いっ――!」

 

 痛い――、だけど少しだけその痛みで冷静になれた。

 動きを止めていた、いや、よく見るとわずかに胸が上下に動いている。耳を澄ますと呼吸の音も聞こえた。

 

 ――いきてる。

 よかった。生きてた。生きてたんだ。

 助けられた。無意味じゃなかった。

 

 ゆっくりと足を踏みしめて、寝ている睡さんの寝ているベッド横の椅子に腰掛けた。

 

「睡さん……」

 

 そっか、生きてた。

 生きてたんだ――

 

 視界が何故か滲んだがそれを気にせず言葉を続ける。

 

「話したいことがいっぱいあるんだ。

 睡さん……ぼくさ、思い出したよ、鬼人のこと」

 

 あぁ、でも今は生きているって分かっただけでよかった。

 

「起こしたら申し訳ないので……また来ます」

 

 後ろ髪を引かれながらも、僕はその場を後にした。

 あぁ、あの花の名前……前に葉隠さんが言ってた気がする――確かスノードロップだ。

 

 

 その翌日、睡さんが目覚めないことを梢さんから聞いた。




ある少女の独白


「ふぅ、病室に忍び込むのってドキドキするぜ。さて、隷くんはあの花とラブレター気に入ってくれるかな?」
「俺を飾る最後の舞台、盛大に着飾って隷くんを待たなきゃね。……ははっ、早く気づいてくれねぇと、ひでぇぜ?これは、君のために、何より俺のために用意した“死の舞台”なんだから」
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