推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

64 / 102
アンケートありがとうございました。
さて、結果はご存知の通り、救済。
同情なのか、好意なのか、報われてほしいのか、それともヒーローになるために殺しはいけないという感情なのか、どんな気持ちで選んだのかはわかりませんが……
どちらであっても僕にとっては救済であることは変わりません。

それでは、どうぞ。
満足のいく出来が仕上がりました。


62話 救い

 

 ……できない。

 僕には出来ない、この可哀想な少女を傷つけることは――出来ない。

 

 僕はヒーローになるんだ、いろんな人を助けて――ミッドナイトを死の運命から救い出すんだ。

 

 だから僕のやることは人を傷つけることではなく人を助けること。

 

 仮にここでもし自分のためにこの子を傷つけたのなら僕はもうあの人に顔向けできないし、ずっと後悔の念に苛まれるのは目に見えている。

 

 だから僕はこの子を救うんだ。

 

 目の前に泣いている少女……いや、女の子がいる。

 今のカイの年齢よりどうみても幼いが……これはカイだろう。

 

 面影を感じる。八歳くらいだろうかそんな歳の子が泣いている。

 

 痛くて、誰かに助けて欲しくて、でも誰も助けてくれなくて。

 みんな自分を傷つける。

 だから、この世界を観ることをやめた。

 そんな子が泣いている。

 

 だけど、どうしても一つだけ――許せないことがあった。

 鬼人だ。僕が殺した、でも……その引き金を引いたのはカイだったかもしれない。

 けれど―

 

 ふと、肩を叩かれた気がした。

 後ろを振り向くと鬼人が笑みを浮かべている。

 そして早く行けとでも言うかのように手をひらりと振った。

 

 ……そっか、鬼人は許したんだね。

 なら、僕がどうこういうのは違う……か。

 やりたいようにやろう。

 

 僕は右の腕を左手で触れた。

 

 それに、鬼人はここに居る。

 死んでなんていないんだから――

 

 さぁ、いこう。

 あの子の涙を止ませるために。

 

 僕のヒーローとしてのはじめの一歩。

 僕は、ここからヒーローになる。

 ――その一歩を、今、踏み出すんだ

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 なんで、みんなわたしを虐めるの……?

 なんでこんなに世界はわたしに残酷なの……?

 なんでお母さんはいなくて、ここはこんなに暗いの……?

 隷くんも、わた……オレの隷くんじゃなかった。

 別世界の夢、幻想……

 

 やだよ、寂しいよ、一人は――

 

 ふと、背中に暖かさを感じた。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 どうみても泣いている、それでも泣き声は聞こえない。

 もしかしたら、彼女がどれだけ泣いても叫んでも助けなんてなかったから声を出すことを諦めたのかもしれない。

 

 泣き虫の女の子はもう目の前だ。

 全身は赤く滲んだ包帯で包まれている。

 全身が傷で覆われているのだろう。

 

 僕はさらに足を進める。

 

 せめてこの子の行く末が少しでも幸せでありますように、そう願いながら僕は女の子を背中側から抱きしめた。

 

「ごめん、ごめんね……助けられなくて――ごめん」

 

 もし、僕があの子のみた世界のように動けば救えていたはずなのだ。

 こんなに傷ついていなかったはずなのだ。

 

「やだよ!やめろよ!!俺のじゃないなら――触るな――!!」

 

 少女は……カイはもう誰にも近づいて欲しくないと腕を振り回す。

 

 頭に腕が当たる。視界が点滅し赤く染まるがそれでも構わず手を伸ばす。

 

「大丈夫……僕はもう、カイを傷つけないから――」

 

 カイの手が僕の右眼を打ち、視界が暗転した。

 一瞬、痛みに絶句したがそれでも構わず抱きしめる。

 

「大丈夫だよ、ちゃんと守る。カイは悪くない」

 

 そう、悪いのは――環境だ。

 そして何より、アイツだ。

 

 歯を噛み締め表情に、声色に怒りを少しも出さないように変わらず抱きしめる。

 

「カイ、キミはずっと頑張った。一人で、誰の助けもないのに頑張ったんだよ」

 

 少しずつカイの暴れる手が収まっていく。

 

「もう、休んでいいんだ。泣かないで……いいんだ」

 

 カイの手が完全に止まった。

 

「……ぅぅ、ぇぐ。みんな、たすけてくれなかったんだ――」

「うん、ごめんね……僕がもっと早く気づけたかもしれなかった」

 

 今まで聞こえなかった泣き声が少しずつ聞こえるようになってきた。

 

「だって、みんな、みないふりしてた」

「僕がちゃんとキミを観るよ」

 

 今の僕は彼女の心そのものに触れているのだろう。

 その言葉が、痛いように刺さる。

 

「……おかあさん、いなかった」

「っ――」

 

 そう、カイのお母さんは多分あの医者に――

 

「……キミのお母さんは、もういない。

 僕は、お母さんにはなれないけど……」

「――ぇぐ……」

「でも、友達には……なれるよ」

「ぁぁ……ぅぁぁぁああああ――」

 

 今まで泣けなかった子の泣き声が耳に痛い。

 しばらく僕はこの子を抱きしめ続けた。

 キミは一人じゃないと伝えるように。

 ずっとは一緒には居れないかもしれないけど……それでも今僕はここに居るって伝えるために――

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 いつのまにか幼かったカイは今の年齢の姿に戻っていた。

 少し恥ずかしいのか目を赤くしていて視線を少ししかこちらに向けていない。

 

「……ぁ、ありがとう……隷、くん」

「ううん、気にしないで。僕はキミの求めたものには慣れないけど、友達だよ」

「……うん、悲しいんだけどさ、でも嬉しいよ」

 

 カイは涙を目尻に浮かべながら儚い笑みを浮かべた。

 

 それから僕たちは話した。

 どれだけの時間話したのかは分からない。

 一〜二時間だったような気もするし、数ヶ月話したような気もする。

 思っていたこと、伝えたかったこと、くだらない日常のこと、この世界の――

 分からないことは多くあった。

 それでも確かに僕はカイのことを知れた。

 

「隷くん、ほんとうにありがとう」

「うん……」

「だから、戻ろう?俺はもう夢を観れたから――」

 

 罪を償わないと――

 そんな声が聞こえた気がした。

 

「――っ」

「隷くん、キミは優しいから罪なんてって言おうとしてるのかもしれない」

「……」

「でもね、俺は間違いなく罪を犯した。オールマイトを殺そうとした、キミの親友である鬼瓦鬼人を――」

「違っ――」

 

 鬼人は僕が殺したんだ……

 それに鬼人だって、許してる――

 

「違わないよ、仮に鬼瓦鬼人にその要因が眠っていたとしてもそれを起こした元凶は俺だ――」

「それに、ヴィラン連合に与した、と言う事実もある」

「カイ……」

「あ、隷くん。俺だって素直に捕まるつもりはないよ。しほーとりひき?だっけ情報吐けば刑って軽くなるんでしょ?」

「……うん、そのはず、だよ」

「なら、大丈夫だって!」

 

 僕にはカイの笑みが嘘か本当か読み取れない。

 ――だから、信じるしかない。

 

「ね?隷くん。俺は罪を償う。そしてその後キミの力になりたいんだ。唯一の友達であるキミの――」

「あり、がとう……」

「やだなぁ、やめてくれよ、そんなの泣きそうになるじゃんか」

 

 カイはけらけらと笑う。

 

「いいかい、隷くん。俺はキミの説得で自首を決めたわけじゃない。キミの友達に相応しい自分になるために自首をするんだ」

「カイ……」

「だから、これは新しい俺になるための第一歩。友達の隷くんには笑って送り出してほしいな?」

 

「……、そう、だね」

 

 言いたいことはまだ色々あった、

 それでももう彼女は決めた。

 もう僕が何を言っても揺れることはないんだろう。

 

「さ、行こう?隷くん」

「うん……」

「俺たちの新しい門出なんだから!笑ってよ」

 

 白い世界は反転する、黒いのになぜか眩しくて眩しくて何も見えない。

 

 世界が変わる瞬間、一滴の雫が僕の手に落ちたような気がした――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

「……あ、れ……」

 

 鳥の鳴く声が聞こえ、荒れ果てた大地が見える。

 どうやら戻ってきたらしい。

 太陽を見るとそれは沈みかけてており、月が見え始めている。

 

「っ――今は!?」

 

 時刻はざっと十七時くらいだろうか。先ほど放送が耳に入った気がする。

 日にちは……どうだろう。

 あの世界に長くいた気がするから分からない。

 位置を知られない為に、スマホを持って来なかったせいでこんな事があるなんて思わなかった。

 

 違う、そんなことよりカイだ!

 

 僕は辺りを見回した。

 いない、カイが……いない?

 

「――あははは!!」

 

 声が聞こえた。

 カイの声だ。

 辺りを見回してもやはりいない。

 

「隷くん、上だよ、上!ほら木の枝の上〜」

「カイ……」

「んー?うん、俺俺カイだよー。ほら隷くんもおいでよ」

 

 カイは木の枝の上に腰掛けていた。

 ある程度その枝は二人が腰掛けても折れなそうな太さでありここに座れとでも言いたげに石が置いてある。

 

 僕は苦笑し個性を使い、カイの隣の石と置き換わった。

「うわっ、びっくりした。やっぱりその個性便利よな〜」

「何言ってんだか、カイの方が便利じゃん。観測って……」

「……ま、ね」

 

 失敗した。この個性のせいでカイはこうなったんだ。

 個性の話をするんじゃなかった。

 

「気にしないでいいよ――そんなことよりほら!」

 

 カイが夜空を指差した。

 話しているうちに完全に陽が落ちたようだ。

 

「みてみて、月が綺麗だよ」

「あはは、そだね。満月だ」

「――うん。色々まだ話したいことはあるけど……そろそろかな?」

「どうしたの?」

 

『――くーん!!!』

 

「ほら、君を探しに来た。

 俺……あの女の"◼️"返したでしょ?」

「?」

「だから、あの女すぐ目覚めたのよ。

 で、もちろん"◼️"にも意識はあったから観た情報からここを割り出して到着したってところかな」

 

『置換くーん!!』

 

「ほら――ね?」

「あ……ミッドナイト!!」

 

「はぁ……もうちょい二人でも良かったんだけどね」

「ここですよー!先生!!」

 

 急いできたのだろう、傷だらけなのに病院着のままの彼女がそこにいた。

 

 ミッドナイトと目が合い、そのまま彼女の視線は横にずれる。

 

「っ――カイ!!」

「はぁ……」

 

 あ、やばい。

 

 僕はすぐさま下に飛び降り事情を説明することにした。

 絶対このままだとまた争うことになりそうだったからだ。

 

 もうカイが誰かを傷つけることはないということ、

カイが改心したこと、自首をしようとしていること、司法取引を求めていること、それらを丁寧に説明した。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

「……ふーん……で、自首する気なのね……?」

 

 ミッドナイトはカイに疑問を投げかけた。

 しかしカイはそっぽを向いたまままるで聞こえていないかのように反応しない。

 

「……」

「……カイ?」

「どうしたの?隷くん。あんなおばさんほっといて早くいこうよ」

 

 ……僕の言葉にはすぐ返事を返した。

 気のせいでなければ、ミッドナイトのこめかみに怒りマークが見え口角がピクピクと震えている。

 

「ねぇ?置換くん、自首!するのか聞いてもらってもいいかしら?」

「……は、はい……」

 

 こわい……

 

「えっと、カイ。自首、するんだよね?」

「もちろん、俺は俺のために。君に見合う友達になるために自首するさ」

「そっか……」

 

 未だミッドナイトはピクピク震えている。

 しかし流石大人の女性というところだろう、なんとか怒りを飲み込んでいるようだ。

 

「そうなのね?ならまぁいいわ。陽が上り次第朝一番でいきましょう」

「…………」

「……カイ?……」

「ん?どうしたんだい隷くん」

「あの……なんで無視するの……?」

 

 胃が……、胃が痛い。

 空気が重いよ、カイちゃん……助けて鬼人。

 

『?やだよ。俺も巻き込まれたく――

 ごほん、いやあー羨ましいなー隷。両手に華じゃん?

 じゃ、頑張ってくれ』

 

 鬼人……?え?鬼人ーーー!?

 逃げたよ……鬼人……

 

「……いや、俺この女嫌いだし(隷くんに好かれてるから)」

「え……?なんで」

 

 なんか聞こえなかったところあるけど。嫌いなんだ。

 こんなに可愛い人なのに……

 

「はぁ……いや、いいよ。分かったよ、話す。話しますー……隷くんが嫌な思いするのは嫌だしね」

 

 カイは一息ため息をつくとミッドナイトに視線を向けた。

 

「で、何?おばさん」

「っ――。えぇ、自首するのでしょう?朝、一番に、お姉さんと行きましょうねぇ?」

 

 す、すごい。ミッドナイトた、耐えてる。

 

「そだよ、おばさん。ほおの横の小皺が目立ってるよ?もう少し若作りした方がいんじゃない?」

 

 カイーーーーーーー!!!?

 

「ぐぐぐぐぐ……」

 

 ミッドナイト……見たこともない顔してるけど。

 いやでもこれはこれでアリなような……

 

 そんな感じで二人の衝突がありつつも夜は明けて行った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。