推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

72 / 102
お待たせしました!
もうアレは解禁したし、いいでしょう。
どんどん彼のメンタル殺しましょう。

本番はまだ先ですが……うん、楽しみですね。


70話 準備

 

 左右の肩がやられたけど……

 幸か不幸か肩の上部を軽く削られた程度、致命傷には程遠い。

 

 まだやれる……

 

 影に操られた二人が僕を襲う。

 二人に傷つけられてショックだったとしても、あの二人の意思でないと分かっているなら――

 

「ご、ごめ――」

「身体が……勝手に――」

 

 二人は目を見開きながら震えた声で謝ってるけど……それは違う……

 君たちが悪いわけじゃなくて――

 

 そう意思を込めて二人の影と梢を睨んだ。

 

 それに、避けるのはさほど難しい事ではない。

 さっきは後ろから予想もしていなかったからこそ刺されたのだ。

 それに……もし攻撃を喰らったとしても血を流すのは、慣れている。

 

 でも、どうしてこんなに……僕はぼろぼろになっても動けるのだろうか。

 普通なら血を見て怯んだり、死の恐怖に怯えたり……そういうのが――

 

 ……今はそんな事を考える暇はない。

 二人を助けなきゃ。

 

 影、影……か。

 影が二人を動かすのであれば、それを消せば……それを解けるのではないか……?

 

 梢が意地の悪い笑みを浮かべ僕を見る。

 

「あれぇ?隷くん、あんまりショック受けてへんなぁ……

 そないに友達、思ってなかったんかなぁ……?」

 

 売り言葉に買い言葉、分かっていた。

 でも二人を馬鹿にして黙っていられるわけがなかった。

 

「そんなわけ、ないだろ……

 お前がやったのは分かってるんだ――」

「あは、アハハハハ!!!

 いややわぁ、うちじゃなくて……影人、やろぉ?」

 

 あえて信じたくなくて目を逸らしていた可能性。

 

 個性を考えるにこんなことを起こせるのは影人しかいなくて。

 彼は脳無になってて――

 

 ……脳無……?

 なんで、そんなことになっている?

 普通の外見になぜ戻らない、いや……戻れないのか……?

 

「そう、だ……

 どうして影人さんが……脳無になってる……

 普通の、人だったはずだ――」

 

 僕の呟きを聞いたのか梢の口角が上がり不気味な笑みを浮かべた。

 

「あはッ――

 やっとそこ、気にしてくれたんねぇ……?

 そうやで、影人は三日前まで人やったよ?」

 

 僕は二人の攻撃を避けていたのに、その言葉を聴き足を止めてしまった。

 

「……え――?」

「「――――!!!」」

 

 三日前……どういうこと……?

 

 そんな疑問を浮かべ思考を巡らそうとした時、

 左の掌と右の脇腹に熱を感じた。

 

「ぁ、がっ……ぐッッ……!!」

 

 叫んではいけない。

 アレを喜ばせることなんてしてたまるか。

 それに叫べば二人は今よりもっと気に病んでしまう。

 

 二人は目の焦点が合っていない。

 友達を自分の身体が攻撃することに対して絶望したのか、あるいは――

 

「ご、めん……二人とも……そんな事させて――」

 

 そんなことは、いい……すぐ助けないと。

 

 梢の車に放った閃光弾。

 これを使えば影が消えるはず、影が消えれば支配も解けるはずだ。

 

 僕はポケットに入ったそれに触れ、放つタイミングを伺う。

 

 二人が飛び僕を攻撃する、梢は視線を他所に向けている……?

 いや、いい。いまだ。今打つ。

 

 僕はピンを抜き足元にそれを放った。

 二人の視界も奪ってしまうけれど……僕の個性で距離を取らせればいい。

 そうすれば、少なくとも……二人は助けられる。

 

 僕は閃光に備えて目を閉じた。

 目も閉じた瞬間梢の笑みが頭に浮かんだ気がした。

 僕たちは光に包まれる。

 

 影は光に呑まれた。

 そう、影"は"光に呑まれたんだ。

 

 影が消えて、自由になった二人を僕は痛む身体を動かし事務所内へと置換させた。

 幸い、事務所内には物はいくらでもある。

 

 ふと、これでやっとコイツらと戦え――

 

 視界が赤く点滅する。

 なぜ?どうして……腹が熱い。

 

 身体が、痛みに耐えかねて、倒れ――

 

 僕が最期に見えたのは首のない身体。

 その身体を梢の腕が貫き、なにかぶよぶよした物を握っている。

 

「あー……ついヤっちゃった。

 これじゃ奪えないやん……

 ……しゃーないかぁ――」

 

 なんだろう、まるでソーセージみたいな……

 ……あれ、ちがう、あれはぼくのからだ……?

 あぁ……そっ、か。ふたりはぶじだといい――

 

 

 どこかで聞いた音がまた響いた。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

「ご、めん……二人とも……そんな事させて――」

 

 そんなことは、いい……すぐ助けないと。

 

 梢の車に放った閃光弾。

 これを使えば影が消えるはず、影が消えれば支配も解けるはずだ。

 

 僕はポケットに入ったそれに触れ、放つタイミングを伺う。

 

 二人が飛び僕を攻撃する、梢は視線を他所に向けている……?

 いや、いい。いまだ。今打つ。

 

 ――脳裏にノイズが走った。

 

 ……戻ってきたのか。

 あの時みたいに、そっか。

 

 ……ダメだ。

 そう、ダメだ。

 梢は知っている……僕がそれを持っている事を。

 記憶の通りならこのままそれを使えば僕は死ぬのだろう。

 

 二人が迫るのを個性で入れ替え僕への攻撃を外させる。

 

 梢は……笑っていた。

 

「ありゃまぁ……うち、使うと思ったんやけどねぇ」

「……使う……?」

「そやよ?キミ使ってくれたやない、さっき……眩しかったなぁ……」

 

 やっぱりだ。

 待っていた。僕が使うのを……なら少なくとも今は使ってはいけない。

 

 梢は浮かべていた笑みを消し、まるで実験動物でも眺めるようにその視線を僕に向けた。

 

「……んー……」

 

 影が僕の視界を横切る。

 直後、右足が重力に引かれて落ちた。

 その時梢は笑っていた。

 

 

「――!!」

 

 いたい、いたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいたいいたいたいたい――

 

 身体はバランスを崩し地面に崩れる。

 また、影が横切った。

 地面には点々と赤だけじゃない、水の滴が広がっている。

 

 左腕が落ちた。

 梢が、腹を抱えて笑っている。

 

「っっ――、はっ、ぐっかがぁぁぁぁいぃぁぁぁぁがあ!!!!!」

 

 痛みを、堪えられない。

 いたい、いたい、いたい――

 ああ、もう、何も考えられない。

 

 影が……雄英の……制服が一瞬見えた気がした。

 

 右肩の付け根、左足が落ちた。

 

 

「ァァァァァああぁぁぁぁぁぁァア――――――!!!!!」

 

「ふふっ――」

 

 これ誰がやって――

 

 ぐちゃり。

 

 真っ赤になった視界に尻尾と宙に浮いた黒い棒が映った気がした。

 

 どこかで聞いた音が、また脳裏に響く。

 これで三度目、だろうか。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 梢は……笑っていた。

 

「ありゃまぁ……うち、使うと思ったんやけどねぇ」

「……使う……?」

「そやよ?キミ使ってくれたやない、さっき……眩しかったなぁ……」

 

 やっぱりだ。

 待っていた。僕が使うのを……なら少なくとも今は使ってはいけない。

 

 梢は浮かべていた笑みを消し、まるで実験動物でも眺めるようにその視線を僕に向けた。

 

「……んー……」

 

 ――脳裏にノイズが走った。

 

 

 記憶が呼び起こされる。

 あの記憶が正しいのであればコイツは――

 

「お、まえぇぇぇぇーーーー!!!!」

 

 僕の友達で、よくも――

 

「なんや、いきなりもぅ――」

「僕の友達を、使ってよくも僕を――殺したな」

「アハッ――ええねぇ……

 触れずに思考を読む個性、かなぁ?

 うちよりすごいやん」

 

 僕の中には怒りしかなかった。

 痛みなんてなくて、死んで怖いなんて感情もなくて――

 ただただ、あの二人が泣いていてコイツが笑っている。

 

 ……あぁ、許せない――

 

「どういうことだよ――、置換」

「置換、くん――?」

 

 二人は無理やり動く体に抵抗しているみたいで、身体中に血が走っていた。

 

 ――けど、今は、自分よりも二人だ。

 

 閃光弾は使えない。

 話をして時間を稼ぐことも出来ない。

 

 今は――逃げる。

 

「絶対――助けるから、それ以上傷つかないでくれ」

 

 僕はそう言い残すと事務所に向かって走り出した。

 

「あっれぇ?逃げちゃうん?

 悲しいわぁ……」

 

 アイツの声を尻目にただひたすらに走る。

 ――あの場所だ。

 何も僕だって何もせずに待っていたわけじゃない。

 梢がくるならもう一人だって来る事を想定していた。

 

「じゃあ、お二人さんも一緒に行きましょか。

 ちゃーんと、隷くん……殺してあげてな?」

 

 左右の肩が痛い、左手も血が出ていて……

 それでも僕の行動に二人の命が掛かっている。

 だから失敗は許されない。

 

 まずは、止血だ。

 掌は……この布で縛ればいい。

 後はこの脇腹の血を、止めないと。

 

 ……給湯室にガスバーナーがあったはずだ。

 

 急げ――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 流石に僕の方が慣れているからすぐ給湯室に来れた。

 まだどこにいるかはバレてないはずだ。

 

 ガスバーナーは……あった。

 火も、着く。

 

 このまま脇腹を、焼く……

 痛い、だろうなぁ。

 

 声で居場所を悟られないよう、タオルを口で噛み締めた。

 

 覚悟を決めろ、置換隷。

 操られてるあの二人が流す涙の方が痛い。

 こんな痛みなんて比じゃない。

 

「――――――――――!!!!!」

 

 熱い、熱い、あつい!!!!!

 

 鼻先を刺す、酸味と鉄の混ざった焦げ臭さ。

 生肉を炙ったときのような、脂と血が弾ける匂い。

 そんな匂いが鼻をつく。

 

 どれほど焼いただろうか。

 永遠にも感じたその熱は、幸いにも目的通り僕の血を止めることに成功していた。

 

 噛み締めていたタオルには血が付着していた。

 どうやら噛み締めすぎて歯茎を傷つけたみたいだ。

 

 でも、この痛みが薄れようとする僕の意識をはっきりとさせてくれる。

 

 ……さぁ、つぎ……だ。

 

 トレーニング、ルーム。

 あそこにいけば――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 ――見つかった。

 後少しで辿り着けるはずだった。

 

 なぜバレたのだろうか。

 そう思考を巡らせる。

 血か焼けた肉の匂いか……と僕の出血部位に順々に視線を向けた。

 左手のそれは止血していたはずだった。

 しかし圧迫が緩んだのだろう、

 血を滴らせ地面に赤い道筋を残していた。

 

 ……くそっ、いつもなら気づけたはずだ。

 圧迫が緩んで血が抜けて、感覚が鈍っていた。

 だから滴る血の感触に気づけなかった……

 

 改めて強く縛り直す。

 

 足音が迫る。

 

「どこかなぁ――?」

 

 怪我で個性を使えない、と誤認させた方が後々都合が良かったんだけど――

 

「ここかなぁ……?」

 

 音は出せない。

 トレーニングルームまで直線距離にして四メートル。

 個性の有効範囲内だ。

 

「わかってるよ、隷くんぅ。

 ここだよねぇ――?」

 

 そして、裏技だ。

 意識をすれば、その空間を把握さえしていれば、

 音がなくとも置換は可能――!

 

「――あっれ……」

 

 成功した。

 置換は成功だ。

 そこの心配はしてなかった。

 一度、轟くんとの戦いの時に成功はしてる。

 

 でもやはり、見えていないから着地を失敗した。

 背中から勢いよく落ちてドンと大きな物音がたつ。

 

 だけどそれすらも、今の僕とっては都合が良い。

 コレでおびき寄せられる。

 

 トレーニングルームの中心に向けスポットライトを八つ設置する。

 

 これは視界を失っても戦えるようにと――

 社長とのトレーニングで使用していた物だ。

 スポットライトに囲まれ、光に包まれたまま音と感覚で攻撃を避け、相手に当てる。

 そんなトレーニングをしていた。

 

 

 役に立つとは思わなかったが、さすが社長だ。

 見た目通り普通じゃない。

 

「……社長はまるで、知っているかのようにこんな時に役立つことを教えてくれる」

 

 ほんとなんなんだろうあの人……

 まぁ……いいや。

 後は待つだけだ、失敗は許されない。

 

 たとえ繰り返せるのだとしても、友達を見捨てるなんて……ありえない。

 してはいけない。

 

 そんな事をしては、あの人に顔向けできないし……

 何よりそんな事をしたくなんてないんだから――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。