推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

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お待たせしました。
インターン編はもう少しお付き合いくださいね。

そうこれが終わったら?
文化祭だァァァァァ!!!!
こんなおもろい個性あって文化祭のステージで遊ばないわけないんすよねぇ!!

ごほん、変な電波を受信したようです。
失礼しました。
それでは今回も楽しめれば幸いです。


65話 嗤う者と識る者

 

「……え……?」

 

「っ――置換くん!!!」

「――っぐ」

 

 呆然としていた僕は突如後方から引っ張られた。

 僕がさっきまで立っていた場所は、人間が包み込めるほどの影で覆われていた。

 

 「……どう、して――?」

 

 どうして――と

 なぜ、なんで――と疑問が脳裏を埋め尽くした。

 

 「説明は後、置換、くん!!!――」

 

 ミッドナイトが何か言っている、でも言葉が頭に入ってこない。

 だって、だってこの影での攻撃は――

 

「そんな逃げへんでよ、こっちかていろいろ手伝ってあげたやんねぇ……?」

 

 い、いや勘違いのはずだ。

 助けてくれたんだ、梢さんも……

 

「あぁ――もぅ!!

 こっちだって室内戦じゃ――負け知らずなのよっ!!!!」

 

 

 ――影人さんも……っ!!!!

 

 ミッドナイトを黒い影が襲った。

 そう、それは確かに仮免試験で見たあの人の影で……

 カイを襲ったあの影だった。

 

「――きゃっ!」

 

 ミッドナイトの悲鳴を聞き自然と首がそちらを向いた。

 そこには頭部から血を流し左腕を抑えた彼女が体勢を低くして梢さんを睨みつけていた。

 梢さんは飄々と立ち、影はそれに付き従うように無言で揺らめいている。

 

「……まさか、ここで来るとは思わなかったわ――」

「あらまぁ、そちらのお嬢さんは気づいてはったんね」

 

「えぇ……不自然だとは思っていたもの――」

「あらら――まぁそよなぁ」

 

 梢さんはゆらりと笑みを浮かべ、僕に視線を移した。

 

「ねぇ、隷くん。疑問には思わんかった……?」

「――」

 

 疑問、疑問――?

 

「まぁ、自分のことで精一杯のお子様には分からんよなぁ――」

「――アンタッ」

 

「えぇよ?なんやそこのお嬢さんは時間欲しいみたいやし……お話ししよか」

 

 梢さんは靴音を響かせながらゆっくりと歩く。

 

「たかが、子供一人のためにヒーローが移籍する。

 そんなことが本当に起こると思ってたん?」

 

「――え……?だって僕を助けてくれるために――」

「……っぷ、く――アハハハハ!!!なんや!隷くんそんな戯言信じとったん!?」

 

「そんなわけないやん、

 この世界に訓練生がどれだけおって

 ヒーローがどれほどおると思ってるん……?」

 

「悩んでいるのは、辛いのは自分だけやと思ってたん……?

 そんなことしてたらヒーローなんて出来へんやん。

 訓練生助けるだけで手一杯になってまうよ」

 

「――」

 

 あの優しかった梢さんからその言葉が出ていることを脳が受け入れてくれない。

 

「それにうちが、なんであの子の情報持ってたと思ってるん……?」

 

「あの子……」

 

「そやよ、キミらがだぁいすきなカイちゃんや。

 うちら程度の弱小事務所が、警察や他のヒーローが調べられへんことを調べられる……?

 ほんまに少しも疑問に思わんかったん――?」

 

「っ――」

 

「あぁ……もしそれなら悲しいわぁ……

 おつむが弱いんね……?」

 

 全部、ぜんぶ……嘘だった……ってこと……?

 

 

「ヒーロー事務所の一時移籍、カイの情報、仮にもヒーローであるうちがあの時隷くんを取り逃がす……

 他にも色々あるねんけど、これだけのことがあって――」

 

「なぁんにぃも、疑問に、思わなかったん――?」

 

 梢さんは――いや、敵はそう嗤った。

 

 ……そんなはず、ない。

 僕は心のどこかで否定していた。

 だけど――

 目の前の光景は、優しさのふりをした地獄だった。

 

 事実として、

 僕の前でミッドナイトが傷つき、

 人のいるはずのしかし誰もいない事務所に

 あの男女二人が立っている。

 それが全てを顕然に物語っていた。

 

「さぁて、どや?お嬢さん。

 準備は整ったかいな――?」

 

「もちろん――

 無事終わったわ……ありがとねッ!!」

 

 ミッドナイトの周囲を彼女の香りが包み込む。

 

「一度倒せたんだからっ、二度目だって――」

 

 本来は見えない、だけど僕にはその可視化されたその香りが二人を包み込み勝利を確信した。

 

「――え……?」

 

 香りは影に吸い込まれるように消えた。

 敵は足音を立てながら近づいてくる。

 

「はよせい、シャドウ――」

 

「――」

 

 ミッドナイトは驚愕の表情を浮かべたまま、

 弾丸のように放たれた影に貫かれた。

 

 こつ、こつ、と梢が歩いてくる。

 

 足が震える。

 それでも恐怖を超える怒りが頭を埋め尽くした。

 

「隷くん、ほら。今ならそのお嬢ちゃんこれ傷つけないであげるから――

 こっちおいでぇな……?な?」

 

 パラパラと壁が破壊され瓦礫が落ちる音が聞こえた。

 

「……だ、ダメ……よ――置換くん……!!」

 

 ミッドナイトが何かを言っている。

 でも、この戦力差はどうやっても巻き返せない……

 

 ――なぁ、隷くんそれは本当か……?

 

 身体の内で誰かが否定する声をあげた。

 ドクンと心臓が高鳴った。

 

 ――たかだか、

 心を読める程度の雑魚と、影を操る程度の雑魚に

 俺の隷くんが、負ける……?

 

「……え――?」

 

 ――少なくともあの女には、山ほど恨みがあんだよ。

 こっちの世界のオレを利用されて傷つけらて

 しまいにゃ隷くんすら奪う、だ……?

 

 この、声……は。

 僕の内に響く……この声――

 

 ――舐めるのも大概にしろ。

 なぁ、隷くん。いっちょ見返してやろうや。

 こんな雑魚どもにやられる僕じゃないって――

 

「――カイ……?」

 

 目の前に来た梢はあっけらかんとした表情を浮かべている。

 

 ――それによ。

 オレを助けてくれたあいつにも、隷くんを頼むって……

 

「なんや、あまりのショックに狂ったんか……?」

 

「……だ。……るな――」

 

「まぁ――しゃーないわな。

 じゃ、キミの記憶、奪わせて――」

 

 そして僕の頭に触れた。

 何かが吸われる感覚がある。

 

 吸われて吸われて僕の中の中枢に触れた時――

 

 『触んな、クソ野郎』

 

 僕の中で何かがそれを弾いた。

 ここにはいないはずのカイが僕の中で叫んでいる気がする。

 

「『ふざけるな――』」

 

 僕の頭に触れていた手は弾かれ、その小さな手は朱に染まる。

 

「『お前なんかが、あの人を傷つけていいわけねぇだろうが!!!!』」

 

 僕とその中にいるカイの声が重なった。

 身体の中から力が溢れる。

 

『さぁ、隷くん。

 ◼️につけられた枷を今だけぶっ壊してやった。

 だから、さ。

 キミの個性を……置換を……魅せてやれ――』

 

 梢は血に染まった手を軽く抑えるとこちらに視線を向けた。

 

「痛いやないの……やってぇな……シャドウ――」

 

 梢の背後から影が迫る。

 影人……いや、シャドウという脳無がこちらに迫っているのがわかる。

 そう、わかる……だけだ。

 目で追えるだけ、個性が間に合わな――

 

 ――やば、目で追え……

 

 ぐちゃりそんな音を最後に僕の視界は闇に染まる。

 

 視界にノイズが走った。

 

 一瞬だけ何かが観えた。

 どこかで観た白い世界。

 愉しそうに嗤う白い影。

 そこにいつか聞いたことのある音が響いた気がした。

 

 

 

 

 

 音が消え視界が開いた。

 

「……え」

 

 梢は血に染まった手を軽く抑えるとこちらに視線を向けた。

 

 ドクンと心臓が脈を打った。

 

 ……何処かでこれを観た――

 

「痛いやないの……やってぇな……シャドウ――」

 

 梢の背後から影が迫る。

 影人……いや、シャドウという脳無がこちらに迫っているのがわかる。

 そう、わかる……だけだ。

 目で追えるだけ、個性が間に合わな――

 

 

 

 ――いや、識っている。

 僕はこの場面を"識っている"。

 

 左のブローを脇腹に、右のストレートが頭を――

 そうだ、確か脳無はこの流れで攻撃したはずだ。

 

 なら、個性を使う必要はない。

 右足を下げて身体の重心をずらし、

 そして首を左に傾けて、

 僕はこの右の義手を前に伸ばして添えておけばいい。

 

 それだけで――ほら。

 

 目の前のそれは当たりにくる。

 僕はダメージを受けず、目の前の敵だけが自分の速度で拳にぶつかりダメージを受ける。

 

 怯んだならこっちのものだ。

 

 目の前の影と止まっている梢。

 個性を発動させ、その二人を置き換えた。

 

 それはつまり、

 目前の影は梢のいた場所へ

 そして梢は――

 

「――え」

 

 僕の眼前で驚愕の表情を浮かべている梢。

 そんな彼女に僕は……

 

 息を吸い、脚を開き、腰を落とす。

 右腕を引き、呼吸と共にそれを弾丸のように捻りながら放つ――

 

「――はぁぁぁっ!!」

 

 撃ち込んだ。

 

「ガッ――」

 

 うめき声をあげ崩れ落ちた梢、そして動かない脳無。

 でもおかしいと脳無に視線を向ける。

 

 

 脳無を凝視しとわずかな疑問を覚えた。

 無言で揺れる影の向こう。

 その目だけが、微かに揺れていた。

 それは悲しみか、怒りか──あるいは、謝罪か。

 何らかの感情が見え隠れしている……そんな気がしたんだ。

 

 でも、そんなことより今はミッドナイトだ。

 

 ミッドナイトが飛ばされた方向へ、

 未だ土煙が消えないそこへ駆けた。

 

 ミッドナイトはいた。

 呼吸は荒く、しかしそれでも敵のいる位置を睨みつけたままの彼女はそこにいた。

 

「……お、きかえ……くん……」

「ミッドナイト!!だ、大丈夫ですか――」

「ごほっ、だい……じょうぶ。あの二人は……」

「倒しました!少なくとも脳無じゃない方は――」

「っ、脳無は……!?」

「脳無は、なんでかわからないけど……動きません……」

 

 ミッドナイトは思考を巡らせるように一度目を閉じた。

 

「――二人を……捕獲しましょう」

「……はい」

 

 僕たちが梢と脳無の捕獲をしようとした時だった。

 

「……ぁ、ァヒ。アヒャ、アハハハハハハハハハ――」

 

 梢が嗤い声あげ、脳無は静かに佇む。

 二人の背後からどこかでみた黒い渦が蠢き、吸われた。

 

 

「やられた――」

「あれ、は……ワープゲート……?」

 

 

 

 

 

 

 

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