先週は2話行けるかなーと思ったのですが、なかなか執筆時間とれず…
あの分量で、申し訳なかったす。
今回は前回の2倍の分量でごぜぇます。
お楽しみいただければ幸いです。
電話に応答するためにスマホをスワイプしようとする指が重い。
どうしてか嫌な予感が止まらない。
震える指を意志の力で無理くり動かした。
5コール目にしてやっと電話に出ることができた。
「もしもし、置換。体調どうだ?なんか病院いるって聞いたけど……」
あぁ、良かったいつも通りの尾白くんだ。
でも、誰に聞いたんだろう。
昨日の夜来たばかりだし僕がここにいるのを知ってる人はそう多くないと思うけど……
そう少しだけ安心して僕は言葉を返した。
「うん、大丈夫だよ。ありがと尾白くん」
「そっか、なら良かったぜ」
続いて少し不安げな葉隠さんの声が電話口に響く。
「あ、置換くん……大丈夫!?また怪我してるんじゃないの……?」
「あはは……まぁ少しだけね。でも大丈夫だよ」
「ほんとに大変なら言ってね……!私たち友達じゃん!」
「――うん。ありがとう」
そんな些細な気遣いがやけに僕の心に沁みた。
「そういえば……ミッナイ先生も怪我したって――」
「っ――、あぁ……うん。
そうだね、でも……大丈夫だよ」
「なぁ、置換ほんとに大丈夫か?
今俺ら梢さんといるんだけどさ、お見舞い行ってもいいか?」
「――え?」
尾白くんが何を言ったか一瞬理解できなかった。
それは、つまり……
尾白くんと、葉隠さんの今真横に、ヴィランがいるという事に他ならず。
「……あ」
どうしよう、どうしよう。
冷たい汗が背中を伝う。
指先が震えて携帯が落ちそうになる。
頭の奥で警鐘が鳴り止まない。
ここで逃げてというのはダメだ。
知らせた瞬間に梢は行動を移すだろう。
何が目的かさっぱり分からない、分からない……けど。
このタイミングであの2人と合流したということは良い意味ではない、それだけははっきりと分かる。
どうにか……しないと。
「……ねぇ、二人とも」
「ん?どした」
「どしたのー?」
どう言えば違和感が少なく伝えられる……?
ダメだ……伝えるということは側にいる梢にも伝わるという事に他ならない。
その時だった。
唐突に、梢の声が電話口に割り込んだ。
「いややなぁ……隷くん。元気しとった――?」
僕は少し声を引き攣らせながら言葉を返した。
「っ……あ、はは。もちろんですよ梢さん」
その名前を聞いた瞬間、
眼前にいる松戸の瞳が怒りに染まる。
しかし、すぐさまその表情は一変した。
何の感情もない仮面のような顔。
けれどその奥の瞳だけは、鋭く僕を射抜いていた。
その見かけに反した鋭い視線を僕に視線を向けると、
病室に置いてあったパンフレットの裏に、小さく丸い文字を書き出した。
会話を続けろ。
情報を引き出せ――
「――」
そうだ。
二人を助けるんだ……情報を引き出さないと。
「そちらは、どうなんですか……?」
「んー?こっちなぁ、うちも何処かの誰かさんにやられた傷がひどく痛んでなぁ……」
……言うじゃんか。
「……そうだったんですね。
あ、そうだ。今度お見舞いの品持って行きますね。
それまで何事もないと良いんですけど……」
「おー、ええやんええやん。
たのしみにしとるで、こっちもお返し用意しとるさかい」
その声は笑っていた。
声に連想され呼び起こされた表情は笑顔なのに冷たくて、背筋が凍る。
「せやねぇ、でもまぁそれは時の運やん?」
二人に手を出したら……絶対に許さない。
「……じゃ、尾白くんに変わってもらっても良いですか……?」
「あはは――、ええよええよ。
おともだち、やもんなぁ?
ゆっくり話したらええ」
「――ありがとう、ございます……」
僕はスマホを握り直し、息をひとつ吐いた。
僕の言葉じゃ梢から情報を引き出せない。
尾白くんたちにバレないように……と言う前提を挟むなら尚更だ。
だから、二人から情報を聞き出そうと思った。
「もしもし?」
「あはは、まぁ二人の声が聞きたくなってさ」
「きゃーー!置換くんはっずかしぃ」
「ん、あんまり言うなよ照れる」
二人は茶化してくる。
でも、今はその雰囲気がとても助かった。
この緊迫した状況で少しでも日常を感じられるのがありがたかった。
「そういえば、二人は今何処いるの?」
「いま?梢さんの車でね、田曽宮市に向かってるんだよねー」
「……向かってる……?」
「あぁ、そうなんだよ。
梢さんから二人が怪我したって聞いてからお見舞いに行くつもりだったんだ。
それで、梢さんも田曽宮に用事があるって言うから一緒に行こうって話になってさ」
「……ありがとう……うれしいよ」
電話口にお礼を返しながら僕は思考の渦に軽く触れた。
用事……このタイミングできて二人を連れてくるなら僕に対するものである可能性が高い。
さっきの会話からもやり返してやると言う感情が強く伝わってきた。
人質……、いやであるなら僕に近づけない方が……
今は、分からない……か。
「あとどれくらいでつきそうなの?」
「んー、梢さんどうです?」
「そやなぁ、この混み具合やと……あと二、三時間ってところやない?」
二、三時間……。
短いけど、何か対策をしないといけない。
「そうなんですね。
その時間だと僕もミッドナイトも事務所に顔出してると思うので……そっちに来てくれると助かります」
「あ、そうなんだ。
梢さん、お願いしても良いですか……?」
「ええよ、ええよ。
うちの予定もそっちにあるんよ」
その言葉に僕は悪意しか感じ取れなかった。
松戸の指がさらに走り追加のメモが足された。
時間がない、電話を切って話すぞ。
僕も同意見だ。
すぐさま会話を終わらせるために切り出した。
「それじゃあ、ちょっとやることあるのでそろそろ切りますね」
「そなのー?おっけー!また後でね置換くん!」
「あいよ、んじゃ置換またな」
「それじゃ、隷くん。"また"ねぇ」
「はい、皆さん。また――」
電話を落とし、目の前の男に視線を向ける。
松戸はあらゆる感情を自身の腹に納め、僕に言葉を向けてきた。
「梢……だな?」
「……えぇ……聞いていましたよね――」
「そうだな。聞いていた。
来るんだな?アレが――」
松戸は続く言葉を飲み込み、拳を握りしめる。
その拳からは血が滴り落ちた。
「……時間は二時間と見た方がいいだろう。
三時間は余程のことがなければありえん」
「その時間で準備します」
「そうか、俺は俺で動く。
貴様は貴様でやれ、理由は……わかるな?」
理由……
そう、理由があるとすれば“個性"だ。
僕は思い出す。
梢が何で言っていたことを。
梢の個性は、共鳴。
共鳴することで記憶を読んだり、深層心理へ潜る補助をすることができる。
――記憶を、読まれる可能性だ。
でも、信じていいのだろうか。
彼女が言っていたことを。
僕はすでに騙されている。
なら個性すら偽っている可能性はある。
ダメだ、今考えても意味ない。
残された時間は二時間しかない。
僕にできる事を、この二時間で――
♦︎♦︎♦︎
僕は準備を終え、事務所に向かっていた。
スマホから着信音が響く。
ポケットから取り出しスマホの画面に視線を向けた。
尾白猿夫
その文字がスマホに記されていた。
……そろそろ、か。
気が沈む、けど……そんなこと言ってられない。
ひどく重たい指を動かす。
やっとのことでスマホの画面をスワイプして電話に出た。
『――たでた。大丈夫か?すぐ出なかったけど……』
「……。うん、ごめんね、ちょっと掃除しててさ。
手を洗ってたんだ」
『そっか、ならよかったぜ。ぼちぼち事務所に――
あ、いたいた』
電話がぷつりと切れると外から微かに声が聞こえてきた。
「――い。置換ーー!」
「置換くーーん!!」
振り返ると車の窓から少し離れた位置でまるで手を振っているように上下に動いている手袋…葉隠さんと小さく揺れている尻尾が見える。
……危なくないのだろうか……
いや、少し力が抜けてしまったがこんな事をしてる場合じゃなかったんだ。
さぁ、どうする。
思考を回せ、置換隷。
暫定ここに来ると思われるヴィランは梢と……もう一人の脳無――影人だ。
ただし脳無は、影という個性である以上身を隠せると見て間違いない。
車はどんどんと近づく中、僕は閃光弾を二つを掌の上で転がす。
だから、まず到着したら……
向き合ったらまず、二人をヴィランから引き離す。
驚かれるかもしれない、だとしても何よりも早く引き離すんだ。
目前に車が止まった。
確認できるのは三名だ。
運転席に梢、後部座席に尾白君と葉隠さんだろう。
まず後部座席から二人が出てきた。
「よ、久しぶり」
「やっほー!元気そうでよかった」
まだ、だ。
もう少し……まだ梢が、二人を視線で追っている。
梢がシートベルトを外し、車体のドアノブに指をかけた。
――今だ。
手の中の閃光弾のピンを外しそれを僕の後ろに投げる――同時に個性を発動させた。
大きな音と共に車の中が光に包まれる。
そして同時に、僕の後方に二人が置き換わった。
「「っっ――」」
後ろで二人が驚愕しているのが伝わる。
だけど、これで終わりな訳がない……
何かを企んでいるはずだ。
二人を他所に光が消えた車をその場を動かず覗き込む。
未だに運転席に梢が一人顔を押さえているだけだ。
「ど、どうした!?置換――なんで……」
「なんで、どうして、置換君!!?」
後ろから二人が僕に詰め寄る。
僕は静かに事実を告げた。
「いきなりで、ごめん……でも――
あの人は……梢は、僕とミッドナイトを襲ったヴィラン、だ」
「「――っ」」
再び二人が絶句し僕を掴んでいた手は離れて後ろに下がったのを感じた。
車のドアが開き、目を抑えたままの梢が出てくる。
「いややわぁ……こんな歓迎はひどいじゃあらへんの――」
僕に返すべき言葉はない。
……いや、それよりさっきから何故か、肌がピリつく。
「……」
「ありゃ、無視かいな。
寂しいもんやね……あないに助けるのを手伝ってあげたのに……」
僕は無言を貫く。
嫌な気配が、止まらない。
「……」
梢はえぐえぐと顔を抑えたまま泣いているような素振りをする。
その幼い外見も相まって子供をいじめいるように罪悪感を覚える……けどそれは幻想だ。
「はぁ……しゃーない。
まぁ言いたい事言わせてもらいましょか。
この前は、ほんま痛かったんよ……」
嫌な気配がどんどん強くなる。
大丈夫だ。梢の個性は共鳴、遠くにいる限り――
「今回はな、とりあえず君にお返ししようと思ったんや。
どないすればええか悩んだんけど……ふと思いついたんよ」
右手で目抑えたまま視界に映る梢の口角が上がった。
それは、不気味なまでの笑みだった。
僕は、何か勘違いをしていたんじゃ――
その瞬間隷の背後に二つの衝撃が走った。
焼けるように熱かった。
なぜ、なんで、どうして、後ろに敵は、いないはずだ。
だって、後ろには二人しか……
自身の身体を見た。
右と左の肩から二本の黒い棒のようなものが突き抜けている。
その棒の先端からは赤黒い血が滴っている。
「あぁ……君を痛めつけるのは簡単やって」
「なんで、私……」
「俺が、置換、を……?」
二人の声が聞こえ、後ろを振り返った。
「君の大切な人に君を殺させればええんやって――そう気づいたんや」
尾白くんは顔面蒼白になりながら、
葉隠さんは血を浴びてその外見を晒しながら、
その表情は絶望に彩られていた。
「ち、ちが――」
「ご、ごめ……おきか……え、俺。なんで――こんな事を」
その刺し傷の熱さに身を焼かれながら思考を巡らせる。
違う、おかしい。
二人は二人のままだ。
中身はそのまま……身体だけが――操られている……?
何故。どうしてそんなことができる。
梢の個性が違ったのか……?
そもそも、この二人の手から伸びている黒い棒は――
黒い、黒……?
振り返っている視線をさらに落とし二人の足元を見た。
影が、蠢いていた。
不自然なくらいに、二人の影が一つの影になって、
その影から黒い棒が出現していた。
「君みたいな子にはそういうほうが、効くやろ――?」
その影が蠢き、それに追随するように二人の身体が動く。
二人は、影人に操られていた。
意識はそのまま身体だけを――
それに気づいてしまった僕は怒りのままその絶叫を吐き出した。
「――梢ぇぇぇぇぇえぇぇぇ!!!!!!!」