推しのために死に続ける話。   作:三つ首黒虎

76 / 102
ハイ、現実世界で魔女の一撃を受けました。
なんてことでしょう、ベッドから動けませぬ。
なので早ければ数日のうちに次話が上がるでしょう…

それはそうとお待たせしました。
今回もどうぞ、お楽しみください。


74話 残滓の記憶

 

 放課後、俺は葉隠さんに声をかけて教室に残ってもらっていた。

 

「ごめんな、葉隠さん。急に声かけて……」

「ううん……気にしないで。私も気になってるんだ」

 

 姿こそ見えないが、落ち込んでいるのが声色から窺えた。

 早速だが、本題に入ることにした。

 

「あの日、あそこには少なくとも俺たち二人がいた」

「うん……それに置換くんもいたはずだよね」

 

「……あぁ。見間違いだと思いたいけど……あれは、間違いなく置換の義手だ……

 発目さんにも確認したから間違いない」

 

「私はあの場の血液を教えてもらおうって警察行ったけど……教えてくれなかった……

 でも、あの警官さんの気の毒そうな表情からみて……そう、なんだと思う……」

 

「……そうか。でも、生きてるはずだ。

 あいつは今まで死にそうな目に遭ったこと何度もあったはずだ。

 だからきっと……今回も」

 

 葉隠さんが目を伏せた様な気がした。

 

「……うん、きっと……」

 

 空気を変えようと口を開く。

 

「葉隠さんはあの日の出来事で覚えてること……あるか……?」

「あの後色々考えてみたんだけど……尾白くんと起きる前までのことは覚えてなくて……でも私、起きた時口の中に血の味が……したの」

「……血の、味……?」

「……うん、でね。

 それが少し気になってて家帰ってから口の中切れてるのかなって見てみた」

 

「……あぁ」

「でも、何もなかった。傷なんてなにも……

 だから――」

「――」

「わたしは、誰かを傷つけた。

 たぶん、そうなんだと思う……

 あの日からずっと口の中が鉄臭い気がするの……どれだけ洗っても歯を磨いても……今もずっと」

 

 葉隠さんは口を押さえ嘔気を訴えた。

 葉隠さんの気持ちは想像しかできない。

 それでも確かに辛いことはわかった。

 

「――そっ、か……辛いな……」

 

 それに――

 

「俺もだ……メシを作ろうと包丁を持つと酷く冷や汗が出て身体が震えるんだ。

 この前なんかよ……メシ作ろうとして包丁落としちまったよ」

 

「でも、本当にそれをやったとして覚えてない……なんてことあるのかな……?」

 

「考えられる可能性は幾つかある。

 例えば、無意識下でヴィランに操られた。

 例えば、記憶だけを奪われた。

 例えば、記憶を偽装されている。」

 

「それに……葉隠さん。この前の授業でやった事覚えてるか……?」

 

「……?」

 

「被害者のトラウマに関する授業だ。

 人は、自分で自分の記憶を封じることがあるって――」

「っ――!!」

 

「これを、真実と仮定するなら……

 俺たちは操られた。それも意識がある状態で。

 そして、自分たちの記憶を消すくらいのやばいことをしてしまった……」

 

「……」

 

「考えたくはないけど……この場合置換を、傷つけた可能性が……高い」

「違う、違う……絶対に、違うよッ!

 私たちがそんな事するはずない……

 してちゃ、ダメだよ……」

 

 葉隠さんが嗚咽を流しながら床に崩れ落ちる。

 

「……ごめん。でも、分からないんだ。

 だから俺たちで、真実を探そう。

 置換は見つからなかった、それなら生きてる可能性だって――」

「その言い方嫌だよ……生きてるんだ。

 置換くんは生きてる……そうだよ……」

 

 

「……そうだ、梢さん……」

「――え?」

 

「梢さんだよ!尾白くん、梢さん!!

 置換くんの記憶を取り戻そうとしてた……」

「っ――そうか!!

 梢さんなら……」

 

 置換の記憶を呼び起こしたあの人なら……俺たちの記憶を思い出させてくれるかもしれない。

 

 シャドウ事務所……だったか。

 影人さんの連絡先は貰っている。

 

「影人さんに……電話をかけてみよう」

「うん!!」

 

 葉隠さんの声に元気が蘇る。

 忘れたことを思い出せるかもしれない。

 それがこんなに嬉しいとは……

 そして置換もこんな気持ち悪い感覚をずっと味わっていたんだ……

 忘れる、という覚えていないといけないことが記憶にない不快感。

 それを心から実感した。

 

 影人さんの電話を鳴らす、しかし……でない。

 どれだけ鳴らしても電話に出る様子はない。

 

「でない……」

「忙しいのかな……折り返し電話を待ってみる?」

「……だな」

 

 

 二人が帰った教室。

 床に差した夕陽の影が、誰もいないはずの机の下で蠢いた。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 3日後。

 影人さんからの連絡はいまだに来ない

 さすがに、不自然さを感じた。

 あの人と話した感じこんなに待たせるタイプではないはずだ。

 

 事務所にも電話をかけた。

 だけど……そちらも誰も出なかった。

 だから、彼女に声をかけた。

 警察はダメだ、教えてくれない。

 教師も同じだろう……だから自分たちで真実を見つけなくちゃいけない。

 

「……葉隠さん、流石におかしい。

 シャドウ事務所へ行こう」

 

 葉隠さんも同意してくれた。

 

「うん……影人さんの印象だとこんなに連絡しないのは変だし、そもそも事務所も出ないなんておかしいよね――」

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 そして事務所を調べ放課後俺たちはここにやってきた。

 ――シャドウ事務所。

 

「……ねぇ、ここが本当にヒーロー事務所、なの……?」

「……あぁ、そのはずだ。

 地図アプリはここを指してるし、ホームページの外観の特徴とも一致してる」

 

 特徴の一致はしている、

 でもホームページの外観と違う点が一つだけあった。

 

 掃除もされず、どれだけ放置されたか分からないくらい劣化している。

 壁も部分的に崩れているところもあるくらいだ。

 

 携帯も事務所の電話も出ずに、事務所を訪ねてみればこの見た目……不気味でしかない。

 それでも俺たちは行かなくちゃいけない。

 

「――行こう」

「うん――」

 

 事務所内は思ったよりも普通だった。

 ――誰もいないことを除けば。

 

 なんなら、コップの中にコーヒーが入れられたまま。

 電話の近くにはメモとボールペンがそのままで、

 少し席を外しただけの様にすら思える。

 

『――ピー、留守電が、128件あります』

 

 だけどおかしい。

 ここまで留守電が溜まっているのも、人がいないのも何もかもがおかしいんだ。

 

 言葉なく先へ進む。

 外装に比べ中は狭くすぐに影人のオフィスに辿り着いた。

 

「入ろう」

 

 葉隠さんがこくりと頷いた気がした。

 そして、俺は扉を開けた。

 

「ぐ、ぐぐ……おも、い……」

 

 扉は不自然すぎるくらいに重かった。

 俺が“個性"の尻尾を使って身体で全力で押してやっと少しずつ動くくらいだ。

 逆からであれば開けるのは難しいかもしれない。

 やっとの思いで扉を開いた。

 

「……失礼します、影人さん」

 

 黒、黒、黒、黒、黒、その部屋は一面の黒で染まっている。

 暴力的なまでの黒、それ以外の色が見つからず。

 光すらも届かぬ闇に感じた。

 

「……っ」

「――っひ」

 

 そしてわずかに鉄臭い様な気がする。

 

「葉隠さんは、嫌ならそこで待ってていい。

 俺が調べる」

「……ごめんなさい、わたし無理だ、入れない」

「いいんだよ、気にしないで」

 

 怖い、怖いけど、俺はヒーロー志望の男だ……女の子の前でカッコ悪いところを見せるわけには行かない。

 

 黒い部屋を進む。

 足裏がべたりと吸い付く感触――乾いてはいるのに、湿っている気がする。

 前後左右、闇で染まり方向感覚が歪む。

 部屋の入り口から入る光と、部屋の中央にある机が唯一現実である事を証明してくれている様に感じる。

 

 机にたどり着いた。

 距離にして二メートルのそれはひどく長い様に感じた。

 ありえなくらい重い扉、不気味なまでに黒い部屋、

 ぽつんと置かれた机、謎の鉄臭さ。

 全てが不自然で、おかしかった……おかしすぎた。

 

 机の上には何も置いていない。

 軽く覗き込むと一つだけ引き出しがあった。

 

「……鍵は、」

 

 ――鍵は掛かっていない、開く。

 

 引き出しを開き、その中のものを取り出した。

 それは一枚の紙だった。

 震える文字で記されたその手紙。

 

 ――わりぃ、梢を止められなかった。

 

 無骨な一言、だけどそれは俺の知っている影人さんの印象と一致した。

 そして、次の文章を見て背筋が凍った。

 

 俺は、お前の敵に……化け物になっちまう。

 だから逃げろ――置換。

 

「に、げろ……?……置換……?」

 

 どういう事だ。

 そして最後の文章に目を移した。

 その文字は震えているだけじゃなく掠れており途中で途切れていた。

 

 ――あれは、本当に梢なのか……?

 別の誰かじゃ――

 

 

「――どういう、事だ……?」

 

 その文字を認識して呟いたと同時だった。

 

「尾白くん!!そこから出て!

 その部屋の黒いの……血だ」

 

「……え?」

 

「ありえないほどの血なんだよ!!

 だから出て、ダメだよそんなところにいちゃ……

 おかしく、なっちゃうよ……」

 

 その言葉を聞いた瞬間頭が真っ白になった。

 次に、この黒に包まれているのが耐えられなくなり、俺はここにいるのが恐ろしくなった。

 絶望や、狂気に囲まれた感覚……

 無力感、悲壮感、怒り、諦観、ありとあらゆる感情が渦巻いているように感じる。

 壁から、天井からその黒が滴り落ちる気がした。

 

 扉が重かった理由、ここが黒い理由、その二つが……繋がった気がした。

 

 ――内から出さず閉じ込める――

 

「――っ」

 

 思わず部屋の外に走り出した。

 ここにいたら閉じ込められる。

 狂い、狂ってしまう。

 

「う、ぅわぁぁぁぁ――!!!!」

「……待ってよ!!尾白くん――!!」

 

 葉隠さんのことも、ここが何処かも忘れて……

 ただ、ただ……ここから離れたかった。

 

「――はっ、はっ、はっ」

 

 走ったせいで乱れた呼吸を整えようと、壁に手をついて立ち止まろうとした。

 

 その壁が、静かに音を立てながら凹んだ。

 

 ――がこん――

 

 

「――え?」

 

 

 俺は何も理解できないまま浮遊感に包まれてそこに堕ちていった。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 私は飛び出した尾白くんを探していた。

 

「尾白くん!!――尾白くん……!!

 何処行ったの……?」

 

 部屋の数はそうなかったはずだった。

 なのに、何処を見ても彼は見つからない。

 

 ――なんで、いないの。

 怖い、怖いよ、1人にしないで……

 

 壁が迫ってくるように感じる。

 尾白くんを探さなきゃという義務感と、ここにいたくないという自己防衛が相反しどうしていいかわからなくなった。

 とぼとぼと入り口に向かい歩いているとわずかに傾斜になっているような違和感を感じた。

 しかしそんな違和感もすぐに忘れ事務所から出た。

 

 葉隠透は事務所を出ると入り口を背にしながらしゃがみ込む。

 

 それは――尾白を置いて帰ることも、ここに……事務所の中に居続けることもできない故の行動だった。

 

「っ……、っ…………」

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 俺は傾斜を転がり落ちていた。

 尻尾を使いギリギリ受け身は取りながら落ち続ける。

 

 どれくらい転がっていただろうか、しばらくしてやっと地面が見えた。

 受け身をとり、地面にたどり着けた。

 幸か不幸か、今までの焦りや恐怖は何処かに吹き飛んでいた。

 いきなりこんなところに落とされれば思考もリセットされるだろう……

 

 後ろを振り返ると俺が落ちてきた所は滑り台のようになっていた。

 頑張れば登れなくもなさそうだが……

 落ちていた時間も長かったはずだ、この傾斜の長さが分からない以上無理はしないほうがいいだろう、という結論に達して改めて周りを見渡した。

 

 

「……どこだ、ここ」

 

 落ちてきた直後は暗かったはずだ。

 だが今は天井から光が差しており、

 白い世界が俺を歓迎していた。

 

 白、それはさっきまでいた地獄なような黒と違う落ち着く色のはずだった。

 しかし、なぜか俺はここにいるのが怖い。

 ともすればさっきの部屋よりも恐怖を覚えた。

 

「――」

 

 さっきの部屋、葉隠さん……がいたはずだ。

 彼女を置いて走ったことが蘇る。

 悪いことをした……後で許してもらえるまで謝ろうと心に誓う。

 

 まずはここから出なくてはいけない。

 だけど……この部屋はどこかおかしい。

 まるで隠されていたみたいだ……いや、まるでじゃない。

 隠されていた、と言っていい。

 

 俺がたまたま押したスイッチのようなものあれがなければここに入ることはなかった。

 なら、ここは……梢さんの部屋、だろうか。

 

 どちらにしても上に戻るために調べなくちゃいけない。

 

 ここには何もない、扉が一枚奥にあるだけだ。

 

 扉の前に立つと自動で開いた。

 そして、それが開くと同時にその部屋に電気が灯る。

 奥に扉があるのを確認するのと同時に左右の物体が顕になった。

 

 そこにあったのは2メートルほどの大きさの培養ポッドがずらりと並んでいた。

 その中は黒い人形がふよふよと漂っている。

 

「……!これ、は……脳……無?」

 

 なぜ、どうして、ここに脳無が、あるんだ……?

 そんな疑問を抱きながら足を進める。

 一つのデスクとその上にk102と記されたファイルが置かれていた。

 

 それを手に取り開いた。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 報告者名 梢

 被検体 シャドウ

 実験概要 生きた人間の脳無化

 報告書 102日目シャドウの外観の侵食を確認。

     被検体の意思は変わらず存在。

     脳無までの道のりは長いように思える。

     記憶消去行い、ヒーロー活動を続けさせる。

     ※追伸、“個性"使用時の凶暴化を確認。

 

 

「…………、こずえ……さん……?」

 

 なぜ、どうして、彼女の名前がここにある。

 まるで、彼女が脳無を作っていたみたいじゃ――

 

 

 

 俺は足を進めた。

 扉が開く、先に進む。

 次の部屋にはいろんな器具と机、その上にノートが置いてあった。

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 おもろい子、みつけてん。

 あの個性、便利そよなぁ……

 この身体はそろそろ飽きてきたし、あの子の身体もらおかなぁ……

 個性『置換』

 なかなか便利やと思わん……?

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

「……個性、置換……」

 

 置換の……あいつの個性だ。

 身体を、奪う……?

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 記憶を取り戻す手伝いする、言うて簡単に近くに行けたわ。

 周りもお人好しばっかりで――ほんっと騙しやすくて助かるわぁ……

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 これは……ダレだ……?

 本当は……わかっている。これは、多分梢さんだ。

 でもそれを認めたくない、だってそれを認めてしまったら――

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 あぁ……ほんとに腹立つ。

 あのガキ、うちの顔に……傷つけよって……

 許さない、許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない。

 

 

 

 

 ――絶対に許さない。

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 なにが、あった……?

 この間に、何が……

 読み進めればわかるのか……?

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 あぁ、うち、いいこと思いついたんや。

 ……あの子が嫌なことしてあげればよかったんや。

 例えばだぁいすきなお友達と殺し合うことになるとか、そうしてあげればあの子の泣き顔が見れる。

  殴られたあの時からキミんことが頭から離れんくてなぁ……

 まるで恋したみたいや……

 

 楽しみやなぁ……、待っててなぁ、隷くん……?

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 個性置換の持ち主の隷という人物、記憶を取り戻す手伝い、友達と殺し合う……

 そして、さっきの情報、シャドウという脳無……

 

 俺は、置換に電話をかけている。

 しかも、記憶を失う直前に……だ。

 状況証拠は、それを指している気がする。

 

 ノートが手から溢れ落ちると同時に何かが脳裏に蘇った。

 ――――脳無、黒い、シャドウ、影、置換を襲う、俺と、葉隠、さん……?

 

「ぁぁ、ぁあああああァァァァァ!!!!

 ごめ、ごめん、置換!!、ちがう、俺じゃない、いや、俺がやった……おれ、が――」

 

 嘆き、涙を流し、壁を殴りつけ、頭を壁に打ち付ける。

 どれだけそうしていただろうか。

 意識が朦朧としてきた、頭から血を流し過ぎたのかもしれない。

 

「おきかえ、を……さがさ、ないと 」

 

 

 

 




 ◼️◼️◼️の呟き


 きみたちの、せいじゃないんだ――
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。