推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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お待たせしました。
いつも誤字報告ありがとうございます、見直してはいるのですが存外気づかないものですね。

それでは、今回もどうぞ。
しばしの退屈を紛らわせられれば幸いでございます。

あの日はもうすごそこに、来ているのかもしれません。


63話 「カイ/鬼人」

 

 ミッドナイトとカイ、この二人はどうやら少し相性が悪いみたいだ。

 

 理由は全くわからないけどカイがミッドナイトを煽り、ミッドナイトはそれに対して怒っているように見えるけど何故か笑って流している。

 

 そんなことをして過ごしていると陽が昇ってきた。

 カイが呟いた。

 

「……あ、日差しだ」

「「……」」

「……さて、と。じゃそろそろ行こうかな」

「カイ……」

 

 胸が痛い。

 僕はカイの過去を知ってしまった。

 想いを、願いを、悲しみを、慟哭を全て知ってしまった。

 

 結局カイが悪かったわけではなかった。

 あの医者が、その陰に潜む者が、タイミングが、環境が、さまざまなものが悪かった。

 ただそれだけだったのだ。

 

「あはは……やっちゃいけねぇことやったのは俺だしね」

「カイ……あなた」

「うっせ、うっせ、別れのシーンだぞ。邪魔すんな」

 

 やはり強がっているように見える。

 それでもカイが決めたのだ――罪を償うと、なら僕は彼女を救った人として見送ることが、唯一できることなのだろう。

 

「あ、隷くん……」

「どうしたの……?」

「えっと……キミの友達の……」

「あぁ、鬼人……?ここに――」

 

 僕が右腕を触り鬼人の所在を明かそうとするとそれに被せるようにカイは言った。

 

「まだ、帰って来れるよ。

 死んでない、そこに◼️はあるから……

 ――◼️から身体は再構成できる」

 

「……え?」

 

 鬼人が、帰ってくる……?

 

『あちゃぁ……、まだ黙ってようと思ったのに、あんにゃろう』

 

 鬼人……?知ってたの……?

 

『……ま、そりゃ自分の身体の事だしな。

 そもそも、お前の手……生身になってんだろ?

 だから、まぁ……出来るとは思ってたさ』

 

 そっか……、よかった、よかった……っ!!

 ……!なら、カイの罪は――

 

 僕がそう思い顔を上げると、カイは静かに首を振った。

 

「ダメだよ、隷くん。

 俺は確かに罪を犯した。

 たとえ帰って来ようが、失ってなかろうが罪は罪だ」

「……」

「それに、そのおばさんの師匠?あれの原因俺だし」

「そう……ね。ただ、社長はまだ死んでないわ。

 ここにいたなら、"子供がそんなこと気にしないの!"くらい言うでしょうね」

「……ま、仮にそうだとしても余罪は山程ある。

 なんにしても俺が俺のために、隷くんに誇れる俺になるために、罪を償うと決めたんだ」

 

 ……カイ……

 

『漢――じゃねぇや、あいつが決めたことなんだ。

 邪魔してやんな、隷。』

 

「そう……だね」

「あぁ、そうだ――隷くんはここまででいい。

 自首とはいえ捕まるから……そんなところは見てほしくないや」

「そっか……うん――」

 

 なら、せめて――

 

「会いに、行くね」

 

 カイは一瞬何を言われたかわからないようにぽかんとするとハッとした表情を見せ――笑った。

 

「あぁ……それは、いいな」

 

「さて、それじゃあカイちゃん行きましょうか――」

 

 ミッドナイトがそう言うとカイは静かに僕から視線を外し二人は歩いていく。

 

 僕は最後まで見送ろうと視線を向けていた。

 視界から二人がもう少しで消える、その時だった。

 

 カイがミッドナイトに殴りかかった。

 僕には、そう見えた。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 あぁ、隷くんとしばらくお別れだ。

 寂しいけど、なんか清々しい。

 ……なんて言うんだろう……あぁ、そうだ。

 ――気分がいい、だ。

 

 隣にいるのがこいつなのは気に食わないけど……

 まぁ、こいつになら捕まる前に散々、隷くんのこと話しまくってもいいだろう。

 

「……ねぇ、カ――」

 

 ……!

 待て、観られてる――?

 

「……黙れ」

「――え?」

 

 どこだ、この視線……変だ、俺が……わからない……

 俺が、観測できない……?

 対策されている……

 狙われているのは、俺だけ……か?

 いや、違う――こいつもか!!

 

 気づけば身体が勝手に動いていた。

 リミットはもうない、

 観えずとも分かる。視線は、もうすぐそこにきている。

 話す時間すら惜しい。

 手っ取り早い方法は――

 

 観えない存在が俺たちにたどり着く前に――

 俺はこいつ/ミッドナイトを殴り飛ばしていた。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 僕の頭を疑問が埋め尽くす。

 カイがなぜ、どうして、自首するって――

 

「――!!カイ!!!!」

 

 でも、その疑問はすぐに解消されることになった――

 ……最悪の結果を目の当たりにしたことで。

 

 ミッドナイトはカイに殴り飛ばされカイから少し離れた位置の木に背中を打ちつけた。

 

 そして、彼女を殴り飛ばしたカイは――

 

 カイは……

 

「――え、どう……して」

 

 僕はそのありえない光景を目の当たりにして頭が真っ白になった。

 

 

 カイは右の腹に穴を空け、本来は見えないはずの奥の景色をその場所に写していた。

 ……いや、腹部だけじゃない

 右の足の付け根も腹と一緒に抉り取られ、血が滴り落ちている。

 この距離で見えないだけで内臓すら溢れているかもしれない。

 

 ふらっとカイの身体が揺らめく。

 ――同時に黒い影が僕の視界に入った。

 

 当然、僕の頭は働いていない。

 それでもまずアレから距離を離さなければ、僕は無意識に個性を使い、ミッドナイトとカイを僕の近くに置換させていた。

 

 どうする、どうする、どうするどうするどうする――?

 悩むな、置換隷。

 

 ミッドナイトの負傷はない、意識は……分からないけど。呼吸はしている。

 

 しかし、カイは――カイの身体から源泉とも言える血が溢れている。

 

「し、止血、止血しないと――」

 

 カイの腹部に手を添える。

 

「あ、あれ……血、血が止まらない」

 

 当然だ。右の腹部に穴が空き右足も欠けている。

 どこを抑えたとて血を止めることは出来ない。

 

「……ぁ……」

「――カイ!」

 

 カイがかすかに声を出した。

 

「……ぁいつ……わ……?」

「……いつわ……?」

 

 カイが何を尋ねているか、

 自ずと察することは出来た。カイが救った彼女の事だろう。

 

「ミッドナイトは……無事だよ!!」

「……そ、っかぁ……よぁ……たぁ……」

 

 でもあんなに嫌っていたのにどうして――

 

「……どうして――」

「……ぁって……、れぃ……くん、あの……ひ、と。だぃじ……で、しょ……?」

「――あ」

 

 カイは、僕の為に。

 でも、僕はこの子に何をすることも――

 

「――ぃい……?さっ……き、おそ……ってきた、のは

 お、れ……が、どぅ……にか、するっ……から……!」

 

 カイは僕をとても弱い力で押し退けると。

 震える両腕をを前に出す。

 

「も、ぅ……みぇ……た」

 

 そしてカイはそのまま両手を握り込んだ。

 

 ぐしゃり、という不協和音が響き――カイの目の前に潰れた黒い塊が現れた。

 

「…………は、ははっ……ざま……ァ、みや……がれ……」

 

 これは――、脳無……?

 違う。それよりまず今はカイだ。

 どうすればいい?どうすれば――

 視界が滲み、前が見えない。止血も出来ず、僕にはなにも、また……守れ――

 

『……ったく……』

 

 僕の頬に衝撃が走った。

 

「――チェンジャー、しっかりなさい」

 

 ミッドナイトの声がする――

 視界を前に戻すと彼女がそこに居た。

 

「チェンジャー、焦るのは分かるわ。でも今は救うのが最優先。自分のことは――あとになさい」

「せ、先生……」

「いい?私の個性で今彼女は眠らせたわ。だから覚醒状態に比べ出血は緩やかになっています」

「は……い」

「でも、この出血量はそう長くは持ちません。

 連絡しても間に合わない可能性の方が大きいでしょう。だから――」

 

 ミッドナイトは一瞬間を開け、言葉を続けた。

 

「あなたが、助けなさい。あなたの個性で治療機関まで移動させる、それしかありません」

「な、なんで――」

「私は――」

 

 ミッドナイトは僕を庇うように前に立った。

 

「コレ、の相手をしなきゃいけないから……ね?」

 

 先程カイが潰した何かが逆再生するかのように人形に変質している。

 ミッドナイトの足は震えている。

 しかしそれでも大人として、ヒーローとしてこの場は譲らない。そういう覚悟を感じる。

 

「だから、行きなさい。この子は君にしか救えない――ヒーロー……なるんでしょ?……隷くん?」

「――はい」

 

 僕はカイを背負うと個性を使い移動を始めた。

 数にして十五回の置換を行い、移動した距離約一キロほど。

 時間にして四分というところだろうか。

 

『おい……』

 

 でも、カイの呼吸音はだんだんと小さくなっている。

 これじゃあ――病院まで、間に合わない。

 僕は、どうしていいかわからなくなって――足を止めてしまった。

 

『おいコラ、隷。さっきから声かけてるのに無視しやがって……』

 

 おに、ひと……?

 

『おう、そいつ"俺たち"がどうにかするわ』

 

 "俺たち"……?どういうこと――?

 

『んー、時間ねぇんだが……。

 別れくらいは……大丈夫か……

 ……隷、お前と今まで過ごせて楽しかったわ。

 俺こんな見た目だからあんまダチ多くなくてよ。

 お前がいろいろ助けてくれてマジ助かったんだぜ…?』

 

 まって、まってよ鬼人。まるで最後みたいな――

 

『最後だっつーの。

 既に死んでる俺と、まだ生きてる生命。

 救うなら後者だろ?俺にはそれができる力があって

 その場に俺がいる。

 なら、やらなきゃ嘘だろ』

 

 ……え?で、でも、カイはまだ生き返れるって……

 

『あぁ、そうだな……

 だけどよそれが、俺である保証は……?

 この個性、奥底にクソみてぇのが眠ってるんだよ。

 お前も見たろ?アレだよ。

 隷の右腕を喰った……アイツだ』

 

 だけど、諦めなくても――!

 

『俺が嫌なんだよ。

 しゃーねーだろ、お前と一緒で俺も観ちまったんだからよ。

 それに俺は死ぬわけじゃねぇ、アイツの中に溶け込むだけだ。

 お前と今まで一緒にいただろ?それがアイツに変わるだけだ。

 それに、お前はもう一人でやれる――だろ?』

 

 ……たすけ、られるの……?

 

『おう、俺一人なら無理だったかもしれねぇが――』

『……オレもいるからさ、隷くん。ありがとね、俺を救ってくれて――』

 

 ……カイ……?

 

『そ、もう知ってるだろうけど。

 オレはあの子が見た別世界のカイだよ。

 流石にさ自分だけどコレは、ないじゃん?』

『ま、死ぬとは言ったが運がよけりゃ帰って来れるさ。

 だから……そうしんみりすんじゃねぇ』

 

 鬼人が最後にそういうと僕の右腕がカイの欠損した腹部に触れ吸い込まれていく。

 

 カイの穴が空いていた腹部が僕の右腕で補われていく。

 

 カイの血が止まった。

 そして、それと同時に僕の右腕は元の義手に戻る。

 体温のない、ただの有機化合物に――

 だから察してしまった。もうここに鬼人はいない――と。

 

 左手でカイの腹部に触れる。

 

 鬼人は、一度言い出したら聞かないもんね……

 言いたいことは、いっぱいあるけど……

 ありがとう……鬼人。

 いつかキミを元に戻す方法を見つけて見せるから――

 

『わはは!!そういうこった。

 いろいろ世話んなったな。

 じゃ、元気でな――親友』

 

 最後にそんな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 




ある少女の見た景色

 ……あ、泣いてる。隷くん、泣かないで……?
 でも……少し、嬉しいな。
 俺が傷ついてそんなに気にしてくれるなんて――
 きょうは、なんかねむい……なぁ……
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