次話は彼らの視点かもしれませんね。
ではどうぞ。
楽しめれば幸いです。
「……さて、ここね」
ここは雄英の生徒寮の一室、
そこに一人の女性――ミッドナイトが訪れていた。
鍵穴に鍵を差し入れ、回す。
ガチャリという音と共にその錠が外れた。
ミッドナイトは三度ノックしてその扉を開く。
「――失礼するわ、置換くん」
そこには、ただ机と椅子、本棚、ベッド、最低限の衣類があるだけで他には何もなかった――
「――っ」
それはそうだ。
置換隷がここに住み始めてまだ二週間……と言ったところ、生活必需品を買い込む暇もなく、持ってくる暇もなくインターンに行ったのだ。
個性が出るほどの物を置く時間はなかったはずだ。
ミッドナイトは目的のものを探すため部屋の奥に足を進めた。
「たぶん……本棚、かしら」
本棚には空きが多く、せいぜい10冊と言ったところだった。
少し分厚めの本を手に取りタイトルに視線を向けた。
一冊目『猿でもわかる物理学』
「……ぷっ。置換くん、なんて本読んでるのよ……」
軽くパラパラと捲り机の上に置いた。
タイトルの割にかなり真面目な本で驚いたが……確かに彼の個性なら物理学は学んでいて損はないのかもしれない。
二冊目『僕はぼっちじゃない、友達が少ないだけだ。そんなあなたに送る友達の作り方』
「――ぷふっ。友達、少ないこと気にしてたのかしら……」
もっとクラスの子と関わらせてあげれば良かったわね……
いやまだ間に合うはずだ、もっとみんなと関われるように彼を支えていこう。
少し微笑ましい気持ちに包まれながら、二冊目の本も机の上に置き三冊目の本に手を伸ばした。
三冊目『現代科学の進歩、義手はここまで進化した』
「義手……か。やっぱり――」
ふと、著者に目を向けた。
『著者 発目明』
「……えっ、あの子、本出してたの……?」
パラパラと捲ると確かに彼の使っていた義手が紹介されていた。
他にも、燃える義手、冷たい義手、
ロケットパンチができる義手、
義手というか手の先についた口、
わけのわからない義手のイラストまで添えられ、懇切丁寧に解説されていた。
……何を見ていたんだろうと良くわからなくなりながらその本も机の上に重ねて置いた。
次の本は……少し薄い、どちらかと言ったら雑誌……っぽい気がする。
四冊目『NOCTURNE』
……あれ、この表紙……
それを脳が認識する前に勢いよく机に叩きつけた。
「――はっ、はっ、はっ?!
……いやなんでこの雑誌持ってるの!!!?」
『NOCTURNE』この雑誌はミッドナイトがヒーローデビューしたヒーロー事務所を作った当時、
ただのスーツで写真撮影した、一番最初の雑誌だった。
本自体もすでにもう絶版、会社も潰れており入手方法などオークションくらいしかないだろう。
ミッドナイトが18禁ヒーローとして有名になったからこそこの本を知る人は少なく、まさにマニアの知る人ぞ知る一冊となっていた……はずだったのに。
なぜか持っている。
「――よし、見なかったことにしましょう。
えぇ、それがいいわ」
そんなことを呟きつつも見つけたら絶対問い詰めることをミッドナイトは心に誓った。
五冊目『MIDNIGHT HOUR』
「――!!」
タイトルを見た瞬間驚きのあまり勢いよく机に叩きつけてしまった。
……叩きつけたものの、この本は普通に売られている。
いや、びっくりしたのだ生徒が自分の写真集を持っていると……
確かに好意的な目を向けられていたなーと思ってはいたけどここまで好かれているとは思っていなかった。
「ん、んっ……!まぁ、好かれて困るものでもないしいいでしょう。
早く次の本を――」
六冊目『 』
六冊目はノートだった。
タイトルはない。
でも直感的に私が探していたのはこれだ、と察した。
ページを開く寸前、ふと視線を感じた。
誰もいないはずの部屋なのに。
「……気のせい、よね」
少し震える指先を握りしめ、椅子に腰掛ける。
その1ページ目に視線を向けた――
♦︎♦︎♦︎
4月1日
今日は入学式だ。
クラスメイトと仲良くなれるかな、知ってる人はいるかな。
でも前からずっと好きだったミッドナイトが居ると知ってかなり楽しみだ。
ほんものはすっごく綺麗なんだろうな。
追記、入学式行かずに個性把握テストやるとか聞いてないんですけど!?
思ったよりやばいのかもしれない、雄英……
でも目的のために、強くならないと――
4月4日
今日は戦闘訓練をやった。
急なことで驚いたけど……なんとか、いい感じの戦闘になったのではないかと思う。
みんな強かったなぁ、あ、でも調子に乗るのは良くないと自戒……ダメ、絶対。
いつか、轟くんにはリベンジしたいと思う。
次は負けないぞー!おー!
4月16日
昨日は大変だった。
USJでの校外授業、それがヴィランの襲撃に遭うなんて。
今も身体は重くて痛みもある、でも命の危険を知れた。
強くならないと、あの結末を……変えるために。
……あと、あのカイという少女どこか見覚えが――
あれ、なんでこんなこと書いてるんだろう。
――うん、明日も頑張ろう。
4月20日
体育祭の告知があった!
ふふん、これは僕の有用性を示すチャンスだ。
ここで目立てれば、職場体験で有名ヒーローのもとに行き強くなれるかも知れない。
今の僕は弱すぎる。
これじゃああの人を守るなんて夢物語だ。
強く、ならないと……
♦︎♦︎♦︎
一冊目は入学からの日常を綴った日記だった。
「ふふっ、可愛いじゃない」
微笑を浮かべつつも疑問もよぎる。
目的、強さにこだわるわけ、守りたいあの人……?
誰のことを指しているのだろうか。
そのまま本棚に手を伸ばし二冊の日記に突入した。
♦︎♦︎♦︎
5月10日
今日は体育祭だ。
頑張ろう。
5月15日
日付がしばらく空いてしまった。
気持ちの整理がしたかったんだ。
体育祭での鬼人の暴走。
そして、退学届。
考えることが多すぎて、自身の弱さに嫌気がさして、少しだけ荒れていた。
強く……なるんだ。
5月16日
今日はヒーロー名と職場体験先を決めた。
パープルレボリューション、ミッドナイトが学生時代お世話になっていた事務所だ。
そこの代表は近接戦闘に特化しているらしい。
技術を盗み少しでも強くなるんだ。
ヒーロー名はチェンジャー。
置き換えるからチェンジャーだ。
安直だろう?
5月25日
鬼人と再会した。でも僕のせいで鬼人は変質してしまった。体育祭の時のアレが表に出てきた感じだ……
そして、社長の腕も僕のせいだ。
僕が弱いから鬼人は人の姿を失い、僕が弱いから社長の両腕は無くなった。
弱い、弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱過ぎる。もっと強さを、強く強く強く……ならないと。
――守れない。
♦︎♦︎♦︎
「置換、くん……」
そこまで思い詰めていたなんて思わなかった。
ただそこから少し日常の日記が続いてメンタルも回復していたみたいで少し安心した。
「次の日記を……」
時系列ならこの次の日記には……
三冊目に手を伸ばし、開いた。
中間試験、合宿告知、期末試験と日常が続く。
♦︎♦︎♦︎
7月4日
今日はショッピングモールでカイと遭遇した。
視界を奪われた。
腕を爆発物にする個性、鬼人を変えた個性、視界を奪う個性、どういうことだ……?
そして、カイが言っていたアフォ?とは、誰だ。
――いや、まて僕は知っている、はずだ。
巨悪の名前、◼️◼️◼️…なんで知ってるの……?
僕はなんで――
8月8日
合宿だ。
というか、まさか森の中を駆け回ることになるとは思ってなかった。
今日は疲れたからもう寝ようと思う……明日から本番って言ってたし。
8月9日
僕が、殺した。
8月10日
ぼくがころした。
8月11日
ぼくがころした。
8月12日
ぼくがころしたんだ。
ごめん なさいごめんなさい ごめんなさい ごめんなさいごめん なさい ごめんなさいごめん
なさいごめ んなさいごめん
なさい、いきていてごめんなさい。
8月14日
手紙を、読んだ。
鬼人の手紙だ。鬼人は全部察してた。
だとしても僕は奪った、だからそれ以上に救わないといけない。
じゃないと、鬼人の命が……生きてきた意味がなくなっちゃう。
強くなるんだ、誰にも負けない、強さを。
♦︎♦︎♦︎
「…………」
あまりの重さに言葉が出ない。
こんなことを考えて生きていたんだ……次の日記に手を伸ばそうとした時三冊目の日記からひらり手紙が落ちた。
「……手紙」
「……鬼瓦くんの手紙、よね。」
「ごめんなさい、鬼瓦くん。あなたの友達を助けるための情報が欲しいの――」
少しの罪悪感と共にその手紙を開きそれに目を通した。
「……いいじゃない、貴方たち。
最高に、青春……じゃない」
その手紙をみた彼女の頬には涙が伝っていた。
涙を拭い、日記に手紙を挟み直す。
次の日記――四冊目の日記に手を伸ばした。
♦︎♦︎♦︎
日付は分からない。
ミッドナイトに助けてもらった。
あの人は話を聞いてくれて僕を助けてくれた。
右腕がなくなり、親友を殺した僕。
そんな僕でもヒーローになれると。
だから、命に変えても救う、それこそが僕がここにいる理由なんだから。
まだ日付は分からない。
発目さんがきた。
僕の義手を作ってくれるみたい。
色んな義手の乗っている本を見せてくれてそこから気になるのをいくつか依頼した。
かなりノリノリで少し怖かった。
今日も日付は分からない。
とりあえず香山さんが可愛い。
美人なのに可愛い属性すら持っているのはもうずるいと思う。
仕草の一つ一つが刺さる。
寝ぼけ眼の香山さん、少しズボラな香山さん、美味しそうにご飯を食べる香山さんに、風呂上がりのちょっとえっちぃ香山さん、もうだめかもしれない。
そろそろ僕の精神は修行僧の域に達しそうだ。
煩悩が湧くたびに筋トレで誤魔化している。
日付は変わらず分からない。
義手の使い方がだんだんわかってきた。
置換の個性がなかなかに便利で義手の切り替えを可能とした。
振動数の多いビブラスラップを頼んだのは失敗だったかも知れない。
普通に……酔うけど、これを使いこなせたならまだ強くなれる。
少し、思い出した。
あの人は殺される。いつかは覚えてない、でも確かに誰かに殺される。
そんなことさせない――
♦︎♦︎♦︎
少し微笑ましい記憶を呼び起こしつつも、
どうして彼がここまで私を救おうとしているのか分からない。
思い出した?まるで私が誰かに殺されたみたいに感じる。
でも今私はここにいて生きている。
妄想……?でも私と遭う前から助けようとしていたみたいだし……
何かを知っている――?
疑問の解消を願いながら、四冊目の日記の続きを手にする。
♦︎♦︎♦︎
日付は変わらず分からないけど仮免試験……ということは9月だと思う。
復帰できる。
ヒーローとして僕は先へ進む。
香山さんへの感謝を、僕を助けてくれてありがとう。
僕も強くなって貴方を助けます、もう失わないために――
でも、なんで僕はもう失わないって書いたんだろう。
まるで誰かを失ったみたいじゃないか……?
9月4日
ひと月ほど香山さんといたみたいだ。
とても楽しい一カ月で、すでに死んでいる僕には大切な思い出だ。
仮免試験も大変だった。
でも影人さん、梢さんが僕の封じられた記憶について探ってくれるみたいだ。
義手を得てから何かを失った気がしてならなかった。
大切な記憶、でもそれが何かわからない。
それが不気味でならない。
でも、今日この日のおかげであの二人と仲直りできた。
から、とも――だち、はいいなと思う。
なんでかわからないけどこの文字を書くことへの抵抗がすごい。
僕の封じられた記憶、は。
それに関係しているのかも知れない。
♦︎♦︎♦︎
「……」
罪悪感、疑問、不安の感情が駆け巡る。
それらが解消されることを願い、静かに最後の日記に手を伸ばした。
♦︎♦︎♦︎
9月13日
今日は尾白くんが技を教えてくれるって体育館に行った。
確かに技は教えてくれたけど……利用時間のほとんど筋トレだった。
それは詐欺だよ……尾白くん……
でも楽しかった。
その後は葉隠さんたちがパフェを食べに行こうと誘ってくれてパフェを食べた。
美味しかったな。
9月15日
今日からインターン始まる。
影人さんや梢さんが協力してくれるみたいでインターンをしつつも記憶を思い出すことを協力してくれるみたいだ。
とてもありがたい、さすがはヒーローだ。
僕もああなれたらいいな。
9月19日
昨日は気絶していて日記が書けなかったから朝に書いている。
なぜか、僕の腕が義手じゃなくなって、ヴィランにやられていたミッドナイトたちを助けたことになっていた。
僕にそんな記憶はないのに――
9月20日
ミッドナイトが目覚めない。
日記なんて書いて場合じゃない、原因を見つけないと。
9月21日
――カイだ。
原因は、カイだ。
僕は決着をつけに行かなくては行けない。
あの人を救うために。まだ、あの人が死ぬはずがない、ならこの状況は僕のせいだ。
9月23日
昨日は――、だった。
カイは改心してくれた。
問題はその後、影人……が、梢が……裏切っていた。
僕はもう、信じられないかもしれない。
ヒーローというものを、あの人とカイ、友達以外の人間を――
9月25日
尾白くん達から連絡があった。
でも、あの二人のそばにいたのは梢だった。
……させない。
今回ばかりは、僕ももうダメかもしれない。
助けを借りれない、誰も助けに来れない。
僕が、僕だけがあの二人を助けられる。
ヒーローは信用できない。
だれがヴィランにつながっているかわからない。
何かあれば、カイに聞いて欲しい。
彼女なら僕のことを僕より知っている、はずだ。
ごめんなさい。
ミッドナイト、あなたを助けられないかもしれない。
死ぬと知っているのに、助けられたはずなのに……
僕が弱いから、人を信用できないから……
それを伝えることができない。
叶うならばこの日記を読んだあなた。
ミッドナイトを、助けてください。
彼女は死ぬ、ヴィランに殺される。
それを防ぐために僕はこの世界に来たはずなんだ。
でも、できないかもしれない、僕が弱いから……
あなたを守れない、誰よりも大切なあなたを助けられない――
ダメだ。弱気になっては勝てるものも勝てない。
行くぞ、置換隷。
尾白くんを、葉隠さんを……助けるんだ。
♦︎♦︎♦︎
最後のページはまるで水で濡れた様に文字が滲んでいた。
日記を閉じ立ち上がる。
「ごめんなさい、置換くん……これ、借りるわね」
疑問があった。
私が死ぬことを確信してる彼に。
助けようとする彼に。
でも、助けたい……という感情をひしひしと感じた。
だから、今は本人を探そう。
その為に、カイちゃんを訪ねる。
それが近道だ。
入り口に足を向け――
視線を落とすとそこに黒い染みが広がっていた。
まるで、こちらを覗き返している様に。
「なに……、これ……」
部屋に入る時にあっただろうか……
……ダメだ思い出せない。
まるで見たくないものを見る様に足早に部屋を出た。
やる事があった、そんな事を考えるよりずっと大事な事が――
部屋を出た彼女は気づかなかった。
その染みが静かに揺れた事を。
◼️◼️◼️の呟き
ぼくは、ここにいる――