推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

68 / 102
お待たせしました。
今回も楽しめれば幸いです。

そういえば、そろそらアニメヴィジランテにてミッナイ先生登場するのではなかろうか?
楽しみだぜ


66話 雨音

 

 今日は――地獄みたいな一日だった。

 ミッドナイトを取り戻して、カイと和解して、梢に裏切られて。

 怒涛、なんて言葉じゃ足りない。

 

 梢は黒く歪んだ“何か”に身を吸われて消えた。

 それから僕は緊張を息にして吐き出すと事務所前のベンチに腰掛けた。

 立とう、と思っても身体がうまく動いてくれない。

 

 さっきだってミッドナイトが警察に電話をして対応していた気がする。

 サイレンのついた車は見えたけど、僕には触れずにいたから……もしかしたら幻だったのかもしれない。

 

 

 なんだか、頭がうまく動いていない。

 それだけはわかる。

 

 ぽつり、と地面が黒く色づいた。

 それからぽつぽつと上から雫が落ちてくる。

 

 やっとの思いで上を見上げた。

 すでに陽が落ちた空は気が重くなるほどに暗く、雨が降り始めていた。

 

「……あぁ、暗いや――」

 

 

 どれくらい時間が経ったのだろうか、

 身体は雨に濡れ随分と重かった。

 

 肩に重みを感じた。

 首をゆっくりと動かし、その重みの正体を探る。

 

 それはミッドナイトの右手だった。

 僕の肩に手を置いている。

 

「……置換くん、もう戻りましょ。事務所へ」

「……」

 

 僕はミッドナイトの言った通り身体に立て、と指示を送った。

 今度は動いてくれた。

 だけど思考は上の空で、時折躓いたりして……

 ミッドナイトはそれを見かねたのか僕の左手をそっと握り、事務所へと歩き出した。

 

 事務所へ入るとミッドナイトは「ちょっとまってて」と言い事務室へ入って行った。

 僕が立ち尽くしていると彼女は救急箱とタオルを持って出てきて手招きをした。

 

「置換くん、こっちきて」

「はい……」

 

 言われるままに近づく、ミッドナイトは濡らした白いタオルで、僕の頬を拭いた。

 

「……? どうし――」

「っ……。気づいてなかったのね。あなた……血塗れよ」

 

 僕は無意識に、自分の頬を撫でた。

 ミッドナイトが持っていたタオルは、赤黒く染まっていた。

 雨に濡れていたからだろう、乾いた血は再び液体へと戻り僕の頬を朱に染めていた。

 まるで、血の涙を流しているかのように。

 

「……これ……僕の……?」

「違うわ。脳無と……梢を殴った時の返り血でしょうね」

「……返り血……」

 

 思い返すと、あの瞬間は夢の中のようだった。

 何をしたのかも、どう殴ったのかも、今でははっきりしない。

 

「今回は、ちょっとやりすぎちゃったわね……」

 ……でも、よかったわあなたが無事で」

「……」

 

 あぁ、なんだろう……やっとひと段落ついたような気がした。

 

 

「それと、ありがとう。

 また、助けられちゃったね――」

 

 信じられなかったんだ。

 あんなに僕に優しくしてくれた二人が、

 僕を助けてくれようとしていた二人が、

 ヒーローという職についていたあの二人が……

 裏切っていたなんて――

 

 雨に濡れている僕を彼女は抱きしめてくれた。

 

「いいのよ、今は泣いても……辛かったよね。

 友達と別れて、仲良くなった子は傷ついて、助けてくれた人は――」

 

 

 僕の心の奥から込み上げてくるものがある。

 でもそれは言葉にできなくて――

 

「……っ、……っっ……」

 

 背中をとんとんと軽く叩かれながら、彼女の鼓動を感じる。

 

「大丈夫、大丈夫よ。

 ……私はいるから、君が独り立ちするまでそばに居てあげるから――」

 

 ぽたり、と彼女の髪から雫が落ちた。

 

「……え?」

 

 なんで、濡れて――

 

「あ……あ、はは……」

 

 僕を抱きしめていたその手は解かれ、彼女は後ろ向きに倒れ――

 

「――ミッドナイト!!!」

 

 倒れる前に彼女を受け止めることができた。

 

「だ、大丈夫ですか!?

 なんで、濡れて――」

「や、だなぁ……生徒が、つらい思いしてるのに……

 わたしが離れられる、わけないじゃない……」

 

 待って、ミッドナイトはそもそも動けているのがおかしいんだ。

 カイとの戦いで怪我をして、さっきの梢戦だってそうだ。

 その上で雨に濡れていた?

 体力の消耗が酷すぎる。

 

 何をしていたんだ僕は――

 

 ――違う、そんなことをしている場合じゃない。

 自分を責めるのは後でもできる。

 彼女を助けないと。

 

 でも、でもどうしたら。

 今この場には僕たちしかいない。

 それに時間も遅い。

 

 慌てる僕をみて彼女は声を絞り出した。

 

「だ、大丈夫、よ。

 すこし、休めば……よくなる……わ」

「いつもならそうかもしれないけど、今日は無理ですよ――!

 そんなに怪我してるんですから……!!」

 

 救急車……!

 いや、連絡して行くより直接行った方が速い。

 頭部に怪我等は見られず出血も以前の傷が開いたのがほとんどみたいだ。

 

 

 足は震えて、心はボロボロ、体力だってほとんど残ってない。

 それでも、残っている気力で力を搾り出せ――

 置換隷。僕は出来るはずだ。そのためにここにいる。

 

 僕なんかより、彼女の方がよっぽど大切だ。

 

 

 彼女が濡れないために何かないか――?

 事務所を見渡し、見つけた。

 ゴミ袋……だけどサイズは十分だった。

 一枚の大きなビニールになるよう引き裂き、

 彼女にレインコートのように被せればいい。

 

「これで、いいはず」

 

 違うまだだ。

 体が冷えている。

 頬は朱に染まり呼吸は浅い。

 濡れた服を変えないと。

 

「……っ……」

「ごめんなさい!先生――」

 

 僕は彼女のヒーロースーツに手をかける。

 ほぼ裸と言っても過言ではないその衣装のおかげですぐに脱がすことはできた。

 

 僕の顔が先ほどとは別の意味で赤く染まった。

 そうじゃん……脱がすってことは裸にするってことで……

 

 女性の裸を直視するわけにはいかない。

 目を閉じ……ダメじゃん……

 見ないと拭けない……

 薄目で……はっきり見ないように……

 

 ……やわらかぃぃぃぃぃ……

 

 タオルが赤く染まっていくのを見て、浮き足立っていた思考が少しずつ冷静さを取り戻していく。

 

 

 ダメだ、真面目にやらないと。

 この状況で身体が濡れているのは体力を奪う。

 だから早く拭かないと……

 

 タオル越しに感じる肌の質感それを耐え、

 混乱と戸惑いを押し殺しながらなんとか彼女の身体を拭ききった。

 

 

 服……は……探す時間がもったいない!!

 確か、僕のカバンの中にTシャツがあったはずだ。

 それを着せて……

 

 その姿を見て一瞬心臓が高鳴る。

 

 いや、でも……え、えっちくない……?

 

 そんな思考が頭をよぎるがそんなことを考えている場合ではない。

 冷静になるために口の中を噛み締める。

 

 じわりとした痛み、口の中に染み渡る血の味。

 そうやって浮き足立とうとする思考を抑えた。

 

 次やることは……

 毛布か!

 

 当然Tシャツ一枚だと寒いから毛布で巻く。

 その上からさっきのビニールを被せて……よし。

 

「今度こそ大丈夫なはずだ」

 

 

 本来であれば病院に行っていなければおかしい状態。

 全身の切り傷、度重なる戦闘、疲労も当然溜まっているだろう。

 多分ミッドナイトは僕がいたから僕のせいで此処に居る。

 

 ヒーローとしての責任、大人の責任、教師の責任。

 いろんな責任ともしかしたら僕への心配を……

 それだけを支えに強靭な精神で此処にいたんだ。

 

 だから、彼女を助けるのは、僕じゃないといけない。

 僕が最後のトドメを刺した。

 こんな状況の彼女を雨の中に立たせて体力を奪ってしまった。

 

 準備はできた。

 あとは行くだけだ。

 幸いここはヒーロー事務所であり街の中枢。

 だから、病院まで個性を使用したら一分もかからない。

 

 彼女を背中に背負い、紐で縛る。

 最後にビニールを被せて、僕は個性を発動させた――

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 視界が霞み、身体は重く、頭はぼんやりする。

 熱に侵された思考はうまく回っていない。

 

 だれかに、せおわれてるみたい……

 はしっているみたいだけど、けしきがすぐにかわるのはなんでだろう――

 

「ごめんなさい、ミッドナイト。

 もうすぐ、もうすぐですから――」

 

 ――あぁ……置換くんだったんだ……

 いいのよ、あなたはわるくない……

 なにもわるいことしてないんぁから――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

「――ついた!!」

 

 病院に備え付けられたインターホンを押す。

 

「すいません!急患です――!」

 

 限界を超えて大声を上げた。

 大声を出したせいなのか視界がぼやけ、僕の身体がふらついた。

 

 ……あ、やばい……今後ろにはミッドナイトが――

 

 最後の力を振り絞り僕は前に受け身も取れずに崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。